第6章 経済実態の調査

第1 概  説

 当委員会は,競争政策の運営に資する目的から,経済力集中の実態,主要
産業の実態等について調査を行っている。本年度においては,独占的状態調
査,生産・出荷集中度調査,一般集中度調査,政府規制制度等に関する調査
及び企業間取引の実態に関する調査を行った。

第2 独占的状態調査

 独占禁止法第8条の4は,独占的状態に対する措置について定めている
が,当委員会は,独占禁止法第2条第7項に規定する独占的状態の定義規定
のうち,事業分野に関する考え方について,ガイドラインを公表しており,
その別表には,国内総供給価額要件及び市場占拠率要件に該当すると認めら
れる事業分野並びに今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当す
ることとなると認められる事業分野が掲げられている。
 これらの別表掲載業種については,公表資料及び通常業務で得られた資料
の整理・分析を行うとともに,特に集中度の高い業種については,生産,「販
売,価格,製造原価,技術革新等の動向,分野別利益率等について,関係企
業から資料の収集,事情聴取等を行うことにより,独占禁止法第2条第7項
第2号(新規参入の困難性)及び第3号(価格の下方硬直性,過大な利益
率,過大な販売管理費の支出)の各要件に即し,企業の動向の監視に努め
た。

第3 生産・出荷集中度調査

概  説
 当委員会は,我が国産業の経済力集中の実態を把握し,競争政策運営の
基礎的な資料とするため,定期的に主要産業における生産集中度及び出荷
集中度について,調査を実施している。
 本年度は,前年度に引き続き,昭和62年及び昭和63年を調査対象期間と
して調査を実施し,生産集中度に関しては578品目(うち製造業549品目,
非製造業29品目),出荷集中度に関しては387品目(うち製造業372品目,
非製造業15品目)について集計を行い,分析を行った。
(注) 1. 個別企業の生産集中度及び出荷集中度の計算方法は,次のとお
りである。
生産集中度=個別企業の国内生産量(額)/国内生産量(額)
の全国合計
(国内生産量(額)には自己消費,自家使用及び輸出を含む。)
出荷集中度=個別企業の国内向け出荷量(額)/国内向け出荷
量(額)の全国合計
(国内向け出荷量(額)には輸入を含む。)
2. 産業別の集中度の状況を示す指標としては,次のものがある。
(1) 上位累積集中度=上位X社の生産(出荷)の合計/全国合計
(2) ハーフィンダール指数(H.I.) =
Ci:i番目の企業の集中度(%)
n :企業数
調査の概要
(1) 生産集中度
 工業統計表の6桁分類とおおむね準拠させるため,細分類品目の除
外等の調整を行った分析対象製造業436品目(昭和63年工業統計表の
製造業全体の出荷額に占める割合46.6%)の昭和63年における平均集
中度は,第1表のとおりである。

 加重平均集中度の方が単純平均集中度より低いのは,出荷額規模の
大きい品目の集中度が相対的に低いためである。次に産業別に第2表
を見ると,飲料・飼料・たばこ,窯業・土石製品,鉄鋼,輸送用機
械,精密機械等の集中度が高い。
 昭和54年以降63年まで継続的に調査している363品目の生産集中度
(上位3社集中度及びH.Ⅰ.)の動きを見ると,第3表及び第4表
のとおり,単純平均及び加重平均ともにわずかに上昇しているが,年
毎の変動はわずかであり,全体としては安定的である。


 品目により集中度の動きはさまざまであるが,およその傾向とし
て,出荷額規模の小さい品目のグループの集中度は,上昇している
が,出荷額規模の大きい品目のグループの集中度は低下している(第
5表)。また,出荷額が減少したり伸びていない品目のグループは,
概して集中度が上昇しているが,出荷額が伸びている品目のグループ
の集中度は,概して安定的である(第6表)。上記イのとおり単純平
均集中度がわずかに上昇したのは,出荷額規模の小さい品目や出荷額
が減少している等の品目のこのような動きによるものである。
 昭和54年時点の各品目の出荷額でウェイトを固定して各年の加重平
均を求めたH.Ⅰ.の値は,下図のとおり横ばいで推移しており,こ
のことから上記イのとおり加重平均のH.Ⅰ.がわずかに上昇したの
は,集中度の比較的高い品目の全体に占める出荷額ウェイトが伸びた
ためであり,出荷額ウェイトの大きい品目を中心に,集中度自体は安
定的であることが分かる。
(2) 出荷集中度
 分析対象288品目(昭和63年工業統計表の製造業全体の出荷額に占
める割合29.8%)の昭和63年における平均集中度な第7表のとおりで
あり,前記生産集中度よりもかなり高いが,これは出荷集中度調査の
対象が比較的集中度の高い品目を中心としているためである。
 昭和54年以降63年まで継続的に調査している144品目の出荷集中度
(上位3社集中度)の動きを見ると,第8表のとおり,単純平均及び
加重平均とも年変動はわずかであり,全体としては,ほぼ横ばいで推
移しているが,61年ないし62年以降,これらの品目の輸入比率の上昇
に伴い,出荷集中度のやや低下の動きが見られる。
 生産集中度と出荷集中度の対象品目をそろえて(281品目)比較し
てみると,第9表のとおりであり,生産集中度に比べ出荷集中度の方
がやや低い。これは,出荷集中度には輸入が含まれることによる影響
が大きいためである。
 昭和54年以降継続的に調査している生産集中度と出荷集中度の調査
対象品目141品目について昭和54年から63年までの上位3社の平均集
中度の状況を見ると,第10表のとおりであり,生産,出荷ともに集中
度はやや低下している。出荷集中度は,一貫して生産集中度よりも低
くなっている。
 なお,平均輸入比率は上昇傾向にあるにもかかわらず,生産集中度
と出荷集中度との乖離幅が縮小しているのは,消費財,特に乗用車,
ビデオ・テープ・レコーダー等の耐久消費財の生産集中度の低下が全
体の生産集中度を引き下げていることによるものである。

第4 一般集中度調査

概  説
(1) 意  義
 「一般集中」とは,国民経済又はその特定分野(例えば製造業)全体
における我が国企業の経済力の集中の程度に関するものであり,通常,
総資産,資本金,売上高,付加価値,従業員数等を指標として上位100
社,200社等をとらえ,その上位企業の合計が法人企業全体に対して占
める割合によって示され,その割合を「一般集中度」と称している。
 一般集中度は,生産・出荷集中度のように個別市場の競争の程度を直
接表すものではなく,産業全体における経済力集中の状況を表すもので
ある。現在,我が国には極めて大規模な企業が存在し,これら企業のほ
とんどが,多くの個別市場に多角的に進出している。このため,個別市
場の集中度を見るほか,一般集中度を継続的に調査し,我が国経済全体
に占める大企業の地位の動向を把握しているものである。
(2) 調査の方法
 調査指標は,昭和54年度の調査以降,大企業の総合的な経済力を最も
的確に表わしていると考えられる総資産を基本的指標としており,今回
もそれによった。
 調査対象は,従来どおり,金融業を除く全法人企業とし,併せて非金
融業のうち,製造業のみについても調査した。また,上位企業の選定
も,従来どおり,各指標ごとに上位100社とした。
 調査時点は,昭和60年度から昭和63年度までの各企業の決算期とし,
昭和63年度を中心に分析した。調査資料は,母数については「法人企業
統計年報」(大蔵省)を,各企業については「有価証券報告書」等のほ
か,内部資料を使用した。
 産業分類は,日本標準産業分類によった。また,各企業の業種は,当
該企業の売上高により決定し,数種の事業を兼営している場合は,売上
高の最も多い事業が含まれる業種を当該企業の業種とした。
調査の概要
(1) 非金融業における一般集中度の現状と動向
一般集中度の現状
 非金融業における総資産順位による上位100社(以下「総資産上位
100社」という。)の全法人企業に占める地位は第11表のとおりであり,
企業数では全法人企業の0.005%を占めるにすぎないが,総資産の合
計額が全法人企業の総資産に占める割合(以下「総資産集中度」とい
う。)は19.4%となっている。
一般集中度の動向
 総資産上位100社の総資産集中度の動向は第2図のとおりであり,
昭和63年度は若干上昇したものの,傾向としては,昭和42年度以降低
下傾向にあり,昭和42年度から昭和63年度までに6.2%ポイント(旧
公社から民営化した会社を除いて総資産上位100社をとった場合7.3%
ポイント)低下している。
一般集中度の低下要因
 我が国の総資産集中度は,低下傾向にあるが,その要因として次の
ことが考えられる。
(ア) 企業数の増加
 企業数の増加について見ると,第12表のとおりであり,全法人の
企業数は,昭和42年度の73万社から昭和53年度には142万社,昭和
63年度には198万社に達しており,このような大幅な増加が総資産
集中度の低下をもたらしていると考えられる。
(イ) 総資産伸び率の差
 全法人企業及び総資産上位100社の企業規模の変化を1社当たり
の総資産の伸び率の差(以下「企業規模格差」という。)によって
見ると第13表のとおりであり,総資産上位100社の1社当たりの総
資産の伸び率は,昭和58年度以前は全法人企業の1社当たりの総資
産の伸び率を上回り,総資産上位100社とそれ以外の法人企業との
企業規模格差は拡大していたが,昭和59年度,昭和61年度及び昭和
62年度には企業規模格差は縮小している(昭和60年度は拡大してい
るが,旧公社から民営化した会社を除いた場合は縮小している。)。
なお,企業規模格差は,昭和63年度は再び拡大している。
 昭和58年度までは,企業規模格差の拡大が企業数増加による総資
産集中度の低下を相殺する要因として機能したため,総資産集中度
の低下は緩やかであったが,昭和59年度以降は,昭和60年度におい
て旧公社の民営化の影響から企業規模格差は拡大しているものの,
総じて縮小しており,企業数の増加に企業規模格差の縮小が加わ
り,総資産集中度の低下幅が大きくなっている。
総資産上位100社の産業別分布状況
 総資産上位100社の産業別分布状況は第3図のとおりであり,上位
100社のうち,製造業が39社を占め,次いで卸売・小売業(13社),
サービス業(12社),運輸・通信業,電気・ガス・水道業(各11社)
の順となっている。また,その動向を見ると,製造業に属する企業の
数が全体の4割以下にまで低下している。他方でサービス業,運輸・
通信業,建設業(9社),不動産業(5社)に属する企業の数の増加
が顕著である。


 昭和42年度と昭和63年度とを比較し,全法人企業の総資産の産業別
構成比と総資産上位100社の産業別企業数の変化の状況を見ると,第
4図のとおり,ほぼ同様の動きを示しており,総資産上位100社の産
業別分布状況の動向は,全法人企業の動向を反映したものとなってい
る(第5図参照)。


国内子会社を含めた場合の総資産上位100社の状況
 発行済株式総数の50%を超えて所有している国内の会社を含めた場
合の総資産上位100社が全法人企業に占める地位は第14表のとおりで
あり,総資産集中度は23.7%となっている。また,その動向を見る
と,第15表のとおりであり,おおむね緩やかな低下傾向にある。


(2) 製造業における一般集中度の現状と動向
製造業における一般集中度の現状
 製造業における総資産順位による上位100社(以下「製造業上位100
社」という。)が全製造業に占める地位は第16表のとおりであり,昭
和63年度で企業数では全製造業企業の0.023%を占めるにすぎないが,
その総資産の合計額では全製造業の30.5%を占め,全法人企業におけ
る総資産上位100社の総資産集中度19.4%に比し,11.1%ポイント高
い状況にある。
製造業における一般集中度の動向
 製造業上位100社の総資産集中度の動向は第6図のとおりであり,
全法人企業の総資産上位100社の場合とおおむね同様な低下傾向にあ
る。
製造業上位100社の業種別分布状況
 製造業上位100社の業種別分布状況は第7図のとおりであり,企業
数では,化学が21社と最も多く,次いで電気機器が18社,輸送用機器
が15社となっており,これら3業種で54社と過半を占めている。ま
た,その動向を見ると,電気機器,一般機械器具等に属する企業が増
加し,非鉄金属,鉄鋼等に属する企業が減少している。

第5 政府規制制度等に関する調査

概  説
 我が国では,社会的,経済的な理由及び背景により,種々の産業分野に
おいて,参入,設備,教量,価格等に係る経済的事業活動が政府規制によ
り規制され,また,独占禁止法の適用が除外されている。
 政府規制制度及び独占禁止法適用除外制度(以下「政府規制制度等」と
いう。)の中には,それが導入された当時における社会的,経済的情勢が
今日において大きく変化しているものもみられ,それらについては,変化
に即した見直しを行う必要が生じている。さらに,我が国の市場をより国
際的に開かれたものとする観点からも,政府規制制度等の見直しが要請さ
れている。
 このような事情から,随時行政調査会及び臨時行政改革推進審議会にお
いても規制緩和が取り上げられ,提言が行われているところであり,例え
ば,最近では臨時行政改革推進審議会(第二次行革審)が昭和63年12月に
「公的規制の緩和等に関する答申」を行い,これを受けて,政府は,同月
「規制緩和推進要綱」について閣議決定を行った。
 また,政府規制制度等の見直しの必要性は,海外でも共通して認識され
ており,昭和54年に,OECD理事会が加盟各国に対し,政府規制制度等
を見直すべき旨の勧告を行っており,アメリカやヨーロッパ諸国におい
て,政府規制制度等の緩和が進められている。
調査の概要
(1)  当委員会は,従来から競争政策の観点から,政府規制制度等について
中長期的に見直しを行ってきている。最近においては,政府規制制度等
の見直し及び関連分野における競争確保・促進政策の検討を行うため,
「政府規制等と競争政策に関する研究会」(座長 鶴田俊正 専修大学教
授)を開催している。同研究会は,物流関連分野(貨物運送,流通等),
消費者向け財・サービス供給分野(旅客運送,金融関連,LPガス販売)
及び農業関連分野(生産資材,農業生産,農産物流通,食品工業)を対
象に検討を行い,平成元年に検討結果を取りまとめ公表した。
 本年度においては,引き続き,同研究会を開催し,独占禁止法適用除
外制度の見直しについて検討を行った。独占禁止法適用除外制度につい
ては,近年,市場メカニズムの一層の活用を図るとの観点から臨時行政
改革推進審議会(節二次行革蕃)の「公的規制の在り方に関する小委員
会報告」(平成元年11月)において,その見直し等が指摘されたほか,
「経済構造調整推進要綱」(平成2年5月政府与党経済構造調整推進本部
決定)や「日米構造問題協議最終報告」(平成2年6月)においても,適
用除外制度の見直しが政策課題のひとつとして盛り込まれている。同研
究会においては,これらの指摘を踏まえて適用除外制度全般を対象とし
て,必要最小限度のものとするとの観点から,その問題点,制度及び運
用の在り方について検討を行った。
(2)  当委員会は,電気通信分野における競争政策上の課題について検討を
行うため,「情報通信分野競争政策研究会」(座長 実方謙二 北海道大
学教授)を開催し,過去数次にわたり取りまとめ・報告を行っているが,
本年度においても,引き続き同研究会を開催し,最近における電気通信
分野の動向及び競争政策上の課題について検討を行った。
(3)  当委員会は,昭和55年4月以来,行政事務の簡素・合理化等の観点か
ら許認可等の見直しを行っている総務庁との間で,政府規制及び独占禁
止法適用除外に関する合同検討会議及び実務担当者会議を開催し,政府
規制制度等の見直しの基本方針,方法等について,連絡・調整を行って
きている。
 本年度においては,合同検討会議を1回,実務担当者会議を1回開催
し,政府規制制度等の見直しの実施状況,規制緩和された分野における
競争施策上の課題等について,連絡及び意見交換を行った。

第6 企業間取引の実態に関する調査

調査の目的及び対象
 近年,我が国における企業間の取引慣行,特に,取引先企業と取引を継
続することについての評価等をめぐり,内外の関心が高まっている。こう
した企業間取引の実態やその背景等は,個々の産業により様々であると考
えられるため,当委員会は,個別の産業ごとに企業間取引の実態を把握す
ることとした。調査対象としては,家庭用電気製品製造業,造船業,合成
繊維製造業及び都市ガス業の4業種を選定し,それぞれの生産に必要な原
材料,部品等の取引の実態を調査した。
 調査結果の概要は,以下のとおりである。
調査結果の概要
取引の特徴
(1)  家庭用電気製品製造業(カラーテレビ及び電気洗濯機の製造に必要
な部品の取引を調査対象とした。)においては,各家電メーカーは,通
常,新製品の開発又はモデルチェンジのつど,部品の取引先を選定し
ている。また,コストダウンや品質の向上を図るため,同一部品につ
いて複数の部品メーカーから購入を行っている。
(2)  造船業においては,各造船メーカーは,基本的には,複数の舶用製
品メーカーに引合いを出し,各社の見積りを比較して,取引先を選定
している。また,船員の機器への習熟,メンテナンスの便宜等の観点
から,搭載する主要な舶用製品のメーカーについて,船主が意向を示
すことが多い。
(3)  合成繊維製造業(カプロラクタム,アクリロニトリル,テレフタル
酸(高純度のもの),テレフタル酸ジメチル及びエチレングリコール
の5原料の取引を調査対象とした。)においては,合成繊維原料メー
カー,合成繊維メーカーともに,その企業数は少なく寡占的な状況に
あることなどから,輸入原料を除いて取引先の選択の余地は限られて
いる。
(4)  都市ガス業においては,原料については,長期にわたる安定供給確
保の必要から,当初から契約期間を長期に設定しているものが多い。
資材及びガス機器については,定期的に複数のメーカーから見積りを
取り,価格等については有利な条件の引出しを図っている。
取引先の選択に当たって重視する点
 原材料,部品等の取引先の選択に当たって重視する点としては,品
質,価格等が挙げられているが,これら以外で重視する点を各業種ごと
にみると,次のとおりである。
(1)  家庭用電気製品製造業においては,技術力,コスト節減への対応力
等のほか,これらとの関連で経営方針,財務面にも注目して,いわば
企業全体としての能力を重視している。
(2)  造船業においては,品質,価格等の条件が同等であれば,過去に仕
入先企業との取引において事故等の問題がなかったという実績を考慮
して,従来の長期的な取引関係を重視するというものが多い。
(3)  合成繊維製造業においては,カプロラクタムやテレフタル酸は,成
分の微妙な違いによって,製品段階で風合いや色むら等の差異が生じ
ることもあり,定量的に表わせないような微妙な品質水準の安定が求
められている。
(4)  都市ガス業においては,公益事業としてのガスの安全かつ安定的な
供給という観点から,安全性や安定供給を重視している。
継続的取引の状況
(1)  いずれの業種も,現在の取引先企業とは,5年以上取引を継続して
いるものがほとんどである。各業種ごとに,その理由や背景等をみる
と,次のとおりであるが,一方で,いずれの業種とも,継続的取引を
前提に取引を行っているのではなく,価格,品質等によって選択した
結果,取引が継続しているにすぎないと指摘するものも多い。
 家庭用電気製品製造業においては,長期的な取引関係の中で相互
に情報の交換等が行われ品質や技術の向上が図られるという点を重
視しているものが多い。しかしながら,一方で,家電メーカーは,
随時取引先の能力をチェックしており,両者の間には,一定の緊張
関係が保たれている。製品開発が活発なカラーテレビの部品取引に
おいては,新規参入も比較的多い。
 造船業においては,船主は同一メーカーの舶用製品を継続して使
用する傾向があり,同じ舶用製品メーカーが引き続き指定されるこ
とが多い。他方,成熟産業ではあるが,造船メーカーは,引合いの
対象を拡げることについて積極的であり,実際に,外国メーカー等
の新規参入もかなり見られる。ただし,鋼材については,品質,価
格にあまり差がないこともあり,造船メーカーは,安定的供給の確
保を重視して,従来の実績を基に仕入先及び購入量を決める傾向が
ある。
 合成繊維製造業においては,合成繊維の製品レベルの品質安定の
ために原料の品質の安定が不可欠であるため,原料を頻繁に変更す
ることは現実的ではない。他方,品質格差のほとんどないエチレン
グリコールやアクリロニトリルについては,外国メーカーを中心に
新規参入も行われている。
 都市ガス業においては,原料については,長期にわたり安定供給
を確保する必要があることから,輸入原料を中心に,当初から契約
期間を長期にしているものが多い。また,資材については,品質,
価格等にあまり差がないこともあり,都市ガス業者は,安定供給の
確保を重視して,従来の購入実績を基に仕入先及び購入量を決める
傾向にある。
(2)  継続的取引の利点としては,①お互いのニーズがスムーズに理解さ
れること,②品質検査等の間接コストが節約できること,③取引先を
新たに探すことに要するコストを省くことができること,④相互にフ
レキシブルな対応が可能になること,などが挙げられている。
取引先企業との株式の所有関係
(1)  調査対象企業が取引先企業(今回調査の対象とした品目の製造に係
る原材料,部品等の取引先企業をいう。以下同じ。)の株式を所有して
いるケースがみられる。調査対象企業が株式を所有している取引先企
業が取引先企業全体に占める割合は,家庭用電気製品製造業で約6%
(カラーテレビ)及び約9%(電気洗濯機),造船業で約3%,合成繊
維製造業で約40%,都市ガス業で約15%である。なお,合成繊維製造
業における比率が高いのは,他の業種に比べ,取引先企業の数が少な
いためである(1社平均で5.7社)。
(2)  一方,取引先企業が調査対象企業の株式を所有しているケースもみ
られる。取引先企業のうち,調査対象企業の株式を所有している企業
の占める割合は,家庭用電気製品製造業で約16%(カラーテレビ)及
び約13%(電気洗濯機),造船業で約4%,合成繊維製造業で約35%
(ただし,該当企業数は,1社平均で2.0社),都市ガス業で約33%で
ある。
 取引先企業の中には,調査対象企業との間で相互に株式を持ち合っ
ているものがあるが,このようなケースは,造船メーカーと鉄綱メー
カー(高炉5社)との間を別にすると,一般に,顕著ではない。
(3)  調査対象企業又は取引先企業が所有する相手方企業の株式数が相手
方の発行済株式に占める割合は,一方的な所有又は相互持合いのいず
れの場合についても,取引先企業が調査対象企業の子会社となってい
る場合を除けば,いずれの業種も1%未満のケースがほとんどである。
(4)  調査対象企業が取引先企業の株式を所有した経緯については,子会
社及び関連会社以外のケースでは,多くの企業は,取引を開始した後
に相手方からの依頼により株式を所有したとしている。
ま と め
 本調査では,特に独占禁止法上問題となるような事項は見られなかっ
たが,競争政策の観点から,上記4業種における原材料,部品等の取引
についてみれば,以下のような点が注目される。
(1)  いずれの業種においても,仕入先企業との取引関係は,ほとんどが
継続的となっている。しかしながら,現在の取引先企業が取引条件等
で優遇されているわけではなく,品質,価格等に関する取引先企業の
対応能力が常にチェックされている場合が多い。特に,製品開発が比
較的活発な業種では,このような傾向が顕著であり,品質,価格等の
面で優れている企業であれば,新規参入は可能である。
(2)  既述のとおり,調査対象企業と原材料,部品等の取引先企業との間
では,いずれか一方が相手方の株式を所有したり,又は相互に株式を
持ち合っているケースが見られる。しかしながら,株式所有比率は,
取引先企業が調査対象企業の子会社となっている場合を除けば,いず
れの業種も1%未満のケースがほとんどであり,また,原材料,部品
等の購買担当者は,多くの場合,取引先企業の株式所有の有無につい
てほとんど承知していない。
 株式の所有の有無が購入価格等の取引条件に影響を及ぼしたり,株
式所有関係がない事業者の取引の機会を妨げることは,独占禁止法上
問題となる場合があり,そのようなことがないよう常に留意される必
要がある。なお,本調査においては,そのような事実は認められな
かった。
(3)  継続的な取引のウェイトが大きいことは,価格,品質,供給の安定
等の諸要素を重視して取引先を選択した結果であると考えられるが,
外部からは,特定の取引先との間で閉鎖的な取引が行われているので
はないかとの疑念を招く可能性があり,そのためにも,取引の透明性
の確保という点について,企業の十分な認識が必要であると思われる。
 今回調査を行った4業種については,一部を除き,独占禁止法遵守
に関する社内マニュアルや内外の事業者に向けて自社の購買方針を明
らかにしたもの(外部向け購買指針等)を既に作成しているものは少
ないが,多くの企業が作成を検討中であるとしている。
 独占禁止法に対する従業員の認識を高め,自社の購買方針等の企業
行動指針を内外に明らかにすることは,市場の開放性を推進し,公正
で自由な競争を促進するために望ましいことであり,今後,取引の公
正及び透明性の確保に向けてより一層の努力が払われることが期待さ
れる。