第2部 各  論

第1章 独占禁止法法制の動き

第1 独占禁止法の改正

 カルテルに係る課徴金の引上げ等を内容とする私的独占の禁止及び公正取
引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成3年法律第42号)は,平
成3年4月19日に成立した(4月26日公布,7月1日施行)。改正の背景,
検討経緯,内容は次のとおりである。

改正の背景と検討の経緯
 国民生活を一層充実し,我が国経済を国際的により開かれたものとする
ため,独占禁止法違反行為に対する抑止力の強化を図ることが政府の重要
課題の一つとなっている。公正取引委員会は,このような観点を踏まえ,
違反事件の審査体制の強化を始め,独占禁止法違反行為に対する抑止力を
強化するため,各般の取組を行っている。
 その一環として,カルテルを行った事業者等に対して課せられる課徴金
を強化するため,その引上げについての独占禁止法改正法案を第120回通
常国会に提出することを予定する旨が閣議で了解され,日米構造問題協議
最終報告に盛り込まれた。
 これを受けて,課徴金に係る独占禁止法改正の具体的内容について広く
各界の有識者の意見を求めるため,内閣官房長官の下で「課徴金に関する
独占禁止法改正問題懇談会」(座長 館龍一郎東京大学名誉教授)が開催さ
れた。同懇談会は,平成2年7月以降,延べ10回に及ぶ会合を開いて課徴
金制度に関する基本的考え方,課徴金の水準・算定方式のほか,制度全般
について幅広く検討を行った。この検討結果に基づき,同懇談会は,平成
2年12月21日,課徴金制度が導入された昭和52年以降の社会・経済情勢の
変化及びこれを取り巻く国際的環境の変化を踏まえ,特に,①消費者利益
を確保することの重要性が高まっていること,②我が国企業の経営体質が
全体として強化されたことに伴い,現行の課徴金制度の下で企業に課され
る経済的負担の程度が制度導入時に比べ相対的に低下していること,③独
占禁止法違反行為に対する抑止措置について,国際的調和を図る観点から
制度全体として著しいアンバランスがないようにする必要があること等か
ら,課徴金制度について,その水準の抜本的な見直し等を行う必要がある
旨を骨子とする報告書を提出した。
改正法案の国会審議
 公正取引委員会は,上記報告書を踏まえ,平成3年1月11日に独占禁
止法改正法案の骨子を作成・公表し,これに基づき改正法案を取りまとめ
た。改正法案は,2月26日に閣議で決定の上,同日,国会に提出された。
 内閣提出の改正法案は,3月6日に衆議院商工委員会に付託され,同日,
提案理由説明が行われた後,同月13日に同委員会で,同月14日に本会議で
それぞれ全会一致で可決された。法案は,同日,参議院に送付され,参議
院商工委員会に付託された後,4月16日に提案理由が行われ,同月18日
に同委員会で,同月19日に本会議でそれぞれ全会一致で可決され,成立
した。なお,衆・参商工委員会においてそれぞれ附帯決議が付された(附
属資料2─3)。
改正の内容
 主な改正内容は,次のとおりである。
(1)  不当な取引制限等を行った事業者等に対して納付を命ずる課徴金の額
の計算に係る売上額に乗じる率を引き上げ,100分の6(小売業100分の
2,卸売業100分の1)とし,中小事業者に対しては別に率を設定し,
100分の3(小売業100分の1,卸売業100分の1)とした。
 中小事業者の範囲は,資本の額又は出資の総額が1億円以下並びに従
業員の数が300人以下の会社及び個人(卸売業3000万円以下又は100人以
下,小売・サービス業1000万円以下又は50人以下)とするとともに,政
令で業種ごとに中小事業者の範囲の特例を定めることができるとした。
(2)  課徴金の算定の基礎となる実行期間は,従前は限度を定めていなかっ
たが,終期から起算して3年を限度とした。
(3)  課徴金額が一定の額に満たないときは,その納付を命ずることができ
ないとしているが,この額を20万円未満から50万円未満に引き上げた。

第2 独占禁止法改正に伴う政令の制定・改正

 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律
の施行期日を定める政令(平成3年政令第192号)の制定
 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律
(平成3年法律第42号)は,平成3年7月1日から施行するとした。
 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正す
る政令(平成3年政令第193号)の制定
(1) 中小事業者の範囲の特例
 前記のとおり,改正後の独占禁止法第7条の2第2項は,中小事業者
については,これらに対して適用される課徴金の算定率を別に設定して
いる。これらの中小事業者の範囲については,同項第1号,第2号で基
本的な定義が定められているが,第3号において,別途,政令で業種ご
とにその範囲について特例を置くことができるとしている。このため,
法の施行に伴い,独占禁止法施行令を改正し,同令第6条で陶磁製品製
造業等5業種について業種ごとにそれぞれ範囲の特例を定めることとし
た。
(2) 独占禁止法第9条の2の適用除外株式に係る施行令の改正について
 独占禁止法第9条の2は,大規模会社の株式所有総額を制限している
が,同条第1項第1号は,政府等が出資している会社の株式を総額規制
の対象外とする旨定めており,これを受けて施行令第6条第1号では政
府等の出資比率が25%以上のものについて一律に,第3号では25%未満
であっても個別に指定したものについて適用除外としている。また,法
第9条の2第1項第4号は,国内の産業の開発及び経済社会の発展に寄
与する事業と外国の政府又は外国の法人等に対する投融資事業を併せて
行っている会社の株式を総額規制の対象外とする旨定め,これを受けて
施行令第8条でこれに該当する会社を個別指定している。今回の独占禁
止法施行令の改正では,(1)と併せて,これらの個別指定会社についても
所要の見直しを行い,その追加・削除を行った。

第3 その他の政令の改正

 本年度におけるその他の政令の改正状況は,以下のとおりである。

(1)  公正取引委員会の審判費用等に関する政令(昭和23年政令第332号)が
改正され,当委員会に出頭を命ぜられた参考人及び鑑定人に支払われる日
当額の上限が引き上げられた(平成2年政令第205号)。
(2)  事務局の機構に関し,公正取引委員会事務局組織令等の一部改正が行わ
れた(附属資料1-1)。

第4 独占禁止法と他の経済法令との調整

法 令 調 整
 当委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から経済法令の制定又
は改正を行おうとする際に,これら法令に独占禁止法の適用除外や競争制
限的効果をもたらす行政庁の処分についての規定を設ける等の場合には,
その企画・立案の段階で当該行政機関から協議を受け,独占禁止法及び競
争政策との調整を行っている。
 本年度において調整を行った主なものは,次のとおりである。
(1)  大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律の一部
を改正する法律案及び輸入品専門売場の設置に関する大規模小売店舗に
おける小売業の事業活動の調整に関する法律の特例に関する法律案
 大規模小売店舗については,大規模小売店舗における小売業の事業活
動の調整に関する法律の規定に基づいて,その出店について調整が行わ
れている。
 通商産業省は,消費者利益への十分な配慮,手続の迅速性の確保,手
続の明確性・透明性の確保等を基本的視点に捉え,①出店調整手続・機
関の明確化・透明化,②地方公共団体の独自規制の抑制等を図るため,
大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律の一部を
改正する法律案を立案した。
 また,輸入拡大の国際的要請の配慮の観点から,同省は,大規模小売
店舗内において専ら輸入品を販売する売場を一定規模以下で設置する場
合に,当分の間,同法の規定による調整を受けることなく設置すること
ができるようにするため,輸入品専門売場の設置に関する大規模小売店
舗における小売業の事業活動の調整に関する法律の特例に関する法律案
を立案した。
 当委員会は,大規模小売店舗の出店が,明確で透明な手続の下で行わ
れ,小売業における競争が一層活発に行われ,事業者の創意工夫が発揮
されることが重要であるとの基本認識の下に,いわゆる大店法5法案を
構成する他の3法案(特定商業集積の整備の促進に関する特別措置法
案,中小小売商業振興法の一部を改正する法律案,民間事業者の能力の
活用による特定施設の整備の促進に関する臨時措置法の一部を改正する
法律案)と合わせ,通商産業省と所要の調整を行った。
 両法律案の内容は,おおむね次のとおりである。
大規模小売店舗における小売業の事業活動の調整に関する法律の一
部を改正する法律案
(ア)  大規模小売店舗審議会における調整審議を充実させるため,消費
者,小売業者,学識経験者及び商工会議所・商工会からの意見聴取
を義務付ける。
(イ)  地方公共団体による独自規制を抑制するため,地方公共団体が独
自規制を行う場合には,この法律の趣旨を尊重して行うものとする
こととする。
(ウ)  第一種大規模小売店舗と第二種大規模小売店舗との境界面積を
1,500㎡(政令指定都市においては3,000㎡)から3,000㎡(同6,000㎡)
に引き上げる。
(エ)  改正法の施行から2年以内に見直しを行う。
輸入品専門売場の設置に関する大規模小売店舗における小売業の事
業活動の調整に関する法律の特例に関する法律案
 大規模小売店舗における店舗の全部又は一部であって,専ら輸入品
を販売するために設置される一定規模以下(一の建物において1,000
㎡)の売場について,当分の間,大規模小売店舗における小売業の事
業活動の調整に関する法律に定める
通商産業大臣又は都道府県知事による調整,勧告,命令,大規模
小売店舗審議会における調査,審議
営業制限
等の手続・制限の適用を除外する。
 なお、両法律案は,第120国会に提出,審議された結果,平成3年
5月8日可決,成立し,同年5月20日公布された。
行 政 調 整
 当委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から行う行政措置につ
いて,当該措置が独占禁止法及び競争政策上問題がある場合には,これら
の措置について当該関係行政機関と調整を行うこととしている。
 本年度において調整を行ったものは,次のとおりである。
 湾岸地域における平和回復活動を行っている米国等関係諸国に対し,
我が国としてその国際約地位にふさわしい支援を行うとの観点から,湾
岸平和基金に90億ドル相当の追加拠出を行うこととされ,その財源措置
の一つとして,石油臨時特別税が平成3年度の1年間に限り課されるこ
ととなった。
 これに伴い,通商産業省から,石油臨時特別税の円滑かつ適正な転嫁
を図るため,石油製品の販売業を行う事業者及び事業者団体が留意すべ
き事項を取りまとめ,これらの事業者及び事業者団体に通知したい旨の
説明があった。
 これに対し,当委員会は,便乗値上げにつながるような価格カルテル
を惹起することのないようにとの観点から,所要の調整を行った。