第2部 各論

第2章 消費税転嫁対策特別措置法の制定等

第1 消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法

平成24年8月に成立した、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(平成24年法律第68号)において、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保する観点から独占禁止法及び下請法の特例に係る必要な法制上の措置を講じることとされたこと等を踏まえ、消費税の転嫁を阻害する行為の是正、価格の表示並びに消費税の転嫁及び表示の方法の決定に係る共同行為に関する特別措置を主な内容とする、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」が平成25年6月5日に成立し、同月12日に公布された(平成25年法律第41号)。同法は、一部の規定を除き、同年10月1日に施行されることが予定されている(平成25年政令第182号)。国会における審議状況及び同法の主な内容は次のとおりである。

1 国会における審議状況

 「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法案」は、平成25年3月22日に閣議決定され、同日に第183回通常国会に提出された。同法案は、衆議院においては、同年4月12日に本会議で趣旨説明及び質疑が行われ、同日、経済産業委員会に付託された後、同年5月17日の同委員会で一部修正の上、同日に同委員会及び本会議でそれぞれ可決され、参議院に送付された。参議院においては、同月27日に本会議で趣旨説明及び質疑が行われ、同日、経済産業委員会に付託された後、同年6月4日に同委員会で、同月5日に本会議で、それぞれ可決され、同法案は成立した。

2 法律の内容

(1) 消費税の転嫁拒否等の行為の是正に関する特別措置

ア 特定事業者の遵守事項

特定事業者は、平成26年4月1日以後に特定供給事業者から受ける商品又は役務の供給に関して、次に掲げる行為をしてはならないこととした(注)。

(ア) 減額又は買いたたき

商品若しくは役務の対価の額を減じ、又は商品若しくは役務の対価の額を当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと。

(イ) 商品購入、役務利用又は利益提供の要請

特定供給事業者による消費税の転嫁に応じることと引換えに、自己の指定する商品を購入させ、若しくは自己の指定する役務を利用させ、又は自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。

(ウ) 本体価格での交渉の拒否

商品又は役務の供給の対価に係る交渉において消費税を含まない価格を用いる旨の特定供給事業者からの申出を拒むこと。

( エ) 報復行為

前記(ア)から(ウ)までに掲げる行為があるとして特定供給事業者が公正取引委員会、主務大臣又は中小企業庁長官に対しその事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること。

(注) 「特定事業者」及び「特定供給事業者」とは、それぞれ下表に掲げる事業者をいう。

イ 消費税の転嫁拒否等に対する検査、指導等

(ア) 報告及び検査

a 公正取引委員会、主務大臣又は中小企業庁長官は、前記アに違反する行為を是正するために必要があると認めるときは、特定事業者若しくは特定供給事業者に対しその取引に関する報告をさせ、又はその職員に特定事業者若しくは特定供給事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができることとした。

b 前記aにより職員が立ち入るときは、その身分を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければならないこととした。

c 前記aによる立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないこととした。

(イ) 指導又は助言

公正取引委員会、主務大臣又は中小企業庁長官は、特定事業者に対し、前記アに違反する行為を防止し、又は是正するために必要な指導又は助言をするものとすることとした。

(ウ) 措置請求

主務大臣又は中小企業庁長官は、前記アに違反する行為があると認めるときは、公正取引委員会に対し、この法律の規定に従い適当な措置をとるべきことを求めることができることとした。ただし、次に掲げるときは、当該求めをするものとすることとした。

a 当該行為が多数の特定供給事業者に対して行われていると認められるとき。

b 当該行為によって特定供給事業者が受ける不利益の程度が大きいと認められるとき。

c 当該行為を行った事業者が前記アに違反する行為を繰り返し行う蓋然性が高いと認められるとき。

d 前記aからcまでに掲げるもののほか、消費税の円滑かつ適正な転嫁を阻害する重大な事実があると認められるとき。

(エ) 勧告

公正取引委員会は、特定事業者について前記アに違反する行為があると認めるときは、その特定事業者に対し、速やかに消費税の適正な転嫁に応じることその他必要な措置をとるべきことを勧告し、その旨を公表するものとすることとした。

ウ その他所要の規定の整備

(ア) 省庁間での情報共有等

公正取引委員会、主務大臣及び中小企業庁長官は、前記アに違反する行為の防止又は是正のため、相互に情報又は資料を提供することができることとした。

(イ) 公正取引委員会等への通知

国の行政機関の長又は地方公共団体の長は、前記アに違反する行為があると疑うに足りる事実があるときは、公正取引委員会、主務大臣又は中小企業庁長官に対して、その事実を通知するものとすることとした。

(ウ) 都道府県知事等への権限の付与

政令により、主務大臣の権限の一部を都道府県知事等に付与することができることとした。

(2) 消費税の転嫁を阻害する表示の是正に関する特別措置

ア 事業者の遵守事項

事業者は、平成26年4月1日以後における自己の供給する商品又は役務の取引について、次に掲げる表示をしてはならないこととした。

(ア) 取引の相手方に消費税を転嫁していない旨の表示

(イ) 取引の相手方が負担すべき消費税に相当する額の全部又は一部を対価の額から減ずる旨の表示であって消費税との関連を明示しているもの

(ウ) 消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示であって前記(イ)に掲げる表示に準ずるものとして内閣府令で定めるもの

イ 報告及び検査

(ア) 内閣総理大臣、公正取引委員会、主務大臣又は中小企業庁長官は、前記アに違反する行為を是正するために必要があると認めるときは、事業者に対しその表示に関する報告をさせ、又はその職員に事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができることとした。

(イ) 前記(ア)により職員が立ち入るときは、その身分を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければならないこととした。

(ウ) 前記(ア)による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないこととした。

(3) 価格の表示に関する特別措置

ア 事業者は、自己の供給する商品又は役務の価格を表示する場合において、今次の消費税率引上げに際し、消費税の円滑かつ適正な転嫁のため必要があるときは、現に表示する価格が税込価格であると誤認されないための措置を講じているときに限り、消費税法(昭和63年法律第108号)第63条の規定にかかわらず、税込価格を表示することを要しないこととした。

イ 前記アにより税込価格を表示しない事業者は、できるだけ速やかに、税込価格を表示するよう努めなければならないこととした。

ウ 事業者は、自己の供給する商品又は役務の税込価格を表示する場合において、消費税の円滑かつ適正な転嫁のため必要があるときは、税込価格に併せて、消費税を含まない価格又は消費税の額を表示するものとすることとした。

エ 前記ウの場合において、税込価格が明瞭に表示されているときは、当該消費税を含まない価格の表示については、景品表示法第4条第1項の規定は、適用しないこととした。

(4) 消費税の転嫁及び表示の方法の決定に係る共同行為に関する特別措置

ア 事業者が消費税を取引の相手方に円滑かつ適正に転嫁するため、事業者又は事業者団体が、公正取引委員会規則で定めるところにより、公正取引委員会に届出をしてする平成26年4月1日から平成29年3月31日までの間における商品又は役務の供給に係る次に掲げる共同行為(事業者団体がその直接又は間接の構成事業者に当該共同行為をさせる行為を含む。以下アにおいて同じ。)については、独占禁止法の規定を適用しないこととした。

(ア) 事業者又は構成事業者が供給する商品又は役務に係る消費税の転嫁の方法の決定に係る共同行為(その共同行為に参加している事業者の3分の2以上が中小事業者である場合又はその共同行為に係る事業者団体が、その構成事業者の3分の2以上が中小事業者であり若しくはその直接若しくは間接の構成員である事業者団体のそれぞれの構成事業者の3分の2以上が中小事業者であるものである場合に限る。)

(イ) 事業者又は構成事業者が供給する商品又は役務に係る消費税についての表示の方法の決定に係る共同行為

イ 法律の規定に基づいて設立された組合(組合の連合会を含む。以下同じ。)であって政令で定めるものは、当該法律の規定にかかわらず、当該組合の事業として前記アの共同行為をすることができることとした。

ウ 公正取引委員会は、前記イの政令で定める組合に係る前記アの届出を受理したときは、遅滞なく、当該組合を所管する大臣に通知しなければならないこととした。

第2 消費税率の引上げを見据えた買いたたき等の行為への対応

公正取引委員会は、消費税転嫁対策特別措置法施行前の買いたたき等の行為の早期発見・是正を図るため、次の取組を実施した。

1 事業者からの専用相談窓口の設置

消費税率の引上げを見据えた買いたたき等の行為に関する事業者からの相談等を一元的に受け付けるための専用窓口を、平成25年4月1日に設置することとした(同年3月27日公表)。

2 大規模小売業者による買いたたき等の行為の緊急調査結果

(1) 調査の概要

ア 趣旨

今後、消費税率の引上げが予定されているところ、既に消費税率の引上げを見据えて、大規模小売業者による納入業者に対する買いたたき等の行為が生じているとの懸念が寄せられている。

公正取引委員会は、独占禁止法・下請法で禁止されている行為に対して厳正に対処することとしているところ、こうした行為が生じていないか、その実態を明らかにすることで、大規模小売業者による違反行為の早期発見・是正を図るために、特に買いたたきに着目して、大規模小売業者及び納入業者を対象とした書面調査を実施し、平成25年6月28日、調査結果を公表した。

イ 調査方法

前事業年度売上高70億円以上の小売業者2,000社(以下2において「大規模小売業者」という。)及び大規模小売業者に対し継続的に商品・サービスを納入・提供している事業者(以下2において「納入業者」という。)を対象として、平成24年9月1日から回答日までを調査期間とする書面調査を実施した(調査票については、平成25年4月19日を回答期限として、同年3月26日に発送した。)。

表 書面調査の状況

(2) 調査結果

ア 大規模小売業者に対する調査

(ア) 大規模小売業者に対して、取扱商品を7つのカテゴリーに分け、そのカテゴリーごとに値下げ要請の有無やその内容についての回答を求めたところ、1,245社から、延べ3,450の回答が寄せられた。このうち、調査期間内に納入業者に対して納入価格の値下げ要請を行ったと回答したものは、420社(延べ1,356の回答数)であった。

(イ) 前記(ア)の420社(延べ1,356の回答数)のうち、今後、更に値下げ要請を行う予定があると回答したものは、171社(延べ668の回答数)であった。

(ウ) なお、ほぼ全ての大規模小売業者が平成26年4月の消費税率引上げを見据えた事前の値下げ要請は行っていないと回答した。

イ 納入業者に対する調査

(ア) 納入業者に対して、自社と取引を行っている大規模小売業者ごとに値下げ要請の有無やその内容についての回答を求めたところ、18,971社から回答が寄せられた。このうち、調査期間内に大規模小売業者から値下げ要請を受けたと回答した納入業者は1,037社であり、このうち、大規模小売業者から受けた値下げ要請が、消費税率引上げを見据えた事前の要請であったと回答したものは、117社(値下げ要請を受けたとする納入業者のうち11.3%)であった。

また、調査期間内に大規模小売業者から値下げ要請を受けたと回答した納入業者1,037社と取引のある大規模小売業者は延べ1,992社であり、このうち、値下げ要請が消費税率引上げを見据えた事前の要請であったと納入業者が回答している大規模小売業者は延べ169社(8.5%)であった。

なお、前記の納入業者117社(前記の大規模小売業者延べ169社)のうち、協議が十分に行われていなかったと回答したものは71社(延べ98社)であった。

(イ) 前記(ア)の消費税率引上げを見据えた事前の値下げ要請に関する具体的な事例は、以下のとおり。

a 取引先を集めた説明会を開催し、その説明会の中で、今後、消費税率が8%となっても、消費税率5%時における、又はそれ以下の売価を維持するために、仕入価格の低減や、リベートの要請を行うとの発言があった。

b 現時点では、まだ具体的な値下げ要請までは受けていないが、商談の中で購入担当者から、今後、消費税率が8%になっても現行の仕入価格を変える方針はないとの発言があった。これは、実際は、本体価格の値下げを要求されたものと思われる。

c 消費税率の引上げ後も商品の販売価格を据え置くとし、それは、納入業者の協力によって実現していきたいとの要請を受けた。

(3) 調査結果の評価

ア 今回の調査においては、1,245社のうち420社の大規模小売業者が調査期間中に納入業者に対して値下げ要請を行ったと回答しているところ、そのうち171社が、今後、更に値下げ要請を行う予定があると回答している。

イ また、納入業者のうち約1割に当たる事業者が消費税率引上げを見据えた事前の値下げ要請を受けたと回答していることや、前記イに記載した値下げ要請の事例を踏まえると、今後、消費税率引上げが近づくにつれ、当該引上げを見据えた更なる値下げ要請が増加し、納入業者に不当に不利益を与える行為が多発するおそれがある。こうした行為は、独占禁止法や下請法の違反行為に該当するおそれがある。さらに、消費税転嫁対策特別措置法の違反行為にも該当するおそれがある。

(4) 今後の対応

今回の調査結果を踏まえ、公正取引委員会としては、引き続き、大規模小売業者と納入業者との取引を十分監視していくこととし、具体的には、以下のような対応を行っていくこととした。

ア 関係事業者団体に対して今回の調査結果における問題点を伝えるとともに、消費税率引上げを見据えた買いたたき等の行為が行われることのないよう、法令遵守体制の構築の徹底等について要請する。また、同時に、消費税率引上げを見据えた事前の値下げ要請に当たって協議が十分に行われていなかったと納入業者が回答している大規模小売業者(前記イの延べ98社)に対して、今後、買いたたき等の行為が行われることのないよう、今回の調査結果及び評価を伝えることとする。

イ 今後、更に納入業者等からの情報収集に努め、優越的地位の濫用行為等については厳正に対処していく。

ウ また、公正取引委員会においては、平成25年度から、消費税転嫁対策特別措置法に違反する行為を効果的に摘発するための特別調査等を実施することとしているところ、その実施に当たっては、今回の調査結果を踏まえ、大規模小売業者に対して、重点的に調査を行っていくこととしたい。