第4章 流通・取引慣行等に関する競争政策上の対応
第1 概 説
近年,我が国の流通・取引慣行等に関する内外の関心が一層の高まりをみ
せている。このため,流通・取引慣行等をめぐる様々な問題について,競争
政策上の評価を行うとともに,問題となるべき点があれば積極的にこれを改
善していく必要がある。また,各種の取引慣行についての独占禁止法の考え
方をより一層具体的に,かつ,分かりやすく示すことが課題となっている。
このような観点から,各方面の有識者から成る「流通・取引慣行等と競争
政策に関する検討委員会」(座長 館龍一郎 東京大学名誉教授)が開催さ
れ,日本の流通システムや取引慣行等の実態と競争政策上の評価及び対応に
ついて検討が行われるとともに,当委員会において各種の実態調査を行っ
た。
第2 流通・取引慣行等と競争政策に関する検討
流通・取引慣行等と競争政策に関する検討委員会は,平成2年6月,その
検討結果を「流通・取引慣行とこれからの競争政策―開かれた競争と消費者
利益のために―」として公表した。その概要は,次のとおりである。
1 | 総論 |
流通・取引慣行等は,歴史約,社会的背景の中で形成されてきたものであ り,各国それぞれの特色を持っている。しかしながら,流通・取引慣行等 は,各国それぞれにおいて,その時々の情勢及び要請に応じて常にその在 り方が見直され,より良きものへと変化していくことが求められるもので ある。現行の日本の流通・取引慣行等についても,自由な価格形成を妨げ たりしていないかなど消費者の利益を確保する立場に立って評価,検討を 進めることが適当である。また,日本市場における新規参入を容易にし, 価格を中心とした市場メカニズムが十分機能するような方向に施策を推進 していくことが必要である。そして,流通・取引慣行等も,世界全体の市 場で通用する普遍性・合理性といった観点から検討されることが必要であ る。 競争政策の基本的に目指すべき方向としては,公正かつ自由な競争を促 進し,日本市場が真にその機能を発揮し得るようにしていくことが必要で ある。具体的施策としては,ガイドライン等による運用方針の明確化,実 態調査の実施とその公表,公正取引委員会の機能の拡充,課徴金制度の改 正の検討等の違反行為に対する厳正かつ効果的な措置,広報活動の積極的 推進,独占禁止法第25条の損害賠償制度の効果的な運用が必要である。 また,競争政策をめぐる環境の整備として,独占禁止法適用除外制度の 見直し,企業行動指針等による独占禁止法遵守の考え方の徹底,消費者自 身の消費者行動の評価・検討,政府規制の見直し・行政指導による市場へ の過剰な介入の廃止などを進めていく必要がある。 |
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2 | 流通段階における取引慣行等 |
消費財の流通分野における取引について,対象となる事業者の行為の競 争政策上のメリット・デメリットを十分踏まえた上で,独占禁止法の運用 に関するガイドラインを作成する必要がある。現行の輸入総代理店制に関 する認定基準については,その基本的な考え方は維持しつつ,考え方をよ り明確にしたガイドラインを作成すべきであり,ガイドラインの作成を契 機として輸入総代理店の競争制限的行為に対する独占禁止法の厳正な運用 を図るべきである。景品の公正競争規約については,経済環境の変化に対 応した見直しを指導すべきである。消費者の購買行動については,行政と して,消費者へ検討の場を設定し,また,価格等の情報を提供するよう努 めるべきである。 |
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3 | 事業者間の取引慣行 |
日本の事業者間取引の継続性については,それが形成されてきたそれな りの合理的理由があるものと考えられるが,新規参入の障壁となるなど競 争阻害に結び付くおそれのあるものについては,独占禁止法の適用の可能 性を検討し,その是正を図るべきである。このため,事業者間取引と排他 性に関して,独占禁止法上問題となる行為を示したガイドラインを作成す る必要がある。また,六大企業集団,個別業種の事業者間取引の実態につ いて調査する必要がある。 |
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4 | 事業者団体の活動 |
事業者団体の活動が競争制限的なものとならないよう監視していくとと もに,事業者団体活動ガイドラインの一層の周知徹底を行う必要がある。 事業者団体はその活動の透明性の確保に努め,加入しないことによって事 業上不利益が大きい場合などにおける加入資格の弾力化等を行っていく必 要がある。関係省庁は,行政と事業者団体との関係の明確化を図るため, 団体に対する行政指導の内容をできるだけ公開すること,事業者団体との 関係が競争制限的効果をもたらしていないか監視を行うことが期待され る。また,公約基準設定の際に団体以外からも広く意見を聞いたり,公正 取引委員会と協力して独占禁止法の趣旨の徹底を図るなどの対応を行う必 要がある。 |
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5 | 政府規制,独占禁止法適用除外制度の見直し等 |
政府規制については,「政府規制等と競争政策に関する研究会」報告書 において改善の方向が示されているところであり,競争政策の観点から積 極的に働きかけを行っていくことが必要である。適用除外制度について は,その必要性を検討するとともに制度を維持するものにあっても適用対 象範囲の見直しを進める必要がある。また,行政指導についてもその透明 性が確保されるよう働きかけ等を行っていくことが必要である。 |
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6 | 企業活動の公正さと透明性について |
個々の事業者,特に大企業は,法務部門の充実,独占禁止法違反行為を 予防するための遵守規則の作成,公正かつ透明性のある取引を行うという 姿勢を内外に示すための企業行動指針の作成を行うべきである。また,企 業集団における社長会の会合について,企業集団は,その活動内容につい て対外的に明らかにする等透明度を高めることが望ましい。 |
第3 実態調査の概要
1 | 欧米ブランド輸入品等の実態調査 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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2 | 消費者の購買行動に関する実態調査 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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3 | 内外価格差に関する消費財9品目の流通実態調査 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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4 | 外資系企業の日本市場への参入実態調査 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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第4 今後の対応
検討委員会の報告書は,日本の流通・取引慣行等と競争政策の在り方に関
する幅広い内容を含んでいる。当委員会は,この報告書の趣旨を十分尊重
し,独占禁止法の運用をできるだけ具体的かつ明確に示したガイドラインの
作成等運用の透明性を確保するとともに,独占禁止法の厳正な運用,実態調
査の実施等を行っていくこととしている。特に,ガイドラインの作成につい
ては,報告書の趣旨及び各種実態調査を踏まえつつ,消費財の流通分野にお
ける取引,事業者間の継続的取引及び輸入総代理店についてのガイドライン
を平成2年度内に作成・公表することとしており,作成の際には,原案の段
階で事前に国内外の関係機関等から意見を聞くこととしている。