第7章 不公正取引への取組

第1 概説

 独占禁止法は,不公正な取引方法の規制として第19条において事業者が不公正な取引方法を用いることを禁止しているほか,事業者及び事業者団体が不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的契約を締結すること,事業者団体が事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること,会社及び会社以外の者が不公正な取引方法により株式を取得し又は所有すること,会社が不公正な取引方法により役員の兼任を強制すること,会社が不公正な取引方法により合併すること等の行為を禁止している(第6条,第8条第1項,第10条第1項,第13条第2項,第14条,第15条第1項,第15条の2第1項第2号及び第16条第1項)。
 不公正な取引方法として規制される行為の具体的な内容は,公正取引委員会が法律の枠内で告示により指定することとされている(第2条第9項,第72条)。
 不公正な取引方法に関しては,前記規定に違反する事件の処理のほか,不公正な取引方法の指定に関する調査,不公正な取引方法の防止のための指導業務等がある。また,不公正な取引方法に関する事業者からの相談に積極的に応じることにより違反行為の未然防止に努めている。

第2 特定の不公正な取引方法の見直し

 独占禁止法の不公正な取引方法については,公正取引委員会が告示によってその内容を指定しているが,この指定には,すべての業界に共通に適用される不公正な取引方法(いわゆる「一般指定」(昭和57年公正取引委員会告示第15号))と特定の業界・業態を対象とする特定の不公正な取引方法(いわゆる「特殊指定」)がある。特殊指定については,平成16年に「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法(平成16年公正取引委員会告示第1号)」を,また,平成17年に「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法(平成17年公正取引委員会告示第11号)」を新たに制定したが,それ以前に制定された下記の5つの指定は制定後長期間を経過し,近年適用例がほとんどないことから,公正取引委員会は,平成17年11月以降,これらについて,一般指定と異なる特別な規制を存続させる必要があるか,経済実態に適合したものとなっているか等の観点から,規定の見直しを行った。
1 教科書業における特定の不公正な取引方法
 「教科書業における特定の不公正な取引方法」(昭和31年公正取引委員会告示第5号)(教科書特殊指定)は,教科書発行本社が行う選択関係者への利益供与,他の教科書等に対する中傷・ひぼうを,公正な競争を阻害するおそれのあるものとして,特定の不公正な取引方法に指定したものである。
 しかし,制定後50年経過し,この間,教科書採択の方法,手続が整備され,また,教科書発行業者の売り込み競争や取引の実態も大きく変化してきたことから,選択関係者への利益供与等によって教科書の採択がゆがめられるおそれは著しく減少し,他の分野に比し,教科書の分野に特殊指定を設けて特別に規制を行う必要性がなくなっているため,平成18年6月6日付けで本告示を廃止した(同年9月1日から施行)。
2 海運業における特定の不公正な取引方法
 「海運業における特定の不公正な取引方法」(昭和34年公正取引委員会告示第17号)(海運特殊指定)は,船舶運送事業者が単独又は協定(いわゆる海運同盟(海上運送法(昭和24年法律第187号)第28条に基づく独占禁止法適用除外カルテル))等により行う海運同盟非加盟事業者又は荷主に対する各種の不当な行為を,公正な競争を阻害するおそれのあるものとして,特定の不公正な取引方法に指定したものである。
 しかし,同特殊指定の規制対象となっている行為については,海運同盟非加盟事業者の市場シェアの増大や海運同盟が定めた運賃の形骸化といった,近年の外航海運における業界実態や取引実態の変化にかんがみると,もはや実施することが極めて困難となっているものと認められるため,平成18年4月13日付けで本告示を廃止した。
3 食品かん詰または食品びん詰業における特定の不公正な取引方法
 「食品かん詰または食品びん詰業における特定の不公正な取引方法」(昭和36年公正取引委員会告示第12号)(食品かん詰業等告示)は,食品かん詰又は食品びん詰の製造・販売業者が,その商品の販売に当たり,食品かん詰又は食品びん詰の内容量,原料の種類,混用の割合その他品質に関する事項について,顧客に誤認させ,又は誤認させるおそれのある表示・広告その他これに類似する方法を行うことを,公正な競争を阻害するおそれのあるものとして特定の不公正な取引方法に指定したものである。
 しかし,その規制範囲については,景品表示法,食品缶詰の表示に関する公正競争規約等で対応可能であるため,平成18年2月1日付けで本告示を廃止した。
4 広告においてくじの方法等による経済上の利益の提供を申し出る場合の不公正な取引方法
 「広告においてくじの方法等による経済上の利益の提供を申し出る場合の不公正な取引方法」(昭和46年公正取引委員会告示第34号)(オープン懸賞告示)は,顧客を誘引する手段として,広告において,一般消費者に対し,くじの方法等により特定の者を選び,これに正常な商慣習に照らして過大な金銭,物品その他の経済上の利益(景品表示法第2条に規定する景品類に該当するものを除く。)を提供する旨を申し出ることを,公正な競争を阻害するおそれのあるものとして特定の不公正な取引方法に指定したものである。
 平成8年2月,同告示の運用基準で規定された提供できる経済上の利益の限度額を100万円から1000万円に引き上げたが,その後の状況をみると,商品選択との関連が稀薄になってきていることには変わりがなく,また,上限金額又はそれに近い額で経済上の利益を提供する企画を実施している例はほとんどみられないことなどから,平成18年4月27日付けで本告示を廃止した。
5 新聞業における特定の不公正な取引方法
 「新聞業における特定の不公正な取引方法」(平成11年公正取引委員会告示第9号)(新聞特殊指定)は,特定の不公正な取引方法として,新聞発行本社による地域又は相手方により異なる定価の設定,販売店による定価の値引き行為等を原則的又は全面的に禁止し,また,新聞発行本社による販売店への押し紙行為等を禁止するものである。
 新聞特殊指定については,新聞業界等との間で鋭意議論を進めてきたところであるが,その取扱いについて,平成18年6月2日に,下記のとおりの文書を公表し,今回の見直しでは結論を出すことを見合わせることとした。

第3 中小企業を取り巻く取引の公正化への取組について

 公正取引委員会は,従来から,中小事業者等に不当な不利益を与える不当廉売,優越的地位の濫用等の不公正な取引方法や消費者の適正な選択を妨げる不当表示等に対し,厳正かつ積極的に対処することとしている。
 このうち,不当廉売及び優越的地位の濫用に関する最近の取組は次のとおりである。
1 不当廉売に対する取組
(1) 不当廉売規制
 企業の効率性によって達成した低価格で商品を提供するのではなく,採算を度外視した低価格によって顧客を獲得することは,正常な競争手段とはいえず,これにより他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある不当廉売は,不公正な取引方法の一つとして禁止されている。
(2) 小売業における不当廉売事案の規制
ア 処理方針
 不当廉売事案については,(1)申告のあった事案に対しては,可能な限り迅速に処理することとし(原則2か月以内),(2)大規模な事業者による不当廉売事案又は繰り返し行われている不当廉売事案で,周辺の販売業者に対する影響が大きいと考えられるものについては,周辺の販売業者の事業活動への影響等について個別に調査を行い,問題のみられる事案については厳正に対処することとしている。
イ 規制基準の明確化
 小売業における不当廉売規制の考え方については,昭和59年に「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」を公表しているところであるが,規制改革が進展している中で,独占禁止法違反行為の未然防止を図る観点から,酒類の取引実態を踏まえた不当廉売等の規制についての考え方を平成12年11月及び平成13年4月に,ガソリンの取引実態を踏まえた不当廉売等の規制についての考え方を平成13年12月に,それぞれ公表している。
ウ 処理の状況
(ア) 警告
 平成17年度においては,官公庁発注の入札に係る供給に要する費用を著しく下回る価格で受注し,事業者の事業活動を困難にさせるおそれを生じさせた疑いが認められた低価格入札について,オークションの運営補助業務に関して2社に対し,それぞれ警告を行った。
(イ) 注意
 平成17年度において,小売業者に対し不当廉売につながるおそれがあるとして迅速処理により注意を行った件数は,第1表のとおりである。
第1表 平成17度における小売業における不当廉売の注意件数
(単位:件)

2 優越的地位の濫用に対する取組
(1) 優越的地位の濫用規制
 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為(優越的地位の濫用)は,自己と競争者間及び相手方とその競争者間の公正な競争を阻害するおそれがあるものであり,不公正な取引方法の一つとして禁止されている。
 なお,平成17年度においては,優越的地位の濫用行為に対して2件の排除勧告を行ったほか,4件の注意を行った(排除勧告を行った事件の詳細については,第2章第2参照)。
(2) 大規模小売業者と納入業者との取引の公正化に向けた取組
 公正取引委員会は,従来,大規模小売業者の納入業者に対する優越的地位の濫用行為を規制する基本的ルールとして「百貨店業における特定の不公正な取引方法」(昭和29年公正取引委員会告示第7号(平成17年11月1日廃止)。以下「旧告示」という。)を定めていたが,必ずしも流通の実態にそぐわなくなっていたことから,平成17年5月13日,旧告示に代わる新しい告示として「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」(以下「大規模小売業告示」という。)の指定を行い,同年11月1日から施行した。また,大規模小売業告示の運用の透明性を確保し,事業者の予測可能性を高めるため,同告示の運用基準を同年6月29日に策定した。
 また,公正取引委員会は,全国各地で説明会を開催するとともに,関係事業者団体等が主催する説明会等に講師を派遣するなどして,大規模小売業告示の普及・啓発に努めた。
(3) 荷主と物流事業者との取引の公正化に向けた取組
 公正取引委員会は,荷主の物流事業者に対する優越的地位の濫用行為を効果的に規制する観点から,平成16年3月8日,「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(以下「物流特殊指定」という。)の指定を行い,同年4月1日から施行した。
 平成17年度においては,今後の物流特殊指定の運用に役立てるため,指定後の荷主と物流事業者との取引の実態を把握することなどを目的として,荷主6,754社及び物流事業者4,000社を対象に書面調査を実施し,その結果を平成18年3月に取りまとめ,公表した(詳細は第7参照)。
 また,公正取引委員会は,原油価格の上昇に伴う燃料価格の上昇による物流事業者をめぐる厳しい情勢にかんがみ,一定の要件を満たす荷主と物流事業者の取引について,代金の支払遅延,減額,買いたたき,購入・利用強制等の行為が行われることのないよう,平成17年12月8日,関係事業者団体110団体に対し,物流特殊指定の周知徹底について要請した。

第4 葬儀サービスの取引実態に関する調査・提言

1 調査の趣旨等
(1) 調査の趣旨
 消費者は,葬儀サービスの内容や料金についてよく理解しないままに葬儀業者と契約してしまう等,十分な知識を持って適切に事業者を選択することが必ずしもできていない状況であるとみられており,葬儀サービスの内容,料金等,消費者による適切な選択のために必要な情報が消費者に対し十分に提供されることが特に重要となっている。また,葬儀業者間において本来の価格及び品質による顧客獲得競争が起きにくいとの指摘がある。
 そこで,こうした葬儀サービス取引の特性を踏まえ,(1)消費者の適切な葬儀業者選択が確保され,葬儀業者間において,サービス内容及び価格に基づく競争がより活発になること,(2)葬儀業者から消費者に適切な情報が提供されるようにすること,(3)葬儀業者と葬儀関連事業者との取引において,公正かつ自由な競争が確保されるようにすること,との観点から,独占禁止法上,景品表示法上あるいは競争政策上の考え方を示すことを目的として調査を実施し,平成17年7月,調査結果を公表した。
(2) 調査の対象・方法
ア 調査対象
 本調査では,個人(遺族)が施主を務める葬儀に係る,(1)基本的な葬具(祭壇,棺,生花等),(2)人的サービス(納棺,通夜・葬儀進行,司会等),(3)その他の商品・サービス(ドライアイス,マイクロバス,返礼品,料理,霊柩運送,火葬等)を対象品目とした。
イ 調査対象事業者等
 葬儀サービスを提供する葬儀業者,葬儀サービスの受け手である消費者(公正取引委員会消費者モニター)及び葬儀関連サービスを提供する葬儀関連事業者等に対してアンケート及びヒアリングによる調査を行った。
2 葬儀市場の概要
(1) 葬儀業者等の概要
ア 葬儀業者の概要
 葬儀サービスを提供する葬儀業者には,葬儀専門業者,冠婚葬祭互助会(以下「互助会」という。)(注)及び葬儀サービスを取り扱っている農業協同組合がある。
(注)  経済産業大臣の許可を受け,割賦販売法に定められた指定役務(この場合,葬儀サービス等の冠婚葬祭サービス)の提供を目的とした前払式特定取引業を営んでいる事業者。消費者は,葬儀サービス等の特定の役務について,互助会との間で,将来消費者が希望するときに一定の内容のサービスの提供を受けるとの契約を締結し,消費者はその契約に基づき一定の期間に費用を積立て,その積立金により実際の葬儀サービスの提供を受ける。
イ 葬儀関連事業者の概要
 葬儀関連サービスを提供する葬儀関連事業者としては,主に,自宅等から葬祭会館又は火葬場に遺体を搬送する霊柩運送事業者,遺体を火葬する火葬場事業者,葬儀に使用される生花等を葬儀業者に納入する生花事業者,仕出し料理や返礼品を納入する事業者等がある。
(2) 葬儀市場の状況について
 葬儀の市場規模を示す統計はないが,今回の事業者アンケート調査からは,約7000億円と推定される。
 近年の我が国の死亡者数の増加傾向からみると(注),葬儀施行件数は今後も増加するものとみられるが,最近の葬儀施行規模の縮小・葬儀の簡素化により葬儀1件当たりの葬儀業者の平均売上高は下落傾向にある。また,葬儀業者間の競争については,農協,生花業といった異業種等からの新規参入によって,今後,活発化するものとみられる。
(注)  厚生労働省「平成16年人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると,平成16年の死亡者数は102万8708人と推計されており,増加傾向にある。
第1図 葬儀業界の概要

3 葬儀業者と消費者との取引の概要
(1) 消費者による葬儀業者の選択の状況
 日常,葬儀業者を選ぶための情報収集を行っている消費者は少なく,故人が亡くなってからサービス内容や料金を比較する時間的余裕がないまま葬儀業者を決めているものが多い(第2表,第3表)。
第2表 葬儀業者の事前選定状況
有効回答数=1,027(消費者モニターアンケート調査)


第3表 依頼前の他の業者との比較状況
有効回答数=228(消費者モニターアンケート調査)
(注) 母数は故人が亡くなってから葬儀業者を決めたと回答したもの。


(2) 葬儀サービスにかかる料金の特徴
ア 葬儀サービスにかかる費用
(ア) 葬儀サービスの費用項目の分類
 葬儀全費用(通夜から火葬までの葬儀及び返礼品(後返し)のすべてが行える費用)としては,葬儀サービス費用と寺院等に関する費用(戒名,お布施等の宗教者に対する御礼,心付け等)とがある(第4表)。
(イ) 葬儀サービス費用の額
 葬儀サービス費用の額については,葬儀の規模等に応じて各々であるが,平均額は百数十万円程度とみられる(注)。また,費用の中には,会葬礼状や仕出し料理など葬儀の規模や会葬者の人数等に応じて金額が変動する費用(変動費)と変動しない費用(固定費)とがあり,変動費に関しては,実際の会葬者の人数等が契約時の想定人数を上回った場合には,その分追加料金が必要となる。
(注)  消費者モニターアンケート調査によると,葬儀1件当たり消費者が葬儀業者に支払う金額は平均約140万円であった。また,事業者アンケート調査によると,葬儀業者の個人葬の1件当たりの売上高は平均約128万円であった。

第4表 葬儀サービスにかかる主な項目例

イ 葬儀サービスに関するプラン設定等
(ア) 葬儀業者が設定するプラン
 葬儀サービスに関しては,葬儀業者のほとんどは,複数の葬儀サービスの項目をパッケージにして提供するプランを設定している(第5表)。プラン(互助会コース以外)料金(以下「プラン料金」という。)については,最多契約口数のプラン料金は平均約54万円(事業者アンケート調査)であり,プランに含まれるサービス項目以外については,プラン料金とは別料金となっている。このほか,実際の会葬者数が想定会葬者数を上回った場合には,別途追加料金が必要となることがある。
第5表 プランに含まれるサービス項目の一例

(イ) 互助会コース
 互助会においても,一般の葬儀業者が設定するプランに相当するものを設定し,それに応じた前払金の積立コース料金を設定している。料金については,最多契約口数の積立コース料金は平均約30万円であり,一般の葬儀業者のプランと同様,積立コース料金に含まれないサービス項目のほか,実際の会葬者数が想定会葬者数を大幅に上回った場合には,積立コース料金とは別途追加料金が必要となることがある。
4 葬儀業者の顧客獲得への取組と消費者の適切な商品・サービス選択の確保
(1) 葬儀業者市場における競争
ア 消費者の適切な葬儀業者の選択に関する問題
 葬儀業者は,病院から遺族の自宅までの遺体の搬送を請け負うために病院に出入りできる病院指定業者に指定された場合,当該葬儀業者は,病院から自宅までの遺体搬送と併せて,その後の葬儀サービスについても請け負うことができる可能性が高く,顧客を獲得することについて,他の葬儀業者よりも非常に有利な立場になる場合がある。一部指定業者の中には,消費者に対し,病院から自宅までの遺体搬送サービスと併せて,その後の葬儀サービスについても,当該遺族を霊安室に引き留め,説得するなどして,自己との取引を強制的に促すといった事例がみられた(事業者アンケート調査)。
 こうした行為は消費者の自主的なサービス選択の自由を侵害し,不公正な取引方法(抱き合わせ販売等)として独占禁止法上問題となるおそれもあることから,事業者はこうした行為を行わないようにすべきである。
イ 料金・サービス内容等の情報の事前提供
 葬儀業者は,サービス内容・価格による顧客獲得の取組として,(1)取り扱う葬儀サービスの料金単価が掲載されている価格表と写真付カタログや,(2)プラン料金に含まれる葬儀用品・料理等の規格・数量や人的サービスの内容についての情報(以下「料金・サービス内容の情報」という。)の提供を行っているものが多い。
 (1)葬儀サービスの料金単価が掲載されている価格表と写真付カタログについては,事業所において配布しているものが多く,中にはホームページで公開しているものもいる。事業者アンケート調査によれば,葬儀業者の多くは,事務所において価格表・写真付カタログを配布しており(54.5%),郵送による取り寄せが可能としているものもある(27.6%)。
 また,(2)料金・サービス内容の情報についても,消費者からの事前相談や互助会及び互助会以外の会員システムの加入希望者への加入前説明の際に提供するものが多い。
(2) 消費者の適切な商品・サービス選択の確保の観点からの諸問題
ア 打合せにおける資料等の提供
■事業者における留意点

□消費者における留意点

(ア) 見積書の交付
 見積書については,交付される場合が多いが,消費者モニターアンケート調査によれば,施主等の経験者で故人が亡くなった以降に葬儀業者を決定したものの35.8%は,見積書を交付されていない状況であった。一方,事業者アンケート調査によれば,7割以上の葬儀業者は,依頼者からの求めがなくても交付しているが,依頼者からの求めがあれば交付するとするものが4分の1超みられた(第6表,第7表)。

第6表 見積書の交付状況
有効回答数=397(消費者モニターアンケート調査)

第7表 見積書の交付状況
有効回答数=1,030(事業者アンケート調査)


(イ) 葬儀サービスの具体的な項目と料金が明らかにされた価格表等の資料提供
 一般的には,葬儀サービスの具体的な項目と料金が明らかにされた価格表等の資料を見ながら打合せを行うケースが多い。しかしながら,一部にはこうした資料の提示がない場合もある(第8表)。
第8表 葬儀内容・料金の打合せの方法
有効回答数=324(消費者モニターアンケート調査)
イ 契約後の追加料金の発生についての説明
■事業者における留意点

□消費者における留意点

 葬儀サービス費用の中には,会葬礼状や料理など葬儀の規模や会葬者の人数等で金額が変動する費用(変動費)があり,実際の会葬者の人数等が契約時の想定人数を上回った場合等には,その分の追加料金が必要となることもある。
 このようなことから,消費者がサービス内容と料金の関係について理解した上で契約を行うためには,葬儀業者は,特に,こうした追加料金が発生する可能性があることについて,契約時の打合せにおいて,消費者に対し十分説明することが望ましい。調査結果によると,追加料金について事前の打合せ時に消費者に説明している葬儀業者が多いが,一部の葬儀業者においては,追加料金についての説明を行っていなかったり,あるいは不十分であるケースがみられた(第9表,第10表)。
第9表 差額が生じる可能性についての事前説明の有無
有効回答数=207(消費者モニターアンケート調査)

第10表 差額が生じたことについての事後の説明の有無
有効回答数=180(消費者モニターアンケート調査)


ウ 互助会加入契約時の諸条件についての説明
■事業者における留意点

□消費者における留意点

 消費者は,互助会加入契約の際,積立金の完納後の割増サービスや解約の際に払い戻される積立金の額等契約に関する諸条件についてよく理解していることが,消費者の適切な商品・サービス選択の確保の観点から望ましい。
 事業者アンケート調査では,互助会加入時において,互助会の加入希望者に対し,解約の際に払い戻される積立金の額や互助会が倒産した場合の保全金額について説明している事業者が多かった。しかし,一部には,こうした点について消費者への説明が不十分であると考えられる互助会もあった(第2図)。
第2図 互助会が加入希望者に対して説明している事項(複数回答)

エ 葬儀関連事業者に対する「心付け」についての説明
 葬儀においては,一般に,葬儀サービスの利用者である遺族が葬儀関連事業者又はその従業員に対して「心付け」(チップ)を支払う習慣がみられるところであるが,こうした心付けの支払についても,葬儀業者は事前に消費者に対して十分説明を行う等して,消費者の理解を得ておくことが必要である(注)。
(注)  心付けに支払義務がないことを告知せずに請求し,説明義務違反があったとして被告葬儀業者に対し原告への賠償を命じた判決がある(平成16年6月 神戸地裁伊丹支部)。
5 葬儀業者と葬儀関連事業者との取引等
 葬儀サービス取引においては,故人の遺族に最初に接して葬儀サービス契約を結ぶのは葬儀業者であることから,葬儀業者に葬儀サービスの一部を納入する葬儀関連事業者や葬儀業者が受注した葬儀サービスを一括して請け負う他の葬儀業者には,当該葬儀業者との取引継続を望む強いインセンティブが働くことが多いと考えられる。
 このような状況の下,例えば,葬儀業者に葬儀サービスの一部を納入する葬儀関連事業者や葬儀業者が受注した葬儀サービスを一括して請け負う他の葬儀業者の中には,当該葬儀サービス契約を締結した葬儀業者から,取引とは直接関係ない要請を受けて苦慮しているという例がみられた(第11表)。
 このような行為は,当該葬儀業者の地位が取引の相手方である葬儀関連事業者や委託先葬儀業者に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当な不利益を相手方に与える場合には,不公正な取引方法(優越的地位の濫用)として独占禁止法上問題となることもある。
第11表
 取引先の葬儀関連事業者から,他の葬儀業著との取引に関するトラブルを聞いたことがある葬儀業者数(複数回答)
有効回答数=805(事業者アンケート調査
6 今後の対応
 公正取引委員会としては,このような実態及び問題点を踏まえ,関係事業者が適切に対応することを望むとともに,公正かつ自由な競争の促進の観点から,今後とも,取引の動向を注視していくこととしている。

第5 広告業界の取引実態に関する調査・提言

1 調査の趣旨等
(1) 調査の趣旨
 広告取引の中心は,(1)媒体枠取引(媒体社(テレビ局(注),新聞社等)の媒体枠(広告スペース)を広告会社が広告主に販売する取引)と(2)広告制作取引(広告主が広告会社等に広告の制作を依頼する取引)である。
 公正取引委員会は,このうち,広告制作取引について,平成16年2月に公表した下請法の改正に伴う広告業等の調査において,取引が書面により行われていないとの問題点を指摘したが,媒体枠取引についても,同様に,中小規模の広告会社から,不透明性等の問題点が指摘されている。
 そこで,今回の調査では,主要な媒体であるテレビ及び新聞における媒体枠取引を中心に,有力な広告会社に取引が集中する現状及び問題点,広告会社を中心とする取引慣行の現状及び問題点を明らかにするとともに,これらに関する競争政策上の考え方を示すこと,あわせて,近年,新たに広告媒体に加わり,広告費が増加傾向にあるインターネット広告に関する実態把握を行うことを目的として調査を実施し,平成17年11月,調査結果を公表した。
(注)  地上波放送局を指し,衛星放送局及びケーブルテレビ放送局は含まない。
(2) 調査の方法
 広告会社,テレビ局,新聞社,広告主等に対してアンケート及びヒアリングによる調査を行った。
2 広告業界の構造
(1) 市場規模
 我が国の平成16年の総広告費は,5兆8571億円であり,昭和60年と比較して67.1%増加している。
 平成16年の総広告費に占める割合を媒体別にみると,テレビが34.9%,新聞が18.0%であり,これら2媒体で52.9%を占めている。また,新しいメディアであるインターネット広告費の広告費全体に占める割合は,平成16年で3.1%であるが,対前年比53.3%増であり,ラジオ広告費を抜くなど,その増加傾向は著しい。
(2) 広告取引の流れ
 媒体枠取引は,媒体社が,自らの媒体枠を広告主に販売する取引であり,この仲介を広告会社が行う(媒体社に代わって広告主に媒体枠を販売する)取引である。
 媒体枠取引は,実際には,Iの広告会社と媒体社との取引,IIの広告会社と広告主との取引の2つの取引に分かれている(第3図)。Iの取引において広告会社が受け取る報酬は,媒体枠料金に一定率を乗じて求められる(コミッション)。第3図は,コミッションの率を15%とする場合の例である。
第3図 広告取引の流れ

(3) 広告会社の市場構造
 我が国の広告会社の売上高をみると,総広告費に占めるシェアは,第1位の電通が25.7%であり,2位の博報堂DY(注1)(16.0%),3位のアサツー ディ・ケイ(ADK(注2))(6.4%)を大きく引き離している。
 また,これら上位3社で48.1%を占めているのに対し,4位以下の広告会社のシェアはいずれも3%未満であり,広告会社の市場構造が,有力な広告会社とその他中小規模の広告会社に二極化していることが分かる(第4図)。
(注)  博報堂,大広,読売広告社の3社は,平成15年10月1日に,株式会社博報堂DYホールディングスに統合されたが,平成15年10月1日以前の状況についても3社を合計したデータとしている。
 ADKは,平成11年1月11日に株式会社旭通信社と第一企画株式会社が合併して設立されたが,平成11年1月1日以前の状況についても2社を合計したデータとしている。
第4図 総広告費,テレビ広告費及び新聞広告費に占める上位3社のシェア (日経広告研究所編「広告白書平成17年版」を基に作成)

(注)  四捨五入の関係上,合計は必ずしも100とはならない。
 一方,過去20年間(昭和60年から平成16年まで)について,上位3社のシェアの推移をみると,総広告費に占めるシェアは41.7%から48.1%に(第5図),テレビ広告に占めるシェアは55.4%から65.3%に,新聞広告に占めるシェアは34.2%から36.2%に,いずれも増加している。
第5図 総広告費に占める上位3社のシェアの推移

(広告経済研究所「主要広告代理業上位50社売上高」を基に作成)

3 広告業界の取引慣行
(1) 番組CM取引への参入
 テレビ広告の中でも番組CMは宣伝効果が高いといわれているが,以下の理由により,広告会社の番組CM枠取引への新規参入が非常に困難となっている。
ア 電通をはじめとする有力な広告会社がCM枠の大部分を確保
 番組改編に際し,テレビ局は,広告会社を通じて,広告主に対し,改編時期(4月と10月)の2,3か月前頃以降,毎週,継続確認を行い,継続しないことが明らかとなった番組CM枠のみを販売対象の枠として,任意の時期(番組改編期の1,2か月前頃)に,この販売対象枠について,番組提供を希望する事業者の中から新たな広告主を選定する。
 番組CM枠の大部分は,電通をはじめとする有力な広告会社が取り扱う番組CM枠である。このため,媒体社による広告主の意向確認の対象となるCM枠の多くが,担当する広告主が多い有力な広告会社の取り扱うCM枠で占められることとなり,結果として広告主の切替えに関する確実な情報はこれら有力な広告会社に集中する状況となっている。
 このため,それ以外の広告会社が広告主の入れ替わるCM枠の情報に接する機会(新規参入広告会社等にとっての取引機会)が限定されている。
 番組CMを取り扱う広告会社のシェアの推移について,キー局における19時から23時までの番組CM(5分程度の番組を除く。)枠一週間分の取扱秒数の推移をみると次表のとおりである(第12表)。
第12表 プライムタイムにおける有力な広告会社による番組CM枠の取扱状況の推移

(株式会社チャネル「企業と広告」(昭和60年5月号〜平成17年5月号)を基に集計)

イ 既存の広告主が優先される原則
 テレビ局が広告主との長期の安定的な取引関係を重視する考え方から,特に番組CM枠取引においては,既存の広告主の意向を優先することが慣行となっている(第6図)ため,広告主の入れ替わるCM枠が,CM枠の一部に限定されている。
第6図 テレビ局が既存の広告主を優先している状況(複数回答)

ウ テレビ局による情報開示が少ない
 番組CM取引において,テレビ局は,広告会社を通じて,広告主に対し,改編時期(4月と10月)の2,3か月前頃以降,番組提供の継続確認を行い,継続しないことが明らかとなった販売対象枠について,新たな広告主を選ぶ。この際,テレビ局は,販売対象枠に係る新しい広告主を決定する時期は明らかにしている(テレビ局個別の照会に答える形で明らかにする。)が,テレビ局によって販売対象枠が明らかにされてから広告主が決定されるまでの期間が短いことがある。広告会社は,販売対象枠が明らかになった時点で,新たに当該枠にCMを放送したい広告主を探していたのでは広告主の決定に間に合わないことがあることから,自社扱い,他社扱いにかかわらず広告主の継続希望動向の把握に努め,テレビ局が販売対象枠を明らかにする時期を待たず,見込みセールスを行うのが一般的である。
 このため,広告主の継続希望に関する情報に直接接することが難しい中小規模の広告会社にとっては,番組CMのセールスを行うためには,テレビ局からの販売対象枠に関する的確な情報が十分な時間的余裕を持ってもたらされる必要があるところ,現行では,テレビ局からの情報は必ずしも十分ではなく,番組CM取引への参入は,事実上,極めて困難な状況となっている。
(2) スポットCMにおける広告会社の報酬
 テレビ広告について,広告会社に支払われる報酬には,基本報酬と特別報酬がある。
 報酬率の水準は,テレビ局によりまちまちであり一概にはいえないが,キー局に対するヒアリング調査によれば,スポットCMについての基本報酬の水準は15〜20%,特別報酬の水準は0〜15%であった。
 また,報酬は広告会社によって差が設けられており,スポットCMにおいて放送局別にみた報酬格差の最大は20%(基本報酬5%+特別報酬15%)であった(第7図)。
第7図 スポットCMにおける広告会社による報酬格差(報酬率の最高値と最低値との差)

 このように,有力な広告会社に比べ最低限の基本報酬しか得ることができない中小規模の広告会社は,価格競争において不利となっている(第8図)。
第8図 報酬格差による価格競争力の格差

(3) 取引の書面化の状況
 広告取引について,基本契約書を締結していないケースが少なくなく(第9図),個別の受発注についても取引の内容,金額,取引条件等を記載した書面ではなく口頭で行われるケースが相当数みられた(第10図)。また,広告料金等の取引条件の決定の手順や決定の内容を示す書面も作成されていないことが多かった。
 アンケート調査によれば,受発注を書面で行わない理由について,これまで問題が生じたことがないからとする社が大半を占めていた。
 このように,媒体社,広告会社及び広告主の間での取引において口頭による取引が少なくなく,媒体社,広告会社及び広告主といった広告取引の当事者に適切な情報が与えられなくなり,市場メカニズムが働きにくい状況がみられた。
第9図 基本契約書の締結状況(広告会社アンケート調査)

(注)  四捨五入の関係上,合計は必ずしも100とはならない。


第10図 個別取引の書面化の状況(広告会社アンケート調査)

(4) 広告主の広告効果の評価・コスト意識
 我が国の広告取引においては,前記のとおり,かなり古い段階から媒体社との結び付きの強い有力な広告会社を中心とする寡占的市場構造が形成され,広告主の視点に立った様々な報酬制度(フィー方式等)等の取引手法が考案,実施される状況になく,また,メディア広告評価に関するカウンセリング専門会社の発達などもみられないなどのことから,広告主の広告効果や広告コストに対する意識が高められるような環境になかったこともあり,こうした点に対する我が国広告主の意識は必ずしも高くない面がある。このことについて,競争的環境においては最も重視されるであろう広告料金についての我が国広告主の意識について,番組CM料金を例に挙げて調査した。
 共同提供番組の場合,同一番組内で同一秒数のCMを放送している番組提供者が支払っているCM料金であっても,番組提供を契約した時期等によって格差が生じており,テレビ局に対するアンケート調査の結果,2倍以上の格差が認められるケースもみられた(第13表)。
第13表 同一番組提供者間の番組CM料金格差(例)

(注)  プライムタイムに放送される同一番組内で同一秒数のCMを放送している番組提供者が支払うCM料金(6か月契約料金)を月額換算し,その最高額と最低額を比較し,その格差が大きい番組を抽出した。本データはあるキー局の一例であるが,他のキー局についても同様の傾向が認められる。
 そこで,広告主に対するアンケート調査において,平成16年10月から12月に共同提供番組の番組CMを提供したことがある広告主に対し,自社が提供する番組の他の広告主の番組CM料金がどの程度であるか知っているか尋ねたところ,「知らない」と回答した社がほとんどであった(第11図)。
第11図
 自社が提供する番組について他の広告主が支払うCM料金を知っているか(広告主アンケート調査)

 また,他の広告主の番組提供料金を知ろうとしない理由について,一部の広告主は,ヒアリング調査において,「テレビCMの媒体枠の購入価格が適切であるかどうかについては,予算に見合っているかどうか,過去の購入価格と比べて高いか安いかを判断しているので,他社の購入価格がいくらであるかについては興味がない。テレビ広告料金の水準は,各広告主の予算等を踏まえて,市場全体において電通,博報堂DY,ADK等複数の広告会社が競争した結果としての水準だと考えており,当社のみテレビ局と価格について交渉したところで実りが無い。」と回答している。
4 インターネット広告の取引
 主なインターネット広告の媒体社が組織するインターネット広告推進協議会が策定したマニュアルやガイドラインに沿って,受発注は書面(電子メール)によって行い,媒体枠の価格についても,媒体社各社が詳細な料金表を公表して,これが取引に用いられるなど,透明性が確保された取引ルールが業界内で整備されつつある。
 また,テレビ広告や新聞広告取引について指摘したような取引慣行の不透明性は,本件調査においては認められなかった。
5 競争政策上の評価
 以上の広告業界の市場構造及び取引慣行に関する実態を踏まえ,公正取引委員会は,次のとおり,競争政策上の評価に基づく提言を行った。
(1) テレビ広告:番組CM
 テレビ局が番組CMの販売対象枠を明らかにしてから,その枠に係る新しい広告主を決定するまでの期間が短いことがあるなど,広告会社の番組CM取引への参入を促進するために必要なテレビ局からの情報開示が必ずしも十分ではない。したがって,競争政策の観点からは,テレビ局は,テレビ放送の公共性にもかんがみ,例えば,販売対象枠について個別の照会の有無にかかわらず一定時期(例えば,改編時期の2か月前など)に積極的に公表するようにしたり,また,番組CM枠の価格表(実際の取引に用いられるもの)を明らかにしたり,さらに,販売対象枠について広告会社による入札の方法の導入を検討するようにするなど,番組CM取引に係る情報の一層の開示を行い,新規参入を促すことが有益であり,かつ必要である。
(2) テレビ広告:スポットCM
 スポットCM取引において,広告会社間の報酬率の格差(最大20%)が広告会社の価格競争力の差になっている。こうした著しい格差は,独占禁止法上の問題につながるおそれがある場合もあることから,テレビ局は,例えば,一定期間における取引量(額)や前年実績に対する増減率等,報酬率の算定基準について,広告会社各社に共通の基準を整備するなどにより,広告会社の報酬の決定について,合理性,公正性,透明性を確保する必要がある。
(3) 透明性確保に向けた取引方法の改善
 媒体社,広告会社及び広告主は,公正かつ自由な競争を促進する観点から,広告取引の透明性を高めるため,取引条件等を記載した書面による取引を行うようにするなど取引方法の改善を検討することが望ましい。
(4) 広告効果の評価・コスト意識の改善
 競争政策の観点からは,広告主は広告の効果やコストに対する意識を高め,現状の広告料金を検証するといった取組を行うことが有益である。さらに,広告の効果やコスト面で成果を上げられなかった広告会社については,他の広告会社に変更するなど,広告主は,広告の効果やコストについて常に厳しい目を持ち続けることが求められる。
(5) インターネット広告取引
 取引慣行の不透明性については,現在のところ認められないが,今後,市場規模の拡大に伴って,競争阻害的な取引慣行が出現することのないよう,継続的に注視していくこととする。
6 今後の対応
 公正取引委員会としては,近年,新たに広告媒体に加わったインターネット広告に関する取引の動向も含め,広告取引における取引慣行全般について,公正かつ自由な競争の促進の観点から,今後とも,取引の動向を注視していくこととしている。

第6 医療機器の流通実態に関する調査・提言

1 調査の趣旨等
(1) 調査の趣旨
 医療機器については,従前より内外価格差の問題が指摘されてきており,その要因の1つとしてメーカー,卸売業者,医療機関の流通段階における様々な取引慣行や企業行動が指摘され,その中では競争制限的な行為についても指摘がなされている(注)。近年の医療制度改革に伴い,こうした取引慣行や企業行動などについて医療機器の流通分野に変化が生じているのではないかとの指摘もある。そこで,医療機器の流通について調査を行い,医療機器の流通取引分野にどのような変化が生じているのかについて調査を行うとともに,メーカー,卸売業者,医療機関の流通過程における様々な取引慣行や企業行動について競争政策上の観点から改善すべき点を明らかにすることを目的として調査を実施し,平成17年12月,調査結果を公表した。
(注)  医療機器の流通実態については,平成9年に当委員会において「医療用具の流通・取引慣行等に関する実態調査報告書―ペースメーカ,PTCAカテーテル,MRIを中心として―」を公表している。
(2) 調査の対象・方法
ア 調査対象
 本調査では,ペースメーカ,PTCAカテーテル,MRI及び腹腔鏡(ふくくうきょう)を調査対象品目とした。
イ 調査対象企業
 当該品目を取り扱うメーカー,卸売業者及び医療機関等に対してアンケート及びヒアリングによる調査を行った。
2 医療機器業界の概要
 平成16年薬事工業生産動態統計年報によると,平成16年における日本国内の医療機器の市場規模は約2兆600億円と推定される。個々の調査対象品目においてはペースメーカ約465億円(販売実績ベース。以下同様。),PTCAカテーテル約298億円,MRI約373億円,腹腔鏡約6億円となっている。
3 医療機器の取引
(1) 内外価格差の実態
 ペースメーカの内外価格差は平成9年の水準(1.6〜1.8倍(注))と比べると若干縮小しているものの,依然として内外価格差は存在しており,PTCAカテーテルについても平成9年の水準(3.6倍)と比べると縮小傾向にあるものの解消するまでには至っていない(第14表)。
(注)  医療経済研究機構「医療機器の内外価格差に関する調査」報告書

第14表 ペースメーカー及びPTCAカテーテルの内外価格差の状況(平成16年)

(注)  国内価格については,償還価格(リストプライスに相当),海外についてはリストプライスの平均
(メーカーに対するアンケート調査)
 MRIは平成8年には内外価格差(1.2〜2倍(注))がみられたが,直近においては,内外価格差は解消し,逆に国内における販売価格は海外に比べて低くなっている。また,腹腔鏡の国内における販売価格については,海外販売価格との大きなかい離はみられない(第15表)。
(注) JETRO「対日アクセス実態調査報告書」

第15表 MRI及び腹腔鏡の平均販売価格(平成16年)
(注)  国内価格,海外価格とも実勢価格  (メーカーに対するアンケート調査)
(2) ペースメーカ及びPTCAカテーテルの内外価格差の要因
ア 流通に要する費用
 日本では,米国と比べ,ペースメーカの植え込みやPTCAカテーテルを使用する手術等の特定の症例に対応する医療機関が専門化・集約化されていないことから,製品の多くは卸売業者を経由して販売されており(注),流通に要する費用負担が大きいといわれている。
(注)  これに対し,MRIの流通経路については,販売台数の約6割は医療機関との直接取引である。
イ 薬事申請に要する費用
 薬事法上の承認に要する期間が海外諸国と比べて長く,その間に何度も資料提出等を求められることから,そのためにかかる費用負担が大きいといわれている。
ウ 手術の際の立会い等に要する費用
 メーカーは,手術時や術後の患者の定期検診において医師等に対して付随的なサポート業務を行っており,かつ医療機関数が多い日本においては,そうした作業に対するコスト負担が海外と比べて過大となっていることが,国内販売価格が高くなる要因の1つといわれている。
エ PTCAカテーテルの販売における在庫委託管理に要する費用
 PTCAカテーテルについては,通常,製品は医療機関に保管され,使用した分のみが医療機関の購入分となる「在庫委託販売」と呼ばれる販売方法が採られていることが多い。このため,メーカーは滅菌有効期限・使用本数の把握などの管理のために頻繁に医療機関を訪問する必要がある等,こうした在庫管理のコスト負担についても国内価格の上昇の一因となっているといわれている(注)。
(注)  米国の医療機関では,施設が集約化された結果,年間の症例数が多いことから,製品購入に当たっては相当数まとめて買い切りで購入する場合もあるため,メーカーによる在庫管理に係るコスト負担も日本に比べて低く抑えることができるといわれている。
オ 並行輸入の実施状況
 薬事法上,製品ごとに承認を受ける必要があることから,海外で承認を得た製品を国内に輸入して販売しようとする事業者はこうした製品の承認に要する資料を自ら準備する必要がある等,事実上,事業者が並行輸入品を扱う営業上のメリットはほとんどないといわれており,本調査においても実際に並行輸入が行われている状況は認められなかった。
(3) ペースメーカ及びPTCAカテーテルの取引における競争の状況
ア 取引先変更の状況
 アンケートによれば,平成9年4月以降,「取引先が全く変わっていない」と回答した卸売業者が32.3%であり,医療機関では全体の52.8%であるなど,卸売業者と医療機関の取引においては取引先の変更が少ない傾向がみられる。
イ 取引先の変更が少ない要因
(ア) 医療機関の購入政策による取引先固定化傾向
a 医療機関の購入姿勢による要因
 医療機関は既存の取引先との継続的な取引を優先する傾向が強いといわれているが,製品又は購入先選定について大きな影響力を有する医師の意向の問題及び医療機関における購入担当者の購入姿勢の問題が医療機関における取引状況に大きな影響を与えていることがあるとみられる。
 医療機関に対するアンケートによれば,購入機種を決定する者は「担当医師」と回答した者が全体の約5割(第12図,第13図),また,ペースメーカ及びPTCAカテーテルの機種選定で重視する事項として「医師が使い慣れていること」を回答した者が全体の5割弱となっていた。
 さらに,同アンケートでは,医療機関が卸売業者を選定する方法については,「従来から取引のある卸売業者から購入する」と回答した者が38.7%であった。

第12図 ペースメーカの機種を決定する者

第13図 PTCAカテーテルの機種を決定する者

b 入札の実施方法による要因
 公的医療機関に対するアンケートによれば,発注に際しての仕様について,ペースメーカでは「具体的な機種名を挙げる」と回答した者が89.3%,PTCAカテーテルでは88.2%という結果であった。
(イ) メーカーの販売政策による取引先固定化傾向
 メーカーによる卸売業者の販売先及び販売価格に対する関与  卸売業者に対するアンケートによれば,新たな取引先を開拓するに当たって障害となることとして「メーカーから取引の承認がなかなか下りない」と回答した者が全体の53.3%であった。また,同一メーカーの製品を既に取り扱っている医療機関へ積極的に売り込みを行わない理由として「取引先をメーカーから指示されているため」とする者が39.2%みられた(第14図)。

第14図
 同一メーカーの製品を既に取り扱っている医療機関へ積極的に売り込みを行わない理由(複数回答)

 販売価格に関する情報の報告については,卸売業者に対するアンケートによれば,メーカーに対し「医療機関への販売価格」を報告していると回答した者が49.0%みられた(第15図)。報告する理由については60.5%の卸売業者が「メーカーから要請されている」と回答している(第16図)。
15図 報告している内容(複数回答)

第16図 報告を行う理由

b 卸売業者への販売価格に関するメーカーの行為
 卸売業者に対するアンケート調査によると,卸売業者の医療機関に対する販売価格については,差が生じる理由として,「メーカーから医療機関ごとに仕入価格が決められているため」と回答した者が11.3%みられた。また,「メーカーから提示される仕入価格に差があり競争できない」と回答した者が27.5%みられた。
4 競争政策上の評価 ―ペースメーカとPTCAカテーテルの取引について―
(1) 内外価格差と取引慣行
 ペースメーカとPTCAカテーテルについては,依然内外価格差が認められる実態にあるが,これについては取引における様々な競争上の問題点が指摘できる。購入側医療機関においては,特定の機種に対する医師の使い慣れ等を通じた特定の卸売業者との結び付き,購入担当者による取引先変更に対する消極的姿勢により,継続的な取引が優先される傾向がある一方,メーカーにおいても卸売業者の販売先に対する関与及び価格政策によって,既存の取引関係が固定化され,卸売業者間での競争が十分に行われていない状況となっている。また,入札仕様書の内容によって入札参加者が過度に限定されてしまうなど,購入先の競争を活発化させる姿勢が低く,こうしたことが取引関係を一層固定化させるという状況がみられる。
(2) 競争政策上の評価
ア 医療機関による医療機器の購入姿勢
 医療機関は医師と一体となって購入姿勢改善に取り組むことが期待される。例えば,医師は購入事務担当者に対し複数の機種を提示することによってブランド間競争を通じた効率的な購入の取組に可能な限り協力する,購入担当においても広く見積り依頼を行い,コスト意識の観点から購入先を改めて見直すなど,医療機関が一体として高いコスト意識に基づく行動を採る姿勢を持つことが望まれる。
 さらに,入札については,入札を実施する医療機関が具体的な機種を特定することによって,メーカー及び卸売業者が限定され,入札本来の競争機能が減殺されることのないよう配慮するとともに,医師からの購入要請に対して異なったメーカー間における競争促進が期待されるよう十分に配慮することが望ましい。
イ メーカーの販売政策
(ア) メーカーによる卸売業者の販売先及び販売価格に対する関与
 メーカーが卸売業者に対して,その販売先である医療機関を特定し,卸売業者が特定の医療機関としか取引できず,それ以外の医療機関と新規に取引することができないようにする,又は,指定した医療機関以外に製品を販売する卸売業者に対し,合理的な理由なく製品の販売を拒絶することは,独占禁止法上の問題(拘束条件付取引,不当な取引拒絶)となるおそれがある。
 また,一般に,メーカーが卸売業者の販売価格を拘束することは,原則として不公正な取引方法に該当し,独占禁止法違反となる。そのため,メーカーが卸売業者に対し,医療機関に対する販売価格に関する情報を報告するよう求めることは,独占禁止法上の問題(再販売価格の拘束)につながるおそれがある。
(イ) 卸売業者への販売価格に関するメーカーの行為
 一般に,取引先事業者ごとに,取引価格において差異があるとしても,その差異が取引内容,需給関係,市況,決済方法等を反映した経済合理性の認められる範囲のものであれば,差異があること自体が独占禁止法上問題となるものではない。
 しかしながら,特定の卸売業者に対して設定された有利な仕切価格とそれ以外の卸売業者の仕切価格との格差が,卸売業者間の取引内容等の相違を超えた著しい相違であって,これにより,不利に取り扱われた卸売業者の競争機能に直接かつ重大な影響を及ぼすことにより,公正な競争秩序に悪影響を与える場合には,独占禁止法上の問題(不当な差別対価,差別的取扱い)となる。
ウ 製品の販売に関する諸規制
 競争政策上の観点からは,多様な製品が市場に流通し,競争が促進されることが望ましい。したがって,薬事法の製造販売の承認については,例えば,申請者の負担軽減を回るなどして,承認申請期間の短縮が図られるよう検討されることが望ましい。
5 今後の対応
 公正取引委員会としては,このような実態及び問題点を踏まえ,関係事業者等が適切に対応することを望むとともに,公正かつ自由な競争の促進の観点から,今後とも医療機器の流通の動向を注視していくこととしている。

第7 荷主と物流事業者との取引に関する実態調査・提言

1 調査の趣旨等
(1) 調査の趣旨
 公正取引委員会は,前記第3の2(3)のとおり,荷主の物流事業者に対する優越的地位の濫用行為を効果的に規制する観点から物流特殊指定を策定し,平成16年4月の施行以降,同指定に違反する行為がないか監視してきたところであるが,今後の同指定の運用に役立てるため,施行後の荷主と物流事業者との取引の実態を把握し,併せて問題が認められる場合には,関係事業者等に対し所要の改善措置を採るよう求める必要があると考え,調査を実施し,平成18年3月,調査結果を公表した。
(2) 調査対象及び調査方法
 物流事業者(物流サービス(物品の運送又は保管)を提供する事業者)及び荷主(物品の所有者)を対象に書面調査を実施した。調査票の発送数及び回答状祝は以下のとおりである。


2 調査結果の概要
(1) 取引の概要
ア 継続的に取引している事業者数
(ア) 物流事業者の取引先事業者数
 物流事業者が物品の運送又は保管について継続的に取引している事業者(荷主,他の物流事業者等をいう。第7において以下同じ。)数をみると,取引先数が10社以下である物流事業者が全体の約41%となっており,また,取引先数が50社以下である物流事業者が全体の約77%となっている。
(イ) 荷主の取引先物流事業者
 荷主が継続的に取引している物流事業者数を運送業者,倉庫業者別にみると,運送業者については5社以下と取引している荷主が約49%,倉庫業者については5社以下と取引している荷主が約75%となっている。
イ 物流事業者の取引高上位5社等との取引の概要
(ア) 取引高上位5社
 物流事業者が継続的に取引している事業者のうち,取引高の多い上位5社までの各事業者をみると,荷主が最も多く,取引高上位5位までの事業者全体の約64%となっている。
(イ) 取引年数
 物流事業者とその取引高上位5位までの各事業者との取引年数をみると,10年を超えて継続取引している事業者が取引高上位5位までの事業者全体の68%となっており,物流事業者と事業者との取引は長期的なものとなっていた。また,物流事業者と取引高第1位の事業者との取引については,その約82%が10年を超えて継続している。
(ウ) 取引依存度
 物流事業者の取引高第1位の事業者に対する取引依存度をみると,取引依存度50%超の物流事業者が約40%と最も多くなっており,特定の事業者に対する取引依存度が高い状況がうかがわれる。
(エ) 荷主における取引先物流事業者の変更
 荷主が継続的に取引している物流事業者について「変更しない。」,「ほとんど変更しない。」と回答した荷主は約94%となっており,固定的な取引となっている。
(2) 行為類型別の状況
ア 全般
 荷主が物流事業者に対して行う種々の要請等の有無を,物流特殊指定で規定されている行為類型別にみると,第17図のとおり,代金の引下げ要請又は物品の購入要請・役務の利用要請があったと回答した物流事業者が比較的多くなっている。
第17図 行為類型別の要請等の有無

イ 各行為類型の状況
(ア) 一方的な代金の引下げ(買いたたき)
 荷主からの代金の引下げ要請が「よくあった。」,「ときどきあった。」と回答した物流事業者は,第17図のとおり併せて約31%となっている。
 これら事業者に対して,その引下げ要請を承諾したかどうかを質問したところ,「代金引下げ自体は承諾したが,引下げ幅は自社の意向も酌んでもらった。」と回答した者が約60%となっていた一方,「要請どおり承諾した。」と回答した者も約34%となっている。
 この「要請どおり承諾した。」と回答した物流事業者に対し,荷主との協議の状況を質問したところ,「協議したが,十分とはいえなかった。」,「協議の機会を与えられなかった。」と回答した者は,併せて約76%であった。
(イ) 物品の購入強制・役務の利用強制
 荷主から物品の購入要請又は役務の利用要請が「よくあった。」,「ときどきあった。」と回答した物流事業者は,第17図のとおり併せて約12%となっているが,これら事業者に対し,実際に購入・利用したかどうかを質問したところ,「必要はなかったが,やむを得ず購入・利用した。」と回答した物流事業者が約45%となっている。
3 物流事業者から指摘された具体的な問題事例
 書面調査において,物流事業者から,荷主が物流特殊指定上問題となるおそれのある行為を行っていると具体的に指摘があったものについては,更に詳しく事情を聴くため,当該物流事業者に対してヒアリングを行った。
 これら物流事業者からのヒアリング結果を基に,事実関係を聴取する必要があると判断された荷主に対しては,具体的な行為を指摘して物流事業者との取引において物流特殊指定等に違反する行為がないか点検を求めるとともに,問題となるおそれのある行為について是正を要請した。
4 公正取引委員会の対応
(1)  今回の調査の結果,一部の荷主は,物流事業者と十分協議することなく一方的に代金の引下げ要請を行い,物流事業者は,要請に応じないと取引上不利になることを懸念して,これを受け入れざるを得ない状況にあることがうかがわれた。
 独占禁止法上問題となる行為を未然に防止し,荷主と物流事業者の取引の公正化を図っていくためには,取引条件を決定するに当たり,荷主と物流事業者の間であらかじめ十分な協議を行うことが重要であると考えられる。
 また,物流事業者の指摘の中には,委託元である他の物流事業者による行為も含まれているところ,これらは下請法の規制対象となることから,これらの行為については,別途,下請法の定期調査の中で調査を進めることとする。
(2)  公正取引委員会としては,今回の調査結果を踏まえ,平成18年3月1日,荷主団体に対して,改めて物流特殊指定の内容を傘下会員に十分に周知徹底するとともに,傘下会員の独占禁止法遵守体制について,制度面及び運用面において一層の改善が図られるよう,傘下会員への指導を要請した。
 また,今後とも,荷主と物流事業者との取引実態の把握や違反行為の未然防止に努めるとともに,具体的な情報提供が行われた場合には調査を行い,物流特殊指定に違反する事実が認められた場合には厳正に対処していくこととしている。