第4章 流通・取引慣行に関する競争政策上の対応

第1 「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の作成・公表

 公正取引委員会は,「流通・取引慣行等と競争政策に関する検討委員会」
(座長 館龍一郎東京大学名誉教授)からの提言(平成2年6月)を踏まえ,
我が国市場における公正かつ自由な競争を促進し,一般消費者の利益を確保
するとともに,我が国市場を国際的により開かれたものにしていくという,
我が国競争政策の基本的な考え方に基づいて,我が国の流通・取引慣行につ
いて独占禁止法上の考え方を具体的に明らかにし,ガイドラインを作成する
こととし,平成2年9月18日に「輸入総代理店契約等における不公正な取引
方法の規制に関する運用基準」(原案)を,平成3年1月17日に「流通・取
引慣行に関する独占禁止法上の指針」(原案)を作成・公表し,広く国内外
の関係機関,団体に両原案に対する意見を求めた。
 両原案に対しては国内外の関係機関,団体等から多数の意見が寄せられ
た。公正取引委員会は,これらの意見をつぶさに検討し,十分参酌した上,
①内外無差別のものであることをより明確にする,②事例を追加する等より
明確で分かり易いものとする,等の観点から「輸入総代理店契約等における
不公正な取引方法の規制に関する運用基準」(原案)を「流通・取引慣行に
関する独占禁止法上の指針」中に「第3部総代理店に関する独占禁止法上の
指針」として組み入れるなど原案の一部を修正し,「流通・取引慣行に関す
る独占禁止法上の指針」(以下「ガイドライン」という。)を作成し,平成3
年7月11日公表した。

第2 ガイドラインの性格・事前相談制度の設置

(1)  ガイドラインは,我が国の流通・取引慣行についての独占禁止法上の考
え方を具体的に明らかにすることによって,事業者及び事業者団体の独占
禁止法違反行為の未然防止とその適切な活動の展開に役立てようとするも
のである。
(2)  ガイドラインは,流通・取引慣行に関し,独占禁止法上問題となる主要
な行為についてその考え方を示したものであるが,独占禁止法上関題とな
る行為はこれに限られるものではない。ガイドラインに取り上げられてい
ない行為が独占禁止法上問題となるかどうかは,同法の規定に照らして個
別具体的に判断されることとなる。
(3)  事業者等にとって,個々の具体的なケースがガイドラインに照らして独
占禁止法上問題となるかどうかについて判断が容易でないこともあると考
えられることから,ガイドラインの作成を機に流通・取引慣行に係る事前
相談制度を設置した。
(4)  公正取引委員会としては,事業者がこのガイドラインを十分理解し,事
前相談制度を適宜利用することによって,独占禁止法違反の未然防止が図
られるよう強く期待するものである。

第3 ガイドラインの概要

(1)  ガイドラインは,第1部「事業者間取引の継続性・排他性に関する独占
禁止法上の指針」,第2部「流通分野における取引に関する独占禁止法上
の指針」及び第3部「総代理店に関する独占禁止法上の指針」によって構
成されている。
(2)  第1部は,主として生産財及び資本財についての生産者・需要者間の取
引を念頭において,継続的な取引関係を形成・維持するために行われ,又
はこれを背景として行われる事業者の市場への新規参入を阻害し,又は事
業者を市場から排除するおそれのある行為を中心に,主として不当な取引
制限及び不公正な取引方法に関する規制の観点から独占禁止法上の指針を
示しており,次の行為類型を取り上げている。
 顧客獲得競争の制限
 共同ボイコット
 単独の直接取引拒絶
 取引先事業者に対する自己の競争者との取引の制限
 不当な相互取引
 継続的な取引関係を背景とするその他の競争阻害行為
 取引先事業者の株式の取得・所有と競争阻害
(3)  第2部は,主として消費財についての生産者・流通業者間の取引を念願
において,メーカー等が流通業者に対して行う各種の制限行為及び小売業
者と納入業者との取引における優越的地位の濫用行為について,不公正な
取引方法に関する規制の観点から独占禁止法上の指針を示しており,次の
行為類型を取り上げている。
 再販売価格維持行為
 非価格制限行為(流通業者の競争品の取扱い,販売地域,取引先,
販売方法に関する制限)
 リベートの供与
 流通業者の経営に対する関与
 小売業者による優越的地位の濫用行為(押し付け販売,返品,従業
員等の派遣の要請,協賛金等の負担の要請又は多頻度小口配送等の要
請)
(4)  第3部は,財の性格にかかわらず,国内全域を対象とする総代理店
((例)総販売元,輸入総代理店)に関する独占禁止法上の指針を示したも
のであり,次の行為類型を取り上げている。
 競争者間の総代理店契約
 総代理店契約の中で規定される主要な事項(再販売価格,競争品の
取扱い,販売地域,取引先及び販売方法に関する制限)
 並行輸入の不当阻害
(5)  なお,ガイドラインの第1部,第2部及び第3部で示された各行為類型
についての考え方は,財の性質,契約の形態如何にかかわらず,同様の行
為類型に対しても適用されるものである。
(6)  ガイドラインは,財の取引について独占禁止法上の考え方を示したもの
であるが,役務(サービス)の取引についてもその考え方は基本的には同
様である。
(7)  ガイドラインの末尾に,親子会社間の取引に対する不公正な取引方法の
規制についての考え方を示している。