11-1 |
アメリ力 |
|
(1) |
法制の動き |
|
ア |
反トラスト法又は関連法制の改正 |
|
1990年10月,議会は反トラスト法に関する3つの重要な改正を内容
とする1990年反トラスト改正法案を可決した。これらの改正は,過去
数年にわたり司法省が主張してきたものであり,11月16日,大統領の
署名により法制化された。
第一の改正点は,シャーマン法違反に対する罰金刑の上限の引上げ
であり,企業に対しては1000万ドル(従前は100万ドル),個人に対し
ては35万ドル(従前は25万ドル)が上限となった。
第二の改正点は,米国政府が私人と同様に反トラスト民事訴訟の被
告から3倍額賠償を得ることができるようにクレイトン法4a条を改
正するものである。
第三の改正点は,会社の役員兼任に対する規制の緩和である。クレ
イトン法8条は,個人が資本金,積立金,未配当利益金の総額が100
万ドルを超える二つの競争会社の役員を兼任することを禁止していた
が,この改正によりこの基準が1000万ドルに引き上げられるととも
に,二会社間に最少限の競争しか存在しない場合には兼任が許容され
ることとなった。 |
イ |
反トラスト規則,政策又はガイドラインの変更 |
|
連邦取引委員会(FTC)は,1990年8月,広告費その他の支払及
び役務提供に関するガイドラインを改正した。このガイドラインは,
ロビンソン・パットマン法により改正されたクレイトン法2条(d)及び
(e)に関するFTCの見解を示すものであるが,1972年以降改定が行わ
れておらず,ある面では時代遅れとなっていた。今回の改正は,ガイ
ドラインを現在の取扱いに一致させるとともに,不必要な要件を削除
したものである。 |
ウ |
反トラスト法又は関連法制の改正案 |
|
司法省は,商務省と共同で,生産ジョイント・ベンチャーの促進を
目的とした法案を支持するコメントを提出した。この法案は,1984年
共同研究法を改正し,現在研究開発ジョイント・ベンチャーについて定
められている反トラスト法上の特例(①合理の原則による違法性の判
断,②司法省及びFTCに扇け出られたジョイント・ベンチャーにつ
いては,仮に違法とされた楊合にも,実績額賠償に限定)を生産ジョ
イント・ベンチャーに対しても適用しようとするものである。第101
議会(1989-90年)においては,この法案は成立しなかったが,第
102議会(1991-92年)においても同様の法案が提出され,審議中で
ある。なお,行政府は,こうした特例を外国からの実質的な参加がな
いジョイント・ベンチャーのみに限定しようとする条項には反対して
きている。 |
|
(2) |
反トラスト法及び政策の施行 |
|
ア |
司法省反トラスト局の措置件数及び提訴事件の概要 |
|
司法省反トラスト局は,1990年に150件の正式審査を開始し,72件
の提訴を行った(うち58件が刑事訴追)。同年中,被告人に延べ13,815
日の禁錮刑(2,654日の実刑を含む。)が宣告され,罰金及び損害賠償額
の合計は,2,830万ドルを超えた。
1990年に,司法省は,歯科治療,産業廃棄物処理,清涼飲料,過ぎ
越しの祝し、(ユダヤ教の行事)用の種なしパン,アスベスト除去用マ
スク及びその他の医療機器,建築用ちょうつがい等を含む広範にわた
る製品・サービス市場における価格協定,市場分割に対し刑事訴追を
行った。また,司法省は,学校向け牛乳及び酪製品,視聴覚スタジオ
の建設,不動産業,自動投票集計機の修理,特殊パイプ,原子力発電
所用パイプ製品,石油精製施設建設,競売に付される商品等を含む各
種製品・サービス市場における入札談合に対し刑事訴追を行った。
ここ数年,司法省が特に集中的に刑事訴追を行っている分野とし
て,次のようなものがある。
① |
1987年以来,司法省は州の競売における中古の事業用機械・設備
の購入に関する入札談合事件の訴追を行ってきており,これまでに
45件の事件について,79法人52個人を起訴し,77法人48個人が有罪
とされた。1990年には,司法省は14企業7個人の有罪判決を得,合
計834,000ドルの罰金が科され,2個人に禁錮刑が科された。 |
② |
司法省は,多くの州の地域的な市場における清涼飲料製品の価格
協定を訴追する効力を継続してきており,1986年以来,43件の事件
について,27企業28個人を起訴し,24企業27個人が反トラスト刑事
罪で有罪とされた。1990年には,司法省は,これら清涼飲料価格協
定事件に関して6企業4個人に対する有罪判決を得た。合計230万
ドルの罰金が科され,2個人が禁錮刑を言い渡された。 |
③ |
司法省が継続している学校給食用ミルクの販売価格協定に対する
訴追も活発に行われてきている。1988年以来,司法省は26件につい
て11企業25個人を起訴し,8企業19個人に対する有罪判決を得た。
1990年には,司法省は,これらミルク価格協定事件に関して5企業
8個人に対する有罪判決を得,合計1,100万ドルの罰金が科され,
6個人が禁錮刑を言い渡された。
民事訴訟としては,1990年7月5日,司法省は,シャーマン法1
条に違反して建築設計サービスの価格競争を不当に制限したとし
て,アメリカ建築士協会(AIA)に対する反トラスト民事訴訟を
コロンビア特別区連邦地方裁判所に提起した。その結果,同意判決
により,AIA及びその約280の傘下の組織は,AIAの会員が競
争入札,値引き,又は無料サービスの提供を行うことを禁止あるい
は制限する倫理規定又は声明を保持することが禁止され,また,A
IAは広範な反トラスト遵守プログラムを作成し,審査費用として
米国政府に6万ドルを支払うことが求められた。 |
|
イ |
FTCの措置件数及び審決を行った事件の概要 |
|
FTCは,1990年に,117件の予備審査と63件の全面審査を開始し,
合併を含む競争に影響を及ぼす事案に関し,2件の審決,5件の審判
開始決定を行うとともに,22件の同意審決に最終的な承認を与えた。
FTCは,さらに,1件の民事罰訴訟を提起し,その結果民事罰を科
す判決を得た。
FTCが1990年に行った主要な審決として,次のようなものがあ
る。
① |
1990年11月,FTCは,審理不十分として控訴裁判所から差し戻
されていたボイス・カスケード事件について,再度,米国最大の事
務用品流通業者である同社が差別的な低価格で事務用品の供給を受
けていたことを違法とする審決を行った。 |
② |
1990年6月,FTCは,人工透析サービスに関する連邦政府によ
る保険制度上の規制を免れるための抱き合わせ協定について,同様
の行為を禁止する同意審決を行った。 |
③ |
FTCは,全米公認会計士協会(AICPA)が違法に競争を制
限し,公認会計士サービスの利用方法,料金及び内容に関する情報
を消費者に享受させないようにしていたとして,これらの行為を禁
止する同意審決を行った。 |
④ |
FTCは,ピルキントン社と,日本板硝子社がフロート・ガラス
の製造能力を制限する協定を行っていたとして,当該協定を禁止す
る同意審決を行った。 |
|
ウ |
合併規制 |
|
司法省及びFTCは,ハート・スコット・ロディノ(H・S・R)法
の合併事前届出条項に基づき,1990年中に,1,952件の合併案件に関
して3,700件の届出を受理した。
司法省は,1990年中に,合併事前届出書に対する審査に基づき,38
件の案件に関して66件の追加情報を求める文書を発出した。また,司
法省は,同期間中に,H・S・R法の対象とされていない銀行その他の
金融機関による1,591件の合併及び取得を審査した。また,同省は,
61件の合併及び株式取得の審査を正式に開始し,20件の計画された取
引に対し公式に異議を述べ,最終的には12件の取引を阻止するために
訴訟を提起した。5件について,同意判決が出され,8件の計画され
た取引について,司法省が提訴の意図を表明し又は提訴した後に,計
画が放棄され又は修正された。
司法省が扱った主要な事件として,次のようなものがある。
① |
司法省は,1990年1月,エムランド社(オランダ)によるウィル
キンソン社(英)の株式取得計画に関し,ジレット社(米)が米国
におけるウィルキンソン社のカミソリ事業を取得することを阻止す
るため,連邦地方裁判所に提訴し,同年3月,エムランド社とジ
レット社が,ウィルキンソン社の米国における事業をジレット社に
売却するとの合意を破棄し,ウィルキンソン社が米国市場で有効に
競争する能力を維持できるようにする旨の同意判決を得た。 |
② |
司法省は,プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社による
ローヌ ・ プーラン・ローレー社(仏)の店頭販売用胃薬の販売権取
得計画を阻止するため提訴し,P&G社は1990年8月にこの計画を
断念した。
また,FTCは,1990年に,合併事前届出書に対する審査に基づ
き,53件の案件について追加情報を求める文書を発出した。FTC
は,7件について合併計画の進行を阻止するために,暫定的差止命
令の申立てを地方裁判所に行う権限を事務局に与えた。また,2件
の審判開始決定と13件の同意審決を行った。 |
|
エ |
政府規制緩和 |
|
司法省は,市場に対する政府の干渉を排除し,競争を促進する観点
から,1990年には,航究輸送(国際航空輸送協会に対する反トラスト
適用除外),陸運料金規制,オレンジやミルクの出荷規制,エネルギー
(電力会社の合併案件),通信(連邦通信委員会による電話料金規制,
ケーブル・テレビ規制等),金融(預金保険制度の改革)等に関し,
関係当局や規制機関に意見を提出した。
FTCは,競争及び消費者保護の観点から,1990年には,広告(ベ
ター・ビジネス・ビューローによる広告自主規制),通信(連邦通信
委員会によるケーブル・テレビ規制),ヘルス・ケア(州によるヘル
ス・ケア専門職の規制),小売業(州による自動車販売,ガソリン給
油所等の規制),国際貿易(国際貿易委員会による輸入制限に関する
調査)等に関し,意見を提出した。 ′ |
|
|
11-2 |
ドイツ |
|
(1) |
法制の動き |
|
ア |
競争制限禁止法の第5次改正法が1990年1月から施行された。 |
イ |
東西ドイツの統合に伴い西ドイッの支配的企業が旧東ドイツ地域で
優位に立つことを防ぐため,双方の関係省庁間の密接な協力の下,
1990年5月に東ドイツに競争保護局が設立され, さらに,西ドイツの
競争法が同年7月1日から事実上採用された。
1990年10月3日のドイツ統一をもって,競争保護局は廃止され,連
邦カルテル庁がドイツ全域に及ぶ競争法運用機関となった。この5か
月間に競争保護局は,149件の合併事件を審査し,多くの合併が競争
上の問題がないよう再構築された。 |
|
(2) |
法の適用 |
|
ア |
カルテル規制 |
|
連邦カルテル庁が制裁金を科した主要なカルテル事件として,次の
ものがある。
(ア) |
連邦カルテル庁は,ドイツの主要な薬品卸売業者12社及びその役
員に対し,制限的協定に関与していたとして,総額3,460万マルク
(26億6,420万円)の制裁金を科した。これらの企業は,1987年から
1990年にかけて統一的なリベート削減に関する協定を行い,薬局の
購入価格を一律に引き上げていた。また,この期間中これらの卸売
業者は,互いの取引先を侵害しないよう合意し,新たな顧客につい
ての競争行わないようにしていた。この決定は,既に確定してい
る。 |
(イ) |
連邦カルテル庁は,ドイツの主要旅行業者4社と国内チャーター
航空会社5社に対し,燃料費の統一に関する協定を行っていたとし
て,総額630万マルク(4億8,510万円)の制裁金を科した。これ
らの企業は1990年9月に,燃料費の上昇に伴い,1991年1月18日か
ら,すべての航空ツアーに対してその距離に関連した統一的な超過
料金を課すことを決定していたものであり,このカルテルの結果,
チャーター航空会社のコスト上昇の影響が異なるにも拘らず,旅行
業者によるツアー料金の設定に反映されなくなっていた。関係企業
がベルリン高等裁判所へ提訴したため,この決定は未確定である。 |
|
イ |
適用除外カルテルの認可 |
|
連邦カルテル庁と連邦経済大臣により認可された適用除外カルテル
の件数は,1990年12月末現在227件である。1990年に新たに認可され
たカルテルは,9件であり,廃止されたカルテルは9件であった。カ
ルテル禁止の例外を最小限にするとともに,中小企業間の協力を奨励
する連邦カルテル庁の政策を反映して,中小企業間の協力協定が増加
している(227件中,87件)。 |
ウ |
合併及び集中 |
|
(ア) |
1990年において,連邦カルテル庁は,1,548件の合併・株式取得
(以下「合併等」という)の届出を受理した。これは,対前年比9%
増であり,1988~89年にかけての22%増,1987~88年にかけての
30%増に比べて減少している。1,548件の届出のうち,合併後に届
出が行われ規制の対象となったのは306件である。また,正式手続
による禁止処分が4件行われたほか,連邦カルテル庁との非公式の
話合いの結果企業が合併を断念したものが6件あり,連邦カルテル
庁が禁止する意向を企業に通知したため計画が撤回されたものが4
件ある。 |
(イ) |
連邦カルテル庁は,1990年に次の4件の合併を禁止した。
① |
ダイムラー・ベンツ社とMAN社によるENASA社の株式取
得 |
|
ENASA社は,スペインの唯一のトラック製造業者である
PEGASO社の大部分の株式を所有している。この分野におい
て非常に有力な地位を有しているトラック製造業者2社がENA
SA社の株式を共同取得することにより,スペインのトラック市
場ばかりでなくドイツの市場においても競争がかなり減殺される
との判断が下された。 |
② |
新聞社GfB社によるIKZ社の24.8%の株式取得 |
|
GfB社はノルトライン・ヴェストファーレン州の有力新聞社
WAZ社の傘下にあり,IKZ社は, その新聞発行地域において
80%のシェアを持っている。この取得により,WAZ社の発行紙
はIKZ社の発行紙の競争者ではなくなってしまい,IKZ社が
圧倒的な市湯支配力を持つことになると判断された。 |
③ |
Bayerische Asphalt‐Mischwerke(BAM)社によるH+W
ASPhalt‐Mischwerke
社の全資産取得 |
|
BAM社は,ババリアにおける瀝青炭混合物メーカーであり,
ドイツの三大瀝青炭混合物業者による共同支配を受けていた。こ
の取得により,ババリアにおける市場支配力がさらに助長される
であろうと判断された。 |
④ |
新聞社アルゲマイネ・ツァイトゥンク(WAZ)社によるオス
トチェーリンガー社の40%の株式取得 |
|
WAZグループな,ノルトライン・ヴェストファーレン州にお
ける最大手の新聞社あり,オストチェーリンガー社は,ゲーラ地
方において約20万部の発行部数を有する新聞社であり,同地方で
は70%のシェアを持つ。オストチェーリンガー社の発行地域が,
WAZ社の発行地域と近接しているため,この合併によりオスト
チェーリンガー社の市場支配縦地位がさらに助長されるであろう
と判断された。 |
|
(ウ) |
東西ドイツの統合に関し,連邦カルテル庁は,主要な企業が,旧
東ドイツの国営企業の株式を共同で取得しようとする計画が,旧東
ドイツにおける競争を排除するばかりでなく,旧西ドイツにおける
競争も危険に晒す結果になることを危倶し,これに注意を払った。 |
|
|
(3) |
規制緩和等 |
|
連邦政府の1983年民営化計画は,ほぼ完了したが,1990年11月,内閣
は更に民営化を進める決議をし,運輸,金融部門における多数の企業と
同様に,ルフトハンザなどすべての空港事業者を対象としている。しか
し,かなりの公有資産は州や地方当局の管轄下にあり,連邦制のドイツ
では連邦政府はこの点に関しあまり影響力を持っていない。
また,不合理な規制を避けるため,連邦政府は民営化と同時に規制緩
和も行っている。EC指令に沿った規制緩和措置として,主に専門的職
業や保険業の部門で国境を越えたサービスの提供が自由化された。 |
|
11-3 |
イギリス |
|
(1) |
法制の動き |
|
ア |
制限的取引慣行法令に関する政府提案 |
|
競争制限的協定の原則禁止と登録制度の廃止,制裁金制度の創設等
を内容とする制限的取引慣行法令に関する政府提案が1989年7月に行
われているが,1990年には,その提言を実行に移す措置は採られな
かつた。 |
イ |
合併規制手続の変更 |
|
1989年会社法に基づく合併計画の任意的事前届出制度が1990年4月
1日から実施された。
また,一定の基準に該当する合併について,1990年10月から,5,000
ポンドから1万5,000ポンドまでの手数料の支払いが求められる。 |
ウ |
虚偽情報の提供に対する刑事罰 |
|
1990年4月1日から,虚偽又は欺瞞的情報を競争当局に提供するこ
とは,刑事上の罪を問われることになった。 |
エ |
放送分野への競争の導入 |
|
1990年放送法により,公正取引庁長官は,テレビ番組の作成に関す
るテレビ局間の取決めと競争との関係について検討し,必要に応じそ
の変更を求めることができることとされた。 |
|
(2) |
競争法及び競争政策の施行 |
|
ア |
カルテル規制 |
|
(ア) |
1976年制限的取引慣行法によって,競争制限的協定な登録制に
なっている。1990年には676件の協定が登録され,登録された協定
の総数は9,300となった。 |
(イ) |
登録すべき協定が登録されていないと認める場合,公正取引庁長
官は関係者に対し詳細な情報を求める通知を発出することができる
が,1990年には72件の通知が行われた。 |
(ウ) |
登録されていない協定が,価格協定,市場分割協定のような反競
争的なものである場合,公正取引庁長官は制限的慣行裁判所に付託
するが,1990年には,ガラス業界や鉄筋コンクリート補強棒業界の
価格協定について訴訟が提起され,業界は協定の廃止等を約束し
た。 |
(エ) |
協定の未登録に対する罰金の規定はないが,裁判所の命令に違反
する場合には,法廷侮辱罪として刑が科される。1990年9月,生コ
ン会社4社が法廷侮辱罪で有罪とされ,8万3,000ポンドの罰金を
科された。 |
|
イ |
反競争的行為に対する規制 |
|
1980年競争法に基づき,公正取引庁長官は反競争的行為を調査
し,調査結果を公表している。1990年には,バス料金の略奪的価格
設定と,付加価値放送サービスに関する報告書が公表されたが,と
もに反競争的ではないとされた。 |
ウ |
独占に関する調査 |
|
1973年公正取引法に基づき,公正取引庁長官は独占(1社で英国
市場の25%以上のシェアを有する場合等)が認められる場合,それ
についてMMCに調査を付託することができる。1990年には,
イン
スタント・コーヒー,清涼飲料,自動車,自動車部品,新築家屋保
証サービス,カミソリ及びカミソリ刃,コピー機の7件について付
託が行われた。
MMCは,1990年に,①ガソリン,②ロンドン展示ホール電気契
約,③映画広告サービス,④プラスターボードの4件について報告
書を公表した。ガソリンについては,複合独占の状態が存在するも
のの,業界は競争的であり,公共の利益に反していないとされた。
ロンドン展示ホールの電気サービス契約については,契約5社の優
先協定は公共の利益に反するとされ,映画広告サービスに関して
は,この業界には2社しか存在しないが,公共の利益に反していな
いとされた。プラスターボードに関しては,BPB社がその支配的
供給者であるが,有効な競争が行われているとされた。 |
エ |
合併規制 |
|
(ア) |
公正取引庁は,1990年に369件の合併条件を審査した。うち261
件について,公正取引庁長官は,調査のため案件をMMCに付託す
べきかどうかについて貿易産業大臣に助言した。 |
(イ) |
この件数(261件)は,昨年(281件)より減少しているが,総資
産額では増加しており(昨年の961億900万ポンドに対し,本年は
1,154億8,500万ポンド),業種別に見ると,化学(27件,昨年は12
件),輸送・通信(18件,昨年は7件)分野の合併が大幅に増加し
ている。また,合併形態では水平合併が75%,垂直合併が5%,そ
の他が20%となっており,水平合併の割合が増加している(昨年の
水平合併の割合な60%)。 |
(ウ) |
1990年に,貿易産業大臣はMMCに対し27件の付託を行ったが,
このうち23件は公正取引庁の助言に従ったものである。MMCに対
する付託件数は過去最高であり,昨年(14件)の約2倍となってい
る。 |
(エ) |
1989年会社法により,合併される事業の一部を分離する内容の確
約書を公正取引庁長官及び貿易産業大臣に提出させることにより,
MMCへの付託に代える手続が導入されたが,1990年7月,ラン
ク・オーガニゼーション社によるメッカ社の買収において,この手
続が用いられた。 |
(オ) |
MMCは,1990年に17件の合併等に関する報告書を公表し,これ
らの案件の多くが公共の利益に反するとした。主要な案件は,次の
とおりである。
① |
ミシュラン・タイヤ社とナショナル・タイヤ・サービス社の合
併 |
|
MMCは,この合併により交換用トラックタイヤ分野における
競争が減少すると判断し,貿易産業大臣は,公正取引庁長官に対
し,両社の動きを監視するよう求めた。 |
② |
キングフィッシャー社とディクソンズ社の合併 |
|
電機小売店の2大チェーンである2社の合併であり,MMC
は,2社の競争が地方市場の価格に大きな影響を与えていると指
摘した。結果として,貿易産業大臣は,当該合併を行わない旨の
確約書を得た。 |
③ |
エルダーズIXL社によるグランド・メトロポリタン社の資産
取得 |
|
MMCは,当該計画によりビール供給における卸レベルの競争
が減少し,公共の利益に反すると判断し,満足な確約書の提出が
ない限り計画が進められるべきではないと勧告した。貿易産業大
臣は,公正取引庁長官に対し,悪影響が生じないようにするため
に適切な確約書の提出を得るよう求めた。 |
|
|
|
|
11-4 |
フランス |
|
(1) |
法制の動き |
|
競争法制に動きはなかったが,通信分野の自由化の中で,公的事業者
と民間事業者との公正な競争,全ユーザーに対する平等な取扱いの確保
を目的とする1990年12月20日の法律が制定された。 |
(2) |
法の適用 |
|
ア |
競争評議会の活動 |
|
(ア) |
1990年には,競争評議会は123件の事件を受け付け,64件につい
て決定を行い,19件について意見を提出した。64件の決定の内訳
は,正式に申し立てられた申告に関するもの22件,保全措置に関す
るもの12件,却下・打切り等26件,過去の決定の遵守等に関するも
の4件である。 |
(イ) |
制 裁 金 |
|
1990年に,競争評議会は23の事件,143の事業者について総額
3,840万フランの制裁金を科した。主要な事例は,以下のとおりで
ある。
i) |
カルテル |
|
造園・園芸業者団体が,会員が望む値上げを行うため,過去の
コスト上昇の幅に関する情報を公表し,推奨価格表を公表したと
して,競争評議会は,同団体に177万フランの制裁金を科した。 |
ii) |
垂直的取引制限 |
|
競争評議会は,ソニー・フランス社に対し,同社の販売条件
(リベートの供与)の中には差別的な方法で運用していたものが
あったとして,100万フランの制裁金を科した。 |
iii) |
決定の不遵守 |
|
競争評議会は,1990年に初めて,1986年競争法14条に基づき過
去の決定の不遵守に対する4件の決定を行った。主要な事例な,
以下のとおりである。
① |
クレジットカードの団体に対して,同団体が競争評議会の決
定を遵守せず,また,当事者の控訴によるパリ控訴裁判所の判
決も遵守しなかったとしたとして,競争評議会は,同団体に対
し600万フランの制裁金を科した。 |
|
|
(ウ) |
集中規制 |
|
1990年には,経済力業中に関し経済担当大臣から8件が競争評議
会に諮問され,競争評議会は5件について意見を提出した。主要な
事例は, 以下のとおりである。
① |
フランスの主要な広告代理店と広告スペースの購入販売を専門
に行っている会社の合併 |
|
当該合併により当事会社のシェアはフランスのラジオ・テレビ
の広告スペース市場の32パーセントに達し,最大の競争業者の2
倍の規模になり,上位3社のシェアは64パーセントになる。
競争評議会は,当該合併により,当事会社が市場支配力を有す
ることになり,個別で得るよりも(また他の代理店が得るよりも)
多くの割引を媒体企業から得ることができ,広告価格の上昇をも
たらすことになるとし,フランスにおける広告スペースの購入事
業を合併しないという条件でのみ再編成を認める旨の意見を提出
した。 |
|
|
イ |
競争・消費者問題・不正行為防止総局の活動 |
|
(ア) |
1990年に同総局は,1986年競争法第4章に規定される制限的行為
(おとり販売,最低価格の強要等)の規制について,13,440件(価
格の表示に関するものを除く。)の調査を行い,このうち639件につ
いて警告を発し,564件について報告書を作成した。 |
(イ) |
競争法第3章に規定される反競争的行為(カルテル,支配的地位
の濫用等)については,215件の調査を実施し,このうち43件を競
争評議会に付託した。 |
(ウ) |
合併・企業集中の規制については,1990年には639件のフランス
市場に影響を及ぼし得る合併等が行われた。同総局は,これらを審
査し,8件について競争評議会に付託した。 |
|
|
|
11-5 |
E C |
|
(1) |
法制の動き |
|
ア |
合併規制規則(企業間の結合の規制に関する理事会規則(No.4064/
89))の発効 |
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1989年12月21日にEC閣僚理事会により採択された合併規制規則
は,採択から9か月後の1990年9月21日に発効した。
また,同視則を施行するために,以下の委員会規則及び委員会告示
が制定された。
① |
企業間の結合の規制に関する理事会規則の規定する届出,期限及
び聴聞に関する委員会規則(NO.2367/90) |
② |
結合に付随する制限に関する委員会告示(90/C203/05) |
③ |
企業間の結合の規制に関する理事会規則に基づく結合的及び協力
的活動に関する委員会告示(90/C203/06) |
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イ |
航空輸送の自用化に関する理事会規則の採択 |
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1990年7月24日,EC閣僚理事会は,航空輸送の自由化に関する3
件の理事会規制(NO.2342/90,2343/90,2344/90)を採択した。
定期便の料金に関する規則は,料金システムに大きな柔軟性を導入
するものであり,航空会社は事前承認なしで一定の料金を決定するこ
とができ,その他の料金についても,関係加盟国のうちの1か国が承
認すればよいことになった。
また,航空会社の定期航路へのアクセス及び航空会社間の乗客容量
の配分に関する規則は,容量配分に関する2国間の制限を段階的に撤
廃するものである。
さらに,EC委員会に一括適用除外規則を定める権限を与える理事
会規則(NO.3976/87)の期限の1992年12月31日までの延長に関する
規則を受けて,EC委員会は,1990年12月5日,次の3件の一括適用
除外規則を採択した(これらは,実質的には,従前の一括適用除外規
則の更新であるが,いくつかの点で従前のものより条件が厳しく,航
空輸送分野により活発な競争をもたらすものとなっている。)。
① |
地上ハンドリングサービスに関する協定等の一括適用除外規則 |
② |
コンピューター予約システムに関する協定等の一括適用除外規則 |
③ |
輸送力についての共同計画及び調整,旅客及び貨物輸送料金につ
いての情報交換並びに空港におけるスロットに関する協定等の一括
適用除外規則 |
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(2) |
法の運用 |
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ア |
カルテル・支配的地位濫用の規制 |
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1990年にEC委員会は, EEC条約(ローマ条約)第85条(競争制
限的な協定等の禁止)及び第86条(支配的地位の濫用の禁止)に基づ
き15件の決定を行った。第85条に基づく決定は9件であり,その内訳
は,制裁金を伴う禁止決定1件,制裁金を伴わない禁止決定1件,ネ
ガティブ・クリアランス(不問証明)3件,適用除外の決定4件であ
る。また,EC委員会は,ECSC条約第65条(協定等の禁止,認可
及び罰則)及び第66条(事業者の結合の規則及び罰則)に基づき33件
の決定を行った。
1990年12月31日現在,EC委員会は2,734件の未処理案件を抱えて
いる。そのうち,2,145件が申請又は届出,345件が企業からの不服申
立であり,残り244件はEC委員会が独自に手続を開始したものであ
る。 .
1990年にEC委員会が行った主要な決定として,次のものがある。
・ |
ソーダ灰事件 |
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EC委員会は,1990年12月19日,過去数十年にわたりヨーロッパの
ソーダ灰市場において市場分割協定(85条違反)及び大口顧客に対す
る秘密リベートの供与(86条違反)を行っていたとして,英国のICI
社,ベルギーのソルベイ社等に対し合計4,800万ECU(約76億8,000
万円)の制裁金(うち1,800万ECU(28億8,000万円)が85条違反に
係るもの)を科した。この制裁金は過去最大のものである。本件の市
場分割協定は,ICI社は大陸に,ソルベイ社は英国にそれぞれ参入
しないというものであり,これによりICI社の英国でのシェアは
90%を超え,ソルベィ社の大陸でのシェアは70%を超えていた。ま
た,大口顧客に対する秘密リベートは,顧客が追加的需要のために別
の供給者と取引しないようにするためのものであった。この決定に対
し,ICI社とソルベイ社は欧州裁判所に提訴した。 |
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イ |
合併規制規則の運用状況 |
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合併規制規則が発効した1990年9月21日から同年末までに,EC委
員会は,同規則に基づく12件の届出を受理し,同視則の対象外である
旨の決定1件,予備審査の結果共同体市場と両立する旨の決定5件を
行った。
主要な事例としては,フランスのルノー社とスウェーデンのボルボ
社の両自動車メーカーによるバス・トラック部門での連携(45%の株
式持合い)が予備審査の結果容認されたものがある。
EC委員会は3か月の審査件数から推定して,年間60件程度の演
出が行われるものと予想している。 |
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