第13章 国際関係業務

第1 独占禁止協力協定

近年,企業活動のグローバル化の進展に伴い,複数国の競争法に抵触する事案,一国による競争法の執行活動が他国の利益に影響を及ぼし得る事案等が増加するなど,執行活動の国際化及び競争当局間の協力・連携の強化の必要性が高まっている。公正取引委員会は,二国間独占禁止協力協定等を通じ,海外競争当局との協力関係の強化に努めている。

1 日米独占禁止協力協定

日本国政府は,米国政府との間で,平成11年10月7日に「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」に署名し,同協定は同日に発効した。同協定は,両政府の競争当局間における執行活動に係る通報,協力,調整,執行活動の要請,重要な利益の考慮等を規定している。公正取引委員会は,同協定に基づき執行活動等に関する通報を行う等米国競争当局と緊密な協力を行っている。

2 日欧州共同体独占禁止協力協定

日本国政府は,欧州共同体との間で,平成15年7月10日に「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定」に署名し,同協定は同年8月9日に発効した。同協定は,前記日米独占禁止協力協定とほぼ同様の内容となっており,公正取引委員会は,同協定に基づき執行活動等に関する通報を行う等欧州競争当局と緊密な協力を行っている。

3 日加独占禁止協力協定

日本国政府は,カナダ政府との間で,平成17年9月6日に「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とカナダ政府との間の協定」に署名し,同協定は同年10月6日に発効した。同協定は,前記日米独占禁止協力協定とほぼ同様の内容となっており,公正取引委員会は,同協定に基づき執行活動等に関する通報を行う等カナダ競争当局と緊密な協力を行っている。

第2 競争当局間協議

公正取引委員会は,我が国と経済的交流が特に活発な国・地域の競争当局との間で競争政策に関する協議を定期的に行っている。平成20年度における協議の開催状況は,次のとおりである。

第1表 平成20年度における競争当局間協議

第3 経済連携協定への取組

近年における経済のグローバル化の進展と並行して,地域貿易の強化のため経済連携協定や自由貿易協定の締結の動きが活発化し,現在,世界の多くの国がこのような協定を締結している状況にある。特に,東アジア地域においては,経済取引の拡大とともに,経済相互依存関係が急速に深化し,我が国においても,同地域内における協力の強化が重要な対外政策上の課題となっている。

競争政策の観点からは,経済連携協定が市場における競争を一層促進するものとなることが重要であり,公正取引委員会は,競争政策の推進を経済連携協定の重要な要素の一つとして積極的に位置付けている。また,貿易・投資の自由化による競争促進効果が損なわれないようにするために,各国が反競争的行為に適切に対応することが不可欠である。我が国がこれまでに締結した経済連携協定のうち,次の協定には,競争に関する規定が設けられ,両国が反競争的行為に対する規制の分野において協力することが盛り込まれている。

第2表 我が国がこれまでに締結した経済連携協定のうち競争に関する規定が設けられているもの

第4 その他の二国間協議への対応

1 日米間の二国間協議

日米両国政府は,平成13年6月に新たな経済関係の枠組みである「成長のための日米経済パートナーシップ」の立上げを発表し,競争政策に関しては,同パートナーシップの下の「規制改革及び競争政策イニシアティブ」において議論を行ってきている。公正取引委員会は,同イニシアティブの下の競争政策に関する事項を担当している。

平成20年7月5日には,「日米間の『規制改革及び競争政策イニシアティブ』に関する日米両国首脳への第7回報告書」が公表され,競争政策に係る事項として,独占禁止法の執行及び抑止力の強化,課徴金減免制度の活用,審判制度の見直し,官製談合の防止等が明記された。また,日米両国政府は,平成20年10月15日にそれぞれ相手国政府に対し要望書を提出した。競争政策の分野においては,日本国政府は,反トラスト法の適用除外制度の見直しを求め,米国政府は,独占禁止法の順守及び抑止力の改善,公正取引委員会の手続の公平性及び透明性の改善,談合への対応等を求めた。これらの要望に関し,分野横断の作業部会の場において,両国が取組等を説明した。

2 その他の二国間協議

日EU規制改革対話等その他の二国間協議について,公正取引委員会は,競争政策の観点から,必要に応じ対応している。

第5 多国間関係

1 経済協力開発機構(OECD)

(1) 競争委員会(COMP:Competition Committee)

ア 競争委員会は,OECDに設けられている各種委員会の一つであり,昭和36年12月に設立された制限的商慣行専門家委員会が昭和62年に競争法・政策委員会に改組され,平成13年12月から現在の名称に変更されたものである。我が国は,昭和39年のOECD加盟以来,その活動に参加してきており,公正取引委員会は,同年10月の会合以降,これに参加してきている。競争委員会は,本会合のほか,その下に各種の作業部会及び競争に関するグローバルフォーラムを設け,随時会合を行っている。本会合においては,各加盟国の競争政策に関する年次報告が行われているほか,各作業部会の報告書の検討,各加盟国に対する規制改革国別審査等,その時々の重要課題について討議が行われている。平成20年度における会議の開催状況は,次のとおりであり,公正取引委員会は,すべての会合に出席した。

第3表 平成20年度における競争委員会の開催状況

イ 平成20年6月の第103回本会合においては,ベルギー,スロバキア,ブラジル及びルーマニアが年次報告に基づいて説明を行ったほか,イタリアに対する規制改革審査のモニタリング審査が行われた。また,市場調査,建設業における競争上の問題に関するラウンドテーブル討議が開催された。同年10月の第104回本会合においては,ドイツ,イタリア,ノルウェー,スペイン,スロベニア及び南アフリカが年次報告に基づいて説明を行ったほか,再販売価格維持行為,買い手独占及び買手力に関するラウンドテーブル討議が開催された。平成21年2月の第105回本会合においては,現下の世界的な経済・金融危機に対処するための競争と金融市場に関する特別セッションが設けられ,(1)金融セクターの競争条件と競争政策,(2)金融セクターの救済・再構築における競争政策の役割,(3)経済収縮期における競争政策の課題,(4)今般の金融セクターの問題への競争法,競争プロセス及び制度の適応の4つを議題とするラウンドテーブル討議が開催された。

ウ 競争委員会に属する各作業部会及び競争に関するグローバルフォーラムの平成20年度における主要な活動は,次のとおりである。

(ア) 第2作業部会では,平成20年6月の会合においては,競争評価ツールキットの改正について議論され,同年10月の会合においては,ガソリン小売における垂直関係に対する競争政策に関するラウンドテーブル討議が開催されたほか,競争評価に関する理事会勧告案について議論された。

(イ) 第3作業部会では,平成20年6月の会合においては,一括割引・リベート及び忠誠割引・リベートに関するラウンドテーブル討議が開催され,同年10月の会合においては,国際カルテル事件における和解手続の経験,国際カルテル事件における管轄権問題に関するラウンドテーブル討議が開催されたほか,入札談合を防止するための公共調達担当官向けのチェックリストについて議論された。

(ウ) 競争に関するグローバルフォーラムでは,平成21年2月の会合において,競争政策,産業政策及びナショナルチャンピオン,競争政策とインフォーマルエコノミー,経験の浅い当局が直面する課題及び経済危機に対する競争当局の役割について議論された。

(2) 消費者政策委員会(CCP:Committee on Consumer Policy)

消費者政策委員会は,加盟国の消費者行政についての情報交換及び調査・検討のための国際協力の場として,昭和44年に設置された。消費者政策委員会は,通例年2回本会合を開催するほか,各種の作業部会等を設けて随時電話会議を開催するなどの活動を行っている。平成21年5月末現在,同委員会の下には,電子商取引に係る作業部会,消費者製品安全に係る作業部会,消費者政策のための経済学に係る作業部会,消費者教育に係る作業部会及び産業主導の規制に係る作業部会が設置されている。

平成20年度においては,同年10月21日から同月22日にかけて第76回本会合が,平成21年3月30日から同年4月1日にかけて第77回本会合が開催され,公正取引委員会はこれらの会合に出席した。これらの会合においては,消費者政策の観点からの現下の世界的な金融・経済危機への対応,電子商取引に係る消費者保護ガイドライン(平成11年制定)の検証,消費者政策のための経済学ツールキット,消費者教育におけるベストプラクティス,消費者製品安全分野における国際協力,持続的な消費へ向けた取組等について検討が行われた。

2 国際競争ネットワーク(ICN:International Competition Network)

(1) ICNの概要

ICNは,競争法執行における手続面及び実体面の収れんを促進することを目的として平成13年10月に発足した各国競争当局を中心としたネットワークであり,平成21年3月31日現在,93か国・地域から104の競争当局が参加している。このほか,国際機関,研究者,弁護士等の非政府組織アドバイザー(Non-Governmental Advisors, NGA)もICNに参加している。

ICNは,主要な17の競争当局の代表者で構成された運営委員会(Steering Group)により,その全体活動が管理されており,公正取引委員会委員長は,設立以来,運営委員会のメンバーとなっているほか,平成21年3月31日現在,ICNの副議長を務めている。ICNは,この運営委員会の下に,テーマごとに(1)カルテル作業部会,(2)企業結合作業部会,(3)競争政策の実施作業部会,(4)単独行為作業部会及び(5)アドボカシー作業部会の5つの作業部会並びにICNの組織及び運営等に関する作業部会を設置している。これら作業部会においては,年度ごとに,必要に応じて電話会議が開催され,質問票の活用及び各国競争当局からの書面提出等を通じて,課題等に対する検討が行われている。このほか,それぞれのテーマごとにワークショップが開催されており,公正取引委員会は,これらの活動に積極的に取り組んでいる。また,ICNは,これら作業部会の成果の報告,次年度のワークプランの策定等のため,年次総会を開催している。

平成20年度における主な会議の開催状況は,次のとおりである。

第4表 平成20年度におけるICNの主な会議の開催状況

(2) ICN京都総会の主催

ICN第7回年次総会は,平成20年4月14日から同月16日にかけて,公正取引委員会の主催により,京都市において開催された。同総会には,世界各国・地域の競争当局のトップレベル及びスタッフレベルの職員のほか,民間の弁護士等,総勢約500名が参加した。公正取引委員会からは,委員長,4名の委員のほか,多数の幹部職員が出席し,このうち,委員長がオープニングリマークス,クロージングリマークス及びICNの成果物の普及・実施に係る副議長業務のプレゼンテーションを行い,また,公正取引委員会顧問が単独行為作業部会全体会合「市場支配力の評価に関するパネル」に,犯則審査部長がカルテル作業部会全体会合「カルテル審査における国際協力に関するパネル」に,それぞれパネリストとして参加した。

第7回年次総会においては,第6回年次総会以降に各作業部会において議論され,取りまとめられた成果の報告が行われ,成果物が承認されたほか,主催当局が企画運営し,主催当局の関心事項について議論する特別プログラムとして,「優越的地位の濫用」に関するパネルを公正取引委員会が開催し,日本からは白石忠志東京大学教授がパネリストとして参加した。同パネルにおいては,各国の優越的地位の濫用に対する多様な法制度が紹介され,参加者間で活発な議論が行われた。

(3) 各作業部会の活動状況

平成20年度における各作業部会の活動状況は,次のとおりである。

ア カルテル作業部会

カルテル作業部会は,反カルテル執行における国内的及び国際的な諸問題に対処することを目的として設置された作業部会である。同作業部会には,ハードコア・カルテルの定義等基本的な概念について検討を行う一般的枠組みサブグループ(SG1)及び個別の審査手法に関する情報交換等を通じてカルテルに対する法執行の効率性を高めることを目的とした審査手法サブグループ(SG2)が設置されている。

第7回年次総会以降,SG1においては,カルテルに対する刑事罰の導入に関する論点等について,カルテル審査の実務者による議論が行われた。また,SG2においては,「反カルテル執行マニュアル」のうち「立入検査」及び「リニエンシー」に関する章の改訂作業が行われ,第8回年次総会(平成21年6月3日から同月5日にかけてチューリッヒ〔スイス〕において開催)において承認された。さらに,SG2は,加盟当局のカルテル審査の実務者が,カルテル審査に関する実務上の問題を議論するため,年1回,カルテルワークショップを開催しており,平成20年度は,10月28日から同月30日にかけてリスボン(ポルトガル)において開催し,同ワークショップにおいては,カルテルの探知・審査等についての議論が行われた。

イ 企業結合作業部会

企業結合作業部会は,各当局における企業結合審査の効率性を高め,企業結合審査における手続面及び実体面の収れんを促進し,国際的企業結合の審査に費やされる時間や費用を減らすことを目的として設置された作業部会である。

第7回年次総会以降,同作業部会においては,企業結合届出のための当局による情報要求に関する報告書及び企業結合審査に関して推奨される方法について,新たに,企業結合審査における競争効果,単独効果及び協調効果の章の作成作業が行われ,第8回年次総会において,これらが承認された。また,同作業部会は,平成21年3月10日及び同月11日,企業結合ワークショップを台北(台湾)において開催し,同ワークショップにおいては,企業結合届出,審査計画,市場画定等についての議論が行われた。

ウ 競争政策の実施に関する作業部会

競争政策の実施に関する作業部会は,競争政策の有効性に関する諸問題とその有効性を達成するために最もふさわしい競争当局の組織設計を検討することを目的として設置された作業部会である。同作業部会には,競争当局の効率性を向上させるための施策等について議論を行うサブグループ(SG1)及び技術支援の効率性を向上させるための手法等について議論を行うサブグループ(SG2)が設置されている。

第7回年次総会以降,SG1においては,競争当局の効率性に関して,競争当局及びNGAに対するアンケート調査を通じて,競争当局の効率性と競争当局における優先付け及びリソース配分の関係について検討が行われ,検討結果は,報告書に取りまとめられ,第8回年次総会で承認された。SG2においては,パートナーシップ及びコンサルテーションプログラムについて議論が継続されるとともに,競争当局間の情報及び経験の共有を目的に平成19年から開催されている電話相談会議が,地域別又は使用する言語別に開催された。また,SG1は,平成21年1月22日及び同月23日,競争当局の運営全般にかかわる内容について,各競争当局のハイレベルの職員による議論を行うため,競争当局の有効性に関するハイレベルワークショップをブリュッセル(ベルギー)において開催し,同ワークショップにおいては,「戦略及び優先順位の設定」,「競争当局の説明責任と対話」等に関する議論が行われた。同ワークショップの議論は報告書に取りまとめられ,同報告書は,第8回年次総会において承認された。

なお,同作業部会は,平成21年5月,競争当局有効性作業部会に改組された。

エ 単独行為作業部会

単独行為作業部会は,事業者による反競争的単独行為に対する規制の在り方等について議論することを目的として設置された作業部会である。

第7回年次総会以降,同作業部会においては,単独行為の行為類型のうち,抱き合わせ及び忠誠リベートが取り上げられ,それぞれについて議論が行われた。当該議論に基づいて取りまとめられた抱き合わせ及びセット割引に関する報告書並びに忠誠割引及びリベートに関する報告書は,第8回年次総会において承認された。また,同作業部会は,平成21年3月23日及び同月24日,単独行為ワークショップをワシントンD. C.(米国)において開催し,同ワークショップにおいては,市場支配力の評価,反競争行為等についての議論が行われた。

オ アドボカシー作業部会

アドボカシー作業部会は,ICN加盟当局の競争唱導活動の有効性を向上させることを目的として設置された作業部会である。

第7回年次総会以降,同作業部会においては,既存の成果物の見直し及び更新プロジェクト並びに市場調査プロジェクトが実施された。前者においては,ICN加盟当局の競争唱導に関する経験等をまとめた報告書の作成作業が行われ,同報告書は第8回年次総会において承認された。後者においては,市場調査に関する報告書の作成作業が行われ,同報告書についても第8回年次総会において承認された。

3 東アジア競争法・政策カンファレンス及び東アジア競争政策トップ会合

公正取引委員会は,東アジア地域において競争法・政策の効果的な執行・導入に向けた共通の認識を醸成すること等を目的として,東アジア競争法・政策カンファレンス及び東アジア競争政策トップ会合の開催に主導的な役割を果たしている。東アジア競争法・政策カンファレンスは,東アジア地域における競争法・政策に係る意見交換の重要性にかんがみ,競争当局及び競争関連当局に加え,学会,産業界からの出席者を交えて,競争法・政策に係るプレゼンテーション・質疑応答等を行い,東アジア地域における競争法・政策の普及・広報に寄与することを主要な目的とするものである。東アジア競争政策トップ会合は,東アジア地域における競争当局及び競争関連当局のトップが一堂に会し,その時々の課題や政策動向等について率直な意見・情報交換を行うことにより,東アジア地域における競争当局及び競争関連当局間の協力関係を強化することを目的とするものである。同会合においては,競争法・政策の執行の課題,効果的・効率的な技術支援のための協力・調整等のテーマについて議論が行われており,平成20年度においては,第4回会合が同年4月に京都市において開催された。

4 アジア太平洋経済協力(APEC)

(1) 競争政策・競争法グループ(CPLG)

APECにおいては,APEC域内における競争政策についての理解を深め,貿易・投資の自由化及び円滑化に貢献することを目的として,貿易投資委員会の下部組織として競争政策及び規制緩和グループ(CPDG)が平成8年に設置された。同グループは,平成19年に貿易投資委員会から経済委員会の下部組織に移行し,平成20年には,競争政策・競争法グループ(CPLG)に改称した。公正取引委員会は,平成18年からCPLG(改称前においてはCPDG)の議長業務を行うなど,APECにおける競争政策に関する取組に対して積極的に貢献を行っている。

平成20年度においては,公正取引委員会は,同年8月にリマ(ペルー),平成21年2月にシンガポールにおいて開催された経済委員会会合に出席し,CPLG議長としてAPEC域内の競争政策の取組について報告を行った。また,同会合の前後に開催されたCPLG会合において議長を務めるとともに,我が国の競争法の執行について報告を行った。さらに,公正取引委員会は,APECの技術支援に関する枠組みを活用して,平成20年11月にバリ(インドネシア)において,インドネシア政府,学会等の協力の下,競争政策の促進やAPEC参加エコノミー内の構造改革への貢献等を目的とする「競争政策に関するトレーニングコース」と題する研修を実施した。同研修には,APEC参加エコノミー等から約80名が参加した。

(2) 個別行動計画(IAP)及び共同行動計画(CAP)の改定

APECにおいては,平成6年に合意されたボゴール目標(先進エコノミーは2010年までに,途上エコノミーは2020年までに,自由で開かれた貿易と投資を実現すること)を実現するための具体的道筋を示す大阪行動指針(平成7年採択)に基づき,APEC参加エコノミーそれぞれの自主的かつ個別的な行動を取りまとめた「個別行動計画」(IAP)及びAPEC参加エコノミーが共同して取り組むべき分野別の行動を取りまとめた「共同行動計画」(CAP)が策定されている。競争政策分野における「共同行動計画」としては,情報交換及び対話の促進,競争法・政策に対する理解の増進,技術支援及びキャパシティ・ビルディングの実施等が掲げられており,他方,我が国の「個別行動計画」の競争章においては,競争法の厳正な執行や技術支援の実施等が掲げられている。

平成20年度においては,公正取引委員会は,我が国の「個別行動計画」における競争章の改定に大きく関与し,APEC参加エコノミーに対して我が国の競争法・政策に関する最新の情報を提供したほか,CPLGの議長国として競争政策分野における共同行動計画の改定に積極的な貢献を行った。

5 国連貿易開発会議(UNCTAD)

昭和55年,UNCTAD主催による制限的商慣行国連会議において,「制限的商慣行規制のための多国間の合意による一連の衡平な原則と規則」(以下「原則と規則」という。)が採択された。この原則と規則は,同年の第35回国連総会における国連加盟国に対する勧告として採択された。原則と規則は,国際貿易,特に開発途上国の国際貿易と経済発展に悪影響を及ぼす制限的商慣行を特定して規制することにより,国際貿易と経済発展に資することを目的としている。その後,原則と規則の規定に関する制限的商慣行についての調査研究,情報収集等を行うために,昭和56年,「制限的商慣行政府間専門家会合」が設置され,平成8年のUNCTAD第9回総会において「競争法・政策専門家会合」と名称変更された後,平成9年12月の国連総会の決議により,「競争法・政策に関する政府間専門家会合」と名称が再変更された。

平成20年度においては,同年7月15日から同月18日にかけてジュネーブ(スイス)において前記専門家会合及び特別会合が開催され,公正取引委員会は,これらの会合に出席した。これらの会合においては,共同体の競争当局と当該共同体を構成する国家の競争当局の間における権限の帰属及び競争ルールの適用,競争当局の独立性及び説明責任,途上国における支配的地位の濫用,競争と経済発展の促進における知的財産権の役割,能力開発と技術支援等について議論された。

6 消費者保護及び執行のための国際ネットワーク(ICPEN:International Consumer Protection and Enforcement Network)(第12章参照)

ICPENは,国境を越える違法な対消費者取引行為を効果的に規制するために,OECD加盟国を中心とした消費者行政の法執行機関等をメンバーとして,平成4年に結成された非公式・自主的な会合である(結成当初は,IMSN〔International Marketing Supervision Network〕と称していたが,平成15年3月にICPENへと改称した。)。公正取引委員会は,平成13年4月会合からICPEN(平成15年2月まではIMSN)に参加している。

平成20年度においては,4月会合がプエルトバラス(チリ)において,10月会合がパリ(フランス)において開催され,公正取引委員会は4月会合に出席した。

第6 海外の競争当局等に対する技術支援

近年,東アジア等の開発途上国や移行経済国において,競争法・政策の重要性が認識されてきていることに伴い,既存の競争法を強化する動きや,新たに競争法を導入しようとする動きが活発化しており,これらの国に対する技術支援の必要性が高まってきている。公正取引委員会は,主として独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じて,競争法・政策分野における技術支援活動を実施してきている。

公正取引委員会による開発途上国等に対する具体的な技術支援の概要は次のとおりである。

1 中国に対する技術支援

中国においては,平成20年8月に包括的な競争法である独占禁止法が施行されたところ,同国政府に対しては,平成17年度から,JICAによる経済法等の立法支援に係る3か年計画である「中国経済法・企業法整備プロジェクト」が実施されてきた。同プロジェクトは,競争法制度整備に関する協力の有効性を高めることを目的として延長され,平成21年度までの予定で実施されることとなっている。JICAの協力の下,公正取引委員会が平成10年度から毎年度実施している「独占禁止法と競争政策に関する技術研修」も,平成17年度以降は同プロジェクトの一環として実施されており,平成20年度においては,同年11月4日から同月28日までの期間において,商務部,国家工商行政管理総局,国家発展改革委員会等の中国競争関連当局の職員計9名を対象として実施された。このほか,公正取引委員会は,平成21年2月には,中国競争関連当局の幹部職員を日本に招へいし,約10日間にわたって,競争法・政策研修を実施するとともに,中国独占禁止法公開セミナーを開催した。

また,公正取引委員会は,平成20年12月に北京において,平成21年2月に上海において開催された独占禁止法研究会,及び平成21年2月に上海において開催された独占禁止法セミナーに対して,職員及び学識経験者を派遣した。

2 ベトナムに対する技術支援

ベトナムに対しては,競争法の執行能力の強化を目的として,JICAの協力の下,平成20年9月から,公正取引委員会の職員1名をJICA長期派遣専門家として同国競争当局に派遣し,現地における技術支援を実施している。また,公正取引委員会は,平成21年3月,ベトナム競争当局の職員5名を我が国に招へいし,約2週間にわたる競争法・政策研修を実施したほか,ハノイにおいて開催された現地セミナー及び勉強会に対して,職員及び学識経験者を派遣した。

3 その他開発途上国に対する技術支援

公正取引委員会は,JICAの協力の下,平成6年度から,競争法を導入しようとする国や既存の競争法の運用強化を図ろうとする国の競争当局等の職員を招へいし,競争法・政策に関する研修を実施している。平成20年度においては,開発途上国10か国から13名の参加を得て,同年8月20日から同年9月19日までの期間で実施した。

4 その他の技術支援

公正取引委員会は,開発途上国に対する技術支援として,外国政府又は国際機関等が主に東アジア地域において実施する競争法・政策に関するセミナーに対して,職員や学識経験者を積極的に派遣している。

第7 海外調査

公正取引委員会の競争政策の企画・運営に資するため,諸外国の競争政策の動向,競争法制及びその運用状況についての情報収集や調査研究を行っている。平成20年度においては,米国,EU,その他主要なOECD加盟諸国を中心として,競争当局の政策動向,競争法関係の立法活動等について調査を行い,その内容の分析とウェブサイト等による紹介に努めた。

第8 海外への情報発信

公正取引委員会の国際的なプレゼンスを向上させ,我が国の競争政策の状況を広く海外に周知するため,当委員会の新聞発表文や当委員会が所管している法令・ガイドライン等を英訳し,英文ウェブサイトに掲載しているほか,当委員会の活動等を紹介する英文パンフレットの作成・配布を行っている。このほか,海外の弁護士会等の主催するセミナー等に対して,積極的に職員を派遣している。

平成20年度においては,平成21年3月にワシントンD. C.(米国)において開催されたABA(全米弁護士会)反トラスト法部会春季会合の「競争法の新たなフロンティア:アジアの執行当局による展望」と題するセッションに公正取引委員会官房審議官がスピーカーとして参加し,日本の競争政策の動向及び平成21年独占禁止法改正法案についての紹介を行った。