第7 大規模小売業者との取引に関する納入業者に対する実態調査・提言

1 調査の趣旨等
(1) 調査の趣旨
  公正取引委員会は,大規模小売業告示が施行されて一定の期間が経過したことを踏ま
 え,施行後の大規模小売業者と納入業者との取引について,同告示で示された行為類型
 を中心に,その実態を把握し,また,同告示上の問題が認められる場合には,関係事業
 者及び関係事業者団体に対し当該問題点を指摘するとともに,所要の改善措置を採るよ
 う求めることを目的として,調査を実施し,平成18年12月,調査結果を公表した。
(2) 調査対象及び調査方法
 ア 書面調査
  大規模小売業者と取引がある納入業者を対象に書面調査を実施した。調査票の発送数
 及び回答状況は以下のとおりである(第2表参照)。

   
        (注) 1 書面調査においては,大規模小売業者を,<1>百貨店,<2>総合スーパー,<3>食品
                スーパー,<4>ホームセンター,<5>専門量販店,<6>コンビニエンスストア,<7>ディ
                スカウントストア,<8>ドラッグストア,<9>通販業者及び<10>その他の大規模小売業
                者(生協,農協等)に区分している。
           2 納入業者は,<1>衣料品・繊維製品,<2>食料品・飲料,<3>酒類,<4>トイレタリー・
                化粧品・医薬品,<5>家庭用電気製品,<6>家庭用品・その他の商品のいずれかを取り
                扱っている事業者の中から無作為に抽出した。
              また,書面調査の設問項目によっては,取引先の大規模小売業者の業態ごとに回答
                を求め,その合計を全体の回答数としているため,全体の有効回答数が書面調査に回
                答した納入業者数を上回るものとなっている。


 イ ヒアリング調査
  書面調査に回答した納入業者のうち,約30社を対象として実施した。
(3) 調査対象行為類型
  <1>不当な経済上の利益の収受等,<2>不当な返品,<3>納入業者の従業員等の不当使用
等,<4>不当な値引き,<5>押し付け販売等,<6>特別注文品の受領拒否,<7>特売商品等の
買いたたき,<8>不当な委託販売取引及び<9>要求拒否の場合の不利益な取扱い

2 調査結果の概要
(1) 全般の状況
 ア 不当な行為又は要請の状況(行為類型別)
  納入業者が,大規模小売業者から不当な行為又は要請を「受けたことがある」とする
 回答(注)の多い行為類型をみると,不当な経済上の利益の提供要請が14.7%,不当な
 返品が14.4%,不当な従業員等の派遣要請が11.8%,不当な値引き要請が11.7%の順と
 なっている(第19図参照)。
        (注) 「特売商品等の買いたたき」とは,低価格納入の要請を受けた際に納入価格について
             「協議の機会は与えられなかった」とする回答,「不当な委託販売取引」とは,「不当
             な委託販売取引をさせられたことがある」とする回答である。また,「要求拒否の場合
             の不利益な取扱い」とは,不当な行為又は要請があったときに「断るようにしている」
             及び「告示を引き合いに出して断るようにしている」とする回答のうち「不当な要請を
             断ったことを理由として不利益な取扱いを受けたことがある」とする回答である。


   

 イ 前回の調査との比較
  不当な経済上の利益の提供要請,不当な返品及び不当な従業員等の派遣要請について
 みると,納入業者が,これらの不当な行為又は要請を「受けたことがある」とする回答
 は,平成17年2月に公表した前回の調査結果(注)から,それぞれ3分の1程度まで減
 少している(第20図参照)。
     (注) 「大規模小売業者と納入業者との取引に関する実態調査報告書」(平成17年2月2日
       公表)。同報告書,平成15年10月から平成16年9月までを対象期間とし,納入業者1,415
        社(回答率23.6%)からの書面回答を分析している。


   

 ウ 不当な行為又は要請の状況(業態別)
  納入業者が,不当な行為又は要請を「受けたことがある」とする回答(注1)の多い
 取引先大規模小売業者の業態をみると,ホームセンター14.3%,ドラッグストア12.8%,
 食品スーパー12.4%,ディスカウントストア10.6%,専門量販店9.7%,総合スーパー9.0
 %の順(注2)となっており,比較的低価格販売を志向する業態の大規模小売業者にお
 いて,納入業者に対する不当な行為又は要請が行われることがより多いという傾向がう
 かがわれる(第21図参照)。
        (注)  1 「特売商品等の買いたたき」とは,低価格納入の要請を受けた際に納入価格につい
                 て「協議の機会は与えられなかった」とする回答,「不当な委託販売取引」とは,
                 「不当な委託販売取引をさせられたことがある」とする回答である。また,「要求
                 拒否の場合の不利益な取扱い」と,不当な行為又は要請があったときに「断るよう
                 にしている」及び「告示を引き合いに出して断るようにしている」とする回答のう
                 ち「不当な要請を断ったことを理由として不利益な取扱いを受けたことがある」と
                 する回答である。
               2 これらの数値は,各行為類型の「不当な行為又は要請を受けたことがある」とす
                 る納入業者の回答数を業態別に合計したものを,各業態の有効回答数で除して求め
                 たもの。


   
   
(注)「その他の大規模小売業者」とは,生協,農協等である。

(2) 行為類型別の調査結果
 ア 不当な経済上の利益の収受等
  (ア) 不当な経済上の利益の提供要請の内容
   平成17年11月以降の取引において不当な経済上の利益提供要請を受けたことがある
  とする納入業者が挙げる不当な要請の内容としては,「店舗の新規・改装オープンに
  際し,事前に協賛金の負担額,算出根拠,目的等について明確にすることなく,協賛
  金の負担を要請してきた」とする回答が44.5%と最も多い(複数回答)。
  (イ) 平成17年11月以降の状況の変化
   大規模小売業告示が施行された平成17年11月以降の取引において何らかの経済上の
  利益の提供要請を受けたことがあるとする納入業者に対し,不当な提供要請の状況に
  係る平成17年11月前後の変化を質問したところ,不当な提供要請は「今はなくなった」,
  「かなり減った」,「やや減った」とする回答の合計が17.5%,「かなり増えた」,
  「やや増えた」とする回答の合計が5.3%となっている。
  (ウ) 負担条件の明確化の状況
   平成17年11月以降の取引において何らかの経済上の利益の提供要請を受けたことが
  あるとする納入業者のうち,「負担の条件は明確になっていない」とする回答は35.2
  %,「負担の条件は明確になっているが,その条件と異なる要請がある」とする回答
  は10.5%となっている。
 イ 不当な返品
 (ア) 不当な返品の内容
   平成17年11月以降の取引において不当な返品を受けたことがあるとする納入業者が
  挙げる不当な返品の内容としては,「店舗又は売場の改装や棚替えに伴い不要となっ
  た商品を返品してきた」とする回答が58.5%と最も多い(複数回答)。
  (イ) 平成17年11月以降の状況の変化
   平成17年11月以降の取引において返品を受けたことがあるとする納入業者に対し,
  不当な返品の状況に係る平成17年11月前後の変化を質問したところ,不当な返品は「今
  はなくなった」,「かなり減った」,「やや減った」とする回答の合計が13.6%,「か
  なり増えた」,「やや増えた」とする回答の合計が1.9%となっている。
  (ウ) 返品条件の明確化の状況
   平成17年11月以降の取引において返品を受けたことがあるとする納入業者のうち,
  「返品の条件は明確になっていない」とする回答は23.8%,「返品の条件は明確になっ
  ているが,その条件と異なる返品がある」とする回答は10.8%となっている。
 ウ 納入業者の従業員等の不当使用等
  (ア) 不当な従業員等の派遣要請の内容
   平成17年11月以降の取引において不当な従業員等の派遣要請を受けたことがあると
 する納入業者が挙げる不当な要請の内容としては,「派遣費用を十分負担することなく
 棚卸・棚替え業務のため派遣要請があった」とする回答が57.6%と最も多い(複数回答)。
  (イ) 平成17年11月以降の状況の変化
   平成17年11月以降の取引において何らかの従業員等の派遣要請を受けたことがある
  とする納入業者に対し,不当な派遣要請の状況に係る平成17年11月前後の変化を質問
  したところ,不当な派遣要請は「今はなくなった」,「かなり減った」,「やや減っ
  た」とする回答の合計が21.5%,「かなり増えた」,「やや増えた」とする回答の合
  計が3.3%となっている。
  (ウ) 従業員等の派遣条件の明確化等の状況
   平成17年11月以降の取引において何らかの従業員等の派遣要請を受けたことがある
  とする納入業者のうち,「派遣の条件は明確になっていない」とする回答は38.1%,
  「派遣の条件は明確になっているが,その条件と異なる派遣要請がある」とする回答
  は6.9%となっている。
 エ 不当な値引き
  (ア) 不当な値引き要請の内容
   平成17年11月以降の取引において不当な値引き要請を受けたことがあるとする納入
  業者が挙げる不当な要請の内容としては,「取引先小売業者がセールで値引き販売す
  るため要請してきた」とする回答が66.7%と最も多い(複数回答)。
  (イ) 平成17年11月以降の状況の変化
   平成17年11月以降の取引において商品納入後の値引き要請を受けたことがあるとす
  る納入業者に対し,不当な値引き要請の状況に係る平成17年11月前後の変化を質問し
  たところ,不当な値引き要請は「今はなくなった」,「かなり減った」,「やや減っ
  た」とする回答の合計が13.5%,「かなり増えた」,「やや増えた」とする回答の合
  計が2.8%となっている。
 オ 押し付け販売等
  (ア) 不当な購入要請の内容
   平成17年11月以降の取引において不当な購入要請を受けたことがあるとする納入業
  者が挙げる不当な購入要請の内容としては,「仕入担当者(仕入担当者の上司等仕入
  取引に影響を及ぼし得る者を含む。)が購入を要請してきた」とする回答が71.6%と
  最も多い(複数回答)。
  (イ) 平成17年11月以降の状況の変化
   平成17年11月以降の取引において何らかの購入要請を受けたことがあるとする納入
  業者に対し,不当な購入要請の状況に係る平成17年11月前後の変化を質問したところ,
  不当な購入要請は「今はなくなった」,「かなり減った」,「やや減った」とする回答
  の合計が24.2%,「かなり増えた」,「やや増えた」とする回答の合計が1.5%となって
  いる。

3 公正取引委員会の対応
(1) 今回の調査の結果,不当な経済上の利益の収受等,不当な返品,納入業者の従業員等
 の不当使用等の行為類型については,前回調査時と比べ,一定程度の改善がみられてお
 り,公正取引委員会による取組が納入取引の公正化に一定の効果をもたらしたことがう
 かがえる。
(2) 一方,大規模小売業告示施行前と状況は変わらないと回答する者も相当程度みられ,
 また,業態別にみると,ホームセンター,ドラッグストア,食品スーパー,ディスカウ
 ントストア,専門量販店,総合スーパーなどの業態において,不当な行為が目立ってい
 る。そこで,公正取引委員会では,今回の調査の過程において,同告示上問題となるお
 それのある行為を行っているとの指摘があった大規模小売業者16社に対しては,具体的
 な行為を指摘し,納入業者との取引において優越的地位の濫用がないか点検を求めると
 ともに,問題となるおそれのある行為について是正を要請した。
  さらに,これらの指摘があった大規模小売業者以外にも,問題となるおそれのある行
 為を行っている大規模小売業者があると考えられることから,今回の調査結果を踏まえ,
 優越的地位の濫用が行われることのないよう,関係事業者団体10団体に対して,改めて
 大規模小売業告示の内容を傘下会員に十分周知徹底するとともに,傘下会員の独占禁止
 法遵守体制について,制度面及び運用面において一層の改善が図られるよう,傘下会員
 への指導を要請した。
(3) 公正取引委員会としては,前記のとおり業界における自主的な取組を求めるだけでは
 なく,今後とも,問題が顕著にみられた業態の大規模小売業者及びそれらの行為類型を
 重点に,大規模小売業者と納入業者との取引実態の把握や違反行為の未然防止に努める
 とともに,優越的地位の濫用等独占禁止法に違反する事実が認められた場合には厳正に
 対処するなど,中小事業者に不当に不利益を与える優越的地位の濫用等の不公正な取引
 に対して厳正・迅速に対処していくこととしている。

第8 電子商店街等の消費者向けeコマースにおける取引実態に関する調査・提言

1 調査の趣旨等

(1) 調査の趣旨
  近年,インターネットを介して消費者が事業者から財やサービスを購入する取引であ
 る消費者向けeコマースの規模が年々拡大している。
  こうした中,消費者向けeコマースの一形態である電子商店街と呼ばれる業態におい
 て,それを運営する事業者(以下「運営事業者」という。)による,電子商店街に出店
 する事業者(以下「出店事業者」という。)に対する優越的地位の濫用といった独占禁
 止法上問題となる行為が行われているのではないかとの懸念が指摘されている。また,
 消費者向けeコマースへの新規参入や事業展開が円滑に行われているかどうか,仕入先
 事業者や実店舗を持つ販売事業者等の既存事業者によって消費者向けeコマースへの新
 規参入や事業展開が妨害されているのではないかといった懸念も指摘されている。
  そこで,こうした運営事業者と出店事業者との間の取引及び消費者向けeコマースへ
 の新規参入や事業展開を行おうとする事業者と既存事業者との関係の実態を把握し,そ
 れを踏まえて競争政策上及び独占禁止法上の考え方を明らかにすることを目的として調
 査を実施し,平成18年12月,調査結果を公表した。
(2) 調査の対象・方法
  本調査は,運営事業者,出店事業者及び消費者(消費者モニター)に対して,アンケー
 ト及びヒアリングによる調査を行った。

2 消費者向けeコマース業界の構造
(1) 取引形態組
  消費者向けeコマースは,インターネット上で仮想店舗を開設する事業者,インター
 ネット上で仮想店舗を集めた仮想商店街を運営する運営事業者及び消費者によって取引
 が行われる。
  消費者は,パソコンや携帯電話等から出店事業者又は自前で仮想店舗を開設している
 事業者(以下「自社サイト事業者」という。)に商品を注文し,当該出店事業者又は当
 該自社サイト事業者は,注文を受けた商品を当該消費者に発送する。
  消費者向けeコマースにおいて取り扱われている商品については,消費者向けアンケー
 ト調査において,どのような商品を購入したことがあるか尋ねたところ,書籍,食品・
 酒類,服飾品,雑貨,CD・DVD・楽器等を購入したとの回答が多かった。
(2) 消費者向けeコマースの市場規模
  ブロードバンドの普及に加えて,情報セキュリティ技術の進展,ショッピングサイト
 の利便性の向上等に伴い,消費者向けeコマースの市場規模は年々大きく成長しており,
 り,平成17年度の市場規模は1兆3210億円(対前年度比39%増)に達している(第22
 図参照)。
  消費者向けeコマースのうち,電子商店街についても,その市場規模は年々拡大して
 おり,平成17年度は5500億円に達している。また,電子商店街の市場規模が消費者向け
 eコマースのそれに占める割合(シェア)も年々高くなっており,平成17年度では41.6
 %となっている(第23図参照)。

   

   

(3) 消費者向けeコマースの意義
  消費者向けeコマースについて,出店事業者にとっての意義と消費者にとっての意義
 をそれぞれまとめると,出店事業者にとっては,販売チャネルの拡大,売上高の増加,
 商圏や顧客の開拓といった利点があり,また,比較的低コストで瞬時に情報の送受信が可
 能であるインターネットを有力なツールとみなしている中小規模の出店事業者が多い。
 他方,消費者にとっては,品揃えの多さ,価格の安さといった魅力がある。
(4) 関連事業者
 ア 運営事業者の状況
  (ア) 全般的状況
   運営事業者については,ヤフー,グーグル,インフォシーク等のポータルサイトで
  検索可能なものだけで国内に少なくとも200以上存在し, その取扱商品については,
  服飾品,雑貨,食料等のあらゆる商品を取り扱う百貨店的な事業者もあれば,特定の
  商品に特化した専門店街的な事業者もあり,さらに,地域の特産品のみを取り扱うロー
  カルな事業者も存在する。
 (イ) 資本金及び従業員数
   運営事業者の資本金及び従業員数をみると,資本金5億円未満,従業員数500人未満
  の事業者が全体の8割程度を占めており,比較的小規模な事業者が多い。
  (ウ) 上位3社への取引集中の状況
   運営事業者における取引集中の状況について,取引規模(=電子商店街内で流通す
  る商品等の総額)からみると,楽天(電子商店街の名称:楽天市場),ヤフー(同:
  Yahoo!ショッピング),DeNA(同:クラブビッダーズ)の3社が上位の運営事業者で
  あり(以下「上位3社」という。),この3社の取引規模だけで電子商店街全体の市
  場規模の約9割を占めている。
   なお,上位3社の中では,特に楽天の取引規模が非常に大きく,平成17年度で3600
  億円余りに達しており,2位のヤフーの3倍近い規模となっている(第24図参照)。
   また,上位3社について売上高(出店事業者からの出店料等)及び出店事業者数組
  の推移をみると,取引規模と同様に,楽天,ヤフー,DeNAの順に規模が大きく,特に
  楽天の規模が大きい。

   
   
    (出所:各社決算資料等を基に公正取引委員会にて作成)

 イ 出店事業者の状況
  出店事業者については,上位3社の電子商店街への出店者だけでも2万店舗以上存在
 し,その取扱商品については,特定の分野の商品を取り扱う専門店が多い。
  出店事業者の資本金,従業員数及び売上高についてみると,資本金5億円未満,従業
 員数100人未満,売上高5億円未満の事業者が圧倒的に多く,中小規模の事業者が大部分
 を占めている。
(5) 運営事業者と出店事業者の取引上の立場の優劣
  売上高,資本金及び従業員数について上位3社と出店事業者を比較すると,上位3社
 はいずれも規模が比較的大きく,他方,出店事業者については中小規模の事業者が大部
 分を占めている。また,上位3社の電子商店街への出店事業者は,売上げについて,電
 子商店街への依存度が高くなっている。このような状況において,上位3社の中には,
 退店後の出店事業者の自由な営業活動を制限している事業者があり,出店事業者は取引
 先の運営事業者を変更することが困難な場合がある。このように,上位3社と出店事業
 者の事業規模には格差があり,また,上位3社に取引が集中している状況にあるところ,
 出店事業者は一般的に電子商店街における取引への依存度が高く,取引先である運営事
 業者を変更することが困難な場合があり,上位3社の中には,出店事業者に対する取引
 上の立場において優位に立つ場合がある事業者がある。

3 消費者向けeコマースの取引慣行及び独占禁止法上の評価
 消費者向けeコマースのうち,電子商店街については,特に上位3社を中心として,豊富
な品揃えで商品を提供することにより,消費者にとって選択の幅が広がることにつながっ
ている。また,サイト内に便利な検索機能を備えたり,出店事業者同士の競争により同一
の商品をより低い価格で提供することが可能となるなど,消費者の利便性の向上及び消費
者向けeコマース市場の活性化に寄与している。
 運営事業者と出店事業者との間の取引については,両者の間で締結される出店契約は書
面によって行われ,出店料についても,運営事業者各社が詳細な料金表を公表しているな
ど,全般的には透明性が確保されているが,両者の間の取引の実態及びそれを踏まえた独
占禁止法上の考え方を示すと,以下のとおりである。
(1) 消費者向けeコマースにおける独占禁止法上の留意点
  運営事業者と出店事業者との関係,新規参入事業者である出店事業者と既存事業者と
 の関係については第25図のとおりであるところ,消費者向けeコマースは比較的新しい
 事業分野であり,業界特有の長年の慣行といったようなものは存在しないものの,一部
 で以下に述べるような取引慣行がみられた。

   

(2) ダイレクトメール送付等の営業活動の制限
 ア 実態
   上位3社の中には,出店事業者に対して外部のサイトへのハイパーリンクを制限し
  た上で,出店事業者から商品を購入した消費者に関する顧客情報(メールアドレス,
  氏名,住所等の属性情報,購買履歴等)について,当該出店事業者が,出店中,ダイ
  レクトメールの送付等の営業活動に利用することを制限し,退店後においては,全く利
  用できないようにしている事業者がある。出店事業者に対するヒアリングによると,
  退店後に顧客情報が全く使えなくなることが,出店事業者にとって取引先の運営事業
  者を変更する上での大きな障害になっており,特に電子商店街における取引への依存
  度の高い出店事業者は,運営事業者を変更することが困難な状況となっている。
  出店事業者に対する顧客情報の利用制限を行っている運営事業者に対するヒアリング
  調査によると,このような制限は,電子商店街における取引に係る顧客情報管理の観
  点から課されているとのことである。
   なお,個人情報の保護に関する法律の解釈によれば,運営事業者から出店事業者に
  提供された顧客情報について,出店中に運営事業者が定めた利用目的の範囲内であれ
  ば,出店事業者は退店後においても出店中と同様に利用することができることとされ
  ている。
 イ 独占禁止法上の評価
   電子商店街における取引については,上位3社に取引が集中する状況にあるところ,
  こうした運営事業者が出店事業者に対して,退店後においても顧客情報の利用を禁止
  することは,それが個人情報保護のために必要な制限とはいえないにもかかわらず,
  出店事業者が自由に他の電子商店街に転出することを制限し,消費者向けeコマース
  市場における電子商店街間の競争に悪影響を与えるおそれがある場合には,不公正な
  取引方法(拘束条件付取引)として独占禁止法上問題となるものである。
(3) 手数料率の一方的変更
 ア 実態
   上位3社の中には,電子商店街退店後の出店事業者の自由な営業活動を制限してい
  る事業者があり,出店事業者は取引先の運営事業者を変更することが困難な場合があ
  ることなどから,上位3社の中には,出店事業者との取引上の立場において優位に立
  つ場合がある事業者があると考えられる。こうした中,上位3社の中には,出店規約
  において,出店事業者が支払う出店料について,手数料算定に用いられる月当たりの
  売上高に乗じられる手数料率を運営事業者が一方的に変更できることとしている事業
  者がある。
 イ 独占禁止法上の評価
   出店事業者に対する取引上の立場が優越している運営事業者によって,手数料率の
  引上げに関して出店事業者にとって不当に不利益な手数料率の設定がなされる場合に
  は,不公正な取引方法(優越的地位の濫用)として独占禁止法上の問題となるおそれ
  がある。
(4) 過大なポイント原資の賦課
 ア 実態
   運営事業者の中には,消費者が電子商店街において購入した商品の金額の一定割合
  を電子商店街における次回以降の購入の代金の全部又は一部に充当できるポイントと
  して消費者に付与する制度を導入し,出店事業者の当該制度への参加を義務付けてい
  る事業者がある。ヒアリング調査の結果によると,ポイント制度の原資は基本的に出
  店事業者が負担するものとされているところ,消費者が実際にポイントを使用したか
  否かにかかわらず,当該一定割合の金額分をポイントの原資として出店事業者の負担
  としている運営事業者もみられた。
 イ 独占禁止法上の評価
   運営事業者が,出店事業者のポイント制度への参加を義務付け,消費者が実際にポ
  イントを使用したか否かにかかわらず当該一定割合の金額分をポイントの原資として
  出店事業者の負担とすることは,実際には使用されず失効したポイント分の原資まで
  出店事業者に負担を課すこととなる。出店事業者に対する取引上の立場が優越してい
  る運営事業者が,このような電子商店街におけるポイント制度の運用により,出店事
  業者に不当に不利益を課す場合には,不公正な取引方法(優越的地位の濫用)として
  独占禁止法上の問題につながるおそれがある。
(5) 運営事業者によるカード決済代行業務の利用義務付け
 ア 実態
   電子商店街における取引に係る顧客情報管理の観点から,消費者が当該電子商店街
  で商品を購入してクレジットカードでの決済を行う際に,出店事業者が直接クレジッ
  トカード会社との間で決済を行うことを原則的には禁止し,運営事業者自らが出店事
  業者から手数料を徴収した上で当該クレジットカード会社との決済を行う方法を義務
  付ける場合において,ヒアリング調査によると,上位3社の中には,出店事業者によっ
  ては,出店事業者が直接クレジットカード会社と決済を行う場合の手数料より高率の
  手数料を出店事業者から徴収している運営事業者があった。
 イ 独占禁止法上の評価
   消費者が,電子商店街の出店事業者から商品を購入してクレジットカードでの決済
  を行う場合,通常は当該出店事業者が直接クレジットカード会社と決済を行うが,大
  手3社の中には,電子商店街における取引に係る顧客情報管理の観点から,当該出店
  事業者が直接クレジットカード会社との間で決済を行うのではなく,自らが当該出店
  事業者から手数料を徴収した上で当該クレジットカード会社との決済を行う方法を義
  務付けている運営事業者がいる。競争政策上の観点からは,クレジットカード決済に
  ついて,出店事業者が直接クレジットカード会社と決済を行うか,又は手数料を支払っ
  た上で運営事業者にクレジットカード会社との決済を代行してもらうかを自由に選択
  できることが望ましいところ,出店事業者に対する取引上の立場が優越している運営
  事業者が,個人情報保護のために必要な制限とはいえないにもかかわらず,出店事業
  者に対して後者の決済方法のみを義務付け,その結果,出店事業者がクレジットカード
  会社との間で当該決済を行う際の手数料率を上回る手数料率を設定することにより,
  出店事業者に不当に不利益を課す場合には,不公正な取引方法(優越的地位の濫用)
  として独占禁止法上の問題につながるおそれがある。
(6) 仕入先事業者による定価販売の遵守,値引販売の禁止の指示等
 ア 実態
   出店者向けアンケート調査の回答の中には,出店事業者とその仕入先事業者である
  メーカーや卸売事業者との間での取引において,仕入先事業者が出店事業者に対して,
  定価販売の遵守を求める,値引販売を禁止する,販売価格や最低販売価格を指示する
  といった事例がみられた。また,仕入先事業者が出店事業者に対して,一部の商品につ
  いてネット販売自体を禁止する,出店事業者に対する販売価格を高く設定するといっ
  た事例がみられた。
 イ 独占禁止法上の評価
   仕入先事業者が出店事業者に対して,定価販売の遵守を求めたり,値引販売を禁止
  したり,販売価格や最低販売価格の指示をすることは,不公正な取引方法(再販売価
  格の拘束)として,独占禁止法上問題となるものである。また,仕入先事業者が出店
  事業者に対して,出店事業者が一部の商品について安売りを行うことを理由として,
  当該商品についてネット販売を禁止したり,出店事業者による購入が困難となる水準
  まで出店事業者に対する販売価格を引き上げたりすることは,不公正な取引方法(拘
  束条件付取引,差別対価等)として,独占禁止法上問題となるものである。

4 公正取引委員会の今後の対応
 公正取引委員会は,消費者向けeコマースにおける取引慣行全般について,公正かつ自
由な競争の促進の観点から,今後とも引き続きその動向を注視していくこととする。