第11章 適用除外共同行為

第1 概 説

独占禁止法適用除外制度の概要
 独占禁止法は,市場における公正かつ自由な競争を促進することによ
り,一般消費者の利益を確保するとともに国民経済の民主的で健全な発達
を促進することを目的とし,これを達成するために,私的独占,不当な取
引制限,不公正な取引方法等を禁止しているが,地方,他の経済政策目的
を達成する観点から,特定の分野における一定の行為に独占禁止法の禁止
規定等の適用を除外するという独占禁止法適用除外制度を設けている。
 独占禁止法適用除外制度の根拠規定は,①独占禁止法自体に定められて
いるもの,②適用除外法に定められているもの,③独占禁止法及び適用除
外法以外の個別の法律に定められているものに分けることができる。
(1) 独占禁止法に基づく適用除外制度
 独占禁止法は,①自然独占に固有な行為(第21条),②事業法令に基
づく正当な行為(第22条),③無体財産権の行使行為(第23条),④一定
の組合の行為(第24条),⑤著作発行物等の特定商品についての再販売
価格維持行為(第24条の2),⑥不況に対処するための共同行為(第24
条の3),⑦企業合理化のための共同行為(第24条の4)をそれぞれ同
法の禁止規定の適用除外としている。
(2) 適用除外法に基づく適用除外制度
 適用除外法は,①陸上交通事業調整法等の法律又はその条項等を掲
げ,これらの法令の規定又は法令の規定に基づく命令によって行う正当
な行為を独占禁止法の適用除外とし(第1条),また,②水産業協同組
合法等特定の法律に基づいて設立された協同組合その他の団体及び一定
の要件を満たす団体を独占禁止法第8条の規定の適用除外としている
(第2条)。
 また,消費税の転嫁の方法及び消費税についての表示の方法の決定に
係る共同行為を,昭和63年12月30日から平成3年3月31日までの間に限
り, 独占禁止法の適用除外としている(附則第2条)。
(3) 個別法律に基づく適用除外制度
 独占禁止法及び適用除外法以外の個別の法律において, 特定の事業者
又は事業者団体の行為について独占禁止法の適用除外を定めているもの
として,現在,中小企業団体の組織に関する法律,輸出入取引法等28の
法律がある。
 独占禁止法適用除外制度に係る法律の数は,適用除外法に掲げられた
法律等を含めると本年度末現在,41に上っているが,その大部分は昭和
20年代又は昭和30年代に制定され,又は適用除外の規定が加えられたも
のであり,その数は次第に減りつつある。
 なお,肥料価格安定臨時措置法は,平成元年6月30日をもって廃止さ
れた。
適用除外共同行為制度の概要
 独占禁止法適用除外制度により独占禁止法の禁止規定等の適用が除外さ
れている行為としては,カルテルが大部分を占めており,本年度末現在,
36の法律において,57のカルテル制度(一つの法律で複数のカルテル制度
を規定している場合には,複数に数えた。)が独占禁止法の適用除外とされ
ている。これらの独占禁止法適用除外カルテルが許容されている理由は,
おおむね,次の5類型に分類される。
(1)  公益的見地から事業の諸側面について規制を受け,その一環として協
定等が行われるもの(陸上交通事業調整法に基づく運輸上の協定,海上
運送法,航空法等に基づく運輸カルテル,保険(料率)カルテル等)
(2)  大企業との取引上あるいは競争上劣位に置かれやすい中小企業の立場
を補強する必要から一定の範囲内で共同行為を認めるもの(独占禁止法
第24条に基づく一定の組合の行為,中小企業等協同組合法等に基づく共
同経済事業等)
(3)  貿易関係の分野における過度の輸出競争又は輸入競争を防止し,公正
な貿易秩序を維持するため,一定の範囲内でカルテルを認めるもの(輸
出入取引法に基づく輸出・輸入カルテル等)
(4)  深刻な不況により産業界に回復し難い打撃を与えるなどのおそれがあ
る場合にカルテルを認めるもの(独占禁止法に基づく不況カルテル,中
小企業団体の組織に関する法律に基づく安定事業,輸出水産業の振興に
関する法律に基づく調整事業等)
(5)  企業の合理化のためにカルテルを認めるもの(独占禁止法に基づく合
理化カルテル,中小企業団体の組織に関する法律に基づく合理化事業
等)
 これらの独占禁止法適用除外カルテルのうち,独占禁止法に基づく不況
カルテル及び合理化カルテルについては,当委員会が認可を行っており,
また,特定の事業についての法律に基づくものは,一般に,当委員会の同
意を得,又は当委員会に協議若しくは通知を行って主務大臣が認可等を行
うこととなっている。
 また,独占禁止法適用除外カルテルの認可については,一般に,不況の
克服等当該適用除外カルテル制度の目的を達成するために必要であること
等の積極的要件のほか,当該カルテルが行き過ぎて弊害をもたらさないよ
うに,カルテルの目的を達成するために必要な限度を超えないこと,不当
に差別的でないこと等の消極的要件を充足することがそれぞれの法律によ
り必要とされている。
 さらに,このような適用除外カルテルは,不公正な取引方法に該当する
行為が用いられた場合等には,独占禁止法の適用除外とはならないとされ
ている。
適用除外共同行為の動向
 当委員会が認可し,又は当委員会の同意を得,若しくは当委員会に協議
若しくは通知を行って主務大臣が認可等を行ったカルテルの件数は,昭和
40年度末の1,079件(中小企業団体の組織に関する法律に基づくカルテル
のように,同一業種について都道府県等の地区別に結成されている組合ご
とにカルテルが締結されている場合等に,同一業種についてのカルテルを
1件と算定すると,件数は415件)をピークに減少傾向にあり,本年度末
現在では,261件(同61件)となった。そのうち,中小企業団体の組織に
関する法律に基づくもの等中小企業関係が大部分を占めている。
 また,当委員会が届出を受け付けた消費税の転嫁に係るカルテルの件数
は,後記第4のとおりである。

第2 独占禁止法に基づく適用除外共同行為

不況に対処するための共同行為
(1) 概 要
 独占禁止法は,事業者及び事業者団体によるカルテルを原則的に禁止
しているが,不況事態が深刻化した場合には,厳格な認可要件の下に一
時的,例外的に不況に対処するための共同行為(以下「不況カルテル」
という。)の結成を認めている。
 本来,自由競争経済体制の下では,需給の不均衡は市場のメカニズム
を通じて自律調整されるはずであるが,不況が特に深刻化し,特定の産
業に著しい影響をもたらし,容易に回復し難い打撃を与える場合もあ
る。このような場合には,国民経済全体にもたらす悪影響を勘案して,
カルテルを例外的に許容することもやむを得ないものとして,昭和28年
の改正により,不況カルテル制度が独占禁止法に取り入れられたもので
ある。
 しかしながら,不況時に安易にカルテルを認めることは,過剰設備や
非効率的な限界企業をいたずらに維持温存して当該産業の効率化を妨げ
るばかりでなく,関連事業者や一般消費者の利益を損なうことにもな
る。したがって,独占禁止法は,不況カルテルの認可要件については,
かなり厳格な規定を設けている。
 昭和28年に不況カルテル制度が独占禁止法第24条の3に規定されて以
来,本年度末までに73件のカルテルが認可されているが,これを,原因
となる各不況期別にみると,昭和33年不況期6件,昭和37年不況期2
件,昭和40年不況期18件 昭和46年不況期13件,昭和50年不況期21件,
昭和56年不況期11件, 昭和62年以降2件であり,平成元年10月以降,不
況カルテルは実施されていない。
 なお,平成元年4月に認可された鋼製船舶の生産数量に係る不況カル
テル及び舶用大型ディーゼル機関の生産数量に係る不況カルテルは,需
給状況及び市況が改善されつつあり,今後もその傾向が予想されたこと
から,平成元年9月に1年間の認可期間の途中で廃止された。
企業合理化のための共同行為
 独占禁止法は,第24条の4において,技術の向上,品質の改善,原価の
引下げ,能率の増進その他企業の合理化を遂行するため,特に必要がある
場合には,一定の条件の下に生産業者等が,技術若しくは生産品種の制
限,原材料若しくは製品の保管若しくは運送の施設の利用又は副産物,く
ず若しくは廃物の利用若しくは購入に係る共同行為,いわゆる合理化カル
テルを当委員会の認可を得て実施することを認めている。
 昭和28年に合理化カルテル制度が創設されて以来,昭和56年度末までに
13件の合理化カルテルが認可されたが,それ以降合理化カルテルは実施さ
れていない。

第3 特別法に基づく適用除外共同行為等

概 要
 本年度において,特別法に基づき主務大臣から当委員会に対し同意を求
め,又は協議,通知をしてきた共同行為等の処理状況は第1表のとおりで
あり,このうち主な特別法に基づく共同行為等の動向は,次のとおりであ
る。
 なお,肥料価格安定臨時措置法,内航海運組合法,環境衛生関係営業の
運営の適正化に関する法律,砂糖の価格安定等に関する法律,石炭鉱業合
理臨時措置法,卸売市場法,港湾運送事業法,酒税の保全及び酒類業組合
等に関する法律,真珠養殖等調整暫定措置法及び果樹農業振興特別措置法
に基づく共同行為に関する同意,協議等は1件もなかった(第1表)。

中小企業団体の組織に関する法律に基づく共同行為
 本年度において,中小企業団体の組織に関する法律に基づく共同行為の
うち,終了したものは安定事業5件であり,新たに設定されたものはな
かった(第2表)。
 本年度末現在における同法に基づく共同行為の件数は11業種174件(前
年度末は13業種179件)であり,すべて安定事業であって,合理化事業は
行われていない。なお,このうち日本輸出絹人繊織物機械染色工業組合の
安定事業が,本年度末限りで終了することとなっている。
 また,本年度において,安定事業に係る事業活動規制命令が1件終了
し,新たに設定されたものはなかった(第3表)。本年度末現在発動され
ている事業活動規制命令は9件である。



 本年度において,制限事項の一部を削除する,安定事業の緩和が行われ
た(第4表)。
 なお,同事業に係る事業活動規制命令については,制限事項の緩和は行
われなかった。
輸出入取引法に基づく共同行為
 本年度において,輸出入取引法に基づき新規に設定された共同行為はな
く,本年度中に終了した共同行為は3件であり,本年度末現在における同
法に基づく共同行為の件数は43件となっている(第5表)。
 また,本年度において新規に定められたアウトサイダー規制命令はな
く,本年度末現在におけるアウトサイダー規制命令の件数は10件となって
いる。
肥料価格安定臨時措置法に基づく共同行為
 肥料価格安定臨時措置法は,昭和39年に5年の時限立法として制定され
て以来,4次にわたって延長されたものであるが,平成元年6月30日を
もって廃止された。
 同法では,同法第2条第1項の規定に基づき硫安,尿素及び高度化成肥料
の生産業者と販売業者とが締結する価格取決めについて農林水産大臣及び
通商産業大臣は当委員会に通知をしなければならないこととなっていた。
 なお,同法の廃止に伴い,本年度まで継続して行われていた硫酸アンモ
ニア,尿素及び高度化成肥料の価格取決めは,平成元年6月30日限りで終
了した。
漁業生産調整組合法に基づく共同行為
 漁業生産調整組合法に基づき漁業生産調整組合が共同行為を行う場合に
おいて,農林水産大臣がその認可をしようとするときは,当委員会に協議
しなければならないこととなっている。
 本年度において協議を受けたものは,全国さんま棒受網漁業生産調整組
合が実施している漁船の登録,臨時休漁,陸揚数量の制限及び一時陸揚げ
の制限に係る調整規程の期間の延長並びに北部太平洋海区漁業生産調整組
合が実施している漁船の登録, 陸揚げの制限,臨時休漁及び投網の制限に
係る調整規程の期間の延長についての2件である。
 なお,全国さんま棒受網漁業生産調整組合の調整規程については, 制限
事項の緩和が行われている(第6表)。
 これに対し,当委員会は,所要の調査を行った結果,特に問題ないと認
め,異議ない旨回答した。
 本年度末現在における同法に基づく調整規程の件数は3件である。
漁業再建整備特別措置法に基づく整備計画
 漁業再建整備特別措置法は,政令で定めた業種に係る漁業協同組合等の
団体が行う漁船の隻数の縮減等の整備計画について農林水産大臣が同法第
6条第1項の規定に基づき認定しようとするときは,同法第16条の規定に
基づき当委員会に協議しなければならないこととしている。
 本年度においては,以西底びき網漁業の整備計画に関し,農林水産大臣
から協議を受けた。これに対し,当委員会は,所要の調査を行った結果,

特に問題なないと認め, 異議ない旨回答した。
輸出水産業の振興に関する法律に基づく共同行為
 輸出水産業の振興に関する法律に基づき輸出水産業組合が共同行為を行
う場合において,農林水産大臣が調整規程の届出を受理したときは,その
旨を当委員会に通知しなければならないこととなっている。
 本年度において通知を受けたものは,日本水産缶詰輸出水産業組合が実
施しているさば及びいわし缶詰に係る調整規程の期間の延長に関するもの
であったが,所要の調査を行った結果,問題はなかった。
 本年度末現在における同法に基づく調整規程の件数は1件である。
内航海運組合法に基づく共同行為
 内航海運組合法に基づき内航海運組合又は内航海運組合連合会が共同行
為の設定,変更及び廃止を行う場合において,運輸大臣がその認可をし,
又はその届出を受理したときは,その旨を当委員会に通知しなければなら
ないこととなっている。
 本年度においては,運輸大臣から通知を受けたものはない。
 本年度末現在における同法に基づく調整規程の件数は2件である。
環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律に基づく共同行為
 環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律に基づき環境衛生同業組
合又は環境衛生同業組合連合会が適正化事業を行う場合において,厚生大
臣(都道府県知事)がその認可をしようとするときは,当委員会に協議し
なければならないこととなっている。
 本年度末現在における同法に基づく共同行為である適正化規程は,理容
業の1業種のみであり,都道府県理容業環境衛生同業組合によって36件設
定されている。

 なお,連合会が設定する適正化規程の基本となる適正化基準について
は,興行場営業が平成元年5月17日限りで廃止されたが,本年度末現在,
理容業のほか,美容業,クリーニング業の3業種について存続している。

第4 消費税の転嫁の方法及び消費税についての表示の方法の
   決定に係る共同行為

 平成元年4月1日からの消費税の導入に当たり,消費税の円滑かつ適正な
転嫁のため,「消費税の転嫁の方法の決定に係る共同行為」(転嫁カルテル)
及び「消費税についての表示の方法の決定に係る共同行為」(表示カルテル)
を,一定の要件の下で独占禁止法に違反することなく行えるようにするた
め,平成3年3月31日まで,臨時・暫定的な立法措置(消費税法附則第30条
の規定による適用除外法の一部改正)が講じられた。

届出の受理件数
 消費税法施行後(昭和63年12月30日)から本年度末(平成2年3月31
日)までの届出件数は「転嫁カルテル」が2,049件,「表示カルテル」が

2,539件,合計4,588件であった。
 このうち本年度における届出件数は,昨年度に比べて大きく減少してお
り,「転嫁カルテル」が121件,「表示カルテル」が140件,合計261件で
あった。なお,これらの届出はほとんど年度当初に行われたものである。
届出の状況
(1)  本年度末までの届出の状況をみると,「転嫁カルテル」の内容は,本
体価格に消費税額分を上乗せする決定,端数処理の方法の決定が多い。
 また,「表示カルテル」の内容を見ると,価格表示の方法は,外税方
式(消費税抜き価格と消費税額を併記する方式)を採るものが多い。
(2)  次に,届出の業種別の内訳を見ると,製造業が約半数を占めており,
以下卸売業,サービス業,小売業,その他の順となっている(第9表)。