第4章 規制改革・競争政策に関する調査・提言,法運用の明確化等

第1 概説

1 規制改革の必要性
 我が国では,社会的・経済的な理由により,参入,設備,数量,価格等に係る事業活動が政府により規制されていたり,独占禁止法の適用が除外されていたりする産業分野がみられる。
 かつてこのような政府規制は,戦後における我が国経済の発展過程において一定の役割を果たしてきたが,現在ではこのような規制の必要性は薄れている。なぜなら,社会的・経済的な情勢の変化に伴い,規制が企業の経営効率化を阻害し,企業家精神の発現を妨げ,競争制限的問題を生じさせているケースが増えているからである。
 また,民間需要主導の持続的な経済成長を実現するためには,規制改革を通じて,経済の構造改革を進めていくことが喫緊の課題である。構造改革により,国際的に開かれ,自己責任原則と市場原理に基づいた,民間活力が最大限に発揮される経済社会システムが構築されることが期待されている。
 政府においても,規制改革を通じた経済の活性化は最重要の課題と位置付け,これまで「規制緩和推進計画について」(平成7年3月閣議決定,平成8年3月改定,平成9年3月再改定),「規制緩和推進3か年計画」(平成10年3月閣議決定,平成11年3月改定,平成12年3月再改定),「規制改革推進3か年計画」(平成13年3月閣議決定,平成14年3月改定,平成15年3月再改定),「規制改革・民間開放推進3か年計画」(平成16年3月19日閣議決定,平成17年3月25日改定,平成18年3月31日再改定)等に基づき計画的に規制改革等を推進してきたところである。公正取引委員会は,こうした規制改革を推進するためのプログラムの策定に当たって積極的に関与するとともに,個別の政府規制制度についても必要に応じて改善のための提言を行うなど,積極的に規制改革に取り組んでいる。
 また,独占禁止法の適用除外分野においては,市場メカニズムを通じた良質,廉価な商品・サービスの供給に向けた経営努力が十分に行われず,消費者利益が損なわれるおそれがあるため,適用除外制度は,自由経済体制の下ではあくまでも例外的な制度として,必要最小限にとどめる必要がある。
2 規制改革・民間開放推進3か年計画(再改定)
 平成18年3月31日に再改定された「規制改革・民間開放推進3か年計画」においては,引き続き,(1)経済活性化による持続的な経済成長の達成,(2)透明性が高く公正で信頼できる経済社会の実現,(3)多様な選択肢の確保された国民生活の実現,(4)国際的に開かれた経済社会の実現等を図り,もって,生活者・消費者本位の経済社会システムの構築と経済の活性化を同時に実現する観点から,行政の各般の分野について,民間開放その他の規制の在り方の改革の積極的かつ抜本的な推進を図り,経済社会の構造改革を一層加速することを目的とするとともに,規制改革の推進に当たっては,これと密接不可分のものとして,市場機能をより発揮するための競争政策の積極的展開を図ることとされた。また,規制改革と公正競争促進は一体であることから,規制改革・民間開放推進会議と公正取引委員会は,引き続き密接な協力体制を維持するとされている。
 また,平成17年度重点事項として,不当景品類及び不当表示防止法に基づく総付け景品規制の見直し,農協の不公正な取引方法等への対応強化に関する検討が挙げられていたところ,競争政策分野における措置事項では,
(1)  独占禁止法のエンフォースメント(ルールの実効性を確保するための手段)の見直し・強化について,(1)独占禁止法の措置体系の見直し等,(2)独占禁止法における民事責任制度及び差止制度の見直し,
(2)  公正取引委員会における審査機能・体制の見直し・強化について,(1)独占禁止法違反事件に関する審査機能・体制の見直し・強化,(2)企業結合に関する審査機能・体制の見直し・強化,(3)景品規制及び表示規制の見直しが挙げられている。
 また,農林水産業分野における措置事項では,農業・農産物等について,(1)公正な競争条件の確保,(2)農協の不公正な取引方法等への対応強化が具体的事項として挙げられている。

第2 公共調達における入札談合防止のための取組等の実態に関する調査・提言

1 調査報告書について
 公正取引委員会は,従来から競争政策,とりわけ入札談合防止の観点から地方公共団体の入札・契約制度等について調査を行ってきている。また,平成15年6月以降,「公共調達と競争政策に関する研究会」を開催し,公共調達における一層競争的な環境の実現と,入札談合の効果的な防止を図るための方策について検討を行い,同年11月に同研究会の報告書を公表した。
 また,公正取引委員会は,平成17年10月,発注機関における入札談合防止のための取組等の実態について把握することを目的として,入札談合等関与行為防止法の適用対象である(1)国が資本金の2分の1以上を出資する政府出資法人(210法人),(2)地方公共団体(320団体)を調査対象としたアンケート調査を実施し,そのうち計514団体から回答を得て,調査結果を取りまとめ,これを踏まえた提言とともに公表した(第1表参照)。

第1表 アンケート回収状況

2 調査結果を踏まえた考え方
(1) 基本的認識
 入札談合の防止に向けて,発注機関に求められることは,一つは,受注業者間において談合行為が行われることを抑止するための取組であり,もう一つは,発注機関自身が談合に関与する行為等を防止するための取組であり,これまでも,公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(以下「入札・契約適正化法」という。),入札談合等関与行為防止法の制定等,様々な取組が行われてきているところである。
 今回の調査は,入札制度そのものの改革以外の発注機関自身の取組に重点を置いて,次のような基本的認識に基づいて行ったものである。
ア 発注機関としての法令遵守意識の向上
 入札談合は,競争入札によって本来得られるべき価格・品質の役務の提供を妨げるものであり,予算の適正な執行又は事務事業の適切な実施を阻害するだけでなく,発注機関の利益を著しく損なう違法な行為である。発注機関自身の職員が入札談合に関与する入札談合等関与行為は,当該機関の利益を追求すべき職員が,その利益を自ら損なうという利益背反行為に等しく,発注機関は,組織として,その職員による入札談合等関与行為の防止に努めることが求められている。
 そして,発注機関の職員もまた,入札談合等関与行為は,職務の適正な執行に反するとともに,自らの属する組織の利益を損ない,自らの本来的な責務に反するものである,という自覚を持つよう,その意識の向上に努めることが求められている。
 したがって,組織として,構成員である職員に対して,独占禁止法又は入札談合等関与行為防止法に関する研修を行うことや,その内容の周知徹底を行い,職員のコンプライアンス向上に努めることが必要である。
 また,法令遵守を組織全体として徹底するためのコンプライアンス・マニュアル策定等の取組が求められる。コンプライアンス・マニュアルについては,単にその策定にとどまらず,それが組織の中で,実際に尊重される環境にあることが重要である。
イ 情報管理の徹底等による入札談合防止
 入札談合を防止するためには,入札を巡る秘密情報について適切な管理が必要なことはいうまでもなく,マニュアル化を図る等,組織としての対応が強く望まれる。
 また,発注機関側に談合情報が寄せられた場合,どのような対応を採るのかについても,内部職員任せにしない組織としての対応が重要と考えられ,調査機関の設置等が望まれる。
(2) 発注機関としての法令遵守意識の向上
ア 周知及び研修のより一層の徹底
 入札談合及び入札談合等関与行為を防止するためには,まず,これらの行為に対する職員の意識を向上させるための,周知及び啓発の取組が不可欠である。この観点から,各団体・法人における,入札談合等の防止に関する周知・研修の状況について調査した。
 その結果,入札談合及び入札談合等関与行為の防止を目的とする研修に関しては,都道府県・政令指定都市においてすら,全体の約4分の1で実施されていない,という回答が得られた。
 このような状況にかんがみると,まず,各団体・法人の職員に対する周知・研修の機会の一層の拡大を通じ,入札談合及び入札談合等関与行為に対する意識改革を図ることが不可欠といえる。
 公正取引委員会としても,各発注機関との協力体制の整備による入札談合等行為の未然防止のため,「公共入札に関する公正取引委員会との連絡担当官会議」を開催しており,また,都道府県・市町村又は政府出資法人の研修に講師の派遣を行ってきている。このほか,発注機関から談合情報対応マニュアルの作成や発注制度及び運用の在り方について相談を受けたときは,助言等の支援を積極的に行っている。
 しかしながら,小規模の地方自治体や法人が,独自で調達を巡る入札談合に関する周知・研修の機会を設けようとしても,対象職員数が少なく,また研修講師の確保等にも支障を来す面が少なからずあることは否定できない。公正取引委員会としても,上記のような支援を引き続き行うこととするが,管轄区域における市区町村の枠を超えた広域行政を担う都道府県,あるいは政府出資法人の適正な運営の確保に責任を有する主務官庁においても,管轄下にある市区町村・政府出資法人に対して,集合研修等の機会を充実させることにより,入札談合防止に向けた周知・啓発について取り組むことが望まれる。
イ コンプライアンス・マニュアルの整備
 コンプライアンスに関しては,公務員には,利害関係を有する事業者と職員との間の,社会通念上の許容範囲を超える不当な接触・交際関係について,国家公務員倫理法や地方自治体における倫理条例による規制が存在し,政府出資法人についても,公務員に準じた倫理規定等が制定されているのが一般的である。
 しかしながら,いわゆる「官製談合」の問題が指摘されている状況にかんがみるに,法令遵守を徹底していくためには,単に職員個々人の倫理の問題として対応するのでは限界があると考えられる。組織として法令遵守体制を強固なものとし,入札談合等関与行為を防止するためにも,法令・条例をより具体化したコンプライアンス・マニュアルを整備していくことが重要である。
 こういった観点から,コンプライアンス・マニュアル類の整備状況について尋ねたところ,政府出資法人においては,多くの法人で策定済みとの回答が得られたが,地方公共団体では,策定済みのところは半数程度との回答であり,その取組は不十分であるという実態が明らかになった。
 入札談合の問題に限らず,組織として各種の不祥事を防ぐためには,コンプライアンス・マニュアルを制定し,その内容を幹部を含めて職員に周知・徹底することが肝要であるが,実質的にその内容が尊重され遵守されるためには,何よりも地方公共団体の長や政府出資法人の長の意思が,あらゆる機会を通じて,職員に対して明確に示されることが有効である。
ウ 事業者・OBからの働きかけへの対応
 入札事務に携わる職員が事業者やOBからの働きかけを受けることは,それ自体で入札手続が適正に行われているかどうかに疑念を招くおそれがあり,できる限り避けることが望まれる。
 これについては,そのような立場の職員に対し,そもそも,事業者やOBとの接触を禁ずるという対応や,それが困難な場合には,発注機関としての利益を守るため,職員が事業者・OBからの具体的な働きかけを受けた場合には,その経緯を明らかにさせるなどの組織的な対応が考えられる。
 この観点から,働きかけの内容を文書化して報告する等の取組を行っているかどうか尋ねたところ,都道府県・政令指定都市でもこのような取組を行っているのは3割程度にとどまっており,今後,このような取組が各団体等で推進されることが望まれる。
 他方,先進的な取組としては,今回,提出のあった資料の中で,OBに対してはより一層の意を用いて強い倫理観の下に自らを律して行動すべきこと,又は事業者に対して予約なしの営業活動の自粛の要請や事業者と職員とが面談する際は1人ではなく複数で面談することをコンプライアンス・マニュアルで明記している例があったほか,すべての入札(見積り)参加者に対して,入札(見積り)手続中の一定の期間,担当事務職員との接触を禁ずる要請を事業者に行っている例もあった。
 今回の調査では,このような取組をしているところは少数であったが,事業者・OBからの働きかけの態様によっては入札談合を招きかねないことを踏まえ,同様の取組が各発注機関においてなされることが望まれる。
(3) 情報管理の徹底等による入札談合防止
ア 秘密情報管理の徹底
 入札に係る秘密情報の管理については,仮に公表前の工事計画情報等の秘密情報が秘密の段階で関係事業者の知るところとなれば,入札談合が極めて行いやすくなるだけでなく,発注機関側が入札談合を黙認しているとの認識が事業者側に生まれることになりかねないと考えられる。また,これまでの談合事件においても,発注機関における秘密情報の管理が不十分であった事例が多くみられた。
 このため,発注機関が管理している入札に係る秘密情報が部外に漏洩することのないよう,厳正な管理を行うべきことは当然であるにもかかわらず,これまでの例からみると,発注機関において十分な取組がなされていたとはいい難いところである。
 このような基本認識から,今回の調査では,各団体・法人における入札に係る秘密情報の管理体制について調査したところ,秘密情報の管理については,管理規定類の整備すら十分に進んでいないという状況が明らかになった。
 秘密情報の管理については,まずもって,その取扱方法について,明文化されたマニュアルを策定した上で,これにのっとって情報管理を徹底していく体制を整備することが不可欠である。
 したがって,各団体・法人においては,漏洩されるべきでない秘密情報の管理に関して,規定類を整備し,マニュアル化を図ることが望まれる。中でも,文書の持出し・複写の規制等,具体的な措置を盛り込んだ上で,その規制を厳正に実行していく,という取組が求められる。
イ 指名業者の公表
 指名業者の公表については,一定の公の発注機関に対して,入札・契約適正化法において義務付けされているところであるが,今回の調査では,同法の対象外の団体・法人に対しても指名業者の公表状況について調査を行った。
 その結果,政府出資法人では,非公表としている法人が,規模の大小を問わず少なからずみられたが,これは,政府出資法人の多くは入札・契約適正化法の適用対象外であるためと考えられる。地方公共団体については,ほとんどが公表しているという回答であったが,これは,地方公共団体は,すべて入札・契約適正化法の適用を受けているためと考えられる。
 また,公表している団体・法人における公表の時期についても調査したところ,政府出資法人・地方公共団体ともに,入札前に公表するところと入札後に公表するところがほぼ拮抗するような状況にあることが明らかになった。
 指名業者を入札前に公表することについては,談合を行おうとする者にとって,談合の対象者となるべき入札者候補に関する情報があらかじめ得られるため,談合をより行いやすくしてしまうおそれがあるという問題があることから,入札談合の未然防止という観点から,公表は入札後に行うべきものであると考えられる。
ウ 予定価格の公表
 予定価格の公表についても,一定の公の発注機関に対して,入札・契約適正化法において,弊害のない場合について努力義務が課されているところであるが,今回の調査では,同法の対象外の団体・法人に対しても予定価格の公表状況について調査を行った。
 その結果,政府出資法人については,指名業者と同様,非公表とする法人が少なくない状況であったが,これについても,政府出資法人の多くが入札・契約適正化法の適用対象外であるためと考えられる。地方公共団体については,指名業者と同様,ほとんどが公表しているという回答であったが,これは,地方公共団体は,すべて入札・契約適正化法の適用を受けているためと考えられる。
 また,公表している団体・法人における公表の時期についても調査したところ,政府出資法人では,ほとんどが入札後としているのに対して,地方公共団体では,入札前としているところが多いという状況が明らかになった。
 予定価格を入札前に公表することについても,談合を行おうとしている者にとっては重要な情報が得られるだけでなく,予定価格が目安となって落札価格が高止まりするおそれがあるといった問題がある。予定価格を入札前に公表しない場合,職員が入札談合等に巻き込まれるおそれがあるという側面はあるものの,上記のような問題を考えると,予定価格についても公表は入札後に行うべきと考えられる。
 仮に,何らかの理由で入札前に予定価格を公表する必要がある場合には,価格が高止まりし,予定価格に近い価格での落札が継続して生じていないかどうか注視するとともに,落札価格の分析を通じて入札談合が行われていないかどうか監視していく必要性が,それだけ高まるものと考えられる。また,予定価格の事前公表に当たっては,一般競争入札や公募型指名競争入札の実施,又は品質面も含めた総合評価方式の導入や入札時VE方式(入札参加者や落札業者からの施工方法等に関する提案により,民間の技術開発等を積極的に活用し,建造物の機能・性能等を損なうことなく,コスト低減を図る方式)の活用等による価格以外の面での競争の促進といった談合が行われにくくする仕組みを取り入れていくようにすることもより求められると考えられる。
(4) 違反行為等への対応措置の適正化
ア 談合情報への対応体制の強化
 談合情報が寄せられた場合には,公正取引委員会や警察当局へ通報することが基本となると考えられる。他方,発注機関に寄せられる談合情報は多種多様なものがあると考えられ,これらに的確に対応するためには,発注機関自身も独自の調査又は監視を行うことが望まれる。
 また,発注機関側においても,談合情報について一定の調査を行う体制を整えることによって,入札談合を行おうとする事業者等に対して一定の抑止効果が働くことも期待できる。
 このような観点から,各団体・法人における,談合情報が寄せられた場合の調査や独自調査の状況について調査した。
 談合情報が寄せられた場合に,これに対応して調査を行う組織(「公正入札調査委員会」という名称が多く,大半は内部職員のみで構成)については,ほとんどの地方公共団体が設けており,談合情報の取扱要領についても大多数の地方公共団体で制定されていることが判明した。政府出資法人では,談合情報に対応して調査を行う組織を設置しているところは半数程度,談合情報の取扱要領を策定しているところは3割程度という状況だった。
 このような調査体制を確立した上で,その体制を有効に活用し,談合情報の把握と適正な入札・契約手続の遂行努力を続ける,という取組が重要と考えられる。
イ 指名停止措置
 独占禁止法違反行為を行った事業者に対して,一定期間指名停止措置を採るという処分は,入札談合を抑止する上で効果が認められるといえる。
 指名停止措置の期間や実施時期については,発注機関ごとにばらつきが生じるのは好ましくなく,できるだけ,各発注機関の対応が整合的になることが望まれる。国の公共工事発注機関等で構成される中央公共工事契約制度運用連絡協議会(以下「中央公契連」という。)では,指名停止措置の標準としてのモデル・要領を策定しているが,今回の調査では,指名停止措置の期間や実施時期について,この中央公契連モデル・要領に準拠しているところが多く,この点は,望ましい状況にあると考えられる。
 なお,中央公契連モデル・要領では,指名停止措置実施の時期は,公正取引委員会の排除勧告を当該事業者が応諾した時,または審判審決がなされた時とされている。
 独占禁止法の改正により,平成18年1月4日から,違反行為に対する勧告制度が廃止されて排除措置命令制度に移行した。これにより,公正取引委員会は,意見提出等の事前手続を設けた上で排除措置命令を行い,これに不服のある事業者は,公正取引委員会に対して審判請求を行う,という枠組みに変更されることとなった。改正後の独占禁止法の下で,指名停止措置をいつ実施すべきか,という点については,こうした改正を踏まえて,原則,排除措置命令時とすることが望ましいと考えられる。
ウ 指名除外等の措置
 今回の調査結果をみると,事業者が公正取引委員会から立入検査を受けた等の報道があった場合,独占禁止法違反行為の有無が明らかになるまで指名から除外する等の措置を講じているとの回答が少なからずみられた。
 公正取引委員会としては,立入検査等は,審査手続を開始するものであり,その段階で何らかの判断を下しているものではない。したがって,独占禁止法違反行為に対して指名停止措置があるにもかかわらず,それとは別途に行われている指名除外の運用については,事業者に対して不当に不利益な取扱いをするものであり,そのような運用は是正すべきものと考えられる。
(5) 公正取引委員会としての今後の対応
 今回の調査では,公正取引委員会に対する要望についても調査した。各団体からの要望の中で,特に多かったのは,入札談合防止に係る周知・啓発への協力と,入札談合事案に係る情報提供の充実である。
 公正取引委員会としては,都道府県の調達担当者を対象とした研修を実施する,情報提供を行う等,入札談合の未然防止を図るために,地方公共団体等の発注機関との連携・協力に努めてきたところであるが,かかる取組については,今後とも積極的に進めていくこととしたい。

第3 公益事業分野等における規制改革に関する調査・提言等

1 公益事業分野等における独占禁止法の適用(ガイドライン等の作成)
(1) 「適正な電力取引についての指針」の一部改定について(平成17年5月公表)
ア 趣旨及び経緯
 公正取引委員会は,平成11年12月,通商産業省(現経済産業省)と共同して,電気事業分野において,公正かつ有効な競争の観点から独占禁止法上あるいは電気事業法上問題となる行為等を記した「適正な電力取引についての指針」を策定した。
 その後,平成17年4月に改正電気事業法が施行されたこと及び前回の指針改定(平成14年7月)以降,これまで行政当局に相談のあった事例等を踏まえ,平成17年5月,経済産業省と共同して,本指針の改定を行った。
イ 改定の概要
 独占禁止法に関しては,最近の相談及び事件処理等を踏まえ,他のエネルギーと競合する分野における適正な電力取引の在り方について,以下のような改定を行った。
(ア)  一般電気事業者が,コージェネレーションシステム等の自家発電設備の導入等を不当に制限することに関して,独占禁止法違反となるおそれのある行為類型を明確化
(イ)  独占禁止法違反となるおそれのある行為類型として,一般電気事業者が,住宅等をオール電化とすることを条件に,正常な商慣習に照らして不当な利益の提供を行うこと,不当にオール電化とすることを取引条件とすること,あるいは,オール電化を採用する事業者に比して,それ以外の事業者を差別的に取り扱うこと等を追加
ウ 今後の対応
 公正取引委員会としては,電気事業分野において公正かつ自由な競争を確保するため,本指針に基づいて,独占禁止法違反行為を厳正・迅速に排除していくとともに,その未然防止に努めていくこととしている。
 また,公正かつ自由な競争の促進が,今後,着実に行われていくよう市場の状況を不断に監視していくとともに,今後の競争環境の変化や公正取引委員会の違反事件処理の経験等を踏まえ,独占禁止法の考え方を明らかにする観点から,今後とも本指針を適宜機動的に見直すこととしている。

第4 知的財産権分野における公正な取引ルールの確立

 知的財産権分野においては,政府としての取組の強化が求められているところであるが,公正取引委員会としても,国民の生活に重大な影響を与える分野の一つとして重点的に取組を行っているところである。
1 下請法に関する取組
 平成15年11月に公表した下請法に関する運用基準において,情報成果物等の作成に係る下請取引において下請事業者の知的財産権が発生する場合に,親事業者が,委託した情報成果物等に加えて,無償で,作成の目的たる使用の範囲を超えて当該知的財産権を親事業者に譲渡・許諾させることは,下請法上問題になるとの考え方を明らかにしている。
 平成17年度においては,情報成果物の作成委託を主に行っていると思われる親事業者5,449社及びその下請事業者24,100名に対して書面調査を実施した(第2表参照)。
 平成17年度において,新規に発生した下請法違反被疑事件は931件であり,このうち,書面調査により職権探知したものは916件,下請事業者からの申告によるものは15件である。処理を行った件数は930件で,その内訳は,勧告が2件,警告が919件,不問が9件である(第3表参照)。
 違反行為類型別件数の内訳としては,下請代金の支払遅延が528件で最も多く,以下,下請代金の減額が40件,不当な給付内容の変更・やり直しが27件,受領拒否が20件などとなっている(第4表参照)。

第2表 情報成果物の作成委託に係る下請法の書面調査の実施状況
[単位:件]
第3表 情報成果物の作成委託に係る下請法違反被疑事件の処理状況
[単位:件]

第4表 情報成果物の作成委託に係る下請法違反行為類型別件数
[単位:件(%)]
(注)  1事件について2以上の違反行為又は違反するおそれのある行為が行われている場合があるので,違反行為の類型別件数の合計と第3表の「措置」件数とは一致しない。
 なお,( )内は,実体規定違反全体に占める比率であり,小数点以下第2位を四捨五入しているため,必ずしも合計は100とはならない。

2 商業用レコードの還流防止措置に関する取組
 我が国における商業用レコード(音楽用CD等)については,平成16年6月の著作権法改正により,平成17年1月1日から,一定の要件を満たす場合に,専ら国外において頒布することを目的とする商業用レコードの国内への輸入を差し止めることなどを可能とする措置が導入された。公正取引委員会は,同法に係る政令等について文化庁と所要の調整を行った。また,音楽用CD等の販売については再販売価格維持契約が独占禁止法適用除外行為として認められていることなどを踏まえ,「音楽用CD等の流通に関する懇談会」を開催(第1回会合:平成16年9月7日,第2回会合:平成17年9月28日)し,同措置の導入が我が国の音楽用CD等の流通市場における競争や消費者利益に与える影響について消費者,権利関係者,学識経験者等と広く意見交換を行った。
3 知的財産権に関する競争政策上の問題点の明確化
 公正取引委員会では,平成11年に「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」を公表し,特許権等のライセンスに伴う制限に関する独占禁止法上の考え方を明らかにしている。しかし,近年,情報通信分野など技術革新の著しい分野においては,複数の事業者が共同して規格を策定し,広く普及を進める活動(標準化活動)や,規格に係る特許権等を一括してライセンスするためのパテントプールの形成等の取組が,規格の迅速な普及のために重要となっていることから,前記指針を補足するため,「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」を策定・公表した。
 本考え方は,複数の事業者による標準化活動及び当該活動に伴うパテントプールの形成・運用に関する独占禁止法上の考え方を明らかにしたものであり,独占禁止法違反行為を未然に防止するとともに,標準化活動の一層の促進に資するものである。

第5 独占禁止法適用除外

1 独占禁止法適用除外の概要
 独占禁止法は,市場における公正かつ自由な競争を促進することにより,一般消費者の利益を確保するとともに国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とし,これを達成するために,私的独占,不当な取引制限,不公正な取引方法等を禁止している。他方,他の政策目的を達成する観点から,特定の分野における一定の行為に独占禁止法の禁止規定等の適用を除外するという適用除外が設けられている。
 適用除外の根拠規定は,独占禁止法自体に定められているもの及び独占禁止法以外の個別の法律に定められているものに分けることができる。
(1) 独占禁止法に基づく適用除外
 独占禁止法は,無体財産権の行使行為(第21条),一定の組合の行為(第22条)及び再販売価格維持契約(第23条)を,それぞれ同法の規定の適用除外としている。
(2) 個別法に基づく適用除外
 独占禁止法以外の個別の法律において,特定の事業者又は事業者団体の行為について独占禁止法の適用除外を定めているものとしては,平成17年度末現在,保険業法等14の法律がある。
2 適用除外のこれまでの見直しについて
 適用除外の多くは,昭和20年代から30年代にかけて,産業の育成・強化,国際競争力強化のための企業経営の安定,合理化等を達成するため,各産業分野において創設されてきたが,個々の事業者において効率化への努力が十分に行われず,事業活動における創意工夫の発揮が阻害されるおそれがあるなどの問題があることから,近年,累次の閣議決定等においてその見直しが決定されてきている。
 個別法に基づく適用除外については,「規制緩和推進計画の改定について」(平成8年3月閣議決定)を受け,平成9年2月21日,20法律35制度について廃止等の措置を採るための「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律案」が第140回国会に提出され,同年6月13日可決・成立し,同年7月20日に施行された。その他の適用除外についても,「規制緩和推進3か年計画」(平成10年3月31日閣議決定)等に基づき検討が行われ,平成11年2月16日,不況カルテル制度及び合理化カルテル制度の廃止,独占禁止法の適用除外等に関する法律の廃止等を内容とする「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律案」が第145回国会に提出され,同年6月15日に可決・成立し,同年7月23日に施行された。
 さらに,「規制緩和推進3か年計画(改定)」(平成11年3月30日閣議決定)において,独占禁止法第21条(自然独占に固有の行為に関する適用除外)について引き続き検討することとされ,同条については規定を削除するとの結論を得たことから,同条の削除等を内容とする「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案」が平成12年3月21日に第147回国会に提出され,同年5月12日に可決・成立し,同年6月19日施行された。
 これらの措置により,平成7年度末において30法律89制度存在した適用除外は,平成17年度末現在,15法律21制度(再販売価格維持契約制度を含む。)まで縮減された。公正取引委員会としては,これまでの見直しの経緯を踏まえ,これら適用除外の今後の運用状況を十分注視していくこととしている。
3 著作物再販制度の取扱いについて
 商品の供給者がその商品の取引先である事業者に対して再販売する価格を指示し,これを遵守させることは,原則として,不公正な取引方法第12項(再販売価格の拘束)に該当し,独占禁止法第19条に違反するものであるが,同法第23条の規定に基づき,著作物を対象とするものについては,例外的に同法の適用を除外されている。
 公正取引委員会は,著作物についてのこのような適用除外制度(以下「著作物再販制度」という。)の取扱いについて,国民各層から意見を求めるなどして検討を進め,平成13年3月,下記の旨の結論に至った。さらに,同年12月,現行の著作物再販制度の下で関係業界における運用の弾力化の取組等,著作物の流通についての意見交換を行うため,公正取引委員会,関係事業者,消費者,学識経験者等を構成員とする著作物再販協議会を設け,平成16年度までに4回の会合を開催し,平成17年度においては,第5回会合(平成17年6月)を開催した。


著作物再販協議会第5回会合の概要
 公正取引委員会より,(1)書店におけるポイントカードの使用をやめさせるよう事業者団体が働きかけること及び(2)著作物再販制度の対象商品と非対象商品(DVD,CD−ROM等)のセット商品を再販売価格維持契約の対象商品とすることは,いずれも独占禁止法上問題となるとして,関係業界を指導した旨報告するとともに,出版業界に対し謝恩価格本フェアの拡大及び常設化を図るよう要請した。
 関係業界より,謝恩価格本フェアの実施(出版業界),新聞読者の会員制のサービス提供(新聞業界),非再販商品,時限再販商品の発売状況(音楽業界)等,著作物再販制度の下での運用の弾力化の取組状況についての報告があった。
 学識経験者及び消費者代表からは,インターネットやポイントカード等が普及する中,関係業界は再販制度に固執するだけでなく,更なる対応が必要,新聞を短期間で変えるような消費者にはサービスがあるのに,長期購読者には,そうしたサービスがないのはおかしい,購読率低下がいわれている中で,新聞社としても高齢者割引や学割を導入すべき等の意見があった。
4 適用除外カルテルの動向
(1) 概況
ア 適用除外カルテルの概要
 価格,数量,販路等のカルテルは,公正かつ自由な競争を妨げるものとして,独占禁止法上禁止されているが,その一方で,他の政策目的を達成する等の観点から,個々の適用除外ごとに設けられた一定の要件・手続の下で,特定のカルテルが例外的に許容される場合がある。
 このような適用除外カルテルが認められるのは,当該事業の特殊性のため(保険業法に基づく保険カルテル),地域住民の生活に必要な旅客輸送(いわゆる生活路線)を確保するため(道路運送法等に基づく運輸カルテル),国際的な協定にかかわるものであって諸外国においても適用除外が認められているため(航空法等に基づく国際運輸カルテル)等,様々な理由による。
 個別法に基づく適用除外カルテルについては,一般に,公正取引委員会の同意を得,又は公正取引委員会へ協議若しくは通知を行って主務大臣が認可を行うこととなっている。
 また,適用除外カルテルの認可に当たっては,一般に,当該適用除外カルテルの目的を達成するために必要であること等の積極的要件のほか,当該カルテルが弊害をもたらしたりすることのないよう,カルテルの目的を達成するために必要な限度を超えないこと,不当に差別的でないこと等の消極的要件を充足することがそれぞれの法律により必要とされている。
 さらに,このような適用除外カルテルについては,不公正な取引方法に該当する行為が用いられた場合等には独占禁止法の適用除外とはならないとする,いわゆるただし書規定が設けられている。
イ 適用除外カルテルの動向
 公正取引委員会が認可し,若しくは公正取引委員会の同意を得,又は公正取引委員会に協議若しくは通知を行って主務大臣が認可等を行ったカルテルの件数は,昭和40年度末の1,079件(中小企業団体の組織に関する法律に基づくカルテルのように,同一業種について都道府県等の地区別に結成されている組合ごとにカルテルが締結されている場合等に,同一業種についてのカルテルを1件として算定すると,件数は415件)をピークに減少傾向にあり,また,適用除外カルテルそのものが大幅に縮減されたこともあり,平成17年度末現在,23件となっている。
(2) 個別法に基づく適用除外カルテル
ア 概要
 平成17年度において,個別法に基づき主務大臣から公正取引委員会に対し同意を求め,又は協議若しくは通知のあったカルテルの処理状況は第5表のとおりであり,このうち現在実施されている個別法に基づくカルテルの動向は,次のとおりである。
第5表 平成17年度における適用除外カルテルの処理状況


イ 保険業法に基づくカルテル
 保険業法に基づき損害保険会社が,
(1)  航空保険事業,原子力保険事業,自動車損害賠償保障法に基づく自動車損害賠償責任保険事業若しくは地震保険契約に関する法律に基づく地震保険事業についての共同行為
又は
(2)  (1)以外の保険で共同再保険を必要とするものについての一定の共同行為
を行う場合には,金融庁長官の認可を受ける必要があり,金融庁長官はその認可に際し公正取引委員会の同意を得ることとされている。
 平成17年度において,金融庁長官から同意を求められたものは3件であった(変更認可に係るもの。)。
 また,平成17年度末における同法に基づく共同行為は8件である。
ウ 損害保険料率算出団体に関する法律に基づくカルテル
 損害保険料率算出団体が自動車損害賠償責任保険及び地震保険について基準料率を算出した場合には,金融庁長官に届け出なければならないこととされており,金融庁長官は届出を受理したときは公正取引委員会に通知しなければならないこととされている。
 平成17年度において,金融庁長官から通知を受けたものは1件であった(変更届出に係るもの。)。
 また,平成17年度末における同法に基づくカルテルは2件である。
エ 道路運送法に基づくカルテル
 一般乗合旅客自動車運送事業者が,輸送需要の減少により事業の継続が困難と見込まれる路線において地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため,又は旅客の利便を増進する適切な運行時刻を設定するため,同一路線において事業を経営する他の一般乗合旅客自動車運送事業者と共同経営に関する協定を締結,変更しようとする場合には,国土交通大臣の認可を受けなければならないとされており,国土交通大臣は認可する際には公正取引委員会に協議することとされている。
 平成17年度において,国土交通大臣から協議を受けたものは3件であった。
 また,平成17年度末における同法に基づくカルテルは3件である。
オ 航空法に基づくカルテル
(ア) 国内航空カルテル
 航空輸送需要の減少により事業の継続が困難と見込まれる本邦内の各地間の路線において地域住民の生活に必要な旅客運送を確保するため,当該路線において2以上の航空輸送事業者が事業を経営している場合に本邦航空事業者が他の航空運送事業者と行う共同経営に関する協定の締結・変更については,国土交通大臣の認可を受けなければならないこととされており,国土交通大臣は認可をする際には公正取引委員会に協議することとされている。
 平成17年度において,国土交通大臣から協議を受けたものはなかった。
 また,平成17年度末における同法に基づくカルテルはない。
(イ) 国際航空カルテル
 本邦内の地点と本邦外の地点との間の路線又は本邦外の各地間の路線において公衆の利便を増進するため,本邦航空運送事業者が他の航空運送事業者と行う連絡運輸に関する契約,運賃協定その他の運輸に関する協定の締結・変更については,国土交通大臣の認可を受けなければならないこととされており,国土交通大臣は認可をする際には公正取引委員会に通知することとされている。
 平成17年度において,国土交通大臣から通知を受けたものは321件であった。
カ 海上運送法に基づくカルテル
(ア) 内航海運カルテル
 本邦の各港間の航路に関しては,地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため,旅客の利便を増進する適切な運航日程・運航時刻を設定するため,又は貨物の運送の利用者の利便を増進する適切な運航日程を設定するため,定期航路事業者が行う共同経営に関する協定の締結・変更については,国土交通大臣の認可を受けなければならないこととされており,国土交通大臣は認可をする際には公正取引委員会に協議することとされている。
 平成17年度において,国土交通大臣から協議を受けたものは2件であった。
 また,平成17年度末における同法に基づくカルテルは9件である。
(イ) 外航海運カルテル
 本邦の港と本邦以外の地域の港との間の航路に関しては,船舶運航事業者が他の船舶運航事業者とする運賃及び料金その他の運送条件,航路,配船並びに積取りに関する事項を内容とする協定,契約又は共同行為については,その締結・変更についてあらかじめ国土交通大臣に届け出なければならないこととされており,国土交通大臣は届出を受理したときは公正取引委員会に通知しなければならないこととされている。
 平成17年度において,国土交通大臣から通知を受けたものは558件であった。
キ 内航海運組合法に基づくカルテル
 内航海運組合法に基づき内航海運組合が調整事業を行う場合には,調整規程又は団体協約を設定し,国土交通大臣の認可を受ける必要があり,国土交通大臣は認可をする際には公正取引委員会に協議することとされている。
 平成17年度において,国土交通大臣から協議を受けたものは1件であった。
 また,平成17年度末における同法に基づくカルテルは1件である。

第6 法運用の明確化

 公正取引委員会は,事業者及び事業者団体による独占禁止法違反行為の未然防止とその適切な活動に役立てるため,事業者及び事業者団体の活動の中でどのような行為が実際に独占禁止法違反となるのかを具体的に示した「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成3年7月),「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」(平成5年4月),「公共的な入札に係る事業者及び事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成6年7月),「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成7年10月),「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」(平成11年7月)等を策定・公表している。平成17年度中には,新たに「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」を策定・公表し(同年6月),同考え方の周知を行った。
 また,個々の具体的な活動について事業者等からの相談に応じるとともに,独占禁止法違反行為の未然防止に役立てるため,事業者等から寄せられた相談のうち,他の事業者等の参考になると思われるものを相談事例集として取りまとめ,公表している(平成16年4月から平成17年3月までの間に寄せられた相談について,平成17年6月に公表した。)。

第7 独占的状態調査

 独占禁止法第8条の4は,独占的状態に対する措置について定めている。公正取引委員会は,同法第2条第7項に規定する独占的状態の定義規定のうち,事業分野に関する考え方についてガイドラインを公表しており,その別表(第7表)には,独占的状態の国内総供給価額要件及び事業分野占拠率要件(国内総供給価額が1000億円超で,かつ,上位1社の事業分野占拠率が50%超又は上位2社の事業分野占拠率の合計が75%超)に該当すると認められる事業分野並びに今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当することとなると認められる事業分野が掲げられている。
 別表に掲載された事業分野については,生産・出荷集中度の調査結果等に応じ逐次改定してきているところである。平成17年度においては,平成14年の同調査結果等を踏まえた改定を行い,平成17年5月27日から実施した(第6表・第7表)。
 これらの事業分野のうち,特に集中度の高い業種については,生産,販売,価格,製造原価,技術革新等の動向,分野別利益率等について,独占禁止法第2条第7項第2号(新規参入の困難性)及び第3号(価格の下方硬直性,過大な利益率又は過大な販売管理費)の各要件に則し,企業の動向の監視に努めている。

第6表 ガイドライン別表の改定状況

第7表 別表掲載事業分野(25事業分野)


(注)  本表は,公正取引委員会が行った調査に基づき,独占的状態の国内総供給価額要件及び事業分野占拠率要件に該当すると認められる事業分野並びに今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当することとなると認められる事業分野(平成14年の国内総供給価額が950億円を超え,かつ,上位1社の事業分野占拠率が45%を超え又は上位2社の事業分野占拠率の合計が70%を超えると認められるもの)を掲げたものである。
 本表の商品順は工業統計表に,役務順は日本標準産業分類による。

第8 価格の同調的引上げ理由の報告徴収

 旧法第18条の2は,年間国内総供給価額が600億円超で,かつ,上位3社の市場占拠率の合計が70%超という市場構造要件を満たす同種の商品又は役務につき,首位事業者を含む2以上の主要事業者(市場占拠率が5%以上であって,上位5位以内である者をいう。)が,取引の基準として用いる価格について,3か月以内に,同一又は近似の額又は率の引上げをしたときは,公正取引委員会は,当該主要事業者に対し,当該価格の引上げ理由について報告を求めることができると規定していたが,この規定は,独占禁止法改正法の成立により,平成17年5月27日をもって廃止された。