1 |
取引の特徴 |
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(1) |
家庭用電気製品製造業(カラーテレビ及び電気洗濯機の製造に必要
な部品の取引を調査対象とした。)においては,各家電メーカーは,通
常,新製品の開発又はモデルチェンジのつど,部品の取引先を選定し
ている。また,コストダウンや品質の向上を図るため,同一部品につ
いて複数の部品メーカーから購入を行っている。 |
(2) |
造船業においては,各造船メーカーは,基本的には,複数の舶用製
品メーカーに引合いを出し,各社の見積りを比較して,取引先を選定
している。また,船員の機器への習熟,メンテナンスの便宜等の観点
から,搭載する主要な舶用製品のメーカーについて,船主が意向を示
すことが多い。 |
(3) |
合成繊維製造業(カプロラクタム,アクリロニトリル,テレフタル
酸(高純度のもの),テレフタル酸ジメチル及びエチレングリコール
の5原料の取引を調査対象とした。)においては,合成繊維原料メー
カー,合成繊維メーカーともに,その企業数は少なく寡占的な状況に
あることなどから,輸入原料を除いて取引先の選択の余地は限られて
いる。 |
(4) |
都市ガス業においては,原料については,長期にわたる安定供給確
保の必要から,当初から契約期間を長期に設定しているものが多い。
資材及びガス機器については,定期的に複数のメーカーから見積りを
取り,価格等については有利な条件の引出しを図っている。 |
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2 |
取引先の選択に当たって重視する点 |
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原材料,部品等の取引先の選択に当たって重視する点としては,品
質,価格等が挙げられているが,これら以外で重視する点を各業種ごと
にみると,次のとおりである。
(1) |
家庭用電気製品製造業においては,技術力,コスト節減への対応力
等のほか,これらとの関連で経営方針,財務面にも注目して,いわば
企業全体としての能力を重視している。 |
(2) |
造船業においては,品質,価格等の条件が同等であれば,過去に仕
入先企業との取引において事故等の問題がなかったという実績を考慮
して,従来の長期的な取引関係を重視するというものが多い。 |
(3) |
合成繊維製造業においては,カプロラクタムやテレフタル酸は,成
分の微妙な違いによって,製品段階で風合いや色むら等の差異が生じ
ることもあり,定量的に表わせないような微妙な品質水準の安定が求
められている。 |
(4) |
都市ガス業においては,公益事業としてのガスの安全かつ安定的な
供給という観点から,安全性や安定供給を重視している。 |
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3 |
継続的取引の状況 |
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(1) |
いずれの業種も,現在の取引先企業とは,5年以上取引を継続して
いるものがほとんどである。各業種ごとに,その理由や背景等をみる
と,次のとおりであるが,一方で,いずれの業種とも,継続的取引を
前提に取引を行っているのではなく,価格,品質等によって選択した
結果,取引が継続しているにすぎないと指摘するものも多い。
ア |
家庭用電気製品製造業においては,長期的な取引関係の中で相互
に情報の交換等が行われ品質や技術の向上が図られるという点を重
視しているものが多い。しかしながら,一方で,家電メーカーは,
随時取引先の能力をチェックしており,両者の間には,一定の緊張
関係が保たれている。製品開発が活発なカラーテレビの部品取引に
おいては,新規参入も比較的多い。 |
イ |
造船業においては,船主は同一メーカーの舶用製品を継続して使
用する傾向があり,同じ舶用製品メーカーが引き続き指定されるこ
とが多い。他方,成熟産業ではあるが,造船メーカーは,引合いの
対象を拡げることについて積極的であり,実際に,外国メーカー等
の新規参入もかなり見られる。ただし,鋼材については,品質,価
格にあまり差がないこともあり,造船メーカーは,安定的供給の確
保を重視して,従来の実績を基に仕入先及び購入量を決める傾向が
ある。 |
ウ |
合成繊維製造業においては,合成繊維の製品レベルの品質安定の
ために原料の品質の安定が不可欠であるため,原料を頻繁に変更す
ることは現実的ではない。他方,品質格差のほとんどないエチレン
グリコールやアクリロニトリルについては,外国メーカーを中心に
新規参入も行われている。 |
エ |
都市ガス業においては,原料については,長期にわたり安定供給
を確保する必要があることから,輸入原料を中心に,当初から契約
期間を長期にしているものが多い。また,資材については,品質,
価格等にあまり差がないこともあり,都市ガス業者は,安定供給の
確保を重視して,従来の購入実績を基に仕入先及び購入量を決める
傾向にある。 |
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(2) |
継続的取引の利点としては,①お互いのニーズがスムーズに理解さ
れること,②品質検査等の間接コストが節約できること,③取引先を
新たに探すことに要するコストを省くことができること,④相互にフ
レキシブルな対応が可能になること,などが挙げられている。 |
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4 |
取引先企業との株式の所有関係 |
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(1) |
調査対象企業が取引先企業(今回調査の対象とした品目の製造に係
る原材料,部品等の取引先企業をいう。以下同じ。)の株式を所有して
いるケースがみられる。調査対象企業が株式を所有している取引先企
業が取引先企業全体に占める割合は,家庭用電気製品製造業で約6%
(カラーテレビ)及び約9%(電気洗濯機),造船業で約3%,合成繊
維製造業で約40%,都市ガス業で約15%である。なお,合成繊維製造
業における比率が高いのは,他の業種に比べ,取引先企業の数が少な
いためである(1社平均で5.7社)。 |
(2) |
一方,取引先企業が調査対象企業の株式を所有しているケースもみ
られる。取引先企業のうち,調査対象企業の株式を所有している企業
の占める割合は,家庭用電気製品製造業で約16%(カラーテレビ)及
び約13%(電気洗濯機),造船業で約4%,合成繊維製造業で約35%
(ただし,該当企業数は,1社平均で2.0社),都市ガス業で約33%で
ある。
取引先企業の中には,調査対象企業との間で相互に株式を持ち合っ
ているものがあるが,このようなケースは,造船メーカーと鉄綱メー
カー(高炉5社)との間を別にすると,一般に,顕著ではない。 |
(3) |
調査対象企業又は取引先企業が所有する相手方企業の株式数が相手
方の発行済株式に占める割合は,一方的な所有又は相互持合いのいず
れの場合についても,取引先企業が調査対象企業の子会社となってい
る場合を除けば,いずれの業種も1%未満のケースがほとんどである。 |
(4) |
調査対象企業が取引先企業の株式を所有した経緯については,子会
社及び関連会社以外のケースでは,多くの企業は,取引を開始した後
に相手方からの依頼により株式を所有したとしている。 |
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5 |
ま と め |
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本調査では,特に独占禁止法上問題となるような事項は見られなかっ
たが,競争政策の観点から,上記4業種における原材料,部品等の取引
についてみれば,以下のような点が注目される。
(1) |
いずれの業種においても,仕入先企業との取引関係は,ほとんどが
継続的となっている。しかしながら,現在の取引先企業が取引条件等
で優遇されているわけではなく,品質,価格等に関する取引先企業の
対応能力が常にチェックされている場合が多い。特に,製品開発が比
較的活発な業種では,このような傾向が顕著であり,品質,価格等の
面で優れている企業であれば,新規参入は可能である。 |
(2) |
既述のとおり,調査対象企業と原材料,部品等の取引先企業との間
では,いずれか一方が相手方の株式を所有したり,又は相互に株式を
持ち合っているケースが見られる。しかしながら,株式所有比率は,
取引先企業が調査対象企業の子会社となっている場合を除けば,いず
れの業種も1%未満のケースがほとんどであり,また,原材料,部品
等の購買担当者は,多くの場合,取引先企業の株式所有の有無につい
てほとんど承知していない。
株式の所有の有無が購入価格等の取引条件に影響を及ぼしたり,株
式所有関係がない事業者の取引の機会を妨げることは,独占禁止法上
問題となる場合があり,そのようなことがないよう常に留意される必
要がある。なお,本調査においては,そのような事実は認められな
かった。 |
(3) |
継続的な取引のウェイトが大きいことは,価格,品質,供給の安定
等の諸要素を重視して取引先を選択した結果であると考えられるが,
外部からは,特定の取引先との間で閉鎖的な取引が行われているので
はないかとの疑念を招く可能性があり,そのためにも,取引の透明性
の確保という点について,企業の十分な認識が必要であると思われる。
今回調査を行った4業種については,一部を除き,独占禁止法遵守
に関する社内マニュアルや内外の事業者に向けて自社の購買方針を明
らかにしたもの(外部向け購買指針等)を既に作成しているものは少
ないが,多くの企業が作成を検討中であるとしている。
独占禁止法に対する従業員の認識を高め,自社の購買方針等の企業
行動指針を内外に明らかにすることは,市場の開放性を推進し,公正
で自由な競争を促進するために望ましいことであり,今後,取引の公
正及び透明性の確保に向けてより一層の努力が払われることが期待さ
れる。 |
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