ア |
司法省反トラスト局及び連邦取引委員会の措置件数 |
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1989年中,司法省反トラスト局は,142件の正式審査を開始し,97
件の反トラスト事件を提訴した。
連邦取引委員会は,合併を含む競争に関するすべての問題に関し
て,63件の第一次段階審査,54件の全面的審査を開始したほか,6件
の審決,7件の審判開始決定を行い,14件の同意審決に最終的な承認
を与え,5件の同意審決案について一般のコメントを求めた。また,
2件の民事罰を求める訴えを提起し,2件の判決を得た。 |
イ |
司法省反トラスト局の提訴事件の概要 |
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1989年に司法省反トラスト局が行った刑事訴追件数は,計91件で
あった。その対象となった行為類型には,水平的な価格協定,市場分
割,入札談合,それに付随する顧客配分等があり,対象となった事業
分野には,コンクリート・ブロック,連鎖式フェンス,ソフト・ドリ
ンク,溶接金網,油田用塩水充てん液,道路建設,浚渫及び電気工事
プロジェクト,廃棄物処理,自動車部品,中古事業用機器の競売等が
ある。
司法省が特に関心を有している事件として,事業用中古機械及び装
置の競売において行われた入札談合に関するものがある。1989年だけ
で,司法省は,19企業,8個人に対する有罪判決を得てきており,罰
金総額は140万ドル近くに達し, 2人が禁錮刑に処せられた。 |
ウ |
連邦取引委員会が審決を行った事件の概要 |
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1989年に連邦取引委員会が審決を行った事件の代表例として,次の
ものがある。
(ア) |
デトロイト地区の新車ディーラーが,ショー・ルーム閉鎖日の協
定を行っていたところ,同委員会は,これは経済的には価格協定に
等しいものであり,不当な取引制限であると認定し,ディーラーに
対して審決確定後1年間,週に少なくとも一定時間以上営業するよ
う命じた。 |
(イ) |
ニュー・イングランド陸運料金協会(Rate Bureau)が,2つの
州においてそのメンバーの運送業者に対し,貨物の州内輸送運賃を
共同で設定,届出させていたところ,同委員会は,当該行為が経済
的には違法な価格協定に等しいものであると認定した。ここでは,
陸運料金協会の行為が州政府の行為の理論(競争を規制で置き換え
る旨の「明確に表明された」州の政策があり,企業の行為が州によっ
て厳格に監督されている場合には,反トラスト法上の責任を免除す
るという考え方)によって保護されるのかどうかが争点となった
が,同委員会は,当該2州においてはこの基準が満たされていない
と判断した。この審決に対しては,被審人(料金協会)が裁判所に
提訴し,事件は係属中である。 |
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エ |
合併規制 |
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(ア) |
司法省反トラスト局及び連邦取引委員会は,ハート・スコット・
ロディノ法の合併事前届出条項に基づき,1989年中に2,818件の合
併計画に関して5,364件の届出を受理した。 |
(イ) |
司法省反トラスト局は,43件の合併計画に関して77件の追加情報
を求める文書を発出した。また,同期間中,銀行その他金融機関に
よる1,200件の合併及び取得の審査に関与した。
司法省反トラスト局が提訴した代表的な事件として,次のものが
ある。
① |
司法省反トラスト局は,米国企業のウエスティングハウス社と
スイス-スウェーデン企業のABB社が計画した二つのジョイン
ト・ベンチャー(産業用蒸気タービン発電設備の製造・販売,電
力の伝送・配送設備の事業)について,高度に集中化したそれぞ
れの市湯(蒸気タービンの分野では両社合わせて62%の市場シェ
アを有し,変流変圧器の分野ではABB社単独で50%以上の市場
シェアを持つ。)での主導的競争者が結合することとなり,極め
て反競争的な効果がもたらされるおそれがあるとして,当該計画
を阻止するために提訴した。司法省反トラスト局が提出した同意
判決案が裁判所によって承認され,それによると,蒸気タービン
分野のジョイント・ベンチャーについては今後10年間司法省の承
認なしに行うことが禁じられ,電力の配送分野のジョイント・ベ
ンチャーに関しては一定の条件の下で行うことが認められた。 |
② |
司法省反トラスト局は,イースタン航空による,フィラデル
フィア国際空港の乗客搭乗ゲート及びフィラデルフィア-トロン
ト(カナダ)間の航路権のUSエアへの売却計画に対し,提訴す
る旨を表明した。また,同じ航空業界に関し,司法省反トラスト
局は,AMR社(アメリカン航空の親会社)とデルタ航空とが計画
したCRS(コンピューター座席予約システム)に関するジョイン
ト・ベンチャー(両社は,CRS運用ではそれぞれ米国1位,5
位であり,市場シェアは合わせて約48%となる。)を阻止するた
め,提訴する旨を表明した。いずれの事件においても,反トラス
ト局がその意図を表明した後,各当事者が当該取引を断念した。 |
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(ウ) |
連邦取引委員会は,52件の追加情報を求める文書を発出した。ま
た,連邦取引委員会は,合併を阻止するために8件の暫定的差止命
令の請求を行った。 |
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オ |
政府規制緩和 |
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(ア) |
司法省反トラスト局は,電気通信,郵便事業,銀行事業,運輸事
業,エネルギー等の分野における政府規制に関し,関係当局に意見
を提出し,政府の規制を排除し,競争を増進するよう提唱した。 |
(イ) |
連邦取引委員会は,競争及び消費者保護の観点から,連邦及び州
による反競争的規制を検討するため多くの調査を行った。事務局は
1989年中に,広告,反トラスト,通信,ヘルス・ケア,職業免許
制,使用料規制及び輸送といった分野において,関係当局に85件の
意見を提出した。 |
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カ |
その他 |
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(ア) |
1989年中に判決が下された連邦最高裁判所関係の民事事件とし
て,価格協定の対象となった製品の間接購入者からの損害賠償請求
に関する事件がある。セメントの価格協定に係る損害賠償請求につ
いて地方裁判所で和解が成立し,和解金を配分することとなった
が,地方裁判所は,州法によって間接購入者からの請求を認めるこ
とは連邦の反トラスト政策に矛盾するものであり,この点は連邦法
によって「先占」されているとして,間接購入者による損害賠償請
求を認める州法に基づき請求を行った州には和解金を配分しなかっ
た。控訴裁判所も地方裁判所の判決を支持したため,州が連邦最高
裁判所に上告していたのが本件であるが,最高裁判所は1989年4月
18日,連邦法による明示又は黙示の先占は存在しないと判断し,そ
うした州法は連邦法と矛盾するものではないと判示した。 |
(イ) |
私人による反トラスト法訴訟事件数 |
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1988年7月1日から1989年6月30日の間に私人により裁判所に提起
された訴訟は639件であり,前年度の654件に比して2.3%の減少
となった。 |
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