第11章 消費者取引に関する業務

第1 概説

 近年,消費者ニーズの多様化,経済のサービス化・国際化等,消費者を取り巻く経済社会情勢は大きく変化してきており,また,規制緩和の進展に伴い,消費者への適切な情報提供を推進し,消費者の適正な商品選択を確保していくことが重要な課題となっている。
 公正取引委員会では,独占禁止法や景品表示法を厳正に運用し,違反事件の排除に努めるほか,消費者の関心の高い商品・サービスや電子商取引等の新しい分野における実態調査を行うこと等を通じて,景品表示法上の考え方を明らかにするためのガイドライン等の策定等を行い,公正かつ自由な競争を促進し,消費者取引の適正化に努めている。

第2 消費者取引の適正化への取組

1 消費者向け電子商取引の適正化ヘの対応
 公正取引委員会は,一般家庭におけるインターネットの急速な普及とともに拡大しつつある消費者向け電子商取引について,健全な発展と消費者取引の適正化を図る観点から,次のような取組を行った。
(1) 電子商取引監視調査システムによる常時監視の実施
 インターネットを利用した広告表示については,従来から,集中的かつ定期的な監視調査(インターネット・サーフ・デイ)を実施してきているところであるが,これに加え,平成14年8月からは,電子商取引監視調査システムの運用を開始し,一般消費者等に,「電子商取引調査員」としてインターネット上の広告表示の調査を委託して,問題となるおそれがあると思われる表示について報告を受け,景品表示法違反事件の端緒,景品表示法の遵守について啓発するメールの送信等に利用している。
 平成16年度は電子商取引監視システムを通じ,平成16年12月までに829件のインターネット上の広告表示について,電子商取引調査員から問題のおそれがあるとの報告を受け,「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」(平成14年6月公表。以下「留意事項」という。)に照らして問題があると認められた30サイトの管理者に対し,景品表示法の遵守について啓発するメールを送信した(平成17年3月末現在)。
(2) 諸外国との連携
 インターネットで生じる問題は,国内にとどまるものではないことから,OECD加盟国を中心とした国々の消費者保護機関等から成るICPEN(International Consumer Protection and Enforcement Network:国際的消費者保護・執行ネットワーク)の枠組の下で,参加各国の関係当局がインターネット上の広告について共通のテーマを選定し,法令違反の疑いがないかを一斉に点検するInternational Internet Sweepに参加するなど諸外国の関係当局との連携を深めているところである。
 平成16年度においては,平成17年2月に実施されたInternational Internet Sweepに参加した。
2 温泉表示問題に対する取組
 平成15年7月,温泉表示の実態及び消費者の意識等を調査したところ,消費者に必ずしも十分な情報が提供されていないなどの問題点が認められたため,温泉表示を行う場合の景品表示法上の考え方を整理するとともに,関連団体に対し,パンフレット等の表示において,温泉に関する情報提供をより積極的に行うよう傘下会員への周知を要請した。
 平成16年7月以降,長野県の白骨温泉の入浴剤混入問題に端を発し,全国各地で,温泉法上の定義に該当しない井戸水や水道水を加温したものを温泉であるかのように表示していたなどの温泉表示に関する問題が発覚した。公正取引委員会は,景品表示法違反のおそれがあるとして,平成16年8月9日に井戸水を加温したものを温泉と表示していた福岡県所在の公衆浴場に対し,平成17年3月2日に過大な効能をうたっていた北海道所在の温泉利用施設に対しそれぞれ警告を行った。また,同法については都道府県においても運用を行っており,公正取引委員会としても都道府県と緊密な連携を図っているところ,都道府県においても平成15年度に1県,平成16年度においては18府県が指示・注意等の措置を採り公表した。
3 消費者取引に関する実態調査
(1) 家庭用塩の表示に関する実態調査(平成16年7月)
 近年,製造方法,地名,ミネラル・にがり,天然・自然等を強調表示した家庭用塩の消費量は増加傾向にあり,家庭用塩について,一般消費者の選択の幅が広がっていく一方で,一般消費者からは,家庭用塩の表示が分かりにくいとの情報が寄せられていたため,一般消費者の適正な商品選択に資する観点から,家庭用塩の表示に関する実態調査を行い,景品表示法上の考え方等を整理し,家庭用塩の原料原産地等の不当表示事件の警告と併せて公表した。
(2) 鶏卵の表示に関する実態調査(平成16年11月)
 近年,一定のブランド名の下,鶏卵のパックやパックに貼付されたラベル等に,栄養成分,安全・衛生,鶏の飼育環境等を示すことにより,鶏卵の品質等が優れていることが強調して表示された鶏卵(以下「ブランド卵」という。)の消費量が,一般消費者の健康志向,安全志向等を背景として,増加傾向にある中,これらブランド卵の表示には,一般消費者には分かりにくいものが多くみられたため,一般消費者の適正な商品選択に資する観点から,ブランド卵の表示に関する実態調査を行い,景品表示法上の考え方等を整理し,公表した。

第3 消費者モニター制度等

1 概要
 消費者モニター制度は,独占禁止法や景品表示法の施行その他公正取引委員会の消費者保護の諸施策の的確な運用に資するため,当委員会の依頼するアンケート調査への回答,消費者としての体験,見聞等の報告その他当委員会の業務に協力を求めるものであり,昭和39年度から実施されている。
 平成16年度は,関東甲信越地区322名,北海道地区75名,東北地区111名,中部地区124名,近畿地区185名,中国地区85名,四国地区59名,九州地区121名,沖縄地区18名,合計1,100名を消費者モニターに選定し委嘱した。平成16年度の消費者モニターの応募総数は8,079名,応募倍率は約7.3倍であった。また,平成17年1月,消費者モニターを中心に200人以内の規模で構成される消費者取引適正化推進員制度を平成17年度から新設する旨公表した。消費者取引適正化推進員制度は,公正取引委員会の依頼する特定の事項についての調査,景品表示法等に違反する疑いのある行為についての情報収集,消費者取引適正化のための施策についての意見・要望を求めるものである。
2 活動状況
 平成16年度においては,4回のアンケート調査のほか,「自動車整備分解業」(車検業)に関する表示について,その実態を把握するため,消費者モニターを介して広告物の収集を行った。さらに,随時,独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の報告,意見等を求めた。
(1) アンケート調査
 平成16年度におけるアンケート調査の概要は,次のとおりである。
ア 音楽用CDの表示に関するアンケート調査
 音楽用CDの表示に関する消費者の意識を把握するため,アンケート調査を行った。
イ 鶏卵の表示に関するアンケート調査
 鶏卵の表示に関する消費者の意識を把握するため,アンケート調査を行った。
ウ 牛肉の表示に関するアンケート調査
 牛肉の表示に関する消費者の意識を把握するため,アンケート調査を行った。
エ 葬儀サービスに関するアンケート調査
 葬儀サービスに関する消費者の意識を把握するため,アンケート調査を行った。
(2) 広告物の収集
 車検整備に関する表示の実態を把握するため,同表示に関する広告物の収集を行った。
(3) 自由通信
 消費者モニターは,前記アンケート調査のほか,自由通信という形で,随時,公正取引委員会に対し,自由に意見及び情報を提供している。これは,(1)独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の通報,(2)景品表示法に基づいて設定された公正競争規約の遵守状況等についての情報提供,(3)その他一般的な意見の提供等を行うものであり,平成16年度においては合計4,690件の自由通信が寄せられた(第1表参照)。
第1表 自由通信状況
(4) 各種会合等への参加
 公正取引委員会は,景品表示法の運用に当たり,消費者団体との懇談会,試買検査会等に消費者モニターの出席を求め,一般消費者の立場からの意見を求めている。
 平成16年度においては,各地区における消費者団体との懇談会,試買検査会(第2表参照)に消費者モニターが出席した。
第2表 消費者モニターの出席した試買検査会