第9章 下請法に関する業務

第1 概説

 下請法は,経済的に優越した地位にある親事業者の下請代金支払遅延等の行為を迅速か
つ効果的に規制することにより,下請取引の公正化を図るとともに下請事業者の利益を保
護する目的で,独占禁止法の不公正な取引方法の規制の補完法として昭和31年に制定され
た。
 従来,下請法は,製造・修理における下請取引を規制対象としてきたが,平成15年の改
正により,役務委託等に係る下請取引が規制対象として追加され,下請法改正法は,平成
16年4月1日から施行された。
 下請法においては,親事業者が下請事業者に対し物品の製造・修理,プログラム等の情
報成果物の作成及び役務の提供を委託する場合,親事業者は下請事業者への発注書面の交
付(第3条)並びに下請取引に関する書類の作成及びその2年間の保存(第5条)を義務
付けられているほか,親事業者の禁止事項として,<1>受領拒否(第4条第1項第1号),
<2>下請代金の支払遅延(同項第2号),<3>下請代金の減額(同項第3号),<4>返品(同項第
4号),<5>買いたたき(同項第5号),<6>物の購入強制・役務の利用強制(同項第6号),
<7>報復措置(同項第7号),<8>有償支給原材料等の対価の早期決済(同条第2項第1号),
<9>割引困難な手形の交付(同項第2号),<10>不当な経済上の利益の提供要請(同項第3
号),<11>不当な給付内容の変更・不当なやり直し(同項第4号)が定められており,これ
らの行為が行われた場合には,公正取引委員会は,その親事業者に対し,当該行為を取り
やめ,下請事業者が被った不利益の原状回復措置等を講じるよう勧告する旨を定めている
(第7条)。

第2 違反事件の処理

 下請取引の性格上,下請事業者からの下請法違反被疑事実についての申告が期待できな
いため,公正取引委員会は,中小企業庁の協力を得て,親事業者及びこれらと取引してい
る下請事業者を対象として定期的に書面調査を実施するほか,特定の業種・事業者につい
て特別調査を実施することにより,違反行為の発見に努めている(第1表参照)。
 これらの調査の結果,違反行為が認められた親事業者に対しては,その行為を取りやめ
させるほか,下請事業者が被った不利益の原状回復措置等を講じさせている(第2表,附
属資料6−1表及び6−2表参照)。

1 書面調査
 平成18年度においては,製造委託及び修理委託(以下「製造委託等」という。)を行っ
ていると見込まれる事業者のほか,下請法改正法の施行により平成16年4月から新たに同
法の規制対象となった情報成果物作成委託及び役務提供委託(以下「役務委託等」という。)
を行っていると見込まれる事業者も含め,資本金1千万円超の親事業者29,502社及びその
下請事業者162,521名を対象に書面調査を実施した。このうち,役務委託等に係る調査対象
は,親事業者11,901社及びその下請事業者43,547名であった(第1表参照)。

   

2 違反被疑事件の新規着手件数及び処理件数
(!) 新規着手件数
  平成18年度において,新規に着手した下請法違反被疑事件は3,084件である。このうち,
  書面調査により職権探知したものは2,983件であり,下請事業者からの申告によるものは
 100件である(第2表参照)。
(2) 処理件数
  平成18年度において,公正取引委員会が下請法違反被疑事件として処理した件数は,
 3,059件であり,このうち,2,938件について違反行為又は違反のおそれのある行為(以下,
 総称して「違反行為等」という。)が認められたため,11件について同法第7条の規定に
 基づき勧告を行い,いずれも公表し,2,927件について警告の措置を採るとともに,これ
 ら親事業者に対しては,違反行為等の改善及び再発防止のために,社内研修,監査等に
 より社内体制を整備するよう指導した(第2表参照)。

   

3 違反行為類型別件数
 平成18年度において勧告又は警告の措置が採られた違反行為等を行為類型別にみると,
手続規定違反(第3条又は第5条違反)が3,090件(違反行為類型別件数の延べ合計の71.8
%)である。このうち,発注時に下請代金の額,支払方法等を記載した書面を交付してい
ない,又は交付していても記載すべき事項が不備のもの(第3条違反)が2,603件,下請取
引に関する書類を一定期間保存していないもの(第5条違反)が487件である。また,実体
規定違反(第4条違反)は,1,215件(違反行為等類型別件数の延べ合計の28.2)となってお
り,このうち,下請代金の支払遅延(第4条第1項第2号違反)が701件(57.7%),手形
期間が 120日(繊維業の場合は90日)を超える長期手形等の割引困難なおそれのある手形
の交付(同条第2項第2号違反)が170件(14.0%),下請代金の減額(同条第1項第3号
違反)が134件(11.0%)となっている(第3表,附属資料6−3表参照)。
 なお,役務委託等における違反行為等の特徴として,支払遅延の割合が多くなっている。
支払遅延の内容をみると,支払期日が下請法に定める期間,すなわち,受領日から60日を
超えて設定されているような違反行為等が多くみられた。

      
    (注) 1事件について,2以上の違反行為又は違反するおそれのある行為が行われている場合があ
          あるので,違反行為の類型別件数の合計と第2表の「措置」件数とは一致しない。
       なお,( )内は実体規定違反全体に占める比率であり,小数点第2位以下を四捨五入し
      ているため,必ずしも合計は100とはならない。


 平成18年度中に,下請代金の支払遅延事件においては,親事業者により総額2858万円の
遅延利息が下請事業者に支払われており(第4表参照),減額事件においては,親事業者
により総額5億5279万円が下請事業者に返還されている(第5表参照)。

   
 
(注)1万円未満切捨て

   

    (注)1万円未満切捨て

4 勧告又は警告を行った違反事例

 平成18年度に行った勧告及び主な警告の事例は次のとおりである。
(1) 勧告を行った事例

   

   

   

   

(2) 警告を行った主な事例

   

   

5 下請取引の状況
 平成18年度に定期調査を行った親事業者のうち,下請法の対象となる取引(以下「下請
取引」という。)を行っている事業者の割合は57.5%(役務委託等サービス業者等に限っ
た場合の比率は46.9%)となっている(第6表参照)。また,業種別の下請取引の比率を
みるとガス業,自動車小売業及び輸送用機械器具製造業が高く,その他の生活関連サービ
ス業,廃棄物処理業及び木材・木製品製造業が低かった(第7表参照)。

   

   

第3 下請法の普及・啓発等

1 下請法違反行為の未然防止及び再発防止の指導

 下請法の運用に当たっては,違反行為を迅速かつ効果的に排除することはもとより,違
反行為を未然に防止することも重要である。このような観点から,公正取引委員会は,以
下のとおり各種の施策を実施し,違反行為の未然防止を図っている。
(1) 下請取引適正化推進月間
  毎年11月を「下請取引適正化推進月間」と定め,中小企業庁と共同して,新聞,雑誌
 等で広報活動を行うほか,全国各地において下請法に関する講習会を開催するなど下請
 法の普及・啓発に努めている。
  平成18年度は,親事業者の下請取引担当者を対象に47都道府県53会場(うち公正取引
 委員会主催分25都道府県27会場)において講習会を開催した。
(2) コンテンツ業界向け講習会
  コンテンツ制作に係る下請取引(情報成果物作成委託)は,平成15年の下請法改正に
 より新たに規制対象に追加された。公正取引委員会は,同分野における更なる下請法の
 普及・啓発を推進する観点から,「コンテンツ取引に係る下請法講習会」と題し,東京,
 名古屋及び大阪の3会場において下請法の情報成果物作成委託の説明を中心とした講習
 会を開催した。
(3) 下請法遵守の要請
 ア 年末要請
   下請事業者をめぐる厳しい情勢の下で,下請取引の適正化を強力に推進することが
  緊要となっており,特に,金融繁忙期である年末においては,下請事業者の資金繰り
  等が厳しさを増すことが懸念されることから,下請代金の支払遅延,下請代金の減額,
  買いたたき,割引困難な手形(長期手形)の交付等の行為が行われることのないよう,
  平成18年11月21日,親事業者約20,400社(製造関係〔資本金1億円以上〕約8,600社,
  役務関係〔資本金5000万円以上〕約11,800社)及び関係事業者団体約500団体に対し,
  下請法の遵守の徹底等について,公正取引委員会委員長及び経済産業大臣連名の文書
  等をもって要請した。
 イ 「成長力底上げ戦略」に係る要請
  平成19年2月,政府の成長戦略の一環として「成長力底上げ戦略」(基本構想)が取
 りまとめられた。同戦略においては,生産性向上の成果を中小企業にも波及させ,中小
 企業全体の底上げを図るために,下請取引の一層の適正化を推進することとされた。
  公正取引委員会は,同戦略を踏まえ,下請代金の支払遅延,下請代金の減額,買いた
 たたき等の行為が行われることのないよう,平成19年3月23日,親事業者約20,000社(製
 造関係〔資本金1億円以上〕約8,200社,役務関係〔資本金5000万円以上〕約11,800社)
 及び関係事業者団体約560団体に対し,下請法の遵守の徹底等について,公正取引委員会
 委員長及び経済産業大臣連名の文書等をもって要請した。
(4) 広報,相談・指導業務
  事業者等からの下請法に関する相談に応じるとともに,下請法の一層の普及・啓発を
 図るため,事業者団体,商工会議所,地方自治体等が開催する研修会に講師を派遣する
 とともに資料の提供等を行った。

2 都道府県との相互協力体制
 下請法をきめ細かく,かつ,的確に運用して全国各地の下請事業者の利益保護を図るた
めには,地域経済に密着した行政を行っている都道府県との協力体制を採ることが必要で
あることから,昭和60年4月から下請取引の適正化に関し,都道府県担当者との連絡会議
を開催するとともに,必要に応じた情報交換に努めている。
 平成18年度においては,ブロック別都道府県下請取引担当官会議を開催し,情報交換等
に努めた。

3 下請取引改善協力委員
 公正取引委員会では,下請法の的確な運用に資するため,昭和40年度以降,当委員会の
業務に協力する中小企業の経営者等,各地域の下請取引の実情に明るい民間有識者等に下
請取引改善協力委員を委嘱している。平成18年度における下請取引改善協力委員は153名
である。
 平成18年度においては,全国各ブロックにおいて下請取引改善協力委員会議をそれぞれ
2回開催し,最近の下請取引の状況等について意見を交換した。