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経済分析に関する取組

経済分析に関する取組

 公正取引委員会では、所管法令の執行・政策立案の基盤となり得る質の高い経済分析を行う体制を強化するため、経済分析室を設置しています。
 経済分析室は、訴訟対応を含む独占禁止法違反被疑事件審査、企業結合審査、各種実態調査等における経済分析業務を専門に担当しており、法執行及び政策立案への経済分析の一層の活用を図っています。
 以下では、経済分析に関する主な取組をまとめています。

第1 「経済分析室」の設置について(令和4年4月1日)

第2 「経済分析報告書及び経済分析等に用いるデータ等の提出についての留意事項」の策定について(令和4年5月31日)

第3 経済分析の活用状況について

1 令和4年度

⑴ 企業結合審査関係

 

案件名

該当箇所

概要

マイクロソフト・コーポレーション及びアクティビジョン・ブリザード・インクの統合

令和4年度における主要な企業結合事例・事例7 26頁参照

垂直型企業結合の投入物閉鎖の検討に当たり、ゲームコンソール向けゲーム開発・発行事業に係る投入物閉鎖のインセンティブに関して、当事会社から、垂直計算を応用した臨界転換分析の結果が提出されたところ、仮に、当事会社経済分析と同様の分析を日本市場に限定したデータを用いて実施した場合には、日本における関連市場の状況を踏まえると臨界転換率はより高い値になる可能性が高いことから、投入物閉鎖のインセンティブが生じるという結論が得られる可能性は低いと評価した。

古河電池㈱による三洋電機㈱のニカド電池事業の譲受け

令和4年度における主要な企業結合事例・事例4 17頁参照

当事会社グループから提出された販売実績データ等を用いて、当事会社グループ間の競合の程度等を把握する目的で、円筒形ニカド素電池及び各用途の円筒形ニカド組電池ごとに個別製品ごとの価格に関する比較分析等を実施した。その結果、円筒形ニカド素電池については、パナソニックグループのいくつかの個別製品に関する価格上昇に対して、古河電池の同価格帯の個別製品の価格・数量が特段反応していないということが観察され、当事会社グループ間の競合の程度は余り高くない可能性があることが示唆された。他方、円筒形ニカド素電池以外については当事会社グループ間の競合の程度の大小については判断できなかった。


⑵ 実態調査等関係

 

案件名

該当箇所

概要

クラウドサービス分野の取引実態に関する報告書について(令和4年6月28日)

実態調査報告書3637

4950頁参照

IaaS及びPaaSの利用者を対象としたアンケートにおける全てのクラウドサービスの価格が5~10%程度上昇した場合の切替えの有無に係る回答の結果に基づき、クラウドサービスとオンプレミスとの代替性の評価を行った。その結果、クラウドサービスはオンプレミスとは別市場である可能性が高いと考えられた。

また、当該アンケートにおける事業者が現在利用しているクラウドサービスの価格が5~10%程度上昇した場合の他のクラウドサービス又はオンプレミスへの切替えの有無に係る回答の結果に基づき、現在利用しているクラウドサービスと他のクラウドサービス又はオンプレミスとの代替性の分析を行った。その結果、既にクラウドサービスを利用している利用者については、利用中のクラウドサービスから他のクラウドサービス又はオンプレミスへの切替えはほとんど生じないと考えられた。

独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に関する緊急調査の結果について(令和4年1227日)

緊急調査の結果別添21頁参照

調査対象業種22業種の業種別の注意喚起文書の送付割合と取引価格引上げ状況の関係の分析を行った。その結果、発注者側書面調査において、全ての商品・サービスについて取引価格を据え置いたと回答した割合が高ければ高いほど、注意喚起文書の送付割合が高くなる傾向(相関係数は0.6474であり、正の相関)がみられ、全ての商品・サービスについて取引価格を引き上げたと回答した割合が高ければ高いほど、注意喚起文書の送付割合が低くなる傾向(相関係数は-0.4931であり、負の相関)がみられた。

モバイルOS等に関する実態調査報告書について(令和5年2月9日)

実態調査報告書5960頁参照

モバイルOS市場においてAndroid及びiOSが相互に競争圧力となり得るかを評価する観点から、次回購入を考えている現在使用しているモバイルOSと同じモバイルOSが搭載されたスマートフォンの端末価格やアプリ価格等が5~10%値上がりした場合のモバイルOSの選択に係る消費者アンケートへの回答の結果に照らして、ロックイン効果により、AndroidエコシステムとiOSエコシステムとの間の切替えが生じにくくなっていることが推測されるとした。

2 令和3年度以前

⑴ 企業結合審査関係

 

案件名

該当箇所

概要

大阪製鐵㈱による東京鋼鐵㈱の株式取得

平成27年度における主要な企業結合事例・事例3 4頁、6頁参照

共英製鋼を除く新日鐵住金グループと共英製鋼との間の競合の程度と、共英製鋼を除く新日鐵住金グループと共英製鋼以外の事業者との間の競合の程度が異なるか否かを分析するため、旧新日本製鐵株式会社と旧住友金属工業株式会社との合併により、旧新日鐵グループに属する大阪製鐵及びトピー工業と、旧住金グループに属する共英製鋼が同一グループの構成企業となったことで、商品ごとのプライスコストマージンにどのような変化が生じたかについて計量経済分析を行った。

その結果、共英製鋼を除く新日鐵住金グループと共英製鋼との間の競合の程度と、共英製鋼を除く新日鐵住金グループと共英製鋼以外の事業者との間の競合の程度に有意な差が認められないことが示唆された。また、生産拠点と需要地との近接性がコスト競争力に有意な影響を与えていることを示す結果が得られた。

㈱ファミリーマートとユニーグループ・ホールディングス㈱の経営統合

平成27年度における主要な企業結合事例・事例9 3~5頁、7頁参照

当事会社グループのコンビニエンスストアが値上げ等を行うインセンティブを有するか否かを把握するため、本件統合により店舗数が減少する地域の利用者にアンケート調査を実施し、転換率を推定の上、当事会社から提供を受けた財務データを用いてGUPPIの推定を行った。その結果、本件統合後、500m内チェーン数が2から1となり、かつ、隣接1km圏内に競合コンビニエンスストアが存在しない地域については、それ以外の地域より値上げを行うインセンティブが高いことが示唆された。

また、当事会社グループのコンビニエンスストアが競合する地域が比較的多い5県について、コンビニエンスストアと他業態の小売店舗の間の競合の度合いを定量的に把握する目的で、当事者グループの各店舗1日当たりの平均来店客数等のデータを用いて回帰分析を行った。その結果、①当事会社グループの店舗周辺に所在するチェーンスーパーの店舗数を説明変数とするモデルの分析では、当事会社グループの店舗から半径1,500m圏内のチェーンスーパーの店舗数が多くなるほど、平均来店客数が有意に減少するという結果が得られた。さらに、②当事会社グループの店舗周辺に所在するチェーンスーパーの店舗数ごとにダミー変数を設定したモデルの分析では、当事会社グループの店舗から半径1,500mの圏内にチェーンスーパーが3店舗以上所在する場合、当事会社グループの店舗への来店客数が顕著に減少するという関係が認められた。

さらに、従来、当事会社グループの店舗間で活発に競争が行われてきたと考えられるものの地理的に近接した地域に競争的牽制力と認められるようなコンビニエンスストアやスーパーマーケットが存在していない3地域について、本件行為後における当事会社グループの店舗に対する競争圧力の有無が不明であったため、店頭アンケートを実施してGUPPIを推定したところ、2.3%から3.2%の範囲に収まっていたことから、本件行為後に当事会社グループが値上げ等を行う誘因を持つ可能性は低いという結果が得られた。

出光興産㈱による昭和シェル石油㈱㈱の株式取得及びJXホールディングス㈱による東燃ゼネラル石油㈱の株式取得

平成28年度における主要な企業結合事例・事例3 6~7頁、10頁参照

当事会社グループ4社が25%ずつ出資することになるプロパンガス販売事業を営むジクシスに対する出資関係の変化が、当該4社のプロパンの販売価格にどのような影響をもたらすかを分析するため、株主と企業間の持分関係及び支配関係を考慮した上でPCAIDSモデルを用いてシミュレーション分析を行った。

 その結果、シミュレーションによって計算された価格変化率は、LPガス元売事業者ごとにまちまちであり、各種条件の設定値等にも左右されるものの、価格変化率が最大となるLPガス元売業者については、2%程度ないし6%程度価格が上昇するという結果となった。

 また、石油元売会社以外の事業者が輸入するガソリンの数量と、日本国内におけるガソリン卸売価格の関係についてインパルス反応関数分析を実施し、当該事業者の輸入数量に生じたショック(変動)が、日本国内におけるガソリン卸売価格にもたらす影響をグラフ化して検証した。その結果、当該事業者の輸入数量におけるショック(変動)は、日本国内におけるガソリン卸売価格に有意な影響をもたらしていないという結果が得られ、輸入圧力が働かないと推定された。

新日鐵住金㈱による日新製鋼㈱の株式取得

平成28年度における主要な企業結合事例・事例5 3頁、7頁参照

競争に与える影響が比較的大きいと考えられる「溶融亜鉛―アルミニウム―マグネシウム合金めっき鋼板」について、一定の取引分野を画定するため、操作変数法を用いて需要関数を推定し、実際弾力性を計算した上で臨界弾力性分析を行った。

その結果、溶融亜鉛―アルミニウム―マグネシウム合金めっき鋼板は、単体で一定の取引分野の商品範囲を画定し得るという結果が得られた。また、当事会社は、ステンレス冷延鋼板について、価格相関分析及び定常性分析を行い、東アジア地域における市場の一体性が高まっていることを主張したため、当委員会において操作変数法を用いてステンレス冷延鋼板の需要関数を推定し、実際弾力性を計算した上で臨界弾力性分析を行ったところ、地理的範囲は日本全国と画定されるという結果が支持された。

㈱第四銀行及び㈱北越銀行による共同株式移転

平成29年度における主要な企業結合事例・事例12 12頁参照

第四銀行のデータを用いて、需要者が第四銀行と競合する民間金融機関(銀行、信用金庫及び信用組合)から借入れを行っている場合に第四銀行が当該需要者に提示する金利水準と、需要者が政府系金融機関(商工中金及び日本公庫)から借入れを行っている場合に第四銀行が当該需要者に提示する金利水準に有意な差がみられるのかについて、需要者の信用格付等金利水準に影響を与え得る要因を調整しつつ経済分析を行ったところ、後者の金利水準の方が統計的に有意に高いという分析結果が得られた。このことは、第四銀行と民間金融機関の競合の程度と比較すると、第四銀行と政府系金融機関の競合の程度が弱いことを示唆するものであった。

王子ホールディングス㈱による三菱製紙㈱の株式取得

平成30年度における主要な企業結合事例・事例2 4頁参照

 アート紙と上質コート紙の商品範囲の画定に当たり、価格相関分析及び定常分析を行った。

 その結果、アート紙と上質コート紙の価格の相関関係は弱く、価格比の定常性も認められなかった。本分析からはアート紙と上質コート紙は別の商品範囲であることが示唆された。

新日鐵住金㈱による山陽特殊製鋼㈱の株式取得

平成30年度における主要な企業結合事例・事例4 3頁、5頁参照

用途間の代替性について、当事会社の販売実績データを用い、当事会社の分類に従い、化学成分等が異なる小径シームレス鋼管の平均価格を算出した上で価格分析を行った。その結果、「軸受用小径シームレス鋼管」と軸受用以外の小径シームレス鋼管は、価格差は小さいとはいえず、価格の相関関係も弱かった。したがって、軸受用小径シームレス鋼管と軸受用以外の小径シームレス鋼管が同一の商品範囲を構成するという仮説を支持する結果は得られなかった。

また、軸受用小径シームレス鋼管と特殊鋼棒鋼の切替えの程度について、平成28年1月にA社において発生した加熱炉の爆発事故により、平成28年3月までの約3か月間、軸受用の棒鋼を含む特殊鋼棒鋼の生産能力が減少した時期に、軸受用の鋼管の販売数量及び価格に影響が生じたか、自然実験の考え方に基づいた分析を行った。データの利用可能性に限界があるため結果に一定の留保は必要であるものの、A社が生産能力を失っていた期間中に、当事会社の軸受用鋼管の販売数量が増えている、という仮説を支持する結果は確認できなかった。

 

合同製鐵㈱による朝日工業㈱の株式取得

平成30年度における主要な企業結合事例・事例5 5頁参照

競争事業者の供給余力について評価するために、臨界損失分析の考え方を応用した経済分析を行った。具体的には、統合後の当事会社が直面する臨界損失を推定し、これと競争事業者の供給余力を比較する手法を採った。

分析の結果、得られた臨界損失との比較において、競争事業者の供給余力は、一定程度の規模を有することが示唆された。

㈱USEN-NEXT HOLDINGSによるキャンシステム㈱の株式取得

平成30年度における主要な企業結合事例・事例7 4~5頁参照

当事会社グループから提出された財務データ、解約率データ等を用いて、本件統合後、当事会社グループが単独行為により水平関係にある業務店向け音楽放送・配信の値上げを行うインセンティブの程度を把握する目的で、GUPPIを計算した。

その結果、キャンシステムのGUPPI10%を超えるという比較的高い値となった。

10

日本産業パートナーズ㈱による㈱コベルコマテリアル銅管及び古河電気工業㈱の銅管事業の統合

令和元年度における主要な企業結合事例・事例3 5~6頁参照

水平関係にある銅管の製造販売業について、価格相関分析を行った。ただし、「見せかけの相関」が生じる可能性を考慮して、銅管価格から銅地金(原材料)価格を取り除いたロールマージンを用いた。

まず、市場画定のため、銅管(黄銅管以外)と黄銅管に係るロールマージンの相関分析を行った結果、相関係数は低い値となり、両者間の供給の代替性は低い可能性が示唆された。

また、国内の競合状況について、銅管(黄銅管以外)の製造販売業者の主要製品に係るロールマージンの相関分析を行った結果、コベルコマテリアル銅管と競合他社(A社)の相関係数は極めて高くなった一方、コベルコマテリアル銅管と古河電気工業及びA社と古河電気工業の相関係数は相対的に低い値にとどまったことから、古河電気工業グループの製品が市場の競争を促していないという需要者等の認識とある程度整合的な結果が得られた。

さらに、主要な国内品と輸入品に係るロールマージンの相関分析を行った結果、データの制約から限定的な評価ではあるものの、輸入圧力が一定程度認められ得ることが示唆された。

11

㈱マツモトキヨシホールディングスによる㈱ココカラファインの株式取得

令和元年度における主要な企業結合事例・事例9 6~11頁参照

①地理的範囲における競合ドラッグストアグループからの競争圧力及び②地理的範囲における他業態からの競争圧力を評価することを目的として、それぞれ数の増減が当事会社の粗利益率に与える影響を、当事会社グループごとに回帰分析を実施して分析した。

その結果、①について、いずれの当事会社グループも、店舗から半径500m以内に存在する競合ドラッグストアグループについては、その数の増減が、粗利益率に影響を及ぼすことが確認された。ただし、その影響はいずれも軽微であった。一方、半径500mよりも遠方に存在する競合ドラッグストアグループについては、当事会社グループにより結果が異なった。また、②についても、半径500m以内に存在する競合スーパーマーケットの数の増減の影響は、商品カテゴリーや当事会社グループにより結果が異なった。

12

昭和産業㈱によるサンエイ糖化㈱の株式取得

令和2年度における主要な企業結合事例・事例2 3頁参照

本件企業結合による当事会社グループの価格引上げのインセンティブの有無とその程度を評価するため、当事会社グループから提出された粗利率及び市場シェアを用いて計算した転換率及び当事会社グループの価格を用いて、GUPPIを計算した。その結果、含水結晶ぶどう糖及び無水結晶ぶどう糖の値が、それぞれ4.8%及び4.6%と、比較的高い値であり、本件株式取得後の当事会社グループの価格引上げのインセンティブが一定程度あることが示唆された。

ただし、本分析結果に関し、本来であれば、経済学で想定される費用概念に基づいて算定された利益を用いるのが適当であるところ、本件では会計上の費用に基づいて算定された粗利率を用いざるを得なかったことから、参考値にとどめることとした。

13

DIC㈱によるBASFカラー&エフェクトジャパン㈱の株式取得

令和2年度における主要な企業結合事例・事例3 3~5頁参照

競争に与える影響が比較的大きいと考えられる5顔料について、一定の取引分野を画定するため、当事会社グループが提出した国内販売実績データを用いて、月次の平均販売価格に係る価格相関分析、定常分析等を行った。

まず、5顔料の間では、月次の平均販売価格が一定程度以上異なる水準で推移していた。また、異なる化学構造の有機顔料間の価格相関分析では、一部、相関係数が一定程度以上高い値となり有意性も確認されたが、対数差分(月次の平均販売価格の変化率)を用いた価格相関分析では同様の結果は得られず、頑健性を確認できなかったことから、同一の商品範囲に属する可能性は低いという結果となった。同一の化学構造で異なるカラーインデックスの有機顔料間では、相関係数の値はそれほど高くはないものの、有意性及び対数差分を用いた分析による頑健性が確認されたため、Augmented Dickey-FullerADF)検定により定常分析を実施したところ、月次の平均販売価格の価格比が定常であると結論付けられるだけの頑健性を確認できなかったことから、異なる商品範囲に属する可能性が高いことが示唆された。

14

グーグル・エルエルシー及びフィットビット・インクの統合

令和2年度における主要な企業結合事例・事例6 2122頁参照

当事会社グループは、Android API等を通じたAndroidスマートフォンと腕時計型ウェアラブル端末との間の相互接続性を低下させるインセンティブが無いことを示す定量的な証拠として、垂直計算を行った。具体的には、相互接続性の低下を契機として、腕時計型ウェアラブル端末を使用する需要者の一部がFitbit端末に切り替える際に生じる利益と、Androidスマートフォンを使用する腕時計型ウェアラブル端末の需要者の一部がiPhone等へ切り替える際に生じる損失をそれぞれ算定して、損失が利益を上回るときのFitbitへの切替えに対するiPhone等への切替えの割合を求めたところ、その閾値は非常に小さいことを主張した。

しかし、当該閾値について大小を判断するための基準や根拠が何ら示されておらず、また、相互接続性の低下による利益を算定する上で考慮する需要者の粘着性について、相互接続性の低下により腕時計型ウェアラブル端末の選択肢が減少し、需要者のFitbitグループに対する粘着性が高まる可能性を考慮に入れていないこと、さらに、垂直計算で用いた一部の世界データは日本の実態と大きく乖離している可能性が高いことから、現時点で相互接続性を低下させるインセンティブが生じないことを示す証拠として採用すべきではないと判断した。

15

Zホールディングス㈱及びLINE㈱の経営統合

令和2年度における主要な企業結合事例・事例10 3041

当事会社グループは、消費者を需要者としたコード決済事業に関して経済分析を行い、SBKZHDグループが1日限りで行った還元キャンペーンにおけるPayPayの決済金額の増加と各コード決済サービスの決済金額の減少から「転換率」を計算して比較した結果、当事会社グループ間の競合関係の強さは、PayPayと他のコード決済サービスと同程度かそれ以下であると主張した。これに対し、還元キャンペーン当日におけるPayPay利用者の中には、1日限りの者が数多く含まれている可能性は排除できないこと、LINE Payは、直近で大規模な還元キャンペーンを実施しなくなっており、PayPayへの転換率が低くなりやすい状況が既に生じていた可能性を排除できないことを考慮すべきと評価した。また、当事会社グループが、消費者側においてマルチホーミングが進んでいると主張したのに対して、当事会社グループ経済分析の結果からマルチホーミングの状況は確認されるものの、その程度は高くないと評価した。

16

グローバルウェーハズ・ゲーエムベーハーによるシルトロニック・アーゲーの株式取得

 

令和3年度における主要な企業結合事例・事例2 6頁、9~11

地理的範囲の画定に当たって、地理的範囲の候補となる地域に対する商品等の流出量・流入量を定量的に評価する経済分析手法であるエルジンガ・ホガーティ・テストを日本国内市場について実施したところ、流出量・流入量に係る指標がいずれも閾値を下回った商品はなかった(流出量・流入量に係る指標の閾値は10%を用いた。)。

また、シリコンウェーハは、メーカー間で製品差別化の程度が乏しいことなどから、同質財クールノー競争を前提としたモデルを重視するのが適当と判断した。その上で、市場シェア、会計データから推計した限界費用及び価格のデータを用いて、クールノーCMCRという、統合の前後で価格を維持するためには何%の限界費用の削減が理論上必要となるかを評価する指標を計算した。その結果、クールノーCMCRは、おおむね5%を超えるにとどまり、いくつかの取引分野においては競争を制限する可能性は示唆されるものの、本分析のみをもってその可能性が強く示唆されるとまでいえるものではないと評価した。

17

神鋼建材工業㈱による日鉄建材㈱の鋼製防護柵及び防音壁事業の吸収分割

 

令和3年度における主要な企業結合事例・事例3 1013

ガードレール、ガードケーブル及びガードパイプについて、需要者アンケートから計算した転換率及び市場シェアから得られた転換率それぞれを用いて、①商品に関する理論上の企業結合後の価格上昇の生じやすさを把握する目的で、同質財クールノー競争を前提としたCMCRの算定及び②差別財ベルトラン競争を前提としたCMCRの算定、③値上げインセンティブの有無を把握するためのGUPPIの算定並びに④需要の価格弾力性が一定であると仮定して、企業結合後に会社がどれだけ価格引上げを行うか簡易的な合併シミュレーションを行った。その結果、ガードレール及びガードケーブルについては、おおむね一貫して競争上の懸念が生じ得るという結果が得られた。他方、ガードパイプについては、モデルや使用するデータ(転換率)によって競争上の懸念が生じ得るか否かについて異なる結果が得られたため、本分析結果に強く依拠することはできないと判断した。


⑵ 実態調査等関係

 

案件名

該当箇所

概要

液化天然ガスの取引実態に関する調査について(平成29年6月28日)

実態調査報告書149150頁参照

期間契約において、仕向地柔軟性や数量柔軟性を含む契約条件が取引価格に与えている影響と仕向地柔軟性が数量柔軟性に与えている影響についての計量経済学的な分析(重回帰分析)等を行った。

その結果、引渡条件の別と取引価格の間及び増加許容量と取引価格の間のみ、有意な関係が認められた。ただし、引渡条件の別と取引価格の間の関係については輸送費の有無による影響が大きいと考えられた。以上を踏まえ、増加許容量と取引価格の関係を除き、一部の供給者の指摘を裏付ける結果は計量経済学的な分析からは得られなかったとしている。

また、期間契約における、①国内仕向地変更条項の有無と国内利益分配条項の有無、また、②国外仕向地変更条項の有無と国外利益分配条項の有無との間における連関係数の分析を行った。

本分析による国内仕向地変更条項を規定している契約の多くは、利益分配条項を規定していない(①は相関が弱い)、国外仕向地変更条項を規定している契約の多くは、利益分配条項を規定している(②は相関が強い)、という結果から、売主は、国内仕向地変更については、再販売利益の分配がなくとも対応してもよいと考えている場合が多く、他方、国外仕向地変更については、再販売利益の分配がなければ対応したくないと考えている場合が多いと推測することができるとしている。

公立中学校における制服の取引実態に関する調査(平成291129)

実態調査報告書44頁参照

制服の仕様の共通化の有無、制服メーカーの指定の有無、販売店の案内方法の違い、販売店数等による公立中学校における制服の販売価格への影響について、重回帰分析を実施した。

 その結果、自治体が制服の仕様の共通化を行っている場合、学校が案内する指定販売店等の販売店数が増加した場合及び学校が販売価格の決定に関与した場合には、制服の販売価格が統計的に有意に安くなる分析結果が得られた。

大規模小売業者との取引に関する納入業者に対する実態調査(平成30年1月31)

実態調査報告書1720頁参照

大規模小売業者と納入業者との取引に関し、問題となり得る行為がみられた取引について、①主要取引先と取引依存度(納入業者の売上高に対する主要取引先の売上割合)、②主要取引先との取引年数、③主要取引先と取引を継続している理由、④主要取引先の業態、との関係について傾向を把握するため、計量分析(プロビットモデルと、補対数対数モデルの両方を実施。)を実施した。

計量分析を実施したところ、問題となり得る行為がみられた取引と、①との関係について、取引依存度が高いほど当該取引が行われる確率が高まる傾向にある、②との関係について、取引年数が長いほど当該取引が行われる確率が高まる傾向にある、③との関係について、取引継続理由として、消極的な理由により取引を継続している場合は、積極的な理由のみにより取引を継続している場合に比べて問題となり得る行為がみられた取引が行われる確率が高まる傾向にある、④との関係について、ドラッグストアとの間で行われる取引は他の業態との間で行われる取引に比べて、当該取引が行われる確率が高まる傾向にあるといった結果が得られた。

官製談合防止に向けた発注機関の取組に関する実態調査(平成30年6月13)

実態調査報告書74頁、参考資料3

9899頁参照

官製談合防止に向けた発注機関の各種取組が未然防止の取組としてどの程度貢献しているかについて計量経済学的な実証分析を行った。

第一に、離散選択モデル(プロビットモデル、補対数対数モデル)による分析の結果、①研修を実施している発注機関では官製談合に職員が関与する確率が低くなる傾向、②公益通報窓口を設置している発注機関では官製談合に職員が関与する確率が低くなる傾向、③発注担当部課室と契約担当部課室を分離している発注機関では官製談合に職員が関与する確率が低くなる傾向がみられた。

第二に、いずれの発注機関でも取組が可能な「研修の実施」に着目し、研修の実施の有意性についてプロペンシティスコアマッチングの手法を用いてさらなる検証を行った。具体的には、研修を行っているグループと、研修を行っていないが研修を行っているグループと似た高い意識を持っているだろう発注機関を比較して、官製談合に職員が関与する確率にどの程度差が出るのか分析した。その結果、研修を実施すると、職員が官製談合に関与する確率が低くなる傾向にあるとの結果が得られた。

消費者向けeコマースの取引実態に関する調査について(平成31年1月29)

実態調査報告書1617頁、3637頁、3940頁、4142頁、56頁、59頁参照

消費者が事業者からインターネットを介して購入する商品に関する取引に係る事業者アンケート調査結果を基に、商品販売形態や取り扱う商品分野とメーカーが流通業者に課す制限の有無等の関係の分析(重回帰分析)を行った。

分析の結果、オンライン販売に関して、生活家電等、化粧品等、衣類等又はスポーツ用品等を主に取り扱っている小売業者の場合には、制限されることがあると回答する確率が高くなる傾向にある、オンラインモールでの販売を行っている小売業者の場合には、制限されることがあると回答する確率が高くなる傾向にあるといった分析結果が得られた。

協同組合等における独占禁止法コンプライアンスに関する取組状況について(令和2年6月25)

実態調査報告書34頁、別添資料3

101103頁参照

違反事件等の発生と独占禁止法コンプライアンス研修が実施される確率との関係の分析(重回帰分析)を行った。

分析の結果、公正取引委員会の独占禁止法違反事件等の対象となった組合が所在している地域では他の地域と比べて、また、独占禁止法違反事件等の対象となった組合と同種の組合では異なるグループに属する組合と比べて、統計的有意に研修が実施(又は外部研修に参加)される確率が高いことが認められ、独占禁止法違反事件等の発生が研修の実施の契機の一つとなっている可能性があることが示された。

デジタル・プラットフォーム事業者の取引慣行等に関する実態調査(デジタル広告分野)について(最終報告) (令和3年2月17)

実態調査報告書別紙参照

デジタル・プラットフォーム事業者の取引慣行等に関する実態調査(デジタル広告分野)について(中間報告)(令和2年4月28日公表)の際に行った消費者に対するアンケート調査結果を基に、収集される情報への認知とオプトアウト設定の認知の関係及び各サービスの利用規約の認知と各サービスを利用する際に収集・利用される情報等への認知の関係について、カイ二乗検定及び残差分析を行った。

分析の結果、①広告表示の目的の下に収集・利用されている情報を認識している利用者でさえ、約半数がオプトアウト設定について詳しくは知らないこと及び②検索サービス及びSNSサービスにおいて、利用規約を「読んでいる」と回答した人の6項目((a)情報提供の事実、(b)広告表示目的の情報収集・利用、(c)収集される情報の内容、(d)第三者との情報共有、(e)個人情報に紐づけられての使用、(f)収集・利用される情報を把握した上での同意)について認知・把握している割合が有意水準1%で高いことが明らかになった。

携帯電話市場における競争政策上の課題について(令和3年度調査)(令和3年6月10)

実態調査報告書3641頁参照

MNO3社の利用者に対する消費者アンケートにおいて、現在契約をしている通信事業者(MNO3社)からMVNO等に乗り換えない理由を尋ねた22項目の回答結果を基に因子分析を行った。

分析の結果、因子から因子の四つの因子に分けられた。この四つの因子を構成する各項目の傾向から、因子については「MNOへの信頼性・満足度・愛着度」、因子については「乗換えによる金銭的負担・手続的負担(経済性・スイッチングコスト)」、因子については「セット割引等の各種特典(副次的な経済性)」、因子については「MNO端末の魅力(機能性・利便性)等」と解釈できると考えられた。また、これらの四つの因子の乗り換えない理由としての影響度は、①>②>③>④になっていると分析された。

官公庁における情報システム調達に関する実態調査(令和4年2月8日)

 

実態調査報告書3637参考資料参照

官公庁における情報システム調達に関する実態調査の一環として行った官公庁向けアンケート調査の結果を基に、クロス集計を行い、カイ二乗検定の実施及びクラメールの連関係数の算出をして分析を行った。その結果、「官公庁の規模」と「情報システム調達に関するマニュアル等の整備状況」との関連について強い関連が認められたが、「官公庁の規模」と「情報システムに関する優秀な外部人材を集めることができない。」との関連、「情報システム調達に関する組織・人員体制の整備状況」と「情報システム間でのAPI連携の実施の程度」との関連、「官公庁の規模」と「情報システムに詳しい内部職員を育成する方法が分からない。」との関連は認められなかった。


⑶ 事後評価関係

 

案件名

該当箇所

概要

1      

コールマンジャパン株式会社に対する件(再販売価格拘束事件)の事後評価(令和2年6月)

事後評価報告書23頁、別添参照

公正取引委員会によるキャンプ用品の再販売価格の拘束に係るコールマンジャパン株式会社(以下「X社」という。)に対する件(2016年6月15日排除措置命令)における排除措置命令について、その効果の把握等を目的とし、計量経済分析を実施した。

テントは主要なキャンプ用品であり、国内出荷金額が高いものであることから、本件措置の効果をより客観的に検証するために、オンライン表示価格に関して計量経済分析を行ったところ、本件措置前後における希望小売価格からの値引き幅及びバラツキが統計的に有意に拡大していることが確認された。

また、本件措置がX社のテントの価格にどのような影響を与えたかを精緻に分析するため、オンライン表示価格の希望小売価格からの値引き幅に対する本件措置の影響についても計量経済分析を行った。具体的には、オンライン表示価格の希望小売価格からの値引き幅についてDifference-in-Differences分析を実施したところ、本件措置によってオンライン表示価格の値引き幅が拡大していることが認められた。

第4 競争政策研究センター(CPRC)の取組

 CPRCは、足元の施策実施に役立てるという観点はもとより、中長期的観点から独占禁止法の運用や競争政策の企画・立案・評価を行う上での理論的な基礎を強化するため、経済学者を含む外部の研究者や実務家の知的資源と公正取引委員会職員との機能的・持続的な協働のプラットフォームの整備を図ることを目的としています。
 CPRCの取組については、CPRCウェブサイトを御覧ください。

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