第6章 経済実態の調査

第1 概   説

 当委員会は,競争政策の運営に資する目的から,経済力集中の実態,主要
産業の実態等について調査を行っている。本年度においては,独占的状態調
査,政府規制等に関する調査及び六大企業集団の実態に関する調査を行っ
た。

第2 独占的状態調査

 独占禁止法第8条の4は,独占的状態に対する措置について定めている
が,当委員会は,独占禁止法第2条第7項に規定する独占的状態の定義規定
のうち,事業分野に関する考え方について,ガイドラインを公表しており,
その別表には,国内総供給価額要件及び市場占拠率要件に該当すると認めら
れる事業分野並びに今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当す
ることとなると認められる事業分野が掲げられている。
 本年度においては,昭和63年の国内総供給価額及び市場占拠率に関する調
査結果を踏まえて,次のとおりガイドライン別表の改定を行った(平成3年
8月2日公表)。

           第1表 独占的状態に係る監視対象分野
商品に係る監視対象事業分野
役務に係る事業分野

 この結果,別表に,商品に係る事業分野としてチューインガム製造業,換
気扇類製造業など4業種,役務に係る事業分野として国内定期航空貨物運送
業及び昇降機保守業の2業種が新たに掲載され,商品に係る事業分野の置時
計製造業の1業種が削除されることとなった。改定後の別表掲載業種は,商
品に係る事業分野19業種,役務に係る事業分野5業種である(第1表)。
 これらの別表掲載業種については,公表資料及び通常業務で得られた資料
の整理・分析を行うとともに,特に集中度の高い業種については,生産,販
売,価格,製造原価,技術革新等の動向,分野別利益率等について,関係企
業から資料の収集 事情聴取等を行うことにより,独占禁止法第2条第7項
第2号(新規参入の困難性)及び第3号(価格の下方硬直性,過大な利益
率,過大な販売管理費の支出)の各要件に則し,企業の動向の監視に努め
た。

第3 政府規制制度等に関する調査

概  説
 我が国では,社会的・経済的な理由により,種々の産業分野において,
参入,設備,数量,価格等に係る経済的事業活動が政府により規制され,
また,独占禁止法の適用が除外されている。
 政府規制制度及び独占禁止法適用除外制度(以下「政府規制制度等」と
いう。)の中には,それが導入された当時における社会的・経済的情勢が今
日において大きく変化しているものもみられ,それらについては 変化に
即した見直しを行う必要が生じている。さらに,近年,消費者利益の確保
や我が国の市場をより国際的に開かれたものとする観点からも,政府規制
制度等の見直しが要請されている。
 このような事情から,臨時行政改革推進審議会等においても規制緩和が
取り上げられ,提言が行われているところであり,例えば,最近では第二
次臨時行政改革推進審議会が昭和63年12月に「公約規制の緩和等に関する
答申」を行い,これを受けて,政府は,同月「規制緩和推進要綱」につい
て閣議決定を行った。
 また,引き続き第三次臨時行政改革推進審議会においては,経済的規制
の緩和や独占禁止法適用除外制度の見直しについて検討が行われている。
政府規制制度等の見直しの必要性は,海外でも共通に認識されており,昭
和54年に,OECD理事会が加盟各国に対し,政府規制制度等を見直すべ
き旨の勧告を行っており,アメリカやヨーロッパ諸国において,政府規制
制度等の緩和が進められている。
独占禁止法適用除外制度等の見直し
(1)  当委員会は,従来から競争政策の観点から,政府規制制度等について
中長期的に見直しを行ってきている。最近においては,政府規制制度等
の見直し及び関連分野における競争確保・促進政策の検討を行うため,
「政府規制等と競争政策に関する研究会」(座長 鶴田俊正 専修大学教
授)を開催している。同研究会は,物流関連分野(貨物運送,流通
等),消費者向け財・サービス供給分野(旅客運送,金融関連,LPガ
ス販売)及び農業関連分野(生産資材,農業生産,農産物流通,食品工
業)を対象に検討を行い,平成元年に検討結果を取りまとめ公表した。
(2)  本年度においては,引き続き,同研究会を開催し,独占禁止法適用除
外制度(以下「適用除外制度」という。)の見直しについて検討を行っ
た。適用除外制度については,市場メカニズムの一層の活用を図るとの
観点から第二次臨時行政改革推進審議会の「公的規制の在り方に関する
小委員会報告」(平成元年11月)において,その見直し等が指摘された
ほか,「経済構造調整推進要綱」(平成2年5月政府与党経済構造調整推
進本部決定)や「日米構造問題協議最終報告」(平成2年6月)において
も,適用除外制度の見直しが政策課題の一つとして盛り込まれている。
 同研究会においては,これらの指摘を踏まえて,我が国の適用除外制度
全般を対象として,その問題点,改善の方向について検討
を行い,その結果を平成3年7月に公表した。検討結果の概要は次のと
おりである。(なお,我が国の適用除外制度の概要は第11章参照)
見直しの背景及び必要性
(ア)  現行の適用除外制度の多くは 昭和20年代から30年代前半に,当
時の政策課題に対応し,経営の安定,企業の合理化等を図るため必
要やむを得ないものとして,各産業分野において創設された。しか
し,今日の我が国経済は当時とは大きく変化しており,これに伴い
適用除外制度の必要性も変化している。
(イ)  現在,消費者利益の確保による豊かな国民生活の実現や市場の一
層の開放等が課題となっており,このため市場メカニズムの一層の
活用が重要となっている。さらに,経済のグローバル化が進み,経
済的な規制や制度の面についても国際的な整合性の確保が重要と
なっている。
(ウ)  一方,実施中の適用除外カルテルや再販売価格維持行為の中に
は,経済環境の変化や消費者ニーズの多様化等への対応を阻害して
いたり,消費者の利益を害するおそれのあるものもみられる。
(エ)  このため,現行の適用除外制度及びその運用について,必要最小
限なものにとどめるとの観点から抜本的な見直しを行うことが必要
となっている。
見直しを要する主な適用除外制度及びその運用
(ア) カルテル等の適用除外制度
政策手段としての有効性・適切さに疑問があると考えられる適
用除外カルテル
 適用除外カルテル件数は,減少傾向(昭和40年度末1079件→平
成4年3月末現在219件)にある。しかしながら,現在長期にわ
たって継続実施されているカルテルについてみると,経済環境の
変化等により,政策目的を達成する手段として有効ではなくなっ
たと考えられるものや,適当な代替手段が導入されるなどによ
り,必要性が乏しくなったと考えられるものがある。これらにつ
いては,他の効果的な代替手段の導入を推進する等により,廃止
を含め制度の限定的な運用を図ることが必要である。
政府規制分野における適用除外制度
 政府規制分野の中には,規制目的実現のための補完的手段とし
て,適用除外制度が設けられているものがある。政府規制分野に
おける適用除外制度についても,必要最小限のものにとどめる必
要があり,また,近年市場メカニズムを活用する余地が拡大して
きていることから,政府規制の見直しと併せて,制度及びその運
用の在り方について見直しを行うことが必要である。
長期間利用されていない適用除外制度
 当初予想された事態が生じ得なくなったり,代替手段の存在等
により,制度の創設以来一度も利用されていないものも含め長期
間利用されていない適用除外制度がある。これらについては,現
在の情勢の下での必要性について厳正な見直しを行い,必要性が
失われているものについては制度の廃止を行うなど,その在り方
について検討することが必要である。
実質的な意味がないと考えられる適用除外制度
 適用除外の対象とされる行為が独占禁止法の禁止規定に違反す
るものでないなど,適用除外規定の実質的な意味がないと考えら
れるものがある。これらについては,時機をとらえて適用除外規
定を整理することを検討することが必要である。
(イ) 再販売価格維持行為の適用除外制度
指定商品(化粧品及び一般用医薬品)
 化粧品及び一般用医薬品の指定については,当該業界において
自由な競争が損なわれているのではないか等の問題点があり,こ
のため,早急に必要な調査を行い,消費者,関係業界等から広く
意見を聞きつつ,指定の取消しを含め抜本的な見直しを行うこと
が必要である。
著作物
 書籍,雑誌,新聞については,今後とも実態把握に努めるとと
もに,消費者利益の観点から事業者の行為を監視することが必要
である。
 レコード盤,音楽用テープ及び音楽用CDについては,消費者
の利益を害することとならないか等の問題点があり,このため,
早急に必要な調査を行い,消費者,関係業界等から広く意見を聞
きつつ,さらに検討を進め,これらの商品について今後再販が認
められる著作物として取り扱うかを明確にすることが必要であ
る。
(ウ) 限定的な運用のための制度面の整備と運用の改善
許容要件の厳格化,許容手続の整備等
 現行制度の中には,許容要件の厳格化,競争政策上の配慮が十
分なされるようにするための許容手続の整備,適用除外制度の利
用の長期化を防止するための制度面の整備等が必要なものがあ
る。これらについては,制度面の整備を図るとともに,当面,趣
旨を踏まえた限定的な運用に努めることが必要である。
制度の透明性の確保
 公正取引委員会及び主務官庁においては,運用状況等について
積極的に公開することが重要である。
アウトサイダー規制命令制度等
 すべての事業者に対しカルテルへの参加等を強制することは,
営業の自由の制限という点で問題がある。現在実施中のアウトサ
イダー規制命令については制度の限定的な運用に努める必要があ
り,将来的には,アウトサイダー規制命令制度等については,廃
止を含めその在り方について検討することが必要である。
(エ) 制度及びその運用の見直しに当たっての留意事項
 主務官庁においては,適用除外制度に代替する効果的な手段につ
いて積極的な検討・活用に努める必要がある。
 また,公正取引委員会においては,カルテル等の廃止後に不当な
買いたたきや不当な顧客誘引行為等が生じることのないよう監視
し,また,事前相談制度の充実や独占禁止法の解釈の明確化を行う
など,公正かつ自由な競争が確保されるように努めることが必要で
ある。
(3)  当委員会は,情報通信分野における競争政策上の課題について検討を
行うため,「情報通信分野競争政策研究会」(座長 実方謙二 北海道大
学教授)を開催し,電気通信分野における問題点を中心に過去数次にわ
たり報告書の取りまとめを行っている。本年度においても,引き続き同
研究会を開催し,放送事業分野における競争政策上の議題について検討
を行った。
(4)  当委員会は,昭和55年4月以来,行政事務の簡素・合理化等の観点か
ら許認可等の見直しを行っている総務庁との間で,「政府規制及び独占
禁止法適用除外に関する合同検討会議」及び実務担当者会議を開催し,
政府規制制度等の見直しの基本方針,方法等について,連絡・調整を
行ってきている。
 本年度においては,合同検討会議を1回,実務担当者会議を1回開催
し,政府規制制度等の見直しの実施状況,規制緩和された分野における
競争施策上の課題等について,連絡及び意見交換を行った。
(5)  また,公的規制の緩和について検討を行っている第三次臨時行政改革
推進審議会に対して,政府規制制度等の見直しに関する当委員会の見解
及び取組状況を説明した。
国際航空運賃の実態に関する調査
 「政府規制等と競争政策に関する研究会」(座長 鶴田俊正 専修大学教
授)は,政府規制分野の個別調査の一環として,我が国発着の国際航空運
賃のうち,特別運賃(団体用・個人用)を中心として,競争政策上の問題点
と改善の方向について検討を行い,その結果を平成4年4月に公表した。
 同研究会の取りまとめた検討結果の概要は次のとおりである。
(1) 国際航空運賃
 国際航空運賃は,二国間協定に基づき,通常,世界の大部分の航空
会社が加盟する国際航空運送協会(以下「IATA」という。)の運賃
調整会議で決定され さらに,発着地双方の政府の認可を得て実施さ
れている。
 特別運賃とは,旅行需要を喚起する目的で,特定区間に普通運賃よ
り安い運賃を設定したものであり,個人用と団体用があるが,需要の
大部分な,旅行業者が航空旅行にホテル等の手配を加え,旅行を組み
立てて使用できる団体包括旅行運賃(以下「GIT運賃」という。)
である。
(2) 航空座席の取引
 日本発旅行者の約8割はGIT運賃を利用していると言われている
が,団体用航空座席の取引については,次のとおりである。
(ア) 航空会社とホールセラーとの取引について
 航空会社とホールセラー(卸売業者)との間では,半期ごとに,
半年単位で航空座席の割当て(アロット)交渉を行い,方面別,便
別にアロット数を決定している。この交渉においては,アロットの
ほかに,団体用の航空座席のネットの取引価格が,期間中に達成さ
れるべき座席の取引数量を基準として決定されている。このように
して定められる団体用航空座席のネットの取引価格と認可運賃(B
SP支払額)との間は,かなりかい離していると言われている。
(イ) パック旅行商品の販売
 ホールセラーは,航空座席のネットの取引価格をベースにして
様々なパック旅行商品を造成し,販売しているが,その価格を見る
と,GIT運賃そのものを大幅に下回っているものも多い。
(ウ) 航空座席のみの販売
 ホールセラーの多くは,航空会社から仕入れた団体用の航空座席
のうち相当部分を座席のまま卸売りし(エアオン),その多くはそ
のまま更に流通し,格安航空券として個人旅行者に販売されてい
る。
(3) 競争政策上の問題点と改善の方向
 国際航空運賃については,近年,国の内外において規制の緩和等状
況の変化がみられているところであり,航空運送事業の効率化と消費
者利益を確保する上で,市場メカニズムが有効に機能し得るような運
賃システムが形成されることが重要であるので,今後とも,我が国発
着の国際航空運賃に関する規制全般について絶えず見直しを行うとと
もに,IATAの運賃調整活動とこれに対する独占禁止法の適用除外
についても見直しを行い,改善を図っていくことが必要である。
 特別運賃については,特に以下のような点等に関して改善が図られ
るべきである。
(ア)  GIT運賃については,適用除外制度及びその運用を見直す必要
がある。
(イ)  個人用の特別運賃については,割引率の拡大やその適用条件の改
善に努める等市場の実態に即した弾力的な運賃設定が可能となるよ
うに改善していくことが必要である。
(ウ)  代理店手数料に関する協定については,独占禁止法の適用除外と
する必要性はなくなっていると考えられる。

第4 六大企業集団の実態に関する調査

調査の趣旨
 我が国において企業集団あるいは企業グループといわれるものは種々あ
るが,三井,三菱及び住友(旧財閥系企業集団)並びに芙蓉,三和及び第
一勧銀(銀行系企業集団)の各グループについては,その規模,影響力等
から,特に六大企業集団と呼ばれている。
 また,企業集団に関しては,日米構造問題協議の最終報告において,系
列問題の一つとして取り上げられ,定期的な調査の実施,調査結果の公表
等について言及されているところである。
 当委員会は,従来から,企業集団の実態につき調査を行ってきたところ
であるが,本年度においては,上記のような状況を踏まえて,六大企業集
団についてメンバー企業の結び付きの状況のほか,集団内取引の状況等を
調査し,その結果を取りまとめ,平成4年2月に公表した。
調査結果
(1) 六大企業集団の概要及びその社長会の活動状況
 六大企業集団は,戦前の財閥のような持株会社を中心としたピラミッ
ド型の支配構造に基づく企業集団ではなく,銀行,総合商社をはじめ広
範な業種において我が国を代表する企業が独立性を保ちつつ社長会を構
成し,相互に株式の所有,役員の派遣等がみられ,緩やかな関係の企業
集団を形成しているものであり,その関係の程度は低下しつつある。
 六大企業集団は,いずれも社長会を毎月1回(第一勧銀グループは3
か月に1回)定期的に開催しているが,外部講師による内外の経済情勢
等の講演や一般的な経済情勢についての情報交換,旧財閥系企業集団で
は商標・商号の使用許諾に関する報告,企業集団としての寄付の報告等
が行われている。
 なお,六大企業集団の社長会の結成時期及びそのメンバー企業数は,
第1表のとおりである。




(2) 株式所有状況及び役員派遣等の状況
 六大企業集団メンバー企業間の株式所有関係については,六大企業集
団間で一様でないが,総じて半分以上のメンバー企業と株式所有関係を
有しているものの,株式所有関係の強さを示す平均持株率は,六大企業
集団平均で1.42%と大きくない。また,株式所有関係を有するメンバー
企業数は増加し,株式所有を通じた関係は広がっているものの,平均持
株率は低下し,同一企業集団のメンバー企業に所有されている株式の比
率は21.64%と昭和62年度(22.65%)よりも低下している。企業集団の
個々の株式所有を通じた関係は,平均的にみれば必ずしも強いものでな
く,その関係の程度は総じて低下しているものと考えられる。
 六大企業集団のメンバー企業間の役員派遣については,六大企業集団
間で一様でないが,総じてメンバー企業の半分以上は,同一企業集団の
メンバー企業から役員を受け入れているものの,受け入れている役員の
役員総数に占める比率(比率は6.34%,人数としては1社当たり1.82
人)は低い。企業集団の役員派遣を通じた人的結合関係は必ずしも強く
なく,その関係の程度は低下している。

(3) 企業集団メンバー企業(金融機関を除く。)の取引の状況
 六大企業集団のメンバー企業間の集団内取引関係については,六大
企業集団間で大きな差があり,同一企業集団メンバー企業の6割以上
と取引関係にあるグループから,メンバー企業の3割程度としか取引
関係がないグループまである。
 しかしながら,メンバー企業間の平均取引高率は,売上高で
0.85% 仕人高で1.16%と小さい。また,集団内取引比率でも売上高
7.28% 仕入高8.10%と昭和56年度(売上高10.8%,仕入高11.7%)
と比べてかなり低下している。さらに,集団内取引の大部分は総合商
社との取引となっている(売上高4.59%,仕入高5.12%)。
 企業集団のメンバー企業間の取引関係は必ずしも強いものとなって
おらず,その関係の程度は総じて低下している。
 六大企業集団のメンバー企業の取引先上位30位までの企業(総取引
高の4割程度を占めている。)との取引の状況をみると,六大企業集団
間で大きな差はなく,取引先上位30位までの企業のうち,同一企業集
団メンバー企業が企業数で占める比率は,売上で7%程度,仕入で
6%程度であり,取引高で占める比率は売上で10%程度,仕人で15%
程度となっている。
 六大企業集団のメンバー企業が保有する汎用コンピュータの状況を
みると,同一企業集団内に汎用コンピュータのメーカーが属する企業
集団にあっては,三菱グループを除いて同一企業集団内の汎用コン
ピュータのメーカーのものがいずれも大きなウェイトを占めている。
 しかしながら,汎用コンピュータについては,全体的にみれば,外
国メーカーのものが45.16%を占めている。
(4) 六大企業集団における金融機関の状況
 六大企業集団の金融機関の状況は次のとおりであり,金融機関は,都
市銀行を中心に,株式所有,役員派遣,金融取引の面において,ほと
んどのメンバー企業と相互に関係を有しているが,その関係の程度は
強くなっていない。
 六大企業集団内の金融機関は,特に都市銀行を中心に,企業集団の
メンバー企業のほとんどと相互に株式を所有しているとともに,約半
数のメンバー企業に役員を派遣しているほか,メンバー企業のほとん
どに資金の貸付を行っている。
 しかしながら,金融機関の貸出金依存率は,六大企業集団間で一様
でないが,六大企業集団平均で3.13%と総じて低く,また,低下して
いる。
 さらに,六大企業集団のメンバー企業の集団内借入金依存率は,六
大企業集団間で一様でないが,六大企業集団平均で17.48%と上場企
業の借入先第1位の金融機関からの借入金依存率の平均27.89%を下
回っている。
(5) 六大企業集団における総合商社の状況
 企業集団の総合商社の状況については,次のとおりであり,旧財閥系
企業集団と銀行系企業集団では差があるものの,株式所有及び役員派遣
の面では,総合商社は企業集団において金融機関のような存在になって
いるとはいいがたい。また,総合商社は,企業集団において集団内取引
の中心的な存在となっているが,その関係の程度は総じて低下してお
り,強くなっていないものと考えられる。
 旧財閥系企業集団では,ほとんどの企業集団メンバー企業の株式を
所有し,株式所有関係の面で金融機関と並ぶ存在となっているともい
える。銀行系企業集団では,総合商社は企業集団メンバー企業のうち
54.33%の企業の株式を所有しているにすぎず,しかも,平均持株率
でも金融機関(都市銀行4.3%)を大幅に下回る比率であり,株式所
有関係の面では金融機関ほどの存在とはなっていない。
 総合商社のメンバー企業への役員派遣の状況は,派遣会社比率
(10.25%),派遣役員比率(0.37%)をみても,いずれの企業集団も
金融機関(都市銀行の派遣会社比率49.51%,都市銀行の派遣役員比
率2.7%)に比べて低いものとなっている。
 総合商社の取引の状況をみると,総合商社は,メンバー企業のほと
んどすべてと取引しており,集団内取引の大部分は総合商社との取引
が占めている。総合商社の同一企業集団メンバー企業との取引の割合
は,売上高で2.64%,仕入高で7.56%であり,低下している。さら
に,総合商社の総取引高に占める同一企業集団メンバー企業1社当た
りの取引高の比率は売上高で0.12%,仕入高で0.38%と小さい。ま
た,メンバー企業の同一企業集団内総合商社との取引の割合も,売上
高で11.69%,仕入高で5.67%であり,総じて低下している。
 鉄鋼メーカーの鉄鋼原料及び鋼材の取引を総合商社との取引を中心
に企業集団内取引の観点からみると,鉄鉱石及び鋼材は,同一企業集
団内の総合商社と鉄鋼メーカー間の取引が大きなウェイトを占めてい
る。
 原料炭については,企業集団内の各鉄鋼メーカーとも,同一企業集
団に属さない総合商社との取引が大きなウェイトを占めている。
 なお,六大企業集団に属していない鉄鋼メーカーにあっては,いず
れの取引においても,同一企業集団に高炉メーカーを持たない総合商
社との取引が大きなウェイトを占めている。


(6) 六大企業集団の共同出資会社の設立状況
 六大企業集団メンバー企業による共同出資会社の設立状況(昭和63年
4月から平成2年12月末までの設立件数751)についてみると,同一企
業集団メンバー企業のみの共同出資によるものは,六大企業集団合計で
6.39%しかなく,同一企業集団メンバー企業以外の企業が共同出資に参
加しているものが93.61%(同一企業集団メンバー企業以外の企業のみ
との共同出資77.1%,同一企業集団メンバー企業及び同一企業集団メン
バー企業以外の企業との共同出資16.51%)とほとんどを占めている。
また,外国企業との共同出資により設立したものは7.19%であり,同一
企業集団メンバー企業との共同出資によるものよりも高い。
(7) 六大企業集団の我が国経済に占める地位
 六大企業集団のメンバー企業(金融機関を除く。)の我が国経済に占め
る地位について,平成元年度における我が国の法人企業全体(金融機関
を除く。)に占める比率をみると,メンバー企業数では,0.008%を占め
るにすぎない。しかし,企業の総合的な経済力を表わす指標でみた場合
には,資本金で17.24% 総資産で13.54%,売上高で16.23%となって
おり,これらの比率は,昭和62年度と比べて上昇している。
(8) まとめ
 以上のとおり,六大企業集団は,各企業集団で一様でないものの,総
じてメンバー企業間の株式所有関係や役員派遣関係は強いものではな
く,しかもその関係の程度は低下してきている。・また,メンバー企業の
取引全体に占める同一企業集団メンバー企業との取引の割合は,売上高
で7.28% 仕入高で8.10%であり,これは,メンバー企業と同一企業集
団に属さない企業との間で広く取引が行われていることを示しており,
しかもその割合は昭和56年度(売上高で10.8%,仕入高で11.7%)と比
べかなり低下してきている。
 一般的に六大企業集団に関して,メンバー企業間の結びつきを背景
に,メンバー企業との取引を優先・選好する傾向にあるのではないかと
の指摘がある。この点については,今回の調査では,前記のとおり,メ
ンバー企業間の結びつきは強いものではなく,しかもその程度は低下し
ていること,また,全体的にみて,メンバー企業と同一企業集団に属さ
ない企業との間で広く取引が行われており,しかも集団内取引の割合は
低下していることが認められ,そのような傾向にあるとは言い難い。
 しかしながら 六大企業集団の我が国経済に占める地位は依然として
大きく,かつそれぞれの業種においていずれも有力な企業がメンバー企
業となっていることにかんがみ,競争政策の見地から引き続き企業集団
の機能等を検討するうえで,今後とも定期的に実態の把握に努める必要
があると思われる。
 なお,我が国における取引慣行や企業行動等について不透明感を持た
れることのないように,企業集団及びそのメンバー企業においても,例
えば社長会の状況や取引先選択の原則を明らかにする等透明性を高めて
いくための一層の努力が期待される。