第2部 各論

第4章 訴訟

第1 審決取消請求訴訟

1 概説

平成22年度当初において係属中の審決取消請求訴訟は23件であったところ、平成22年度中に新たに11件の審決取消請求訴訟が提起された。これら平成22年度の係属事件34件のうち、最高裁判所が上告棄却及び上告不受理決定をしたことにより終了したものが8件、最高裁判所が上告不受理決定をしたことにより終了したものが1件、最高裁判所が上告棄却及び上告受理の決定後に上告を棄却する判決が1件、原告が上告及び上告受理申立てを取り下げたことにより終了したものが1件、東京高等裁判所が請求を棄却し上訴期間の経過をもって終了したものが3件、原告が訴えを取り下げたことにより終了したものが1件あった。この結果、平成22年度末時点において係属中の審決取消請求訴訟は19件となった。

なお、このほか、平成22年度中に東京高等裁判所が原告の請求を棄却する判決を下した後、原審原告が上告及び上告受理申立てを行ったものが2件ある。

表 平成22年度に係属していた審決取消請求訴訟

2 東京高等裁判所における判決

(1) (株)アスカムによる審決取消請求事件(平成19年(行ケ)第44号)(前記表一連番号5)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア) 本件勧告審決に示された認定事実は本件課徴金審判事件の審判手続において争えるか

原告は、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第52条第1項において、被審人又はその代理人は、審判に際して、被告が当該事件について排除等の措置又は同法第7条の2第1項の規定により課徴金の納付を命ずることが不当である理由を述べることができる旨を規定していることなどを理由に、本件課徴金審決の審判手続において、本件勧告審決(平成13年(勧)第33号事件。以下同じ。)に示された認定事実を争う機会を付与しなかったことが、同法第52条第1項、同法第54条の3、同法第7条の2及び憲法第31条の各規定に定める原告の防御権を侵害する旨を主張した。これに対し、独占禁止法第52条第1項は、課徴金審判事件において違反行為の存在を争うことができるのは、排除措置の手続を経ることなく直接に課徴金の納付を命じられた場合を想定していると考えられ、また、原告には、勧告書の謄本の送達を受けた際に、勧告審決の主文に係る違反行為の基礎となった「事実及び法令の適用」を示されるとともに、勧告に対する応諾をするか否かの回答を求める同謄本添付の通知書を受けた段階において、当該違反行為の存在を争う機会が付与されており、原告が違反行為の存在を争うのであれば、本件勧告を応諾しない旨を被告に通知し、被告が当該事件について審判手続を開始(同法第49条第1項)した場合には、審判開始決定書記載の事実及び法令の適用を争って、同法第52条に定められた防御権を行使することができたものであるというべきであるから、本件勧告を応諾し、これに続く本件勧告審決を争うことなく確定させ、本件課徴金納付命令が発せられた時点において、その基礎となった本件違反行為の存在を再度争う機会を許容する合理的な根拠を認めることはできず、被告が本件違反行為の存否を本件課徴金審決に係る審判における審理の対象外とした措置が原告が指摘する法の規定や憲法第31条の規定に違反するものではない旨判示している。

(イ) 一見して明白かつ重大な事実誤認がある本件勧告審決に準拠して違反行為を認定した本件審決は、独占禁止法第7条の2第1項にいう「不当な取引制限」で「商品の対価に係るもの」の要件の判断において、明白かつ重大な瑕疵があるか

原告は、本件勧告審決の事実認定には、一見して明白かつ重大な事実誤認があり、これに基づいて課徴金に係る違反行為を認定した本件審決には明白かつ重大な瑕疵があり、本件審決は違法な行政処分である旨を主張した。これに対し、本件勧告審決に示された認定事実に係る瑕疵は、課徴金納付命令に係る課徴金審判事件の審理の対象外であって、原告が、本件勧告審決の認定事実に一見して明白かつ重大な事実誤認があると主張するのであれば、平成13年12月3日に被告から本件勧告審決記載の事実と同一の事実が勧告の中で示された時点において、その主張をすれば足りるのであって、本件勧告を応諾し本件課徴金納付命令が発せられた時点において、再度の争いを許すべきではないと判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、上訴期間の経過をもって確定した。

(2) (株)バイタルネットによる審決取消請求事件(平成19年(行ケ)第45号)(前記表一連番号6)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア) 本件勧告審決に示された認定事実は本件課徴金審判事件の審判手続において争えるか

原告は、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第52条第1項において、被審人又はその代理人は、審判に際して、被告が当該事件について排除等の措置又は同法第7条の2第1項の規定により課徴金の納付を命ずることが不当である理由を述べることができる旨を規定していることなどを理由に、本件課徴金審決の審判手続において、本件勧告審決(平成13年(勧)第33号事件。以下同じ。)に示された認定事実を争う機会を付与しなかったことが、同法第52条第1項、同法第54条の3、同法第7条の2及び憲法第31条の各規定に定める原告の防御権を侵害する旨を主張した。これに対し、独占禁止法第52条第1項は、課徴金審判事件において違反行為の存在を争うことができるのは、排除措置の手続を経ることなく直接に課徴金の納付を命じられた場合を想定していると考えられ、また、原告には、勧告書の謄本の送達を受けた際に、勧告審決の主文に係る違反行為の基礎となった「事実及び法令の適用」を示されるとともに、勧告に対する応諾をするか否かの回答を求める同謄本添付の通知書を受けた段階において、当該違反行為の存在を争う機会が付与されており、原告が違反行為の存在を争うのであれば、本件勧告を応諾しない旨を被告に通知し、被告が当該事件について審判手続を開始(同法第49条第1項)した場合には、審判開始決定書記載の事実及び法令の適用を争って、同法第52条に定められた防御権を行使することができたものであるというべきであるから、本件勧告を応諾し、これに続く本件勧告審決を争うことなく確定させ、本件課徴金納付命令が発せられた時点において、その基礎となった本件違反行為の存在を再度争う機会を許容する合理的な根拠を認めることはできず、被告が本件違反行為の存否を本件課徴金審決に係る審判における審理の対象外とした措置が原告が指摘する法の規定や憲法第31条の規定に違反するものではない旨判示している。

(イ) 一見して明白かつ重大な事実誤認がある本件勧告審決に準拠して違反行為を認定した本件審決は、独占禁止法第7条の2第1項にいう「不当な取引制限」で「商品の対価に係るもの」の要件の判断において、明白かつ重大な瑕疵があるか

原告は、本件勧告審決の事実認定には、一見して明白かつ重大な事実誤認があり、これに基づいて課徴金に係る違反行為を認定した本件審決には明白かつ重大な瑕疵があり、本件審決は違法な行政処分である旨を主張した。これに対し、本件勧告審決に示された認定事実に係る瑕疵は、課徴金納付命令に係る課徴金審判事件の審理の対象外であって、原告が、本件勧告審決の認定事実に一見して明白かつ重大な事実誤認があると主張するのであれば、平成13年12月3日に被告から本件勧告審決記載の事実と同一の事実が勧告の中で示された時点において、その主張をすれば足りるのであって、本件勧告を応諾し本件課徴金納付命令が発せられた時点において、再度の争いを許すべきではないと判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、上訴期間の経過をもって確定した。

(3) ミュー(株)による審決取消請求事件(平成21年(行ケ)第45号)(前記表一連番号19)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア) 景品表示法第4条第2項の適用に関する審決取消訴訟の審理対象について

原告は、景品表示法第4条第2項の規定により、審決取消訴訟は同条第1項第1号に該当する表示にみなされる「みなし」効果が及ぶ範囲から除外されているのであるから、審決取消訴訟において、同条第2項の適用はない旨主張した。これに対し、審決取消訴訟においては、原告が提出した資料(以下「本件資料」という。)が、同法第4条第2項の「合理的な根拠」に該当しないとした本件審決の認定した事実について、それを立証する実質的証拠があるか否かが審理の対象となるのであって、同条第1項第1号の要件の該当性が審理の対象となるものではない旨判示している。

(イ) 本件資料は原告の販売する商品における表示の合理的な根拠となるか

原告は、景品表示法第4条第2項の「合理的な根拠を示す資料」の合理性の証明は、事業者の営業の自由と一般消費者の経済的不利益の保護の調和の観点から、通常の知識・経験を有する者が当該資料から表示された効果・性能につき推測することができる程度の証明で足りるものであり、本件資料のみならず、当該商品・役務に対する苦情の有無や販売状況等の事情を総合考慮して、効果・性能の立証の有無を判断すべきであり、そのように考えると、本件資料は合理性を有する旨主張した。これに対し、本件資料を検討すると、いずれも、原告の販売に係る商品における表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料と認めることはできない旨判示している。

(ウ) 本件排除命令に裁量権の逸脱・濫用があるか

原告は、本件排除命令は、手続保障違反、比例原則違反及び平等原則違反がある旨主張した。これに対し、景品表示法上、排除命令の前に行政指導を行うことが必要とされていない上、原告の事前の相談における担当者の回答は、合理的な根拠を示す資料があれば景品表示法上問題ないという法律の趣旨を述べたにすぎないものと認められるのであって、本件表示が景品表示法上問題がないという回答をしたとは認められないこと、原告の販売する商品の表示の一般消費者に対する影響は軽微とはいえず、本件排除命令を発する必要があったこと、さらに、被告が何らかの差別的意図を持って排除命令を発したような事情はうかがわれないことから、本件排除命令に原告の主張するような違法はない旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、原告による上告及び上告受理申立てにより、平成22年度末現在、最高裁判所に係属中である。

(4) (株)オーシロによる審決取消請求事件(平成21年(行ケ)第44号)(前記表一連番号20)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア) 原告の販売するたばこ用粉末剤の表示について、景品表示法第4条第2項を適用し、同条第1項に該当すると判断することについて

原告は、景品表示法第4条第2項によるみなし効果が及ぶのは、排除命令と審判手続においてのみであり、審決取消訴訟においては、被告が、原告の販売する商品の表示(以下「本件表示」という。)が同条第1項に該当する表示であることを立証しなければならない旨主張した。これに対し、審決取消訴訟は、抗告訴訟であり、その審理の対象は、原処分の処分要件の有無ということになるから、原処分の根拠とされた同条第2項の定める要件の有無が審理の対象となるべきであり、また、原告が主張するように、被告が、同条第1項に該当することを主張立証しない限り、原処分が取り消されることとなれば、被告が迅速、適正な審査を行い、速やかに処分を行うことを可能とすることによって、公正な競争を確保し、もって一般消費者の利益を保護するという同法の目的を達成するという同条第2項の趣旨に反する結果となる旨判示している。

(イ) 景品表示法第4条第2項の「合理的な根拠を示す資料」及び「当該資料を提出しないとき」の解釈について

原告は、景品表示法第4条第2項の運用指針における基準自体不明確であり、その結果、判断基準も不明確となっており、かつ、運用指針の「合理的な根拠」の判断基準は、中小規模の事業者に対しても高度な科学的証明を負わせる不合理なものである旨主張した。また、同項の「当該資料を提出しないとき」とは、資料が全く提出されない場合等、専門家によって判断するまでもなく一見して明らかに同条第1項第1号に該当する場合をいうと解すべきである旨主張した。これに対し、運用指針には、具体的な例示も挙げられており、当該商品等を販売する事業者にとってはいかなる資料を提出すべきか十分予測が可能であり、不明確であるとはいえず、また、同項の立法趣旨等からすると、事業者が表示に含まれる科学的な事項について、科学的証明を求められることがあるとしても不合理とはいえない。さらに、「当該資料を提出しないとき」とは、提出された資料が「当該表示を裏付ける合理的な根拠を示す資料」に該当しない場合も含むものと解される旨判示している。

(ウ) 提出期限経過後に提出された資料の取扱いについて

原告は、提出期限経過後に提出された資料であっても、「当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料」の有無の判断において参酌することは許されるべきである旨主張した。これに対し、提出期限経過後に提出された資料は、原告が提出した資料(以下「本件資料」という。)が本件表示を裏付ける合理的な根拠を示すものであるか否かを判断するために参酌し得るにとどまるのであるから、参酌し得るのは、本件資料の内容を説明するものや補足する部分に限られるというべきであり、提出期限経過後に提出された資料中の新たな試験・調査によって当該表示を裏付ける根拠を示そうとする部分は、本件資料が本件表示を裏付ける合理的な根拠を示す資料たり得るものではない旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、原告が上告及び上告受理申立てを行ったところ、後記3の(9)のとおり、最高裁判所は上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

(5) 三菱レイヨン(株)ほか1名による審決取消請求事件(平成21年(行ケ)第46号及び第47号)(前記表一連番号21)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア) 違反行為の有無及び本件違反行為の終了時期について

原告らは、平成11年及び平成12年の販売価格引上げの合意が成立していなかった、また、本件違反行為の存在が認められるとしても、少なくとも、(株)クレハが営業譲渡を公表した平成14年11月5日以降は、具体的な顧客の争奪競争が行われていること、会合等による情報交換が行われていた事実がないこと、平成14年度における塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格の平均が平成11年度及び平成12年度の塩化ビニル樹脂向けモディファイヤーの販売価格の平均を下回る水準まで落ち込んでいること等を理由として、本件審決がいうところの「合意による相互拘束が事実上消滅するに至ったと認められる特段の事情」が認められる旨主張した。これに対し、認定した事実によれば、平成11年及び平成12年の販売価格引上げの合意は成立したと認められる。また、平成14年12月31日以前には平成11年の合意及び平成12年の合意が破棄されておらず、これらの合意による相互拘束が事実上消滅していると認められる特段の事情は認められないが、(株)クレハの営業譲渡契約の効力発生時期である平成15年1月1日以降は前記合意による相互拘束が事実上消滅するに至ったと認められる。そして、平成12年の合意は、平成11年の合意の下における3社(注)間の協調関係を前提とするものであり、平成12年の合意がなされたからといって、平成11年の合意による相互拘束を事実上消滅させるものとはいえない旨判示している。

(イ) 排除措置の必要性について

原告三菱レイヨン(株)は、新しい有力な競争事業者が存在する等、市場の状況が大きく変化してきていることに加え、活発な顧客の奪い合いが行われていること、本件審決の認定によっても、本件違反行為は平成15年1月1日以降の時点において既に終了しており、その後6年以上独占禁止法違反行為が行われることもなく、自由に活発な競争が行われていること等から、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第54条第2項のいう「特に必要があると認めるとき」に該当しない旨主張した。これに対し、本件審決の認定事実及び3社(注)が約3年2か月間にわたり違反行為を行ってきたこと、3社の協調関係が強固なものであり、違反行為が終了した後も本件市場における競争を活発にする要因は生じておらず、その後の価格引上げ状況をみても、原告ら及び(株)クレハの営業譲渡先である会社には、共同して価格引上げを行おうとする誘因が存在しているものと認められることなどに照らすと、原告ら又は他社との協調関係が再び形成される可能性があり、本件違反行為と同様の行為が再び行われるおそれがあると認めざるを得ないから、原告らに対しては、排除措置を命じる必要がある旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、原告らによる上告及び上告受理申立てにより、平成22年度末現在、最高裁判所に係属中である。

(注) 原告ら及び(株)クレハ。

(6) (株)カクダイによる審決取消請求事件(平成22年(行ケ)第2号)(前記表一連番号22)

ア 主な争点及び判決の概要

原告は、原告の販売する商品の表示(以下「本件表示」という。)について原告が提出した資料(以下「本件各資料」という。)が本件表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものである旨主張した。これに対し、本件各資料は、本件表示に係る各効果を客観的に実証するものではなく、本件表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとはいえない旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、原告が上告及び上告受理申立てを行ったところ、後記3引のとおり、最高裁判所は上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

(7) 出光興産(株)による審決取消請求事件(平成22年(行ケ)第4号)(前記表一連番号23)

ア 主な争点及び判決の概要
(ア) 本件課徴金算定の基礎となる独占禁止法第7条の2第1項による原告のポリプロピレンの売上額に、出光ユニテック(株)に対するポリプロピレンの売上額が含まれるか

原告は、全額出資子会社については、同一企業内における加工部門への物資の移動と同視し得るものであるから、出光ユニテック(株)(平成16年8月1日以前は出光石油化学(株)〔平成16年8月1日に原告が吸収合併。以下「出光石化(株)」という。〕の全額出資子会社。同日以降は原告の全額出資子会社。)向けのポリプロピレンは、そもそも違反行為の対象商品の範ちゅうに属しないか、少なくとも「定型的に当該行為による拘束から除外されることを示す特段の事情」があり、平成17年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第7条の2第1項にいう「売上額」に当たらない旨主張した。また、出光石化(株)の出光ユニテック(株)に対するポリプロピレンの販売単価が、大手需要者に対する販売単価の90パーセントという決定方式により機械的に設定され、出光ユニテック(株)が出光石化(株)とポリプロピレンの販売価格について交渉する関係にはなく、そのような販売価格の決定方法が、通常の需要者向けの販売価格の決定方法と質的に全く異なるものであるなどとして、出光ユニテック(株)向けのポリプロピレンは、定型的に違反行為による拘束から除外されている旨主張した。これに対し、出光ユニテック(株)は、出光石化(株)の全額出資子会社であるとはいえ、違反行為者である出光石化(株)とは別個の法人格を有し、法律上も独立の取引主体として活動しているものである以上、そのような子会社に販売した商品が違反行為の対象である商品から除外されているものと認めることはできない。全額出資子会社に対する商品の販売が、同一企業内における加工部門への物資の移動と同視し得るような事情が存在する場合には、そのような子会社へ販売した商品が違反行為の対象となる商品から除外され、その商品の売上額が、課徴金算定の基礎となる売上額から除外されると解すべき余地はあるが、出光ユニテック(株)は、平成12年4月から、出光石化(株)との間の委託加工契約を解消し、違反行為の実行期間においては、出光石化(株)から購入したポリプロピレンを原料として製造した製品を、自ら需要者に対して販売していたことに照らすと、出光ユニテック(株)を出光石化(株)の同一企業内における加工部門と同視し得るような事情は認められない。また、違反行為により、出光石化(株)の事業活動が相互拘束を受けた結果、一般の需要者に対するポリプロピレンの販売価格が値上げされた場合には、そのうちの大手需要者に対する販売単価の90パーセントに相当する価格と定められていた出光ユニテック(株)へ販売するポリプロピレンの単価も自動的に値上げされる結果となることに照らすと、出光ユニテック(株)向けのポリプロピレンが、違反行為による拘束から除外されていることを示す事情は認められない旨判示している。

(イ) 独占禁止法第7条の2第1項による原告のポリプロピレンの売上額に、カルプ工業(株)に対するポリプロピレンの売上額が含まれるか

原告は、カルプ工業(株)向けのポリプロピレンの販売単価の決定方式が、出光石化(株)が販売するカルプ工業(株)向けを除く全てのナチュラル品の平均単価の90パーセントに設定することとなっており、カルプ工業(株)と出光石化(株)との間においてポリプロピレンの販売単価について交渉が行われることはなく、一定の算定方法に従って自動的、機械的に価格が決定される点で、ナフサリンク方式により販売価格が決定される場合と異ならないから、カルプ工業(株)向けのポリプロピレンは、違反行為による拘束から定型的に除外されているものであり、原告のポリプロピレンの売上額に、出資関係にあるカルプ工業(株)に対する売上額は含まれない旨主張した。また、カルプ工業(株)は出光石化(株)の完全子会社と実質的に同視されており、カルプ工業(株)に対するポリプロピレンの販売は、出光石化(株)の同一企業内における加工部門への物資の移動と位置づけられ、また、カルプ工業(株)が出光石化(株)以外の事業者からポリプロピレンを購入することもあり得ないから、カルプ工業(株)との取引は、競争が行われる分野ではなく、カルプ工業(株)向けのポリプロピレンは、違反行為の対象から除外されたのと同視し得る特段の事情がある旨主張した。これに対し、カルプ工業(株)へ販売するポリプロピレンの販売単価は、四半期ごとのカルプ工業(株)向けを除くナチュラル品のポリプロピレンの平均販売単価の90パーセントに相当する価格と合意されていたのであるから、違反行為により出光石化(株)の事業活動が相互拘束を受ける結果、一般の需要者に対するポリプロピレンの販売価格が値上げされた場合には、カルプ工業(株)向けのポリプロピレンの販売単価も自動的に値上げされる結果となることに照らすと、出光石化(株)がカルプ工業(株)向けに販売したポリプロピレンが、違反行為による相互拘束から除外されているものとは認められない。また、出光石化(株)とカルプ工業(株)が親子会社の関係にあるとしても、カルプ工業(株)が違反行為者である出光石化(株)とは別個の法人格を有し、法律上も独立の取引主体として活動しているものである以上、出光石化(株)がカルプ工業(株)へ販売したポリプロピレンが違反行為の対象である商品から除外されているものと認めることはできないし、カルプ工業(株)は出光石化(株)から購入したポリプロピレンを原料として製造した製品を自ら需要者に対して販売していたこと、カルプ工業(株)が出光石化(株)の完全な支配下にあったと認めることもできないことを総合考慮すれば、カルプ工業(株)を出光石化(株)の同一企業内の加工部門と同視し得るような事情は認められない。さらに、カルプ工業(株)向けのポリプロピレンの販売が、競争の行われる余地のない分野であり、カルプ工業(株)向けのポリプロピレンが違反行為の対象から除外されていたとは認められない旨判示している。

イ 訴訟手続の経過

本件は、上訴期間の経過をもって確定した。

3 最高裁判所における決定等

(1) (株)東芝ほか1名による審決取消請求事件(平成21年(行ツ)第108号、平成21年(行ヒ)第127号)(前記表一連番号1)

ア 決定の概要

最高裁判所は、①本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当せず、②本件は、同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

イ 訴訟手続の経過

原審判決は、本件決定により確定した。

(2) 昭和シェル石油(株)ほか1名による審決取消請求事件(平成21年(行ツ)第221号及び第222号、平成21年(行ヒ)第278号及び第279号)(前記表一連番号2)

ア 決定の概要

最高裁判所は、①本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当せず、②本件は、同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

イ 訴訟手続の経過

原審判決は、本件決定により確定した。

(3) 東日本電信電話(株)による審決取消請求事件(平成21年(行ツ)第271号、平成21年(行ヒ)第348号)(前記表一連番号3)

ア 決定の概要

最高裁判所は、①本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当しないとして上告を棄却する旨の決定を行ったが、②本件申立ての理由によれば、本件は、同法第318条第1項の事件に当たるとして、本件を上告審として受理する旨の決定を行い、イのとおり上告を棄却する判決を行った。

イ 判決の概要

最高裁判所は、ニューファミリータイプの光ファイバ整備を用いた戸建て住宅向けの通信サービス(以下「FTTHサービス」という。)を自ら加入者に提供するに際し、分岐方式を用いることを前提に光ファイバ1芯を共用する加入者の人数が増えるに従って1人当たりの金額が逓減する接続料金に係る認可を受けていながら、実際には芯線直結方式を用い、他の電気通信事業者が芯線直結方式で原審原告の加入者光ファイバ設備に接続してFTTHサービスを提供するために支払うべき接続料金を下回るユーザー料金を設定したこと(以下「本件行為」という。)が他の事業者の参入を排除するか否かについて、上告人が、その設置する加入者光ファイバ設備を、自ら加入者に直接提供しつつ、競業者である他の電気通信事業者に接続のための設備として提供するに当たり、加入者光ファイバ設備接続市場における事実上唯一の供給者としての地位を利用して、当該競業者が経済的合理性の見地から受け入れることのできない接続条件を設定し提示したもので、その単独かつ一方的な取引拒絶ないし廉売としての側面が、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、当該競業者のFTTHサービス市場への参入を著しく困難にする効果を持つものといえるから、同市場における排除行為に該当するというべきである旨判示している。

また、FTTHサービス市場の一定の取引分野の成立の可否及び本件行為により競争の実質的制限という結果が生じていたかについて、最高裁判所は、ブロードバンドサービスの中でADSLサービス等との価格差とは無関係に通信速度等の観点からFTTHサービスを選好する需要者が現に存在していたことが明らかであり、それらの者については他のブロードバンドサービスとの間における需要の代替性はほとんど生じていなかったものと解されるから、FTTHサービス市場は、当該市場自体が独立して独占禁止法第2条第5項にいう「一定の取引分野」であったと評価することができる。そして、この市場においては、既に競業者が存在していたが、これらの競業者のFTTHサービス提供地域が限定されていたことやFTTHサービスの特性等に照らすと、上告人に対するFTTHサービス市場における既存の競業者による牽制力が十分に生じていたものとはいえない状況にあるので、本件行為により、同項にいう「競争を実質的に制限すること」、すなわち市場支配力の形成、維持ないし強化という結果が生じていたものというべきである。さらに、上告人が本件行為を停止した後に他の電気通信事業者が本格的にFTTHサービス市場への新規参入を行っていること、その前後を通じて競業者の競争力に変動があったことを示すような特段の事情はうかがわれないこと等からすれば、FTTHサービス市場における競争制限状態は本件行為によってもたらされたものである旨判示している。

ウ 訴訟手続の経過

原審判決は、本件判決により確定した。

(4) (株)トクヤマによる審決取消請求事件(平成22年(行ツ)第59号、平成22年(行ヒ)第65号)(前記表一連番号4)

ア 決定の概要

最高裁判所は、①本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当せず、②本件は、同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

イ 訴訟手続の経過

原審判決は、本件決定により確定した。

(5) エイベックス・マーケティング(株)ほか2名による審決取消請求事件(平成22年(行ツ)第178号ないし第180号、平成22年(行ヒ)第189号ないし第191号)(前記表一連番号13)

ア 決定の概要

最高裁判所は、①本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当せず、②本件は、同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

イ 訴訟手続の経過

原審判決は、本件決定により確定した。

(6) (株)宮地鐡工所による審決取消請求事件(平成22年(行ツ)第53号、平成22年(行ヒ)第54号)(前記表一連番号14)

ア 決定の概要

最高裁判所は、①本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当せず、②本件は、同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

イ 訴訟手続の経過

原審判決は、本件決定により確定した。

(7) 桜井鉄工(株)による審決取消請求事件(平成22年(行ツ)第250号、平成22年(行ヒ)第255号)(前記表一連番号15)

ア 決定の概要

最高裁判所は、①本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当せず、②本件は、同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

イ 訴訟手続の経過

原審判決は、本件決定により確定した。

(8) (株)野里組による審決取消請求事件(平成22年(行ヒ)第184号)(前記表一連番号16)

ア 決定の概要

最高裁判所は、本件は、民事訴訟法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告不受理の決定を行った。

イ 訴訟手続の経過

原審判決は、本件決定により確定した。

(9) (株)オーシロによる審決取消請求事件(平成23年(行ツ)第36号、平成23年(行ヒ)第43号)(前記表一連番号20)

ア 決定の概要

最高裁判所は、①本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当せず、②本件は、同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

イ 訴訟手続の経過

原審判決は、本件決定により確定した。

(10) (株)カクダイによる審決取消請求事件(平成22年(行ツ)第376号、平成22年(行ヒ)第396号)(前記表一連番号22)

ア 決定の概要

最高裁判所は、①本件上告理由は、民事訴訟法第312条第1項又は第2項に規定する事由に該当せず、②本件は、同法第318条第1項により受理すべきものとは認められないとして、上告棄却及び上告不受理の決定を行った。

イ 訴訟手続の経過

原審判決は、本件決定により確定した。

第2 その他の公正取引委員会が当事者である訴訟

1 概要

平成22年度当初において係属していた訴訟のうち、審決取消請求訴訟以外のもので公正取引委員会が当事者であるものは、課徴金納付命令に係る損害賠償等請求事件、排除命令に係る慰謝料請求事件及び政策調整義務付け請求事件の3件であった。これら平成22年度の係属事件のうち、課徴金納付命令に係る損害賠償等請求事件については、東京地方裁判所において原告の請求を棄却し、訴えを却下する判決が下り、上訴期間の経過をもって確定し、終了した。排除命令に係る慰謝料請求事件については、平成21年度中に千葉地方裁判所松戸支部が原告の請求を棄却する判決を下し、一審原告が控訴を行い、東京高等裁判所が控訴を棄却する判決を下した。その後、一審原告は上告提起をし、平成22年度に最高裁判所が上告を棄却したことにより終了した。また、政策調整義務付け請求事件については、平成21年度中に東京地方裁判所が原告の訴えを一部却下しその余の請求を棄却する判決を下し、平成22年度に、東京高等裁判所が一審原告の控訴を棄却する判決を下し、上訴期間の経過をもって確定し、終了した。

2 平成22年度中に係属中であったその他の公正取引委員会が当事者である訴訟

(1) 課徴金納付命令に係る損害賠償等請求事件

ア 事件の表示

東京地方裁判所 平成20年(行ウ)第612号

損害賠償等請求事件

原告 三井化学(株)

被告 国

提訴年月日 平成20年10月17日

判決年月日 平成22年4月28日(請求棄却、東京地方裁判所)

イ 事案の概要

本件は、公正取引委員会が原告(吸収合併前の(株)グランドポリマー)に対して行った平成15年3月31日付け課徴金納付命令(平成15年(納)第259号。以下「本件課徴金納付命令」という。)において、原告に関するポリプロピレン価格カルテル(以下「本件カルテル」という。)の実行期間の終期を、平成12年9月21日と認定したにもかかわらず、その後、当委員会が本件カルテルの参加者である訴外2社に対して行った平成19年6月19日付け課徴金の納付を命ずる審決(平成15年(判)第22号及び第23号)において、本件カルテルの実行期間の終期を違反行為者全員につき平成12年5月29日と認定したことは、違法無効である等として、本件課徴金納付命令により支払済みの課徴金から過払いとなっている課徴金の差額について、国家賠償法第1条に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求等を行うものである。

ウ 判決の概要

東京地方裁判所は、課徴金に係る行政処分について、行政処分の前提となる違反行為の実行期間の終期等の事実は、その性質上、行為者ごとに異なり得るものであり、課徴金に係る行政処分の手続構造の下では、同一のカルテルを共同して行った事業者に対しそれぞれ納付命令がされた場合に、審判手続の開始の請求をしたか否かによって、また審判手続における主張立証の内容によって、当初の各納付命令(審判手続を経ないで確定したものを含む。)と審判手続を経た後の各納付審決との間で、各事業者のカルテル実行期間の終期に係る事実認定(これに伴う被審人以外の事業者のカルテル実行期間に係る事実認定を含む。)が相違することは制度上当然に予定されているというべきであり、また、一般に、ある者に対する行政処分が不服申立期間の経過により確定して不可争力を生じた後に、他の者に対する行政処分の不服申立手続を経て不服審査機関による裁決又は処分がされ、前者の認定と後者の事実認定との間に相違がある場合でも、既に確定して不可争力が生じている以上、前者の行政処分について当然にその取消し(撤回)をすべき義務が発生するものではなく、そうである以上、各事業者のカルテル実行期間の終期に係る事実認定に相違が生じたからといって、本件課徴金納付命令について当然にその取消し(撤回)をすべき義務が発生するものでもないとして、本件課徴金納付命令に関する一連の事実経過における公正取引委員会の関係公務員の行為につき、国家賠償法上、違法と評価される点はなく、また、不当利得返還請求が認められるべきであるとする主張は、理由がないとして、原告の請求を棄却した。

エ 訴訟手続の経過

本件は、上訴期間の経過をもって確定した。

(2) 排除命令に係る慰謝料請求事件

ア 事件の表示

最高裁判所平成22年(オ)第888号

慰謝料請求上告事件

上告人(一審原告、原審控訴人) X

被上告人(一審被告、原審被控訴人) 国

提訴年月日 平成21年3月18日

判決年月日 平成21年11月24日(請求棄却、千葉地方裁判所松戸支部)

控訴年月日 平成21年12月4日(一審原告)

判決年月日 平成22年2月24日(控訴棄却、東京高等裁判所)

上訴年月日 平成22年3月11日(上告、一審原告、原審控訴人)

決定年月日 平成22年7月2日(上告棄却、最高裁判所)

イ 事案の概要

本件は、公正取引委員会が景品表示法に基づき平成18年12月14日に事業者に対して行った排除命令がその内容において誤っていると主張する原告が、この誤った排除命令により、又は同排除命令後の当委員会等の対応により損害を被ったなどとして、国家賠償法第1条第1項に基づく損害賠償として1000万円の支払を求める事案である。

第一審である千葉地方裁判所松戸支部は、本件各排除命令における本件商品について、市場における取引の対象となる商品として一般的な名称を用いて定義付けをしたものであり、景品表示法の趣旨に適ったものというべきであるとし、また、本件各排除命令は本件違反業者からの不服申立てがなく、適法に確定したものであり、公正取引委員会の職員が原告の求めにもかかわらず、その訂正等に応じなかったことに何らの違法もないことは明らかである旨等判示して、原告の請求を棄却した。

これに対し、一審原告が控訴を提起したところ、第二審である東京高等裁判所は、控訴人の請求は理由がないものと判断し、本件控訴を棄却した。

ウ 決定の概要

最高裁判所は、本件上告理由は民事訴訟法第312条第1項又は第2項に定める事由

に該当しないとして、上告棄却の決定を行った。

エ 訴訟手続の経過

原審判決は、本件決定により確定した。

(3) 政策調整義務付け請求事件

ア 事件の表示

東京高等裁判所 平成22年(行コ)第156号

政策調整義務付け請求控訴事件

控訴人(一審原告) X

被控訴人(一審被告) 国

提訴年月日 平成21年4月1日

判決年月日 平成22年3月30日(訴え却下及び請求棄却、東京地方裁判所)

控訴年月日 平成22年4月12日(一審原告)

判決年月日 平成22年9月15日(控訴棄却、東京高等裁判所)

イ 事案の概要

本件は、原告が、公正取引委員会に対し、資源エネルギー庁が原子力発電のコストを実際より著しく低いものと見せかけ、再生可能エネルギー事業者に比して電気事業者を不当に有利に扱う法律を立案するなど、自由な競争を無視している等として、当該政策を是正するための資源エネルギー庁に対する政策調整を行うよう求めたにもかかわらず、当委員会が資源エネルギー庁に対して前記の政策調整を行っていないのは違法であるとして、①当委員会が「資源エネルギー庁に対し、政策調整を行わなければならない」との判決を求める(請求第1項)とともに、②被告に対し、国家賠償法第1条第1項に基づき、当委員会が前記の政策調整を行わなかったことにより、原告が精神的苦痛を被ったとして、慰謝料30万円の損害賠償を求める(請求第2項)事案である。

第一審である東京地方裁判所は、①本件訴えのうち、請求第1項の訴えは、行政処分に該当しない行為を処分の義務付けの訴えの対象として提起されたものであって、不適法であるというべきであるから、却下を免れない、②原告による報告を受けた公正取引委員会が、政策調整を行わなかったとしても、これをもって、原告との関係で、職務上の法的義務の違反に問擬される余地はなく、国家賠償法上の違法と評価される余地はないというべきであり、原告の主張は理由がない旨等判示して、請求第1項の訴えを却下し、請求第2項の請求を棄却した。

ウ 判決の概要

東京高等裁判所は、公正取引委員会の行う政策調整は、国家機関間の行為であって、それが行政事件訴訟法第3条第6項に規定する処分に当たらないことは一審判決のとおりであるから、本件訴え中、当委員会に資源エネルギー庁に対する政策調整を求める請求に係る部分は、不適法というほかなく、また、当委員会の行う政策調整は、公益のために行われるものであるから、控訴人の意に沿った措置をとらなかったことにより、控訴人の権利又は法的に保護された利益が侵害されたとすることはできない旨、原審判決の判断理由に付け加え、控訴を棄却した。

エ 訴訟手続の経過

本件は、上訴期間の経過をもって確定した。

第3 独占禁止法第24条に基づく差止請求訴訟

平成22年度当初において係属中の独占禁止法第24条に基づく差止請求訴訟は8件であったところ、同年度中に5件の訴えが提起された。これらの平成22年度の係属事件13件のうち、上告及び上告受理申立ての取下げにより終了したものが1件、原告が訴えを取り下げたものが2件あった。また、知的財産高等裁判所が原告の請求を棄却する判決を下したものが1件、和歌山地方裁判所が原告の請求を一部認容する判決を下したものが1件、名古屋高等裁判所が原判決の変更を行ったものが1件あった(これらについてはいずれも上訴されたため、係属中である。)。この結果、平成22年度末時点において係属中の訴訟は10件となった。

第4 独占禁止法第25条に基づく損害賠償請求訴訟

平成22年度当初において係属していた独占禁止法第25条に基づく損害賠償請求訴訟は19件であったところ、同年度中に12件の訴えが提起された。これら平成22年度の係属事件31件のうち、和解が1件、東京高等裁判所が原告の請求を認容する判決を下したものが1件(これについては、被告らが上告及び上告受理申立てを行ったため係属中である。)であった。平成22年度末時点において係属中の訴訟は30件である。

1 ニプロ(株)によるアンプル生地管に係る私的独占事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成19年(ワ)第10号

損害賠償請求事件

原告 (株)ナイガイ及び内外硝子工業(株)

被告 ニプロ(株)

提訴年月日 平成19年11月26日

(2) 事案の概要

公正取引委員会は、ニプロ(株)によるアンプル生地管に係る私的独占事件について、平成18年6月5日、ニプロ(株)に対し審判審決を行った。当該審決確定後、(株)ナイガイ及び内外硝子工業(株)は、ニプロ(株)に対して、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。

(3) 訴訟手続の経過

本件については、東京高等裁判所から、平成19年11月27日、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、平成20年8月14日、意見書を提出した。

平成22年度末現在、東京高等裁判所に係属中である。

2 日本道路公団が発注する情報表示設備工事の入札談合事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成20年(ワ)第2号

損害賠償請求事件

原告 独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構

被告 星和電機(株)ほか2名

提訴年月日 平成20年9月19日

判決年月日 平成22年10月1日

上告及び上告受理申立て 平成22年10月7日

(2) 事案の概要

公正取引委員会は、日本道路公団が発注する情報表示設備工事の入札談合について、平成17年4月27日、星和電機(株)ほか2名に対し当該行為の排除等を命ずる勧告審決を行った。当該審決確定後、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構は、当該審決が認定した入札談合により日本道路公団が被った損害に係る賠償請求権を同機構が日本道路公団から承継したとして、星和電機(株)ほか2名に対し、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。

(3) 判決の要旨

談合行為によって発注者が被った損害は、談合行為がなければ存在したであろう落札価格(想定落札価格)と現実の落札価格との差額であり、想定落札価格は、違反行為がされる直前の落札価格をもって想定落札価格と推認するのが相当であるが、違反行為が、認定された違反行為以前にも存在していた疑いがあり、それが相当長期にわたる場合には、違反行為の終了後の公正かつ自由な競争によって行われた入札における現実の落札価格を基礎として、想定落札価格を推計することが相当である。そして、入札の対象となる物件の規模、仕様等が異なるために比較できる同一の物件がなく、現実の落札価格を用いた推計が適さない場合には、違反行為の対象となっていない物件の現実の落札価格と予定価格との比率(落札率)を用いることが相当といえる。この場合、違反行為が行われていた期間と、価格形成の前提となる経済条件、市場構造その他の経済的要因の著しい変動がない期間における相当数の同種事例を抽出する必要があるというべきである。本件入札談合では、本件審決に照らせば、本件入札談合が認定された平成13年4月1日以前にも被告らが同様の違反行為を行っていた疑いがあることから、違反行為が終了した後の相当期間内における複数の同種入札事例を基礎とするのが相当であるところ、旧公団が発注する工事は、物件ごとに規模や仕様等を異にするので、その平均的な落札率を用いて想定落札率を算定した上、これを用いて損害額を推計する手法によることに一応の合理性を認めることができる。

被告らは、本件違約金条項の性質を損害賠償額の予定であるとし、あらかじめ定められた違約金額を超過する損害が発生したとしてもその損害賠償義務は生じないと主張するが、現実の損害額が違約金の額を超える場合にその超過分の請求をあらかじめ放棄することで、談合参加者の責任を限定することには馴染まず、むしろ損害の立証が可能な場合には更にその超過額の請求をなし得るものとして、談合参加者への責任追及の可能性を留保していると解するのが、本件違約金条項を設けた発注者側の合理的な意思に合致するというべきである。

入札談合では受注者とともに、事前の受注調整に応じて入札に協力した入札参加者は、発注者に対する共同不法行為が成立して損害賠償責任を負い、受注者とはいわゆる不真正連帯の関係に立つことになる。

(4) 訴訟手続の経過

本件については、東京高等裁判所から、平成20年10月15日、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、平成21年5月8日、意見書を提出した。

本件については、平成22年10月1日、東京高等裁判所が請求を認容する判決を下したため、同年10月7日、被告らは上告及び上告受理申立てを行った。

平成22年度末現在、最高裁判所に係属中である。

3 日本道路公団が発注する鋼橋上部工工事の入札談合事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成20年(ワ)第6号、第7号、第10号、第13号、第21号、第22号、

第26号、第27号、第35号ないし第37号、第39号

損害賠償請求事件

原告 独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構又は中日本高速道路(株)(注)

被告 (株)神戸製鋼所ほか17名(注)

(注) 原告、被告は事件ごとに異なる。

提訴年月日 平成20年12月19日

(2) 事案の概要

公正取引委員会は、日本道路公団が発注する鋼橋上部工工事の入札談合について、平成17年11月18日、同工事の入札参加業者ら40名に対し当該行為の排除等を命ずる勧告審決を行った。当該審決確定後、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構又は中日本高速道路(株)は、当該審決が認定した入札談合により日本道路公団が被った損害に係る賠償請求権をそれぞれが日本道路公団から承継したとして、三井造船(株)ほか29名に対し、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟35件をそれぞれ東京高等裁判所に提起した。

(3) 訴訟手続の経過

本件については、東京高等裁判所から、平成21年1月15日から29日、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、平成21年6月26日、意見書を提出した。

平成22年度までに計22件の訴えの取下げ及び1件の和解があり、平成22年度末現在、(株)神戸製鋼所ほか17名に対する12件が東京高等裁判所に係属中である。

4 (株)セブン-イレブン・ジャパンによる優越的地位の濫用事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成21年(ワ)第5号、第6号、平成22年(ワ)第9号、第10号

損害賠償請求事件

原告

平成21年(ワ)第5号 Xほか4名

平成21年(ワ)第6号 Y

平成22年(ワ)第9号 Zほか1名

平成22年(ワ)第10号 Wほか1名

被告 (株)セブン-イレブン・ジャパン

提訴年月日

平成21年(ワ)第5号、第6号 平成21年9月29日

平成22年(ワ)第9号、第10号 平成22年8月4日

(2) 事案の概要

公正取引委員会は、(株)セブン-イレブン・ジャパンが、独占禁止法第19条(不公正な取引方法第14項〔優越的地位の濫用〕第4号(注)に該当)の規定に違反する行為を行っているとして、平成21年6月22日、(株)セブン-イレブン・ジャパンに対し当該行為の排除等を命ずる排除措置命令を行った。当該命令確定後、平成21年(ワ)第5号事件及び第6号事件並びに平成22年(ワ)第9号事件及び第10号事件の原告らは、(株)セブン-イレブン・ジャパンに対して、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟をそれぞれ東京高等裁判所に提起した。

(注) 平成21年公正取引委員会告示第18号による改正前の一般指定第14項第4号

(3) 訴訟手続の経過

本件のうち、平成21年(ワ)第5号事件及び第6号事件について、東京高等裁判所から、平成21年10月26日及び27日、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、平成21年12月16日、意見書を提出した。また、平成22年(ワ)第9号事件及び第10号事件について、東京高等裁判所から、平成22年8月9日及び12日、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、平成22年9月10日、意見書を提出した。

本件のうち、平成21年(ワ)第5号事件について、原告のうち1名につき訴えの取下げがあったが、平成22年度末現在、いずれも東京高等裁判所に係属中である。

5 地方公共団体が発注するごみ処理施設建設工事の入札談合事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成22年(ワ)第2号、第3号、第5号、第7号、第8号、第11号、

第13号ないし第15号、平成23年(ワ)第1号ないし第3号

損害賠償請求事件

(2) 事案の概要

公正取引委員会は、地方公共団体が発注するごみ処理施設建設工事の入札談合について、平成18年6月27日、日立造船(株)ほか4名に対し当該行為の排除等を命ずる審判審決を行った。当該審決確定後、上記表に記載の各原告は、それぞれ、各被告に対し、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。

(3) 訴訟手続の経過

本件の各事件については、次のとおり、東京高等裁判所から、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、いずれにも意見書を提出した。

本件については、次のとおり、平成23年3月8日に平成22年(ワ)第3号事件につき和解があり、平成22年度末現在、残りの11件について東京高等裁判所に係属中である。

6 独立行政法人水資源機構が発注する水門設備工事の入札談合事件

(1) 事件の表示

東京高等裁判所平成22年(ワ)第4号

損害賠償請求事件

原告 独立行政法人水資源機構

被告 (株)IHIほか5名

提訴年月日 平成22年3月31日

(2) 事案の概要

公正取引委員会は、独立行政法人水資源機構が発注する水門設備工事の入札談合について、平成19年3月8日、(株)IHIほか5名に対し当該行為の排除等を命ずる排除措置命令を行った。当該命令確定後、独立行政法人水資源機構は、(株)IHIほか5名に対し、独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。

(3) 訴訟手続の経過

本件については、東京高等裁判所から、平成22年4月6日、独占禁止法第84条第1項の規定に基づき、同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ、公正取引委員会は、同年7月9日、意見書を提出した。

平成22年度末現在、東京高等裁判所に係属中である。