第2部 各論

第5章 競争環境の整備

第1 独占禁止法適用除外の見直し

1 独占禁止法適用除外の概要

独占禁止法は、市場における公正かつ自由な競争を促進することにより、一般消費者の利益を確保するとともに国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とし、これを達成するために、私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法等を禁止している。他方、他の政策目的を達成する観点から、特定の分野における一定の行為に独占禁止法の禁止規定等の適用を除外するという適用除外が設けられている。

適用除外は、その根拠規定が独占禁止法自体に定められているものと独占禁止法以外の個別の法律に定められているものとに分けることができる。

(1) 独占禁止法に基づく適用除外

独占禁止法は、知的財産権の行使行為(同法第21条)、一定の組合の行為(同法第22条)及び再販売価格維持契約(同法第23条)を、それぞれ同法の規定の適用除外としている。

(2) 個別法に基づく適用除外

独占禁止法以外の個別の法律において、特定の事業者又は事業者団体の行為について独占禁止法の適用除外を定めているものとしては、平成22年度末現在、保険業法等14の法律がある。

2 適用除外の見直し

(1) これまでの見直しについて

適用除外の多くは、昭和20年代から昭和30年代にかけて、産業の育成・強化、国際競争力強化のための企業経営の安定、合理化等を達成するため、各産業分野において創設されてきたが、個々の事業者において効率化への努力が十分に行われず、事業活動における創意工夫の発揮が阻害されるおそれがあるなどの問題があることから、近年、その見直しが行われてきた。

平成9年7月20日、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律」(平成9年法律第96号)が施行され、個別法に基づく適用除外のうち20法律35制度について廃止等の措置が採られた。次いで、平成11年7月23日、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律」(平成11年法律第80号)が施行され、不況カルテル制度及び合理化カルテル制度の廃止、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外等に関する法律の廃止等の措置が採られた。さらに、平成12年6月19日、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」(平成12年法律第76号)が施行され、自然独占に固有の行為に関する適用除外の規定が削除された。

これらの措置により、平成7年度末において30法律89制度存在した適用除外は、平成22年度末現在、15法律21制度まで縮減された。

(2) 「規制・制度改革に係る対処方針」における適用除外制度の見直し

「規制・制度改革に係る対処方針」(平成22年6月18日閣議決定)において、「農業協同組合等に対する独占禁止法の適用除外の見直し」及び「外航海運に関する独占禁止法適用除外制度の見直し」の項目が盛り込まれた。公正取引委員会は、農業協同組合等に対する適用除外制度について、農林水産省と連し、農業協同組合等の農畜産物の販売事業及び生産資材の購買事業の取引について、実態の把握と検証を行い、農業協同組合等に対する同制度については、当該検証の結果としては、直ちに廃止する必要はないという結論を得た。また、外航海運に関する適用除外制度について、同閣議決定において、「国土交通省は、荷主の利益、日本経済への影響、諸外国の外航海運に係る独占禁止法適用除外制度に係る状況等を分析、検証し、我が国の同制度の見直しについて、公正取引委員会と協議しつつ、引き続き検討を行う。」とされたことを踏まえ、公正取引委員会は、国土交通省と所要の協議を実施した。その結果、国土交通省は、現時点においては同制度を維持するが、同制度に係る今後の諸外国の動き、荷主の利益、日本経済への影響等を踏まえ、同制度の見直しについて、公正取引委員会と協議しつつ、平成27年度に再度検討を行うという結論を得た。

3 適用除外カルテル

(1) 概要

価格、数量、販路等のカルテルは、公正かつ自由な競争を妨げるものとして、独占禁止法上禁止されているが、その一方で、他の政策目的を達成する等の観点から、個々の適用除外ごとに設けられた一定の要件・手続の下で、特定のカルテルが例外的に許容される場合がある。このような適用除外カルテルが認められるのは、当該事業の特殊性のため(保険業法に基づく保険カルテル)、地域住民の生活に必要な旅客輸送(いわゆる生活路線)を確保するため(道路運送法等に基づく運輸カルテル)等、様々な理由による。

個別法に基づく適用除外カルテルについては、一般に、公正取引委員会の同意を得、又は当委員会へ協議若しくは通知を行って、主務大臣が認可を行うこととなっている。

また、適用除外カルテルの認可に当たっては、一般に、当該適用除外カルテルの目的を達成するために必要であること等の積極的要件のほか、当該カルテルが弊害をもたらしたりすることのないよう、カルテルの目的を達成するために必要な限度を超えないこと、不当に差別的でないこと等の消極的要件を充足することがそれぞれの法律により必要とされている。

さらに、このような適用除外カルテルについては、不公正な取引方法に該当する行為が用いられた場合等には独占禁止法の適用除外とはならないとする、いわゆるただし書規定が設けられている。

公正取引委員会が認可し、又は当委員会の同意を得、若しくは当委員会に協議若しくは通知を行って主務大臣が認可等を行ったカルテルの件数は、昭和40年度末の1,079件(中小企業団体の組織に関する法律に基づくカルテルのように、同一業種について都道府県等の地区別に結成されている組合ごとにカルテルが締結されている場合等に、同一業種についてのカルテルを1件として算定すると、件数は415件)をピークに減少傾向にあり、また、適用除外制度そのものが大幅に縮減されたこともあり、平成22年度末現在、28件となっている。

(2) 個別法に基づく適用除外カルテルの動向

平成22年度において、個別法に基づき主務大臣から公正取引委員会に対し同意を求められ、又は協議若しくは通知のあった適用除外カルテルの処理状況は第1表のとおりであり、このうち現在実施されている個別法に基づく適用除外カルテルの動向は、次のとおりである。

第1表 平成22年度における適用除外カルテルの処理状況

ア 保険業法に基づくカルテル

保険業法に基づき損害保険会社は

① 航空保険事業、原子力保険事業、自動車損害賠償保障法に基づく自動車損害賠償責任保険事業若しくは地震保険契約に関する法律に基づく地震保険事業についての共同行為

又は

② ①以外の保険で共同再保険を必要とするものについての一定の共同行為を行う場合には、金融庁長官の認可を受けなければならない。金融庁長官は、認可をする際には、公正取引委員会の同意を得ることとされている。

平成22年度において、金融庁長官から同意を求められたものは3件であった(変更認可に係るもの)。また、平成22年度末における同法に基づくカルテルは9件である。

イ 損害保険料率算出団体に関する法律に基づくカルテル

損害保険料率算出団体は、自動車損害賠償責任保険及び地震保険について基準料率を算出した場合には、金融庁長官に届け出なければならない。金融庁長官は、届出を受理したときは、公正取引委員会に通知することとされている。

平成22年度において、金融庁長官から通知を受けたものは1件であった。また、平成22年度末における同法に基づくカルテルは2件である。

ウ 著作権法に基づく商業用レコードの二次使用料等に関する取決め

著作隣接権者(実演家又はレコード製作者)が有する商業用レコードの二次使用料等の請求権については、毎年、その請求額を文化庁長官が指定する団体(指定団体)と放送事業者等又はその団体間において協議して定めることとされており、指定団体は当該協議において定められた額を文化庁長官に届け出なければならない。文化庁長官は、届出を受理したときは、公正取引委員会に通知することとされている。

平成22年度において、文化庁長官から通知を受けたものは8件であった。

エ 道路運送法に基づくカルテル

輸送需要の減少により事業の継続が困難と見込まれる路線において地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため、又は旅客の利便を増進する適切な運行時刻を設定するため、一般乗合旅客自動車運送事業者は、同一路線において事業を経営する他の一般乗合旅客自動車運送事業者と、共同経営に関する協定を締結することができる。この協定の締結、変更に当たっては、国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は、認可をする際には、公正取引委員会に協議することとされている。

平成22年度において、国土交通大臣から協議を受けたものは1件であった(変更認可に係るもの)。また、平成22年度末における同法に基づくカルテルは3件である。

オ 航空法に基づくカルテル
(ア) 国内航空カルテル

航空輸送需要の減少により事業の継続が困難と見込まれる本邦内の各地間の路線において地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため、当該路線において2以上の航空運送事業者が事業を経営している場合に、本邦航空運送事業者は、他の航空運送事業者と、共同経営に関する協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては、国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は、認可をする際には、公正取引委員会に協議することとされている。

平成22年度において、国土交通大臣から協議を受けたものはなかった。また、平成22年度末における同法に基づくカルテルはない。

(イ) 国際航空カルテル

本邦内の地点と本邦外の地点との間の路線又は本邦外の各地間の路線において公衆の利便を増進するため、本邦航空運送事業者は、他の航空運送事業者と、連絡運輸に関する契約、運賃協定その他の運輸に関する協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては、国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は、認可をしたときは、公正取引委員会に通知することとされている。

平成22年度において、国土交通大臣から通知を受けたものは79件であった。

カ 海上運送法に基づくカルテル
(ア) 内航海運カルテル

本邦の各港間の航路に関して、定期航路事業者は、地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため、旅客の利便を増進する適切な運航日程・運航時刻を設定するため、又は貨物の運送の利用者の利便を増進する適切な運航日程を設定するため、共同経営に関する協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては、国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は、認可をする際には、公正取引委員会に協議することとされている。

平成22年度において、国土交通大臣から協議を受けたものは1件であった(変更認可に係るもの)。また、平成22年度末における同法に基づくカルテルは5件である。

(イ) 外航海運カルテル

本邦の港と本邦以外の地域の港との間の航路に関して、船舶運航事業者は、他の船舶運航事業者と、運賃及び料金その他の運送条件、航路、配船並びに積取りに関する事項を内容とする協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては、あらかじめ国土交通大臣に届け出なければならない。国土交通大臣は、届出を受理したときは、公正取引委員会に通知することとされている。

平成22年度において、国土交通大臣から通知を受けたものは411件であった。

キ 内航海運組合法に基づくカルテル

内航海運組合法に基づき内航海運組合が調整事業を行う場合には、調整規程又は団体協約を設定し、国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は、認可をする際には、公正取引委員会に協議することとされている。

平成22年度において、国土交通大臣から協議を受けたものはなかった。また、平成22年度末における同法に基づくカルテルは1件である。

4 協同組合の届出状況

独占禁止法第22条は、「小規模の事業者又は消費者の相互扶助を目的とすること」(同条第1号)等同条各号に掲げる要件を備え、かつ、法律の規定に基づいて設立された組合(組合の連合会を含む。)の行為について、不公正な取引方法を用いる場合又は一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合を除き、同法を適用しない旨を定めている(一定の組合の行為に対する独占禁止法適用除外制度)。

中小企業等協同組合法(昭和24年法律第181号。以下「中協法」という。)に基づいて設立された事業協同組合及び信用協同組合(以下「協同組合」という。)は、その組合員たる事業者が、①資本の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業者については5000万円、卸売業を主たる事業とする事業者については1億円)を超えない法人たる事業者又は②常時使用する従業員の数が300人(小売業を主たる事業とする事業者については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業者については100人)を超えない事業者に該当するものである場合、独占禁止法の適用に際しては、同法第22条第1号の要件を備える組合とみなされる(中協法第7条第1項)。

一方、協同組合が上記①又は②以外の事業者を組合員に含む場合には、公正取引委員会は、その協同組合が独占禁止法第22条各号の要件を備えているかどうかを判断する権限を有しており(中協法第7条第2項)、これらの協同組合に対し、当該組合員が加入している旨を当委員会に届け出る義務を課している(中協法第7条第3項)。

この中協法第7条第3項の規定に基づく届出件数は、平成22年度において、142件であった(附属資料3-9表参照)。

なお、平成21年独占禁止法改正法による改正前の独占禁止法第8条は、事業者団体に対して、成立したとき、届出に係る事項に変更が生じたとき及び解散したときは、それぞれその旨を公正取引委員会に届け出る義務を課していた(同条第2項から第4項まで)が、平成21年独占禁止法改正法により、事業者団体の届出義務は廃止された(平成21年7月10日施行)。平成22年度においては、経過措置に基づく事業者団体からの変更届出が50件あった。

協同組合・事業者団体届出件数の推移

(注) 平成21年度までは成立、変更及び解散の届出の合計。平成22年度は変更の届出の件数。

5 著作物再販適用除外の取扱いについて

商品の供給者がその商品の取引先である事業者に対して再販売する価格を指示し、これを遵守させることは、原則として、独占禁止法第2条第9項第4号(再販売価格の拘束)に該当し、独占禁止法第19条に違反するものであるが、同法第23条第4項の規定に基づき、著作物を対象とするものについては、例外的に同法の適用が除外されている。

公正取引委員会は、著作物についてのこのような適用除外の取扱いについて、国民各層から意見を求めるなどして検討を進め、平成13年3月、結論を得るに至った(第2表)。

公正取引委員会は、著作物再販適用除外制度が消費者利益を不当に害することがないよう、著作物の流通・取引慣行の実態を調査し、関係業界における弊害是正の取組の進捗を検証するとともに、その結果を公表してきている。また、関係業界における運用の弾力化の取組等、著作物の流通についての意見交換を行うため、公正取引委員会、関係事業者、消費者、学識経験者等を構成員とする著作物再販協議会を設け、平成13年12月から平成20年6月までの間に8回の会合を開催した。平成22年度においては、著作物再販協議会に代わって、関係業界に対する著作物再販ヒアリングを実施し、関係業界における運用の弾力化等の取組の実態を把握するとともにその取組を促した。

第2表 著作物再販制度の取扱いについて(概要)(平成13年3月23日)

第2 競争評価に関する取組

1 競争評価の実施に関する動向

「行政機関が行う政策の評価に関する法律施行令」の改正により、平成19年10月以後、各府省が規制の新設及び改廃を行おうとする際、原則として、規制の事前評価の実施が義務付けられたところであるが、その際、「規制の事前評価の実施に関するガイドライン」(平成19年8月24日政策評価各府省連絡会議了承)において、「その他の社会的費用」の一つとして、競争に与える影響を考慮することとされた。また、総務省が取りまとめた「行政評価等プログラム」(平成22年4月公表)において、公正取引委員会の協力を得て規制による競争状況への影響分析(以下「競争評価」という。)の試行を開始することとされ、平成22年4月から実施された。競争評価については、各府省は、規制等に関して、競争状況への影響・分析に関するチェックリストの記入を行い、評価書と共に総務省に提出し、総務省はチェックリストを公正取引委員会へ送付することとされている。

2 競争評価の普及・定着に係る公正取引委員会の取組

公正取引委員会は、前記1の動向を踏まえ、各府省に対する競争評価の普及・定着を図ることを目的として、次の取組を行った。

(1) 競争評価チェックリストの作成

前記ガイドラインにおいて、規制の新設及び改廃が競争に与える影響を特定する方法としてチェックリストを用いることとされたことから、公正取引委員会は、総務省と連携して競争評価チェックリストを作成し、平成22年4月、総務省を通じて各府省に配布した。

(2) 「競争評価チェックリスト活用の手引き」等の作成及び配布

各府省の政策評価担当者等が、競争評価の趣旨及び内容をより理解しやすくなるように、「競争評価チェックリスト活用の手引き」等の参考資料を作成し、平成22年6月、総務省を通じて各府省に配布した。

(3) 競争評価の実施に関する周知

各府省に対して、競争評価を行う上で必要な情報を提供するため、平成23年3月、総務省が開催した規制の事前評価に関する説明会において、競争評価の実施に関する周知を行った。

なお、平成22年度において、公正取引委員会が総務省から受領した競争評価チェックリストは67件である。

第3 ガイドライン等の策定・公表

公正取引委員会は、事業者及び事業者団体による独占禁止法違反行為の未然防止とその適切な活動に役立てるため、事業者及び事業者団体の活動の中でどのような行為が実際に独占禁止法違反となるのかを具体的に示した「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成3年7月)、「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」(平成5年4月)、「公共的な入札に係る事業者及び事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成6年7月)、「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成7年10月)、「農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成19年4月)、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成19年9月)、「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針」(平成21年10月)、「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」(平成21年12月)、「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(平成22年11月)等を策定・公表している。

また、個々の具体的な活動について事業者等からの相談に応じるとともに、独占禁止法違反行為の未然防止に役立てるため、事業者等から寄せられた相談のうち、他の事業者等の参考になると思われるものを相談事例集として取りまとめ、公表している(平成21年度に寄せられた相談について、平成22年7月に公表した。)。

第4 入札談合の防止への取組

公正取引委員会は、以前から積極的に入札談合の摘発に努めているほか、平成6年7月に「公共的な入札に係る事業者及び事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」を公表し、入札に係るどのような行為が独占禁止法上問題となるかについて具体例を挙げながら明らかにすることによって、入札談合の防止の徹底を図っている。

また、入札談合の防止を徹底するためには、発注者側の取組が極めて重要であるとの観点から、独占禁止法違反の可能性のある行為に関し、発注官庁等から公正取引委員会に対し情報が円滑に提供されるよう、各発注官庁等において、公共入札に関する公正取引委員会との連絡担当官として会計課長等が指名されている。

公正取引委員会は、連絡担当官との連絡・協力体制を一層緊密なものとするため、平成5年度以降、「公共入札に関する公正取引委員会との連絡担当官会議」を開催している。平成22年度においては、国の本省庁等の連絡担当官会議を11月24日に開催するとともに、国の地方支分部局等の連絡担当官会議を全国9か所で開催した。

また、公正取引委員会は、平成6年度以降、中央官庁、地方公共団体等が実施する調達担当者等に対する研修会への講師の派遣及び資料の提供等の協力を行うとともに、地方公共団体等の調達担当者に対する研修会を開催している。平成22年度においては、国、地方公共団体及び政府出資法人に対して142件の講師の派遣を行うとともに、研修会を全国で23回開催した。

第5 企業におけるコンプライアンスの向上のための施策

市場における公正かつ自由な競争を一層促進させるためには、独占禁止法の厳正な執行とともに、企業におけるコンプライアンスの向上が重要であり、これに関連した企業の取組を促していく必要があると考えられることから、公正取引委員会では、これまで、企業における独占禁止法に関するコンプライアンス(以下「独占禁止法コンプライアンス」という。)活動の状況を把握し、改善のための方策等を提示するため、東証一部上場企業や外資系企業等に対してアンケート調査等を実施し、報告書の取りまとめ・公表を行ってきた。

平成21年3月に公表した報告書「企業におけるコンプライアンス体制の整備状況に関する調査-独占禁止法改正法施行(平成18年1月)以降の状況-」では、東証一部上場企業における独占禁止法コンプライアンス体制の整備は全体として大きく進んでいるものと考えられるところ、今後は、当該体制が効果的に運営されることや体制をより具体的で実態に即したものに整えていくことが課題である旨を指摘したところである。

これを踏まえ、企業や企業法務を専門とする弁護士等の有識者から、独占禁止法コンプライアンスの実効性を高めるための取組状況の実態等についてヒアリング調査を行い、そこで得られた事例や意見を参考として、東証一部上場企業に対し、独占禁止法コンプライアンスの取組状況の実態等に関するアンケート調査を実施し、平成22年6月30日、独占禁止法コンプライアンスの実効性を高めるための方策を「企業における独占禁止法に関するコンプライアンスの取組状況について-コンプライアンスの実効性を高めるための方策-」として取りまとめ、公表した。

調査結果を踏まえ、独占禁止法コンプライアンスの実効性を高めるために各企業において取組を行っていくことが望まれる主な方策は、次のとおりである。

① 法務・コンプライアンス担当部署の取組の強化

・ 法務・コンプライアンス担当部署において、独占禁止法担当者を指定し、独占禁止法コンプライアンス業務を専門的・集中的に取り扱わせること。

・ 法務・コンプライアンス担当部署が相談受付のような受け身的な対応だけでなく、営業担当部署等と定期的に情報交換を行う、取引条件の設定等に関与するなど、経常的・能動的に関与していくこと。

② 経営トップのコンプライアンス重視の姿勢を伝える取組の強化

経営トップ自らが、社員に対し、研修等の場で、直接コンプライアンスを重視する姿勢を繰り返し、明確に伝えていくこと。

③ 経営陣に対する研修の充実

企業におけるコンプライアンスの取組、内部統制、課徴金減免申請等の際に大きな役割を担う経営陣に対して、独占禁止法に関する知識を高めるため、研修の充実を図ること。

④ グループ会社に対する独占禁止法コンプライアンスの積極的関与

国内グループ会社と比較して手薄となっている海外グループ会社に対する関与を強めていくこと。

国内、海外を問わず、グループ会社との課徴金減免の共同申請を想定した、グループ会社間での情報共有や連携を行っていくこと。

⑤ 同業他社との接触ルールの策定及び遵守

同業他社との接触は独占禁止法違反行為への関与につながるリスクを伴うものであり、特に営業担当者による接触は、そのリスクが高いことから、同業他社との接触に関する具体的なルールを策定し、社員に周知すること。また、当該ルールの遵守状況について、客観的・統一的なチェックが行われるよう、法務・コンプライアンス担当部署においても実質的に担当すること。

⑥ 独占禁止法違反情報に接した場合の社内調査の実施

独占禁止法違反情報に接した場合、早期に経営トップに報告を行うとともに、実効的な社内調査が実施できるよう、経営トップの意思決定の下で、社内処分軽減等を通じ、関係する社員の協力を得て社内調査を実施すること。

第6 独占的状態調査

独占禁止法第8条の4は、独占的状態に対する措置について定めている。公正取引委員会は、独占禁止法第2条第7項に規定する独占的状態の定義規定のうち、事業分野に関する考え方についてガイドラインを公表しており、その別表には、独占的状態の国内総供給価額要件及び事業分野占拠率要件(国内総供給価額が1000億円超で、かつ、上位1社の事業分野占拠率が50%超又は上位2社の事業分野占拠率の合計が75%超)に該当すると認められる事業分野並びに今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当することとなると認められる事業分野を掲載している(第3表)。

別表については、生産・出荷集中度の調査結果等に応じ逐次改定してきている(直近では、平成22年9月30日に改定)。その中でも特に集中度の高い業種については、生産、販売、価格、製造原価、技術革新等の動向、分野別利益率等について、独占禁止法第2条第7項第2号(新規参入の困難性)及び第3号(価格の下方硬直性、過大な利益率又は販売管理費の支出)の各要件に即し、企業の動向の監視に努めている。

第3表 別表掲載事業分野(31事業分野)

(注1) 本表は、公正取引委員会が行った調査に基づき、独占的状態の国内総供給価額要件及び事業分野占拠率要件に該当すると認められる事業分野並びに今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当することとなると認められる事業分野(平成20年の国内総供給価額が950億円を超え、かつ、上位1社の事業分野占拠率が45%を超え又は上位2社の事業分野占拠率の合計が70%を超えると認められるもの)を掲げたものである。

(注2) 本表の商品順は工業統計表に、役務順は日本標準産業分類による。

第7 広告業界の取引実態に関するフォローアップ調査

1 調査の趣旨等

(1) 調査の趣旨

公正取引委員会が平成17年11月に公表した「広告業界の取引実態に関する調査報告書」(以下「前回調査」という。)において「競争政策上の評価」として示した事項を中心に、テレビ広告業界の取引慣行のフォローアップ調査を行うとともに、急激な拡大を続けるインターネット広告にテレビ広告と同様な競争阻害的な取引慣行が出現していないかどうかを調査することによって、広告業界の取引慣行について競争政策上の観点から改善すべき点を明らかにすることを目的として調査を実施し、平成22年9月、調査報告書を公表した。

(2) 調査の対象・方法

広告会社、媒体社(テレビ局、インターネット広告媒体社)、広告主等を対象にアンケート及びヒアリング調査を実施した。

2 前回調査の概要

(1) 広告業界の構造

「媒体社-広告会社-広告主」という広告媒体枠取引において、媒体社が広告会社へ報酬を支払うコミッション方式が中心である。また、有力な広告会社と中小規模の広告会社に二極化している。

(2) 広告業界の取引慣行

ア テレビ広告(番組CM)取引において、次の理由により、広告会社の新規参入が非常に困難である。

・有力な広告会社がCM枠の大部分を確保している。

・テレビ局による情報開示が少ない。

イ テレビ広告(スポットCM)取引において、広告会社の報酬格差は最大20%あり、最低限の基本報酬しか得られない中小規模の広告会社は、価格競争で不利である。

ウ 口頭による取引が少なくなく、媒体社、広告会社及び広告主の広告取引の当事者に適切な情報が与えられず、市場メカニズムが働きにくい状況にある。

エ 広告の効果やコストに関する広告主の意識は必ずしも高くない。

(3) 競争政策上の評価

ア テレビ広告の取引慣行
(ア) 番組CM取引

テレビ局は、テレビ放送の公共性にも鑑み、例えば、次のようにするなど番組CM取引に係る情報の一層の開示を行い、新規参入を促すことが有益かつ必要である。

・販売対象枠について一定時期(改編時期の2か月前など)に積極的に公表する。

・番組CM枠の価格表(実際の取引に用いられるもの)を明らかにする。

・販売対象枠について広告会社による入札の方法の導入を検討する。

(イ) スポットCM取引

テレビ局は、例えば、一定期間における取引量(額)や前年実績に対する増減率等、報酬率の算定基準について、広告会社各社に共通の基準を整備するなど、報酬の決定についての合理性及び公平性の確保が必要である。

イ 取引の明確化に向けた取引方法の改善

媒体社、広告会社及び広告主は、取引内容を明確にするため、取引条件等を記載した書面による取引を行うなど、取引方法を改善することが望ましい。

ウ 広告効果の評価・コスト意識の改善

広告主は、広告の効果やコストに対する意識を高め、現状の広告料金を検証するといった取組を行うことが有益である。また、広告主は、広告会社の選定・変更について、広告の効果やコスト面での成果を反映させることなども必要である。

3 今回調査の概要

(1) 今回調査の結果

ア テレビ広告の取引慣行
(ア) 番組CM取引

販売対象枠の公表については積極的に行う動きがみられたが、番組CM枠の価格表(実際の取引に用いられるもの)を明らかにすること及び広告会社を対象にした

販売対象枠の入札を導入することに関しては、積極的に行う動きはみられなかった。

(イ) スポットCM取引

スポットCM取引については、広告会社間の報酬率の格差は一部縮小(最大18%)しているものの、いまだ格差が認められる。また、テレビ局の定める報酬基準について、整備していると回答したテレビ局は増加しているものの、依然として、キー局5社を含む7割強のテレビ局は整備していない。

イ 取引の明確化に向けた取引方法の改善

基本契約及び個別の受発注において書面を用いて契約を締結する割合はおおむね増加傾向にある。しかし、基本契約及び個別の受発注それぞれにおいて、書面を用いて契約しなかったことによって、トラブルが生じたなどの指摘もあった。

ウ 広告効果の評価・コスト意識の改善

前回調査において指摘した広告主の広告効果や広告コストに対する意識を高める取組のうち、成果を上げられなかった広告会社の変更、広告会社を代理人とする契約の締結及び分割発注については、広告主が積極的に取り組んでいる傾向がみられた。しかし、報酬制度をコミッション方式以外のものに変更する取組については、取り組んでいる広告主は一部にとどまる。

エ インターネット広告の取引慣行

バナー広告の媒体枠の取引においては、媒体枠の料金表及び広告主の選択できる掲載期間が公表されており、取引も書面化されている。また、広告主は短期間であっても広告を掲載できる。テレビ広告に比べると広告会社に支払われる報酬率の格差はおおむね小さい。

検索連動型広告の取引においては、キーワードごとの固定単価又は入札単価に基づき、ユーザーによるクリック数に応じて広告料金が課金される仕組みが採用されており、取引も書面化されている。また、広告主は短期間であっても広告を掲載できる。テレビ広告に比べると広告会社に支払われる報酬率の格差はおおむね小さい。

(2) 競争政策上の評価

ア 番組CM取引

番組CM取引については、広告会社による新規参入を促すためにテレビ局からの情報開示が必要である。テレビ局は、広告会社に対して販売対象枠の公表をより積極的に行い、取引している広告会社から番組CM枠の価格について照会があった場合には実際の取引に使用される価格表を明らかにすることが望ましい。また、需要の高い販売対象枠については、広告会社を対象にした販売対象枠の入札の導入を検討することが望ましい。

イ スポットCM取引

広告会社への報酬の決定について、合理性及び公正性を確保する取組が十分に行われているとはいえない。テレビ局においては、例えば、一定期間における取引量(額)や前年実績に対する増減率等、報酬率の算定基準について、取引先の広告会社各社に共通の報酬基準を整備する等により、広告会社の報酬の決定について、合理性及び公正性を確保する必要がある。

ウ 取引の明確化に向けた取引方法の改善

基本契約及び個別の受発注を書面で行う割合はおおむね増加傾向にあり、取引の明確化が進んでいるとみられる。しかし、基本契約及び個別の受発注において、書面を取り交わさなかったことによりトラブルが生じたという事例や、書面を取り交わしても、その内容が不十分であったためにトラブルが生じたという事例が指摘された。今後、取引内容を明確にするため、また、トラブルを未然に防ぐため、取引の内容、金額、取引条件等を記載した書面により基本契約や個別の受発注を行う必要がある。

エ 広告効果の評価・コスト意識の改善

成果を上げられなかった広告会社の変更、広告会社を代理人とする契約の締結及び分割発注については、広告主の広告効果や広告コストに対する意識の改善が認められた。報酬制度をコミッション方式以外のものに変更する取組については、広告主において引き続き積極的に検討することが求められる。広告会社の新規参入が活発になるように、広告主は、今後も、広告の効果やコストに対する意識を一層高めていくことが求められる。

オ インターネット広告の取引慣行

インターネット広告のうちバナー広告及び検索連動型広告の取引において、テレビ広告市場で認められたような問題のある取引慣行は現在のところ認められなかった。

4 公正取引委員会の今後の対応

テレビ広告における媒体枠取引に係る取引慣行については一部改善の傾向もみられるが、関係事業者においては、引き続き、本件調査結果を踏まえ、取引慣行を点検し、問題のある慣行を見直し、取引の明確化を推進する等、広告取引全般の適正化を図ることが必要である。

インターネット広告のうち今回調査対象としたバナー広告及び検索連動型広告の取引において、テレビ広告市場で認められたような問題のある取引慣行は認められなかった。

公正取引委員会は、今後とも、公正かつ自由な競争の促進の観点から、インターネット広告に関する取引の動向も含め、広告取引における取引慣行全般について注視していくこととする。