第2部 各論

第6章 競争環境の整備

第1 公益事業分野等における規制改革に関する調査・提言等

1 調査・検討の趣旨

公正取引委員会では、昭和57年に政府規制制度について横断的に調査・分析した際に電気事業をその対象として以降、経済産業省における見直しに合わせて、電気事業における規制の在り方等につき検討・提言を行ってきた。

今般、「エネルギー分野における規制・制度改革に係る方針」(平成24年4月3日閣議決定)において、公正取引委員会は、①「一般電気事業者(注1)の市場支配力及び新電力(注2)のシェアが伸びていない状況」及び②「一般電気事業者間の供給区域(注3)を越えた競争が起きていない状況や、需要家の全国レベルでの一括受電契約が進まない状況」をそれぞれ踏まえて、「経済産業省における検討の状況も勘案しつつ、電力市場における競争実態の把握・分析を行い、検討し、競争政策上の考え方について結論を得る」こととされた。

今回、公正取引委員会は、前記閣議決定を受け、電力市場の現状について調査を行うとともに、競争政策の観点から検討を行って考え方を整理し、平成24年9月21日、「電力市場における競争の在り方について」として取りまとめ、公表した。

(注1) 「一般電気事業者」とは、一般の需要(自由化分野の需要を除いた、家庭用等の電力の需要のことをいう。)に応じ電気を供給する事業を営むことについて経済産業大臣の許可を受けた者であり、既存の10電力会社を指す。

(注2) 「新電力」とは、自由化分野の需要家の需要に応じ電気を供給する事業を営むことについて経済産業大臣に届出をした者であり、特定規模電気事業者を指す。

(注3) 「供給区域」とは、各一般電気事業者に一般の需要に応ずる供給義務が課される区域をいう。

2 公正取引委員会としての問題意識

 公正取引委員会は、前記1の閣議決定を受けて本件調査を行うに当たり、

(1) 規制の目的は政策的要請に照らして合理的であるか、また、規制の内容はその目的に照らして必要最小限のものか

(2) 規制の内容や方法が、事業者のインセンティブに照らして、合理的に目的を達成し得るものか

(3) 電力市場の特性やそれによる事業者の行動等により自由かつ活発な競争が妨げられるのであれば、これらへの対応が必要ではないか

という3点の問題意識を踏まえて検討を行った。

3 調査・検討の方法

平成24年4月9日から、公正取引委員会ホームページ上で、自由化分野の需要家、新電力等及び自ら発電設備を所有する事業者を対象に、電力市場の競争実態に関する情報を募集した。また、一般電気事業者9社、新電力8社、発電設備保有者4社、電力関連サービス事業者2社、自由化分野の需要家3社及び消費者団体1団体の計27者に対するヒアリング調査を実施したほか、独占禁止政策協力委員のうち消費者団体関係者等55名から意見を聴取した。さらに、一般電気事業者9社及び新電力11社並びに公営企業体(地方公営企業法第2条に規定する電気事業を行う地方公共団体の経営する企業)として水力発電を行っている26者に対してアンケート調査を実施した。

4 各分野における主な現状と問題点(調査結果)

(1) 小売分野

自由化分野における新電力の販売電力量シェアは、約3.5%(平成22年度)と小さく、特に工場等の産業用におけるシェアが事務所・店舗等の業務用に比して小さい。その要因としては、新電力は、一般電気事業者に比べて変動費用の高い電力を電源としており、夜間の電力使用量が大きい需要家との関係等で有利な料金の設定や大量の電力の安定的な供給が困難であることが考えられる。さらに、特に高圧の需要家は数が多く、また、小規模な需要家が多いことから、営業及び顧客の管理に費用が掛かると新電力は主張している。

一方、一般電気事業者による供給区域外への供給事例は1件のみである。一般電気事業者は、長年の地域独占体制と供給義務の下で、自社の供給区域内の需要への対応に最適化しており、営業範囲を拡大するインセンティブがないこと、連系線(注4)及び周波数変換装置(以下「FC」という。)の容量の制約から、電気事業者は需要場所と同一の供給区域内に電源を確保する必要性が高く、そのために供給区域外への供給費用が高くなること等が考えられる。

(注4) 「連系線」とは、一般電気事業者の供給区域間を結ぶ送電設備をいう。

(2) 発電・卸売分野

発電電力量の7割超を一般電気事業者が占める中、新電力の電力調達先に占める一般電気事業者及び卸電力取引所の割合は1割未満であり、電力の大半を自家発業者等に依存している。また、新電力は変動費用の高い電源のウエイトが大きい。

新電力は、発電費用の低い発電所の新規建設が困難である。

発電設備の償却期間が長いこと等から、公営企業体を含む自家発業者等は、長期契約によって一般電気事業者に電力を供給している。

一般電気事業者は、小売分野で新電力と競合していることから、卸電力取引所を通すなどして新電力に電力を供給するインセンティブがない。

卸電力取引所は、流動性が小さいなど、新電力が電力調達先として依存することができない。

(3) 送配電分野

託送料金については、算定方法が規制され、一般電気事業者において会計分離もなされているが、外部からは、一般電気事業者が過大な託送料金を設定することにより新電力を不利に扱うインセンティブがあるようにみえる。

新電力は、インバランス(注5)に伴う負担について、新電力の事業規模に照らして系統(注6)安定に及ぼす影響が小さいにもかかわらず、同時同量義務(注7)を達成するための設備等及びインバランスに伴う負担が大きいため、供給費用が高くなり、参入障壁になっていると主張している。また、一般電気事業者は自己の小売部門に係る実際のインバランスを把握しておらず、一定量をインバランス相当量とみなして、託送収支を計上している。

(注5) 「インバランス」とは、電力の総発電量と総需要量とが同時同量に達しなかった分をいう。

(注6) 「系統」とは、発電所から需要家の受電設備に至る電気のネットワークをいう。

(注7) 「同時同量義務」とは、新電力各社に対し、30分間の中で総発電量と総需要量の合計を一致させる30分実同時同量の達成が求められていることをいう。

5 競争政策上の考え方

(1) 基本的な考え方

ア 電力市場における競争の状況

前記4に示した電力市場の現状に照らすと、小売分野において参入が自由化されたにもかかわらず、有効な競争が行われていない。このような状況の下では、単に規制緩和を進めて事業者の行動の選択肢を拡大しても、それだけでは、競争の活性化は期待できない。

また、需要家の数が非常に多く、その多くが中小規模であるという電力市場の特性及び中小需要家にとって、新電力は電力調達先として現実的な選択肢となっていない現状から、一般電気事業者と中小需要家の間には交渉力格差が存在する。

現在、小売分野の全面自由化に向けた検討が進んでいるところ、全面自由化は競争政策上好ましい方向性と考えられるが、たとえ小売分野への参入を完全自由化した場合であっても、前記の状況について対処がなされない限り、新たに自由化された分野も現在の自由化分野と同じ状況となるにとどまり、有効な競争の実現は困難である。

イ 今後の対応の在り方

今後の電気事業制度の在り方及び制度改革の進め方については、所管当局において、需給対策、環境対策等の政策的要請も踏まえながら判断していくものと考えられる。その際、電力市場において、小売分野における有効な競争を確保し、そのメリットを需要家が享受できるようにするためには、共通のインフラ整備が十分になされるような制度設計を行った上で、事業者のインセンティブに踏み込んで、関係する事業者の経済合理的な行動により、新電力の電源調達等の環境が改善されるような制度が構築されることが必要である。

また、電力市場の特性を踏まえ、需要家のニーズを取りまとめて電気事業者と交渉するサービスや需要家がまとまって電力の供給条件について交渉することを促進することで、需要家の要望がメニューや価格に反映されやすくすることが必要である。

なお、公正取引委員会としては、今後とも、独占禁止法を厳正に執行するとともに、「適正な電力取引についての指針」(平成11年12月公正取引委員会・通商産業省〔現経済産業省〕公表)の活用等を通じて同法の解釈運用についての明確化を図っていくこととしている。

(2) 事業者のインセンティブを踏まえた対応

ア 一般電気事業者の発電・卸売部門と小売部門の分離

一般電気事業者が新電力への電力供給を行うインセンティブを確保することができるように、新電力に対する電力供給者である発電・卸売部門と需要家に対する売手として新電力と競争関係に立つ小売部門を分離して、別個の取引主体とすることが考えられる。

一般電気事業者の発電・卸売部門と小売部門が、少なくとも法人として分離されれば、発電・卸売部門と小売部門の間の取引条件と、発電・卸売部門と新電力の間の取引条件は、発電・卸売部門にとって同じ取引先小売事業者に対する取引に係るものとして比較され得るものとなり、発電・卸売部門が新電力への電力供給を抑制し、又は新電力への電力供給において小売部門への供給条件と比較して合理的に説明することのできない差別的な条件を設定することはより困難となると考えられる。例えば、分離された発電・卸売部門が、自社のグループ内の小売部門の競争事業者に対して差別的な取扱いを行った場合には、私的独占の禁止(独占禁止法第3条前段)又は不公正な取引方法の禁止(独占禁止法第19条)に違反する可能性がある。

イ 一般電気事業者の送配電部門の分離

一般電気事業者の送配電網は、新電力を含め、電力供給に関わる事業者が共通して利用する設備であるから、利用者に対する開放性・中立性・無差別性を確保することが必要である。

このため、競争政策の観点からは、小売分野又は発電・卸売分野において競合する事業者を不利に扱うインセンティブを除去すべく、送配電網を発電・卸売部門及び小売部門から分離することが必要であると考えられる。具体的な制度設計については、可能な限り開放性・中立性・無差別性の確保が達成されるような内容であることが求められる。

(3) 独占的に提供される設備・サービスの利用条件の適正化の確保

ア 託送料金

送配電部門が分離されたとしても、引き続き送配電サービスの供給者が独占であることから、独占の弊害に対応するため、託送料金の水準については一定の規制が必要である。規制に当たっては、競争政策の観点からは、できる限り送配電部門の効率化を促す方法によることが望ましい。

イ 同時同量義務とインバランスに伴う負担

系統全体での同時同量の確保は、系統を管理する送配電網運用者において一元的に行わなければならない。そのための費用の負担は、競争関係にある一般電気事業者と新電力の間で公平でなければならない。

このため、一般電気事業者と系統を管理する送配電網運用者を分離し、一般電気事業者も実際のインバランスの量に基づいたインバランス料金を負担することが必要であると考えられる。

(4) インフラの整備

ア 連系線・FC の増強

送配電分野は独占状態となることから、送配電部門を分離したとしても、自社で連系線等を強化する積極的な投資インセンティブは働かないと考えられる。そこで、連系線等の強化について行政機関等の中立的な立場からの一定の介入・規制も必要であると考えられる。

イ 卸電力取引所の活性化

一般電気事業者の発電・卸売部門と小売部門が分離されたとしても、使い勝手の悪さが残る場合には、経済合理的な事業者が卸電力取引所での取引を積極的に行うことは期待できない。したがって、参加者にとって更に使い勝手の良い商品設計や取引ルールの見直しが円滑になされるような卸電力取引所の運営の在り方が求められる。

ウ スマートメーターの仕様等について

通信ネットワークを含む仕様や、スマートメーター(注8)から得られる情報の取扱いにおいて、小売事業者間の競争が阻害されることのないような制度設計が求められる。

(注8) 「スマートメーター」とは、電力会社等の検針・料金徴収業務に必要な双方向通信機能や遠隔開閉機能を有した電子式メーターをいう。

(5) 小売分野における交渉力格差の考慮

ア 複数の小規模な需要家による電気事業者との一括交渉

前記(1)から(4)の各施策を通じて新電力が価格競争力のある電力を調達することが可能となれば、需要家が新電力への切替えの可能性を背景に一般電気事業者に対して交渉力を獲得することが考えられるが、需要家による一括交渉が可能であれば、このような切替え可能性を背景とした交渉は更に有効なものとなり、需要家の交渉力の一層の向上につながるものと考えられる。

このような需要家側の取組と独占禁止法の関係については、例えば、中小規模の事業者が構成する事業者団体が電力の一括交渉を行う場合については、現在の電力市場において、電力調達に係る一括交渉を行った場合にそのシェアが電力市場における競争に影響を与える事業者団体は想定し難いところ、一般的に、商品又は役務の供給分野におけるシェアが大きく、かつ商品又は役務の供給に要するコストに占める電気料金の割合が高い場合を除いて、中小規模の事業者が構成する事業者団体による電力調達に係る一括交渉は独占禁止法上問題とならないと考えることが可能である。

イ デフォルト・サービス約款の策定・公表の義務付け等

小売分野の全体について新規参入を認めることにより、新たに競争が導入されることとなる小口供給の分野では、市場支配力の濫用があった場合における料金の上昇等の影響は現在の自由化分野よりも更に大きいことから、これを防止するため、最終的に供給に応じるべき者についてのルールを設定し、当該電気事業者に対して、最低限の取引条件を定めた約款(デフォルト・サービス約款)の策定と公表を義務付けし、それよりも需要家にとって不利な条件での契約を禁止することが考えられる。

(6)  その他

ア 公益事業特権の見直し

一般電気事業者には認められて、新電力には認められない公益事業特権については、各法律における規制の趣旨に照らしつつ、一般電気事業者のみを公益事業特権の対象とすることに合理的な理由がない場合は、特権を見直し、できるだけ同等のものとすることが望ましい。

イ 公営水力等公営企業体が保有する電源に係る電力の売却

公営水力等公営企業体が保有する電源に係る電力については、条例等の規制によって一般電気事業者以外の者への売却が禁じられているのであれば、当該規制を見直し、入札等により、新電力にもその電力を利用する機会が与えられるようにすることが適当である。

第2 独占禁止法適用除外の見直し

1 独占禁止法適用除外の概要

独占禁止法は、市場における公正かつ自由な競争を促進することにより、一般消費者の利益を確保するとともに国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とし、これを達成するために、私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法等を禁止している。他方、他の政策目的を達成する観点から、特定の分野における一定の行為に独占禁止法の禁止規定の適用を除外するという適用除外が設けられている。

適用除外は、その根拠規定が独占禁止法自体に定められているものと独占禁止法以外の個別の法律に定められているものとに分けることができる。

(1) 独占禁止法に基づく適用除外

独占禁止法は、知的財産権の行使行為(同法第21条)、一定の組合の行為(同法第22条)及び再販売価格維持契約(同法第23条)を、それぞれ同法の規定の適用除外としている。

(2) 個別法に基づく適用除外

独占禁止法以外の個別の法律において、特定の事業者又は事業者団体の行為について独占禁止法の適用除外を定めているものとしては、平成24年度末現在、保険業法等14の法律がある。

2 適用除外の見直し

適用除外の多くは、昭和20年代から昭和30年代にかけて、産業の育成・強化、国際競争力強化のための企業経営の安定、合理化等を達成するため、各産業分野において創設されてきたが、個々の事業者において効率化への努力が十分に行われず、事業活動における創意工夫の発揮が阻害されるおそれがあるなどの問題があることから、その見直しが行われてきた。

平成9年7月20日、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律」(平成9年法律第96号)が施行され、個別法に基づく適用除外のうち20法律35制度について廃止等の措置が採られた。次いで、平成11年7月23日、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律」(平成11年法律第80号)が施行され、不況カルテル制度及び合理化カルテル制度の廃止、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外等に関する法律の廃止等の措置が採られた。さらに、平成12年6月19日、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」(平成12年法律第76号)が施行され、自然独占に固有の行為に関する適用除外の規定が削除された。

これらの措置により、平成7年度末において30法律89制度存在した適用除外は、平成24年度末現在、15法律21制度まで縮減された。

3 適用除外カルテル

(1) 概要

価格、数量、販路等のカルテルは、公正かつ自由な競争を妨げるものとして、独占禁止法上禁止されているが、その一方で、他の政策目的を達成するなどの観点から、個々の適用除外ごとに設けられた一定の要件・手続の下で、特定のカルテルが例外的に許容される場合がある。このような適用除外カルテルが認められるのは、当該事業の特殊性のため(保険業法に基づく保険カルテル)、地域住民の生活に必要な旅客輸送(いわゆる生活路線)を確保するため(道路運送法等に基づく運輸カルテル)など、様々な理由による。

個別法に基づく適用除外カルテルについては、一般に、公正取引委員会の同意を得、又は当委員会へ協議若しくは通知を行って、主務大臣が認可を行うこととなっている。

また、適用除外カルテルの認可に当たっては、一般に、当該適用除外カルテルの目的を達成するために必要であること等の積極的要件のほか、当該カルテルが弊害をもたらしたりすることのないよう、カルテルの目的を達成するために必要な限度を超えないこと、不当に差別的でないこと等の消極的要件を充足することがそれぞれの法律により必要とされている。

さらに、このような適用除外カルテルについては、不公正な取引方法に該当する行為が用いられた場合等には独占禁止法の適用除外とはならないとする、いわゆるただし書規定が設けられている。

 公正取引委員会が認可し、又は当委員会の同意を得、若しくは当委員会に協議若しくは通知を行って主務大臣が認可等を行ったカルテルの件数は、昭和40年度末の1、079件(中小企業団体の組織に関する法律に基づくカルテルのように、同一業種について都道府県等の地区別に結成されている組合ごとにカルテルが締結されている場合等に、同一業種についてのカルテルを1件として算定すると、件数は415件)をピークに減少傾向にあり、また、適用除外制度そのものが大幅に縮減されたこともあり、平成24年度末現在、28件となっている。

(2) 個別法に基づく適用除外カルテルの動向

 平成24年度において、個別法に基づき主務大臣から公正取引委員会に対し同意を求められ、又は協議若しくは通知のあった適用除外カルテルの処理状況は第1表のとおりであり、このうち現在実施されている個別法に基づく適用除外カルテルの動向は、次のとおりである。

第1表 平成24年度における適用除外カルテルの処理状況

ア 保険業法に基づくカルテル

保険業法に基づき損害保険会社は

① 航空保険事業、原子力保険事業、自動車損害賠償保障法に基づく自動車損害賠償責任保険事業若しくは地震保険契約に関する法律に基づく地震保険事業についての共同行為

又は

② ①以外の保険で共同再保険を必要とするものについての一定の共同行為を行う場合には、金融庁長官の認可を受けなければならない。金融庁長官は、認可をする際には、公正取引委員会の同意を得ることとされている。

平成24年度において、金融庁長官から同意を求められたものは5件であった(全て変更認可に係るもの)。また、平成24年度末における同法に基づくカルテルは9件である。

イ 損害保険料率算出団体に関する法律に基づくカルテル

損害保険料率算出団体は、自動車損害賠償責任保険及び地震保険について基準料率を算出した場合には、金融庁長官に届け出なければならない。金融庁長官は、届出を受理したときは、公正取引委員会に通知することとされている。

平成24年度において、金融庁長官から通知を受けたものは2件であった。また、平成24年度末における同法に基づくカルテルは2件である。

ウ 著作権法に基づく商業用レコードの二次使用料等に関する取決め

著作隣接権者(実演家又はレコード製作者)が有する商業用レコードの二次使用料等の請求権については、毎年、その請求額を文化庁長官が指定する団体(指定団体)と放送事業者等又はその団体間において協議して定めることとされており、指定団体は当該協議において定められた額を文化庁長官に届け出なければならない。文化庁長官は、届出を受理したときは、公正取引委員会に通知することとされている。

平成24年度において、文化庁長官から通知を受けたものは8件であった。

エ 道路運送法に基づくカルテル

輸送需要の減少により事業の継続が困難と見込まれる路線において地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため、又は旅客の利便を増進する適切な運行時刻を設定するため、一般乗合旅客自動車運送事業者は、他の一般乗合旅客自動車運送事業者と、共同経営に関する協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては、国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は、認可をする際には、公正取引委員会に協議することとされている。

平成24年度において、国土交通大臣から協議を受けたものはなかった。また、平成24年度末における同法に基づくカルテルは3件である。

オ 航空法に基づくカルテル

(ア) 国内航空カルテル

航空輸送需要の減少により事業の継続が困難と見込まれる本邦内の各地間の路線において地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため、本邦航空運送事業者は、他の航空運送事業者と、共同経営に関する協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては、国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は、認可をする際には、公正取引委員会に協議することとされている。

平成24年度において、国土交通大臣から協議を受けたものはなかった。また、平成24年度末における同法に基づくカルテルはない。

(イ) 国際航空カルテル

本邦内の地点と本邦外の地点との間の路線又は本邦外の各地間の路線において公衆の利便を増進するため、本邦航空運送事業者は、他の航空運送事業者と、連絡運輸に関する契約、運賃協定その他の運輸に関する協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては、国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は、認可をしたときは、公正取引委員会に通知することとされている。

平成24年度において、国土交通大臣から通知を受けたものは18件であった。

カ 海上運送法に基づくカルテル

(ア)  内航海運カルテル

本邦の各港間の航路において、地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため、旅客の利便を増進する適切な運航日程・運航時刻を設定するため、又は貨物の運送の利用者の利便を増進する適切な運航日程を設定するため、定期航路事業者は、他の定期航路事業者と、共同経営に関する協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては、国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は、認可をする際には、公正取引委員会に協議することとされている。

平成24年度において、国土交通大臣から協議を受けたものは4件であった(全て変更認可に係るもの)。また、平成24年度末における同法に基づくカルテルは5件である。

(イ) 外航海運カルテル

本邦の港と本邦以外の地域の港との間の航路において、船舶運航事業者は、他の船舶運航事業者と、運賃及び料金その他の運送条件、航路、配船並びに積取りに関する事項を内容とする協定を締結することができる。この協定の締結・変更に当たっては、あらかじめ国土交通大臣に届け出なければならない。国土交通大臣は、届出を受理したときは、公正取引委員会に通知することとされている。

平成24年度において、国土交通大臣から通知を受けたものは473件であった。

キ 内航海運組合法に基づくカルテル

内航海運組合法に基づき内航海運組合が調整事業を行う場合には、調整規程又は団体協約を設定し、国土交通大臣の認可を受けなければならない。国土交通大臣は、認可をする際には、公正取引委員会に協議することとされている。

平成24年度において、国土交通大臣から協議を受けたものは1件であった(変更認可に係るもの)。また、平成24年度末における同法に基づくカルテルは1件である。

4 協同組合の届出状況

独占禁止法第22条は、「小規模の事業者又は消費者の相互扶助を目的とすること」(同条第1号)等同条各号に掲げる要件を備え、かつ、法律の規定に基づいて設立された組合(組合の連合会を含む。)の行為について、不公正な取引方法を用いる場合又は一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合を除き、同法を適用しない旨を定めている(一定の組合の行為に対する独占禁止法適用除外制度)。

中小企業等協同組合法(昭和24年法律第181号。以下「中協法」という。)に基づいて設立された事業協同組合及び信用協同組合(以下「協同組合」という。)は、その組合員たる事業者が、①資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業者については5000万円、卸売業を主たる事業とする事業者については1億円)を超えない法人たる事業者又は②常時使用する従業員の数が300人(小売業を主たる事業とする事業者については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業者については100人)を超えない事業者に該当するものである場合、独占禁止法の適用に際しては、同法第22条第1号の要件を備える組合とみなされる(中協法第7条第1項)。

一方、協同組合が前記①又は②以外の事業者を組合員に含む場合には、公正取引委員会は、その協同組合が独占禁止法第22条各号の要件を備えているかどうかを判断する権限を有しており(中協法第7条第2項)、これらの協同組合に対し、当該組合員が加入している旨を当委員会に届け出る義務を課している(中協法第7条第3項)。

この中協法第7条第3項の規定に基づく届出件数は、平成24年度において、184件であった(附属資料3-9表参照)。

第2表 協同組合届出件数の推移

5 著作物再販適用除外の取扱いについて

商品の供給者がその商品の取引先である事業者に対して再販売する価格を指示し、これを遵守させることは、原則として、独占禁止法第2条第9項第4号(再販売価格の拘束)に該当し、同法第19条に違反するものであるが、同法第23条第4項の規定に基づき、著作物6品目(書籍・雑誌、新聞及びレコード盤・音楽用テープ・音楽用CD をいう。以下同じ。)については、例外的に同法の適用が除外されている。

公正取引委員会は、著作物6品目の再販適用除外の取扱いについて、国民各層から意見を求めるなどして検討を進め、平成13年3月、当面同再販適用除外を存置することが相当であると考えるとの結論を得るに至った(第3表参照)。

公正取引委員会は、著作物6品目の再販適用除外が消費者利益を不当に害することがないよう、著作物6品目の流通・取引慣行の実態を調査し、関係業界における弊害是正の取組の進捗を検証するとともに、関係業界における運用の弾力化の取組等、著作物6品目の流通についての意見交換を行うため、当委員会、関係事業者、消費者、学識経験者等を構成員とする著作物再販協議会を設け、平成13年12月から平成20年6月までの間に8回の会合を開催した。平成22年度からは、著作物再販協議会に代わって、関係業界に対する著作物再販ヒアリングを実施し、関係業界における運用の弾力化の取組等の実態を把握するとともにその取組を促している。

第3表 著作物再販制度の取扱いについて(概要)(平成13年3月23日)

第3 競争評価に関する取組

1 競争評価の実施に関する動向

平成19年10月以後、各府省が規制の新設又は改廃を行おうとする際、原則として、規制の事前評価の実施が義務付けられ、その際、規制による競争状況への影響分析(以下「競争評価」という。)を行うこととされており、平成22年4月から試行的に実施されている。

競争評価については、各府省は、規制等に関して、競争状況への影響・分析に関するチェックリスト(以下「競争評価チェックリスト」という。)の記入を行い、評価書と共に総務省に提出し、総務省は競争評価チェックリストを公正取引委員会へ送付することとされている。

平成24年度においては、総務省から42件の競争評価チェックリストを受領し、内容を精査した。

2 競争評価の普及・定着に係る公正取引委員会の取組

公正取引委員会は、競争評価チェックリストに記入するに当たっての考え方や検討方法について相談を受け付け、各府省における競争評価の実施の支援を行った。

第4 ガイドライン等の策定・公表

公正取引委員会は、事業者及び事業者団体による独占禁止法違反行為の未然防止とその適切な活動に役立てるため、事業者及び事業者団体の活動の中でどのような行為が実際に独占禁止法違反となるのかを具体的に示した「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成3年7月公表)、「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」(平成5年4月公表)、「公共的な入札に係る事業者及び事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成6年7月公表)、「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成7年10月公表)、「農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成19年4月公表)、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成19年9月公表)、「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針」(平成21年10月公表)、「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」(平成21年12月改定)、「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(平成22年11月公表)等を策定・公表している。

また、個々の具体的な行為について事業者等からの相談に応じるとともに、独占禁止法違反行為の未然防止に役立てるため、事業者等から寄せられた相談のうち、他の事業者等の参考になると思われるものを相談事例集として取りまとめ、公表している(平成23年度に寄せられた相談について、平成24年7月4日公表)。

第5 入札談合の防止への取組

公正取引委員会は、以前から積極的に入札談合の摘発に努めているほか、平成6年7月に「公共的な入札に係る事業者及び事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」を公表し、入札に係るどのような行為が独占禁止法上問題となるかについて具体例を挙げながら明らかにすることによって、入札談合の防止の徹底を図っている。

また、入札談合の防止を徹底するためには、発注者側の取組が極めて重要であるとの観点から、独占禁止法違反の可能性のある行為に関し、発注官庁等から公正取引委員会に対し情報が円滑に提供されるよう、各発注官庁等において、公共入札に関する当委員会との連絡担当官として会計課長等が指名されている。

公正取引委員会は、連絡担当官との連絡・協力体制を一層緊密なものとするため、平成5年度以降、「公共入札に関する公正取引委員会との連絡担当官会議」を開催している。平成24年度においては、国の本省庁との連絡担当官会議を11月27日に開催するとともに、国の地方支分部局等との連絡担当官会議を全国9か所で開催した。

また、公正取引委員会は、地方公共団体等の調達担当者等に対する独占禁止法や入札談合等関与行為防止法の研修会を開催するとともに、中央官庁、地方公共団体等が実施する調達担当者等に対する同様の研修会への講師の派遣及び資料の提供等の協力を行っている。平成24年度においては、研修会を全国で21回開催するとともに、国、地方公共団体及び特定法人に対して214件の講師の派遣を行った。

第6 企業におけるコンプライアンスの向上のための施策

市場における公正かつ自由な競争を一層促進していくためには、独占禁止法の厳正な執行とともに、企業におけるコンプライアンスの向上が重要であり、これに関連した企業の取組を促していく必要があると考えられることから、公正取引委員会では、これまで、企業における独占禁止法に関するコンプライアンス(以下「独占禁止法コンプライアンス」という。)活動の状況を把握し、改善のための方策等を提示するため、東証一部上場企業や外資系企業等に対してアンケート調査等を実施し、報告書の取りまとめ・公表を行ってきた。

平成22年6月に公表した報告書「企業における独占禁止法に関するコンプライアンスの取組状況について-コンプライアンスの実効性を高めるための方策-」では、独占禁止法コンプライアンスの実効性を高めるための方策を提示するなど、独占禁止法コンプライアンスについてその実効性を確保するための一層の取組が求められることを指摘したところである。

これを踏まえ、①東証一部上場企業に対するアンケート調査、②企業法務を専門とする弁護士や過去に独占禁止法違反行為について法的措置を命じられた企業等に対するヒアリング調査、③アンケート調査において興味深い成功例・失敗例等の実例を回答した企業に対するヒアリング調査等を実施し、平成24年11月28日、「企業における独占禁止法コンプライアンスに関する取組状況について」として取りまとめ、公表した。

調査結果によれば、独占禁止法コンプライアンスの実効性を確保するために有効であると考えられる方策や工夫・留意点は、次のとおりである。

1 独占禁止法コンプライアンス・プログラムの実効性を確保するための方策(総論)
-独占禁止法コンプライアンス・プログラム全般-

(1) 経営トップのコミットメントとイニシアティブ

独占禁止法コンプライアンスの実効性を確保する上で最も重要な要素は、経営トップが独占禁止法コンプライアンスに対するコミットメントを表明し、イニシアティブを発揮することである。また、経営トップが独占禁止法コンプライアンスを重視している姿勢が社員に的確に伝わるようにするために、経営トップが明確なメッセージを、繰り返し、直接伝えることが重要である。

(2) 実情に応じた独占禁止法コンプライアンス・プログラムの構築

実効性ある独占禁止法コンプライアンス・プログラムを構築するためには、自社固有の独占禁止法上のリスクに着目し、それに対応する施策を検討していくことが重要である。

特定した独占禁止法上のリスクについて、やみくもに対策を講じたとしても、実施コストは増大する一方、必ずしも実効的な対処となるとは限らないため、当該リスクに応じた解決策や防止策を的確に選択することが必要である。

(3) 独占禁止法法務・コンプライアンス担当部署と実施体制の整備

担当役員を配置することは、意思決定の迅速化や取締役会等の経営意思決定機関におけるコンプライアンスに関する取組の徹底に資する。

また、法務・コンプライアンス担当部署の担当者に加えて、各事業部門内の社員を独占禁止法コンプライアンス担当者として指定し、同社員にその一端を担わせることによって、事業の実態に即した主体的な取組を期待することができる。

(4) 企業グループとしての一体的な取組

国際カルテル等の摘発に対する各国・地域競争当局の協力・連携が進み、また、我が国の課徴金減免制度においては企業グループ内の複数企業の共同利用が可能となるなど、海外での事業活動も含めた企業グループとしての一体的対応が一層重要となってきている。

2 独占禁止法コンプライアンス・プログラムの実効性を確保するための方策(各論)
-「3つのK」-

(1) 研修等(Kenshu)による未然防止

ア 独占禁止法コンプライアンス・マニュアルの策定

社員に、独占禁止法違反行為についての知識を効果的・効率的に習得させるための有用な方策である。内容をより実践的なものとすることが求められる。

イ 社内研修の実施

社員に、独占禁止法コンプライアンス上の知識を習得させるための重要な方策である。内容をより実効的なものとすることが求められる。

ウ 法務相談体制の整備

独占禁止法違反行為の未然防止だけでなく、独占禁止法違反を懸念して営業活動が過度に萎縮することがないようにするためにも、相談体制が設けられ、活用されることが必要である。

エ 社内懲戒ルールの整備

独占禁止法違反行為の未然防止には、社内懲戒ルールによる違反行為への誘因の抑制が不可欠である。実効性を担保するためには、独占禁止法違反行為への関与が懲戒対象となることの明記・周知とともに、処分を社内で公表することも必要である。

オ 同業他社との接触ルールの策定

特に営業担当者による同業他社との接触は、カルテルや入札談合のリスクが高く、具体的な留意事項等を定め周知することが必要である。

(2) 監査等(Kansa)による確認と早期発見

ア 独占禁止法監査の実施

業務監査は、独占禁止法違反行為の早期発見に関しても有用である。監査を効果的・効率的に実施するためには、独占禁止法上のリスクの高い部門や事案について重点的に行う、既存の仕組みを活用するなどの工夫が求められる。

イ 内部通報制度の整備

水面下で生じている問題行為に関する情報を入手する上で重要な手段であり、内部通報制度を設けるだけでなく、利用されるものとすることが必要である。

ウ 社内リニエンシー

独占禁止法違反行為の社内における早期発見と、その後の社内調査や公正取引委員会等による調査における関係社員の協力姿勢の確保につながる方策である。

(3) 危機管理(Kikikanri)

ア 経営トップのイニシアティブによる迅速な対応と的確な意思決定

独占禁止法違反行為に係る情報に接した場合、想定されるリスクやコストを可及的に最小化するためには、情報を迅速に収集・分析・評価し、的確な意思決定を行うことが重要である。

イ 課徴金減免制度等の積極的活用

独占禁止法違反に伴うコスト低減のためには、課徴金減免制度や海外諸国における同様の制度を利用することが有用である。

ウ 有事対処マニュアルの事前整備

独占禁止法違反行為に係る情報に接した場合の対処方針や手続といった基本事項を事前に文書で取りまとめ、関係者間で共有しておくことが有益である。

エ 的確な社内調査の実施

独占禁止法違反行為に係る情報に接した場合に迅速かつ正確に、情報収集をするため、経営トップがイニシアティブを発揮し、社内調査への協力の確保と社内文書等の資料の保全を図ることが重要である。

また、当該情報に係る事業と類似・関連する事業や海外における同種の事業における調査の必要性にも留意する必要がある。

第7 独占的状態調査

独占禁止法第8条の4は、独占的状態に対する措置について定めている。公正取引委員会は、独占禁止法第2条第7項に規定する独占的状態の定義規定のうち、事業分野に関する考え方についてガイドラインを公表しており、その別表には、独占的状態の国内総供給価額要件及び事業分野占拠率要件(国内総供給価額が1000億円超で、かつ、上位1社の事業分野占拠率が50%超又は上位2社の事業分野占拠率の合計が75%超)に該当すると認められる事業分野並びに今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当することとなると認められる事業分野を掲載している(第4表)。

別表については、生産・出荷集中度の調査結果等に応じ逐次改定してきている(直近では、平成24年8月29日に改定)。その中でも特に集中度の高い業種については、生産、販売、価格、製造原価、技術革新等の動向、分野別利益率等について、独占禁止法第2条第7項第2号(新規参入の困難性)及び第3号(価格の下方硬直性、かつ、過大な利益率又は販売管理費の支出)の各要件に即し、企業の動向の監視に努めている。

第4表 別表掲載事業分野(26事業分野)

(注1) 本表は、公正取引委員会が行った平成22年の国内向け供給価額及び供給量に関する調査、その他現段階において利用し得る資料、統計等により、独占的状態の国内総供給価額要件及び事業分野占拠率要件に該当すると認められる事業分野並びに今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当することとなると認められる事業分野(平成22年の国内総供給価額が950億円を超え、かつ、上位1社の事業分野占拠率が45%を超え又は上位2社の事業分野占拠率の合計が70%を超えると認められるもの)を掲げたものである。

(注2) 本表の商品順は工業統計表に、役務順は日本標準産業分類による。

第8 ガソリンの取引に関する調査

1 調査の趣旨

公正取引委員会では、ガソリンの流通実態について、これまでも調査を実施し、独占禁止法上の考え方を示してきた(平成16年9月及び平成17年9月に報告書を公表)。その後、ガソリン販売業者へのガソリンの仕切価格の決定方式に大幅な変更があったことなどガソリンの流通市場における競争環境に変化がうかがわれることから、改めてガソリンの流通実態を把握するために調査を実施するとともに、ガソリンの流通市場における公正な競争を確保する方策を検討し、平成25年7月23日、「ガソリンの取引に関する調査について」として取りまとめ、公表した。

2 調査対象

調査対象品目:自動車ガソリンのうち、レギュラーガソリン

調査対象企業:

3 調査結果の概要

(1) ガソリン市場における取引

ア 各事業者の状況

(ア)  元売

元売は、現在、JX 日鉱日石エネルギー㈱、EMG マーケティング合同会社、昭和シェル石油㈱、出光興産㈱、コスモ石油㈱、キグナス石油㈱、太陽石油㈱及び三井石油㈱の8社である。このうち3社は資本金の額が1000億円を超えているほか、その他事業者も資本金の額が20億円以上に上っており、元売はいずれも大規模な企業である。

元売の分野では、近年、合併等により集中が進んできている。ガソリン販売量により元売各社の地位をみると、上位5社の市場シェアの合計は約92%で、これら5社が市場のほとんどを占めている。

(注1) ガソリンの市場シェアは平成22年度のもの。㈱月刊ガソリンスタンド社「月刊ガソリン・スタンド2011年別冊」を基に作成。

(イ)  系列特約店・系列販売店

平成24年6月末における一般特約店(系列特約店のうち販売子会社、商社系特約店及び全農系特約店を除いたもの)についてみると、資本金の額が1000万円以下の事業者が51.6%、5000万円以下の事業者が88.5%、1億円以下の事業者が96.5%と、中小事業者がほとんど全てを占めている。また、平成24年6月末における一般特約店が運営する一事業者当たりの系列のガソリンスタンド(給油所、サービスステーションともいう。以下「SS」という。)の数についてみると、1か所のものが40.2%、2か所のものが19.3%、3か所のものが10.5%と、これだけで全体の70.0%を占めており、一般特約店は、事業規模の小さいものが大部分を占めていることが分かる。系列販売店にあっては、一事業者当たりの系列SS 数は1か所であり、一般特約店よりも更に零細事業者の占める割合が高くなっている。一般特約店や系列販売店は、元売系列のガソリン販売事業者全体のうちの99.5%、元売系列のSS 全体のうちの75.0%を占めている。

他方、平成24年において販売子会社(系列特約店のうち、元売の又は元売と同じ者を持株会社とする企業集団内の連結子会社又は持分法適用会社であって、主要な事業内容が国内における石油製品の販売である系列特約店)が運営する系列SS の数は4、377か所、また、商社系特約店(系列特約店のうち、特定の元売のマークを掲げて商社〔エネルギー商社を含む。以下同じ。〕が事業を行っている系列特約店)及び全農系特約店(系列特約店のうち、特定の元売マークを掲げて全農が事業を行っている系列特約店)が運営する系列SS の数は2、579か所であり、これらは、系列SS 全体のうちの25.0%を占めている。平成24年における販売子会社、商社系特約店及び全農系特約店が運営する一事業者当たりの系列SS 数は、それぞれ109か所、95か所、194か所となっており、一般特約店と比べて事業規模が大きいという特徴がある。

(ウ)  PBSS

平成24年3月末におけるSS の総数は37、743か所であり、そのうちの10.7%は商社系のプライベートブランド(以下、プライベートブランドを「PB」という。)のSS 及び全農系PBSS が占めている。また、平成19年度から平成23年度までの5年間で、SS の総数は14.3%も減少している中にあって、PBSS の数は7.2%の減少にとどまっている。中でも、商社が運営する商社系PBSS の数は、むしろ1、163か所から1、323か所と13.8%増加している。

PBSS の多くは、商社又は全農が運営しているものであるが、中には、大手スーパーやホームセンター等の流通業から参入して事業を行っているものもある。商社及び全農は、系列特約店として元売からガソリンを購入し、系列SS に供給している一方で、独自のマークの下で自らPBSS を運営し、又はPBSS にガソリンを供給している。

イ 物流

元売は、近年では、物流効率化のため、自前の油槽所を設置する代わりに、複数の元売が共同で利用できる油槽所(「共同油槽所」という。以下同じ。)の利用を進めている。各元売が運び込んだガソリンは共同油槽所でまとめて貯蔵された後、各元売の手配したタンクローリーによってそれぞれの系列SS に配送されることとなる。

これとは別に、多くの元売では、自社の製油所や油槽所から系列SS に配送すべきガソリンを他の元売の製油所や油槽所から調達する一方で、当該他の元売の系列SS のために自社の製油所や油槽所からガソリンを融通する取引(「バーター取引」という。以下同じ。)も行っている。

このように、元売が販売・出荷するガソリンについては、自社の製油所で精製したものばかりでなく、共同油槽所を利用することにより他の元売が精製したガソリンが混入したガソリンや、バーター取引により他の元売が精製したガソリンまで、自社のガソリンとして系列SS に配送されている実態にある。

ウ 系列玉と業転玉

系列玉とは、元売から、系列特約店及び系列販売店に対し、特約店契約に基づき、当該元売のブランドマークを掲げた系列SS で販売するために供給されるガソリンのことをいい、これ以外の経路によって流通するガソリンのことを業転玉(注2)という。

ガソリンは、原油を精製する際に灯油や軽油等の石油製品とともに生産される連産品であるため、需給状況に応じてガソリンの生産量だけを増減させることが困難な製品である。しかも、元売各社の原油精製能力の合計は日産約71万キロリットルであり、石油製品の1日当たり需要量である約54万キロリットルを30%以上も上回っている。このためもあって、元売では、ガソリンを系列ルート以外(業転ルート)にも供給している。

ただし、業転玉といえども、商社が元売から購入し、適正に販売しているガソリンは、品質上、系列玉と変わることがない。実際、揮発油等の品質の確保等に関する法律(昭和51年法律第88号。以下「品確法」という。)による規格に合致しないガソリンの流通は、一般社団法人全国石油協会が平成24年7月から9月までの間に行った試買分析では、3件にすぎなかった。

平成23年7月から平成24年6月までの間に元売が販売したガソリンの総量は5184万キロリットルであり、そのうち系列SS 向けに販売されたものは80.7%であった。また、系列SS 向けとして販売されたガソリンのうち一般特約店に販売されたものは2177万キロリットル(42.0%)、販売子会社に販売されたものは1009万キロリットル(19.5%)、系列販売店に販売されたものは524万キロリットル(10.1%)、商社系特約店に販売されたものは344万キロリットル(6.6%)であった。

他方、同期間中に元売が系列SS 向け以外に販売したガソリンの数量は1002万キロリットルであり、そのうちの46.4%に相当する465万キロリットル(元売のガソリン販売総量の10%程度)は商社に販売された後、業転玉として、主としてPBSS 等に販売されている。

(注2) 「業転玉」とは、系列ルート以外の流通経路で流通するガソリンをいう。系列ルート以外の流通経路には次のものがある。

①商社等が元売からガソリンを仕入れ、他の流通業者やSS 等に対して販売するルート、

②商社等がガソリンを輸入し、他の流通業者やSS 等に対して販売するルート、

③先物取引市場を通じて受け渡されたガソリンが流通業者やSS 等に販売されるルート、等

エ 元売と系列特約店との取引

(ア)  仕切価格の設定

ほとんどの元売は、系列特約店向けの系列玉について、市況価格をベースとした算定式(「フォーミュラ」という。以下同じ。)を利用して仕切価格を決定している。この価格決定方式(「新価格体系」という。以下同じ。)の下では、フォーミュラに、製油所出荷ベースの指標基準価格、物流費、販売関連コスト及びインセンティブといった各構成要素の額を当てはめることにより、仕切価格が算出されることとなる。

このうち物流費については、所在地、立地条件、配送数量等によって系列特約店間で格差が生じることとなるが、今回のアンケート調査における一般特約店からの回答によれば、54.3%の一般特約店は、その額や条件について開示を受けていないとしている。

販売関連コストについて、多くの元売は、設備費、広告宣伝費、カードシステムの運営費等を勘案してその額を決定しており、系列特約店間で差を設けることはしていないとしている。他方、販売関連コストの額に関する一般特約店からの回答によれば、1リットル当たり1円以下と回答したもの(0.4%)から7円超と回答したもの(2.9%)まで多岐にわたっているものの、3円超4円以下であると回答したものが販売関連コストの額を開示されている一般特約店全体の75.4%を占めていた。また、50.9%の一般特約店は、販売関連コストの額について開示を受けていないとしている。

インセンティブについては、系列特約店自体の事業者単位の取引数量を基準として付与されるもの(特約店規模格差)と、個別のSS 単位の取引数量を基準として付与されるもの(SS 規模格差)がある。いずれも取引数量に左右されるものであるため、系列特約店の間には、前者については最大で1リットル当たり1.5円程度、後者については最大で2円程度の開きがみられた。

なお、一部の元売は、特約店規模格差のインセンティブを適用するに当たり、系列SS 向けの取引数量のほかPBSS 等向けの取引数量も、系列特約店の事業者単位の取引数量の算定に加えている。

特定の地域及び期間における元売から系列特約店向けの仕切価格を調査したところ、最も大きな価格差がみられた元売の系列では最大で1リットル当たり6.9円の開きが認められた。また、系列特約店の中でも平均仕切価格が最も高かったのは一般特約店向けであり、最も低かったのが商社系特約店向けであった。

(イ) 系列特約店等における業転玉の取扱いの制限

元売は、系列特約店及び系列販売店に対し、特約店契約や商標使用許諾契約によって、系列SS において自社又は自社の系列特約店を通じて供給を受けた自社のガソリンのみを販売することを義務付けるとともに、商品の誤認又は他社のガソリンと混同の生じるおそれのある行為、自社の商標等を用いて他社の石油製品を混合したガソリン又は他社のガソリンを販売する行為、商標等に関する元売の権利又は信用を侵害する行為等を行うことを禁じている。このため、系列特約店は、自ら運営するSS では、特約店契約を結んでいる元売以外の事業者からガソリンを購入することができないようになっている。

元売は、その理由として、①元売のマークは商標であり、元売ブランドを形成する重要な要素であるため、そのマークの下で業転玉を販売することは商標権の侵害に当たること、②他社のガソリンとの混合を認めると、品質に変更がないことを確認することができなくなってしまうので、品確法の趣旨に反する結果となるおそれがある(注3)ことなどを挙げている。

他方、系列特約店でもあるため同一の元売から系列玉も業転玉も購入している商社における系列玉と業転玉の平成24年1月から同年6月までの間の仕切価格の差を調べたところ、系列玉の仕切価格は業転玉に比べて1リットル当たり平均3.8円高いことが認められた。

(注3) 品確法は、系列特約店及び系列販売店が当該元売から仕入れたガソリンに業転玉を混合して販売すること自体を法律違反としているものではない。元売の回答における「品質に変更がないことを確認することができなくなる」ことは、SS における揮発油の分析の特則(揮発油等の品質の確保等に関する法律施行規則第14条の2による揮発油の品質分析回数を軽減する特例措置(いわゆる「軽減認定」))を受けられなくなることにはなるものの、直ちに法律違反となるものではない。

(ウ) 元売と系列特約店との関係

系列特約店は、特定の元売にガソリンの供給を依存している。元売は、資本金の額が1000億円を超える者を含む大規模な企業である一方、系列特約店の多くは、中小零細事業者である。例えば、一般特約店は、資本金の額が1000万円以下の事業者が51.6%、5000万円以下の事業者が88.5%、1億円以下の事業者が96.5%を占めており、また、運営する系列SS の数が3か所以下のものが70.0%と、事業規模の小さいものが大部分を占めている。

また、平成20年10月以降、取引先である元売を変更しなかったとする者は、一般特約店の94.1%である。変更しない理由として、元売が発行しているクレジットカードの顧客の存在を無視できず、顧客が失われることを懸念するがゆえに取引先である元売を変更することなく、現在の元売との取引を継続していると回答した者の割合は、47.3%、ブランドを変更すると信用力・集客力が低下することを懸念するがゆえに取引先である元売を変更することなく、現在の元売との取引を継続していると回答した者の割合は、45.6%であった。

このほか、系列特約店は、特定の元売と取引するに際し、当該元売に関連する投資を行っていること等を考え合わせると、系列特約店にとっては、取引先を他の元売等に変更することが事業経営上大きな支障をもたらすことが多い。したがって、一般的にみると、元売は、系列特約店に対して優越的な地位にあるものと考えられる。

(2) 公正な競争の確保に向けて

前記(1)の状況を踏まえると、元売と系列特約店との取引に関しては、公正な競争の確保がなされ、ガソリン流通全体の活力の創出につながるように、次のような点について、適正なものとしなければならない。

ア 系列内の仕切価格差

前記エで述べたように、総じて仕切価格が最も低いのは商社系特約店であり、販売子会社、一般特約店の順に高くなっている。

現行の新価格体系の下においては、系列玉の仕切価格は、製油所出荷ベースの指標基準価格、物流費、販売関連コスト及びインセンティブの各構成要素の額をフォーミュラに当てはめて計算することとなる。しかし、そもそも物流費や販売関連コストについて、額や条件等の開示を受けていない一般特約店が多い。

フォーミュラの各構成要素の額が開示されていない一般特約店においては、請求額が適正であるかどうかが分からず、仕切価格の妥当性について、自主的、合理的な判断が困難となる。フォーミュラの各構成要素の額が開示されていなければ、仮に交渉の機会を設けられていても、合理的な判断材料がなく有効な交渉ができないので、不当に不利な仕切価格が設定されるおそれがある。

元売は、仕切価格を一定のフォーミュラで取り決めている場合には、一般特約店に対し、仕切価格だけではなく、各構成要素の額を請求書等に明記する必要がある。また、仕切価格における価格体系やその構成要素の額を見直す場合には、見直した結果を一方的に通知するのではなく、交渉の機会を設けて一般特約店の意見に耳を傾ける必要がある。

また、系列玉は、タンクローリーによって直接に個々の系列SS まで配送されるものであるから、系列特約店が運営するSS 数の多寡によって1 SS 当たりの物流費に大きな差はないにもかかわらず、特約店規模格差のインセンティブは、系列特約店の事業者単位での取引数量を基準として設定されている。その結果、多くのSS を運営している系列特約店では当該インセンティブの付与額が大きくなり、仕切価格が低くなる。他方、一般特約店の大部分は事業規模が小さいため、一部の大規模な事業者を除くほとんどの一般特約店は、販売子会社や商社系特約店と比較して当該インセンティブの付与額は小さくなり、仕切価格は相対的に高くなる。さらに、一部の元売は、特約店規模格差のインセンティブを適用するに当たり、系列SS 向けの取引数量のほかPBSS 等向けの取引数量も、系列特約店の事業者単位の取引数量の算定に加えている。

イ 販売関連コスト

新価格体系の下における系列玉の仕切価格の算出に当たっては、どの元売も販売関連コストを加えることとしているところ、多くの一般特約店は、販売関連コストとして1リットル当たり3円超4円以下の金額を元売に支払っている。

販売関連コストについては、算出根拠が不透明であるとして一般特約店の不満が多く寄せられているところである。元売から一般特約店に対し、販売関連コストを賦課する趣旨や根拠の提示をした上で、相互に納得の上で合意することが取引の基本ではある。しかし、一般特約店の多くは、元売から情報提供が十分になされないため、自らが支払っている販売関連コストが元売から受けている便益に見合ったものかどうかを判断することができなかったり、元売に対する取引依存度等から、内訳等の説明を強く言い出せなかったりする状況にある。

毎週の仕切価格の通知ごとに交渉の機会を設けることは現実的ではないものの、元売においては、販売関連コストを一方的に通知するのではなく、販売関連コストの額の決まり方について疑義が生じないように、また一般特約店の理解を十分に得られるようにするため、説明及び意見交換を定期的に行うことが必要である。

ウ 業転玉の取扱制限

前記(1)ウで述べたように、元売は、系列ルートを通じて系列SS 向けにガソリンを販売しているほか、ガソリン販売総量の10%程度のガソリンをPBSS 向け等として商社に販売している。このPBSS 向け等として商社に販売されるガソリンは、系列玉よりも安い価格で販売されている。前記(1)エ(イ)で述べたように、商社が同一の元売からガソリンを仕入れる場合であっても、業転玉は系列玉よりも平均で3.8円安いことが認められた。商社は、自ら運営するPBSS に対する安定供給を図るために、元売との間で取引数量を定めて計画的に供給を受けている。これに加えて、商社は、余剰品としてスポット的に元売から供給を受けている。

PBSS は、より有利な条件でガソリンを購入できるよう自由に調達先を選ぶことが可能である。これに対し、前記(1)エ(イ)で述べたように、系列特約店は、元売との特約店契約により、元売やその系列特約店を通じて供給されたガソリン以外販売できないこととされており、このため、系列特約店は、たとえ特約店契約を結んでいる元売が商社に供給しているガソリンであっても、当該商社から安価な業転玉を購入することができないようになっている。

元売は、①業転玉の販売行為は商標権の侵害に当たるため、元売ブランドの重要な要素である商標を保護し、商品に対する消費者の信用を担保する必要があること、②他社のガソリンとの混合を認めると、品確法の趣旨に反し品質の変更がないことを確認できないガソリンが販売されることを理由として、系列玉と業転玉を混合して販売することを禁じている(前記(注3)を参照。)。

しかしながら、業転玉といえども、商社が元売から購入し、適正に販売しているガソリンについては、品質上、系列玉と変わることがない。実際、品確法による規格に合致しないガソリンの流通は、一般社団法人全国石油協会が平成24年7月から9月までの間に行った試買分析では、3件にすぎなかった。また、元売が、他の元売が精製したガソリンを購入し、それを自社のガソリンとして系列特約店に販売することや、元売が、当該元売が精製したガソリンと他の元売が精製したガソリンを共同油槽所において混合したものを自社のガソリンとして系列特約店に販売することも常態化している状況にある。さらに、以前は市況によっては系列玉の価格が業転玉の価格を下回ることもあったが、現行の系列玉の仕切価格決定方式においては、基本的に系列玉の価格が業転玉の価格を下回ることはなくなっている。

元売が系列特約店における業転玉の取扱いを一律に制限・禁止することは、元売のブランド価値や商標権の観点からのものであっても、元売により業転玉がPBSS 等に対して安定的に供給されるようになっており、かつ系列玉と業転玉の価格差が常態化している昨今の状況においては、ガソリンの流通市場の公正な競争環境の整備を進めるに当たって悪い影響を及ぼしかねないものと考える。このため、元売は、系列特約店における業転玉の取扱いを一律に制限・禁止するのではなく、系列特約店の業転玉の取扱いについて、系列特約店等の意見を踏まえ、系列特約店との間で一定のルールを策定する必要があると考える。

(3)  まとめ

前記(2)アからウまでに述べてきたように、今回の調査では、元売が、系列特約店、特に一般特約店にとって相対的に高い仕切価格を設定し、その仕切価格の設定に当たり十分な情報の開示や交渉が行われていない場合がみられた。また、元売は、自社が精製したガソリンを商社に販売し、それが安価な業転玉としてPBSS に供給されている一方で、系列特約店に対しては業転玉の購入・販売を制限していることが認められた。

これらの行為は、一般的にみて、取引上優越した立場にある元売が、一般特約店に対し、一方的に、競争上不利な取引条件を課しているおそれのあるものであり、ガソリンの流通市場における公正な競争環境を整備するという観点からみて不適切であると考えられる。

ついては、公正取引委員会としては、これらの行為について元売各社に対し、前記(2)の観点から改善を求め、その動向を注視するとともに、仮に、元売が、自己の取引上の地位が一般特約店に優越していることを利用して、取引の条件について、正常な商慣習に照らして不当に一般特約店に不利益を与えるなどの独占禁止法に違反する疑いのある具体的事実に接した場合には、厳正に対処することとする。また、事業所管省庁にあっても、ガソリンの流通市場における公正な競争環境の整備という観点から、まずは関係者間での適切な対応を促す必要があると考えられる。