第7章 不公正取引への取組

第1 概説

 独占禁止法は,不公正な取引方法の規制として第19条において事業者が不公正な取引方
法を用いることを禁止しているほか,事業者及び事業者団体が不公正な取引方法に該当す
る事項を内容とする国際的契約を締結すること,事業者団体が事業者に不公正な取引方法
に該当する行為をさせるようにすること,会社及び会社以外の者が不公正な取引方法によ
り株式を取得し又は所有すること,会社が不公正な取引方法により役員の兼任を強制する
こと,会社が不公正な取引方法により合併すること等の行為を禁止している(第6条,第
8条第1項,第10条第1項,第13条第2項,第14条,第15条第1項,第15条の2第1項第
2号及び第16条第1項)。
 不公正な取引方法として規制される行為の具体的な内容は,公正取引委員会が法律の枠
内で告示により指定することとされている(第2条第9項及び第72条)。
 不公正な取引方法に関しては,前記規定に違反する事件の処理のほか,不公正な取引方
法の指定に関する調査,不公正な取引方法の防止のための指導業務等がある。また,不公
正な取引方法に関する事業者からの相談に積極的に応じることにより違反行為の未然防止
に努めている。

第2 特定の不公正な取引方法の見直し

 不公正な取引方法については,公正取引委員会が告示によってその内容を指定している
が,この指定には,すべての業界に共通に適用されるいわゆる「一般指定」(昭和57年公
正取引委員会告示第15号)と特定の事業者・業種を対象とする特定の不公正な取引方法
(いわゆる「特殊指定」)がある。特殊指定については,平成16年に「特定荷主が物品の
運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法(平成16年公正取引委員会告示第
1号)」を,また,平成17年に「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の
不公正な取引方法(平成17年公正取引委員会告示第11号)」を新たに制定したが,それ以
前に制定された後記の5つの指定は制定後長期間が経過し,近年適用例がほとんどないこ
とから,公正取引委員会は,平成17年11月以降,これらについて,一般指定と異なる特別
な規制を存続させる必要があるか,経済実態に適合したものとなっているか等の観点から,
規定の見直しを行った。

1 教科書業における特定の不公正な取引方法(昭和31年公正取引委員会告示第5号)
  (教科書特殊指定)

 教科書特殊指定は,制定後50年が経過し,この間,教科書採択の実態は大きく変化して
きたことから, 同特殊指定の規制対象となっている採択関係者への 利益供与等の行為に
よって教科書の採択がゆがめられるおそれは著しく減少し,他の分野に比し,特別に規制
を行う必要性がなくなっているため,平成18年6月6日付けで本告示を廃止した(同年9
月1日から施行)。

2 海運業における特定の不公正な取引方法(昭和34年公正取引委員会告示第17号)
 
(海運特殊指定)
 海運特殊指定の規制対象となっている船舶運送事業者が単独又は協定(いわゆる海運同
盟(海上運送法第28条に基づく独占禁止法適用除外カルテル))等により行う海運同盟非
加盟事業者又は荷主に対する各種の不当な行為については,近年の外航海運における業界
実態や取引実態の変化にかんがみると,もはや実施することが極めて困難となっているも
のと認められるため,平成18年4月13日付けで本告示を廃止した。

3 食品かん詰または食品びん詰業における特定の不公正な取引方法
  (昭和36年公正取引委員会告示第12号)(食品かん詰業告示)

 食品かん詰業告示の規制対象となっている食品かん詰又はびん詰の内容量等に関する表
示・広告に関する行為については,景品表示法,食品缶詰の表示に関する公正競争規約等
で対応可能であるため,平成18年2月1日付けで本告示を廃止した。

4 広告においてくじの方法等による経済上の利益の提供を申し出る場合の不公正な
   取引方法(昭和46年公正取引委員会告示第34号)(オープン懸賞告示)

 
オープン懸賞告示の規制対象となっている,顧客を誘引する手段として広告においてく
じの方法等により経済上の利益の提供を申し出る行為については,同行為と商品選択との
関連が稀薄になってきており,また,同告示の運用基準で規定される上限又はそれに近い
経済上の利益を提供する企画を実施している例はほとんどみられないこと等から,平成18
年4月27日付けで本告示を廃止した。

5 新聞業における特定の不公正な取引方法(平成11年公正取引委員会告示第9号)
  (新聞特殊指定

 新聞特殊指定は,特定の不公正な取引方法として,新聞発行本社による地域又は相手方
により異なる定価の設定,販売店による定価の値引き行為等を原則的又は全面的に禁止し,
また,新聞発行本社による販売店への押し紙行為等を禁止するものである。
 公正取引委員会は,新聞特殊指定は価格競争を原則的又は全面的に禁止するとの考え方
に立脚しており,同特殊指定を維持することは,法的相当性や消費者利益の観点から問題
がある旨指摘し,新聞業界等との間で鋭意議論を進めてきたところであるが,議論がかみ
合わず,議論を進めても特段の進展は望めない状況にあったこと,また各政党においても,
新聞特殊指定を存続させるべきとの議論がなされていたこと等を踏まえ,今回の見直しで
は結論を出すことを見合わせることとし,その旨を平成18年6月2日付けで公表した。

第3 中小企業を取り巻く取引の公正化への取組

 公正取引委員会は,従来から,中小事業者等に不当な不利益を与える不当廉売,優越的
地位の濫用等の不公正な取引方法や消費者の適正な選択を妨げる不当表示等に対し,厳正
かつ積極的に対処することとしている。
 このうち,不当廉売及び優越的地位の濫用に関する最近の取組は次のとおりである。

1 不当廉売に対する取組

(1) 不当廉売規制
  企業の効率性によって達成した低価格で商品を提供するのではなく,採算を度外視し
 た低価格によって顧客を獲得することは,正常な競争手段とはいえず,これにより他の
 事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある不当廉売は,不公正な取引方法の一つと
 して禁止されている。
(2) 小売業における不当廉売事案の規制
 ア 処理方針
  不当廉売事案については,<1>申告のあった事案に対しては,可能な限り迅速に処理す
 ることとし(原則2か月以内),<2>大規模な事業者による不当廉売事案又は繰り返し行
 われている不当廉売事案で,周辺の販売業者に対する影響が大きいと考えられるものに
 ついては,周辺の販売業者の事業活動への影響等について個別に調査を行い,問題のみ
 られる事案については厳正に対処することとしている。
 イ 規制基準の明確化
  小売業における不当廉売規制の考え方については,昭和59年に「不当廉売に関する独
 占禁止法上の考え方」を公表しているところであるが,規制改革が進展している中で,
 独占禁止法違反行為の未然防止を図る観点から,酒類の取引実態を踏まえた不当廉売等
 の規制についての考え方を平成12年11月及び平成13年4月に,ガソリンの取引実態を踏
 まえた不当廉売等の規制についての考え方を平成13年12月に,それぞれ公表している。
  また,家庭用電気製品の流通においては,近年,小売市場における家電量販店の成長
 が目覚ましく,メーカーの家電量販店への販売依存度が高まる傾向にある中で,大手の
 家電量販店間の激しい低価格競争により,地域家電小売店の事業活動に与える影響が深
 刻化している状況等を踏まえ,平成18年6月に,「家庭用電気製品の流通における不当
 廉売,差別対価等への対応について」を公表した。
 ウ 処理の状況
  (ア) 排除措置命令
    平成18年度においては,石油製品小売業者1社に対し,普通揮発油を,その仕入
   価格又は仕入価格に販売経費を加えた価格を下回る価格で継続して販売し,当該地
   区に給油所を設置する他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれのある事実が認
   められたことから,排除措置命令を行った(事件の詳細については,第2章第3参
   照)。
  (イ) 警告
    平成18年度においては,石油製品小売業者1社に対し,普通揮発油を,長期間に
   わたり,その仕入価格に販売経費を加えた価格を下回る価格で販売(仕入価格を下
   回る価格での販売を含む。)し,周辺地域に所在する事業者の事業活動を困難にさせ
   るおそれを生じさせた疑いのある事実が認められたことから,警告を行った。
  (ウ) 注意
    平成18年度において,小売業者に対し不当廉売につながるおそれがあるとして迅
   速処理により注意を行った件数は,第1表のとおりである。

   

2 優越的地位の濫用に対する取組
(1) 優越的地位の濫用規制
  自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,取引の相手方に正常な
 商慣習に照らして不当に不利益を与える行為(優越的地位の濫用)は,自己と競争者間
 及び相手方とその競争者間の公正な競争を阻害するおそれがあるものであり,不公正な
 取引方法の一つとして禁止されている。
  なお,平成18年度においては,優越的地位の濫用に対して2件の排除措置命令を行っ
 たほか,1件の警告及び9件の注意を行った(排除措置命令を行った事件の詳細につい
 ては,第2章第3参照)。
(2) 大規模小売業者と納入業者との取引の公正化に向けた取組
  公正取引委員会は,大規模小売業者の納入業者に対する優越的地位の濫用を効果的に
 規制する観点から,平成17年5月13日,「大規模小売業者による納入業者との取引にお
 ける特定の不公正な取引方法」(以下「大規模小売業告示」という。)の指定を行い,
 同年11月1日から施行した。
  平成18年度においては,大規模小売業告示が施行されて一定の期間が経過したことを
 踏まえ,同告示施行後の大規模小売業者と納入業者との取引実態を把握し,併せて問題
 が認められる場合には,関係事業者等に対し所要の改善措置を採るよう求めることを目
 的として,納入業者6,000社を対象に書面調査を実施し,平成18年12月26日に「大規模小
 売業者との取引に関する納入業者に対する実態調査報告書」を公表した(詳細は第7参
 照)。
  同実態調査の過程で,大規模小売業告示上問題となるおそれのある行為を行っている
 と納入業者から指摘があった大規模小売業者16社に対しては,具体的な行為を指摘し,
 納入業者との取引において優越的地位の濫用がないか点検を求めるとともに,問題とな
 るおそれのある行為について是正を要請した。また,同実態調査の結果を踏まえ,関係
 事業者団体10団体に対して,改めて同告示の内容を傘下会員に十分周知徹底するととも
 に,傘下会員の独占禁止法遵守体制について一層の改善が図られるよう,傘下会員への
 指導を要請した。
  さらに,調査報告書の内容については,関係事業者団体への説明会を積極的に開催し,
 大規模小売業告示の遵守意識の徹底を図った。
(3) 荷主と物流事業者との取引の公正化に向けた取組
  公正取引委員会は,荷主の物流事業者に対する優越的地位の濫用を効果的に規制する
 観点から,平成16年3月8日,「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定
 の不公正な取引方法」(以下「物流特殊指定」という。)の指定を行い,同年4月1日
 から施行した。
  平成18年度においては,物流特殊指定の遵守状況を監視するとともに,問題が認めら
 れる場合には,関係事業者に対し所要の改善措置を採るよう求めることを目的として,
 物流事業者4,813社に対して,同指定の規定に違反する行為を荷主から受けたことがある
 か書面調査等を通じて情報提供を求め,物流事業者から同指定上問題となるおそれのあ
 る行為を行っているとの指摘があった荷主1事業者に対して,問題となるおそれのある
 行為について指摘するとともに,その是正を要請した。

第4 建設業の下請取引における不公正な取引方法の規制

 建設業の下請取引において,元請負人等が下請負人に対し,請負代金の支払遅延,不当
に低い請負代金等の不公正な取引方法を用いていると認められるときは,建設業法第42条
又は第42条の2の規定に基づき,国土交通大臣,都道府県知事又は中小企業庁長官が公正
取引委員会に対し,独占禁止法の規定に従い適当な措置を採ることを求めることができる
こととなっている。

第5 金融機関と企業との取引慣行に関する調査・提言

1 調査の趣旨等

(1) 調査の趣旨
  金融機関(注1)から融資を受けている事業者(注2)(以下「借り手企業」という。)
 に対し金融機関が取引上の優越的地位を利用して金融商品を販売するなど借り手企業に
 対する不公正な取引の実態については,従前より,公正取引委員会として注視してきた
 ところであり,平成13年7月には,「金融機関と企業との取引慣行に関する調査報告書
 ―融資先企業に対する不公正取引の観点からのアンケート調査結果―」(以下「前回調
 査」という。)を公表して,こうした取引の実態について明らかにしている。また,こ
 れらについての独占禁止法上の考え方を,平成16年12月に「金融機関の業態区分の緩和
 及び業務範囲の拡大に伴う不公正な取引方法について」(以下「ガイドライン」という。)
 において示している。
  しかしながら,最近においても都市銀行による借り手企業に対する優越的地位の濫用
 について,独占禁止法違反の排除勧告が行われるなど,依然として金融機関による借り
 手企業に対する優越的地位の濫用が行われているのではないかとの懸念があった。
  以上のことから,金融機関と借り手企業等との取引について,前回調査において示し
 た独占禁止法上の考え方に照らして問題となる不公正な取引の実態を明らかにし,取引
 の適正化に資することを目的として調査を実施し,平成18年6月,調査結果を公表した。
(注)1 銀行,信用金庫,信用組合などを指し,政府系金融機関,ノンバンク(預託業務
  を行わず,貸金業の規制等に関する法律第3条の登録を受け与信業務を行っている事
 業者),証券会社,保険会社及び信託会社を除く。
  2 決算報告書において短期借入の実績がある事業者
(2) 調査の対象・方法
  本調査は,金融機関684社及び借り手企業2,000社に対して,アンケート調査を,また,
 借り手企業13社及び業界団体等12に対してヒアリング調査を行った。
(3) 前回調査との比較について
  前回調査では, 短期借入金残高がある全国の法人事業者の中から 無作為抽出により
 5,000社を選定してアンケート調査を行っている。今回は,短期借入金残高がある全国の
 法人事業者から無作為抽出により2,000社を選定してアンケート調査を行った。
  本報告書において,それぞれの項目で前回調査との比較を行っているが,アンケート
 の結果,前回調査と今回調査では,企業規模や業種,地域の構成等に差異がみられるた
 め,アンケートに回答した企業につき必ずしも同質の集合とはみなせないことに留意す
 る必要がある。

2 金融機関との取引状況等
(1) 融資取引先金融機関数
  企業アンケート調査によると,借り手企業が金融機関から融資を受けるに当たり,複
 数の金融機関と取引をしている状況がみられた。融資取引先数は平均で5.5行であり,
 前回調査(7.8行)に比べて減少傾向(注)にある。
(注) 前回調査と今回調査の間に,都市銀行等において統合が進んでおり,その絶対数が
  減少していることが,融資取引先金融機関数の減少やメインバンクからの融資が占め
  る割合の増加に一定の影響を及ぼしていると考えられる。
(2) メインバンクからの借入れ割合及び取引年数
  取引先金融機関の中で借入残高の割合が最も高い金融機関(以下「メインバンク」と
 いう。)を金融機関別にみると,都市銀行であるとする借り手企業が24.1%,地方銀行
 が62.7%,その他が13.2%という結果であった(第1図参照)。

   

  さらに,借り手企業が金融機関から受けている全融資額のうちメインバンクの融資の
 占める割合について質問したところ,「20%超から40%」とする割合が29.2%と最も多
 い回答であった。
  「20%超から40%」とする割合は前回調査においても47.2%と最も高かったが,その
 割合は今回調査では減少している。一方,「80%超」とする割合は前回調査(7.1%)に
 比べ大きく増加した(第2図参照)。

   

  なお,メインバンクからの融資が占める割合の平均をみるため,選択肢である回答割
 合の中間値に対して回答のあった割合の加重平均の値をみたところ,前回調査では41.1
 %,今回調査では51.5%となった。この結果からみると,メインバンクへの依存の程度
 が増していることが分かる。
  また,メインバンクとの取引年数について質問したところ,取引年数が「10年以上」
 とする者が76.6%という結果であった。
(3) 融資取引先金融機関の変更状況
  企業アンケート調査において,平成13年以降,融資を受けている金融機関に変更があっ
 たか質問したところ,66.5%は「変更が無かった」という回答であった(第3図参照)。
 また,「変更が無かった」と回答した企業に対して,変更を検討したことがあるか質問
 してみたところ,28.8%の者は検討を行っていた。さらに,「検討したが変更できない」
 を選択した企業にその理由について質問したところ,「他の金融機関と取引を開始しよ
 うとしても,拒絶されるおそれがあるため」と回答した者が47.7%,次いで「既存の金
 融機関との関係があったため」と回答した者が31.8%という結果であった。

   

3 融資を背景とした金融機関による要請等の実態
(1) 要請に対して意思に反して応じたとする借り手企業の割合
  個別の質問について,意思に反して応じたとする借り手企業の割合は,前回調査と比
 較して総じて減少しており,また,ヒアリングでは,ほとんどの企業が「ここ最近は特
 に要請等を受けたことはない」としており,株式会社三井住友銀行に対する排除勧告の
 件以降,政府及び各金融機関における取組に一定の効果が認められる。例えば,同事件
 において排除措置の対象となった「預金以外の金融商品・サービスを購入することの要
 請」について意思に反して応じたとする借り手企業の割合は,今回調査では5.5%となっ
 ており,前回調査の8.4%と比して改善の傾向がみられた。
  その一方で,「契約で定めた金利の引上げの要請」など,前回調査に比べて「意思に
 反して要請に応じた」との回答の割合が増加しているものがみられるなど,前回調査に
 おいて指摘した事例について,改善がみられないものがあった(第4図参照)。

   

(2) 要請に対する企業の受け止め方
 ア 要請に対する断りにくさについての企業の感じ方
  企業アンケート調査において,金融機関からの融資を受けていると,金融機関からの
 要請を断りにくく感じるかを聞いたところ,要請を断りにくく感じると回答した企業は
 30.3%であった(第5図参照)。
  前回調査では41.9%の企業が金融機関からの要請を断りにくく感じるとの回答であっ
 たことから,断りにくく感じるとの回答の数値は減少しているものの,依然として金融機
 関からの要請に対して断りにくく感じている借り手企業が少なくない状況がみられた。
 また,各種の要請は,金融機関の営業担当者レベルによって要請されるものが多いが,
 営業担当者の要請に借り手企業側が応じない場合には営業担当者の上司である課長や支
 店長といった者が要請を行うなど,必要以上に繰り返し要請されたとのケースが多くみ
 られた。借り手企業側としては「単なる営業とは思えなくなる」とのことである。

   

 イ 意思に反して要請に応じた理由
  金融機関からの各種の要請に応じたことが,意思に反していたことがあるとする者に
 対して,要請に応じた理由を質問したところ,「次回の融資が困難になると思っため」
 とする者が59.8%という結果であった。

4 法令遵守等に対する金融機関等の取組状況
 金融機関に対して前回調査,ガイドライン,排除勧告に対する認識についてアンケート
で質問したところ,報告書が公表されていることを「知らなかった」とするものが28.2%,
また,「公表していることは知っているが,金融機関として特に何も対応を行っていない」
とするものが 40.5%みられた。 同様にガイドラインについて知らなかったとするものが
25.4%,対応を行っていないとするものが47.6%,排除勧告については,知らなかったと
するものが5.6%,対応を行っていないとするものが2.9%という結果であった(第6図及
び第7図参照)。

   

 逆にこのような一連の経緯を認識し,また,これを受け社内において周知や取組などの
コンプライアンス整備を行っているとするものもみられた(報告書59.4%,ガイドライン
52.4%,排除勧告71.0%)。周知の方法や取組の内容としては「研修会・説明会の開催」,
「役員会での報告」などがみられた。
 周知や取組を行ったと回答した金融機関に対し,コンプライアンスに反するような行為
があったかアンケートで確認したところ,「ない」と回答した金融機関が96.4%,「ある」
と回答した金融機関が1.0%,「把握していない」と回答した金融機関が2.6%という状況で
あった。
 また,「ある」と回答した金融機関にコンプライアンスに反する行為の件数について確認
したところ,5つの金融機関から13件の事例の報告があった。この内容について確認した
ところ,借り手企業に対して「投資積立を販売していたことが,金融庁検査により圧力販
売の疑義があるとの指摘を受けた」,「保険販売に当たって,金融機関が顧客より得た個人
情報をもとに営業を行う場合には,個人情報を利用して営業を行う旨の同意を顧客より書
面にて得るところ,契約と同日付で書面を徴収していた」や「営業店において,目標達成
のための圧力的な貸出行為があった」等の回答であった。このような違反行為を踏まえ,
圧力販売に対するチェック体制の強化,顧客への説明マニュアルや内部規定の制定や研修
といった取組が図られたとのことである。

5 競争政策上の評価
(1) 融資を背景とした金融機関による借り手企業に対する要請等
 ア 要請に対する借り手企業の受け止め方
  今回の調査においては,金融機関が借り手企業に対して各種の要請を行った場合,要
 請を受けた企業の30.3%は「断りにくく感じている」と考えており,前回調査(41.9%)
 に比べて,金融機関からの要請に対する断りにくさについての企業の感じ方に変化はみ
 られるものの,依然として,金融機関と企業との取引においては独占禁止法上の問題が
 生じやすい状況があることは変わりない。
 イ 独占禁止法上の考え方
  金融機関が借り手企業に対し例えば以下のような要請を行った場合,企業側にとって
 応じることを希望しないものであっても,今後の融資等への影響を懸念して要請に応じ
 ることがあり,優越的地位の濫用等として独占禁止法上の問題を生じやすい。各種の営
 業・要請を行うに当たっては十分な注意が必要である。
  (ア) 融資に関する不利益な取引条件の設定・変更(一般指定第14項)
   ○ 借り手企業に対し,その責に帰すべき正当な事由がないのに,要請に応じなけ
    れば今後の融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆すること等によって,契約
    に定めた金利の引上げを受け入れさせ,又は,契約に定めた返済期限が到来する
    前に返済させること。
   ○ 債権保全に必要な限度を超えて,過剰な追加担保を差し入れさせること。
   ○ 借り手企業に対し,要請に応じなければ次回の融資が困難となる旨を示唆する
    こと等によって,期末を越える短期間の借入れや一定率以上の借入シェアを維持
    した借入れを余儀無くさせること。
  (イ) 自己の提供する金融商品・サービスの購入要請(一般指定第14項)
   ○ 債権保全に必要な限度を超えて,融資に当たり定期預金等の創設・増額を受け
    入れさせ,又は,預金が担保として提供される合意がないにもかかわらず,その
    解約払出しに応じないこと。
   ○ 借り手企業に対し,要請に応じなければ融資等に関し不利な取扱いをする旨を
    示唆して,自己の提供するファームバンキング,デリバティブ商品,社債受託管
    理等の金融商品・サービスの購入を要請すること。
  (ウ) 関連会社等との取引の強要(一般指定第10項及び第14項)
   ○ 融資に当たり,要請に応じなければ融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆
    して,自己の関連会社等が提供する保険等の金融商品の購入を要請すること。
   ○ 融資に当たり,要請に応じなければ融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆
    して,社債の引受けや企業年金運用の受託等の金融サービスの購入を要請するこ
    と。
   ○ 融資に当たり,自己の関連会社等と継続的に取引するよう強制すること。
  (エ) 競争者との取引の制限(一般指定第13項及び第14項)
   ○ 借り手企業に対し,他の金融機関から借入れを行う場合には貸出条件等を不利
    にする旨を示唆して,他の金融機関から借入れをしないよう要請すること。
   ○ 自己の関連会社等の競争者との取引を制限することを条件として融資を行うこ
    と。
  (オ) 借り手企業の事業活動への関与(一般指定第14項)
   ○ 要請に応じなければ今後の融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆すること
    等によって,自己又は自己の関連会社等の株式を取得させること。
   ○ 資金調達の選択又は資産処分に干渉するなど資金の調達・運用又は資産の管理・
    運用を拘束し,借り手企業に不利益を与えること。
(2) 金融機関のコンプライアンスの取組状況
 ア 業界全体としてのコンプライアンスの取組
  前回調査やその後のガイドラインについて「公表していることを知らなかった」と回
 答する金融機関が20%を超えていた。各団体において,会員金融機関に対する法令遵守
 に関する情報を再度周知徹底するなど,業界全体での法令遵守に対する取組の改善が強
 く求められる。
 イ 各金融機関におけるコンプライアンスの取組
  (ア) コンプライアンスのための基本的情報の周知徹底
   前回調査,ガイドライン,排除勧告を知っていたとする金融機関に対して,それら
  を踏まえたコンプライアンスの取組についてアンケートで質問したところ,報告書に
  ついては40.5%,ガイドラインについては47.6%,排除勧告では29.0%が「周知も取
  組もしていない」との回答であった。平成16年12月に公表した「金融機関の業態区分
  の緩和及び業務範囲の拡大に伴う不公正な取引方法について」の趣旨及びこの報告書
  における指摘事項を再度周知徹底する必要がある。
  (イ) コンプライアンスの実効性の確保
   前回調査,ガイドライン,排除勧告について,周知はしたが違反行為未然防止のた
  めのチェック体制の強化等の取組は行っていないと回答したものが,それぞれについ
  て約3割を占めており,これらの金融機関でのコンプライアンスのシステムの実効性
  確保は必ずしも十分ではない。平成18年5月に公正取引委員会が公表した「企業にお
  けるコンプライアンス体制について」を踏まえるなどして,内部におけるコンプライ
  アンス体制について再度見直しを行い,コンプライアンスの実効性の確保に努めてい
  くことが強く求められる。

6 今後の対応
 公正取引委員会は,金融機関と借り手企業との取引が適正に行われるよう引き続き監視
し,公正かつ自由な競争が阻害されているような事案に接した場合には,独占禁止法に基
づき厳正に対処していく。

第6 医療用医薬品の流通実態に関する調査・提言

1 調査の趣旨等

(1) 調査の趣旨
  近年,我が国における国民医療費は32兆円を超え,高騰する医療費を抑制することが
 喫緊の課題となっており,医療費のうち2割強を薬剤費が占めていることから,薬剤費
 を抑制することも重要である。
  こうした中,先発医薬品に代えて後発医薬品の使用を促進することも医療費削減に効
 果的であるとされているところ,我が国では,医療用医薬品に占める後発医薬品の取扱
 割合が主要諸外国と比較して低いといわれており,また,医薬品の買い手である保険医
 療機関又は保険薬局が広域的に連携してスケールメリットをいかした価格交渉を行うな
 ど,医療機関における高いコスト意識に基づく購入方法の一つの手段である共同購入の
 取組も進みにくい状況にあるといわれている。
  この背景には,医療用医薬品の流通において非競争的な取引形態や取引慣行が存在す
 るのではないかと懸念されることから,後発医薬品の取引及び共同購入の取組の実態に
 ついて明らかにし,競争政策上の観点から,医療用医薬品の取引について改善すべき点
 を提言することを目的として調査を実施し,平成18年9月,調査結果を公表した。
(2) 調査の対象・方法
  本調査は,医薬品メーカー,卸売業者,医療機関等に対して,アンケート及びヒアリ
 ングによる調査を行った。

2 医療用医薬品業界の構造
(1) 市場規模
  医療用医薬品の市場規模は,国内生産金額が6兆5253億円,出荷金額が6兆7377億円
 であり,いずれも増加傾向にある(第8図参照)。

   
      
(厚生労働省「平成16年薬事工業生産動態統計年報」を基に作成)

  また,後発医薬品の市場規模は,医薬工業協議会の行ったジェネリック医薬品使用実
 態調査によると,医療用医薬品の出荷金額のうち後発医薬品が占める比率は平成16年度
 現在5.2%(出荷数量ベースでは16.8%)である。我が国では,医療用医薬品全体の取扱量
 に占める後発医薬品のシェアは,欧米と比較して低い状況にある(第9図参照)。

   
      
(医薬工業協議会「ジェネリック医薬品について」を基に作成)
        (注)数値は平成16年,英国のみ平成15年のものである。


(2) 流通経路
  医療用医薬品の流通経路は,先発医薬品と後発医薬品とでは異なる。
  先発医薬品の場合,メーカーは,卸売業者を通じて医療機関等に販売している。一方,
 後発医薬品の場合,メーカーは,先発医薬品と同様に卸売業者を通じて医療機関等に販
 売する場合もあるが,参入当初は,卸売業者に取り扱ってもらえずに後発医薬品独自の
 流通ルートを開拓して販売したことから,後発医薬品専業の販売会社を通じて販売する
 場合があり,この比率は半々程度であるといわれている(第10図参照)。

   

(3) 取引主体
 ア メーカー
  医薬品を製造又は製造販売するためには,薬事法に基づき医薬品製造業又は製造販売
 業の許可が必要とされている。 平成17年3月末日現在の許可事業者数は1,710社である
 (注)。
  (注) 許可事業者数の数値は,平成17年4月1日施行の薬事法改正以前の許可形態である
    医薬品製造業及び輸入販売業のものである。

  メーカーは,医療用医薬品を製造して卸売業者に販売するだけではなく,MR
 (Medical Representative)と呼ばれる医薬情報担当者を通じて,病院を中心とする医
 療機関に従事する医師や薬剤師等の医療従事者に対して医薬品の品質,有効性及び安全
 性に関する説明を行うなどの情報提供及び医薬品に対する評価等の情報収集を行ってい
 る。
 イ 卸売業者
  医薬品の卸売を専ら行う場合には,薬事法に基づき卸売一般販売業の許可を取得する
 こととされている。平成17年3月末日現在の許可事業者数は3,451社(一般用医薬品専業
 卸を含む。)である。
  卸売業者は,医療用医薬品の流通の中で,メーカーからの医薬品の集荷,保管,配送
 という物流機能を担っている。また,MS(MarketingSpecialist)と呼ばれる営業担当者
 を医療機関に,特に,メーカーのMRがカバーしきれない診療所や保険薬局を中心として
 派遣し,そこで従事する医師や薬剤師等の医療従事者に対して医薬品の品質に関する説
 明を行うなどの情報提供等を行っている。

3 医療用医薬品の取引慣行
(1) 医療用医薬品流通における価格形成の実態
  医療機関の医薬品選定においてはメーカーによる営業活動が大きな影響力を有してお
 り,メーカーの営業活動により医療機関からの医薬品の発注量が決まる。そのため,卸
 売業者は取扱数量を増やすことによってメーカーから値引きを引き出すといった価格交
 渉の余地が限られている。また,代替する医薬品のない先発医薬品については卸売業者
 は取り扱う医薬品の変更を示唆することによってメーカーから値引きを引き出すといっ
 た価格交渉をすることも難しい状況にある。
  このような状況の下,卸売業者は利幅が極めて薄い状況になっており,事実上,自ら
 の利益の範囲内で値引きを行うといった自由な販売価格の設定が困難となっている。
 ア 卸売業者の販売価格情報等のメーカーへの報告
  メーカーと卸売業者は,一般に,コンピューターシステムを利用して医薬品の取引に
 係る情報の交換を行っている。例えば,メーカーは卸売業者との間で,これらコンピュー
 ターシステムを用いて,受発注に関する情報を交換するほか,卸売業者に対し,医療機
 関等に対する販売情報(販売先,販売品目,販売価格及び販売数量)について報告させ,
 当該報告に対する報酬として「情報提供料」(売上高の0.2〜0.3%)を卸売業者に支払っ
 ている。
  メーカーに対するアンケート調査によれば,販売先,販売品目,販売価格及び販売数
 量のいずれについても,報告させているとするメーカーの回答が93%前後に上り,情報
 提供に対する報酬を支払っているとするメーカーの回答が94.5%に上っている。
 イ 価格形成の実態
  卸売業者にとって,医薬品の実質的な仕入原価は,メーカーからの仕切価格から当該
 医薬品を販売することによって得られるリベートとアローアンスを差し引いた価格であ
 る(第11図参照)。
  また,メーカーに対するアンケート調査によれば,卸売業者の実質仕入原価(仕切価
 格−リベート−アローアンス)は,薬価を100として85〜81の価格帯が最も多かった。

   

  卸売業者の販売管理費は,事業者により異なるものの,平成16年度においては 7.5%
 前後であるといわれているため,これを卸売業者の実質仕入原価の多数価格帯(85〜81)
に加えた総販売原価と販売価格とを比較してみると,卸売業者の利益は極めて薄いことが
分かる(第12図参照)。

   

(2) 後発医薬品の使用
 特許が切れ,後発医薬品が製造されるようになった場合は,医療機関に複数のメーカー
による同等の効能の医薬品の間での選択の幅が広がり,メーカー間の競争が発生し,これ
によって後発医薬品のシェアが相当拡大するケースが多くなると考えられるが,実際には,
そのようなことはほとんどなく,我が国では海外に比して後発医薬品の普及が遅いといわ
れている。
 医療機関は,後発医薬品について,先発医薬品に比して安定供給,情報提供,品質確保
の面で劣るのではないかと懸念しているところ,医療機関の中には,先発医薬品メーカー
から他メーカーの後発医薬品について不適切な情報提供を受けたところがあった。
 また,外来処方については,消費者の後発医薬品志向が強いものの,医療機関が消費者
に対し後発医薬品の処方について説明を行わない場合があることなどにより,消費者には
必ずしも十分な情報が伝えられていない実態がある。
 なお,厚生労働省は,安定供給,情報提供,品質確保,一般国民向けの啓発活動等の後
発医薬品の使用促進のための取組を進めているところである。
 ア 医療機関における後発医薬品の使用に対する懸念
  後発医薬品は,ほぼすべての医療機関で使用されているところ,医療機関による後発
 医薬品の導入姿勢について,まず,後発医薬品を使用している医療機関に対し,後発医薬
 品を使用するに当たって心配であったことをアンケート調査において質問したところ,
 次の図のとおりであった(第13図参照)。

   

  次に,後発医薬品メーカーに対して,アンケート調査において,医療機関から後発医
 薬品の取引の申出を断られる場合の理由を質問したところ,「なんとなく後発医薬品に
 対する不安がある」が56.7%であり,続いて,「安定供給(在庫,製造トラブルの回避,
 緊急注文対応,継続生産等)に不安がある」が50.0%,「品質(安定性,規格試験結果
 等)について安心できない」及び「情報収集・提供(MR数,緊急連絡体制等)等が不十
 分である」がいずれも46.7%であった。
  さらに,卸売業者に対して,アンケート調査において,後発医薬品を積極的に販売して
 いるかについて質問したところ,積極的に販売していない旨の回答が69.6%であった。
 積極的に販売していない卸売業者に対し,その理由を質問したところ,「後発医薬品の
 品質,安定供給等に疑問を感じるから」との回答が49.1%と最も多く,次いで「医療機
 関からの発注があまりないから」との回答が47.3%であった(第14図参照)。

   

  こうしたことから,後発医薬品の導入に関して,医療機関に品質,情報,安定供給に
 対する懸念があり,販売側の卸売業者も,こうした医療機関の意識を反映して積極的な
 販売は行っていないものとみられる。
 イ 先発医薬品メーカーによる後発医薬品についての説明
  前記アでみたとおり,後発医薬品については,医療機関が安定供給,情報提供,品質
 確保について不安を抱いているという問題が大きく,また,医療機関における医薬品の選
 定に大きな影響を及ぼすMRの人数について,先発医薬品メーカーは後発医薬品メーカー
 に比べて圧倒的に多人数のMRを有しているところ,医療機関が後発医薬品を積極的に導
 入しない背景として,先発医薬品メーカーが後発医薬品への置き換えが進むことを懸念
 し,医師に自社製品を処方させるために,MRをして後発医薬品の安定供給,情報提供,
 品質確保について不安感を助長する営業を行わせているという声が聞かれる。
  そこで,医療機関及びメーカーに対し,先発医薬品メーカーが,他メーカーの後発医
 薬品について,事実に反する説明を行っていると感じた経験について,アンケート調査
 及びヒアリングを行った結果,次のような具体的な事例が報告された。

● 医療機関
  先発医薬品から後発医薬品に置き換える場合に,メーカーにプレゼンテーションさせ
 る機会を設け,医師と薬剤師がその内容を評価するが,一般に,先発医薬品メーカーは
 後発医薬品の不安を煽る説明をする。これまでに最もひどかった先発医薬品メーカーの
 MRは,他の医療機関で後発医薬品に置き換えたところがあるが,吸収性等に違いがあり
 使用に差し支える問題が多く,しばらくすると先発医薬品に戻したという話をしたが,
 この話は事実とは異なるものであった。また,ある後発医薬品に製造上の欠陥で有効成
 分が半分しか入っていなかったということが話題になったことがあるが,こうした後発
 医薬品の失態があると,先発医薬品メーカーのMRは営業の際など,この事実を用いて,
 一般に後発医薬品は製造上の欠陥が多いというように医師や薬剤師に説明している。こ
 うした先発医薬品メーカーによる後発医薬品を中傷する営業は一般に見受けられる。

● 後発医薬品メーカー
  当社と懇意にしている医療機関の担当者から聞いたところ,以下のように先発医薬品
 メーカーのMRによる妨害とみられる事例があった。後発医薬品の品質検査は,通常,同
 じ被験者に対し,先発医薬品と後発医薬品を投与して比較するが,当該先発医薬品メー
 カーのMRは,<1>異なる被験者を比較したり,<2>同じ検査結果が複数出ているものにつ
 いて評価するべきところ,まれに出た検査結果を示して後発医薬品の品質に問題がある
 として,独自のデータを示していた。また,<3>個体差により,まれな検査結果が出た場
 合行うべき追加試験も行わずに当該検査結果のみを医療機関に吹き込んでいた。このよ
 うな嫌がらせは他の先発医薬品メーカーも同様に行っている。

 ウ 外来患者に対する後発医薬品の院外処方
  後発医薬品を普及させるためには,消費者が商品選択できるだけの知識を後発医薬品
 に対して持つことが必要であると考えられる。そこで,後発医薬品についての,認知状
 況,処方された経験,後発医薬品を選択したいか等について,公正取引委員会が委嘱し
 ている消費者モニターに対し,アンケート調査を行った。
 (ア) 後発医薬品の認知状況
   後発医薬品がどのようなものであるかを知っているかについて質問したところ,「な
 んとなく知っていた」,「知らなかった」を合わせると43.5%であった。
 (イ) 後発医薬品の選択状況
  消費者自身が「後発医薬品」か「先発医薬品」かを選ぶことができるとしたら,どち
 らを選ぶかについて質問したところ,「必ず後発医薬品を選ぶ」,「場合によっては後
 発医薬品を選ぶ」という回答が95%を超えており,消費者は自ら選択できる場合は後発
 医薬品の処方を希望していることが分かる(第15図参照)。

   

  後発医薬品を選択したいかとの質問に対して「必ず後発医薬品を選ぶ」と回答した消
 費者モニターに,その理由を質問したところ,「先発医薬品と安全性や効き目が同じな
 のに安価だから」との回答が94.2%を占めており,必ず後発医薬品を選ぶとする消費者
 は,安全性や効き目について疑いを持たず,後発医薬品を選択したいと考えている実態
 が分かる(第16図参照)。

   

  後発医薬品を選択したいかとの質問に対し,「場合によっては後発医薬品を選ぶ」と
 回答した消費者に,その理由を質問したところ,「後発医薬品の安全性や効き目に不安
 はあるが,医師や薬剤師から安全性や効き目について説明を受けて納得できた場合には
 後発医薬品を選ぶ」との回答が78.1%を占めており,後発医薬品に対して若干の不安が
 ある消費者も,医師又は薬剤師から適切な説明を受けて納得できれば後発医薬品を選択
 したいと考えている実態が分かる(第17図参照)。

   

(3) 医療用医薬品の共同購入
  医療用医薬品を安価で調達する方法として,配送コストを低減させ,調達品目を整理
 し,一度に大量発注することが有効であると考えられる。複数の医療機関が広域的に連
 携した共同購入の取組は,アメリカにおいては,全医薬品市場の70%を超えるといわれ
 ているが,我が国のほとんどの医療機関は,個々に調達している実態にあるといわれて
 いる。
 ア 共同購入による調達の有無
  医療機関に対し,アンケート調査において,他の医療機関とグループを組んで共同で
 調達しているかについて質問した。この結果,「共同で調達している」とする医療機関
 は,全体の18.1%であり,「共同で調達していない」とする医療機関が81.9%を占めて
 いた。
  このうち,「共同で調達していない」とする医療機関に対して,その理由を質問した
 ところ,「仕切価格制度により卸売業者の利幅は極めて薄いといわれており,取組を行っ
 ても大幅に安く調達できる見込みがないから」が32.5%と最も多く,その他,「薬価よ
 りも安く調達しているから」,「卸売業者から『近隣では最も安い価格で販売している』
 と言われているから」,「予算内に収まっていればそれでよいから」,「新たな取組を
 行うのは面倒だから」といった回答がみられた。
  次に,共同購入の取組を検討している医療機関に対して,共同購入の取組を進めにく
 い理由についてヒアリングを行ったところ,医薬品の品目数の絞り込みが進まないこと
 がその大きな理由になっているとしている。
  そこで,卸売業者に対するアンケート調査において,販売価格の設定に当たり医療機
 関等からの発注量がどの程度影響するかについて質問した。この結果,「発注数量が多
 くなったとしても,メーカーからもらえるリベートはそれほど増えないため,販売価格
 を安くすることはできない」との回答が65.8%を占めており,これは,前記医療機関が
 共同購入を行おうとしない理由で最も多い「仕切価格制度により卸売業者の利幅は極め
 て薄いといわれており,取組を行っても大幅に安く調達できる見込みがないから」との
 回答と対応するものと考えられる(第18図参照)。

   

 イ 共同購入の成果
  次に,共同購入しているとする医療機関に対し,共同購入によって仕入価格が下落し
 ているかについて質問した。この結果,「下落している」とする医療機関が,73.0%で
 あった。
  下落していると回答した医療機関に対するヒアリングによると,後記のとおり,非常
 に高値で購入していたものがわずかに下落している程度又は下落しているとはいうもの
 のその検証を行っていないため下落しているかどうかが分からない等,共同購入による
 購入価格の大幅な下落の状況は必ずしも認められなかった。

4 競争政策上の評価
 我が国において国民医療費を抑制することが喫緊の課題となっており,このうち薬剤費
を抑制することも重要であるところ,医療費削減に効果的であるとされる後発医薬品の使
用の促進及び医療機関が連携してスケールメリットをいかした価格交渉を行うなどの共同
購入の取組を進めることについて,調査で明らかとなった取引の実態を踏まえた競争政策
上の評価は以下のとおりである。
(1) 後発医薬品の使用
 ア 後発医薬品に対する医療機関の認識
  消費者による適正な商品(医薬品)選択を確保する観点からは,その前提として,ま
 ずは,医療機関において,後発医薬品についての正しい認識に基づいて後発医薬品の導
 入がなされていることが重要である。
  このため,引き続き厚生労働省による安定供給,情報提供,品質確保,一般国民向け
 の啓発活動等の後発医薬品の使用促進のための取組が進められるとともに,後発医薬品
 メーカーは後発医薬品の安定供給,情報提供,品質確保に関して医療機関の懸念を払拭
 し,これらについて理解を得られるような取組を行うことが望ましい。
 イ 先発医薬品メーカーによる後発医薬品についての説明
  先発医薬品メーカーが,不適切な比較方法や誤った試験結果等を用いて,後発医薬品
 の品質が自社の先発医薬品に比して劣る旨の情報を自社のMRを通じて医療機関に流布す
 ること等により,当該後発医薬品メーカーの販売活動を妨害する場合には,不公正な取
 引方法(取引妨害)として独占禁止法上問題となることから,先発医薬品メーカーは,
 以下のような情報提供を行ってはならない。

 ・ 特定の後発医薬品についての製造上の欠陥があるなどといった情報について,後発
  医薬品一般についての情報であるかのような説明を行うこと
 ・ 試験においてまれに出た結果をもって,後発医薬品一般についてその品質が劣るか
  のような説明を行うこと
 ・ 同じ被験者に対し先発医薬品と後発医薬品を投与して比較するべき品質検査のデー
  タについて,異なる被験者を比較したものを用いて説明を行うこと
 ウ 消費者による医薬品の選択
  消費者による適正な商品(医薬品)選択を確保する観点からは,消費者が可能な限り
 先発医薬品か後発医薬品かの医薬品の選択ができることが望ましい。
  また,消費者による適正な商品(医薬品)選択を確保する観点からは,単に処方箋の
 「後発医薬品への変更可」の欄に担当医師がサインするだけではなく,医師又は薬剤師
 が,患者に後発医薬品を処方又は調剤するに当たり,後発医薬品の安全性や有効性につ
 いて先発医薬品と同等であるとの説明を行うことが望ましい。
(2) 医療用医薬品の共同購入
  競争政策の観点からは,医療用医薬品について,共同購入を含めた高いコスト意識に
 基づく購入が行われるようになることが望ましいと考えられるところ,卸売業者は,医
 療機関による共同購入の場合など取扱量の増大をもってメーカー側とリベートやアロー
 アンスの支払基準の見直しを交渉するといった営業努力を行うことが望まれる。
  医療機関においても,例えば,共同購入を行う際に,購入する医薬品の品目数を絞り
 込むことにより,一品目当たりの購入量を増やすとともに,それでも,卸売業者から購
 入したのでは購入価格の値引きが期待できない場合には,メーカーから直接医薬品を購
 入することも検討するなど,より高いコスト意識に基づく購入姿勢を採ることが望まれ
 る。また,医師も,医薬品の選定に際して,このような医薬品の品目数の絞り込みに可
 能な限り協力することが望まれる。
  なお,前記のように医療機関がメーカーと直接交渉を行い取引条件を設定する場合,
 卸売業者が,その取引条件で医療機関に販売することは,通常,独占禁止法違反とはな
 らない。
(参考) 「メーカーの直接の取引先が単なる取次ぎとして機能しており,実質的にみて
    メーカーが販売していると認められる場合には,メーカーが当該取引先に対して
    価格を指示しても,通常,違法とはならない」(「流通・取引慣行に関する独占
    禁止法上の指針」第2部の第一の2の(6))。
(3) メーカーと卸売業者間の取引慣行
  メーカーが卸売業者からの販売価格等の情報に基づいて,例えば,一定の価格を下回っ
 て販売した卸売業者に,リベートやアローアンスについて不利な取扱をするなどの場合
 には,不公正な取引方法(再販売価格の拘束)に該当し,独占禁止法違反となるので,
 このような行為が行われないよう,公正取引委員会は引き続き十分注視していくことと
 する。

5 今後の対応
 今回の調査により,公正取引委員会は,医療用医薬品の取引慣行の現状及び問題点につ
いて明らかにするとともに,これらに関する競争政策上の考え方を示した。
 関係事業者においては,本件調査結果を踏まえ,取引慣行を点検し,競争制限的な慣行
を見直し,取引の透明性を確保するなど,医療用医薬品の取引全般の適正化を図ることが
必要である。医療用医薬品の取引慣行全般について,公正取引委員会は,公正かつ自由な
競争の促進の観点から,今後とも,その動向を注視していくこととする。