10 海外競争政策の動き

 当委員会は,海外諸国,特にOECD加盟諸国の独占禁止法制の動き及び
運用状況について継続的に調査を行っている。以下では,おおむね1989年4
月から1990年3月までのアメリカ,西ドイツ,イギリス,フランス及び欧州
共同体(EC)の競争政策の動きを紹介する。この紹介は,1990年にOEC
D競争政策委員会に提出された加盟各国の年次報告,その他の各種資料に基
づいている。

10-1 アメリカ
(1) 法制の動き
反トラスト法又は関連法制の改正
 1989年(1月~12月)においては,司法省及び連邦取引委員会が施
行している競争法に法制上の変更はなかった。しかし,司法省の1990
年度予算配分法により,ハート・スコット・ロディノ法に基づく合併
事前届出義務のある者は,2万ドルの手数料を納めることとされた。
この手数料収入は,司法省反トラスト局と連邦取引委員会とで等分さ
れる。
反トラスト法又は関連法制の改正案
(ア)  反トラスト法に違反した企業及び個人に対する罰金を引き上げる
法案が,1989年10月17日議会下院において可決され,現在議会上院
で審理されている。同法案は,違反企業及び個人に科し得る罰金額
の上限をそれぞれ,100万ドルから1000万ドルへ,10万ドルから25
万ドルへ引き上げることを内容としている。
(イ)  現在,生産ジョイント・ベンチャーに関する反トラスト法改正法
案が,議会の上下両院に数多く提出されている。これらの法案を大
別すると,①全産業に適用される反トラスト法上の特例を定めるも
の,②特定産業のみに適用される特例を定めるものに分けられる。
また,その方法としては,(a)1984年共同研究開発法方式(司法省
及び連邦取引委員会に届け出られたものについては,生産ジョイン
ト・ベンチャーの違法性を合理の原則で判断するとともに,実損
額の回復のみ認める。),(b)1982年輪出商社法方式(司法省及び連
邦取引委員会が商務省と協議の上認証した生産ジョイント・ベン
チャーについては,差止請求しか認めない。)とがある。
反トラストの規則,政策又はガイドラインの変更
 1989年2月,連邦取引委員会は,パートナーシップを利用して合併
事前届出義務が回避されることを防ぎ,事前届出制度の有効性を向上
させるため,事前届出制度に関する規則改正案の作成のための多数の
提案を行い,これらの提案に対する一般からのコメントを求めたが,
1989年末現在,規則改正は行われていない。
(2) 反トラスト法及び政策の施行
司法省反トラスト局及び連邦取引委員会の措置件数
 1989年中,司法省反トラスト局は,142件の正式審査を開始し,97
件の反トラスト事件を提訴した。
 連邦取引委員会は,合併を含む競争に関するすべての問題に関し
て,63件の第一次段階審査,54件の全面的審査を開始したほか,6件
の審決,7件の審判開始決定を行い,14件の同意審決に最終的な承認
を与え,5件の同意審決案について一般のコメントを求めた。また,
2件の民事罰を求める訴えを提起し,2件の判決を得た。
司法省反トラスト局の提訴事件の概要
 1989年に司法省反トラスト局が行った刑事訴追件数は,計91件で
あった。その対象となった行為類型には,水平的な価格協定,市場分
割,入札談合,それに付随する顧客配分等があり,対象となった事業
分野には,コンクリート・ブロック,連鎖式フェンス,ソフト・ドリ
ンク,溶接金網,油田用塩水充てん液,道路建設,浚渫及び電気工事
プロジェクト,廃棄物処理,自動車部品,中古事業用機器の競売等が
ある。
 司法省が特に関心を有している事件として,事業用中古機械及び装
置の競売において行われた入札談合に関するものがある。1989年だけ
で,司法省は,19企業,8個人に対する有罪判決を得てきており,罰
金総額は140万ドル近くに達し, 2人が禁錮刑に処せられた。
連邦取引委員会が審決を行った事件の概要
 1989年に連邦取引委員会が審決を行った事件の代表例として,次の
ものがある。
(ア)  デトロイト地区の新車ディーラーが,ショー・ルーム閉鎖日の協
定を行っていたところ,同委員会は,これは経済的には価格協定に
等しいものであり,不当な取引制限であると認定し,ディーラーに
対して審決確定後1年間,週に少なくとも一定時間以上営業するよ
う命じた。
(イ)  ニュー・イングランド陸運料金協会(Rate Bureau)が,2つの
州においてそのメンバーの運送業者に対し,貨物の州内輸送運賃を
共同で設定,届出させていたところ,同委員会は,当該行為が経済
的には違法な価格協定に等しいものであると認定した。ここでは,
陸運料金協会の行為が州政府の行為の理論(競争を規制で置き換え
る旨の「明確に表明された」州の政策があり,企業の行為が州によっ
て厳格に監督されている場合には,反トラスト法上の責任を免除す
るという考え方)によって保護されるのかどうかが争点となった
が,同委員会は,当該2州においてはこの基準が満たされていない
と判断した。この審決に対しては,被審人(料金協会)が裁判所に
提訴し,事件は係属中である。
合併規制
(ア)  司法省反トラスト局及び連邦取引委員会は,ハート・スコット・
ロディノ法の合併事前届出条項に基づき,1989年中に2,818件の合
併計画に関して5,364件の届出を受理した。
(イ)  司法省反トラスト局は,43件の合併計画に関して77件の追加情報
を求める文書を発出した。また,同期間中,銀行その他金融機関に
よる1,200件の合併及び取得の審査に関与した。
 司法省反トラスト局が提訴した代表的な事件として,次のものが
ある。
 司法省反トラスト局は,米国企業のウエスティングハウス社と
スイス-スウェーデン企業のABB社が計画した二つのジョイン
ト・ベンチャー(産業用蒸気タービン発電設備の製造・販売,電
力の伝送・配送設備の事業)について,高度に集中化したそれぞ
れの市湯(蒸気タービンの分野では両社合わせて62%の市場シェ
アを有し,変流変圧器の分野ではABB社単独で50%以上の市場
シェアを持つ。)での主導的競争者が結合することとなり,極め
て反競争的な効果がもたらされるおそれがあるとして,当該計画
を阻止するために提訴した。司法省反トラスト局が提出した同意
判決案が裁判所によって承認され,それによると,蒸気タービン
分野のジョイント・ベンチャーについては今後10年間司法省の承
認なしに行うことが禁じられ,電力の配送分野のジョイント・ベ
ンチャーに関しては一定の条件の下で行うことが認められた。
 司法省反トラスト局は,イースタン航空による,フィラデル
フィア国際空港の乗客搭乗ゲート及びフィラデルフィア-トロン
ト(カナダ)間の航路権のUSエアへの売却計画に対し,提訴す
る旨を表明した。また,同じ航空業界に関し,司法省反トラスト
局は,AMR社(アメリカン航空の親会社)とデルタ航空とが計画
したCRS(コンピューター座席予約システム)に関するジョイン
ト・ベンチャー(両社は,CRS運用ではそれぞれ米国1位,5
位であり,市場シェアは合わせて約48%となる。)を阻止するた
め,提訴する旨を表明した。いずれの事件においても,反トラス
ト局がその意図を表明した後,各当事者が当該取引を断念した。
(ウ)  連邦取引委員会は,52件の追加情報を求める文書を発出した。ま
た,連邦取引委員会は,合併を阻止するために8件の暫定的差止命
令の請求を行った。
政府規制緩和
(ア)  司法省反トラスト局は,電気通信,郵便事業,銀行事業,運輸事
業,エネルギー等の分野における政府規制に関し,関係当局に意見
を提出し,政府の規制を排除し,競争を増進するよう提唱した。
(イ)  連邦取引委員会は,競争及び消費者保護の観点から,連邦及び州
による反競争的規制を検討するため多くの調査を行った。事務局は
1989年中に,広告,反トラスト,通信,ヘルス・ケア,職業免許
制,使用料規制及び輸送といった分野において,関係当局に85件の
意見を提出した。
その他
(ア)  1989年中に判決が下された連邦最高裁判所関係の民事事件とし
て,価格協定の対象となった製品の間接購入者からの損害賠償請求
に関する事件がある。セメントの価格協定に係る損害賠償請求につ
いて地方裁判所で和解が成立し,和解金を配分することとなった
が,地方裁判所は,州法によって間接購入者からの請求を認めるこ
とは連邦の反トラスト政策に矛盾するものであり,この点は連邦法
によって「先占」されているとして,間接購入者による損害賠償請
求を認める州法に基づき請求を行った州には和解金を配分しなかっ
た。控訴裁判所も地方裁判所の判決を支持したため,州が連邦最高
裁判所に上告していたのが本件であるが,最高裁判所は1989年4月
18日,連邦法による明示又は黙示の先占は存在しないと判断し,そ
うした州法は連邦法と矛盾するものではないと判示した。
(イ) 私人による反トラスト法訴訟事件数
 1988年7月1日から1989年6月30日の間に私人により裁判所に提起
された訴訟は639件であり,前年度の654件に比して2.3%の減少
となった。
10-2 西ドイツ
(1) 法制の動き
 競争制限禁止法の第5次改正が行われ,1990年1月1日に発効した。
この改正の主要な点は,以下のとおりである。
 合併規制の改善のために購買力の面からの市場支配的地位を認定
する際の基準を新たに導入すること。
 競争者の株式の取得が25%未満であっても,競争に重要な影響を与
える場合には,合併規制の対象とすること。
 市場支配的地位を有する事業者が,中小企業の活動を不公正に妨害
することを禁じている規定の有効性を高めること。
 損害賠償請求訴訟において,反競争的な行為に関する原告の立証責
任を軽減させること。
 中小企業間の共同購買協定に対する適用除外制度を設け,市場力を
有する大企業との競争力を高めること。
 公益事業,運輸,銀行及び保険の分野における適用除外を縮小させ
ること。
法の適用
カルテル規制
 連邦カルテル庁が規制した主要なカルテル違反事件として次のよう
なものがある。
(ア)  連邦カルテル庁は,暖房・空調・換気・衛生装置の分野における
入札談合に関し,47社及び責任のある役員に総額5,600万マルクの
過料を科した。関連企業のうち3社は,外国企業グループの子会社
である。
(イ)  連邦カルテル庁は,1990年初頭,製薬及びガラスの卸売取引にお
いて違法なカルテルが行われた疑いがあるとして,2件の大規模な
捜索と差押えを実施した。
適用除外カルテルの認可
 連邦カルテル庁と連邦経済大臣により認可された中小企業カルテル
等の件数は,1989年12月末現在,227件(前年同月末現在222件)であ
る。1989年に新たに認可されたカルテルは10件であり,廃止されたカ
ルテルは5件であった。
市場支配的地位の濫用規制
 1989年においても,少数ではあるが,保険,銀行,公共事業の分野
において市場支配的地位の濫用の事例がみられた。しかし,連邦カ
ルテル庁がこうした行為に対して正式措置を採る前に,関係企業は
当該行為をやめている。
合併及び集中
(ア)  1989年(1月~12月)において,連邦カルテル庁は,1,415件の
合併・株式取得,(以下「合併等」という。)の届出を受理した。これ
は,対前年比22%増であり,1987~88年にかけての30%増に比べて
下がっているが,1975年以来の年間平均増加率を上回っている。こ
れら届け出られた件数のうち,同期間中に7件の合併等を禁止し
た。1973年の合併規制導入から1989年末までの合併等届出件数の
累計は,1万849件,正式手続による禁止処分の累計は93件であ
る。
(イ)  連邦カルテル庁による主要な合併規制として次のものがある。
 MAN社によるスイスのズルツァー社の舶用ディーゼルエンジン
部門の取得禁止。世界で舶用の2気筒ディーゼルエンジンを開発
している企業は,三菱重工以外にはMANとズルツァーのみであ
り,かつ,MANは,当該取得によって500kW を超える出力の
2気筒ディーゼルエンジンの唯一の供給者となり,世界の市場を
考慮に入れたとしても,MANは当該取得によって市場支配的地
位を得ることとなると判断されたものである。両社は,連邦経済
大臣の認可を申請したが,認可は与えられなかった。
 ドイツ・ユニレバー社(ユニレバー・ロッテルダム-ユニレバー・
ロンドン社の子会社)とマーティン・ブラウン・バックミッテル
社の合併禁止。当該合併が行われていれば,ユニレバー社が,5
億マルクの市場規模を有する製菓用材料市場で44%のシェアを獲
得し,当該市場において卓越した地位を獲得することとなると判
断されたものである。
 テンゲルマン社によるゴットリープ社の全資本の取得禁止。食品
小売取引において主導的な役割を果たしているテンゲルマン・グ
ループとゴットリープ社は,同じ事業分野に属しており,当該取
得によりバーデン・ヴュルッテンベルク地方における関連市場に
おいて卓越した地位を獲得することとなると判断されたものであ
る。
(3) 規制緩和等
 連邦政府の民営化計画は,ほぼ完了した。ルフトハンザの政府保有株
式の割合は,増資に参加しなかったことにより51.62%にまで減少し,
ドイツ地代銀行の政府保有株式の割合は,99%から51%に減少した。ま
た,ドイツ国有鉄道は,シェンカー運送会社の22.5%の株式を売却し
た。しかし,西ドイツは連邦制国家であるため,州の所掌領域での民営
化には未だ残されている分野がある。
 また,EC法に沿った規制緩和措置として,外国弁護士による国境を
越えたサービスの提供が自由化された。
10-3 イギリス
(1) 法制の動き
制限的取引慣行法令に関する政府提案
 イギリス法をEC法に沿ったものとするための現行制度の抜本的改
正が提案されており,この新しい制度の概要を記載した「市場開放:
制限的取引慣行の新政策」と題する報告書が,1989年7月議会に提出
されたが,法制化の時期は未だ発表されていない。提案されている新
制度の内容は,次のとおりである。
(ア) 競争制限的協定の原則禁止と登録制度の廃止
 競争を妨げ,制限する目的又は効果を有する協定及び協調的行為
は原則として禁止され,現行の制度における制限的協定の登録義務
はなくなる。禁止の適用が除外されるものは,①競争に対する損害
を補って余りある経済的,技術的利益をもたらす協定(なお,一定
のタイプの協定は「一括適用除外」とされる。),②特定の条約,法
律等に基づいて大臣により認可された協定等である。
(イ) 制裁金制度の創設
 制限約協定を実施した事業者に対する制裁金が導入され,その金
額は,当事者のイギリスにおける売上高の10%又は25万ポンドを上
限としている。制裁金の決定は,新たに設置される制限的取引慣行審
判所(Restrictive Trade Practices Tribunal)により行われる。
 なお,当事者の合算した売上高が500万ポンドに満たない協定に
ついては,制裁金は免除される。
1989年会社法
 合併調査の手続に関し,次のような改正が行われた。
(ア)  公正取引庁長官に対する合併計画の任意の事前届出制度の導入。
これは,計画に問題がなければ,競争担当大臣(貿易産業大臣)が
独占及び合併委員会(MMC)に対し付託を行わないという決定
(合併の認可)を通常4週間以内に行うものであり,1990年4月1
日発効した。
(イ)  合併案件の調査を独占及び合併委員会に付託する代わりに,合併
される事業の一部を分離することを内容とする法的拘束力をもった
確約書(undertakings)を,公正取引庁長官及び貿易産業大臣がそ
れぞれ当事者から受領する権限の導入。これは,1989年11月16日発
効した。
(ウ)  合併規制の費用を回収するための手数料の導入。この手数料制度
導入の期日は未定である。
著作権,商標及び特許に関する1988年法
 商標権の保護等を規定するもので,1989年8月1日発効した。
1989年水道法
 イングランド及びウェールズの水道供給及び下水道を民営化し,監
視及び水質規制業務を実施するため国立河川局を設立するものであ
る。また,規制目的に適合するよう事業者の特別な合併規制制度を創
設している。さらに,水道供給及び下水道の規制制度を運用し,競争
法令に基づく独占及び合併委員会への付託を行う権限を有する水道局
長(Director General of Water Supply)の創設も規定している。
1989年11月22日発効。
1989年電気事業法
 民営化に先立ち,当該事業のリストラクチュアリングを図り,発電
及び電力供給に競争を導入するものである。中央電力庁(CEGB)
の分割,電力供給会社への免許賦与,並びに当該事業における規制及
び競争の促進を所掌する電気供給局長(Director General of Elect-
ricity Supply)の創設を規定している。
1987年海峡トンネル法に基づく命令
 英国とフランスを結ぶ高速鉄道に関する協定について英国競争法の
適用を除外する3本の命令が,1989年11月及び12月に発せられた。
(2) 法の運用
カルテル規制
(ア)  1976年制限的取引慣行法により,競争制限的な協定は登録制と
なっている。
 1989年には,商品に関する協定520件,サービスに関する協定478
件,合計998件の協定が新たに登録された。これにより,登録され
た協定は,商品に関するものが5,914件,サービスに関するものが
2,710件となった。
(イ)  登録すべき協定が登録されていないと認める場合,公正取引庁長
官は関係者に対して詳細な情報を求める通知を発出することができ
るが,1989年には,バス事業,ビール産業,不動産業等に関する協
定について32件の通知が発出された。
独占に関する調査
(ア)  1973年公正取引法に基づき,公正取引庁長官は独占状態(1社で
英国市場の25%以上のシェアを有する場合等)が存在すると思料す
る場合は,それについて独占及び合併委員会に調査を付託すること
ができる。1989年には,①ロンドン大展示ホール電気契約,②映画
広告サービス,③英仏海峡フェリー,④プラスターボード供給の4
件について付託された。
(イ)  独占及び合併委員会は,1989年に①あへん加工物,②ビール,③
義足,④開業医,⑤土木コンサルタント,⑥整骨医,⑦クレジッ
ト・カード,⑧英仏海峡フェリーの8件の独占状態についての報告
書を公表した。報告書によれば,①については,マクファーレン・
スミス社がその支配的地位を有する市場において高価格を押し付け
ていたと認め,このような行為は公共の利益に反するとされた。②
については,特定の会社のビールのみを販売する酒店制度は公共の
利益に反するとされた。③については,インターメッド社の独占が
公共の利益に反するとされた。④~⑥については,これら自由業の
団体による広告規制が公共の利益に反するとされた。⑦について
は,クレジット・カード会社の規約及び慣行の一部が公共の利益に
反するとされた。⑧については,P&Oとシーリンクの2社による
共同運行計画は公共の利益に反するとされた。
反競争的行為に対する規制
 1980年競争法に基づき,公正取引庁長官は反競争的行為を調査し,
調査報告書を公表している。
 1989年には4件の報告書が公表され,ブラック・アンド・デッカー
社による一定価格以下で製品(電動工具)を販売する小売業者への供
給拒否,及び3バス会社(ウェスト・ヨークシャー・ロード・カー
社,ハイランド・スコティッシュ・オムニバス社及びサウス・ヨーク
シャー・トランスポート社)の略奪的行為が反競争的であるとされ
た。
合併及び集中規制
(ア)  1989年に,公正取引庁は427件の合併等に関する事案を審査し
た。うち281件について,公正取引庁長官は,調査のため案件を独
占及び合併委員会に付託するかどうかについて貿易産業大臣に対し
助言を行った(昨年は306件)。残り146件は,計画が放棄されたか,
調査の必要がないと判断されたものである。
(イ)  助言が行われた281件の業種別内訳では,「その他事業サービス」
33件,「機械工学」27件,「流通」27件,「食料・飲料・たばこ」20
件等が上位を占めている。
 合併形態別では,水平的合併が60%, 垂直的合併が2%,混合合
併が37%となっている。
(ウ)  1989年に,貿易産業大臣は独占及び合併委員会に対し14件の付託
を行った。これらはすべて公正取引庁長官の助言に従ったものであ
る。
(エ)  独占及び合併委員会は,1989年に13件の合併等に関する報告書を
公表した。これら報告書において,①バジャーライン社とミッド
ランド・レッド・ウェスト社,②エルダー社とスコティッシュ・ア
ンド・ニューカッスル社の合併及び③グランド・メトロポリタン
社,④コーツ・ヴィエラ社による買収が公共の利益に反すると判断
された。また,GECシーメンス社とプレッシー社の合併計画につ
いては,防衛電子産業における競争を阻害し,国家安全保障にかか
わるため公共の利益に反すると認められたが,これらについて改善
が図られれば合併を進展させることは許容されるとされた。
10-4 フランス
(1) 法制の動き
廃油収集の独占を禁止する1989年8月31日の命令(Decree)
 従来1県につき1業者により行われてきた廃油回収について,複数
業者に免許を与え,競争を導入するものである。
1904年12月28日の法律の改正案
 この法律は,市町村に公共事業の独占(当局自らが行うか,免許を
受けた業者に委託する。)を認めているが,これにより提供されるサー
ビスがしばしば透明性を欠き,高価格であるため,経済,内務,保健
の各担当大臣は,実態調査のため検討委員会を設立した。同検討委員
会は,1989年7月,制度改革に関する報告書を提出した。
価格に関する命令(Decree)
 価格規制は,価格及び競争の自由に関する1986年12月1日の命令
(Ordinance)(新競争令)第1条に基づく自由競争の原則の例外とし
て認められているが,これに関し,第1条第2項に基づいて次の二つ
の命令(Decree)が施行された。
自動車専用道路料金に関する1988年12月30日の命令第88-1208号
自動車専用道路及び高速道路における修理及び牽引サービス料金に
関する1989年7月11日の命令第89-477号
また,第1条第3類に基づく非常事態に対する価格規制として,グ
アドループ(カリブ海にあるフランスの海外県)におけるハリケーン
災害に対処するため,1989年9月20日,特定必需品の価格と利益率を
規制する命令が発せられた(この条項が適用されたのは今回が最初)。
(2) 法の運用
競争評議会の活動
 1989年には,競争評議会は105件の事件を受け付け,59件について
決定を行い,このうち14件について総額3億5,850万フランの過料を
科した。過料金額の大きな事件としては,71の高速道路建設業者に対
する総額1億6,700万フラン,43の電気工事業者に対する総額1億
2,800万フランがある。前者は,1984年から1986年までの間フラン
スの中部,東部,南部で行われた道路建設及び補修に係わる80件の入
札談合に関するものであり,過料金額は過去最高であった。後者は,
1983年から1987年までの間に行われたパリ地下鉄,ポンピドー芸術文
化センターその他の公共建築物の電気設備及びその維持管理契約に関
する10件の入札談合に関するものである。
 また,この年,競争評議会は,経済力の集中に関する意見2件を含
む合計13件の意見を提出した。
パリ控訴裁判所の活動
 競争評議会の決定に対する訴訟を審理するパリ控訴裁判所は,1989
年に20件の判決を行った。
破毀院(最高裁判所)の活動
 1989年,破毀院には,競争評議会の決定に関して控訴裁判所により
下された判決に対する上訴が8件提起され,1件について判決が行わ
れた。この判決において被綾院は,薬局を通じた医薬品メーカーの排
他的流通を違法とした控訴裁判所の判決を支持した。
競争・消費者問題・不正行為防止総局の活動
(ア)  1989年に同総局は,新競争令第4章に規定される制限的行為(お
とり販売,最低価格強要等)の規制について18,827件(価格の表示
に関するものを除く。)の調査を行い,このうち1,408件について警
告を発し,853件について報告書を作成した。
(イ)  新競争令第3章に規定される反競争的行為(カルテル,支配的地
位の濫用等)については,212件の調査を実施し,このうち34件が
競争評議会に付託された。
(ウ)  同総局は,競争評議会の決定の履行状況の監視,過料の徴収を所
掌しており,1989年末では,徴収されるべき過料の90%が既に支払
われた。
(エ)  合併・企業集中の規制に関して同総局は,1989年に801件の案件
を処理した(1988年は751件)。部門別に見ると,「資本財」(184件),
「サービス」(153件),「消費財」(141件)等が上位を占めている。
10-5  E    C
(1) 法制の動き
 1989年12月21日,EC閣僚理事会は企業間の結合の規制に関するEC
委員会の提案(合併規制規則)を採択した。
 既存の競争規則は共同体レベルの企業結合の問題を扱うには十分では
なく,このような規制の必要性は1973年のコンチネンタル・カン事件の
判決によっても認識されていたが,閣僚理事会が合併規制規則の作成に
積極的な姿勢を示したのは1987年からである。
 合併規制規則において,「結合」は管理(control)の取得として定義
され,合併及び企業買収の双方を包含する。この定義により,部分的な
合併や合併型ジョイント・ベンチャーは規制対象に含まれるが,独立性
を保った事業者間の行為の調整な含まれない。
 合併規制規則の基本的理念は,ECが所管する共同体規模の結合と,
各国が所管する各国領域内に影響が限られる結合とを明確に区別するこ
とである。この観点から,合併規制規則は共同体規模の結合を次の三つ
の基準により定義している。
 関係事業者の全世界での合計売上高が50億ECU以上。この金額
は,関係事業者の経済力及び財務力を反映する。金融機関と保険会
社の場合は別の基準が適用される。
 関係事業者の少なくとも2社のそれぞれの共同体における売上高
額が2億5千万ECU以上。これにより,共同体における活動が顕
著な事業者がカバーされる。
 関係事業者のそれぞれがその売上高の3分の2を同一加盟国内で
得ている場合には,ECの規制は適用されない。この基準は,影響
が主に特定の加盟国内に限られる結合を,共同体レベルの規制から
除外するものである。
 合併規制規則実施の最初の段階であるため,基準点は高めに設定され
ており,審査対象となる結合は年間50件程度と見込まれているが,実施
後の経験を踏まえて,規則採択後4年以内にこれらの基準は見直される
ことになっている。
 審査の基準となる理念は「支配的地位」である。「有効な競争の維持
促進が共同体市場又はその実質的部分において相当程度阻害されること
となる支配的地位を形成又は強化する結合は,共同体市場と両立しな
い」と決定される。審査に当たっては,関係市場の構造,現実のまたは
潜在的競争状態,関係事業者の市場における地位,参入障壁,消費者の
利益等,競争に関する様々な側面が勘案される。
 規制を効果的なものとし,事業者が法的確実性を享受できるよう,次
の措置が採られている。
 関係事業者による事前届出義務。これは結合を3週間(延長可能)
待機させる効果をもっている。
 EC委員会の処理期限の設定。EC委員会は,届出から1か月以
内に審査手続を開始するかどうか決定しなければならない。この期
間内にEC委員会が何ら異議を唱えない場合は,当事者な結合を実
施できる。審査手続の開始から4か月以内にEC委員会は当該結合
に関する最終決定を行わなければならない。
 EC委員会の調査権及び規則に規定されている過料は,制限的慣
行に適用されるものと類似している。さらに,EC委員会は,不法
に結合された事業者や資産を分離するよう求めることもできる。
 合併規制規則は,排他性の原則に基づいている。すなわち,規則の適
用範囲内の共同体規模の結合に関する決定はすべてEC委員会によって
行われ,加盟各国の法律な適用されない。しかし,この排他性の原則に
は次の二つの例外がある。
 近隣地域と競争の状態が明らかに異なる区分された市場(disti‐
nct market)において支配的地位の問題が生じ,EC委員会が各国
当局に当該事案を付託した場合。
 合併規制規則により保護される利益とは別の適切な利益(公衆の
安全,報道機関の複数性等)を加盟国が求める場合。
 合併規制規則の適用対象外の集中は加盟国の管轄となるが,加盟国内
の支配的地位に関する問題が生じ,関係加盟国の要請がある場合は,E
C委員会はその権限を行使することができる。
 この規則は,採択から9か月後(1990年9月21日)に発効する。
(2) 法の運用
 1989年にEC委員会は,EEC条約(ローマ条約)第85条(競争制
限的な協定等の禁止)及び第86条(支配的地位の濫用)に基づき15件
の決定を行った。第85条に基づく決定は13件であり,その内訳は,過
料を伴う禁止決定2件,過料を伴わない禁止決定1件,ネガティブ・
クリアランス(不問証明)1件,適用除外の決定6件,及び不服申立
却下の決定3件である。第86条に基づく2件の決定は,不服申立却下
の決定である。また,EC委員会な,ECSC条約第65条(協定等の
禁止,認可及び罰則)及び第66条(事業者の結合の規則及び罰則)に
基づき15件の決定を行った。
 1989年12月31日現在,EC委員会は3,239件の未処理案件を抱えて
いる。そのうち,2,669件が申請又は届出,359件が企業からの不服申
出であり,残り211件はEC委員会が独自に手続を開始したものであ
る。
主要事例
(ア) 溶接金網(Welded Steel Mesh)
 EC委員会は,1981年から1985年までの間,価格維持や市場分割
を意図した一連の協定又は共同行為を行っていた溶接金網の主要
メーカー14社に合計950万ECUの過料を科した。溶接金網は,建
設業や公共事業,その他の産業において広く使用されており,その
主要メーカーである本件の関係企業は,1985年の総生産額の47%を
占めている。
 EC委員会は過料額の決定に当たり,長期にわたる実行期間,そ
の重大性,そして過去にEC委員会により違法とされてきた輸出禁
止,市場分割,価格維持のような行為を行ったという事実を勘案し
た。しかし,EC委員会は,このカルテルが実施されていた時期に
は当該産業は危機に直面しており,供給能力過剰の問題を抱えてい
たことも考慮した。
 この決定に対し,3企業が過料を支払い,11企業は銀行保証を供
託した後,第一審裁判所に提訴した。
(イ) バイエルAG(Bayer AG)
 EC委員会は,化学会社バイエルAGと飼料業界の顧客との間の
協定に関し,バイエルAGに対し50万ECUの過料を科した。この
協定の下で顧客らは,バイエルの製品である“Bayo-n-ox Premix
10%“という成長促進剤を専ら自らの使用をまかなうためにのみ購
入することを強要されていた。
 この製品は特許により保護されていたが,西ドイツでは1985年に
特許の期限が切れたため,西ドイツにおけるバイエルの顧客は周辺
国の購入者にとって有利な供給源となった。この協定は,西ドイツ
の購入者が,特許保護がいまだ存在し,価格が高い他の加盗国にこ
の製品を輸出・再販売することを妨げていた。
 EC委員会の決定により,バイエルAGはこの協定を終結させ
た。