第2章 違反被疑事件の審査及び処理

第1 改正独占禁止法の円滑な運用

 独占禁止法違反行為に対する措置を強化するため,(1)課徴金制度の見直し,(2)課徴金減免制度の導入,(3)犯則調査権限の導入,(4)審判手続の見直し等を内容とする独占禁止法改正法が平成17年4月に成立し,平成18年1月から施行されている。
 改正独占禁止法の運用は,次のとおり,円滑に行われており,期待された効果も着実に現われつつある。

(1)課徴金

ア 課徴金算定率の引上げ等
 独占禁止法改正法により,課徴金制度については,(1)算定率が引き上げられるとともに,(2)違反を繰り返した事業者に対する算定率の割増及び(3)違反行為から早期に離脱した事業者に対する算定率の軽減の制度が導入された(注)。
 平成19年度においては,15事件について,独占禁止法改正法による引上げ後の算定率による課徴金の納付が命じられた。
 また,違反を繰り返した事業者に対する割増算定率が適用された事業者は,6事件における18名,早期離脱による軽減算定率が適用された事業者は,3事件における12名となっている。
(注)

1 大企業で製造業の事業者の場合,6%から10%に引上げ

2 調査開始日からさかのぼり,10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある場合,5割加算した率を適用

3 違反行為の期間が2年未満で,調査開始日の1か月前までに違反行為をやめていた場合,2割軽減した率を適用

イ 課徴金減免制度
 平成19年度において,課徴金減免制度に基づき,事業者により自らの違反行為に係る事実の報告等が行われた件数は,74件であった(独占禁止法改正法施行(平成18年1月)以降の件数は,179件)。課徴金減免制度に基づく情報を活用して法的措置が採られた事件として,我が国に所在するマリンホース需要者発注の同製品に係る入札談合事件等がある。
 また,平成19年度においては,16事件・延べ37名の課徴金減免申請事業者について,当該事業者からの申出により,これらの事業者の名称,免除の事実又は減額の率等を公表した(注)。
(注) 公正取引委員会は,課徴金減免制度の適用を受けた事業者から公表の申出がある場合には,課徴金納付命令を行った際などに,公正取引委員会のウェブサイト( http://www.jftc.go.jp/dk/genmen/kouhyou.html )に,当該事業者の名称,所在地,代表者名及び免除の事実又は減額の率等を公表することとしている。

(2)犯則調査

 平成19年度においては,独立行政法人緑資源機構発注の林道調査測量設計業務に係る入札談合事件について犯則調査を実施した結果,独占禁止法に違反する犯罪があったと思料して,検事総長に告発を行った。

(3)排除措置命令及び事前手続

 独占禁止法改正法により,勧告制度が廃止され,意見申述等の機会の付与等の事前手続を経た上で,排除措置命令を行うこととなった。また,課徴金納付命令を排除措置命令と同時に行うことができるようになった。
 なお,排除措置命令及び課徴金納付命令の事前手続において,命令の名あて人となるべき者等から申出があった場合には,公正取引委員会の認定した事実又は課徴金の計算の基礎及びその課徴金に係る違反行為を基礎付けるために必要な証拠について説明している。平成19年度中に法的措置を採った事件においては,申出のあった延べ145事業者に対して説明を実施した。

第2 違反被疑事件の審査及び処理の状況

 独占禁止法は,事業者が私的独占又は不当な取引制限をすること,不公正な取引方法を用いること等を禁止しており(第3条,第19条ほか),公正取引委員会は,一般から提供された情報,自ら探知した事実等を検討し,これらの禁止規定に違反する事実があると思料するときは,独占禁止法違反被疑事件として必要な審査を行っている。
 審査事件のうち必要なものについては独占禁止法第47条の規定に基づく権限を行使して審査を行い,違反する事実があると認められたときは,排除措置命令の名あて人となるべき者に対し,予定される排除措置命令の内容等を通知し(第49条第5項),意見を述べ,及び証拠を提出する機会の付与を行い(第49条第3項),その内容を踏まえて,排除措置命令を行っている。
 また,排除措置命令等の法的措置(注1)を採るに足る証拠が得られなかった場合であっても,違反の疑いがあるときは,関係事業者等に対して警告を行い,是正措置を採るよう指導している(注2)。
 さらに,違反行為の存在を疑うに足る証拠は得られなかったが,違反につながるおそれのある行為がみられた場合には,未然防止を図る観点から注意を行っている。
 なお,法的措置及び警告については,当該事実を公表している。また,注意及び打切りについては,競争政策上公表することが望ましいと考えられる事案については,関係事業者から公表する旨の了解を得た場合又は違反被疑の対象となった事業者が公表を望む場合は,その旨公表している。
 平成19年度における審査件数(小売業における不当廉売事案で迅速処理したもの(第1−2表)を除く。)は,前年度からの繰越しとなっていたもの28件,年度内に新規に着手したもの132件,合計160件であり,このうち本年度内に処理した件数は142件である。
 142件の内訳は,排除措置命令等の法的措置24件,警告10件,注意88件及び違反事実が認められなかったため審査を打ち切ったもの20件となっている(第1−1表参照)。
(注) 

1 排除措置命令等の法的措置とは,旧法に基づく「勧告」,「排除措置命令」,及び「勧告又は排除措置命令を行っていない課徴金納付命令」である。

2 独占禁止法改正法施行後においては,警告を行う場合にも,命令の際の事前手続に準じた手続を経ることを明らかにしているところ,独占禁止法改正法施行前に警告を行った事件についても,名あて人に対し事前に警告内容の説明等を行っていた。

第1−1表 最近の審査事件処理状況(小売業における不当廉売事案で迅速処理したものを除く。)
第1−1表 最近の審査事件処理状況(小売業における不当廉売事案で迅速処理したものを除く。)
(注) 

1 ( )内の数字は,勧告又は課徴金納付命令に係る審判開始決定を行った事件数である。

2 勧告又は排除措置命令を行っていない課徴金納付命令事件数である。

3 事件の関係人の一部のみを対象として納付を命じる場合(一部の関係人について審判が行われたため関係人によって課徴金の納付を命じた時期が異なった場合等)には,最初の課徴金納付命令が行われた年度に事件数を計上している。

4 課徴金の納付を命ずる審決に係る事件数である。

5 ( )内の数字は,課徴金納付命令に係る審判開始決定を行った関係人数である。

6 課徴金の納付を命じる審決に係る金額を含み,審判手続を開始した課徴金納付命令に係る金額は含まない。


第1−2表 小売業における不当廉売事案の迅速処理の状況
第1−2表 小売業における不当廉売事案の迅速処理の状況

第1図 法的措置件数と対象事業者等の数の推移
第1図 法的措置件数と対象事業者等の数の推移

 平成19年度において,法的措置,警告,注意又は打切りのいずれかの処理を行ったものを行為類型別にみると,私的独占4件,価格カルテル20件,入札談合16件,不公正な取引方法82件,その他20件となっている(第2表参照)。法的措置を行った事件は24件であり,この内訳は,価格カルテル6件,入札談合14件,不公正な取引方法3件,事業者団体による構成事業者の機能活動の制限1件となっている(第3表,第1図及び第4表参照)。
 平成19年度において,独占禁止法の規定に違反する事実があると思料され,公正取引委員会に報告(申告)された件数は7,345件となっている(第2図参照)。この報告が書面で具体的な事実を摘示して行われた場合には,措置結果を通知することとされており(第45条第3項),平成19年度においては,4,186件の通知を行った。
 また,公正取引委員会は,独占禁止法違反被疑行為の端緒情報をより広く収集するため,平成14年4月からインターネットを利用した申告が可能となる電子申告システムを公正取引委員会のホームページ上に設置しているところ,平成19年度においては,同システムを利用した申告が269件あった。
 なお,平成19年度において,独占禁止法改正法により導入された課徴金減免制度に基づき,事業者により自らの違反行為に係る事実の報告等が行われた件数は,74件であった。

第2図 申告件数の推移
第2図 申告件数の推移

第2表 平成19年度審査事件(行為類型別)一覧表
第2表 平成19年度審査事件(行為類型別)一覧表
(注) 

1 価格カルテルとその他のカルテルが関係している事件は,価格カルテルに分類している。また,複数の行為類型に係る事件は,主たる行為に即して分類している。

2 「その他のカルテル」とは,数量,販路,顧客移動禁止,設備制限等のカルテルである。

3 第8条第1項第5号に係る事件は,不公正な取引方法に分類している。

4 「その他」とは,事業者団体による構成事業者の機能活動の制限等である。


第3表 最近5年間の排除措置命令等の法的措置(行為類型別)一覧表
第3表 最近5年間の排除措置命令等の法的措置(行為類型別)一覧表
(注) 

1 価格カルテルとその他のカルテルが関係している事件は,価格カルテルに分類している。また,複数の行為類型に係る事件は,主たる行為に即して分類している。

2 「その他のカルテル」とは,数量,販路,顧客移動禁止,設備制限等のカルテルである。

3 第8条第1項第5号に係る事件は,不公正な取引方法に分類している。

4 「その他」とは,事業者団体による構成事業者の機能活動の制限等である。


第4表 平成19年度法的措置一覧表
第4表 平成19年度法的措置一覧表
第4表 平成19年度法的措置一覧表
第4表 平成19年度法的措置一覧表