(1) |
豊田商法の被害者(46名)による国家賠償等請求事件(東京地方裁判
所昭和61年(ワ)第3829号・第3830号) |
|
訴提起日 昭和61年 3月31日
本件訴訟は,豊田商法の被害者46名(訴え提起時47名)が国及び個人
被告(豊田商事株式会社の元従業員)33名(訴え提起時111名)を相手
に損害賠償を請求したものである。国に対する請求は,当委員会及び通
商産業省が豊田商法による被害の発生を防止するために必要な措置を講
じなかったとの主張に基づくものである。
ア |
訴状の要旨(当委員会に関係する部分) |
|
原告らは,豊田商法の被害者のうち年齢60歳以上の者(主として東
京都及びその周辺地域に居住する。)である。
豊田商法により公正で自由な取引秩序が害され,国民の財産に対す
る不法な侵害が全国的規模により継続された。公正取引委員会におい
て規制権限を行使すれば,容易にその侵害を阻止することができ,し
かも公正取引委員会がその権限を行使しなければ侵害を防止できない
関係にあり,一般国民を始め国会,通商産業省,警察庁等から豊田商
事株式会社に対する有効な規制が客観的に期待される状況下にあった
のであるから,公正取引委員会は権限を行使するか否かを決定する裁
量の余地はもはや存在せず,その権限不行使は,作為義務に違反する
違法な行為であり,国家賠償法第1条第1項にいう違法なものという
べきである。 |
イ |
訴訟手続の経過 |
|
本件について,東京地方裁判所は 本年度,口頭弁論等を10回行
い,平成4年2月19日結審し,判決言渡期日は同4月22日を指定し
た。 |
|
(2) |
豊田商法の被害者(2名)による国家賠償等請求事件(神戸地方裁判
所昭和60年(ワ)第826号・第849号) |
|
訴提起日 |
昭和60年 6月11日(第826号事件)
昭和60年 6月14日(第849号事件,併合) |
|
|
本件訴訟は,豊既商法の被害者2名が国及び豊田商事株式会社を相手
に損害賠償を請求したものであるが,被告豊田商事株式会社について
は,昭和62年12月11日第13回口頭弁論において訴えが取り下げられてい
る。国に対する請求は,当初,国会議員,通商産業省,経済企画庁,農
林水産省,法務省,警察庁及び内閣の豊田商法に対する不作為が違法で
あるとして行われていたが,昭和62年9月11日の第12回口頭弁論におい
て,公正取引委員会についても豊田商法に対する権限不行使は違法であ
るとして,追加主張が行われたものである。
ア |
公正取引委員会に関する追加主張の要旨 |
|
豊田商法は,独占禁止法の不公正な取引方法及び景品表示法の不当
表示に該当する行為であり,両法に違反することは比較的客観的に証
明できるのであるから,これを認識していた公正取引委員会は,調査
のための強制処分を駆使して不当表示であることを解明し,排除命令
を出すべきであった。公正取引委員会は,その権限を行使する法律上
の義務があったにもかかわらず,何ら権限を行使することなく消費者
の利益を確保する義務を怠った。 |
イ |
訴訟手続の経過 |
|
本件について,神戸地方裁判所は,口頭弁論期日を追って指定する
ことになり,本年度末現在,同裁判所に係属中である。 |
|
|
|
(3) |
豊田商法の被害者(1,488名)による国家賠償請求事件(大阪地方裁
判所昭和63年(ワ)第3702号・第10176号) |
|
訴提起日 |
昭和63年 4月23日(第3702号事件)
昭和63年11月 4日(第10176号事件,併合) |
|
|
本件訴訟は,豊田商法の被害者1,488名が国を相手に損害賠償を請求
したものである。国に対する請求は,当委員会,法務省,警察庁,大蔵
省 経済企画庁及び通商産業省が豊田商法による被害の発生を防止する
ために必要な措置を講じなかったとの主張に基づくものである。
ア |
訴状の要旨(当委員会に関係する部分 |
|
豊田商法は,独占禁止法に規定する不公正な取引方法に該当し,
ま
た,景品表示法に規定する不当表示にも該当するのは明らかである。
公正取引委員会は,昭和58年秋ころには,それらに該当する疑いが強
いことを十分に認識していた。したがって,公正取引委員会は,その
調査権限を行使し,違法な実態を速やかに解明し,違法な営業活動の
差止め等の措置を講ずることができたはずであり,遅くとも昭和59年
4月ごろまでには,公正取引委員会は,裁量の余地なく,′これらの措
置を講ずる義務が生じていたものというべきである。にもかかわら
ず,公正取引委員会は,その義務を怠り,何らの措置も講じなかった。 |
イ |
訴訟手続の経過 |
|
本件について,大阪地方裁判所は,本年度,口頭弁論等を7回行
い,本年度末現在,同裁判所に係属中である。 |
|
(4) |
㈱明石書店ほか34名による行政処分取消等請求事件(東京地方裁判所
平成元年(行ウ)第144号) |
|
訴提起日 平成元年7月20日 |
|
本件訴訟は,出版社35社が公正取引委員会及び国を相手に,消費税の
実施に伴う再販制度の運用について,行政処分の取消し及び損害賠償を
求めたものである。
ア |
訴状の要旨 |
|
(ア) |
原告らは,消費税実施後の書籍の定価は消費税抜き価格であるべ
きと考えており,公正取引委員会が従来の定価の概念を変更し,消
費税実施後の再販売価格は消費税込み価格であるとして「内税方
式」を強制した行政処分「消費税導入に伴う再販売価格維持制度の
運用について」は取り消すべきである。 |
(イ) |
公正取引委員会の前記(ア)の行政処分により,本来付け換える必要
がなかった出版物の定価表示をシール貼付等により変更する必要が
生じ損害を被った。 |
|
イ |
訴訟手続の経過 |
|
本件について,東京地方裁判所は,本年度口頭弁論等を6回行い,
平成4年2月26日結審し,同3月24日判決を言い渡した(公正取引委
員会に対する訴えを却下,国に対する請求を棄却)。
なお,原告明石書店ほか32名は,平成4年4月6日,東京高等裁判
所に控訴した。
判決の概要は次のとおりである。 |
ウ |
東京地方裁判所判決の概要 |
|
(ア) |
本件公表文の公表の取消等を求める訴えの適否について
本件公表文は,その記載内容からしても,消費税導入後の再販制
度の運用に関して問題となってくる独占禁止法の規定の解釈等につ
いて,被告公正取引委員会の考え方を説明したに止まるものである
ことは明らかであり,本件公表文の公表は,今後そこに説明された
ような法解釈を前提とした独占禁止法の運用を行っていくことが予
想されるものではあるにしても,それ自体が直ちに,直接国民の権
利義務に法的な影響を及ぼし,あるいはその範囲を具体的に確定す
るという効果を持つものではないと言わなければならないから,本
件公表文の公表は,抗告訴訟の対象となる行政処分には該当しない
ものであり,その取消しあるいは無効確認を求める原告らの被告公
正取引委員会に対する本件各訴えはいずれも不適法な訴えとして,
却下を免れない。 |
(イ) |
被告国に対する国家賠償請求の訴えの適否について
抗告訴訟と国家賠償請求訴訟が併合提起された場合においても,
その国家賠償請求訴訟について管轄等の問題をも含めた訴えの適法
要件が備わっている場合には,当事者が特に抗告訴訟が不適法と判
断された場合には国家賠償請求訴訟に対する審判を求めないものと
しているというような特殊な事情がある場合を除いては,抗告訴訟
が不適法であるからといって,これによって国家賠償請求訴訟も不
適法となるものと解すべき根拠はない。本件国家賠償請求の訴えに
ついて,右のような特殊な事情があるものとは認められず,訴えは
適法なものというべきであるから,これを独立の訴えとして扱っ
て,これに対する審理,判断を行うこととなる。 |
(ウ) |
被告国に対する国家賠償請求の訴えの当否について |
|
a |
本件公表文に示された独占禁止法の規定の解釈等の適否 |
|
○ |
消費税導入後の再販商品の再販売価格の意義 |
|
独占禁止法第24条の2第1項にいう再販売価格は,論理的に
いって,消費税相当分を含んだ価格として消費者が書店に支払
う価格でしかあり得ないから,小売段階の再販売価格は消費者
が支払う消費税込みの価格であるとする本件公表文中の被告公
正取引委員会の法解釈は,法律的にみて正しいものである。 |
〇 |
再販売価格の設定方法 |
|
再販行為を実施する事業者が,その消費税率の範囲内で消費
税相当分を商品の価格に上乗せし,課税事業者と免税事業者に
対して同一の再販売価格を設定したとしても,それが直ちに一
般消費者の利益を不当に害することとはならない。 |
○ |
再販売価格(定価)の表示方法 |
|
本件公表文は,書籍の価格(再販売価格)の表示方法につい
て,いくつかの方法を例示して,そのような価格表示の方法に
よることが適当と考えられるとしているに過ぎず,そこに例示
された表示方法を採用すべきことを強制しようとまでするもの
でないことは,その文言自体からして明らかである。 |
○ |
一般消費者に生ずる不利益 |
|
消費税の導入に伴って書籍の出版業者が定価表示の変更等の
ために新たな経費負担を強いられることとなったときは,出版
業者がそれに対応する負担増を消費者に対して求めたとして
も,それが直ちに独占禁止法の規定にいう「消費者の利益を不
当に害することとなる場合」に当たるものではない。 |
|
b |
被告公正取引委員会の事務当局者による指導等の適否 |
|
○ |
国家賠償法第1条第1項(国の公務員の違法な公権力の行使)
被告公正取引委員会の事務当局者による消費税法施行後の法
定再販商品たる書籍の定価の表示方法についての見解あるいは
本件公表文に示された独占禁止法の規定の解釈等が違法なもの
とは考えられないのであるから,被告公正取引委員会による指
導あるいは本件公表文の公表が,国家賠償法第1条第1項にい
う国の公務員の違法な公権力の行使には当たらない。 |
○ |
被告公正取引委員会の事務当局者による被告公正取引委員会
見解の強要 |
|
消費税法施行後の法定再販商品たる書籍の定価の表示方法に
関する被告公正取引委員会側の見解の内容自体は何ら違法なも
のとは認められず,しかも,被告公正取引委員会の事務当局者
と出版4団体代表者又は原告らの加入する出版流通対策協議会
幹部らとの面談における被告公正取引委員会の事務当局者の発
言の内容も,原告らの側からすれば場合によっては法改正につ
ながるというニュアンスのものに受け取れたという程度のもの
であって,それ以上に具体的な内容を持つものではなかったこ
とが認められるし,臨時行政改革審議会(行革審)において,
現に「再販商品につき一般消費者の利益を不当に害しないよう
限定的,厳正な運用を行うとともに,今後そのあり方について
検討する。」との内容の答申が出されていたことからすれば,
被告公正取引委員会の事務当局者が上記答申の内容に言及した
ことをもって,違法な強要に当たるものとすることは,到底困
難である。 |
|
c |
結語 |
|
そうすると,その余の点について判断するまでもなく,原告ら
の被告国に対する国家賠償の請求は,理由がないものとして棄却
を免れない。 |
|
|
|