第2 勧告審決

 勧告審決は,違反行為者に対し,独占禁止法第48条第1項又は第2項の規
定に基づいて適当な措置を採るべきことを勧告し,そのものが勧告を応諾し
たときに,同条第4項の規定に基づき,審判手続を経ないで当該勧告と同趣
旨の審決を行うものである。
 本年度は,独占禁止法第3条後段(不当な取引制限)違反4件,第8条第
1項第1号又は第4号(不当な取引制限)違反3件及び第19条(不公正な取
引方法)違反3件の勧告審決を行った。その概要は,以下のとおりである。

(1) 独占禁止法第3条違反事件
三和シャッター工業株式会社ほか4名に対する件(平成元年(勧)第1
号)
事実の概要
(ア)  三和シャッター工業株式会社,文化シャッター株式会社,東洋
シャッター株式会社及び東鋼シャッター株式会社の4社は,それぞ
れ,福岡県,佐賀県,長崎県,熊本県,大分県,宮崎県及び鹿児島
県の区域(以下「九州地区」という。)においてシャッターの製造
販売業を営む者であり,また,鈴木シャッター九州販売株式会社
は,親会社である鈴木シャッター工業株式会社からシャッターの供
給を受けて九州地区において販売している者であり,その販売面に
おいて製造販売業者と並ぶ地位にある。
 東洋シャッター株式会社は,昭和62年10月1日,大阪市所在の株
式会社日本シャッター製作所を吸収合併し,同社の九州地区におけ
るシャッターの製造販売に関する地位を承継している。
 4社及び鈴木シャッター九州販売株式会社の5社(以下「5社」
という。)は,シャッターは直接又は建築材料等の販売業者(以下
「中間業者」という。)を通じて建設業者又は施主に販売しており,
5社の九州地区におけるシャッターの販売量の合計は,同地区にお
けるシャッターの総販売量の大部分を占めている。
 シャッターには,軽量シャッター,重量シャッター及びオーバー
ヘッドドアがあり,これらのうち,軽量シャッター及び重量シャッ
ターが大部分を占めている。
 なお,シャッターは,その幅及び高さが取付箇所ごとに異なるた
め,ほとんどすべて受注生産されている。
 軽量シャッター(重量シャッターと一括して発注されるものを除
く。以下同じ。)の販売価格は,通常,取付工事費等を含む一平方
メートル当たりの価格を基準として定められ,また,重量シャッ
ター(これと一括して発注される軽量シャッターを含む。以下同
じ。)の販売価格は,通常,各社同一内容の積算価格表を使用して,
製品価格,取付工事費等を積算して算出した額(以下「積算価格」
という。)に掛率を乗じて定められている。
 5社及び株式会社日本シャッター製作所の6社(以下「6社」と
いう。)は,かねてから,相互の協調を図るため,各社の九州地区
における営業の最高責任者である地区事業部長級の者による三水会
と称する会合を設け,同会の下に,九州地区を14地区に分けて,地
区ごとに各社の営業担当責任者級の者をもって構成する地区部会を
置いていた。
(イ)  6社は,かねてから,九州地区におけるシャッターの販売価格の
低落に対処するため,その対策を協議してきたところ,昭和61年4
月18日,福岡市博多区所在の博多都ホテル会議室で開催した社団法
人日本シャッター工業会の常任委員会メンバーを迎えての会合を契
機として,その具体化について検討することとし,同年6月11日,
福岡市博多区所在の南近代ビル会議室で開催した三水会において,
軽量シャッター及び重量シャッターの販売価格を引き上げるため,
同年7月10日受注分から,
軽量シャッターのうち板厚0.5ミリメートルのスチール製
シャッターに関する建設業者及び中間業者向けの取付工事費等を
含む販売価格の基準となる額を次表のとおりとすること
 前記aの額が1平方メートル当たりに換算した場合の最低価格
となるように,軽量シャッターの幅及び高さ別に展開した建設業
者及び中間業者向けの最低販売価格表(以下「ネット価格表」と
いう。)を作成して,これを使用すること
 軽量シャッターのうち板厚0.8ミリメートルのスチール製
シャッターに関する建設業者及び中間業者向けの取付工事費等を
含む最低販売価格を次表のとおりとすること
 前記b又はcの最低販売価格を下回る価格で販売した場合に
は,ペナルティとして,販売活動に際して競合した者から,当該
販売数量と同一数量の軽量シャッターを最低販売価格で購入する
こと
 重量シャッターの建設業者及び中間業者向けの販売価格を積算
価額の45%以上に引き上げること
 前記eの実効を確保するため,
(a)  建設業者等から引き合いを受けた重量シャッターのうち,地
区部会において定める一定の物件については,地区部会に提出
し合い,話合いにより,あらかじめ,受注すべき者(以下「受注
予定者」という。)を定めること,当該受注予定者の受注予定
価格を積算価額の45%以上となるように定めること及び受注予
定者が受注予定価格で受注できるようにするため,受注予定者
以外の者が提示する見積価格を当該受注予定価格よりも10%以
上高い価格とすること
(b)  受注予定者が地区部会に無断で積算価額の45%を下回る価格
で受注した湯合には,ペナルティとして,その後半年間,受注
予定者となる権利を失うこと
等を決定した。
(ウ)  次いで,6社のうち,東鋼シャッター株式会社を除く5社は,昭和
61年7月4日,前記南近代ビル会議室で開催した三水会において,
 前記(イ)a~dのスチール製軽量シャッター以外の建設業者及び
中間業者向けの軽量シャッター並びに施主向けの軽量シャッター
についても,その販売価格を引き上げるため,同月10日受注分
から,これらの最低販売価格を次表のとおりとすること
 中間業者向けの取付工事を伴わない軽量シャッターの1平方
メートル当たりの最低販売価格を同年9月1日受注分から,次表
のとおりとすること
 重量シャッターについて,各社同一内容の61年版と称する新た
な積算価格表を作成してこれを使用すること
等を決定した。
 また,前記会合に欠席した東鋼シャッター株式会社は,昭和61年
7月9日,文化シャッター株式会社から,上記決定内容の連絡を受
け,これに同意した。
(エ)  6社は,前記(イ)又は(ウ)の決定後,軽量シャッターのネット価格表
を作成してこれを使用し,また,重量シャッターについて,各社同
一内容の積算価格表を作成してこれを使用するとともに,地区部会
を開催し,建設業者等から引き合いを受けた重量シャッターのうち
地区部会にいて定めた一定の物件について,受注予定者,受注予定
価格等を決定して,軽量シャッター及び重量シャッターの販売価格
の引上げを図ってきた。
(オ)  6社は,前記決定等に基づき,九州地区における軽量シャッター
及び重量シャッターの販売価格を,おおむね,引き上げている。
(カ)  本件について,当委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を行っ
てきたところ,5社は,昭和63年10月8日,前記決定を破棄するこ
と並びに三水会及び各地区部会を廃止することを決定した。
法令の適用
 5社は,共同して,軽量シャッター及び重量シャッターの販売価格
を引き上げることにより,公共の利益に反して,九州地区における軽
量シャッター及び重量シャッターの販売分野における競争を実質的に
制限していたものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定す
る不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものである。
命じた主な措置
 5社は,次の事項を九州地区における軽量シャッター及び重量
シャッターの取引先及び需要者に周知徹底しなければならない。この
周知徹底の方法については,あらかじめ,当委員会の承認を受けなけ
ればならない。
(ア)  昭和61年6月11日及び同年7月4日に行った九州地区における軽
量シャッター及び重量シャッターの販売価格の引上げ並びにその実
効確保に関する決定を破棄したこと。
(イ)  今後,共同して,軽量シャッター及び重量シャッターの販売価格
を決定せず,各社がそれぞれ自主的に決める旨
三和シャッター工業株式会社ほか5名に対する件(平成元年(勧)第2
号)
事実の概要
(ア)  三和シャッター工業株式会社,文化シャッター株式会社,鈴木
シャッター工業株式会社,東洋シャッター株式会社,小俣シャッ
ター工業株式会社及び株式会社日本シャッター製作所の6社(以下
「6社」という。)は,千葉県の区域(以下「千葉地区」という。)におい
て,シャッター製造販売業を営む者であり,6社が千葉地区において
販売しているシャッターのうち,重量シャッターの販売量の合計は,
同地区における重量シャッターの総販売量の大部分を占めている。
 なお,シャッターは,その幅及び高さが取付箇所ごとに異なるた
め,ほとんどすべて受注生産されている。
 6社は,シャッターを直接又は建築材料等の販売業者(以下「中
間業者」という。)を通じて建設業者又は施主に販売している。
 重量シャッターのうち,大手建設業者等から発注される物件及び
官公庁が施主である物件(以下「大手建設業者等向け重量シャッ
ター」という。)の販売価格は,通常,各社同一内容の積算価格表を
使用して,製品価格,取付工事費等を積算して算出した額(以下
「積算価額」という。)に掛率を乗じて定められている。
 大手建設業者等は,大手建設業者等向け重量シャッターの取引に
際し,通常2以上の者に見積価格を提示させて,これを基に値引き
交渉をし,最も低い価格を提示したものに発注している。
 6社は,かねてから,相互の協調を図るため,各社の千葉地区に
おける営業担当責任者級の者による千葉会と称する会合を設けてい
た。
(イ)  6社は,かねてから,千葉地区におけるシャッターの販売価格の
低落に対処するため,その対策を協議してきたところ,昭和61年4
月中旬ごろ,千葉市所在の千葉県労働者福祉センター会議室で開催
した千葉会において,同年5月1日見積分から,
 大手建設業者等向け重量シャッターの販売価格を積算価額の
40%以上に維持し,引き上げること
 前記aの実効を確保するため,
(a)  大手建設業者等向け重量シャッターについては,千葉会に提
出し合い,話合いにより,あらかじめ,受注すべき者(以下「受
注予定者」という。)を定めること,当該受注予定者の受注予定
価格を積算価額の40%以上となるように定めること及び受注予
定者が受注予定価格で受注できるようにするため,受注予定者
以外の者が提示する見積価格は当該受注予定価格を上回る価格
とすること
(b)  受注予定者以外の者が,受注予定価格を下回る価格を提示し
た場合には,ペナルティとして,受注予定者に対し,当該物件
の受注予定価格の1.5倍の額に相当する物件の受注予定者とな
る権利を譲り渡すこと
等を決定した。
 その後,6社は,各社同一内容の積算価格表を使用するととも
に,千葉会を開催し,大手建設業者等向け重量シャッターについ
て,受注予定者,受注予定価格等を決定して同シャッターの販売価
格の維持,引上げを図ってきた。
(ウ)  6社は,前記決定等に基づき,千葉地区における大手建設業者等
向け重量シャブタ‐の販売価格を,おおむね,維持し,引き上げて
いる。
(エ)  本件について,当委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を行っ
てきたところ,6社は,昭和63年10月7日,前記決定を破棄するこ
と及び千葉会を廃止することを決定した。
法令の適用
 6社は,共同して大手建設業者等向け重量シャッターの販売価格を
維持し,引き上げることにより,公共の利益に反して,千葉地区にお
ける大手建設業者等向け重量シャッターの販売分野における競争を実
質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第2条第6項
に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反するも
のである。
命じた主な措置
 6社は,次の事項を千葉地区における重量シャッターの取引先のう
ち大手建設業者等及び需要者に周知徹底させなければならない。この
周知徹底の方法については,あらかじめ,当委員会の承認を受けなけ
ればならない。
(ア)  昭和61年4月中旬ごろに千葉地区における大手建設業者等向け重
量シャッターの販売価格の維持,引上げ及びその実効確保に関する
決定を破棄したこと。
(イ)  今後,共同して,重量シャッターの販売価格を決定せず,各社が
それぞれ自主的に決める旨
三和シャッター工業株式会社ほか7名に対する件(平成元年(勧)第3
号)
事実の概要
(ア)  三和シャッター工業株式会社,文化シャッター株式会社,東洋
シャッター株式会社,東工シャッター株式会社及び大和シャッター
株式会社の5社は,それぞれ,富山県の区域(以下「富山地区」と
いう。)においてシャッターの製造販売業を営む者であり,また,株
式会社日本シャッターエンジニアリング,文化シャッター高岡販売
株式会社及び北陸東洋シャッター株式会社の3社は,それぞれ,
シャッターの製造販売業者からシャッターの供給を受けて富山地区
において販売している者であり,その販売面において,製造販売業
者と並ぶ地位にある。
 前記8社(以下「8社」という。)は,シャッターを直接又は建築
材料等の販売業者(以下「中間業者」という。)を通じて建設業者又
は施主に販売しており,8社の富山地区におけるシャッターの販売
量の合計は,同地区におけるシャッターの総販売量の大部分を占め
ている。
 シャッターには,軽量シャッター,重量シャッター及びオーバー
ヘッドドアがあり,これらのうち,軽量シャッター及び重量シャッ
ターが大部分を占めている。
 なお,シャッターは,その幅及び高さが取付箇所ごとに異なるた
め,ほとんどすべて受注生産されている。
 シャッターの販売価格は,通常,各社同一内容の積算価格表を使
用して,製品価格,取付工事費等を積算して算出した額(以下「積
算価額」という。)に掛率を乗じて定められている。
 8社は,かねてから,相互の協調を図るため,各社の富山地区に
おける営業担当責任者級の者による木曜会と称する会合を設けてい
たところ,昭和63年3月3日,同会合の名称をスリークラブと変更
した。
(イ)  8社は,かねてから,富山地区におけるシャッターの販売価格の
低落に対処するため,その対策を協議してきたところ,昭和61年1
月28日,富山市今泉所在の富山市総合社会福祉センター会議室で開
催した木曜会において,軽量シャッター及び重量シャッターの販売
価格を維持し,引き上げるため,同年3月1日見積分から,
 軽量シャッター(重量シャッターと一括して発注されるものを
除く。以下同じ。)の建設業者及び中間業者向けの販売価格を積算
価額の50%以上に維持し,引き上げること
 重量シャッター(これと一括して発注される軽量シャッターを
含む。以下同じ。)の建設業者及び中間業者向けの販売価格を積算
価額の45%以上(大手建設業者向けのものにあっては,同価額の
40%以上)に維持し,引き上げること
 前記a及びbの積算価額の算出方法を統一すること
 前記bの実効を確保するため,
(a)  建設業者等から引き合いを受けた重量シャッターのうち,そ
の積算価額が150万円以上の物件については,木曜会に提出し
合い,話合いにより,あらかじめ,受注すべき者(以下「受注予
定者」という。)を定めること,当該受注予定者の受注予定価格
を積算価額の45%以上(大手建設業者向けのものにあっては,
同価額の40%以上)となるように定めること及び受注予定者以
外の者は受注予定者が受注予定価格で受注できるように協力す
ること
(b)  受注予定者が受注予定価格を下回る価格で受注することを防
止するために,受注予定者は,建設業者等から受け取った当該
物件の注文書を木曜会に提出することとし,受注予定者が注文
書を提出しない場合又は当該注文書記載の価格が受注予定価格
を下回る場合には,ペナルティとして,当該物件の積算価額に
相当する額の物件について,一回に限り,受注予定者となる権
利を失うこと
等を決定した。
 その後,8社は,各社同一内容の積算価格表を使用し,積算価額
の算出方法の統一を図るため,積算基準,積算方法等に関するマ
ニュアルを作成してこれを使用するとともに,重量シャッターにつ
いて,木曜会を開催し,建設業者等から引き合いを受けた重量シャッ
ターのうち,積算価額が150万円以上の物件について,受注予定者,
受注予定価格等を決定して,軽量シャッター及び重量シャッターの
販売価格の維持,引上げを図ってきた。
(ウ)  8社は, 前記決定等に基づき,富山地区における軽量シャッター
及び重量シャッターの販売価格を,おおむね,維持し,引き上げて
いる。
(エ)  本件について,当委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を行っ
てきたところ,8社は,昭和63年10月6日,前記決定を破棄するこ
と及びスリークラブを廃止することを決定した。
法令の適用
 8社は,共同して,軽量シャッター及び重量シャッターの販売価格
を維持し,引き上げることにより,公共の利益に反して,富山地区に
おける軽量シャッター及び重量シャッターの販売分野における競争を
実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第2条第6
項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3条の規定に違反する
ものである。
命じた主な措置
 6社は,次の事項を富山地区における軽量シャッター及び重量
シャッターの取引先及び需要者に周知徹底させなければならない。こ
の周知徹底の方法については,あらかじめ,当委員会の承認を受けな
ければならない。
(ア)  昭和61年1月28日に行った富山地区における軽量シャッター及び
重量シャッターの販売価格の維持,引上げ及びその実効確保に関す
る決定を破棄したこと。
(イ)  今後,共同して,軽量シャッター及び重量シャッターの販売価格
を決定せず,各社がそれぞれ自主的に決める旨
日立化成工業株式会社ほか7名に対する件(平成元年(勧)第4号)
事実の概要
(ア)  日立化成工業株式会社,松下電工株式会社,住友ベークライト株
式会社,利昌工業株式会社,鐘淵化学工業株式会社,新神戸電機株
式会社,三菱瓦斯化学株式会社(以下「7社」という。)及び東芝ケ
ミカル株式会社(以下「東芝ケミカル」という。)は,いずれも紙基
材フェノール樹脂銅張積層板又は紙基材ポリエステル樹脂銅張積層
板(以下「紙フェノール銅張積層板」という。)の製造販売業を営む
者であり,我が国において販売される紙フェノール銅張積層板のほ
とんどすべてを供給している。
 紙フェノール銅張積層板は,プリント配線板用銅張積層板のうち
では主として民生用機器のプリント配線板の基材として使用されて
おり,プリント配線板用銅張積層板の総販売数量の大部分を占めて
いる。
(イ)  7社及び東芝ケミカルは,昭和62年初めころからプリント配線板
用銅張積層板の販売価格の下落の防止,引上げ等について,7社及
び東芝ケミカルが所属する合成樹脂工業協会積層板部会(各社の役
員級の者で構成。以下「部会」という。),部会の下部機関である業
務委員会(各社の部課長級の者で構成)の場などにおいてしばしば
意見交換を重ねてきたところ,昭和62年6月10日,東京都千代田区
所在の学士会館会議室で開催した臨時部会の場において,それまで
の意見交換の結果を踏まえ,同年6月21日以降各社が逐次紙フェ
ノール銅張積層板の需要者渡し販売価格を現行販売価格より1平方
メートル当たり300円又は15%を目途に引き上げること及び同部会
の日以降本格的に販売価格引上げのための活動を行うことについて
相互に意思を疎通し,もって,共同して,紙フェノール銅張積層板
の需要者渡し販売価格を引き上げることを決定した。
(ウ)  しかして,7社及び東芝ケミカルは,昭和62年6月下旬から同年
8月下旬にかけて,それぞれ,需要者らに対し紙フェノール銅張積
層板の需要者渡し販売価格引上げを文書で通知し,また,共同し
て,主要な需要者に対し紙フェノール銅張積層板の販売価格引上げ
を要請する等して,紙フェノール銅張積層板の需要者渡し販売価格
を,おおむね,引き上げている。
法令の適用
 7社は,東芝ケミカルと共同して紙フェノール銅張積層板の需要者
渡し販売価格を引き上げることにより,公共の利益に反して,紙フェ
ノール銅張積層板の販売分野における競争を実質的に制限しているも
のであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引
制限に該当し,同法第3条の規定に違反するものである。
命じた主な措置
(ア)  7社は,昭和62年6月10日に行った紙フェノール銅張積層板の販
売価格の引上げに関する決定を破棄しなければならない。
(イ)  7社は,次の事項を紙フェノール銅張積層板の取引先販売業者及
び需要者に周知徹底させなければならない。この周知徹底の方法に
ついては,あらかじめ,当委員会の承認を受けなければならない。
 前記(ア)に基づいて採った措置
 今後,共同して紙フエノール銅張積層板の販売価格を決定せ
ず,各社がそれぞれ自主的に決める旨
(2) 独占禁止法第8条第1項第1号又は第4号違反事件
海上埋立土砂建設協会に対する件(平成元年(勧)第5号)
事実の概要
(ア)  海上埋立土砂建設協会(以下「海土協」という。)は,兵庫県の淡
路島において山砂の採取等を行い,大阪湾及びその周辺において埋
立工事業を営む者を会員とし,会員相互の親睦を図り,山砂海送工
事(埋立て等を行うため山砂を調達して海上輸送し目的の海域に投
入する工事)の円滑な推進に寄与すること等を目的として,昭和46
年ごろ設立された任意団体であり,会員数は,昭和62年9月末現在
8名である。
 海土協は,会則を設け,会長及び幹事を置き,会長及び幹事の会
合において同協会の運営に関する事項(会則の改正等総会に付議す
る事項を除く。)を審議決定している。
 なお,海土協は,昭和63年7月,会則を改め,会長職を廃止し,
同協会の代表者として新たに代表幹事を置くこととした。
 関西国際空港株式会社は,大阪湾泉州沖を埋め立て関西国際空港
空港島を建設するに当たり,まずその外周部分の約11キロメートル
にわたって護岸を築造する工事(以下「空港島護岸築造工事」とい
う。)を行うこととし,これをその1からその6までの6工区に分
け,昭和61年12月22日,工区ごとに指名競争入札を実施し,同月23
日,それぞれの工区につき1の建設工事共同企業体(以下「共同企
業体」という。)に発注した。
 空港島護岸築造工事は,山砂海送工事その他の工事によって進め
られるものであり,このうち山砂海送工事においては,6工区で合
計約1,900万立方メートルの山砂が埋立材として投入される必要が
あると見込まれていた。
 また,関西国際空港株式会社が公有水面埋立法(大正10年法律第
57号)の規定に基づき関西国際空港空港島の埋立工事に関し大阪府
知事から受けた免許によれば,同工事に用いられる山砂は淡路島ほ
か2か所から採取したものとされていた。しかしながら,空港島護
岸築造工事の着工時において,淡路島以外の2か所については山砂
を実際に出土する態勢は整っておらず,同工事用の山砂は,事実上
淡路島内において採取されるものに限られる状況であった。
 しかして,当時,淡路島において相応の山砂の供給能力を有し,
かつ,大阪湾及びその周辺において山砂海送工事をも営んでいた者
は海土協会員のみであり,したがって,共同企業体は,空港島護岸
築造工事に係る山砂海送工事について海土協会員に大きく依存せざ
るをえない状況であった。
(イ)  海士協は,共同企業体側が海土協に対し山砂海送工事の進行につ
いて協力を要請したことを契機として,共同企業体から受注する会
員の同工事の受注先別受注量について検討してきたところ,昭和62
年3月中旬,大阪市中央区所在の株式会社大林組の会議室において
会長及び幹事の会合を開催し,6名の会員の工区別山砂投入数量を
定め,これをもって会員の山砂海送工事の受注先別受注量とするこ
とを決定した。
 しかして,海土協は,前記分担を各共同企業体に連絡した。
 海土協は,工区ごとの山砂海送工事の工事単価の交渉が難航し,
空港島護岸築造工事が遅延することを懸念した共同企業体側が海土
協に対し上記交渉の促進等について要請したことを契機として,会
員の共同企業体から受注した山砂海送工事の受注単価について検討
してきたところ,昭和62年9月下旬,前記株式会社大林組の会議室
において会長及び幹事の会合を開催し,これを山砂1立方メートル
当たり1,130円とすることを決定した。
(ウ)  海土協会員は,前記各決定に基づき各共同企業体から空港島護岸
築造工事に係る山砂海送工事を受注し,これを施工した。
 なお,当該工事は,昭和63年10月4日,終了した。
法令の適用
 海土協は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当す
るところ,空港島護岸築造工事に係る会員の山砂海送工事の受注先別
受注量及び受注単価を決定し,これを会員に実施させることにより,
空港島護岸築造工事に係る山砂海送工事の取引分野における競争を実
質的に制限していたものであって,これは,同法第8条第1項第1号
の規定に違反する。
命じた主な措置
(ア)  海土協は,空港島護岸築造工事を行った建設工事共同企業体及び
その構成会社に対し,同協会が会員の受注する前記護岸築造工事に
係る山砂海送工事に関し,昭和62年3月中旬,受注先別受注量を決
定したこと及び同年9月下旬,受注単価を決定したこと並びにこれ
らの行為は独占禁止法の規定に違反するものであった旨を通知しな
ければならない。この通知の方法については,あらかじめ,当委員
会の承認を受けなければならない。
(イ)  同協会は,その組織又は運営について,独占禁止法の規定に違反
する行為を繰り返すことがないようにするための措置を速やかに講
じなければならない。この措置の内容については,あらかじめ,当
委員会の承認を受けなければならない。
社団法人北海道ビルメンテナンス協会に対する件(平成元年(勧)第6
号)
事実の概要
(ア)  社団法人北海道ビルメンテナンス協会(以下「道ビルメン協会」
という。)は,北海道の区域を地区とし,地区内において建築物の清
掃,設備管理,警備等の業務(以下「ビルメンテナンス業務」とい
う。)を営む者を会員とし,ビルメンテナンス業務に関する技術の向
上及び知識の普及を図ること等を目的として,昭和46年3月31日に
設立された者である。
 道ビルメン協会の会員数は,平成元年7月末日現在135名であり,
このうち,札幌市の区域(以下「札幌地区」という。)に事業所を有
する会員数は,84名である。
 しかして,札幌地区に事業所を有する会員は,同地区において,
国,北海道及び札幌市並びにこれらの官公庁が出捐している公社,事
業団,財団法人等(以下これらを総称して「官公庁等」という。)が入
札により発注するビルメンテナンス業務の大部分を受注している。
 道ビルメン協会は,総会及び理事会を置き,同協会の運営に関す
る事項を審議決定しているほか,業務適正化委員会を置き,ビルメ
ンテナンス業務に関する後記申合せ事項の遵守を推進している。
(イ)
 道ビルメン協会は,かねてから,官公庁等が入札により発注す
るビルメンテナンス業務について,会員の受注価格の安定を図る
ため,会員相互の協調関係の維持,促進に努めてきたところ,昭
和61年2月25日,札幌市中央区所在の京王プラザホテル札幌で開
催した総会において,官公庁等が入札により発注するビルメンテ
ナンス業務の受注価格を安定させる方策について検討した結果,
(a)  会員が既に入札の方法により受注している物件(以下「既存
契約物件」という。)については,次回の入札の際,他の会員
は,当該物件を受注しないこと
(b)  新規に入札の方法により発注される物件(以下「新規物件」
という。)については,会員は,官公庁等の予定価格と見込まれ
る価格(以下「見込予定価格」という。)の80%を下回る価格で
は受注しないよう相互に協力すること
(c)  業務適正化委員会は,前記(a)又は(b)に違反して受注したもの
であると判断した場合は,次回の入札の際,当該物件を前記(a)
の適用対象物件とは認めないこととすること
等を内容とする申合せ事項を決定した。
 道ビルメン協会の札幌地区に事務所を有する会員は,前記aの
決定に基づき,官公庁等が入札により発注する札幌地区のビルメ
ンテナンス業務に関し,
(a)  既存契約物件については,当該業務をこれまで契約していた
会員(以下「既存契約会員」という。)が入札の都度,あらかじ
め,他の入札参加会員に対し,当該既存契約会員の入札価格が
最低価格となるように協力を要請してきたときは,おおむねこ
の要請に協力して入札していた。
 その結果,当該入札対象業務のほとんどの物件については,
既存契約会員が継続して受注していた。
(b)  新規物件については,見込み予定価格の80%を下回る価格で
受注しないようにするため,あらかじめ,入札参加会員間で話
合いにより受注予定者を決定し,受注予定者の入札価格が最低
価格となるように入札価格を相互に調整して受注予定者が受注
できるようにしていた。
(c) 業務適正化委員会は,前記aの決定に基づき,前記の申合せ
事項のa(a)又は(b)に違反する行為があるとして会員から申立て
があった場合,その内容を調査し,その結果,同申合せ事項に
違反する行為が行われたと判断したときは,次回の入札の際,
当該物件を同申合せ事項のa(a)の適用対象物件とは認めない旨
等の裁定を行い,その旨を当該違反行為を行った会員に通知し
ていた。
(ウ)  本件について当委員会が独占禁止法の規定に基づき審査を開始し
たところ,道ビルメン協会は,平成元年8月9日,札幌市中央区所
在の京王プラザホテル札幌で開催した総会において,前記(イ)aの申
合せ事項を破棄することを決定し,この旨を会員に通知した。
法令の適用
 道ビルメン協会は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体
に該当するところ,官公庁等が入札により発注するビルメンテナンス
業務に関し,既存契約物件については,次回の入札の際,他の会員は
当該物件を受注しないこと及び新規物件については,見込み予定価格
の80%を下回る価格では受注しないよう相互に協力することを決定
し,これを札幌地区に事業所を有する会員に実施させることにより,
札幌地区における官公庁等が入札により発注するビルメンテナンス業
務の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,こ
れは,同法第8条第1項第1号の規定に違反するものである。
命じた主な措置
(ア)  道ビルメン協会は,次の事項を北海道の区域においてビルメンテ
ナンス業務を入札により発注する官公庁等に周知徹底させなければ
ならない。この周知徹底の方法については,あらかじめ,当委員会
の承認を受けなければならない。
 官公庁等が入札により発注するビルメンテナンス業務に関し
て,昭和61年2月25日に行った,会員が入札に参加するに際して
遵守すべきことを内容とする決定を破棄した旨
 官公庁等が入札により発注するビルメンテナンス業務に関し,
既存契約物件については,既存契約会員が継続して受注できるよ
う他の会員はこれに協力すること及び新規物件については,会員
は見込み予定価格の一定限度を下回る価格では受注しないよう相
互に協力することを内容とする決定を行わない旨
(イ)  今後,同協会は,官公庁等が入札により発注するビルメンテナン
ス業務に関して,昭和61年2月25日に行った,会員が入札に参加す
るに際して遵守すべきことを内容とする決定と同様の行為を行って
はならない。
社団法人三重県バス協会に対する件(平成元年(勧)第9号)
事実の概要
(ア)  社団法人三重県バス協会(以下「協会」という。)は,三重県の区
域を地区とし,地区内において一般乗合旅客自動車運送事業,一般
貸切旅客自動車(以下「貸切バス」という。)運送事業又は特定旅客
自動車運送事業(以下これらを「バス事業」という。)を営む者を会
員とし,バス事業の経営基盤の強化を図るとともに利用者に対する
サービスの改善を促進することによってバス事業の発展を図り,
もって公共の福祉の増進に寄与することを目的として,昭和51年8
月20日に設立された社団法人である。
 協会の会員数は,平成元年10月31日現在11名であり,このうち貸
切バス運送事業を営む者は10名であって,これらの者が保有する
貸切バスの車両数は,地区内における貸切バスのほとんどすべてを
占めている。
 協会は,総会,理事会を置くほか,会員のうち,貸切バス運送事
業を営む者(限定免許を受けている者1名を除く。)をもって,事業
者相互間の協調と統制を図ること等を目的とする貸切バス委員会を
置き,また,同委員会規約に定める運賃・料金の改正,増減車等需
給の調整,運賃・料金の適用方の統一等に関する同委員会の業務を
遂行するため貸切バス実務委員会(以下「実務委員会」という。)を
置いており,従来,貸切バス運送事業に関する事項は,貸切バス委
員会の決定を,事実上,協会の決定としてきたが,昭和61年7月以
降は実務委員会の決定をこれに代えている。
 貸切バス運送事業を営む者は,貸切バスの運賃及び料金(以下
「運賃等」 という。)の変更をしようとするとき又は貸切バスの増車
等に係る事業計画の変更をしようとするときは,道路運送法の規定
に基づき認可を受けなければならないこととされている。
 なお,貸切バスの運賃は,従来,認可された基準の運賃率によっ
て計算した金額の上下それぞれ10%の範囲内で貸切バス運送事業を
営む者が自由に設定できることとされていたが,昭和63年5月24日
の認可以降はこれが上下それぞれ15%の範囲内に拡大されている。
(イ)
 協会は,かねてから,貸切バスの運賃等の低落に対処するため,
安値による受注競争の防止策を検討してきたところ,昭和63年11
月25日,津市所在の三重交通株式会社(以下「三重交通」という。)
会議室で開催した実務委員会において,貸切バスの大口向け,イ
ベント向け,高校野球の甲子園向け及びスキー向け各輸送(以下
「大口輸送等」という。)については今後最低運賃等を定め,これ
を実施していくことを決定した。
 次いで,協会は,前記決定に基づき,平成元年2月1日,前記
三重交通会議室で開催した実務委員会において,大口輸送等のう
ち,高校野球の甲子園向け輸送(以下「甲子園向け輸送」とい
う。)及び平成元年7月15日から同年11月26日までの間,名古屋市
で開催される世界デザイン博覧会向け輸送の貸切バス大型車一両
当たりの日帰り最低運賃等について検討した結果,
(a)  甲子園向け輸送の大型車一両当たりの日帰り最低運賃等を出
発地別に次のとおりとすること
(b)  世界デザイン博覧会向け輸送の大型車一両当たりの日帰り最
低運賃等を出発地等別に次のとおりとすること
(c)  前記(a)及び(b)の決定内容を文書により三重県内の旅行業者に
周知すること
を決定した。
 しかして,協会は,前記決定に基づき,甲子園向け輸送及び世
界デザイン博覧会向け輸送について,前記最低運賃等を記載した
協会及び同会員連名の平成元年2月1日付け文書を作成し,これ
を同年2月ごろ三重県内の旅行業者に配布した。
 また,協会の会員は,前記決定に基づき,甲子園向け輸送及び
世界デザイン博覧会向け輸送の運賃等を旅行業者らと交渉し,収
受していた。
 本件について当委員会が審査を開始したところ,協会は,平成
元年10月17日,前記三重交通会議室で開催した実務委員会におい
て,前記a並びにb(a)及び(b)の決定を破棄する旨の決定を行い,
これを同年11月2日付け文書により会員に通知した。
(ウ)  協会は,かねてから,会員の貸切バスの増車に係る事業計画変更
の認可申請(以下「増車認可申請」という。)を制限してきたところ,平
成元年3月27日,前記三重交通会議室で開催した実務委員会におい
て,平成元年度以降の会員の貸切バスの増車認可申請の申請車両数
等についておおむね合意に達したが,最終的には,自社の態度を改め
て協会に連絡するとした1社の報告を待って決定することとした。
 しかして,協会は,平成元年3月29日,前記1社が次の内容につ
いて同意したことから,同日,「三重県における貸切バスの増車の
とりきめ」(以下「増車のとりきめ」という。)を決定した。
 さらに,協会は,平成元年4月4日,前記三重交通会議室で開催
した実務委員会において増車のとりきめを確認する一方,会員から
これについての同意・確認書を協会に提出させることとした。
 協会の会員は,増車のとりきめについて,同意・確認書を協会に
提出し,これに基づき,貸切バスの増車認可申請を行っていた。
(エ)  本件について当委員会が審査を開始したところ,協会は,平成元
年7月13日,前記三重交通会議室で開催した実務委員会において,
前記(イ)aの決定を破棄する旨の決定を行い,これを同年7月14日付
けの文書により会員に通知した。
法令の適用
 協会は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当する
ところ,会員の大口輸送等の貸切バスの運賃等を決定することによ
り,三重県における大口輸送等の貸切バスの取引分野における競争を
実質的に制限していたものであって,これは,同法第8条第1項第1
号の規定に違反するものであり,また,会員の貸切バスの増車認可申
請を制限することにより,構成事業者の機能又は活動を不当に制限し
ていたものであって,これは,同法第8条第1項第4号の規定に違反
するものである。
命じた主な措置
(ア)  協会は,次の事項を三重県内の一般消費者及び旅行業者に周知徹
底させなければならない。この周知徹底の方法については,あらか
じめ,当委員会の承認を受けなければならない。
 昭和63年11月25日に行った大口向け,イベント向け,高校野球
の甲子園向け及びスキー向け各輸送の一般貸切旅客自動車の運賃
及び料金に関する決定を破棄した旨
 平成元年2月1日に行った高校野球の甲子園向け輸送及び世界
デザイン博覧会向け輸送の一般貸切旅客自動車の運賃及び料金に
関する決定を破棄した旨
 今後,会員の一般貸切旅客自動車の運賃及び料金を決定せず,
会員がそれぞれ自主的に決める旨
(イ)  同協会は,今後,会員の一般貸切旅客自動車の運賃及び料金を制
限する行為並びに一般貸切旅客自動車運送事業に係る事業計画変更
の認可申請を制限する行為を行ってはならない。
(3) 独占禁止法第19条違反事件
神奈川生コンクリート協同組合に対する件(平成元年(勧)第7号)
事実の概要
(ア)  神奈川生コンクリート協同組合(以下「神奈川協組」という。)は,
神奈川県及び東京都において生コンクリート(以下「生コン」とい
う。)の製造業を営む者を組合員として,昭和45年7月16日,中小企
業等協同組合法に基づき,組合員の製造する生コン共同販売事業を
行うこと等を目的として設立された事業協同組合であって,昭和52
年7月1日から横浜市並びに川崎市のうち川崎区及び幸区の区域
(以下「共同販売事業区域」という。)において組合員の製造する生
コンの共同販売事業を行っている。
 なお,神奈川協組の組合員は,平成元年10月末日現在42名であ
る。
 神奈川協組は,組合員から生コンを買い受けてこれを生コンの販
売業者に販売しており,その販売数量は,共同販売事業区域におけ
る生コンの総販売数量のほとんどすべてを占めている。
 組合員は,販売業者からの生コンの引き合いについて,神奈川協
組からあらかじめ割り当てられた出荷比率に従い配分を受け,生コ
ンを出荷している。
 神奈川協組は,生コンの販売業者との間に「代行販売店取引基本
契約」(以下「代行販売店契約」という。)又は「特約販売店取引基
本契約」(以下「特約販売店契約」という。)を締結し,これらの販
売業者を「代行販売店」又は「特約販売店」(以下これらを「販売
店」という。)と称し,販売店に同協組が行っている生コンの共同販
売事業に係る生コンの販売を行わせている。
 なお,神奈川協組の販売する生コンを取り扱っている販売店は,
平成元年10月末日現在80名であって,これは,共同販売事業区域に
所在する生コンの販売業者の大部分を占めている。
(イ)  神奈川協組は,前記代行販売店契約及び特約販売店契約におい
て,販売店が神奈川協組の供給する生コン以外の生コンを取り扱う
場合は,あらかじめ神奈川協組に対して報告しなければならない旨
(代行販売店契約及び特約販売店契約の各第4条)を規定している。
 なお,神奈川協組は,販売店がこの規定に違反して同報告を怠っ
た場合は当該契約を解除することとしている。
 神奈川協組は,かねてから,共同販売業者によって生コンの市況
の立て直し及び組合員の生コンの出荷数量の増大に努めてきたが,
同協組の組合員でない生コン製造業者(以下「員外者」という。)の存
在によりその目的が十分達成できなかった。このため,神奈川協組
は,昭和61年ごろから,代行販売店契約及び特約販売店契約の前記
記載の各条項に基づき,販売店から員外者の生コンを取り扱いたい
旨の報告がなされた場合でも,組合員により出荷が可能なときは,
神奈川協組と取引するよう慫慂すること等により員外者との取引を
認めず,また,同報告をせずに員外者の生コンを取り扱った販売店
に対しては取引を一定期間停止する等の措置を採ることにより,販
売店に対し,同協組から生コンの全量を購入させ,員外者の生コン
を取り扱わせないようにしている。
(ウ)  神奈川協組は,共同販売事業区域では,生コンの需要者である建
設工事業者が員外者の生コンのみを使用して工事を行うことは困難
な状況にあるところ,組合員の生コンの出荷数量の増大を図るた
め,昭和61年ごろから,員外者の生コンを使用している需要者に対
し組合員の生コンを使用するよう要請し,この要請に応じない者に
対しては,今後,組合員の生コンは供給しない旨を申し入れるなど
して,員外者と生コンの需要者との生コンの取引をさせないように
している。
 神奈川協組のこのような行為により,一部の生コンの需要者は,
既に員外者の生コンを使用して施工していた工事について,途中か
ら組合員の生コンに切り替えることを余儀なくされている。
(エ)  神奈川協組は,員外者の生コンの出荷数量を抑制させる方策とし
て,昭和62年7月16日に開催した理事会において,組合員及び主要
な員外者を生コンの原材料であるセメントの仕入先製造業者ごとに
区分し,員外者の生コンの出荷については,その数量を当該員外者
と同一の区分に属する組合員の出荷数量とみなすことを含む「系列
別責任体制」と称する措置を決定し,同年8月3日付けの文書を
もってセメントの製造業者9社に対しこの旨を通知した。
 しかして,神奈川協組は,昭和63年7月21日の理事会において,
員外者である株式会社和田砂利商会(以下「和田砂利」という。)に関
し,同社が出荷した生コンのうち一定の比率で算出された数量を超
える出荷数量(以下「超過数量」という。)については,同社にセメ
ントを供給している徳山曹達株式会社が全額出資しており,かつ,
組合員である川崎徳山生コンクリート株式会社の出荷数量とみなす
ことを決定した。これに基づき,神奈川協組は,川崎徳山生コンク
リート株式会社に対し,昭和63年6月分から超過数量に一定金額を
乗じた額を特別赤黒調整金と称して請求し,支払わせている。これ
は,徳山曹達株式会社に和田砂利へのセメントの供給数量を削減さ
せることにより,和田砂利の生コンの出荷数量を抑制させることを
目的としたものであり,員外者である和田砂利と徳山曹達株式会社
との取引を妨害しているものである。
法令の適用
 神奈川協組は,前記事実(ア)及び(イ)によれば,販売店に対し,不当
に,販売店が自己の競争業者である員外者と生コンの取引をしないこ
とを条件として取引を行っているものであり,これは,不公正な取引
方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第11項に該当し,また,
前記事実(ア)及び(ウ)によれば,員外者と生コンの需要者との生コンの取
引を不当に妨害しているものであり,さらに,前記事実(ア)及び(エ)によ
れば,員外者とセメントの製造業者とのセメントの取引を不当に妨害
しているものであって,これらは,いずれも前記不公正な取引方法の
第15項に該当し,それぞれ,独占禁止法第19条の規定に違反するもの
である。
命じた主な措置
(ア)  神奈川協組は,生コンの販売業者との間で締結している「代行販
売店取引基本契約書」及び「特約販売店取引基本契約書」中各第4
条を削除するとともに,今後,生コンの販売業者との取引に当たっ
て,当該販売業者に対し,その取り扱う生コンはすべて自己から購
入しなければならない旨の条件を課してはならない。
(イ)  神奈川協組は,生コンの需要者に対し,同協同組合の組合員でな
い生コンの製造業者との取引をさせないようにしている行為を取り
やめるとともに,今後,同様の行為を行ってはならない。
(ウ)  神奈川協組は,昭和62年7月16日に行った「系列別責任体制」に
関する決定を破棄し,同決定に基づいて川崎徳山生コンクリ ート株
式会社に対して行った行為を撤回するとともに,今後,同様の行為
を行ってはならない。
(エ)  神奈川協組は,第1項及び第2項に基づいて採った措置を組合員
並びに共同販売事業区域に所在する生コンの製造業者,販売業者及
び需要者に周知徹底させなければならない。この周知徹底の方法に
ついては,あらかじめ,当委員会の承認を受けなければならない。
(オ)  神奈川協組は,第3項に基づいて採った措置を組合員及び「系列
別責任体制」について通知したセメントの製造業者に通知しなけれ
ばならない。この通知の方法については,あらかじめ,当委員会の
承認を受けなければならない。
湘南生コンクリート協同組合に対する件(平成元年(勧)第8号)
事実の概要
(ア)  湘南生コンクリート協同組合(以下「湘南協組」という。)は,
神奈川県及び東京都において生コンクリート(以下「生コン」とい
う。)の製造業を営む者を組合員として,昭和44年11月21日,中小企
業等協同組合法に基づき,組合員の製造する生コンの共同販売事業
を行うこと等を目的として設立された事業協同組合であって,昭和
52年9月1日から神奈川県のうち平塚市,鎌倉市,藤沢市,茅ヶ崎
市,逗子市,相模原市,秦野市,厚木市,大和市,伊勢原市,海老
名市,座間市,綾瀬市,高座郡,中郡,愛甲郡及び津久井郡並びに
東京都のうち町田市の区域(以下「共同販売事業区域」という。)に
おいて組合員の製造する生コンの共同販売事業を行っている。
 なお,湘南協組の組合員は,平成元年10月末日現在24名である。
 湘南協組は,組合員から生コンを買い受けてこれを生コンの販売
業者に販売しており,その販売数量は,共同販売事業区域における
生コンの総販売数量の大部分を占めている。
 湘南協組は,生コンの販売業者との間に「代行販売店取引基本契
約」(以下「代行販売店契約」という。)又は「特約販売店取引基本契
約」(以下「特約販売店契約」という。)を締結し,これらの販売業
者を「代行販売店」又は「特約販売店」(以下これらを「販売店」
という。)と称し,販売店に同協組が行っている生コンの共同販売
事業に係る生コンの販売を行わせている。
 なお,湘南協組の販売する生コンを取り扱っている販売店は,平
成元年10月末日現在72名であって,これは,共同販売事業区域に所
在する生コンの販売業者の大部分を占めている。
(イ)  湘南協組は,前記代行販売店契約及び特約販売店契約において,
販売店が湘南協組の供給する生コン以外の生コンを取り扱う湯合
は,あらかじめ湘南協組に対して届け出なければならない旨(代行
販売店契約及び特約販売店契約の各第6条)を規定している。
 なお,湘南協組は,販売店がこの規定に違反して同届出を怠った
場合は当該契約を解除することとしている。
 湘南協組は,かねてから,共同販売事業によって生コンの市況の
立て直し及び組合員の生コンの出荷数量の増大に努めてきたが,同
協組の組合員でない生コンの製造業者(以下「員外者」という。)の
存在によりその目的が十分達成されなかった。このため,湘南協組
は,昭和61年ごろから,代行販売店契約及び特約販売店契約の前記
記載の各条項に基づき,販売店から員外者の生コンを取り扱いたい
旨の届出がなされた場合でも,組合員により出荷が可能であるとき
は,湘南協組と取引するよう慫慂すること等により員外者との取引
を認めず,また,同届出をせずに員外者の生コンを取り扱った販売
店に対しては今後このようなことを行わないよう警告する等の措置
を採ることにより,販売店に対し,同協組から生コンの全量を購入
させ,員外者の生コンを取り扱わせないようにしている。
(ウ)  湘南協組は,共同販売事業区域内では,生コンの需要者である建
設工事業者が員外者の生コンのみを使用して工事を行うことは困難
な状況であるところ,組合員の生コンの出荷数量の増大を図るた
め,昭和61年ごろから員外者の生コンを使用している需要者に対し
組合員の生コンを使用するよう要請し,この要請に応じない者に対
しては,今後,組合員の生コンは供給しない旨を申し入れるなどし
て,員外者と生コンの需要者との生コンの取引をさせないようにし
ている。
法令の適用
 湘南協組は,前記事実(ア)及び(イ)によれば,販売店に対し,不当に,
販売店が自己の競争業者である員外者と生コンの取引をしないことを
条件として取引を行っているものであり,これは,不公正な取引方法
(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第11項に該当し,また,前
記事実(ア)及び(ウ)によれば,員外者と生コンの需要者との生コンの取引
を不当に妨害しているものであり,これは,前記不公正な取引方法の
第15項に該当し,それぞれ,独占禁止法第19条の規定に違反するもの
である。
命じた主な措置
(ア)  湘南協組は,生コンの販売業者との間で締結している「代行販売
店取引基本契約書」及び「特約販売店取引基本契約書」中各第6条
を削除するとともに,今後,生コンの販売業者との取引に当たっ
て,当該販売業者に対し,その取り扱う生コンはすべて自己から購
入しなければならない旨の条件を課してはならない。
(イ)  湘南協組は,生コンの需要者に対し,同協同組合の組合員でない
生コンの製造業者との取引をさせないようにしている行為を取りや
めるとともに,今後,同様の行為を行ってはならない。
(ウ)  湘南協組は,(ア)及び(イ)に基づいて採った措置を組合員並びに共同
販売事業区域に所在する生コンの製造業者,販売業者及び需要者に
周知徹底させなければならない。この周知徹底の方法については,
あらかじめ,当委員会の承認を受けなければならない。
全国農業協同組合連合会に対する件(平成2年(勧)第1号)
事実の概要
(ア)  全国農業協同組合連合会(以下「全農」という。)は,昭和47年
3月30日,農業協同組合法(昭和22年法律第132号)に基づき設立
された農業協同組合連合会であり,会員に対する青果物用段ボール
箱の供給その他の経済事業を行っている者である。
 全農は,農業協同組合(以下「単協」という。),単協が構成員と
なっておおむね都道府県を地区として設立されている都道府県経済
農業協同組合連合会(以下「経済連」という。)その他の農業団体
を会員としており,会員の数は,平成元年6月末日現在,いわゆる
総合農協のうちのほとんどすべての単協及びすべての経済連を含む
3,654名である。
 全農は,全国に東京支所等5支所を置いており,そのうち東京支
所の事業区域は東北6県,関東1都6県,新潟県,山梨県及び長野
県(以下「東日本」という。)である。
 我が国における青果物用段ボール箱の主要な供給経路は,段ボー
ル箱製造業者から全農及び経済連を経て単協,出荷組合等の需要者
(以下「需要者」という。)に供給される経路(以下「系統ルート」
という。)と段ボール箱製造業者から直接に又は農業用資材販売業
者等を経て需要者に供給される経路(以下「系統外ルート」とい
う。)である。
 青果物用段ボール箱の供給数量全体に占める系統ルートによる供
給数量の割合は,昭和62年7月から昭和63年6月までの1年間にお
いて,東日本で約6割,全国で約1割である。
 青果物用段ボール箱の製造業者は,1回当たりの取引数量が大き
く,かつ,安定的需要が見込めること,代金回収が確実であること
等から,全農との取引を強く望んでいる状況にある。
 全農は,段ボールシート及び段ボール箱を製造している者のうち
主要なものとの間に「売買基本契約」を締結し,これらの者(以下
「指定メーカー」という。)から青果物用段ボール箱の購入に際し,
原則として,その製造に要する段ボール原紙製造業者から購入して
指定メーカーに供給することとしている。
 全農は,青果物用段ボール箱を系統ルートにより供給するに当た
り,指定メーカー別にそれぞれが製造した青果物用段ボール箱を納
入する地域を指定することとしており,この地域をおおむね経済連
の事業区域ごとに定め,これを「指定県」と称している。
 指定メーカーのうち東日本にその指定県を有する者は,平成元年
6月末日現在24社である。
(イ)  全農は,かねてから,系統ルートによる青果物用段ボール箱の供
給数量の維持拡大に努めているところ,その一層の推進を図るた
め,東日本において,指定メーカーが青果物用段ボール箱を系統外
ルートにより販売しないようにさせる措置及び指定メーカー以外の
ものが青果物用段ボール箱の製造販売を開始することを妨げる措置
を講じ,また,需要者が青果物用段ボール箱の購入を系統ルートか
ら系統外ルートに変更することを防止する対策を行うために要する
金員を指定メーカーに提供させる措置を講じている。
 これらに関する事例は,次のとおりである。
(a)  全農は,指定メーカーであって神奈川県等を指定県とする株
式会社トーモク(以下「トーモク」という。)が,昭和57年ご
ろ,指定県でない長野県において青果物用段ボール箱を系統外
ルートにより系統ルートによる需要者向け価格より低い価格
(以下「低価格」という。)で約20の単協に販売していたところ,
同年11月19日,同社に対し,上記低価格販売を直ちに取りやめ
るよう申し入れるとともに,同社の指定県から神奈川県を即日
除外し,また,更に上記低価格販売を続行するときは,他の指
定県についても順次これを除外し,最終的には取引を停止する
旨を申し渡した。
 このため,トーモクは,昭和57年11月下旬,全農に対し,長
野県下における青果物用段ボール箱の販売先別販売数量を報告
するとともに,以後は,同県の需要者に対し受注活動を行わな
い旨及び需要者から引き合いがあった場合にはその数量,価格
等を全農に連絡する旨を申し出た。
 その後,トーモクは,前記単協向けの青果物用段ボール箱の
販売を取りやめている。
(b)  全農は,指定メーカーである日本ハイパック株式会社(以下
「日本ハイパック」という。)が,指定県でない山形県において
出荷組合からの引き合いに応じ昭和60年産ブドウ用段ボール箱
を系統外ルートにより低価格で販売することとしていたとこ
ろ,昭和60年4月上旬,同社に対し,今後需要者に対し受注活
動を行わないよう申し入れた。
 次いで,全農は,上記の出荷組合が昭和61年産ブドウ用段
ボール箱についても日本ハイパックに発注しようとする動きを
示したので,昭和61年2月中旬,同社に対し,需要者から引き
合いがあっても系統外ルートにより販売しないようにする旨を
確約するよう申し入れた。
 これを受けて,日本ハイパックは,同月下旬,全農に対し,
以後は,全農の指示を遵守し,需要者に対し受注活動をしない
旨を申し出た。
 その後,日本ハイパックは, 山形県において青果物用段ボー
ル箱を需要者に販売していない。
(c)  全農は,指定メーカーでなかった鎌田段ボール工業株式会社
(以下「鎌田段ボール工業」という。)がかねてから岩手県等に
おいて青果物用段ボール箱を系統外ルートにより低価格で需要
者に販売していたところ,昭和58年夏ごろ岩手県経済連とその
対策について検討した結果,鎌田段ボール工業が低価格販売等
を行わなければ指定メーカーとすることとし,同社にこの旨を
伝えた。しかして,鎌田段ボール工業がこれを了承したので,
全農は,昭和58年秋ごろから一年間同社の販売状況を監視した
後,昭和60年3月中旬,同社に対し,
 岩手県内において,今後,需要者に直接販売しないように
する旨
 岩手県外において需要者に直接販売しているものについて
は,協議の上,今後,系統ルートによる供給に切り替える旨
を申し入れ,その遵守を確約させた上,同社を岩手県を指定県
とする指定メーカーとし,取引を開始した。
 その後,鎌田段ボール工業は,青果物用段ボール箱を供給す
るに際し,右確約事項を遵守している。
(a)  全農は,段ボール原紙の購入先であるセッツ株式会社が埼玉
県熊谷市に段ボール箱製造工場を建設し,昭和60年6月ごろか
ら,青果物用段ボール箱の需要者に対して受注活動を行って
いたところ,同社がこの分野に新たに参入すると系統外ルート
による低価格販売が拡大することが懸念されたため,同年7月
中旬,同社に対し,右受注活動を取りやめるよう申し入れた。
 これを受けて,セッツ株式会社は,全農との段ボール原紙の
取引に悪影響が出ることを懸念して,右受注活動を取りやめ
た。
(b)  全農は,株式会社トキワパッケージ(以下「トキワパッケー
ジ」という。)が埼玉県児玉郡児玉町に段ボール箱製造工場を
建設し,昭和61年9月ごろから青果物用段ボール箱の製造販売
を開始したところ,これを取りやめさせるため,次の措置を講
じた。
 全農は,昭和62年1月中旬,東日本段ボール株式会社等埼
玉県を指定県とする指定メーカーとの会合において,これら
指定メーカーに対し,トキワパッケージに青果物用段ボール
箱向け段ボールシート(以下「青果物用シート」という。)を
供給しないよう要請した。
 このため,これら指定メーカーのうちトキワパッケージに
青果物用シートを供給していた東日本段ボール株式会社は,
全農から青果物用段ボール箱の取引を停止されることを懸念
し,昭和62年2月初旬,トキワパッケージに対する青果物用
シートの供給を停止した。
 また,全農は,東日本段ボール株式会社が前記の青果物
用シートの供給を停止した後,指定メーカーである日本マタ
イ株式会社がトキワパッケージからの求めに応じ青果物用
シートを供給しようとしていたところ,同社に対し,昭和62
年3月ごろ,トキワパッケージに青果物用シートを供給しな
いよう要請した。
 このため,日本マタイ株式会社は,全農との青果物用段
ボール箱の取引に悪影響が出ることを懸念し,トキワパッ
ケージに対し青果物用シートを供給しないこととした。
 トキワパッケージは,上記及びにより青果物用シート
の入手が困難となったため,昭和62年 6月ごろ,段ボール
シートの製造設備を導入して自社の青果物用シートを製造
し,青果物用段ボール箱の製造販売を行うこととした。
 そこで,全農は,トキワパッケージに青果物用段ボール箱
の製造販売を取りやめさせるための方策として,同社の実質
的な親会社である常盤産業株式会社(以下「常盤産業」とい
う。)に対し経済上の不利益を与えることとし,昭和62年夏か
ら秋にかけて,常盤産業から段ボール中芯原紙を購入してお
り,かつ,指定メーカーであるレンゴー株式会社(以下「レ
ンゴー」という。),本州製紙株式会社(以下「本州製紙」と
いう。),トーモク及び森紙業株式会社(以下「森紙業」とい
う。)の4社に対し,これらとの会合等において,常盤産業か
ら段ボール中芯原紙を購入しないよう繰り返し要請した。
 これを受けて,上記4社のうち森紙業を除く3社は,全農
からの要請が再三であったことにかんがみ,全農との青果物
用ボール箱の取引に悪影響が出ることを懸念して,同年11月
以降,順次,常盤産業からの段ボール中芯原紙の購入数量を
削減していった。
 しかして,トキワパッケージは,昭和63年10月1日,段
ボール簿の製造販売を中止するに至った。
 全農は,かねてから,東日本において,需要者が青果物用段
ボール箱の購入を系統ルートから系統外ルートに変更することを
防止するため,同一の規格の青果物用段ボール箱について系統外
ルートによる低価格での売り込みがあったときは,その売り込み
を受けた地区の単協の申出に応じ,当該単協に対し,系統ルート
による需要者向け価格と当該低価格との差に同一の収穫期用とし
て系統ルートにより購入した当該規格の青果物用段ボール箱の全
数量を乗じて得た額の金員を補填することとしている。
 全農は,前記の補填に要する費用について,必要に応じ,その
全部又は一部を「市況対策費」と称して当該単協が系統ルートに
より購入した青果物用段ボール箱を製造した指定メーカーに提供
させることとし,当該指定メーカーにその提供を要請している。
 この要請は,他の段ボール箱製造業者等が行った売り込みに係る
ものについてまで行われている。
 しかして,上記要請を受けた指定メーカーは,全農との青果物
用段ボール箱の取引の継続を必要とする立場上,「市況対策費」
の負担を余儀なくされており,また,指定メーカーは,この負担
を回避するため,自ら青果物用段ボール箱を系統外ルートで需要
者に低価格で販売しないようにしているほか,他の段ボール箱製
造業者に対しても同様の行為をしないよう要請している。
 全農は,かねてから,段ボール箱製造業者等による青果物用段
ボール箱の低価格での売り込みが頻繁に行われ,同段ボール箱の
系統ルートによる供給割合が東日本の中で相対的に低かった茨城
県,栃木県,群馬県,埼玉県及び千葉県(以下これらを「関東5
県」という。)において,この供給割合を引き上げるため,その
方策について関東5県の各経済連と協議,検討してきた。
 その結果,全農は,昭和56年9月ごろ, 関東5県における有力
な段ボール箱製造業者であり,これら5県のすべてを指定県とし
ていたレンゴー並びに一部の県を指定県としていた本州ダンボー
ル工業株式会社,福岡製紙株式会社,トーモク及び森紙業の5社
(以下「5社」という。)が指定メーカーであるにもかかわらず,
青果物用段ボール箱を系統外ルートにより低価格で販売していた
ので,これらの系統外ルートによる販売を系統ルートによる供給
に切り替えさせること,指定メーカー以外のものが行う系統外
ルートによる低価格での販売を防止させること,本州ダンボール
工業株式会社,トーモク及び森紙業の3社についてはレンゴーと
同様に同地区のすべての県を順次指定県として追加していくこと
等を内容とする「関東5県対策」と称する措置を講じることとし
た。次いで,全農は,昭和56年10月下旬,「関東5県対策」を実
施するため,5社の青果物用段ボール箱の営業担当責任者を東京
支所に招致し,5社に対し,
 直接需要者に又は農業用資材販売業者等に青果物用段ボール
箱を販売しないようにする旨及び系統外ルートにより販売する
他の段ボール箱製造業者に青果物用シートを販売しないように
する旨
 系統外ルートにより販売している青果物用段ボール箱につい
ては,全農及び関係経済連と協議の上,段階的に系統ルートに
よる供給に切り替える旨
 やむを得ず系統外ルートにより青果物用段ボール箱を販売せ
ざるを得ない場合には,事前に全農及び関係経済連と協議する
旨及び原則として系統ルートによる需要者向け価格以上の価格
で販売するようにする旨
 5社が前記又はに反した場合は,ペナルティとし
て,指定県の一部除外,取引の停止又は「市況対策費」等を負
担させる措置を採る旨
を確認させた。
 なお,5社のうち福岡製紙株式会社は昭和58年6月28日に,本
州ダンボール工業株式会社は昭和61年6月30日に,それぞれ本州
製紙に吸収合併された。
 右確認に基づき,5社及び本州製紙は,多数の取引先に対し,
青果物用段ボール箱又は青果物用シートの販売を中止し又はその
販売数量を削減するとともに,青果物用段ボール箱を系統外ルー
トにより販売するときは全農と協議している。
法令の適用
(ア)  前記事実の(ア),(イ)a及びdによれば,全農は,指定メーカーと青果
物用段ボール箱を取引するに当たり,指定メーカーの事業活動を不
当に拘束する条件をつけて当該指定メーカーと取引しているもので
あり,また,前記事実の(ア)及び(イ)b(a)よれば,全農は,段ボール
原紙製造業者から段ボール原紙を購入するに当たり,段ボール原紙
製造業者の事業活動を不当に拘束する条件を付けて当該段ボール原
紙製造業者と取引しているものであり,これらは,いずれも不公正
な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第13項に該当
し,
(イ)  前記事実の(ア)及び(イ)b(b)によれば,全農は,不当に,指定メー
カーに,段ボール原紙製造業者に対する青果物用シートの供給を拒
絶させ,又は段ボール原紙製造業者からの段ボール中芯原紙の購入
数量を制限させているものであり,これらは,前記不公正な取引方
法の第2項に該当し,
(ウ)  前記事実の(ア)及び(イ)cによれば,全農は,自己の取引上の地位が
優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に,指
定メーカーに対し,自己のために金銭を提供させているものであ
り,これは,前記不公正な取引方法の第14項第2号に該当し,
それぞれ独占禁止法第19条の規定に違反するものである。
命じた主な措置
(ア)  全農は,次の事項を撤回し,これらと同様に東日本において取引
先段ボール箱製造業者に対し行っている青果物用段ボール箱を系統
外ルートにより需要者に販売しないようにさせる措置を取りやめる
とともに,今後,これと同様の行為を行ってはならない。
 トーモクに対し昭和57年11月19日に,日本ハイパックに対し昭
和60年4月上旬及び昭和61年2月中旬に,並びに鎌田段ボール工
業に対し昭和60年3月中旬に行った青果物用段ボール箱を系統外
ルートにより需要者に販売しないようにする旨の申入れ
 昭和56年10月下旬,「関東5県対策」の実施に際し,レンゴー,
本州ダンボール工業株式会社,福岡製紙株式会社,トーモク及び
森紙業に対し,青果物用段ボール箱を系統外ルートにより需要者
に販売しないようにするために確認させた事項
(イ)  全農は,次の事項を撤回するとともに,今後,取引先段ボール箱
製造業者以外のものが青果物用段ボール箱の製造販売を開始するこ
とを妨げる行為を行ってはならない。
 セッツ株式会社に対し昭和60年7月中旬に行った青果物用段
ボール箱の需要者に対する受注活動を取りやめるようにする旨の
申入れ
 東日本段ボール株式会社に対し昭和62年1月中旬及び日本マタ
イ株式会社に対し昭和62年3月ごろ行ったトキワパッケージに青
果物用段ボール箱向け段ボールシートの供給をしないようにする
旨の要請
 レンゴー,本州製紙,トーモク及び森紙業に対し昭和62年夏か
ら秋にかけて行った常盤産業から段ボール中芯原紙を購入しない
ようにする旨の要請
(ウ)  全農は,東日本において取引先段ボール箱製造業者に対し行って
いる「市況対策費」と称する金員の提供を要請する措置を取りやめ
るとともに,今後,これと同様の行為を行ってはならない。
(エ)  全農は,前記(ア),(イ)及び(ウ)に基づいて採った措置を,東日本に所
在する青果物用段ボール箱の製造業者,販売業者及び需要者に周知
徹底させなければならない。この周知徹底の方法については,あら
かじめ,当委員会の承認を受けなければならない。