第13章 下請代金支払遅延等防止法に関する業務
第1 概 説
下請法は,経済的に優越した地位にある親事業者の下請代金支払遅延等の
濫用行為を迅速かつ効果的に規制することにより,下請取引の公正化を図る
とともに下請事業者の利益を保護することを目的として,昭和31年に制定さ
れた独占禁止法の不公正な取引方法の規制の特別法である。
下請法では,資本金1億円を超える事業者(親事業者)が個人又は資本金
1億円以下の事業者(下請事業者)に,また,資本金1,000万円を超える事
業者(親事業者)が個人又は資本金1,000万円以下の事業者(下請事業者)に
物品の製造又は修理を委託する場合,親事業者に対し下請事業者への発注書
面の交付(第3条)並びに下請取引に関する書類の作成及びその2年間の保
存(第5条)を義務付けているほか,親事業者が,①委託した給付の受領拒
否(第4条第1項第1号),②下請代金の支払遅延(同項第2号),③下請代
金の減額(同項第3号),④返品(同項第4号),⑤買いたたき(同項第5号),
⑥物品等の強制購入(同項第6号),⑦有償支給原材料等の対価の早期決済
(同条第2項第1号),⑧割引困難な手形の交付(同項第2号)などの行為を
行った場合には,当委員会は,その親事業者に対し,当該行為を取りやめ,
下請事業者が被った不利益の現状回復措置等を講じるよう勧告する旨を定め
ている。
第2 違反被疑事件の処理
下請取引の性格から,下請事業者からの下請法違反被疑事実についての申
告が期待できないため,当委員会では,中小企業庁の協力を得て,製造業を
営む親事業者及びこれらと取引している下請事業者を対象として定期的に書
面調査を実施するほか,特定の業種・事業者について特別調査を実施して違
反行為の発見に努めている。
これらの調査の結果,違反行為が認められた親事業者に対しては,その行
為を取りやめさせるほか, 下請事業者が被った不利益の現状回復措置等を講
じさせている(第1表,第2表,付属資料7-1表,7-2表)。
1 | 製造業者に対する書面調査実施状況 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
本年度においては, 資本金3,000万円以上の製造業者12,537社及びこれら と取引している下請事業者73,320社を対象に書面調査を行った(第1表) ほか,資本金1,000万円超3,000万円未満の製造業者1,000社に対して書面調 査を実施した。 |
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2 | 違反事件の新規発生件数及び処理件数 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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3 | 違反行為態様別件数 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
本年度において措置した下請法違反事件を違反行為態様別にみると,
最 も多いのは,発注時に注文書を交付していない又は交付していても記載す べき事項が不備のもの(第3条違反)で1,762件となっており, 前年度よ り754件増加している。 また,下請法の内容に係る違反では,手形期間が120 日(繊維製品の場 合は90日)を超える長期手形等の割引困難な手形の交付(第4条第2項第 2号違反)が778件,下請代金の支払遅延(同条第1項第2号違反)が469 件と下請代金の支払に関する違反行為が昨年に比べ増加しているのに対 し,下請代金の減額(同頃第3号違反)が153件,買いたたき(同項第5号 違反)が36件とそれぞれ減少している(第3表)。 なお,下請代金の減額事件について,本年度中に,親事業者45社が総額 1億2,823万円を465社の下請事業者に自主的に返還した(第4表)。 また,支払遅延が認められた事件について,親事業者57社が総額3,441 万円の遅延利息を260社の下請事業者に支払った(第5表)。 |
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4 | 主要な警告事例 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
本年度において,当委員会が下請法違反の疑いがあるとして警告をした 主な事例は次のとおりである。
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第3 下請代金の支払状況等
本年度において,定期調査に回答した資本金3,000万円以上の製造業者で
ある親事業者のうち9,958社(22,472事業所)について,その下請取引の実態
及び下請代金の支払状況を集計すると,次のとおりである。
1 | 下請取引の実態 | ||||||||||||||||||||||||||
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2 | 下請代金の支払状況 | ||||||||||||||||||||||||||
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3 | 下請代金の支払状況の推移 | ||||||||||||||||||||||||||
下請代金の支払状況の推移をみると次のとおりであり,昭和40年代以 降,徐々に改善されてきている。
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第4 消費税の実施と下請取引の適正化
当委員会では,消費税導入に伴う下請取引における消費税の転嫁状況及び
親事業者が消費税の転嫁に関連して下請法に違反する行為を行っていないか
どうかを監視するため,中小企業庁と連携して,平成元年5月から6月にか
けて,資本金1億円以上の製造業者である親事業者(当委員会の調査分3,371
社)及びこれらと取引のある下請事業者(同34,813社)を対象として, 特別
調査を実施した。
さらに,同年7月から8月及び平成2年1月から2月にかけても,定期調
査の一環として,消費税の転嫁状況に関する調査を実施した。
これらの調査の結果,消費税の転嫁の状況については,ほとんどすべての
親事業者が消費税額分として3%を上乗せしていた。
しかしながら,親事業者のごく一部ではあるが,消費税の転嫁に関連し
て,下請法に違反するおそれのある行為が認められたため,個別に事情を聴
取し,是正措置を講じた。
第5 広告制作委託取引に関する実態調査
1 | 調査の趣旨 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
近年,広告代理業者が広告主から依頼された広告(テレビ広告,グラ フィック広告等)メッセージの企画制作を,広告制作業者(以下「プロダ クション」という。)に対し外注(委託)するケースが増加する傾向がみら れる。 当委員会は,非製造業における委託取引の実態調査の一環として,広告 代理業者とプロダクションとの間における広告制作委託取引に関する実態 を把握するため,昭和63年1月から平成元年7月にかけて,東京都,大阪 府,愛知県等に所在する広告代理業者301社及びプロダクション219社を対 象として書面調査及び一部の事業者に対してヒアリング調査を行った。 |
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2 | 調査結果の概要 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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3 | まとめ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
この調査の結果,広告代理業者とプロダクションとの間における委託取 引において,場合によっては,独占禁止法上の問題(優越的地位の濫用行 為)を生じさせるおそれがあり,また,製造業における製造委託取引等に ついて規制している下請法の趣旨からもその改善が必要なものと考えられ る事実(①決定済みの委託代金が値引かれた,②指示に基づき委託内容 (仕様)を変更したにもかかわらず,それに要した費用が支払われなかっ た,③物品等の購入強制を受けた等)が見られた。 このため,平成元年7月25日,広告関係の団体である社団法人日本広告 業協会,名古屋広告業協会,大阪広告業協会及び社団法人日本雑誌広告協 会に対して,傘下会員が広告制作の委託取引を行うに当たっては,独占禁 止法及び下請法の趣旨を踏まえ,広告制作委託取引の正常な商慣習の形成 に努めるよう,傘下会員に対する周知方を要望した。 また,同日,広告主と広告代理業者との広告メッセージの企画,制作の 取引状況が上記の広告制作の委託取引に影響を与えている面も見られたこ と等から,広告主の団体である社団法人日本広告主協会に対して,広告制 作委託取引の適正化への協力方を要望した。 |
第6 下請法の普及・啓発等
1 | 違反行為の未然防止及び再発防止の指導 | ||||||||
下請法の運用に当たっては,違反行為が生じた場合,これを迅速かつ効 果的に排除することはもとより必要であるが,違反行為を未然に防止する ことも肝要である。 この観点から,本年度においては,以下のとおり各種の施策を実施し, 違反行為の未然防止を図っている。
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2 | 都道府県との相互協力体制 | ||||||||
下請法をきめ細かく,かつ,的確に運用して全国各地の下請事業者の利 益保護を図るためには,地域経済に密着した行政を行っている都道府県と の協力が必要であることから, 昭和60年4月から下請取引適正化に関する 都道府県との相互協力体制を発足させ,下請法の普及啓発等の業務につい て協力を得ている。 本年度においては,平成元年6月に都道府県下請企業行政担当課長会議 を開催するとともに,平成2年1月から2月にかけて,ブロック別に都道 府県下請取引担当官会議を開催した。 |
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3 | 下請取引改善協力委員等 | ||||||||
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第7 建設業の下請取引における不公正な取引方法の規制
建設業の下請取引において,元請負人等が下請負人に対し,請負代金の支
払遅延,不当な減額等の不公正な取引方法を用いていると認めるときは,建
設業法第42条又は第42条の2の規定に基づき,建設大臣,都道府県知事又は
中小企業庁長官が当委員会に対し,独占禁止法の規定に従い適当な措置を採
ることを求めることができることとなっている。
なお,本年度においては,措置請求はなかった。