第2部 各論

第11章 国際関係業務

第1 独占禁止協力協定等

近年,複数の国・地域の競争法に抵触する事案,複数の国・地域の競争当局が同時に審査を行う必要のある事案等が増加するなど,競争当局間の協力・連携の強化の必要性が高まっている。このような状況を踏まえ,公正取引委員会は,二国間独占禁止協力協定等に基づき,関係国の競争当局に対し執行活動等に関する通報を行うなど,外国の競争当局との間で緊密な協力を行っている。

1 独占禁止協力協定

(1) 日米独占禁止協力協定

日本国政府は,米国政府との間で,平成11年10月7日に「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」に署名し,同協定は同日に発効した。同協定は,両政府の競争当局間における執行活動に係る通報,協力,調整,執行活動の要請,重要な利益の考慮等を規定している。

(2) 日欧州共同体独占禁止協力協定

日本国政府は,欧州共同体との間で,平成15年7月10日に「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定」に署名し,同協定は同年8月9日に発効した。同協定は,前記日米独占禁止協力協定とほぼ同様の内容となっている。

なお,平成28年3月15日に行われた欧州委員会競争総局との競争当局間協議において,今後,審査過程において入手した情報の交換ができるよう,同協定を改正するための交渉の準備を開始することで一致したところである。

(3) 日加独占禁止協力協定

日本国政府は,カナダ政府との間で,平成17年9月6日に「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とカナダ政府との間の協定」に署名し,同協定は同年10月6日に発効した。同協定は,前記日米独占禁止協力協定とほぼ同様の内容となっている。

2 競争当局間の協力に関する覚書等

平成25年度に締結したフィリピン司法省及びベトナム競争庁との協力に関する覚書等並びに平成26年度に締結したブラジル経済擁護行政委員会及び韓国公正取引委員会との協力に関する覚書に加え,平成27年度においては,更に以下の二つの競争当局との間で覚書等を締結した。また,平成28年4月に,中国商務部との間で覚書を締結した。

(1) オーストラリア競争・消費者委員会との協力に関する取決め

公正取引委員会は,オーストラリア連邦の競争当局であるオーストラリア競争・消費者委員会との間で,平成27年4月29日に「日本国公正取引委員会とオーストラリア競争・消費者委員会との間の協力に関する取決め」に署名し,同取決めに基づく協力が開始された。同取決めは,両競争当局間における執行活動に係る通報,協力,情報交換,調整,協議の要請,紛争の回避,意見交換等を規定している。また,同取決めでは,審査過程において違反被疑事業者等から入手した情報の共有について検討すると規定されているところ,これは従来の独占禁止協力協定,経済連携協定等では規定されておらず,同取決めにおいて初めて設けられた規定である。

(2) 中国国家発展改革委員会との協力に関する覚書

公正取引委員会は,中華人民共和国の競争当局の一つである国家発展改革委員会との間で,平成27年10月13日に「日本国公正取引委員会と中華人民共和国国家発展改革委員会との間の独占禁止協力に関する覚書」に署名し,同覚書に基づく協力が開始された。同覚書は,両競争当局間における年次協議,情報交換,技術協力,通報等を規定している。

(3) 中国商務部との協力に関する覚書

公正取引委員会は,中華人民共和国の競争当局の一つである商務部との間で,平成28年4月11日に「日本国公正取引委員会と中華人民共和国商務部との間の独占禁止協力に関する覚書」に署名し,同覚書に基づく協力が開始された。同覚書は,両競争当局間における年次協議,情報交換,技術協力等を規定している。

第2 競争当局間協議

公正取引委員会は,我が国と経済的交流が特に活発な国・地域の競争当局等との間で競争政策に関する協議を定期的に行っている。平成27年度における協議の開催状況は,次のとおりである。

第1表 平成27年度における競争当局間協議の開催状況

第3 経済連携協定への取組

近年における経済のグローバル化の進展と並行して,地域貿易の強化のため,現在,多くの国が,経済連携協定や自由貿易協定の締結又は締結のための交渉を行っている。競争政策の観点からは,経済連携協定が市場における競争を一層促進するものとなることが重要であり,公正取引委員会は,このような観点から我が国の経済連携協定締結に関する取組に参画している。我が国がこれまでに署名・締結した経済連携協定のうち,次のものには,競争に関する規定が設けられ,両国が反競争的行為に対する規制の分野において協力することが盛り込まれている。

第2表 我が国が署名・締結した経済連携協定のうち競争に関する規定が設けられているもの

(注1) 平成19年3月に両国間で見直しのための改正議定書が署名され,同年9月に発効した。競争に関する章については,実施取極において,シンガポール側における競争法導入及び競争当局設立に伴う修正が行われた。

(注2) 平成20年4月に日本及び全ASEAN構成国の署名が完了した。

(注3) 日本とシンガポール,ラオス,ベトナム及びミャンマーとの間では平成20年12月に,ブルネイとの間では平成21年1月に,マレーシアとの間では同年2月に,タイとの間では同年6月に,カンボジアとの間では同年12月に,フィリピンとの間では平成22年7月に発効した。インドネシアとの間では未発効である。

第4 多国間関係

1 国際競争ネットワーク(ICN:International Competition Network)

(1) ICNの概要

ICNは,競争法執行における手続面及び実体面の収れんを促進することを目的として平成13年10月に発足した各国競争当局を中心としたネットワークであり,平成28年3月31日現在,120か国・地域から133の競争当局が参加している。このほか,国際機関,研究者,弁護士等の非政府アドバイザー(Non-Governmental Advisors:NGA)もICNに参加している。

ICNは,主要な20の競争当局の代表者で構成される運営委員会(Steering Group)により,その全体活動が管理されている。公正取引委員会委員長は,ICNの設立以来,運営委員会のメンバーとなっている。このほか,当委員会は,ICN成果物の唱導及び実施(Advocacy and Implementation)を担当しており,他のICNに加盟する競争当局と協力し,ICN成果物の唱導及び実施ネットワークサポートプログラム(AISUP。平成20年8月に当委員会の主導により設立され,経験の浅い競争当局におけるICN成果物の実施等を支援するためのプログラム)の運用を行っている。

ICNは,運営委員会の下に,テーマごとに①カルテル作業部会,②企業結合作業部会,③単独行為作業部会,④アドボカシー作業部会及び⑤競争当局有効性作業部会の五つの作業部会並びにICNの組織及び運営等に関する作業部会を設置している。これらの作業部会においては,電話会議,質問票の活用,各国競争当局からの書面提出等を通じて,それぞれの課題に対する検討が行われているほか,テーマごとにワークショップが開催されている。公正取引委員会は,これらの活動に積極的に取り組んでおり,平成23年度の第10回年次総会から平成26年度の第13回年次総会までの間はカルテル作業部会の共同議長を,第13回年次総会以降は同作業部会サブグループ(SG1)の共同議長をそれぞれ務めている。また,ICNは,これらの作業部会の成果の報告,次年度のワークプランの策定等のため,年次総会を開催しており,平成27年度の第14回年次総会は,平成27年4月28日から5月1日にかけてオーストラリア・シドニーにおいて開催され,当委員会からは委員長ほか事務総局の職員7名がスピーカー等として参加した。

平成27年度における主な会議の開催状況は,次のとおりである。

第3表 平成27年度におけるICNの主な会議の開催状況

(2) 各作業部会の活動状況

平成27年度における各作業部会の活動状況は,次のとおりである。

ア カルテル作業部会

カルテル作業部会は,反カルテル執行における国内的及び国際的な諸問題に対処することを目的として設置された作業部会である。同作業部会には,ハードコア・カルテルの定義等の基本的な概念について検討を行う一般的枠組みサブグループ(SG1)及び個別の審査手法に関する情報交換等を通じてカルテルに対する法執行の効率性を高めることを目的とした審査手法サブグループ(SG2)が設置されている。

第14回年次総会以降,SG1においては,経験の浅い競争当局のための「審査権限に関するカタログ」の作成作業が行われたほか,「私的執行が公的な反カルテル執行に与える影響」及び「コンプライアンスプログラムを通じたカルテル抑止力の向上」をテーマとした電話セミナーが実施され,公正取引委員会事務総局の職員がモデレーターやスピーカーを務めた。また,当委員会は,SG1の共同議長として,同一テーマにより,アジア太平洋地域に所在する競争当局向けの電話セミナーを主催した。

他方,SG2においては,公正取引委員会の主導の下,「非秘密情報の交換を促進するためのフレームワーク」の設立に向けた作業が行われ,運用が開始されたほか,反カルテル執行テンプレートの改訂作業を行った。また,SG2は,ICNに加盟する競争当局のカルテル審査担当者が実務上の問題を議論するため,年1回,カルテルワークショップを開催している。平成27年度のワークショップは,平成27年10月,コロンビア・カルタヘナにおいて開催され,「国際カルテルに対する制裁措置における協力と収れん」をテーマとして議論が行われ,当委員会事務総局の職員4名がスピーカー等として参加した。

イ 企業結合作業部会

企業結合作業部会は,企業結合審査の効率性を高めるとともに,その手続面及び実体面の収れんを促進し,国際的企業結合の審査を効率化することを目的として設置された作業部会である。

第14回年次総会以降,同作業部会においては,「企業結合審査における問題解消措置の指針」が作成されたほか,企業結合届出・手続テンプレートの更新を行った。また,同作業部会においては,公正取引委員会の主導の下,平成24年に「企業結合審査に係る国際協力のためのフレームワーク」を設立し,運用を行っている。さらに,平成27年9月,企業結合ワークショップがベルギー・ブリュッセルにおいて開催され,企業結合審査における問題解消措置及び国際協力等をテーマとして議論が行われ,当委員会事務総局の職員2名がスピーカー等として参加した。

ウ 単独行為作業部会

単独行為作業部会は,事業者による反競争的単独行為に対する規制の在り方等について議論することを目的として設置された作業部会である。

第14回年次総会以降,同作業部会においては,「双方向市場と単独行為」及び「単独行為案件における問題解消措置」をテーマとした電話セミナーを実施した。また,平成27年11月,単独行為ワークショップがトルコ・イスタンブールにおいて開催され,取引拒絶に関する分析について議論が行われ,公正取引委員会事務総局の職員2名がスピーカー等として参加した。

エ アドボカシー作業部会

アドボカシー作業部会は,競争唱導活動の有効性を向上させることを目的として設置された作業部会である。

第14回年次総会以降,同作業部会においては,市場調査に関する情報等をICNメンバーが共有することを目的とする市場調査インフォメーションストア及び市場調査グッドプラクティスハンドブックを改訂したほか,新たに「事業者向けの競争の利益の説明」に関する章がICNウェブサイト内の競争の利益を説明するためのオンラインプラットフォーム上に作成された。また,同作業部会は,世界銀行との共催で開催された,各競争当局の競争唱導の成功例を競わせる平成27-28年年次総会アドボカシーコンテストを開催した。同コンテストにおいては,主催者側が設定した四つのテーマのうち,「市民社会の関与を通じた競争の促進」のカテゴリにおいて,公正取引委員会が行っている独占禁止法教室や子供向けコンテンツ等を利用した取組が入賞した。さらに,同作業部会は,「市場調査実施に係る実務上の配慮点」,「平成26-27年年次総会アドボカシーコンテスト受賞者による競争唱導に係る成功事例の紹介」及び「競争評価における実務」(OECDとの合同開催)をテーマとした電話セミナーを実施した。

オ 競争当局有効性作業部会

競争当局有効性作業部会は,競争政策の有効性に関する諸問題とその有効性を達成するために最もふさわしい競争当局の組織設計を検討することを目的として設立された,競争政策の実施に関する作業部会が,平成21年5月に改組されたものである。

第14回年次総会以降,同作業部会においては,競争当局の実務マニュアルのうち新たに「競争当局の倫理」及び「競争当局の評価」に関する章を作成したほか,競争法や競争当局の実務に関する研修教材を作成するICNトレーニング・オン・デマンド・プロジェクトに関して,新たに「国家による競争制限等の競争上の問題」,「プロジェクトの選定」,「経験の浅い競争当局へのアドバイス」,「立入検査計画の実務」及び「経験の浅い当局のための経済分析」をテーマとしたビデオ教材の作成に取り組んだ。また,同作業部会は,「良い競争当局の原則」及び「経験の浅い競争当局の課題」をテーマとした電話セミナーを実施した。さらに,平成28年3月,競争当局有効性ワークショップがボツワナ・ハボロネにおいて開催され,競争当局の戦略,業務の優先順位付け,職員の倫理,競争当局のパフォーマンスに関する評価など競争当局有効性作業部会で現在進行している作業について議論が行われ,公正取引委員会事務総局の職員2名がスピーカー等として参加した。

2 経済協力開発機構(OECD)・競争委員会(COMP:Competition Committee)

(1) 競争委員会は,OECDに設けられている各種委員会の一つであり,昭和36年12月に設立された制限的商慣行専門家委員会が昭和62年に競争法・政策委員会に改組され,平成13年12月に現在の名称に変更されたものである。我が国は,昭和39年のOECD加盟以来,その活動に参加してきており,公正取引委員会は,同年10月の会合以降,これに参加してきている。競争委員会は,本会合のほか,その下に各種の作業部会及び競争に関するグローバルフォーラムを設け,随時会合を行っている。本会合においては,各加盟国の競争政策に関する年次報告が行われているほか,その時々の重要課題について討議が行われている。平成27年度における会議の開催状況は,次のとおりであり,当委員会は,全ての会合に出席した。

第4表 平成27年度における競争委員会の開催状況

(注)前記会議の開催場所は,全てフランス・パリである。

(2) 平成27年6月の第123回本会合においては,①寡占市場における問題に関するヒアリング,②競争中立性に係るヒアリング及びラウンドテーブル討議,③破壊的技術革新に関するヒアリング等が行われ,①のヒアリングでは,公正取引委員会の委員が我が国の寡占市場における競争上の問題や当委員会の過去の取組等についてプレゼンテーションを行った。同年10月の第124回本会合においては,プラットフォーム間の価格協定に関するヒアリング等が行われた。

なお,平成27年10月の第124回本会合においては,競争委員会が継続的に取り組むべき中長期的戦略テーマとして,「デジタルエコノミー」及び「市場調査」を取り上げることが決定された。

(3) 競争委員会に属する各作業部会及び競争に関するグローバルフォーラムの平成27年度における主要な活動は,次のとおりである。

ア 第2作業部会では,平成27年6月の会合においては,①定期船輸送に係るラウンドテーブル討議,②入札とオークションに係るヒアリング等が行われた。また,同年10月の会合においては,①「執行活動の事後評価に関するレファレンスガイド」作成に係る討議,②金融セクターにおける破壊的技術革新に関するヒアリング等が行われ,①のセッションにおいて,公正取引委員会の委員が我が国における経験を紹介した。

イ 第3作業部会では,平成27年6月及び同年10月の会合において,国際協力協定に盛り込まれている規定に関する一覧表作成に係る討議等が行われた。また,同年6月の会合においては,公的執行と私的執行に係るラウンドテーブル討議等が行われたほか,同年10月の会合においては,中間財を含むカルテルに係るラウンドテーブル討議等が行われた。

ウ 競争に関するグローバルフォーラムでは,平成27年10月の会合において,①競争が雇用に与える影響に係るラウンドテーブル討議,②破壊的技術革新が競争法の執行に与える影響に係るラウンドテーブル討議,③累犯:産業特有の共謀に係るラウンドテーブル討議等が行われた。

3 東アジア競争政策トップ会合及び東アジア競争法・政策カンファレンス

公正取引委員会は,東アジア競争政策トップ会合及び東アジア競争法・政策カンファレンスにおいて主導的な役割を果たしている。

東アジア競争政策トップ会合は,東アジア地域における競争当局及び競争関連当局のトップが一堂に会し,その時々の課題や政策動向等について率直な意見・情報交換を行うことにより,東アジア地域における競争当局及び競争関連当局間の協力関係を強化することを目的とするものである。同会合においては,競争法・政策の執行に係る課題,効果的・効率的な技術支援のための協力・調整等のテーマについて議論が行われている。

東アジア競争法・政策カンファレンスは,競争当局及び競争関連当局に加え,学界,産業界等からの出席者を交えて,競争法・政策に係るプレゼンテーション・質疑応答等を行い,東アジア地域における競争法・政策の普及・広報に寄与することを主要な目的とするものである。

平成27年度においては,公正取引委員会は,第11回東アジア競争政策トップ会合及び第9回東アジア競争法・政策カンファレンスを平成27年8月にベトナム・ホーチミンにおいてベトナム競争当局等との共催により開催した。

4 アジア太平洋経済協力(APEC)

(1) 競争政策・競争法グループ(CPLG)

APECにおいては,APEC域内における競争政策についての理解を深め,貿易及び投資の自由化及び円滑化に貢献することを目的として,貿易投資委員会の下部組織として競争政策・規制緩和グループ(CPDG)が平成8年に設置された。同グループは,平成19年に貿易投資委員会の下部組織から経済委員会(EC)の下部組織に移行し,平成20年には,競争政策・競争法グループ(CPLG)に改称した。公正取引委員会は,平成17年から平成24年12月までCPLG(改称前においてはCPDG)の議長を務め,平成28年1月からはCPLGの副議長を務めるなど,APECにおける競争政策に関する取組に対して積極的に貢献を行っている。

平成27年度において,公正取引委員会は,平成28年2月にペルー・リマにおいて開催されたCPLG会合において,我が国における入札談合への対処やコンプライアンスの取組について説明を行うとともに,同時期に開催された「競争政策に係る国際的なベストプラクティスの促進に関するワークショップ」において,我が国の審査手続について説明を行った。

(2) 個別行動計画(IAP)及び共同行動計画(CAP)

APECにおいては,平成6年に合意された「自由で開かれた貿易及び投資」というボゴール目標を達成するための具体的道筋を示す「大阪行動指針」(平成7年採択)に基づき,APEC参加エコノミーそれぞれの自主的かつ個別的な行動を取りまとめた「個別行動計画」(IAP)及びAPEC参加エコノミーが共同して取り組むべき分野別の行動を取りまとめた「共同行動計画」(CAP)が策定されている。我が国の個別行動計画の競争章においては,競争法の厳正な執行や技術支援の実施等が掲げられており,競争政策分野における共同行動計画としては,情報交換及び対話の促進,競争法・政策に対する理解の増進,技術支援の実施等が掲げられている。

5 国連貿易開発会議(UNCTAD)

昭和55年,UNCTAD主催による制限的商慣行国連会議において,「制限的商慣行規制のための多国間の合意による一連の衡平な原則と規則」(以下「原則と規則」という。)が採択された。さらに,原則と規則は,同年の第35回国連総会において,国連加盟国に対する勧告として採択された。原則と規則は,国際貿易,特に発展途上国の国際貿易と経済発展に悪影響を及ぼす制限的商慣行を特定して規制することにより,国際貿易と経済発展に資することを目的としている。その後,このような制限的商慣行についての調査研究,情報収集等を行うために,昭和56年,制限的商慣行政府間専門家会合が設置され,平成8年のUNCTAD第9回総会において競争法・政策専門家会合と名称変更された後,平成9年12月の国連総会の決議により,競争法・政策に関する政府間専門家会合と名称が再変更された。また,同会合のほか,原則と規則の全ての側面についてレビューを行う国連レビュー会合が5年に1回開催されている。

平成27年度においては,平成27年7月6日から同月10日にかけてスイス・ジュネーブにおいて第7回競争法・政策に関する原則と規則のレビュー会合が開催され,公正取引委員会事務総局の職員が同会合に出席した。同会合においては,「医薬品分野における競争の役割及び消費者利益」,「競争法の執行及びアドボカシーを強化するための方法及び手段」,「競争法の効果的な執行ツールとしての企業結合事案における国際協力」等を議題として,各国の考え方,取組,経験等について議論された。

第5 海外の競争当局等に対する技術支援

近年,東アジア地域等の発展途上国において,競争法・政策の重要性が認識されてきていることに伴い,既存の競争法制を強化する動きや,新たに競争法制を導入する動きが活発化しており,これらの国に対する技術支援の必要性が高まってきている。公正取引委員会は,主として独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じて,これら諸国の競争当局等に対し,当委員会事務総局の職員の派遣や研修の実施等による競争法・政策分野における技術支援活動を行っている。

公正取引委員会による発展途上国に対する具体的な技術支援の概要は,次のとおりである。

1 ベトナムに対する技術支援

ベトナムに対して,公正取引委員会は,競争法の執行能力の強化を目的として,JICAの協力の下,平成20年9月から平成27年9月にかけて当委員会事務総局の職員1名をJICA長期専門家としてベトナム競争当局に累次派遣し,現地における技術支援を実施した。また,当委員会は,平成27年5月13日から同月22日にかけてベトナム競争当局の職員8名を我が国に招へいし,競争法・政策に関する研修を実施した。

2 フィリピンに対する技術支援

フィリピンに対して,公正取引委員会は,JICAの協力の下,平成28年2月4日にフィリピン規制当局の職員等15名を我が国に招へいし,競争法・政策に関する研修を実施した。また,平成28年2月23日から同月25日にかけてフィリピン・セブにおいて開催されたフィリピン裁判官向け現地セミナーに当委員会事務総局の職員及び学識経験者を派遣した。

3 インドネシアに対する技術支援

インドネシアに対して,公正取引委員会は,JICAの協力の下,平成27年11月5日及び6日にインドネシア国会議員等11名を,平成28年3月14日及び15日にインドネシア競争当局の委員長,委員等11名を,それぞれを我が国に招へいし,競争法・政策に関する研修を実施した。

4 モンゴルに対する技術支援

モンゴルに対して,公正取引委員会は,JICAの協力の下,平成28年1月12日から15日にかけてモンゴル競争当局の職員等13名を我が国に招へいし,競争法・政策に関する研修を実施した。また,平成28年1月27日及び28日にモンゴル・ウランバートルにおいて開催されたモンゴル競争当局向け現地セミナーに当委員会事務総局の職員を派遣した。

5 その他の発展途上国に対する技術支援

公正取引委員会は,JICAの協力の下,平成6年度以降,競争法制を導入しようとする国や既存の競争法制の強化を図ろうとする国の競争当局等の職員を我が国に招へいし,競争法・政策に関する研修を実施している。平成27年度においては,発展途上国12か国から14名の参加を得て,平成27年8月20日から同年9月18日にかけて,実施した。

また,公正取引委員会は,国際連合貿易開発会議(UNCTAD)との共催により,平成27年7月1日から同月3日にスイス・ジュネーブにおいてアフリカ競争当局向けワークショップを開催したほか,当委員会は,ケニア競争当局との共催により,平成28年2月16日及び17日にケニア・ナイロビにおいて現地セミナーを開催した。

このほか,公正取引委員会は,発展途上国に対する技術支援として,OECD,世界銀行等の国際機関や外国政府等が東アジアやアフリカ地域において実施する競争法・政策に関するセミナーに当委員会事務総局の職員や学識経験者を積極的に派遣している。

第6 海外調査

公正取引委員会の競争政策の企画・運営に資するため,諸外国・地域の競争政策の動向,競争法制及びその運用状況等について情報収集や調査研究を行っている。平成27年度においては,米国,EU,その他主要なOECD加盟諸国やアジア各国を中心として,競争当局の政策動向,競争法関係の立法活動等について調査を行い,その内容の分析とウェブサイト等による紹介に努めた。

第7 海外への情報発信

我が国の競争政策の状況を広く海外に周知することにより公正取引委員会の国際的なプレゼンスを向上させるため,報道発表資料や所管法令・ガイドライン等を英訳し,英文ウェブサイトに掲載している。平成27年度においては,前年度に引き続き,英語版報道発表資料の一層の充実及び速報化に努めた。

このほか,外国の競争当局,弁護士会等が主催するセミナー等に積極的に公正取引委員会委員及び事務総局の職員を派遣したり,海外のメディアに寄稿を行ったりするなどの活動を行っている。平成27年度においては,平成27年6月に英国・ロンドンにおいて開催された英国王立国際問題研究所カンファレンス,同年11月に中国・北京において開催されたABAアジアフォーラム,平成28年2月に東京において開催されたABA(米国法曹協会)/IBA(国際法曹協会)共催国際カルテルワークショップ,同年3月に英国・ロンドンにおいて開催されたQueen Mary University of London主催セミナー等に,それぞれ公正取引委員会委員長又は委員がスピーカーとして参加した。

また,平成27年5月に中国・香港で開催されたアジア競争フォーラム主催セミナー,ニューヨーク州弁護士会主催国際カルテルプログラム,同年6月にインドネシア・ジャカルタにおいて開催されたジャカルタ国際競争フォーラム,同月に中国・香港において開催された第2回反トラストアジア太平洋サミット,同年9月に韓国・ソウルにおいて開催された第19回ソウル国際競争政策ワークショップ,同月に中国・北京において開催された中国政法大学比較法学国際会議,同月にベルギー・ブリュッセルにおいて開催されたIBCリーガルカンファレンス,同年10月にマレーシア・クアラルンプールにおいて開催された台湾公平交易委員会主催競争法セミナー,同月にオーストリア・ウィーンにおいて開催されたIBA年次総会2015,同年11月にブルガリア・ソフィアにおいて開催されたソフィア競争法フォーラム,同月に中国・武漢において開催されたACA(Asian Competition Association)主催フォーラム,同月に中国・香港において開催されたアジア競争フォーラム,平成28年2月にカンボジア・プノンペンで開催されたUNCTAD主催知的財産ワークショップ,同年3月にシンガポールにおいて開催されたGCR(Global Competition Review)第5回Asia-Pacific会合等に,公正取引委員会事務総局の職員がスピーカー等として参加した。