第13章 下請代金支払遅延等防止法に関する業務

第1 概 説

 下請法は,経済的に優越した地位にある親事業者の下請代金支払遅延等の
濫用行為を迅速かつ効果的に規制することにより,下請取引の公正化を図る
とともに下請事業者の利益を保護することを目的として,昭和31年に制定さ
れた独占禁止法の不公正な取引方法の規制の特別法である。
 下請法では,資本金1億円を超える事業者(親事業者)が個人又は資本金
1億円以下の事業者(下請事業者)に,また,資本金1,000万円を超える事
業者(親事業者)が個人又は資本金1,000万円以下の事業者(下請事業者)に
物品の製造又は修理を委託する場合,親事業者に対し下請事業者への発注書
面の交付(第3条)並びに下請取引に関する書類の作成及びその2年間の保
存(第5条)を義務付けているほか,親事業者が,①委託した給付の受領拒
否(第4条第1項第1号),②下請代金の支払遅延(同項第2号),③下請代
金の減額(同項第3号),④返品(同項第4号),⑤買いたたき(同項第5号),
⑥物品等の強制購入(同項第6号),⑦有償支給原材料等の対価の早期決済
(同条第2項第1号),⑧割引困難な手形の交付(同項第2号)などの行為を
行った場合には,当委員会は,その親事業者に対し,当該行為を取りやめ,
下請事業者が被った不利益の現状回復措置等を講じるよう勧告する旨を定め
ている。

第2 違反被疑事件の処理

 下請取引の性格から,下請事業者からの下請法違反被疑事実についての申
告が期待できないため,当委員会では,中小企業庁の協力を得て,製造業を
営む親事業者及びこれらと取引している下請事業者を対象として定期的に書
面調査を実施するほか,特定の業種・事業者について特別調査を実施して違
反行為の発見に努めている。
 これらの調査の結果,違反行為が認められた親事業者に対しては,その行
為を取りやめさせるほか, 下請事業者が被った不利益の現状回復措置等を講
じさせている(第1表,第2表,付属資料7-1表,7-2表)。

製造業者に対する書面調査実施状況
 本年度においては, 資本金3,000万円以上の製造業者12,537社及びこれら
と取引している下請事業者73,320社を対象に書面調査を行った(第1表)
ほか,資本金1,000万円超3,000万円未満の製造業者1,000社に対して書面調
査を実施した。
違反事件の新規発生件数及び処理件数
(1)  本年度において,新規に発生した下請法違反被疑事件は,1,957件(1,975
社,2586事業所)であり,書面調査の対象とした親事業者の約16%(下
請取引ありと回答した親事業者の約26%)となっている。このうち,書
面調査等により職権探知したものが1,928件(1,928社,2,574事業所)で
あり,下請事業者からの申告によるものは29件(新規発生件数全体の
1.5%)である(第2表)。
 なお,下請法第6条に基づく中小企業庁長官からの措置請求はなかっ
た。
(2)  本年度において,違反被疑事件として処理した件数は,2,579件であり,
このうち,2,419件(93.8%)について違反行為が認められたが,これら
については親事業者が自発的に当該違反行為を取りやめるとともに,下
請事業者に与えた不利益を解消する措置を講じたので警告等の措置とし
た(第2表)。
 処理件数を前年度と比較してみた場合,本年度においては,処理件数
が大幅に増加しているが,これは,昭和63年度において調査対象を約4
割拡充したことにより,新規発生件数が増加し,この事件処理の一部が
本年度に繰り越されたためである。
 なお,下請法第7条の規定に基づき勧告するに至った事件はなかっ
た。


違反行為態様別件数
 本年度において措置した下請法違反事件を違反行為態様別にみると, 最
も多いのは,発注時に注文書を交付していない又は交付していても記載す
べき事項が不備のもの(第3条違反)で1,762件となっており, 前年度よ
り754件増加している。
 また,下請法の内容に係る違反では,手形期間が120 日(繊維製品の場
合は90日)を超える長期手形等の割引困難な手形の交付(第4条第2項第
2号違反)が778件,下請代金の支払遅延(同条第1項第2号違反)が469
件と下請代金の支払に関する違反行為が昨年に比べ増加しているのに対
し,下請代金の減額(同頃第3号違反)が153件,買いたたき(同項第5号
違反)が36件とそれぞれ減少している(第3表)。
 なお,下請代金の減額事件について,本年度中に,親事業者45社が総額
1億2,823万円を465社の下請事業者に自主的に返還した(第4表)。
また,支払遅延が認められた事件について,親事業者57社が総額3,441
万円の遅延利息を260社の下請事業者に支払った(第5表)。

主要な警告事例
 本年度において,当委員会が下請法違反の疑いがあるとして警告をした
主な事例は次のとおりである。
(1) 注文書の不交付又は必要記載事項の記載不備(法第3条)
(注文書の一部不交付)
 A食料品製造業者は,下請事業者に対し,食料品の製造を委託して
いる。
 A社は,発注に当たっては, 通常,口頭で発注後,直ちにファクシ
ミリにより注文書を交付している。しかし,ファクシミリを保有して
いない一部の下請事業者に対しては,直ちに必要記載事項を記載した
注文書を交付する必要があるのに,これを行っていなかった。
(A社は,電話等により口頭で発注後,ファクシミリを保有してい
ない下請事業者に対しては,直ちに必要記載事項を記載した注文書を
交付することとした)。
(2) 受領拒否(法第4条第1項第1号)
(検収制度に起因する受領拒否)
 B衣料品製造業者は,下請事業者に対し,紡績,撚糸,製織,染
色・整理等を委託している。
 B社は,下請事業者のうち,衣料品製造の最終工程である染色・整
理を委託している下請事業者に対しては,いわゆる出荷時検収制度を
採用している。そのため,下請事業者が注文書に記載の納期どおりに
製品を仕上げても,B社の出荷先が確定するまで, 製品は下請事業者
の手元に置かれたまま検収されず,実質的に納期の延期となっていた
(下請法でいう受領拒否には, 納期を延期してあらかじめ定めた納期
に受け取らない場合も含まれる。)。
 (B社は,出荷時検収制度を廃止し, 納品時検収制度に改めるとと
もに,納期の延期により下請事業者に納入を保留させていた分につい
て直ちに検収,受領し,下請事業者に下請代金を支払った。)
(3) 支払遅延(法第4条第1項第2号)
(下請代金の一部(1万円未満)翌月繰越しによる支払遅延)
 C機械製品製造業者は,下請事業者に対し,機械部品の製造を委託
している。
 C社は,毎月末日締切,翌月末日支払の支払制度を採っていたが,
一部の工場においては,毎月末日の支払対象額の一部(1万円未満)
を翌月末日の支払日に繰り越していたため,下請代金の一部を下請事
業者の給付を受領してから60日を超えた期日に支払っていた。
 (C社は,各工場の下請代金の支払状況を点検し,下請代金の一部
(1万円未満)翌月繰越しを中止した。)
(下請代金の一部支払保留による支払遅延)
 Dコンクリート製品製造業者は,下請事業者に対し,コンクリート
製品の製造を委託している。
 D社は,毎月末日締切,翌月末日支払の支払制度を採っていたが,
後日不良品が見つかった場合に充てることを理由に,毎月の下請代金
総額の10%に相当する額の支払を保留し,これを決算期に精算してい
たため,下請代金の一部を下請事業者の給付を受領してから60日を超
えた期日に支払っていた。
 (D社は,下請代金の支払制度を,毎月末日締切,翌月末日全額支
払に改善し,下請事業者に対し支払を保留していた下請代金を直ちに
支払うとともに,支払遅延していた下請代金の遅延利息を支払った。)
(4) 下請代金の減額(法第4条第1項第3号)
(不良品を名目とする下請代金の減額)
 E一般機械器具製造業者は,下請事業者に対し,空調機器等の製造
を委託している。
 E社は,単価の引下げ改定を行うに当たり,対象物品が多種類であ
ることから,個々に単価改定を行っていたのでは相当の期間を要し,
予定の改定時期から単価改定を実施することが困難であることを理由
に,協議が整わないまま一方的に,毎月の下請代金の支払時に下請代
金総額の一定率(5%)に相当する額を差し引くこととし,この額を
帳簿上は不良品による値引き分として下請代金から減額して支払って
いた。
 (E社は,下請代金総額から一定額を減額することを中止するとと
もに, 減額した額を下請事業者に返還した。)
(新単価の遡及適用による減額)
 F輸送用機器製造業者は,下請事業者に対し,輸送用機器の製造を
委託している。
 F社は,発注数量の増加,生産工程の変更等を理由に単価改定を行
うこととしたが,引下げ幅について下請事業者との協議に時間を要し
たこと等から,予定していた改定時期より価格決定時期が2か月遅れ
たため,新単価を価格改定予定時期までさかのぼって適用し,旧単価
と新単価の差額分を減額して支払っていた。
 (F社は,さかのぼって適用した期間における旧単価と新単価の差
額分を下請事業者に返還した。)
(5) 返品(法第4条第1項第4号)
(ずさんな検査基準に基づく返品)
 G電気機械器具製造業者は,下請事業者に対し,電気機械器具の製
造を委託している。
 G社は,製造を委託した一部の製品については,不請事業者に検査
を委託しているが,これについては口頭でおおまかな検査基準を示し
ただけで明確な検査基準はなく,また,検査の委託も文書にされてい
ない。それにもかかわらず,下請事業者が納入した電気機械器具の一
部について,後日, 理由があいまいなまま不良品であるとして返品し
ていた。
 (G社は,口頭による検査基準を廃止し,検査規定, 検査実施要領
を文書で定め,これらを下請事業者に交付するとともに,これらの検
査規定等に合格したものについては返品しないこととした。)
(6) 買いたたき(法第4条第1項第5号)
(修理単価の一方的引下げ)
 H電気機械器具修理業者は,下請事業者に対し,受注した電気機械
器具の修理の一部を委託している。
 H社の電気機械器具の修理委託には,下請事業者がH社の顧客先に
出向いて修理を行うもの(出張修理)とH社に出向いて修理を行うも
の(工場内修理)があるが,H社は,平成元年4月から,工場内修理
の修理単価を前年度単価の95%に引き下げることとし, これを一律か
つ一方的に下請事業者に通知した。
 (H社は,工場内修理の修理単価を平成元年4月から引き下げるこ
とを中止し,下請事業者と十分協議し,両者で合意した修理単価によ
り単価改定を行うこととした。)
(7) 購入強制(法第4条第1項第6号)
(取引先発行の定期刊行物等の購入要請)
 Ⅰ印刷業者は,下請事業者に対し,印刷物の写植等を委託している。
 Ⅰ社は,取引先出版業者から定期刊行物等の継続購入を求められた
ことから,これらの購入を下請事業者に分担させることとし,自社の
外注担当者を通じて下請事業者に定期刊行物等の購入又は購入のあっ
せんを要請した。このため,下請事業者の一部は,やむなく定期刊行
物等の購入を親事業者に申し出た。
 (Ⅰ社は,下請事業者に対する定期刊行物等の購入又は購入のあっ
せんの要請を中止した。)
(8) 原材料等の対価の早期決済(法第4条第2項第1号)
(加工期間を考慮せずに有償支給原材料等の対価の決済制度を定めてい
ることによる早期決済)
 J電子部品製造業者は,下請事業者に対し,電子部品の製造・組立
て等を委託している。
 J社は,毎月末日締切,翌月末日支払の支払制度を採っており,下
請事業者に電子部品の製造・組立て等に要する部品や原材料を有償支
給しているが,下請事業者が部品等を用いて製造・組立て等を行うの
に約10日間要するのにもかかわらず,有償支給した部品や原材料の代
金についても,下請代金の支払制度と同じく毎月末日締切,翌月末日
下請代金支払時に相殺する決済制度を採っていた。
 このため,J社が月の20日から月末にかけて有償支給したものにつ
いては,その製品の受領が翌月となり(約10日間の加工期間を要する
ため),当該下請代金の支払は翌々月末日となるにもかかわらず,有
償支給原材料分の対価を翌月末日の下請代金の支払時に全額相殺して
いた。
 (J社は, 有償支給原材料等の締切日を加工に要する期間だけ早め
る決済制度に改善した。)

第3 下請代金の支払状況等

 本年度において,定期調査に回答した資本金3,000万円以上の製造業者で
ある親事業者のうち9,958社(22,472事業所)について,その下請取引の実態
及び下請代金の支払状況を集計すると,次のとおりである。

下請取引の実態
(1) 下請取引をしている割合
 下請取引のある割合を企業ベースで見ると,製造業者(9,958社)の
74.4%( 7,408社)であった。
 下請取引のある企業の割合を業種別に見ると,「輸送用機械器具製
造業」(95.3%),「精密機械器具製造業」(94.6%),「一般機械器具製
造業」(93.8%),「電気機械器具製造業」(93.6%)など機械関係の業
種において9割を超えているが,「窯業・土石製品製造業」(36.5%),
「木材・木製品製造業」(38.5%)などの業種では低くなっている。
(2) 取引先下請事業者数
 親事業者が何社の下請事業者と取引しているかを見ると,製造業平
均では1事業所当たり27社である。
 1事業所当たり取引先下請事業者の数を業種別に見ると,最も多い
のは「電気機械器具製造業」及び「輸送用機械器具製造業」(いずれ
も1事業所当たり43社の下請業者と取引している。),次いで「精密機
械器具製造業」(同41社)であり,一般に下請取引をしている企業の
割合の高い機械関係の業種では取引先下請事業者数も多く,下請取引
をしている企業の割合の低い「木材・木商品製造業」(同6社),「窯
業・土石製造業」(同9社)などでは取引先下請事業者数も少ない。
下請代金の支払状況
(1) 平均支払期間
 下請代金の支払状況を納品締切日から支払日までの月数(以下「平
均支払期間」という。)で見ると,0.80か月(24.0日)となっており,
総体として見ると,月末に締め切った下請代金な翌月25日までには支
払われているということになる(前年度は0.82か月であった。)。
 平均支払期間を業種別に見ると,繊維関係の業種において比較的短
く,機械関係の業種において比較的長いという傾向がある。
 平均支払期間が1.0を超えるもの(この場合は,納品されてからそ
の代金が支払われるまでの期間が60日を超えることがあるので,下請
法第4条第1項第2号の規定に違反するおそれがあるものである。)
は,319事業所(集計対象事業所数の3.5%に相当)であり,これら
のケースはすべて違反被疑事件として調査の対象としている(前年度
は572事業所(集計対象事業所数の6.3%に相当)であった。)。
(2) 現金支払割合
 下請代金のうち,現金で支払われる割合を事業所ごとに見たものの
平均(以下「現金支払割合」という。)は,製造業者平均で56.5%で
あり, 下請代金の6割弱は現金で支払われている(前年度は57.9%で
あった。)。
 現金支払割合を業種別に見ると,業種ごとに大きな差異があり,
「衣服・その他の繊維製品製造業」(86.0%),「なめし革・同製品・毛
皮製造業」(77.9%),「木材・木製品製造業」(76.7%)などが高いの
に対し,「一般機械器具製品業」(39.3%),「精密機械器具製造業」
(39.3%)などは低くなっている。
(3) 手形期間
 下請代金を手形により支払っている場合の手形の期間(各事業所が
交付した手形のうち,最も期間の長い手形について集計)を見ると,
手形期間が90日以下のものは17.0%,91~120日のものが62.2%,そし
て,120日超の長期手形の交付割合は20.8%であった(前年度の長期
手形交付割合は25.9%であった。)。
 長期手形の交付割合を業種別に見ると,「食料品製造業」(3.0%),
「飲料・飼料・たばこ製造業」(8.3%),「石油製品・石炭製品製造業」
(10.5%)などが少ないのに対し,「一般機械器具製造業」(31.9%),
「家具・装備品製造業」(31.6%)などでは高くなっている。
なお,長期手形を交付している場合には,手形期間を120 日以内に
短縮するよう指導している。
下請代金の支払状況の推移
 下請代金の支払状況の推移をみると次のとおりであり,昭和40年代以
降,徐々に改善されてきている。
(1)  平均支払期間は,昭和30年代は1.0か月(締切日から30日)を超えて
いたが,昭和40年代に入ると大幅に短縮され,昭和50年代以降は0.8か
月(締切日から24日)前後で推移している。
(2)  現金支払割合は,昭和40年代前半までは低下傾向にあったが,昭和40
年代後半から徐々に高くなっており,とりわけ昭和53年以降,下請代金
の半額以上が現金で支払われる状態が定着している。
(3)  長期手形交付割合は, 昭和40年代前半までは増加傾向にあったが, 昭
和45年の約60%をピークにそれ以降は減少傾向にあり, 昭和56年以降は
20%前後となっている。

第4 消費税の実施と下請取引の適正化

 当委員会では,消費税導入に伴う下請取引における消費税の転嫁状況及び
親事業者が消費税の転嫁に関連して下請法に違反する行為を行っていないか
どうかを監視するため,中小企業庁と連携して,平成元年5月から6月にか
けて,資本金1億円以上の製造業者である親事業者(当委員会の調査分3,371
社)及びこれらと取引のある下請事業者(同34,813社)を対象として, 特別
調査を実施した。
 さらに,同年7月から8月及び平成2年1月から2月にかけても,定期調
査の一環として,消費税の転嫁状況に関する調査を実施した。
 これらの調査の結果,消費税の転嫁の状況については,ほとんどすべての
親事業者が消費税額分として3%を上乗せしていた。
 しかしながら,親事業者のごく一部ではあるが,消費税の転嫁に関連し
て,下請法に違反するおそれのある行為が認められたため,個別に事情を聴
取し,是正措置を講じた。

第5 広告制作委託取引に関する実態調査

調査の趣旨
 近年,広告代理業者が広告主から依頼された広告(テレビ広告,グラ
フィック広告等)メッセージの企画制作を,広告制作業者(以下「プロダ
クション」という。)に対し外注(委託)するケースが増加する傾向がみら
れる。
 当委員会は,非製造業における委託取引の実態調査の一環として,広告
代理業者とプロダクションとの間における広告制作委託取引に関する実態
を把握するため,昭和63年1月から平成元年7月にかけて,東京都,大阪
府,愛知県等に所在する広告代理業者301社及びプロダクション219社を対
象として書面調査及び一部の事業者に対してヒアリング調査を行った。
調査結果の概要
(1) 広告代理業者等の概要
 広告代理業者の資本金規模は, 1,000万円以下が35.4%,1,000万円超
1億円以下が53.8%,1億円超が10.8%の順になっている。
 一方,プロダクションの資本金規模は,1,000万円以下が27.2%,1,000
万円超1億円以下が50.4%,1億円超が2.4%となっている。
(2) 発注書面交付状況
広告代理業者
 どのような方法で発注するかについては,「口頭で行う」が71.1%
あり,「注文書交付」18.7%,「仕様書又は指図書交付」18.9%と,そ
れぞれ2割に満たない。
 その発注書面の記載内容を見ると,「仕様」72.8%,「納期」69.5%,
「代金」51.7%,「支払条件」45.0%の順となっている。
プロダクション
 広告代理業者から受注する際に発注書面を「もらっている」が
21.6%,「もらっていない」が54.4%,「もらうことがある」が24.0%
となっている。
 その発注書面の記載内容は,「仕様」78.9%,「納期」63.2%,「代
金」57.9%,「支払条件」22.8%の順になっている。
(3) 広告制作代金の支払方法
広告代理業者
 下請法に定める受領後60日以内に支払う制度を採用している者は,
48.1%となっており,一方,制度的に支払期日を受領後60日超に定め
ている者は49.9%となっている。
 また,支払方法は,「全額現金支払」が57.0%となっており,「一定
額以上になると手形支払」が28.6%となっている。
プロダクション
 受領後60日以内に支払う制度を採用している広告代理業者と取引し
ている者は,62.4%を占めている。支払方法は,「全額現金」35.2%,
「全額手形」31.2%, 「支払額一定額以上手形払」20.0%,「一部現金」
13.6%となっている。
(4) 代金の減額
広告代理業者
 いったん取り決めた代金を値引きして支払ったことがあると回答し
た者が50.5%と半数を占めている。
 値引きした理由は,「広告主からの値引要請」60.4%,「広告が仕様
通りでなかった」56.4%,「広告主からの仕様変更申し入れ」52.5%,
「納期遅れ」19.8%,「自社の都合で値引き」15.3%となっている。
プロダクション
 代金の支払時に「減額されたことがある」との回答は,55.2%と過
半数を占めている。
 減額された理由は,「広告代理業者(又は広告主)の都合で協力を
求められた」とする理由が95.7%と群を抜いて多く,「仕様と異なる
(当社責任なし)」が15.9%,「仕様と異なる(当社責任あり)」が10.1%,
「無理な納期を指定されての納期遅れ」が1.4%となっている。
(5) 受注後の仕様変更と費用負担
 受注後に大幅な仕様変更をされたことがあるとするプロダクション
は,62.4%を占めている。
 仕様変更の際,その費用負担は,「広告制作業者と広告代理業者が半々
で負担した」55.1%,「全額広告代理業者(又は広告主)が負担した」
34.6%,「全額広告制作業者が負担した」29.5%になっており,仕様変更
のためのしわ寄せがプロダクションにも及んでいることがうかがえる。
(6) 広告代理業者からの購入要諸の有無
 広告代理業者から物品等の購入を要請されたことがある者は,全体の
52.0%であり,購入を要請された物品等の主なものは,映画,コンサー
ト,レジャーランド,イベント,野球,ゴルフ等の入場券,広告主の商
品,中元歳暮商品等である。
 全体としては,付き合いであり,多少の要請は仕方がないと考えてい
るようであるが,一部に購入する意思はなかったがやむを得ず購入した
という意見もある。
まとめ
 この調査の結果,広告代理業者とプロダクションとの間における委託取
引において,場合によっては,独占禁止法上の問題(優越的地位の濫用行
為)を生じさせるおそれがあり,また,製造業における製造委託取引等に
ついて規制している下請法の趣旨からもその改善が必要なものと考えられ
る事実(①決定済みの委託代金が値引かれた,②指示に基づき委託内容
(仕様)を変更したにもかかわらず,それに要した費用が支払われなかっ
た,③物品等の購入強制を受けた等)が見られた。
 このため,平成元年7月25日,広告関係の団体である社団法人日本広告
業協会,名古屋広告業協会,大阪広告業協会及び社団法人日本雑誌広告協
会に対して,傘下会員が広告制作の委託取引を行うに当たっては,独占禁
止法及び下請法の趣旨を踏まえ,広告制作委託取引の正常な商慣習の形成
に努めるよう,傘下会員に対する周知方を要望した。
 また,同日,広告主と広告代理業者との広告メッセージの企画,制作の
取引状況が上記の広告制作の委託取引に影響を与えている面も見られたこ
と等から,広告主の団体である社団法人日本広告主協会に対して,広告制
作委託取引の適正化への協力方を要望した。

第6 下請法の普及・啓発等

違反行為の未然防止及び再発防止の指導
 下請法の運用に当たっては,違反行為が生じた場合,これを迅速かつ効
果的に排除することはもとより必要であるが,違反行為を未然に防止する
ことも肝要である。
 この観点から,本年度においては,以下のとおり各種の施策を実施し,
違反行為の未然防止を図っている。
(1) 下請取引適正化推進月間
 毎年11月を「下請取引適正化推進月間」と定め, 中小企業庁と共同し
て, 新聞, テレビ・ ラジオ等で広報するほか, 全国各地において下請法
に関する講習会を開催する等下請法の普及啓発に努めている。
本年度は,親事業者を対象に29都道府県(うち当委員会主催分17都道
府県〔17会場〕)において講習会を開催した(受講者は当委員会主催分で
1,675名)。
 また,当委員会は,下請取引を適正化するためには, 取引のもう一方
の当事者である下請事業者にも下請法の趣旨内容を周知徹底する必要が
あることにかんがみ,昭和60年度以降, 下請事業者を対象とした下請法
講習会を実施しており,本年度においては12道府県(13会場)で開催し
た(受講者526名)。
(2) 下請法遵守の要請
 親企業の国際化の進展,消費市場の変化や産業技術の革新の加速等に
伴い下請分業構造な大きく変化しつつあり,下請中小企業は,厳しい対
応を強いられており,また,年末にかけては金融繁忙期に入るという事
情も加わるため,下請取引のより一層の適正化を図ることが緊急の課題
となっていることにかんがみ,下請取引の適正化を一層推進するため,
平成元年12月15日,公正取引委員会委員長・通商産業大臣連名で,親事
業者7,684社及び431事業者団体に対して下請法違反行為を行うことの
ないよう要望した。
都道府県との相互協力体制
 下請法をきめ細かく,かつ,的確に運用して全国各地の下請事業者の利
益保護を図るためには,地域経済に密着した行政を行っている都道府県と
の協力が必要であることから, 昭和60年4月から下請取引適正化に関する
都道府県との相互協力体制を発足させ,下請法の普及啓発等の業務につい
て協力を得ている。
 本年度においては,平成元年6月に都道府県下請企業行政担当課長会議
を開催するとともに,平成2年1月から2月にかけて,ブロック別に都道
府県下請取引担当官会議を開催した。
下請取引改善協力委員等
(1) 下請取引改善協力委員
 下請法の的確な運用に資するため, 昭和40年以降公正取引委員会の業
務に協力する民間有識者に下請取引改善協力委員を委嘱している(本年
度は101名に拡充〔昭和63年度は61名〕)。
 本年度においては,平成元年6月に全国会議を,平成2年1月から2
月にかけてブロック別会議をそれぞれ開催した。
(2) 下請法運用協力団体
 昭和37年以降,下請法運用協力団体制度を設け,下請事業者系団体及
び親事業者系団体を通じて下請法の普及啓発を図るとともに,法運用に
関する情報の提供を求めており,下請法運用協力団体は,平成2年3月
末現在124団体である。

第7 建設業の下請取引における不公正な取引方法の規制

 建設業の下請取引において,元請負人等が下請負人に対し,請負代金の支
払遅延,不当な減額等の不公正な取引方法を用いていると認めるときは,建
設業法第42条又は第42条の2の規定に基づき,建設大臣,都道府県知事又は
中小企業庁長官が当委員会に対し,独占禁止法の規定に従い適当な措置を採
ることを求めることができることとなっている。
 なお,本年度においては,措置請求はなかった。