第2章 違反被疑事件の審査及び処理

第1 違反被疑事件の審査及び処理の状況

1 排除措置命令等

独占禁止法は,事業者が私的独占又は不当な取引制限をすること,不公正な取引方法を用いること等を禁止している。公正取引委員会は,一般から提供された情報,自ら探知した事実等を検討し,これらの禁止規定に違反する事実があると思料するときは,独占禁止法違反被疑事件として必要な審査を行っている。

審査事件のうち必要なものについては独占禁止法の規定に基づく権限を行使して審査を行い(第47条),違反する事実があると認められたときは,排除措置命令の名あて人となるべき者に対し,予定される排除措置命令の内容等を通知し(第49条第5項),意見を述べ,及び証拠を提出する機会の付与を行い(第49条第3項),その内容を踏まえて,排除措置命令を行っている。

また,法的措置を採るに足る証拠が得られなかった場合であっても,違反の疑いがあるときは,関係事業者等に対して警告を行い,是正措置を採るよう指導している(注)。

さらに,違反行為の存在を疑うに足る証拠は得られなかったが,違反につながるおそれのある行為がみられた場合には,未然防止を図る観点から注意を行っている。

なお,法的措置又は警告をしたときは,その旨公表している。また,注意及び打切りについては,競争政策上公表することが望ましいと考えられる事案であり,かつ,関係事業者から公表する旨の了解を得た場合又は違反被疑の対象となった事業者が公表を望む場合は,その旨公表している。

平成20年度における審査件数(不当廉売事案で迅速処理したもの〔第1-2表〕を除く。)は,前年度からの繰越しとなっていたもの18件,年度内に新規に着手したもの124件,合計142件であり,このうち本年度内に処理した件数は123件である。123件の内訳は,法的措置が17件,警告が4件,注意が87件及び違反事実が認められなかったため審査を打ち切ったものが15件となっている(第1-1表参照)。

(注)平成17年独占禁止法改正法施行後においては,警告を行う場合にも,命令の際の事前手続に準じた手続を経ることを明らかにしているところ,平成17年独占禁止法改正法施行前に警告を行った事件についても,名あて人に対し事前に警告内容の説明等を行っていた。

第1-1表 審査事件処理状況の推移(不当廉売事案で迅速処理(注1)を行ったものを除く。)

第1-2表 不当廉売事案の迅速処理件数の推移

第1図 法的措置件数と対象事業者等の数の推移

平成20年度の処理件数を行為類型別にみると,入札談合5件,私的独占1件,価格カルテル32件,その他のカルテル1件,不公正な取引方法72件,その他12件となっている(第2表参照)。法的措置を採った事件は17件であり,この内訳は,私的独占1件,価格カルテル8件,入札談合2件,その他のカルテル1件,不公正な取引方法5件となっている(第3表及び第4表参照)。

第2表 平成20年度審査事件(行為類型別)一覧表

第3表 排除措置命令等の法的措置件数(行為類型別)の推移

2 課徴金納付命令等

(1) 課徴金納付命令の概要

独占禁止法は,カルテル・入札談合等の未然防止という行政目的を達成するために,行政庁たる公正取引委員会が違反事業者等に対して課す金銭的不利益である課徴金の納付を命ずることを規定している(第7条の2第1項及び第2項,第8条の3)。

課徴金の対象となる行為は,事業者又は事業者団体の行うカルテルのうち,商品若しくは役務の対価に係るもの又は商品若しくは役務について供給量,購入量若しくは取引の相手方を実質的に制限することによりその対価に影響することとなるもの,及びいわゆる支配型私的独占で被支配事業者が供給する商品若しくは役務について,その対価に係るもの又は供給量若しくは取引の相手方を実質的に制限することによりその対価に影響することとなるものである。

平成20年度においては,59件の事件について総額261億7838万円の課徴金の納付を命じた(第4表参照)。このうち,違反を繰り返した場合の割増算定率が適用された事業者は,1事件における2名,早期離脱による軽減算定率が適用された事業者は,1事件における1名であった。また,5件について平成17年独占禁止法による改正前の独占禁止法に基づく審判開始請求があり,これらについてはいずれも審判開始決定を行ったことから,合計3億6313万円の課徴金納付命令(平成19年(納)第162号ないし第165号,第167号,第170号ないし第174号及び平成20年(納)第1号ないし第3号)が審判手続に移行し,失効した。一方で,課徴金の納付を命ずる審決33件が出され,この結果,平成20年度において確定した課徴金納付命令の件数は87件,これにより確定した課徴金の額は過去最高額の270億3642万円となった(第5表参照)。

(2) 課徴金減免制度の運用状況

平成20年度における課徴金減免制度に基づく事業者からの報告等の件数は85件であった(課徴金減免制度導入(平成18年1月)以降の件数は延べ264件)。

なお,平成20年度においては,8事件延べ21名の課徴金減免申請事業者について,当該事業者からの申出により,これらの事業者の名称,免除の事実,減額の率等を公表した(注)。

(注)公正取引委員会は,課徴金減免制度の適用を受けた事業者から公表の申出がある場合には,課徴金納付命令を行った際などに,公正取引委員会のウェブサイト(http://www.jftc.go.jp/dk/genmen/kouhyou.html)に,当該事業者の名称,所在地,代表者名及び免除の事実又は減額の率等を公表することとしている。

第2図 課徴金額等の推移

3 申告

平成20年度においては,独占禁止法の規定に違反する事実があると思われ,公正取引委員会に報告(申告)された件数は13,353件となっている(第3図参照)。この報告が書面で具体的な事実を摘示して行われた場合には,措置結果を通知することとされており(第45条第3項),平成20年度においては,9,468件の通知を行った。

また,公正取引委員会は,独占禁止法違反被疑行為の端緒情報をより広く収集するため,平成14年4月からインターネットを利用した申告が可能となる電子申告システムを公正取引委員会のホームページ上に設置しているところ,平成20年度においては,同システムを利用した申告が320件あった。

第3図 申告件数の推移

第4表 平成20年度法的措置一覧表

平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法に基づく課徴金納付命令

第5表 課徴金制度の運用状況(注1)

第2 法的措置

平成20年度においては,排除措置命令を行ったもの16件,排除措置命令を行わずに課徴金納付命令のみを行ったもの1件,計17件について法的措置を採った。平成20年度に法的措置を採った17件の違反法条をみると,独占禁止法第3条前段(私的独占の禁止)違反1件,同法第3条後段(不当な取引制限の禁止)違反11件及び同法第19条(不公正な取引方法の禁止)違反5件となっている。

法的措置を採った前記17件の概要は,以下のとおりである。

1 独占禁止法第3条前段違反事件

(1) (社)日本音楽著作権協会に対する件(平成21年(措)第2号)

ア 関係人

イ 違反行為の概要

(ア) (社)日本音楽著作権協会(以下「JASRAC」という。)は,放送事業者(注1)から包括徴収(放送等利用に係る管理楽曲全体について包括的に利用を許諾し,放送等使用料を包括的に算定し徴収する方法をいう。)の方法により徴収する放送等使用料の算定において,放送等利用割合(注2)が当該放送等使用料に反映されないような方法を採用している。これにより,当該放送事業者が他の管理事業者(注3)にも放送等使用料を支払う場合には,当該放送事業者が負担する放送等使用料の総額がその分だけ増加することとなる。

(注1)放送法(昭和25年法律第132号)第2条第3号の2に規定する放送事業者及び電気通信役務利用放送法(平成13年法律第85号)第2条第3項に規定する電気通信役務利用放送事業者のうち衛星役務利用放送(電気通信役務利用放送法施行規則(平成14年総務省令第5号)第2条第1号に規定する衛星役務利用放送をいう。)を行う者であって,音楽著作権に係る著作権等管理事業者から音楽著作物の利用許諾を受け放送等利用を行う者をいう。

(注2)当該放送事業者が放送番組(当該放送事業者が自らの放送のために制作したコマーシャルを含む。)において利用した音楽著作物の総数に占めるJASRACの放送等利用に係る管理楽曲の割合をいう。

(注3)音楽著作権に係る著作権等管理事業を営む者をいう。

(イ) これにより,JASRAC以外の管理事業者は,自らの放送等利用に係る管理楽曲が放送事業者の放送番組においてほとんど利用されず,また,放送等利用に係る管理楽曲として放送等利用が見込まれる音楽著作物をほとんど確保することができないことから,放送等利用に係る管理事業を営むことが困難となっている。

(ウ) 前記(ア)の行為によって,JASRACは,他の管理事業者の事業活動を排除することにより,公共の利益に反して,我が国における放送事業者に対する放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における競争を実質的に制限している。

ウ 排除措置命令の概要

(ア) JASRACは,前記イ(ア)の行為を取りやめなければならない。

(イ) JASRACは,前記イ(ア)の行為を取りやめる旨及び今後,前記イ(ア)の行為と同様の行為を行わない旨を,理事会において決議しなければならない。

(ウ) JASRACは,前記イ(ア)の行為を取りやめるに当たり採用する放送等使用料の徴収方法について,あらかじめ,当委員会の承認を受けなければならない。

(エ) JASRACは,前記(ア)及び(イ)に基づいて採った措置を自己と利用許諾に関する契約を締結している放送事業者,他の管理事業者及び自己に音楽著作権の管理を委託している者に通知しなければならない。

(オ) JASRACは,今後,前記イ(ア)の行為と同様の行為を行ってはならない。

2 独占禁止法第3条後段違反事件

(1) 鋼管杭の製造販売業者に対する件(平成20年(措)第12号),鋼矢板の製造販売業者に対する件(平成20年(措)第13号)

ア 関係人

イ 違反行為の概要

(ア) 鋼管杭の製造販売業者に対する件(平成20年(措)第12号)

JFEスチール(株)(以下「JFEスチール」という。),(株)クボタ,新日本製鐵(株)(以下「新日本製鐵」という。)及び住友金属工業(株)の4社は,特定鋼管杭(注4)について

a 平成16年2月19日ころ,平成16年4月契約分から,1キログラム当たりのベース価格を,建設業者の区分ごとに,第6表の「価格」欄記載の価格以上とすることにより,建設業者向け販売価格を現行価格から引き上げること

b 平成17年3月3日ころまでに,平成17年4月契約分から,1キログラム当たりのベース価格を,建設業者の区分ごとに,第7表の「価格」欄記載の価格以上とすることにより,建設業者向け販売価格を現行価格から引き上げること

を合意することにより,公共の利益に反して,我が国における特定鋼管杭の販売分野における競争を実質的に制限していた。

(イ) 鋼矢板の製造販売業者に対する件(平成20年(措)第13号)

JFEスチール,新日本製鐵及び住友金属工業(株)の3社は,特定鋼矢板(注5)について

a 平成16年3月18日ころ,平成16年4月契約分から,1キログラム当たりのベース価格を,全国規模で営業を展開する建設業者(以下「大手ゼネコン」という。)向けについては75円以上と,大手ゼネコン以外の建設業者向けについては77円以上とすることにより,建設業者向け販売価格を現行価格から引き上げること

b 平成17年2月9日ころ,平成17年4月契約分から,1キログラム当たりのベース価格を,大手ゼネコンについては77円以上と,大手ゼネコン以外の建設業者向けについては79円以上とすることにより,建設業者向け販売価格を現行価格から引き上げること

を合意することにより,公共の利益に反して,我が国における特定鋼矢板の販売分野における競争を実質的に制限していた。

(注4)鋼鉄のみにより製造された杭(継手及び付属品を取り付けたものを含む。)であって,国,地方公共団体,国又は地方公共団体が過半を出資する法人,北海道旅客鉄道(株),東日本旅客鉄道(株),東海旅客鉄道(株),西日本旅客鉄道(株),四国旅客鉄道(株),九州旅客鉄道(株)及び日本貨物鉄道(株)が発注する建設工事を請け負う建設業者が同工事に使用するもの(回転杭を除く。)をいう。

(注5)国,地方公共団体,国又は地方公共団体が過半を出資する法人,北海道旅客鉄道(株),東日本旅客鉄道(株),東海旅客鉄道(株),西日本旅客鉄道(株),四国旅客鉄道(株),九州旅客鉄道(株)及び日本貨物鉄道(株)が発注する建設工事を請け負う建設業者が同工事に使用する鋼矢板(鋼矢板の賃貸を行う者に対して販売されるものを除く。)をいう。

第6表

第7表

ウ 排除措置命令の概要

(ア) 前記イの合意が破棄されている旨を確認すること及び今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,特定鋼管杭又は特定鋼矢板の建設業者向け販売価格を決定せず,各社が自主的に決める旨を,それぞれ,取締役会等の業務執行の決定機関において決議しなければならない。

(イ) 前記(ア)に基づいて採った措置を,それぞれ,相互に通知するとともに,自社の取引先である建設業者に周知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,特定鋼管杭又は特定鋼矢板の建設業者向け販売価格を決定してはならない。

(エ) 今後,それぞれ,相互に,又は他の事業者と,特定鋼管杭又は特定鋼矢板の建設業者向け販売価格の改定に関して情報交換を行ってはならない。

(オ) 今後,それぞれ,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。

a 自社の商品の販売活動に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の見直し

b 前記aの見直しの結果を踏まえた自社の商品の販売活動に関する独占禁止法の遵守についての,特定鋼管杭又は特定鋼矢板の営業担当者に対する定期的な研修及び法務担当者による定期的な監査

エ 課徴金納付命令の概要

(ア) JFEスチール,新日本製鐵及び(株)クボタは,平成20年9月5日までに,総額20億3006万円を支払わなければならない。

(イ) 平成17年独占禁止法改正法附則第4条第2項の規定によって,課徴金の計算においては,同法の施行日(平成18年1月4日)前の売上額に100分の6を乗じて課徴金額を算出している。

(2) 地方公共団体が売却する溶融メタル等の入札等参加業者に対する件(平成20年(措)第17号)

ア 関係人

イ 違反行為の概要

三菱マテリアル(株)(以下「三菱マテリアル」という。),マテリアルエコリファイン(株)(以下「マテリアルエコリファイン」という。),日鉱環境(株)(以下「日鉱環境」という。),エコシステムジャパン(株)(以下「エコシステムジャパン」という。),東京商事(株)(以下「東京商事」という。)及びDOWAホールディングス(株)(以下「DOWAホールディングス」という。)の6社は,三菱マテリアルの提案等に基づき,平成16年3月下旬以降(注6),地方公共団体が一般競争入札,指名競争入札,見積り合わせによる随意契約又は特命随意契約(以下「競争入札又は随意契約」という。)の方法により売却する溶融メタル等(注7)(日立市が設置する日立市清掃センター及び香川県が設置する香川県直島環境センター中間処理施設において発生するものを除く。以下「特定溶融メタル等」という。)について,購入価格の上昇を防止するため

(ア) 発生元(注8)において発生する特定溶融メタル等の売却が見込まれた段階又は入札の指名,見積りの引き合い等が行われた段階において

a 当該発生元において発生した特定溶融メタル等を購入した実績のある者がいる場合は,当該実績を勘案して,話合いにより当該発生元において発生する特定溶融メタル等を購入すべき者(以下「購入予定者」という。)を決定する

b 当該発生元において発生した特定溶融メタル等を購入した実績のある者がいない場合は,当該発生元において発生する特定溶融メタル等を売却する地方公共団体への営業活動の実績等を勘案して,話合いにより購入予定者を決定する

(イ)a 購入予定者以外の者は,当該特定溶融メタル等を売却する地方公共団体に対する営業活動を自粛し,指名又は見積りの引き合いを受けないようにすること等により,購入予定者が購入できるように協力する

b 購入予定者以外の者が,当該特定溶融メタル等を売却するために実施される一般競争入札,指名競争入札又は見積り合わせに参加する場合には,購入すべき価格は,購入予定者が定め,購入予定者以外の者は,購入予定者がその定めた価格で購入できるように協力する

旨の合意の下に,日鉱環境と東京商事(平成16年4月1日以降にあってはエコシステムジャパン)又はDOWAホールディングスとの連絡調整においては三菱マテリアル及びマテリアルエコリファインが仲介して,購入予定者を決定し,購入予定者が購入できるようにすることにより,公共の利益に反して,地方公共団体が競争入札又は随意契約の方法により売却する溶融メタル等の購入分野における競争を実質的に制限していた。

(注6)東京商事及びDOWAホールディングスにあっては平成16年3月31日までの間,エコシステムジャパンにあっては平成16年4月1日以降の行為である。

(注7)廃棄物処理施設において発生する金属混合物のうち,当該施設の溶融炉(焼却灰,飛灰等を溶融する施設をいい,廃棄物を直接溶融するガス化溶融炉を含む。)の排出口から常時排出される「溶融メタル」と称されるもの,当該施設の溶融炉を傾けて取り出される「傾動メタル」と称されるもの及び当該施設の溶融炉の底に溜まり固まったものを切り出して取り出される「炉底メタル」と称されるものであって,銅及び金,銀等の貴金属の製錬用原料として用いられるものをいう。

(注8)溶融メタル等が取り出される溶融炉が設置されている廃棄物処理施設をいう。

ウ 排除措置命令の概要

(ア) 三菱マテリアル,マテリアルエコリファイン及び日鉱環境の3社(以下「3社」という。)は,前記イの行為を取りやめている旨を確認すること及び今後,共同して,特定溶融メタル等について,購入予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に購入活動を行う旨を,それぞれ,取締役会において決議しなければならない。

(イ) 3社は,それぞれ,前記(ア)に基づいて採った措置を,自社を除く2社及び特定溶融メタル等を売却する地方公共団体に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 3社は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,特定溶融メタル等について,購入予定者を決定してはならない。

(エ) 3社は,今後,それぞれ,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。

a 特定溶融メタル等の購入に係る競争入札又は随意契約に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の見直し

b 前記aの見直しの結果を踏まえた特定溶融メタル等の購入に係る競争入札又は随意契約に関する独占禁止法の遵守についての,特定溶融メタル等の営業担当者に対する定期的な研修及び法務担当者による定期的な監査

エ 課徴金納付命令の概要

三菱マテリアル及びマテリアルエコリファインは,平成21年1月19日までに,総額724万円を支払わなければならない。

(3) 札幌市が発注する下水処理施設に係る電気設備工事の入札参加業者らに対する件(平成20年(措)第18号)

ア 関係人

イ 違反行為の概要

関係人10社は,遅くとも平成15年4月1日以降(10社のうち,富士電機ホールディングス(株)にあっては同年9月30日までの間,富士電機システムズ(株)にあっては同年10月1日以降),札幌市発注の特定電気設備工事(注4)について,受注価格の低落防止を図るため,当該工事の入札前に,札幌市の職員から落札予定者として意向を示された者を受注予定者とし,受注予定者以外の者は受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,札幌市発注の特定電気設備工事の取引分野における競争を実質的に制限していた。

(注4)終末処理場,ポンプ場,スラッジセンター等の下水処理施設に係る電気設備工事のうち,当該工事で設置する電気設備を構成する主要機器の設計・製作を伴う新設工事,更新工事(既存の電気設備を取り替える工事をいう。)及び増設工事(既存の下水処理施設に電気設備を増設する工事をいう。)をいう。

ウ 排除措置命令の概要

(ア) 8社は,それぞれ,前記イの行為を取りやめている旨を確認すること及び今後,前記イの行為と同様の行為を行わず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨を,取締役会において決議しなければならない。

(イ) 8社は,それぞれ,前記(ア)に基づいて採った措置を,自社を除く7社及び札幌市に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 8社は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,前記イと同様の行為を行ってはならない。

(エ) 8社は,今後,それぞれ,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。

a 官公需の受注に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の改定

b 官公需の受注に関する独占禁止法の遵守についての,札幌市発注の特定電気設備工事の営業担当者に対する定期的な研修及び法務担当者による定期的な監査

エ 課徴金納付命令の概要

(ア) 8社は,平成21年1月30日までに,総額4億2530万円を支払わなければならない。

(イ) 平成17年独占禁止法改正法附則第4条第2項の規定によって,同法の施行日(平成18年1月4日)前の売上額に100分の6を乗じて課徴金額を算出している。

オ 札幌市長に対する改善措置要求等について

(ア) 入札談合等関与行為の概要

前記イの違反行為に関し,札幌市下水道局建設部長又は同局建設部施設建設課長の職にあった者(平成17年4月1日に行われた同市の組織変更後にあっては同市建設局下水道建設部長又は同局下水道建設部施設建設課長の職にあった者)は,遅くとも平成15年4月1日以降,札幌市発注の特定電気設備工事のほとんどすべてについて,当該工事の入札前に,当該工事の落札予定者についての意向を落札予定者に示し,これにより,入札参加業者に入札談合を行わせていたものである。

(イ) 該当法条及び改善措置要求等

札幌市の職員による前記(ア)の行為は,入札談合等関与行為防止法第2条第5項第1号及び第2号の規定に該当し,いずれも入札談合等関与行為防止法に規定する入札談合等関与行為と認められる。

よって,公正取引委員会は,札幌市長に対し,入札談合等関与行為防止法第3条第2項の規定に基づき,今後,前記(ア)の行為と同様の行為が生じないよう,札幌市発注の特定電気設備工事について,当該入札談合等関与行為が排除されたことを確保するために必要な改善措置を速やかに講じるよう求めるとともに,この求めに応じて同条第4項の規定に基づき札幌市長が行った調査の結果及び講じた改善措置の内容について,同条第6項の規定に基づき当委員会に通知するよう求めた。

カ 会計検査院への通知

公正取引委員会は,会計検査院に対して,入札談合等関与行為の排除及び防止に万全を期す観点から,通知を行った。

(4) 大気常時監視自動計測器の製造販売業者に対する件(平成20年(措)第19号)

ア 関係人

イ 違反行為の概要

東亜ディーケーケー(株)(以下「東亜ディーケーケー」という。),(株)堀場製作所(以下「堀場製作所」という。),紀本電子工業(株)(以下「紀本電子工業」という。)及び(株)島津製作所の4社(以下「4社」という。)は,遅くとも平成16年6月10日以降,国の機関及び地方公共団体が競争入札又は見積り合わせの方法により発注する特定大気常時監視自動計測器(注4)(注5)(以下「官公庁発注の特定大気常時監視自動計測器」という。)について,受注価格の低落防止を図るため

(ア) 調整役に直接又は間接に受注の希望の有無を表明し

a 受注を希望する者(以下「受注希望者」という。)が1社のときは,その者を受注すべき者(以下「受注予定者」という。)とする

b 受注希望者が複数のときは,当該官公庁発注の特定大気常時監視自動計測器を設置する測定局への4社の過去の納入実績等を勘案し,調整役を介して受注希望者間の話合いにより受注予定者を決定する

(イ) 受注すべき価格は,受注予定者若しくは調整役が単独で又は両者が協議して定め,受注予定者以外の者は,受注予定者が受注すべき価格で受注できるよう協力する

旨の合意の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,官公庁発注の特定大気常時監視自動計測器の取引分野における競争を実質的に制限していた。

(注4)大気常時監視自動計測器(リース契約に基づいて供給されるものを除く。)のうち次に掲げるもの(当該自動計測器を設置する車両,当該自動計測器の付属品等の当該自動計測器以外の物品又は当該自動計測器の設置等の役務が併せて発注される場合には当該物品又は役務を含む。)をいう。

1 大気中の二酸化硫黄を測定するための自動計測器

2 大気中の一酸化炭素を測定するための自動計測器

3 大気中の浮遊粒子状物質を測定するための自動計測器

4 大気中の光化学オキシダントを測定するための自動計測器

5 大気中の二酸化窒素を測定するための自動計測器

6 大気中の非メタン炭化水素を測定するための自動計測器

(注5)4社は,官公庁発注の特定大気常時監視自動計測器の競争入札又は見積り合わせに,自ら又は販売業者を介して参加しており,販売業者を介して参加する場合は,当該販売業者に対して入札価格又は見積価格を指示するなどしていた。

ウ 排除措置命令の概要

(ア) 東亜ディーケーケー,堀場製作所及び紀本電子工業の3社(以下「3社」という。)は,それぞれ,前記イの行為を取りやめている旨を確認すること及び今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,官公庁発注の特定大気常時監視自動計測器について,受注予定者を決定せず,各社がそれぞれ自主的に受注活動を行う旨を,取締役会において決議しなければならない。

(イ) 3社は,それぞれ,前記(ア)に基づいて採った措置を,自社を除く2社に通知するとともに,特定大気常時監視自動計測器を発注する国の機関及び地方公共団体並びに販売業者に通知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 3社は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,官公庁発注の特定大気常時監視自動計測器について,受注予定者を決定してはならない。

エ 課徴金納付命令の概要

3社は,平成21年2月13日までに,総額1億2777万円を支払わなければならない。

(5) 「ニンテンドーDS」に用いられるTFT液晶ディスプレイモジュールの製造販売業者に対する件(平成20年(納)第62号),「ニンテンドーDS Lite」に用いられるTFT液晶ディスプレイモジュールの製造販売業者に対する件(平成20年(措)第20号)

ア 関係人

イ 「ニンテンドーDS」に用いられるTFT液晶ディスプレイモジュールの製造販売業者に対する件(平成20年(納)第62号)

(ア) 違反行為の概要

シャープ(株)(以下「シャープ」という。)及び(株)日立ディスプレイズ(以下「日立ディスプレイズ」という。)の2社(以下「2社」という。)は,日立ディスプレイズが任天堂(株)(以下「任天堂」という。)が製造販売する「ニンテンドーDS」と称する携帯型ゲーム機の表示画面に用いられるTFT液晶ディスプレイモジュール(注3)(以下「DS用液晶モジュール」という。)の販売を開始するための取引条件の交渉を任天堂と進めていた平成16年10月ころ以降,DS用液晶モジュールの任天堂に対する販売価格(以下「任天堂渡し価格」という。)等について情報交換を行っていたところ,日立ディスプレイズの参入に伴う任天堂渡し価格の低落を防止する必要があるとの共通認識を有するに至り,平成17年10月6日ころ,平成17年度下期受注分(注4)のDS用液晶モジュールの任天堂渡し価格を定めるための提示価格(2社がそれぞれの交渉の過程で任天堂に対して提示する価格をいう。)を,現行の任天堂渡し価格から100円を超えて下回らないようにすることにより,平成17年度下期受注分のDS用液晶モジュールの任天堂渡し価格について,現行価格から100円を超えて下回らないようにする旨の共通の意思を形成し,これにより,公共の利益に反して,DS用液晶モジュールの販売分野における競争を実質的に制限していた。

(イ) 課徴金納付命令の概要

シャープは,平成21年3月19日までに,2億6107万円を支払わなければならない。

(注3)液晶ディスプレイ(液晶パネルとバックライトを組み合わせたもの)にTFT液晶ディスプレイ駆動回路(周辺IC搭載基板)を組み合わせたものをいう。

(注4)平成17年10月6日ころ以降の直近の価格改定日から平成18年3月31日までの間の受注分をいう。

ウ 「ニンテンドーDS Lite」に用いられるTFT液晶ディスプレイモジュールの製造販売業者に対する件(平成20年(措)第20号)

(ア) 違反行為の概要

2社は,かねてから,任天堂が製造販売する携帯型ゲーム機の表示画面に用いられるTFT液晶ディスプレイモジュール(以下「任天堂向け液晶モジュール」という。)の任天堂渡し価格等について情報交換を行っていたところ,「ニンテンドーDS Lite」と称する携帯型ゲーム機の表示画面に用いられるTFT液晶ディスプレイモジュール(以下「DS Lite用液晶モジュール」という。)の任天堂渡し価格の引下げを任天堂から求められていたことから任天堂渡し価格の低落を防止する必要があるとの共通認識を有するに至り,平成19年第一四半期受注分(注5)のDS Lite用液晶モジュールについて

a 平成18年9月5日ころ,シャープは,自社が任天堂に対して同月7日ころに提示する予定としていた価格を日立ディスプレイズに伝え

b 日立ディスプレイズは,これを受けて,自社が任天堂に対して提示する予定の価格を,当初予定していた価格より引き上げて前記aによりシャープから伝えられた価格に近似させて設定した上で,同月11日ころにこれを任天堂に対して提示し

c 日立ディスプレイズは,同年11月7日ころ,前記bの同年9月11日ころに任天堂に対して提示した価格をシャープに伝え

もって,2社は,平成19年第一四半期受注分のDS Lite用液晶モジュールの任天堂渡し価格について,前記bの日立ディスプレイズが任天堂に対して提示した価格を目途とする旨の共通の意思を形成することにより,公共の利益に反して,DS Lite用液晶モジュールの販売分野における競争を実質的に制限していた。

(イ) 排除措置命令の概要

a 2社は,それぞれ

(a) 前記(ア)の共通の意思がなくなっている旨を確認すること

(b) 今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,任天堂向け液晶モジュールの任天堂渡し価格を決定せず,各社がそれぞれ自主的に決める旨

(c) 今後,相互に,又は他の事業者と,任天堂向け液晶モジュールの任天堂渡し価格の改定に関して情報交換を行わない旨

を,取締役会において決議しなければならない。

b 2社は,それぞれ,前記aに基づいて採った措置を,相互に通知し,自社の従業員に周知徹底するとともに,シャープにあっては任天堂に,日立ディスプレイズにあっては任天堂及び八洲電機(株)(注6)に通知しなければならない。

c 2社は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,任天堂向け液晶モジュールの任天堂渡し価格を決定してはならない。

d 2社は,今後,それぞれ,相互に,又は他の事業者と,任天堂向け液晶モジュールの任天堂渡し価格の改定に関して情報交換を行ってはならない。

e 2社は,今後,それぞれ,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。

(a) 自社の商品の販売活動に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の改定

(b) 任天堂向け液晶モジュールの販売活動に関する独占禁止法の遵守についての,任天堂向け液晶モジュールの価格設定の担当者及び営業担当者に対する定期的な研修及び法務担当者による定期的な監査

(注5)平成19年1月から同年3月までの間の受注分をいう。

(注6)日立ディスプレイズは,八洲電機(株)を通じて任天堂に販売している。

(6) 塩化ビニル管及び同継手の製造販売業者に対する件(平成21年(措)第1号)

ア 関係人

イ 違反行為の概要

(ア) 積水化学工業(株)(以下「積水化学工業」という。),三菱樹脂(株)(以下「三菱樹脂」という。),アロン化成(株),(株)クボタ及びシーアイ化成(株)の5社(以下「5社」という。)は,塩化ビニル樹脂の価格が平成16年2月ころ以降引き上げられる見通しとなったこと等から,同年1月27日ころ

a 平成16年3月1日受注分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から15パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については現行価格から10パーセント以上引き上げる

b 前記aの実施を確実にするため,塩化ビニル管等のうち3管種(注4)にあっては,1本当たりの二次店(注5)への販売価格及び直二次店(注5)への販売価格(以下これらの販売価格を総称して「二次店価格」という。)を,それぞれ第8表の「第1次値上げ」欄記載の価格とする

ことを合意した。

(注4)塩化ビニル管等のうち,排水設備等に用いられるVU100と称する塩化ビニル管並びに下水道に用いられるSRA150及びSRA200とそれぞれ称する塩化ビニル管をいう。

(注5)塩化ビニル管等の製造販売業者は,それぞれ,一次店と称する販売業者,直二次店と称する販売業者又は需要者に対し,塩化ビニル管等を販売していた。一次店は主に二次店と称する販売業者に,二次店及び直二次店は主に需要者に,それぞれ,塩化ビニル管等を販売していた。

(イ) 5社は,引き続き塩化ビニル樹脂の価格が平成16年秋ころ以降引き上げられる見通しとなったことから,同年8月25日ころ

a 平成16年10月1日出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から10パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については現行価格から8パーセント以上引き上げる

b 前記aの実施を確実にするため,3管種にあっては,1本当たりの二次店価格を,それぞれ第8表の「第2次値上げ」欄記載の価格とする

ことを合意した。

(ウ) 積水化学工業,三菱樹脂及びクボタシーアイ(株)(以下「クボタシーアイ」 という。)の3社(以下「3社」という。)は,引き続き塩化ビニル樹脂の価格が平成17年秋ころ以降引き上げられる見通しとなったことから,同年8月25日ころ

a 平成17年10月11日ころ出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から8パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については現行価格から5パーセント以上引き上げる

b 前記aの実施を確実にするため,3管種にあっては,1本当たりの二次店価格を,それぞれ第8表の「第3次値上げ」欄記載の価格とする

ことを合意した。

(エ) 引き続き塩化ビニル樹脂の価格が平成18年夏ころ以降引き上げられる見通しとなったところ,クボタシーアイは,同年5月11日ころまでに,積水化学工業及び三菱樹脂の2社(以下「2社」という。)に対し

a 平成18年6月21日出荷分から,塩化ビニル管の出荷価格については現行価格から15パーセント以上,塩化ビニル管継手の出荷価格については現行価格から10パーセント以上引き上げる

b 前記aの実施を確実にするため,3管種にあっては,1本当たりの二次店価格を,それぞれ第8表の「第4次値上げ」欄記載の価格とする

旨の自社の価格引上げ方針(以下「クボタシーアイの方針」という。)等を連絡し,クボタシーアイの方針に沿って価格を引き上げるよう求めたところ,2社はこれに同意し,もって,3社は,塩化ビニル管等について,クボタシーアイの方針に沿って出荷価格を引き上げることを合意した。

(オ) 前記(ア)から(エ)までにより,5社及びクボタシーアイの6社は,公共の利益に反して,我が国における塩化ビニル管等の販売分野における競争を実質的に制限していた。

第8表

ウ 排除措置命令の概要

(ア) 2社は,それぞれ

a 前記イ(ア)から(エ)までの合意が消滅している旨を確認すること

b 今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,塩化ビニル管等の出荷価格を決定せず,各社がそれぞれ自主的に決める旨

c 今後,相互に,又は他の事業者と,塩化ビニル管等の出荷価格の改定に関して情報交換を行わない旨

を,取締役会において決議しなければならない。

(イ) 2社は,それぞれ,前記(ア)に基づいて採った措置を,相互に通知するとともに,自社の取引先である塩化ビニル管等の販売業者及び需要者に周知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 2社は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,塩化ビニル管等の出荷価格を決定してはならない。

(エ) 2社は,今後,それぞれ,相互に,又は他の事業者と,塩化ビニル管等の出荷価格の改定に関して情報交換を行ってはならない。

エ 課徴金納付命令の概要

(ア) 積水化学工業及び三菱樹脂は,平成21年5月19日までに,総額116億8669万円を支払わなければならない。

(イ) 2社は,調査開始日からさかのぼり10年以内に課徴金納付命令を受けており,当該命令は確定している。したがって,独占禁止法第7条の2第6項の規定に基づき,平成17年独占禁止法改正法の施行日(平成18年1月4日)以後の売上額に100分の15を乗じて課徴金額を算出している。

(7) 東北地区に所在する縫製工場等向け工業用ミシン系の販売業者に対する件(平成21年(措)第4号)

ア 関係人

イ 違反行為の概要

(株)シラカワ,アズマ(株)及びカナガワ(株)の3社(以下「3社」という。)は,平成17年3月29日ころ,3社が直接又は特定販売業者(注1)を通じて需要者(注2)に販売する東北地区に所在する縫製工場等向け工業用ミシン糸(以下「特定工業用ミシン糸」という。)の需要者渡し価格について,同年4月21日以降遅くとも同年5月21日までの受注分から,現行価格より10パーセント以上引き上げることを合意することにより,公共の利益に反して,東北地区に所在する縫製工場等向け工業用ミシン糸の販売分野における競争を実質的に制限していた。

(注1)青森縫糸(株),秋田糸業(株),亀屋(株),(有)東双,東北かながわ(株),(株)トスク(平成20年10月20日破産手続終結により消滅),(株)中村糸店及び福島糸業(株)(平成18年10月13日に設立)をいう。

(注2)工業用ミシン糸を縫製等に用いる者をいう。

ウ 排除措置命令の概要

(ア) 3社は,それぞれ,前記イの合意が消滅している旨を確認すること及び今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,特定工業用ミシン糸の需要者渡し価格を決定せず,各社がそれぞれ自主的に決める旨を,取締役会において決議しなければならない。

(イ) 3社は,それぞれ,前期(ア)に基づいて採った措置を,自社を除く2社に通知するとともに,特定販売業者のうち(株)トスクを除く7社及び特定工業用ミシン糸の需要者に周知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 3社は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,特定工業用ミシン糸の需要者渡し価格を決定してはならない。

エ 課徴金納付命令の概要

3社は,平成21年6月18日までに,総額4169万円を支払わなければならない。

(8) 国際航空貨物利用運送事業者らに対する件(平成21年(措)第5号)

ア 関係人

イ 違反行為の概要

(ア) 関係人14社(以下「14社」という。)は,国際航空貨物利用運送業務(注5)の運賃及び料金について,荷主(荷送人又は荷受人をいう。以下同じ。)に対し,平成14年9月18日(注6),ハウスエアウェイビル(注7)の発行日が同年10月16日以降である貨物を対象に,利用する航空会社から燃油サーチャージ(注8)の請求を受けることとなるときは,当該燃油サーチャージに相当する額を,荷主向け燃油サーチャージとして新たに請求する旨を合意することにより,公共の利益に反して,我が国における国際航空貨物利用運送業務の取引分野における競争を実質的に制限していた。

(イ) 13社(14社のうちエアボーンエクスプレス(株)を除く13社をいう。以下同じ。)は,国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金について,荷主に対し

a 平成16年11月22日,ハウスエアウェイビルの発行日が原則として同年12月13日,遅くとも平成17年1月1日以降である貨物であって,アメリカ合衆国を仕向地とする貨物及び同国を経由して運送されヨーロッパ地域を除く第三国を仕向地とする貨物を対象に,ハウスエアウェイビル1件当たり500円以上をAMSチャージ(注9)として新たに請求する旨

b 平成18年2月20日,ハウスエアウェイビルの発行日が同年4月1日以降である貨物を対象に,ハウスエアウェイビル1件当たり300円以上をセキュリティーチャージ(注10)として,爆発物検査を実施したときは,セキュリティーチャージに加えて,ハウスエアウェイビル1件当たり1,500円以上を爆発物検査料(注11)として新たに請求する旨

を合意することにより,公共の利益に反して,我が国における国際航空貨物利用運送業務の取引分野における競争を実質的に制限していた。

(注5)他人の需要に応じ,有償で,航空運送事業を営む者の行う運送を利用して行う輸出に係る貨物の運送(これに先行及び後続する当該貨物の集配のためにする自動車による運送を併せて行う場合における当該運送を含む。)に係る業務をいう。

(注6)日本通運(株)及びDHLグローバルフォワーディングジャパン(株)は,遅くとも平成14年11月8日までに合意に加わった。

(注7)貨物について利用運送契約が締結されたことを証するために国際航空貨物利用運送業務を営む者と荷送人との間で作成される航空運送状をいう。

(注8)航空会社が,航空燃油価格の高騰時に限り,航空燃油価格の変動の程度に合わせて設定し,航空運賃に付加して請求するものをいう。

(注9)アメリカ合衆国の税関当局の実施する航空貨物情報事前申告制度に伴い生ずる費用を賄うために荷主に請求するものをいう。

(注10) 国土交通省の実施する航空運送に関する保安対策に対応するために必要な費用を賄うために荷主に請求するものをいう。

(注11) 国土交通省の実施する航空運送に関する保安対策に対応するために爆発物検査装置による検査又は開披検査を行うに当たって必要な費用を賄うために荷主に請求するものをいう。

ウ 排除措置命令の概要

(ア) 14社のうち(株)阪急阪神交通社ホールディングス(以下「阪急阪神交通社ホールディングス」という。),DHLグローバルフォワーディングジャパン(株)及びエアボーンエクスプレス(株)の3社を除く11社(以下「11社」という。)は,それぞれ,前記イの合意が消滅している旨を確認すること及び今後,相互の間において,又は他の事業者と共同して,国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金を決定せず,各社がそれぞれ自主的に決める旨を,取締役会等において決議しなければならない。

また,阪急阪神交通社ホールディングスは,前記イの合意が消滅している旨を確認すること並びに(株)阪急エクスプレス(以下「阪急エクスプレス」という。)に,今後11社と相互に,又は他の事業者と共同して,国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金を決定させない旨並びに今後11社と相互に,又は他の事業者と共同して,国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金を決定せず,自主的に決める旨を阪急エクスプレスが取締役会において決議するように指導する旨を,取締役会において決議しなければならない。

(イ) 11社は,それぞれ,前記(ア)に基づいて採った措置を,自社を除く10社及び阪急エクスプレスに通知するとともに,荷主に周知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

また,阪急阪神交通社ホールディングスは,前記(ア)に基づいて採った措置を11社に通知するとともに,荷主に周知し,かつ,阪急エクスプレスをして,同社の従業員に周知徹底させるよう指導しなければならない。

(ウ) 11社は,今後,それぞれ,相互の間において,又は他の事業者と共同して,国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金を決定してはならない。

また,阪急阪神交通社ホールディングスは,今後,阪急エクスプレスに,11社と相互に,又は他の事業者と共同して,国際航空貨物利用運送業務の運賃及び料金を決定させてはならない。

(エ) 11社は,今後,それぞれ,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。

また,阪急阪神交通社ホールディングスは,今後,阪急エクスプレスをして,次の事項を行うために必要な措置を講じさせるよう指導しなければならない。

a 国際航空貨物利用運送業務に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の作成又は改定

b 国際航空貨物利用運送業務に関する独占禁止法の遵守についての,同業務にかかわる役員及び従業員に対する定期的な研修並びに法務担当者による定期的な監査

c 独占禁止法違反行為に関与した役員及び従業員に対する処分に関する規程の作成又は改定

d 独占禁止法違反行為に係る通報者に対する免責等実効性ある社内通報制度の設置又は整備

エ 課徴金納付命令の概要

11社及び阪急阪神交通社ホールディングスの12社は,平成21年6月19日までに,総額90億5298万円を支払わなければならない。

オ 国際航空貨物利用運送業務を営む事業者らが構成員となっている(社)航空貨物運送協会(以下「協会」という。)への要請について

14社が,協会の国際部会役員会の会合の場を利用して,前記イの合意,当該合意の実効を確保するための荷主向け燃油サーチャージ,AMSチャージ及びセキュリティーチャージの収受状況の発表等をしていた事実及び同会合に協会の理事長等が出席していた事実が認められたため,公正取引委員会は,協会に対して,今後,協会の会合の場で,前記イと同様の行為が行われないよう,再発防止のための措置を講じるよう要請した。

(9) 架橋高発泡ポリエチレンシートの製造販売業者に対する件(平成21年(措)第6号)

ア 関係人

イ 違反行為の概要

(ア) 古河電気工業(株)(以下「古河電気工業」という。),日立化成工業(株)(以下「日立化成工業」という。),東レペフ加工品(株)(以下「東レペフ加工品」という。)及び積水化学工業(株)の4社(以下「4社」という。)並びに東レ(株)(以下「東レ」という。)の5社(以下「5社」という。)は,架橋高発泡ポリエチレンシート(注3)の原材料であるポリエチレン系樹脂の価格が高騰したことから,遅くとも平成16年3月下旬までに

a 4社が販売する架橋高発泡ポリエチレンシートについて,今後,原材料であるポリエチレン系樹脂の価格の上昇に対応して,需要者渡し価格の引上げを共同して行っていくこと

b 当該需要者渡し価格の引上げに関する具体的な実施方法については,会合を開催するなどして話合いにより決定すること

を合意することにより,公共の利益に反して,我が国における架橋高発泡ポリエチレンシートの販売分野における競争を実質的に制限していた。

(イ) 5社は,前記(ア)の合意に基づき,ポリエチレン系樹脂の価格の上昇に対応して,共同して,4社が販売する架橋高発泡ポリエチレンシートの需要者渡し価格を引き上げるため,次のとおり,5社又は4社が出席する会合を開催するなどして,累次,当該需要者渡し価格の引上げに関する具体的な実施方法を決定するとともに,4社は,当該決定に沿って,それぞれ需要者に対して申入れを行うなどして,架橋高発泡ポリエチレンシートの需要者渡し価格を引き上げていた。

a 遅くとも平成16年3月下旬までに,架橋高発泡ポリエチレンシート(主として屋根の裏張に用いられる製品〔以下「屋根用途製品」という。〕を除く。)について,同年4月以降,需要者渡し価格を現行価格から5パーセントを目途に引き上げることを決定した。

b 遅くとも平成16年9月末までに,架橋高発泡ポリエチレンシートのうち屋根用途製品(主として耐火構造の屋根の裏張に用いられるもの〔以下「屋根用途耐火製品」という。〕を除く。)について,同年10月以降,需要者渡し価格を現行価格から5パーセントを目途に引き上げることを決定した。

c 遅くとも平成17年2月中旬までに,同月下旬以降,架橋高発泡ポリエチレンシートのうち屋根用途製品について,需要者渡し価格を現行価格から5パーセントを目途に(屋根用途製品のうち屋根用途耐火製品については10パーセントを目途に)引き上げることを決定した。

d 遅くとも平成17年6月上旬までに,架橋高発泡ポリエチレンシート(屋根用途製品を除く。)について,同月中旬以降,需要者渡し価格を現行価格から5パーセントを目途に引き上げることを決定した。

e 遅くとも平成17年11月下旬までに,架橋高発泡ポリエチレンシートのうち屋根用途製品について,平成18年3月までに,値上げが十分に図られていない需要者等を対象に,需要者渡し価格を当該需要者等別に定めた目標価格に引き上げることを決定した。

f 遅くとも平成18年9月下旬までに,架橋高発泡ポリエチレンシートのうち屋根用途製品について,同年10月以降,需要者渡し価格を現行価格から10パーセントを目途に引き上げることを決定した。

(注3)ポリエチレン樹脂,エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂等のポリエチレン系樹脂を原材料とする発泡シートのうち,架橋処理を施し,高倍率で発泡させたものをいう。

ウ 排除措置命令の概要

(ア) 古河電気工業,日立化成工業,東レペフ加工品及び東レの4社(以下「名あて人4社」という。)は,それぞれ

a 前記イ(ア)の合意が消滅していることを確認すること

b 今後,相互の間(東レペフ加工品と東レの間を除く。)において,又は他の事業者と共同して,架橋高発泡ポリエチレンシートの需要者渡し価格を決定せず,各社がそれぞれ自主的に決める旨

を,取締役会において決議しなければならない。

(イ) 名あて人4社は,それぞれ,前記(ア)に基づいて採った措置を,自社を除く3社(東レペフ加工品及び東レにあっては,古河電気工業及び日立化成工業)に通知するとともに,自社(東レにあっては,東レペフ加工品)の架橋高発泡ポリエチレンシートの取引先販売業者及び需要者に周知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 名あて人4社は,今後,それぞれ,相互の間(東レペフ加工品と東レの間を除く。)において,又は他の事業者と共同して,架橋高発泡ポリエチレンシートの需要者渡し価格を決定してはならない。

(エ) 名あて人4社は,今後,それぞれ,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。

a 自社の従業員に対する,自社の商品の販売活動に関する独占禁止法の遵守についての行動指針の周知徹底

b 架橋高発泡ポリエチレンシートの販売活動に関する独占禁止法の遵守についての,架橋高発泡ポリエチレンシートの営業担当者に対する定期的な研修及び法務担当者による定期的な監査

エ 課徴金納付命令の概要

古河電気工業,日立化成工業及び東レペフ加工品は,平成21年7月1日までに,総額10億6435万円を支払わなければならない。

3 独占禁止法第19条違反事件

(1) (株)マルキョウに対する件(平成20年(措)第11号)

ア 関係人

イ 違反行為の概要

(ア) (株)マルキョウ(以下「マルキョウ」という。)は,食品の仕入部門が取り扱っている商品について,メーカー等が定めた賞味期限の2か月前の日,精米日から2週間を経過した日等の独自の販売期限を定め,当該販売期限を経過した商品について,自社と継続的な取引関係にある食料品又は雑貨の納入業者であって,その取引上の地位が自社に対して劣っているもの(以下(ア)から(ウ)までにおいて「納入業者」という。)のうち,当該販売期限を経過した商品の納入業者に対し,当該販売期限を経過したことを理由とし,あらかじめ納入業者との合意により返品の条件を定めていないなどにもかかわらず,当該商品を返品している。

(イ) マルキョウは,食品,菓子及び雑貨の各仕入部門が取り扱っている商品について,商品回転率が低いこと,店舗((有)ポテトの店舗を含む。以下同じ。)を閉店することとしたこと,季節商品の販売時期が終了したこと又は陳列棚からの落下等により商品が破損したこと(以下「商品回転率が低いこと等」という。)を理由として,商品の返品又は割引販売を行うこととし,次の行為を行っていた。

a 返品することとした商品の納入業者に対し,商品回転率が低いこと等を理由とし,あらかじめ納入業者との合意により返品の条件を定めていないなどにもかかわらず,当該商品を返品していた。

b 割引販売を行うこととした商品の納入業者に対し,その納入価格から当該割引販売前の価格に100分の50を乗じる等の方法により算出した額の値引きをさせていた。

(ウ) マルキョウは,食品,デイリー,菓子,精肉又は雑貨の各仕入部門に係る納入業者に対し,「大判」と称するセール(通常のチラシよりも寸法の大きいチラシを配布して実施するセールをいう。),棚卸し又は棚替えに際し,当該納入業者の従業員等が有する技術又は能力を要しない店舗における商品の陳列又は補充,棚卸し,棚替え等の作業を行わせるとともに,食品,デイリー,菓子及び雑貨の各仕入部門に係る納入業者に対し,「店舗クリニック」と称し,当該納入業者の従業員等が有する技術又は能力を要しない店舗の陳列棚の清掃等の作業を行わせることとし,あらかじめ当該納入業者との間で派遣の条件について合意することなく,かつ,派遣のために通常必要な費用を負担することなく,その従業員等を派遣させていた。

ウ 排除措置命令の概要

(ア) マルキョウは,前記イ(ア)の行為を取りやめるとともに,当該行為を取りやめる旨及び今後当該行為と同様の行為を行わない旨を取締役会において決議しなければならない。

(イ) マルキョウは,前記イ(イ)及び(ウ)の行為を取りやめている旨を確認すること及び今後当該行為と同様の行為を行わない旨を,取締役会において決議しなければならない。

(ウ) マルキョウは,前記(ア)及び(イ)に基づいて採った措置を自社と継続的な取引関係にある食料品又は雑貨の納入業者に通知するとともに,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(エ) マルキョウは,今後,前記イの行為と同様の行為を行ってはならない。

(オ) マルキョウは,今後,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。

a 納入業者との取引に関係する独占禁止法の遵守についての行動指針の作成

b 納入業者との取引に関係する独占禁止法の遵守についての,役員及び仕入担当者に対する定期的な研修並びに法務担当者による定期的な監査

(2) ハマナカ(株)に対する件(平成20年(措)第14号)

ア 関係人

イ 違反行為の概要

(ア)a ハマナカ(株)(以下「ハマナカ」という。)は,平成17年9月ころ,ハマナカ毛糸(注1)について,値引き限度価格(注2)を定め,同月ころ以降,小売業者に対し,値引き限度価格以上の価格で販売するよう要請するとともに,卸売業者をして,当該卸売業者がハマナカ毛糸を販売している小売業者に対し,値引き限度価格以上の価格で販売するよう要請させている。

b ハマナカは,前記aの小売業者に対する要請の実効を確保するため,小売業者が当該要請に応じない場合には,当該小売業者又は当該小売業者の取引先卸売業者に対するハマナカ毛糸の出荷を停止するなどしている。

(イ) ハマナカは,平成19年5月ころ,インターネットを利用した方法によりハマナカ毛糸を販売する場合においても,同年7月1日以降,値引き限度価格以上の価格で販売させることとし,小売業者に対し,値引き限度価格以上の価格で販売するよう要請するとともに,卸売業者をして,当該卸売業者がハマナカ毛糸を販売している小売業者に対し,値引き限度価格以上の価格で販売するよう要請させている。

(注1)「ハマナカ毛糸」とは,手編み毛糸又は手芸糸を玉状等にまとめ,「ハマナカ」又は「Rich More」の商標を付したものをいう。

(注2)「値引き限度価格」とは,玉単位で販売する場合には標準価格の10パーセント引きの価格など,小売業者が標準価格から値引きして販売する場合に下限とすべき価格をいう。

ウ 排除措置命令の概要

(ア) ハマナカは,前記イの行為を取りやめるとともに,取締役会において当該行為を取りやめる旨及び今後,当該行為と同様の行為を行わない旨を決議しなければならない。

(イ) ハマナカは,前記(ア)に基づいて採った措置を,卸売業者及び小売業者に対し通知するとともに,一般消費者に周知し,かつ,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) ハマナカは,今後,ハマナカ毛糸の販売に関し,前記イの行為と同様の行為により,小売業者の販売価格を制限してはならない。

(3) (株)エコスに対する件(平成20年(措)第15号)

ア 関係人

イ 違反行為の概要

(ア) (株)エコス(以下「エコス」という。)は,自社及び子会社3社((株)シーズンセレクト,(株)マスダ及び(株)やまうちの3社をいう。以下同じ。)の店舗の開店及び閉店に際し,自社と継続的な取引関係にある食料品及び雑貨の納入業者(自社のほか子会社3社の全部又は一部と継続的な取引関係にあるものを含む。)であって,その取引上の地位が自社に対して劣っているもの(以下(ア)から(エ)までにおいて「納入業者」という。)のうち,和日配,洋日配,一般食品及び菓子の各仕入部門に係るものに対し,納入業者の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず,当該店舗の閉店に際して割引販売をすることとした商品及び開店に際して最初に陳列する商品について,当該割引販売前の販売価格に100分の50を乗じる等の方法により算出した額をその納入価格から値引きさせていた。

(イ) エコスは,自社及び子会社3社の店舗の開店及び閉店に際し,納入業者に対し,あらかじめ納入業者と派遣の条件について合意することなく,かつ,派遣のために通常必要な費用を負担することなく,その従業員等が有する技術又は能力を要しない当該店舗における商品の陳列,補充等の作業を行わせるためにその従業員等を派遣させていた。

(ウ) エコスは,自社及び子会社3社の店舗の開店に際し,和日配及び惣菜の各仕入部門に係る納入業者に対し,事前に算出根拠,目的等について明確に説明することなく,「即引き」と称して,開店に当たって納入させる特定の商品について,その納入価格を通常の納入価格より低い価格とすることにより,当該価格と通常の納入価格との差額に相当する経済上の利益を提供させていた。

(エ) エコスは,自社及び子会社3社の店舗の開店に際し,和日配及び洋日配の各仕入部門に係る納入業者に対し,事前に算出根拠,目的等について明確に説明することなく,「協賛金」と称して,金銭を負担させていた。

ウ 排除措置命令の概要

(ア) エコスは,前記イの行為を取りやめている旨を確認すること及び今後同様の行為を行わない旨を,取締役会において決議しなければならない。

(イ) エコスは,前記(ア)に基づいて採った措置を自社と継続的な取引関係にある食料品又は雑貨の納入業者に通知するとともに,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) エコスは,今後,前記イの行為と同様の行為を行ってはならない。

(エ) エコスは,今後,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。

a 納入業者との取引に関係する独占禁止法の遵守についての行動指針の作成

b 納入業者との取引に関係する独占禁止法の遵守についての,役員及び仕入担当者に対する定期的な研修並びに法務担当者による定期的な監査

(4) (株)ヤマダ電機に対する件(平成20年(措)第16号)

ア 関係人

イ 違反行為の概要

(ア) (株)ヤマダ電機(以下「ヤマダ電機」という。)は,店舗(第9表記載の8社の店舗を含む。以下(4)において同じ。)の新規オープン及び改装オープンに際し,自社と継続的な取引関係にあるテレビ,冷蔵庫,パーソナルコンピュータ,デジタルカメラ,家庭用ゲームソフト等の納入業者であって,その取引上の地位が自社に対して劣っているものに対し,当該納入業者の納入に係る商品であるか否かを問わず当該店舗における商品の陳列,商品の補充,接客等の作業を行わせるために,あらかじめ当該納入業者との間で派遣の条件について合意することなく,かつ,派遣のために通常必要な費用を負担することなく,その従業員等を派遣させている。

(イ) ヤマダ電機は,遅くとも平成17年10月以降パーソナルコンピュータ及びデジタルカメラの納入業者であって,その取引上の地位が自社に対して劣っているものに対し,あらかじめ当該納入業者との間で派遣の条件について合意することなく,かつ,派遣のために通常必要な費用を負担することなく,当該納入業者から購入した商品のうち,店舗における展示のために使用したもの及び顧客から返品されたものを「展示処分品」と称して販売するために必要な設定の初期化等の作業のために,その従業員等を派遣させていた。

第9表

ウ 排除措置命令の概要

(ア) ヤマダ電機は,前記イ(ア)の行為を取りやめるとともに,当該行為を取りやめる旨及び今後当該行為と同様の行為を行わない旨を取締役会において決議しなければならない。

(イ) ヤマダ電機は,前記イ(イ)の行為を取りやめている旨を確認すること及び今後当該行為と同様の行為を行わない旨を取締役会において決議しなければならない。

(ウ) ヤマダ電機は,前記(ア)に基づいて採った措置を自社と継続的な取引関係にあるテレビ,冷蔵庫,パーソナルコンピュータ,デジタルカメラ,家庭用ゲームソフト等の納入業者に,前記(イ)に基づいて採った措置を自社と継続的な取引関係にあるパーソナルコンピュータ及びデジタルカメラの納入業者に,通知するとともに,前記(ア)及び(イ)に基づいて採った措置を自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(エ) ヤマダ電機は,今後,前記イの行為と同様の行為を行ってはならない。

(オ) ヤマダ電機は,今後,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。

a 納入業者との取引に関係する独占禁止法の遵守についての行動指針の作成又は改定

b 納入業者との取引に関係する独占禁止法の遵守についての,役員及び従業員に対する定期的な研修並びに法務担当者による定期的な監査

(5) (株)大和に対する件(平成21年(措)第3号)

ア 関係人

イ 違反行為の概要

(ア) (株)大和(以下「大和」という。)は,金沢市所在の香林坊店(以下「香林坊店」という。)及び富山市所在の富山店(以下「富山店」という。)において,「全従業員訪問販売」及び「謝恩特別ご奉仕会」と称する販売企画(以下これらの販売企画を「全従業員訪問販売等」という。)を実施するに際し,あらかじめ店舗ごとに設定した販売目標金額を達成するため,自社と継続的な取引関係にある納入業者であって,その取引上の地位が自社に対して劣っているもののうち香林坊店及び富山店において販売される商品の納入業者(以下(ア)から(エ)において「納入業者」という。)及び当該納入業者の従業員に対し,香林坊店及び富山店の仕入担当者(納入業者との間で商談,発注等の仕入業務を行い,当該納入業者との取引に影響を及ぼし得る大和の従業員をいう。以下(5)において同じ。)から,全従業員訪問販売等の販売対象となる商品を購入するよう要請し,当該商品を購入させていた。

(イ) 大和は,納入業者に対し,香林坊店の仕入担当者から,平成19年8月ころに香林坊店において実施する絵画の展示会で販売する絵画を購入するよう要請し,当該絵画を購入させた。

(ウ) 大和は,香林坊店及び富山店において,全従業員訪問販売等を実施するに際し,納入業者から派遣されて香林坊店及び富山店の売場に常駐している当該納入業者の従業員(以下「大和に派遣されている納入業者従業員」という。)に,当該大和に派遣されている納入業者従業員を派遣する納入業者が大和に納入する商品以外の商品の販売業務を行わせることとし,あらかじめ当該納入業者との間で当該大和に派遣されている納入業者従業員が当該販売業務を行う際の条件について合意することなく,かつ,当該販売業務のために通常必要な費用を自社で負担することなく,当該大和に派遣されている納入業者従業員に当該販売業務を行わせていた。

(エ) 大和は,香林坊店及び富山店において,毎年3月,6月及び10月に開催する「春の大和祭」,「ダイワ夏祭」等と称する大規模なセールを実施するに際し,当該セールを告知するダイレクトメールを香林坊店及び富山店の近隣に所在する住宅に配布する作業を大和に派遣されている納入業者従業員に行わせることとし,あらかじめ当該大和に派遣されている納入業者従業員を派遣している納入業者との間で当該大和に派遣されている納入業者従業員が当該配布作業を行う際の条件について合意することなく,かつ,当該配布作業のために通常必要な費用を自社で負担することなく,当該大和に派遣されている納入業者従業員に当該配布作業を行わせていた。

ウ 排除措置命令の概要

(ア) 大和は,前記イの行為を取りやめている旨を確認すること及び今後当該行為と同様の行為を行わない旨を,取締役会において決議しなければならない。

(イ) 大和は,前記(ア)に基づいて採った措置を自社と継続的な取引関係にある納入業者及び当該納入業者から派遣されて大和の各店舗の売場に常駐している当該納入業者の従業員に,それぞれ,通知するとともに,自社の従業員に周知徹底しなければならない。

(ウ) 大和は,今後,前記イの行為と同様の行為を行ってはならない。

(エ) 大和は,今後,次の事項を行うために必要な措置を講じなければならない。

a 納入業者との取引に関係する独占禁止法の遵守についての行動指針の作成

b 納入業者との取引に関係する独占禁止法の遵守についての,役員及び従業員に対する定期的な研修並びに法務担当者による定期的な監査

第3 警告

平成20年度において警告を行ったものの概要は,以下のとおりである。

第10表 平成20年度警告事件一覧表

第4 告発

私的独占,カルテルなどの重大な独占禁止法違反行為については,排除措置命令等の行政上の措置のほか罰則が設けられているところ,これらについては公正取引委員会による告発を待って論ずることとされている(独占禁止法第96条,第74条第1項及び第2項)。

公正取引委員会は,平成17年10月,平成17年独占禁止法改正法の趣旨を踏まえ,「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」を公表し,独占禁止法違反行為に対する抑止力強化の観点から,積極的に刑事処罰を求めて告発を行っていくこと等を明らかにしている。

平成20年度においては,溶融亜鉛めっき鋼板の価格カルテル事件について,以下のとおり検事総長に告発した。

1 溶融亜鉛めっき鋼板の価格カルテル事件に係る告発

(1) 被告発人

ア 日鉄住金鋼板(株),日新製鋼(株)及び(株)淀川製鋼所の3社(平成20年11月11日告発)

イ 日新製鋼(株),(株)淀川製鋼所,日鉄住金鋼板(株)の前身である日鉄鋼板(株)及び住友金属建材(株)の4社の各従事者として,本件商品(注)の販売に関する業務に従事していた者計6名(平成20年12月8日追加告発)

(注)不特定多数の需要者向け溶融55パーセントアルミニウム亜鉛合金めっき鋼板及び鋼帯(塗装品種及び非塗装品種の双方)をいう。

(2) 告発の根拠

ア 事実

被告発会社3社は,本件商品の製造販売等の事業を営む事業者であるが,その従業者らは,本件商品の製造販売等の事業を営む他の事業者の従業者らとともに,本件商品に関し,平成18年4月ころから同年6月ころまでの間,東京都内で会合を開催するなどして,同年7月1日以降出荷分の本件商品の販売価格を,同年6月時点における各社販売価格から1キログラム当たり10円引き上げる旨合意し,もって,各社が共同して,本件商品の販売に関し,その事業活動を相互に拘束することにより,公共の利益に反して,本件商品の販売に係る取引分野における競争を実質的に制限した。

また,前記(1)イ記載の被告発人6名は,それぞれの所属する被告発会社等の業務に関し,本件商品の販売に係る取引分野における競争を実質的に制限した。

イ 罰条

独占禁止法第89条第1項第1号,第95条第1項第1号,第3条及び刑法第60条