第5章 競争環境の積極的創造に向けた取組

第1 公益事業分野における規制改革に関する調査・提言等

1 「都市ガス事業分野の取引実態調査について」の公表

都市ガス事業分野においては,以前は事業への参入と価格が厳格に規制されていたが,平成7年以降,大口需要家向け小売分野の自由化を主な内容とする制度改革が行われた。公正取引委員会は,都市ガス事業を対象として,制度改革の進展に伴う実態の変化等を把握するため,ガス事業者等に対するアンケート調査等を実施した。また,平成20年1月以降,政府規制等と競争政策に関する研究会(以下「規制研」という。)を開催して,調査結果を報告し,都市ガス事業の高コスト構造などこれまで指摘されてきた問題点の現状及び今後の改善策について会員の意見を伺い,規制研の了承を得て,調査結果を取りまとめ,同年6月10日,報告書「都市ガス事業分野の取引実態調査について」を作成・公表した。

報告書では,都市ガス事業の制度改革について評価するとともに,都市ガス事業分野の全面自由化を最終的な目標に見据えた上で,目標に至る道程において採るべき措置を具体的に議論していく必要があるとして,次の提言を行っている。

(1) 大口需要家向け事業分野(既に自由化された分野)―新規参入の一層の促進

ア 評価

都市ガス事業における制度改革として大口需要家向け事業分野が自由化されて以後,一部の供給区域に新規参入がある。大口供給量全体に占める新規参入者のシェアは,供給区域によって著しい違いがあるが,新規参入者のシェアが相当高い地域も出現するに至っている。また,内外価格差及び内々価格差については,縮小の傾向にある。もっとも,現時点では,新規参入が価格低下をもたらし,それによって内外価格差及び内々価格差が縮小するというプロセスが成立するに至っているとはいえない。しかし,事例が限られているとはいえ,新規参入者のシェアが相当程度に達している供給区域では,価格低下がみられる。裏を返せば,現行程度の新規参入のシェアでは,既存の一般ガス事業者の市場支配力を牽制するのに十分ではないと考えられ,価格面における成果を達成するためには,一層の新規参入の促進を図ることが必要である。

イ 新規参入の促進のための具体的方策を検討するに当たっての視点

既存導管網を利用した参入を重視するか,導管網に対する設備投資を伴う参入を重視するかという点で異なる視点があるが,それらを矛盾するものととらえるのではなく,両者のバランスを取りつつ,全体として新規参入を促すという観点から検討を行うことが必要である。

ウ 改善のための具体的方策

(ア) 同時同量制度の見直し

現行の託送供給の枠組みの下では,託送供給依頼者(新規参入者)は,需要家の使用量との乖離率が1時間10%の変動範囲の量のガスを供給することとされ(同時同量制度),このため,多くの場合,リアルタイムで需要家の使用量を監視している。この点,一般ガス事業者は自らは必ずしもそのような監視を行っていないこと等の実態を踏まえると,計画値同時同量制度(需要家の使用量を想定した計画供給量と実際の供給量とが前記変動範囲に収まれば足りるとする制度)の適用範囲の拡大,前記変動範囲に係る現行の基準の見直し等を検討していくことが妥当である。

(イ) 気化圧送原価の託送料金への配賦

気化圧送原価は,託送供給実施者のガス製造に関する費用としての側面も持っているにもかかわらず,現行のように,その全額をネットワークの圧力制御に要する費用に配分することは,その合理性に疑問がある。したがって,合理性のある原価配分のルールを定めるとともに,透明性のある手続の下で,解決を図ることが期待される。さらに,見直しに当たっては,一般ガス事業者の託送供給において超過利潤が発生していないか検証し,託送料金の水準の適正化につながるような形で検討を進めていくべきである。

(ウ) 新規導管の設置に係る規制について

新規導管の設置に係る現行の運用においては,主として一般ガス事業者の導管の設置状況という外形的な要件に基づき判断する基準が採られており,需要家に全体として不利益が生じない場合にも,変更又は中止命令の対象になるおそれがあるのではないかとの疑問がある。このため,新規導管の設置による費用増等と需要家利益とを総合的に勘案する形で,判断基準を改定することが必要であるとともに,個別の事案の判断に当たっては,両当事者に疎明させた上で,規制当局が中立的な立場から裁定を行うことが有効であると考えられる。

(2) 規制分野―自由化範囲の拡大

産業用の内外価格差及び大口需要家分野の内々価格差は縮小しているにもかかわらず,家庭用の内外価格差は依然として存在し,内々価格差はむしろ拡大傾向にある。また,全体として価格のばらつきも拡大している。これらの要因については,高コスト構造が,依然,改善されていないことが挙げられる。そして,高コスト構造に関しては,事業者側の経営努力では容易に解消し難いような要因として,例えば,需要密度(導管延長距離当たりの需要家数),地理的事情及び使用規模がこれまで指摘されてきたところ,高コスト構造には,これらの要因では説明できない部分が相当あると考えられる。また,普及率が横ばいないしやや下降傾向である状況にかんがみると,供給区域の既得権益化などにより,都市ガス事業者間の競争が阻害されていることも考えられる。

以上のように,制度改革後も,規制分野における高コスト構造や供給区域の既得権益化といった問題点は,基本的には解消されていない。このため,規制分野のうち,使用量の比較的大きい需要家向け小売分野から順次自由化することも検討すべきである。

(3) エネルギー間競合の促進

以上の措置を採っても,都市ガス事業者間の競争が十分確保できないおそれもあるため,他のエネルギーとの間の競合を促進することにより,都市ガス事業分野の全面自由化に向けた環境を整備すべきである。

2 「適正な電力取引についての指針」の改定

(1) 公正取引委員会と経済産業省は,平成11年12月,電力市場において,公正かつ有効な競争の観点から独占禁止法上又は電気事業法上問題となる行為等を記した「適正な電力取引についての指針」を共同して策定し,その後,法運用事例等を踏まえ,これまで3回にわたり同指針の改定を行ってきた。

(2) 総合資源エネルギー調査会電気事業分科会は,平成20年3月の「基本答申」及び同年7月の「詳細制度答申」において第4次電気事業制度改革の検討結果を取りまとめ,電力市場の競争環境整備を図る観点から提言を行った。この提言の内容を踏まえ,同分科会適正取引ワーキンググループにおける審議を経て,公正取引委員会と経済産業省は,共同して本指針を改定し,平成21年3月31日,これを公表した。

(3) 公正取引委員会は,電気事業分野において公正かつ有効な競争を確保するため,独占禁止法違反行為に厳正かつ迅速に対応していくとともに,その未然防止に努めていくこととしている。また,電気事業分野における公正かつ有効な競争が着実に行われていくよう状況を注視していくとともに,競争環境の変化等を踏まえ,必要に応じて,本指針を適宜,適切に見直すこととしている。

第2 独占禁止法適用除外

1 独占禁止法適用除外の概要

独占禁止法は,市場における公正かつ自由な競争を促進することにより,一般消費者の利益を確保するとともに国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とし,これを達成するために,私的独占,不当な取引制限,不公正な取引方法等を禁止している。他方,他の政策目的を達成する観点から,特定の分野における一定の行為に独占禁止法の禁止規定等の適用を除外するという適用除外が設けられている。

適用除外は,その根拠規定が独占禁止法自体に定められているものと独占禁止法以外の個別の法律に定められているものとに分けることができる。

(1) 独占禁止法に基づく適用除外

独占禁止法は,無体財産権の行使行為(同法第21条),一定の組合の行為(同法第22条)及び再販売価格維持契約(同法第23条)を,それぞれ同法の規定の適用除外としている。

(2) 個別法に基づく適用除外

独占禁止法以外の個別の法律において,特定の事業者又は事業者団体の行為について独占禁止法の適用除外を定めているものとしては,平成20年度末現在,保険業法等14の法律がある。

2 適用除外の見直し

適用除外の多くは,昭和20年代から昭和30年代にかけて,産業の育成・強化,国際競争力強化のための企業経営の安定,合理化等を達成するため,各産業分野において創設されてきたが,個々の事業者において効率化への努力が十分に行われず,事業活動における創意工夫の発揮が阻害されるおそれがあるなどの問題があることから,近年,その見直しが行われてきた。

平成9年7月20日,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律」(平成9年法律第96号)が施行され,個別法に基づく適用除外のうち20法律35制度について廃止等の措置が採られた。次いで,平成11年7月23日,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律」(平成11年法律第80号)が施行され,不況カルテル制度及び合理化カルテル制度の廃止,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律の廃止等の措置が採られた。さらに,平成12年6月19日,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」(平成12年法律第76号)が施行され,自然独占に固有の行為に関する適用除外の規定が削除された。

これらの措置により,平成7年度末において30法律89制度存在した適用除外は,平成20年度末現在,15法律21制度まで縮減された。

3 著作物再販適用除外の取扱いについて

商品の供給者がその商品の取引先である事業者に対して再販売する価格を指示し,これを遵守させることは,原則として,一般指定第12項(再販売価格の拘束)に該当し,独占禁止法第19条に違反するものであるが,同法第23条の規定に基づき,著作物を対象とするものについては,例外的に同法の適用が除外されている。

公正取引委員会は,著作物についてのこのような適用除外の取扱いについて,国民各層から意見を求めるなどして検討を進め,平成13年3月,結論を得るに至った(第4表)。さらに,同年12月,関係業界における運用の弾力化の取組等,著作物の流通についての意見交換を行うため,公正取引委員会,関係事業者,消費者,学識経験者等を構成員とする著作物再販協議会を設け,平成19年度までに7回の会合を開催し,平成20年度においては,第8回会合(平成20年6月)を開催した。

第4表 著作物再販制度の取扱いについて(概要)(平成13年3月23日)

4 適用除外カルテルの動向

(1) 概況

ア 適用除外カルテルの概要

価格,数量,販路等のカルテルは,公正かつ自由な競争を妨げるものとして,独占禁止法上禁止されているが,その一方で,他の政策目的を達成する等の観点から,個々の適用除外ごとに設けられた一定の要件・手続の下で,特定のカルテルが例外的に許容される場合がある。このような適用除外カルテルが認められるのは,当該事業の特殊性のため(保険業法に基づく保険カルテル),地域住民の生活に必要な旅客輸送(いわゆる生活路線)を確保するため(道路運送法等に基づく運輸カルテル)等,様々な理由による。

個別法に基づく適用除外カルテルについては,一般に,公正取引委員会の同意を得,又は当委員会へ協議若しくは通知を行って,主務大臣が認可を行うこととなっている。

また,適用除外カルテルの認可に当たっては,一般に,当該適用除外カルテルの目的を達成するために必要であること等の積極的要件のほか,当該カルテルが弊害をもたらしたりすることのないよう,カルテルの目的を達成するために必要な限度を超えないこと,不当に差別的でないこと等の消極的要件を充足することがそれぞれの法律により必要とされている。

さらに,このような適用除外カルテルについては,不公正な取引方法に該当する行為が用いられた場合等には独占禁止法の適用除外とはならないとする,いわゆるただし書規定が設けられている。

イ 適用除外カルテルの動向

公正取引委員会が認可し,又は当委員会の同意を得,若しくは当委員会に協議若しくは通知を行って主務大臣が認可等を行ったカルテルの件数は,昭和40年度末の1,079件(中小企業団体の組織に関する法律に基づくカルテルのように,同一業種について都道府県等の地区別に結成されている組合ごとにカルテルが締結されている場合等に,同一業種についてのカルテルを1件として算定すると,件数は415件)をピークに減少傾向にあり,また,適用除外制度そのものが大幅に縮減されたこともあり,平成20年度末現在,21件となっている。

(2) 個別法に基づく適用除外カルテル

ア 概要

平成20年度において,個別法に基づき主務大臣から公正取引委員会に対し同意を求められ,又は協議若しくは通知のあった適用除外カルテルの処理状況は第5表のとおりであり,このうち現在実施されている個別法に基づく適用除外カルテルの動向は,次のとおりである。

第5表 平成20年度における適用除外カルテルの処理状況

イ 保険業法に基づくカルテル

保険業法に基づき損害保険会社は

(1) 航空保険事業,原子力保険事業,自動車損害賠償保障法に基づく自動車損害賠償責任保険事業若しくは地震保険契約に関する法律に基づく地震保険事業についての共同行為

又は

(2) (1)以外の保険で共同再保険を必要とするものについての一定の共同行為

を行う場合には,金融庁長官の認可を受けなければならない。金融庁長官は,認可をする際には,公正取引委員会の同意を得ることとされている。

平成20年度において,金融庁長官から同意を求められたものは4件であった(うち3件は変更認可に係るもの)。また,平成20年度末における同法に基づく共同行為は9件である。

ウ 損害保険料率算出団体に関する法律に基づくカルテル

損害保険料率算出団体は,自動車損害賠償責任保険及び地震保険について基準料率を算出した場合には,金融庁長官に届け出なければならない。金融庁長官は,届出を受理したときは,公正取引委員会に通知することとされている。

平成20年度において,金融庁長官から通知を受けたものは2件であった(変更届出に係るもの)。また,平成20年度末における同法に基づくカルテルは2件である。

エ 道路運送法に基づくカルテル

輸送需要の減少により事業の継続が困難と見込まれる路線において地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため,又は旅客の利便を増進する適切な運行時刻を設定するため,一般乗合旅客自動車運送事業者は,同一路線において事業を経営する他の一般乗合旅客自動車運送事業者と,共同経営に関する協定を締結することができる。この協定の締結,変更に当たっては,国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は,認可をする際には,公正取引委員会に協議することとされている。

平成20年度において,国土交通大臣から協議を受けたものは3件であった(変更認可に係るもの)。また,平成20年度末における同法に基づくカルテルは3件である。

オ 航空法に基づくカルテル

(ア) 国内航空カルテル

航空輸送需要の減少により事業の継続が困難と見込まれる本邦内の各地間の路線において地域住民の生活に必要な旅客運送を確保するため,当該路線において2以上の航空輸送事業者が事業を経営している場合に,本邦航空事業者は,他の航空運送事業者と,共同経営に関する協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては,国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は,認可をする際には,公正取引委員会に協議することとされている。

平成20年度において,国土交通大臣から協議を受けたものはなかった。また,平成20年度末における同法に基づくカルテルはない。

(イ) 国際航空カルテル

本邦内の地点と本邦外の地点との間の路線又は本邦外の各地間の路線において公衆の利便を増進するため,本邦航空運送事業者は,他の航空運送事業者と,連絡運輸に関する契約,運賃協定その他の運輸に関する協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては,国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は,認可をしたときは,公正取引委員会に通知することとされている。

平成20年度において,国土交通大臣から通知を受けたものは438件であった。

カ 海上運送法に基づくカルテル

(ア) 内航海運カルテル

本邦の各港間の航路に関して,定期航路事業者は,地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため,旅客の利便を増進する適切な運航日程・運航時刻を設定するため,又は貨物の運送の利用者の利便を増進する適切な運航日程を設定するため,共同経営に関する協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては,国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は,認可をする際には,公正取引委員会に協議することとされている。

平成20年度において,国土交通大臣から協議を受けたものは3件であった(変更認可に係るもの)。また,平成20年度末における同法に基づくカルテルは6件である。

(イ) 外航海運カルテル

本邦の港と本邦以外の地域の港との間の航路に関して,船舶運航事業者は,他の船舶運航事業者と,運賃及び料金その他の運送条件,航路,配船並びに積取りに関する事項を内容とする協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては,あらかじめ国土交通大臣に届け出なければならない。国土交通大臣は,届出を受理したときは,公正取引委員会に通知することとされている。

平成20年度において,国土交通大臣から通知を受けたものは476件であった。

キ 内航海運組合法に基づくカルテル

内航海運組合法に基づき内航海運組合が調整事業を行う場合には,調整規程又は団体協約を設定し,国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は,認可をする際には,公正取引委員会に協議することとされている。

平成20年度において,国土交通大臣から協議を受けたものはなかった。また,平成20年度末における同法に基づくカルテルは1件である。

第3 違反行為の未然防止

公正取引委員会は,事業者及び事業者団体による独占禁止法違反行為の未然防止とその適切な活動に役立てるため,事業者及び事業者団体の活動の中でどのような行為が実際に独占禁止法違反となるのかを具体的に示した「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成3年7月),「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」(平成5年4月),「公共的な入札に係る事業者及び事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成6年7月),「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成7年10月),「農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成19年4月),「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成19年9月)等を策定・公表している。

また,個々の具体的な活動について事業者等からの相談に応じるとともに,独占禁止法違反行為の未然防止に役立てるため,事業者等から寄せられた相談のうち,他の事業者等の参考になると思われるものを相談事例集として取りまとめ,公表している(平成19年度に寄せられた相談について,平成20年7月に公表した。)。

第4 独占的状態調査

独占禁止法第8条の4は,独占的状態に対する措置について定めている。公正取引委員会は,同法第2条第7項に規定する独占的状態の定義規定のうち,事業分野に関する考え方についてガイドラインを公表しており,その別表には,独占的状態の国内総供給価額要件及び事業分野占拠率要件(国内総供給価額が1000億円超で,かつ,上位1社の事業分野占拠率が50%超又は上位2社の事業分野占拠率の合計が75%超)に該当すると認められる事業分野並びに今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当することとなると認められる事業分野が掲げられている(第6表)。

別表に掲載された事業分野については,生産・出荷集中度の調査結果等に応じ逐次改定してきている(直近の改定による最新のものは,平成20年9月26日に公表し,同日から適用)。その中でも特に集中度の高い業種については,生産,販売,価格,製造原価,技術革新等の動向,分野別利益率等について,独占禁止法第2条第7項第2号(新規参入の困難性)及び第3号(価格の下方硬直性,過大な利益率又は販売管理費の支出)の各要件に即し,企業の動向の監視に努めている。

第6表 別表掲載事業分野(27事業分野)

第5 企業コンプライアンス向上のための施策の推進

1 企業コンプライアンス向上の必要性

経済取引における公正な競争を一層促進させるためには,公正取引委員会としては,独占禁止法の厳正な執行とともに,企業におけるコンプライアンスの向上が重要であり,これに関連した企業の取組を支援していく必要があると考えている。こうした考えに基づき,公正取引委員会は,平成20年度において「外資系企業等におけるコンプライアンスの整備状況及び弁護士の立場からみた企業コンプライアンスに関する調査-独占禁止法を中心として-」と「企業におけるコンプライアンス体制の整備状況に関する調査-独占禁止法改正法施行(平成18年1月)以降の状況-」の報告書を公表した。

2 「外資系企業等におけるコンプライアンスの整備状況及び弁護士の立場からみた企業コンプライアンスに関する調査-独占禁止法を中心として-」について

(1) 調査の趣旨・対象等

欧米においては,我が国に比べて競争法違反に対する制裁水準が高く,また,リニエンシー制度も早い段階から導入されて有効に活用されており,これらが競争法分野における企業コンプライアンスに大きな役割を果たしているものと考えられる。そこで,公正取引委員会は,(1)我が国で事業を行っている外資系企業に対しコンプライアンスの整備状況についてのアンケート調査を行い,同時に,国内企業に対しても同様のアンケート調査を行って,外資系企業と国内企業のコンプライアンスの状況の違いについて検討を行った(注1)。

また,(2)平成17年独占禁止法改正法の施行等により,企業のコンプライアンスに関する意識がどのように変化したか等について,弁護士に対してアンケート調査を行った(注2)。

公正取引委員会は,平成20年5月に,これらの調査結果を報告書「外資系企業等におけるコンプライアンスの整備状況及び弁護士の立場からみた企業コンプライアンスに関する調査-独占禁止法を中心として-」として取りまとめ,公表した。

(注1)外資系企業に対する調査については,我が国の事業者のうち,資本金5000万円以上かつ外資の比率が49%以上の事業者を中心として,その他一部海外企業の日本支社や在日支店を含めた1,466社(東洋経済新報社刊「2007年 外資系企業総覧」に掲載の主要企業)を対象に,平成19年12月にアンケート調査を実施した。回答数は505社,回答率は34.4%であった。

国内企業に対する調査については,東証一部上場企業のうち,無作為に抽出した326社を対象に平成19年12月にアンケート調査を実施した。回答数は227社,回答率は69.6%であった。

(注2)弁護士に対する調査については,独占禁止法について見識の深い弁護士で構成される任意団体「競争法フォーラム」の協力を得て,平成19年10月,同フォーラムに所属する弁護士を対象にアンケート調査を実施し,26名から回答を得た。なお,本調査は回答数が限られているため,必ずしも弁護士全体又は競争法フォーラムに参加している弁護士全体の考えを示すものとして一般化できるものではない。また,意見については,回答した弁護士個人の意見である。

(2) 調査結果の概要及び考え方

ア 外資系企業等におけるコンプライアンスの整備状況

(ア) コンプライアンスの整備及び組織体制状況等

外資系企業のうち,コンプライアンス・マニュアルの制定,コンプライアンス担当役員の設置等のコンプライアンス体制が整備されているものの割合は,資本金額が低くなるにつれて低下している。

小規模な企業においては,コンプライアンスを担当するような総務・管理部門に多数の人員を配置することが困難等の事情により,コンプライアンス体制の整備が十分なされていないと推測される。公正取引委員会がこれまでに小規模な企業に対して措置を行った事例もあるとおり,小規模な事業者においてもコンプライアンス体制の整備がなされることが望まれる。

(イ) 独占禁止法関係のコンプライアンスの取組

外資系企業において,自社や自社グループ会社における独占禁止法違反に対して危機意識を持っている企業は26%であり,国内企業の59%と比較して大きな差が認められる。また,独占禁止法遵守の規程の制定,独占禁止法の研修の実施,社内監査の実施及びヘルプラインの設置については,いずれも国内企業の方が外資系企業よりもその割合が高くなっている。

これまで外資系企業が独占禁止法違反に問われた事例は多くはないことから,自社や自社グループで独占禁止法違反は起きないという認識が広まっているとも考えられる。しかしながら,法令違反に対する危機意識を持つことは,コンプライアンス体制を整備,維持するに当たっての大きな要因であると考えられることから,実際の違反行為の有無にかかわらず,外資系企業においてもコンプライアンス体制の更なる整備を進めることが望まれる。

(ウ) 独占禁止法関係のコンプライアンスの実効性確保

外資系企業において,独占禁止法違反を発見した場合の対応を決めていないと回答している企業は,全体の50%であった。また,海外における事業所等で競争法違反が発見された場合に日本に所在する事業所に競争法違反の発見に関する情報が入ってくるようになっていると回答している企業は45%であり,そのうち,海外における競争法違反の情報が入ってきた場合に日本に所在する事業所において同様の行為がないか調査を行うこととなっていると回答している企業は67%であった。

独占禁止法に違反する行為が見つかった場合の対応をあらかじめ決めておくことは,問題を早期に解決し,問題の拡大を防ぐために非常に重要であることから,独占禁止法違反が発見された場合の対応について,早急に取り決めておくことが望ましい。また,海外における事業所で競争法違反が発見された場合について,それらの情報を日本に所在する事業所において把握し,日本の事業所において同様の行為がないか調査を行うようなシステムを整備することが望まれる。

自社のコンプライアンスシステムについて,外資系企業の36%及び国内企業の47%が形式的に十分であるとともに実質的にもよく機能していると回答している。他方,コンプライアンスシステムが実質的に機能していないと回答している企業も外資系企業・国内企業が共に30%近くおり,コンプライアンスシステムがいまだ十分に整備されていない企業も多く存在していると考えられる。

外資系企業・国内企業が共に独占禁止法のコンプライアンスの徹底のために最も効果的なことは,経営トップの意識を改善することであると回答している。また,外資系企業・国内企業とも独占禁止法のコンプライアンスに対する経営トップの関与の在り方としては,常日ごろから会議・研修等でコンプライアンスの重視を呼びかけていると回答している企業が最も多い。

経営トップが常日ごろからコンプライアンスの重要性を呼びかけるなど,コンプライアンスに取り組む姿勢を示すことは非常に重要である。今後は,それに加え,経営トップが,法令違反が発見された場合の処理を自ら判断することやコンプライアンス委員会のトップとなること等のより実質的な関与が進むことが期待される。

(エ) 平成17年独占禁止法改正に伴うコンプライアンスの取組の見直し

外資系企業において,平成17年独占禁止法改正法の社内周知については,「特に行わない」との回答が35%を占め一番多い回答となっている。また,課徴金減免制度の利用については,半数近くの企業が「よく分からない」と認識し,「利用することを考えている」とする企業は15%にとどまっている。一方,31%の国内企業が,課徴金減免制度について,「利用することを考えている」と回答している。

コンプライアンス・マニュアルに独占禁止法の遵守に関する内容が含まれていると回答した企業においても,40%の外資系企業及び28%の国内企業が課徴金減免制度の利用については,「よく分からない」と回答している。

課徴金減免制度を利用するかという質問について「よく分からない」と回答した企業については,平成17年独占禁止法改正法の社内周知を「特に行わない」と回答した割合が高くなっている。また,課徴金減免制度の導入がコンプライアンスの向上に役立つかについては,外資系企業及び国内企業とも,「分からない」という回答が一番多くなっている。このことからも,課徴金減免制度の意義の一層の周知を図るとともに,個別事案における実績の積み重ねにより,課徴金減免制度に対する評価が高まることを期待するところである。

(オ) 総括

今回のアンケート調査で得られた結果からみる限りにおいては,外資系企業と国内企業の比較においては,資本金額の違い,業種の構成の違いがあるものの,全体として,外資系企業において,独占禁止法に関するコンプライアンスの整備状況は十分とはいえない結果であったと考えられる。ただし,外資系企業の中には,独占禁止法関係のコンプライアンス体制について形式的には不十分であっても実質的には機能しており,独占禁止法違反が起きないと認識している者が多いことから,コンプライアンス体制を形式的に整備することより,実質的に機能していることを重視しているとも考えられる。

中小企業の外資系企業について調査を実施したが,企業の規模が小さくなるにつれてコンプライアンスの体制整備が進んでいない傾向にあった。中小企業については,コンプライアンスの体制整備に関する負担が大企業よりも大きく,体制整備が進みにくいとは考えられるものの,コンプライアンス・マニュアルの制定,コンプライアンス担当者の設置等,比較的負担の少ない事項の対応から始めるなどの取組も考えられる。他方,外資系企業のうち大企業については,中小企業と比較してコンプライアンスの体制整備は進んでいるものの,国内企業と比較して,体制整備が進んでいない状況が確認されたため,今後の更なる体制整備が望まれる。

国内企業については,平成18年1月に東証一部上場企業に対して実施したアンケート調査と比較して,約2年間でコンプライアンスの体制整備が進んでいたことは確認されたが,上場企業に対し公正取引委員会が法的措置を採った事例は続いており,コンプライアンス体制が実質的に十分機能しているとはいい難い状況といえる。

公正取引委員会としては,今後も,企業におけるコンプライアンス体制の更なる整備を求めることとし,それが形式的な体制整備にとどまらず,より実効性のある取組が推進されることとなるよう期待するところである。

イ 弁護士の立場からみた企業コンプライアンスに関する調査

(ア) 企業コンプライアンスに関する弁護士の認識及び平成17年独占禁止法改正に伴う企業のコンプライアンスに関する認識の変化

企業における独占禁止法関係のコンプライアンスの全体的な取組については,本調査への協力が得られた弁護士のうち,54%が「形式的には十分であるが,あまり機能していない」,35%が「形式的にも実質的にも不十分である」と回答している。これに対して,企業に対する調査においては,自社のコンプライアンスの取組に対する評価について,12%の外資系企業及び16%の国内企業が「形式的には十分であるが,あまり機能していない」と回答し,21%の外資系企業及び16%の国内企業が「形式的にも実質的にも不十分である」と回答しており,企業側の認識に比べて,弁護士は厳しい見方を示している。

平成17年独占禁止法改正法の施行以降の企業における独占禁止法関係のコンプライアンスについての対応の変化については,本調査への協力が得られた弁護士のうち,46%が「一部の企業で変化があった」,23%が「ほとんどすべての企業で変化があった」,23%が「約半数の企業で変化があった」と回答している。また,企業の対応の変化の内容については,73%が「コンプライアンス・マニュアルの作成等に関する相談が増えた」,42%が「課徴金減免申請に関する相談が増えた」などと回答している(複数回答)。

(イ) 課徴金減免制度に関する評価等

企業において,社内監査等で独占禁止法違反が見つかった場合,課徴金減免制度を利用すべきかについては,本調査への協力が得られた弁護士のうち,81%が「利用すべきと考える」と回答している。また,課徴金減免制度が企業コンプライアンスの向上に役立つかについては,85%が「役立つと考える」と回答している。

課徴金減免制度に関してアンケートから得られた主な意見は,以下のとおりである(アンケートに記載のとおり)。

a 減免制度は有効に機能しつつあると思うが,課徴金の額が低すぎて「ありがたみ」が少ない。

b グループ会社の申請を一つとして取り扱って欲しい。

c 減免が出るまでの証拠資料の提出負担の軽減。

(ウ) 企業における独占禁止法関係のコンプライアンスが有効に機能するために留意している点等

独占禁止法関係のコンプライアンスに関してアンケートから得られた主な意見は,以下のとおりである(アンケートに記載のとおり)。

a 社内のコンプライアンス担当部署,担当者が社内における信頼を得るためには,まず(1)トップの意思を明示的に示してもらうこと,(2)それに基づいて機能していることの啓蒙を重ねることが必要と考える。現によく機能している企業は,その連携が良く,ここに弁護士が協力する形で効果が得られている。

b 業種ごと,企業ごとに独占禁止法上の問題が発生する原因,場面は異なることから,形式的に独占禁止法に関するコンプライアンス・トレーニングを実施したり,一般的なプログラムを作成するのではなく,各社の事業活動の問題点に応じたオーダーメイド的なコンプライアンス活動を行うこと。

c 会社の関係者と話をするたびに,独占禁止法コンプライアンスの重要性を指摘するが,実際に営業現場の意識を変えるのは難しいというのが実感。コンプライアンス講習をしてもあまりピンと来ている風はない。もっと思い切った課徴金の増額とリニエンシー制度の活用による摘発の強化(いわば「飴と鞭」政策)なくして,実際の「現場の変化」は期待できないのではないかと思う。

d カルテル行為は日本経済・営業行動に浸み込んでいるので,トップから余程意識改革をしないと,あるいは実際摘発され痛い目を見ないと,コンプライアンスの実を上げられないように思われる。

e マニュアル重視主義からの脱却。実質的意義のあるマニュアル(従業員が内容を平易に理解し,どのような行動をとれば良いか分かる)の作成。

f トップの決意表明の重要性。

g 従業員が独占禁止法違反を行えば,それが社内で必ず発覚する仕組みを作ることの重要性。個々の従業員が「やったらばれる。ばれたら損をする。だからやらない」仕組みの構築。

h 会社全体で違反行為を行っている事例は激減したが,一部従業員が秘密裡に参加している事例は相変わらず存在する。こうした事例に適切に対処するための方策を制度として立案し,社内でトップを中心に実行していくことが大変である。

i カルテル・入札談合に対応したマニュアルの整備は各社とも進んでいるように思われるが,そこから一歩進んで実効性を持たせるための対応が難しいように思われる。

3 「企業におけるコンプライアンス体制の整備状況に関する調査-独占禁止法改正法施行(平成18年1月)以降の状況-」について

(1) 調査の趣旨・対象等

公正取引委員会は,平成17年度に,東証一部上場企業約1,700社に対して,独占禁止法を中心とした企業におけるコンプライアンス体制の整備状況と課題についてアンケート調査等を実施し,平成18年5月,「企業におけるコンプライアンス体制について-独占禁止法を中心とした整備状況と課題-」を公表した(以下「平成18年調査」という。)。

また,平成20年度においては,平成17年独占禁止法改正法により課徴金減免制度が利用され始めてから約3年が経過していること等を踏まえ,平成18年調査のフォローアップ調査を行い,その結果と今後の課題を取りまとめ,平成21年3月に「企業におけるコンプライアンス体制の整備状況に関する調査-独占禁止法改正法施行(平成18年1月)以降の状況-」として公表した(以下「平成20年調査」という。)(注)。

(注)平成20年調査は,東証一部上場企業1,738社に対してアンケートを送付し実施した。回答数は1,041社,回答率は59.9パーセントであった。なお,平成18年調査は,東証一部上場企業1,696社にアンケートを送付し,回答数は1,214社,回答率は71.6パーセントであった。

(2) 平成18年調査における指摘事項に対する現状とその評価

ア 平成18年調査における指摘事項

(ア) コンプライアンス・マニュアル策定等の体制整備について等

コンプライアンス・マニュアル策定,コンプライアンス委員会,ヘルプライン等の体制については,調査対象とした一部上場企業の7,8割程度で整備されていたが,これらが実施されたのは比較的近年であり,実際の利用状況が低いなど実質的なコンプライアンスの向上はこれからの課題であること。

(イ) コンプライアンスの取組への経営トップの関与について

今後,企業コンプライアンスを改善していくためには,(1)経営トップの意識・行動の改革,(2)社員の意識向上・内部統制の充実の両面について,経営トップが取り組んでいくことが重要であること。

(ウ) 企業における独占禁止法等違反に対する危機意識及び独占禁止法等に関する研修・監査の実施状況について

独占禁止法については,約半数の企業がその違反の可能性があるという危機意識を有しているものの,独占禁止法の研修・監査は十分行われているとはいい難く,社員の意識向上あるいは内部統制の充実のための企業の施策が強く望まれること。

(エ) 課徴金減免制度の利用について

平成17年独占禁止法改正法により課徴金減免制度が導入されたことを受けて社内監査が行われたと回答している企業は,7%と極めて少ない状況にあり,また,課徴金減免制度を活用したいと考えている企業は約4分の1にとどまっているが,実際の事例が生じるにつれて,問題意識も高まってくるのではないかと期待されること。

イ 平成18年調査の指摘事項に対する現状とその評価

(ア) コンプライアンス・マニュアル策定等の体制整備について

コンプライアンス・マニュアル策定,コンプライアンス委員会及びヘルプライン等の体制の整備については,すべての項目において,平成18年調査と比較して整備されたと回答している企業の割合が約10%増加しており,平成18年調査以降,約3年間で企業におけるコンプライアンス体制の整備が進んだものと評価できる。

しかし,ヘルプライン等の利用状況については,独占禁止法等に関する相談・通報についての利用がないという企業の割合は低下しているものの,いまだに利用がない企業も多い。現在,企業においてもヘルプライン等を利用しやすいものとするための取組が進められているところであるが,今後もより一層利用しやすいものとするための努力を継続することが望まれる。

(イ) コンプライアンスの取組への経営トップの関与について

平成20年調査は,平成18年調査と比較して,すべての質問項目において,コンプライアンスの取組に関する経営トップの関与の割合がわずかながらも増加しているとの結果を示しており,この点は評価できる。

企業におけるコンプライアンスの推進において,経営トップの関与は非常に重要なものと考えられることから,経営トップにおいては今後も更なる関与を進めることが望まれる。

なお,社団法人日本経済団体連合会で定められた「企業行動憲章」(平成16年5月18日最終改定)においても,「経営トップは,本憲章の精神の実現が自らの役割であることを認識し,率先垂範の上,社内に徹底するとともに,グループ企業や取引先に周知させる。」,「本憲章に反するような事態が発生したときには,経営トップ自らが問題解決に当たる姿勢を内外に明らかにし,原因究明,再発防止に努める。」など,コンプライアンスの取組への経営トップの関与についての定めがある。

(ウ) 企業における独占禁止法等違反に対する危機意識及び独占禁止法等に関する研修・監査の実施状況について

独占禁止法等違反に関して危機意識を持っている企業の割合は,平成18年調査と比較して大きく増加し,それに伴って,独占禁止法等に関する研修・監査を実施している企業の割合も増加しており,企業が危機意識を持つことによって体制の整備が進んだものと評価できる。

(エ) 課徴金減免制度の利用について

課徴金減免制度の利用については,自社で独占禁止法違反行為が発見された場合に,課徴金減免制度を利用したいと考えている企業の割合は増加している一方で,約半数の企業が利用するかよく分からないと回答している。企業においては,平成18年1月の課徴金減免制度導入後の事例を踏まえて,独占禁止法違反行為が見つかった際の対応をあらかじめ検討するに当たっては,課徴金減免制度の積極的な利用について検討することが望まれる。

(3) 今後の課題

平成18年調査以降,上場企業においては,コンプライアンス全般に対する取組及び独占禁止法等関係のコンプライアンスに対する取組のいずれに関しても,全体として体制の整備は大きく進んでいるものと考えられる。コンプライアンスに対する取組については,体制の整備がなされた後は,当該体制が効果的に運営されるよう工夫することや,体制をより具体的で実態に即したものに整えていくことが課題になると思われる。

これらの課題については,前記(2)イ「平成18年調査の指摘事項に対する現状とその評価」で指摘した事項のほか,以下のような対応策を採ることが望ましいと考えられる。

(1) 経営トップ自らが,従業員に対しコンプライアンスの重要性を呼びかけること。

(2) 業界団体の会合への参加に関して,独占禁止法違反の未然防止の観点から具体的な留意事項等を定めて従業員に周知すること。

(3) 自主申告が社内処分の軽減の考慮事項となるケースを明示し,その旨を周知するなど,従業員が違反行為を自発的に相談・申告することが可能となる仕組みを構築すること。

(4) 違反行為が推認されるような場合に,必要に応じて実効性の高い社内監査を実施すること。

(5) 社内で独占禁止法等違反行為を発見した場合は,経営トップに報告を行うとともに,企業の社会的責任を果たすとの観点から,社内の情報伝達及び社内での対策の検討にとどまらず,行政当局への通報等を含めた全体的な対応を採ること。

(6) 自社及び傘下のグループ企業における独占禁止法等違反による法的措置について,有価証券報告書及び事業報告へ記載することにより自主的に公表すること。

第6 公共調達制度改革への取組

1 公共調達における改革の取組・推進に関する検討会の実施

公正取引委員会は,従来から入札談合防止の観点から地方公共団体等の発注機関における入札制度改革やコンプライアンス向上の取組(以下「入札制度改革等」という。)についてアンケート調査等を実施し,公共調達に関して競争政策上望ましい方向性について考え方を提示してきたところである。

しかしながら,入札制度改革等については,基本的に各発注機関が独自に検討を進めているものであり,各発注機関でいまだ試行錯誤を繰り返している状況ではないかと思われる。

そこで,公正取引委員会では,国・都道府県・市・政府出資法人の担当職員及び有識者の参加を得て,(1)各発注機関におけるコンプライアンス向上の取組について意見交換を行うとともに,(2)各発注機関における入札制度改革とそれに伴う問題点への対応について,検討を行うことにより,実効的な取組を更に推進することを目的として,「公共調達における改革の取組・推進に関する検討会」(以下「検討会」という。)を開催(注)し,その検討結果を報告書として取りまとめ,平成20年5月に公表した。

(注)検討会の開催状況は,第7表のとおりである。

第7表 検討会の開催状況

2 検討結果を踏まえた考え方

(1) 発注機関におけるコンプライアンス向上の取組について

「コンプライアンスの向上の取組」については,官製談合等の違反行為を起こさないための取組と,違反行為が起きた場合に発注機関としてできるだけ早期に対処するための取組を,相互に連携させながら進めていくことが重要である。また,コンプライアンスを向上させるための取組においては,担当部門の設置,マニュアルの制定,内部通報制度の整備等の制度面の整備も重要であると考えられるが,制度面の整備にとどまらず,これらの制度が有効に活用され,職員一人一人にコンプライアンス意識が浸透するような取組が推進されることを期待するところである。

公正取引委員会は,従来から,発注機関におけるコンプライアンスの向上策等の取組に関する実態調査,発注機関が開催する独占禁止法及び入札談合等関与行為防止法の研修会への講師の派遣等を積極的に行っているところであり,今後も発注機関におけるコンプライアンスを向上させるための取組の支援を積極的に行っていく所存である。

(2) 入札制度改革とそれに伴う問題点への対応について

ア 総合評価方式の導入について

公共調達において,価格以外の品質要素を発注機関が適正に判断できる体制を整備していくことは,公共調達市場における重要な課題である。

このため,国においては,調達に関する総合評価方式を拡充し,併せて,地方公共団体向けの総合評価実施マニュアルの改定,発注者支援技術者制度の全国統一化等を行うことにより,総合評価方式の導入・拡大を進めていく施策が図られている。

公正取引委員会としては,総合評価方式については,審査及び評価において公正性と透明性が確保されることが重要であると考えている。総合評価方式の導入に当たっては,価格以外の品質要素を発注者が適正に判断できる体制を整備するとともに,入札参加事業者において,評価に関して「恣意的である」等の疑念が生じることのないよう客観的に評価する実施方法を整備することが望まれる。

イ 地元事業者の育成と公正な競争の確保について

発注機関が地域要件の設定を課す際に,地元事業者の受注の「機会」の確保にとどまらず,「結果」の確保まで配慮された運用が行われる場合は,地元事業者の競争的な体質を弱め,地元事業者の健全な育成を阻害する結果となってしまうものと考えられる。このため,公正取引委員会としては,地域要件については一定数以上の事業者の入札参加が期待できる場合に課すなど,入札参加者の固定化の防止や十分な入札参加者の確保に配慮した運用が必要との考えを示してきたところである。

今回の検討会において発注機関から紹介された事例については,いずれも地域要件の設定に関し,競争性を確保するための工夫がみられたところであり,今後もこのような取組が進んでいくことが期待される。

ウ 1社入札,入札不成立の問題について

1社入札,入札不成立の問題については,予定価格と事業者側の積算価格とがかい離している,事業者に入札情報が行き渡っていないなどの要因が考えられるところである。

一般競争入札の拡大により,事業者においては,入札物件の取捨選択が可能になったことから,事業者にとって有利な物件とそうでない物件において,入札状況に差がみられるようになったと考えられる。入札において入札者が1社しかいない又は入札者がいない場合であっても,潜在的には競争があるとみることもできる。したがって,発注機関においては,発注前に物件ごとの状況をより詳細に分析し,それぞれの物件に即した予定価格や工期等の入札条件を決定すること等により,競争を顕在化させるような工夫を行い,入札においてより競争性が生じるような取組を進めることが期待される。

また,入札情報が行き渡っていないことによる1社入札,入札者なしによる入札不成立については,まずは,事業者において入札情報は自ら入手すべきものであるとの意識改革が必要と考えられるところではあるが,発注機関においても,事業者が入札情報を入手しやすいシステムを整備するなどの取組を進めることが期待される。

第7 アニメーション産業に関する実態調査

1 調査の趣旨等

(1) 調査の趣旨

我が国のアニメーション作品は,絵,ストーリー,技術等の質の高さから,国内のみならず海外においても高く評価されており,国際競争力のある有力なコンテンツの一つとして数えられている。しかし,海外の制作会社に発注する大手制作プロダクションの増加や,従来のアニメーションクリエーター育成過程の空洞化など,業界全体の将来像としては必ずしも楽観視できる状況にはないことが指摘されている。

他方,アニメーション作品の企画,制作については,テレビ局,製作委員会等の発注者から,元請制作会社,下請制作会社へと転々と再委託が行われる多層構造にあることや,再委託を受ける制作会社は小規模な事業者が多いこと等が指摘されている。このような状況の下,仮に,個々の委託・再委託取引の中で取引上の問題があったとしても,それが顕在化することは期待しにくいと考えられる。

そこで,公正取引委員会は,アニメーション産業の構造,取引実態及び取引慣行について,独占禁止法(優越的地位の濫用等)及び下請法の観点から提言を行うことを目的として,平成21年1月,調査報告書を公表した。同報告書の概要は後記2から5までのとおりである。

(2) 調査の対象・方法

アニメーション作品の制作会社を対象にアンケート及びヒアリング調査を,テレビ局,広告代理店,DVD販売会社,関係団体等を対象にヒアリング調査を行った。

2 アニメーション産業の構造

(1) アニメーションとは

アニメーション(以下「アニメ」という。)とは,広義には,動作や形が少しずつ異なる多くの絵や人形を一コマずつ撮影し,映写したときに画像が連続して動いて見えるようにする技術のことをいい,様々な種類のものが存在する(注)。

我が国では,昭和30年代後半以降,数多くのアニメ作品が制作されたが,そのほとんどはセルアニメであった。セルアニメとは,動かない背景画の上に,セル画と呼ばれる透明なフィルムシート上に部分的な描写を変化させて動きを描いた絵を重ねて撮影するものである。また,1990年代に入ると,コンピュータにスキャナで絵を取り込み,あるいは,コンピュータ上で二次元画像・三次元画像を作成し,デジタル処理により動画を作成する技術が普及し,従来のセルアニメをこの技術に置き換えたデジタルアニメも登場した。この実態調査は,セルアニメ及びデジタルアニメを中心として行った。

(注)アニメの主な種類としては,セル画をコマ撮りした「セルアニメ」や,粘土で作った人形・構造物をコマ撮りした「クレイアニメ」,コンピュータ上で画像を動画処理した「デジタルアニメ」などがある。

(2) アニメ作品の一次利用と二次利用

アニメ作品の利用形態には,地上波テレビ放映や劇場公開など当該アニメ作品の本来の製作目的に沿った利用(一次利用)のほか,それとは異なる目的とした利用(二次利用)が存在する。二次利用の形態は様々である(第8表参照)。

第8表 アニメ作品の二次利用の具体例

(3) 市場構造

公正取引委員会が行ったアンケート調査によれば,制作に際しては,元請制作会社からの下請制作会社への再委託が広く行われている。また,アニメ制作会社は,中小企業がその大半を占めている(第9表参照)。

第9表 アンケートに回答した制作会社の資本金と従業員数の分布

3 アニメ制作の取引の流れ

(1) テレビアニメ作品

テレビアニメ作品に係るテレビ局と制作会社との取引形態は,DVD販売会社,玩具会社,出版社等のアニメ制作関係者が出資して製作委員会を設立する取引形態と,製作委員会を設立せずにテレビ局等が元請制作会社に発注する取引形態の二つに大きく分けられる(図参照)。現在は前者の方式によるアニメ番組制作が最も一般的な取引形態であるが,これは1990年代後半以降増えてきた方式であり,それまでは後者の方式が一般的であった(以下,前者の製作委員会を設立する取引形態を「製作委員会方式」といい,後者の製作委員会を設立しない従来からの取引形態を「従来方式」という。)。

図 製作委員会方式と従来方式の違い

(2) 劇場アニメ作品・OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)

アニメ作品には,このほか,劇場での放映を本来の目的として制作された作品(劇場アニメ作品),DVD販売を主たる目的として制作された作品(OVA〔オリジナル・ビデオ・アニメ〕)が存在し,いずれも,主に製作委員会方式で制作されている。

4 アニメ制作の取引上の問題点及び独占禁止法・下請法上の評価

(1) 発注者の受託者に対する取引上の地位

発注者が受託制作会社に対して取引上優越した地位にあるか否かは,その時々の取引環境によって様々であり,一律に判断することはできない(「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」〔平成10年3月公表。以下「役務委託取引ガイドライン」という。〕第1の2)。しかしながら,(1)委託取引の一般的な特性として,発注者が受託者に対して製作を委託した成果物は,発注者の仕様等に基づいた特殊なものが多く,汎用性のある商品とは異なり,発注者が成果物を受領しない場合には受託者がその成果物を他社に転売することは不可能であること,(2)テレビ局と元請制作会社の取引については,現在の我が国において全国にあまねく知らせる上で地上波テレビほど強力な媒体はなく,地上波テレビ局で放映されるか否かは,DVD販売を始めとするアニメ作品の売上を大きく左右することとなること,(3)元請制作会社と下請制作会社の取引については,下請制作会社は小規模な事業者が多いといったことや,売上の大半を特定の事業者からの受託に依存しているケースが見受けられたこと等の事情にかんがみると,テレビ局や元請制作会社などの発注者の取引上の地位は,受託制作会社に対して優位にあることが多いと考えられる。

(2) 取引条件についての協議の状況

ア 実態

公正取引委員会が行ったアンケートでは,制作会社からの「発注者から一方的に低い対価を押し付けられる」との回答が目立った。また,著作権の帰属や二次利用収益の配分などの取引条件については,「いつも交渉している」との回答は全体の半分にも満たなかった。

取引条件について十分な交渉を行っているか否かは,発注者と受託者の認識に大きな開きがあった。例えば,制作会社間の再委託取引について,発注者の3分の2が「いつも交渉している」と回答したのに対し,受託者の立場では,過半数が,「全く交渉していない」,「一方的に著しく低い対価を押し付けられた」と回答した。また,制作会社間の取引において支払われる制作費の水準について,発注者の7割が「制作費を十分補える金額を支払っている」と回答したのに対し,受託者の立場では,6割が制作費の水準に不満を持っていると回答するなど,取引条件に対する意識の差が大きく現れる結果となった。

イ 評価

受託制作会社の制作費に対する不満は多いが,制作費の決定に関して優越的地位の濫用や下請法上の問題となるかどうかは,受託制作会社と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法等にポイントが置かれて総合的に判断される(役務委託取引ガイドライン第2の3)。このため,アニメ制作の発注に際し,制作費の額を決定するに当たっては,発注者は,受託制作会社の事情を十分考慮し,協議を尽くすことが重要である。発注者が受託制作会社に対して十分な協議を行うことは,取引条件の改善に資するものであるが,十分な協議を行ったか否かについての発注者と受託制作会社の認識の差は大きく,発注者においては,受託制作会社と取引条件を交渉する際に,十分な協議が行われるように一層努めることが求められる。

(3) 発注書面等の交付

ア 実態

公正取引委員会が行ったアンケート及びヒアリングの結果,特に,制作会社間の取引において発注書面等の交付が行われていない例が見受けられた。

さらに,公正取引委員会が行ったアンケートの回答を発注書面等を必ず受領するグループとそうでないグループに分けて比較した。この結果,後者の発注書面等の交付が確実にはなされていないとみられるグループの方が,不利益を与え得る「発注取消し」,「発注内容の変更」,「やり直し」,「代金減額」を受けた経験があると回答する割合が高く,前者の発注書面等の交付が確実になされている制作会社ほど,「発注者から不利益を与え得る行為を受けた経験がある」と回答する割合が低い傾向にあった。

なお,ヒアリングでは,いくつかの元請制作会社から,「契約内容にお互い縛られることとなるため,受託制作会社も発注書面等の交付を望んでいない」との指摘も聞かれたが,公正取引委員会が行った受託制作会社に対するアンケートでは,回答者の大半が発注書面等の交付を望むとしていた。

イ 評価

契約条件が曖昧になることにより受託制作会社に不当な不利益を与えることを防止するためにも,事前に発注書面等を交付することは極めて重要である。また,下請法の適用を受ける取引にあっては,発注書面等の交付が義務付けられている。したがって,たとえアニメ制作委託の特質上,必要記載事項をすべて事前に発注書面等に記載することが不可能な場合であっても,当初書面に記載できることについては確実に記載した上で発注時に交付し,遅くとも納入日までには補充書面を含めた発注書面等を下請事業者に交付することが必要である(下請法第3条)。

(4) 発注後の取引の在り方

ア 実態

公正取引委員会が行ったアンケートにおいて,「受託制作会社の責めに帰すべき理由がないのに,プロジェクトや企画の中止・延期等を理由として,発注者から発注が取り消され,制作会社がそれまでにかかった費用を負担させられた」などとする回答が22件あった。また,「プロジェクトや企画の変更,原作者・演出・監督の意向等を理由として,制作内容の変更が行われたり,発注内容どおりに制作・納入したにもかかわらず発注した内容と違う物で納入し直すように求められ,追加的に生じた費用も受託制作会社が負担した」などとする回答が93件あった。このような回答は,製作委員会方式の受託,従来方式の受託及び制作会社からの再受託のいずれについても見受けられた。また,元請制作会社に対してアニメ作品を納入したところ,あらかじめ定められた額から減額されて支払をされたことがあるとする回答が多かったが,その原因として,発注者の予算や財務の状況を挙げるものが多かった。その他,「発注者側の責任による制作遅延であるにもかかわらず,契約書で定めた納期に遅れたとの理由で代金が減額される」といった指摘がみられた。

イ 評価

受託制作会社の責めに帰すべき理由がないのに,発注取消しや発注内容の変更,やり直しをさせ,又はあらかじめ定めた代金を減額し,受託制作会社に不当な不利益を与えることは,優越的地位の濫用や下請法上の問題を生じやすい。また,原作者,監督の意向やテレビ局の事情等により,やむを得ず発注内容の変更や追加をする場合であっても,それまでにかかった費用や,追加的に生じた費用を発注者が負担しないことは,受託制作会社に不利益を与えることとなりやすい(役務委託取引ガイドライン第2の4)。

特に,下請法の適用を受ける取引にあっては,代金減額は,下請事業者の責めに帰すべき理由がない限り,減額の名目,方法,金額の多少,受託した下請事業者の同意の有無を問わず,違反となる点に注意が必要である(下請法第4条第1項第3号)。

(5) 著作権の帰属と二次利用の在り方

ア 実態

著作権の帰属については,公正取引委員会が行ったアンケートの結果,製作委員会方式の受託では4分の3が,また,従来方式の受託についても過半数が発注者の単独所有となっていた。逆に,受託制作会社の単独所有になっているとの回答はほとんどなかった。また,制作会社からの再受託では,再受託制作会社が著作権を持っている例は,共有も含めてほとんどなかった。

このような著作権の帰属の実態について「不満である」と回答した元請制作会社の割合は,製作委員会方式では3割,従来方式では半数近くに上るなど,元請制作会社の不満が目立つ状況にある。他方で,著作権の帰属について発注者と「いつも交渉している」と回答した元請制作会社の割合は,6割程度にとどまっていた。

また,受託制作会社が二次利用収益の配分を受けていない例も多く,従来方式では受託制作会社の5割超,制作会社からの再受託における受託制作会社の9割超が「配分を受けていない」と回答した。これに対して,製作委員会方式では9割近くの受託制作会社が「配分を受けている」と回答したが,このうち4割は「製作委員会に出資している場合のみ配分を受けられる」とするものであった。また,二次利用収益の配分を受けている場合についても,3割の受託制作会社はその水準について不満がある旨回答していた。

その他,テレビ局が二次利用許諾の窓口業務の主体となることを一方的に要求する,窓口手数料や局印税が高額である,二次利用の促進に向けた活動が活発でないなどの指摘があった。

イ 評価

発注者と受託制作会社がアニメ制作を行うに当たっては,両者の間で協議を行い,どちらに「発意と責任」が存在し著作権法上の権利が生じるのか十分な検討を加えた上で,これを踏まえて,著作権をどちらに帰属させるのか,権利の移転を伴う場合にはその対価をどのようにするのかについて十分に話し合うことが必要不可欠である。その際,競争政策の観点から,アニメ制作者のアニメ作品に対する創作意欲を刺激し,質の高い新たなアニメ作品を生み出すインセンティブが制作者にもたらされるとともに,二次利用が活発に行われるようになるかどうかという視点が重要である。

また,取引上優越した地位にある発注者がその地位を不当に利用して窓口業務の主体となることは,優越的地位の濫用として問題となり得るものであり,窓口業務を行う主体について事前に明確にしておくことが必要である。

さらに,取引上優越した地位にある発注者が,窓口手数料や局印税を一方的に要求することは,受託制作会社に対して不当に不利益を与えることになりやすく,優越的地位の濫用の問題を生じやすい。

5 公正取引委員会の対応

公正取引委員会は,調査報告書の公表と同時に,この調査結果を踏まえ,関係業界に対して,アニメの制作の発注において独占禁止法・下請法の問題がないか点検することや,独占禁止法・下請法違反行為の未然防止のために発注時における取引条件の十分な協議や書面交付を徹底することを求めるとともに,アニメ制作の取引が適正に行われるよう,引き続きその取引実態について注視していくこととしている。