11-1 |
アメリ力 |
|
(1) |
法制の動き |
|
ア |
反トラスト規則,政策又はガイドラインの変更 |
|
米国量刑委員会(United States
Sentencing Commission)は,
新しい量刑ガイドラインを公表し,1991年11月1日以後に行われた反
トラスト法刑事違反についてはこれを適用する旨発表した。反トラス
ト法違反の判決を受ける組織体(企業)の刑事罰は,これまでどおり
違反により影響を受けた取引額に基づくものとされた。また,個人に
ついては,改正前の量刑ガイドラインの下で受けたものに比べ,禁錮
刑が用いられるようになり,かつ刑期が長くなる反面,罰金刑の水準
が引き下げられた。 |
イ |
反トラスト法,関連法規又は政策の改正案 |
|
(ア) |
有線テレビ放送業の再規制に関する法案 |
|
司法省は,商務省と共同で,新規参入障壁の除去に十分対応して
いないとして,審議中の有線テレビ放送業の再規制に関する法案
(特に,基本サービス料金の包括的規制条項)に反対するコメント
を提出した。 |
(イ) |
生産ジョイントベンチャー促進に関する法案 |
|
本法案は,1984年共同研究法を改正し,現在,研究開発ジョイン
トベンチャーについて定められている反トラスト法上の特例(①合
理の原則による違法性の判断,②司法省及びFTCに届け出られた
ジョイントベンチャーについては,仮に違法とされた場合にも,実
損額賠償に限定)を生産ジョイントベンチャーに対しても適用する
という内容となっており,司法省は,財務省,商務省等と合同で支
持のコメントを提出した(ただし,こうした特例を外国からの実質
的な参加がないジョイントベンチャーのみに限定するという条項に
は反対)。本法案は,第101議会(1989-90年),第102議会(1990-91
年)では成立に至らず,次回会期の議会にも同様の法案が上程され
ている。 |
|
|
(2) |
反トラスト法及び政策の施行 |
|
ア |
司法省反トラスト局の措置件数及び提訴事件の概要 |
|
司法省反トラスト局は,1991年に152件の正式審査を開始し,99件
の提訴を行った(うち81件が刑事訴追)。同年中,被告人に延べ10,000
日の禁錮刑(6,652日の実刑を含む。)が宣告され,罰金及び損害賠
償額の合計は,2,710万ドルを超えた。
(ア) |
1991年に,司法省は,産業廃棄物処理,清涼飲料,スチール製ド
ラム罐,通学バス車体,パワー・グリッド・チューブ及びドライク
リーニング用品等を含む広範にわたる製品・サービス市場の価格協
定,市場分割に対し刑事訴追を行った。また,司法省は,学校給食
用ミルク及び酪製品,視聴覚スタジオの建設,不動産投資,自動投
票集計機の修理,冷凍海産物,屋根葺き,断熱材,連結壁,ビル補
修工事等の各種建設事業及び公開競売に付される一般商品等を含む
各種製品・サービス市場の入札談合に対し刑事訴追を行った。
① |
1987年以降,司法省は州の競売における中古の事業用機械・設
備の購入に関する入札談合事件の訴追を行ってきており,これま
でに60件の事件について,94法人58個人を起訴し,92法人53個人
が有罪とされた(罰金総額440万ドル,禁錮刑12個人)。1991年に
は,12企業4個人が有罪判決を受け,合計70万ドルの罰金が科さ
れた。 |
② |
司法省は,多くの州の地域的な市場における清涼飲料製品の価
格協定事件の訴追を行ってきており,1986年以降 45件の事件に
ついて28企業29個人を起訴し,25企業27個人が反トラスト刑事罪
で有罪とされた。1991年には,これら清涼飲料価格協定事件に関
して1企業が有罪判決を受け,合計1,990万ドルの罰金が科され
たほか,9個人が禁錮刑を言い渡された。 |
③ |
司法省が継続している学校給食用ミルクの販売価格協定に対す
る訴追も活発に行われている。1988年以降,司法省は45件につい
て21企業34個人を起訴し,18企業27個人が有罪判決を受けた。
1991年には,これらの価格協定事件に関して10企業6個人が有罪
判決を受け,合計1,120万ドルの罰金が科されたほか,4個人が
禁錮刑を言い渡された。 |
④ |
ここ50年間で初めて2歯科医師会及び歯科医師3名を相手取り
提起された反トラスト刑事事件(合衆国対Alston事件)で,陪
審は,1990年9月,価格協定の罪で有罪の評決を下した。しか
し,連邦地方裁判所は,1990年12月,被告2歯科医の無罪の申立
てを認め,残る1歯科医については再審を命じた。司法省は,こ
れら判決を不服として1991年に控訴した。 |
|
(イ) |
1991年に,司法省は,連邦政府による調達の分野における反競争
的行為に対する法施行に引き続き努めた。特に,司法省は,連邦政
府における衣料,手袋,制服,牛乳,海産物,清涼飲料,建設工事
の調達に関し,価格協定及び入札談合の罪でその供給業者を刑事訴
追した。国防省調達に関し,累計で127企業109個人を被告とする合
計110件の刑事事件が提訴され,計181件の有罪判決が下されたく罰
金及び損害賠償総額5,700万ドル超,33個人に対し平均10か月の禁
錮刑)。1991年には,これらの事件に関して15企業11個人が有罪判決
を受けた。同年の罰金総額は910万ドルであり,6個人が合計で
2,004日の禁錮刑を言い渡された。 |
(ウ) |
1991年に,司法省は,合併以外の分野の反競争的行為に関し,次
のような反トラスト民事訴訟を提起した。
① |
1991年10月,司法省は,ここ数年はなかった独占事件を提訴し
た。被告2社は,競争企業の買収について協力すること及び両社
のチューブ製品と競合する使用済みチューブの再生・販売を妨害
するため,その収集について違法な協定を結んでいたことにより
訴追された。その結果,両社は,同意判決により,両社の協定を
廃棄し,両社の一定の通信・連絡及び活動を禁じ,及び米国政府
各省庁に対する両社のパワー・グリッド・チューブ販売によって
原告が受けた損害について150万ドルを支払うよう命じられた。 |
② |
1991年5月,司法省は,アイビー・リーグ8大学を含む有名9
大学による奨学金額等に関する競争制限協定を提訴した。9大学
中8大学は,奨学金に関する共謀並びに今後の授業料及び教員給
与引上げに関する協議を排除する同意判決を受け入れた。しか
し,残りの被告マサチューセッツ工科大学は,まだ同意判決を受
け入れておらず,1992年中に提訴する見込みである。 |
③ |
1991年2月,司法省は,通常分娩及び帝王切開の料金をそれぞ
れ約500ドルずつ引き上げる協定を結んだとして,ジョージア州
サバンナの産婦人科医師22人に対する訴訟を提起した。被告全員
に,料金の設定,引上げ又は維持に関する協定はもとより,現行
又は将来の医療料金に関する情報の交換をも禁じる同意判決が下
された。 |
④ |
1991年1月,司法省は,入札談合の共謀を行ったとして,無煙
小火器火薬の販売業者2社を提訴した。 |
|
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イ |
FTCの措置件数及び審決を行った事件の概要 |
|
FTCは,1991年に,91件の予備審査と38件の正式審査を開始し,
競争に影響を及ぼす事案(合併を含む。)に関し,1件の意見提出,2
件の審判開始決定を行うとともに,11件の同意審決に最終的な承認を
与えた。さらに,FTCは,5件の民事訴訟を提起し,その結果総額
460万ドルの民事罰を科す5件の判決を得た。また,FTCは,5件
の合併事案に対し暫定差止命令を求める訴訟を提起した。
FTCが1991年に扱った主要な事件として,次のようなものがあ
る。
① |
フロリダの医師と病院スタッフが共謀して,自らの組織の所属病
院が別の医療組織の医師に医療サービス及び特権を提供する内容の
提携を結ぶ場合には,当該病院に対する患者の紹介や医療サービス
の提供を取り止める旨の威嚇を行っていた事件で,1992年初頭,F
TCは,本件について暫定的に同意審決とした。 |
② |
FTCは,任天堂America Inc.が自社の家庭用ビデオゲーム
機器につき再販売価格維持を行っていた事件について,同意審決を
行った。 |
|
ウ |
合併規制 |
|
司法省及びFTCは,ハート・スコット・ロディノ法(H・S・R
法)の合併事前届出条項に基づき,1991年中に,1,537件の合併案件
に関して2930件の届出を受理した。
1991年8月,司法省とFTCは,H・S・R法が定める合併事前届
出義務の強制履行に係る民事訴訟の運用に関する取決め(覚書き)を
発表した。これによれば,FTCは司法省に対し民事訴訟提起の勧告
を行い,これを受けて,司法省は,FTCに対し,当該事案について
提訴をするか否か,又は追加情報を要請する旨の通知を行うことに
なっている。司法省がFTCに対して45日以内にこれらの通知をしな
い場合には,FTCは,FTCの検察官を指名し,連邦政府を代表し
て連邦裁判所に提訴する者として任命するよう司法長官に対し要請す
ることができる。
司法省は,1991年中に,合併事前届出書に対する審査に基づき,37
件の案件に関して追加情報を求める63件の文書を発出した。さらに,
司法省は 同期間中に,H・S・R法の対象とされていない銀行その
他の金融機関による1,440件の合併及び取得について審査を行った。
また,同省は,93件の合併及び株式取得について正式に審査を開始
し,14件の計画に対し公式に異義を述べ,4件についてこれを阻止す
るため訴訟を提起した。なお 10件の計画については,司法省が提訴
の意図を表明し,又は提訴した後に,放棄又は修正された。
FTCは,1991年に,合併事前届出書に対する審査に基づき,29件
の案件について追加情報を求める文書を発出した。FTCは,4件に
ついて合併計画の進行を阻止するため,事務局に対し暫定的差止命令
の申立てを地方裁判所に行う権限を与えた。また,1件の審判開始決
定と10件の同意審決を行った。
主要な事件としては,次のようなものがある。
① |
司法省は,1991年7月,メイン州の特定地域の中小企業に対する
銀行サービスの供給における競争を減殺するおそれがあるとして,
フリート・ ノースター・フィナンシャル・ グループ社とニュー・
メ
イン・ナショナル・バンクとの合併を提訴した。両社が,一定の銀
行の支店の資産及び預金を譲渡することに同意し,本件は終結し
た。 |
② |
司法省は,1991年7月,高速製本機製造業者の最大手ジェネラ
ル・バインディング社による同業界第2位のべロバインド社の取得
計画を提訴した。製造している機械の1機種であるプラスチック細
棒中綴機の販売において新規競争者を作り出すよう取引をやり直す
ことに当事者が同意したため,本件は終結した。 |
|
エ |
政府規制緩和 |
|
司法省は市場に対する政府の干渉を排除し,競争を促進する観点
から,1991年には,航空輸送(コンピュータ座席予約システム運用規
則,外国事業者に対する航路規制),海運(1984年海上運送業法の運賃
規制),農業(オレンジ,レモン及びミルクの出荷規制),エネルギー
(天然ガス・パイプライン規制),通信(連邦通信委員会による地方電
話サービス規制,有線テレビ放送規制)等に関し,関係当局や規制機
関に意見を提出した。
FTCは 競争及び消費者保護の観点から,1991年には 海運(反
トラスト法適用除外),通信(連邦通信委員会による電話回線規制,ラ
ジオ・テレビ局規制等),金融・財政(連邦準備制度による銀行間小切
手運送手数料設定の方式の変更),航空運輸(連邦航空局による過密空
港における着陸用進入路の割当・変更システムの改正),小売業(州に
よる石油取引規制 州内陸運業規制)等に関し,関係当局や規制機関
に意見を提出した。また,全米法曹協会(ABA)が定めた専門的職
業の活動に関するモデル・ルール改正案に関して,同協会に対し書簡
を送った。 |
|
|
11-2 |
ド イ ツ |
|
(1) |
法制の動き |
|
競争法制に動きはなかったが,1990年10月3日のドイツ統一をもっ
て,競争制限禁止法は,ドイツ全域で適用されることになり,連邦カル
テル庁がドイツ全域に及ぶ競争法の施行機関となった。 |
(2) |
法の適用 |
|
ア |
カルテル規制 |
|
連邦カルテル庁が,高額の制裁金を科した事件はなかったが,ガラ
ス卸売業者による価格協定事件について審査が行われている。 |
イ |
適用除外カルテルの認可 |
|
連邦カルテル庁と連邦経済大臣により認可された適用除外カルテル
の件数は,1991年12月末現在224件である。1991年に新たに認可され
たカルテルは7件であり,廃止されたカルテルは9件であった。カル
テル禁止の例外を最小限にするとともに,中小企業間の協力を奨励す
る連邦カルテル庁の政策を反映して,中小企業間の協力協定が増加し
ている(224件中88件)。 |
ウ |
合併及び集中 |
|
(ア) |
1990年において,連邦カルテル庁は,2,007件の合併・株式取得
(以下「合併」という。)の届出を受理し,対前年比30%増となっ
た。これは,旧東ドイツ企業の取得件数が,特に1991年の下半期に
急増したことによるものである。2,007件の届出のうち,合併後に
届出が行われ,規制の対象となったのは351件である。また,正式
手続により3件の禁止処分が行われたほか,関係企業と連邦カルテ
ル庁との非公式の話合いの結果,8件の合併について計画が断念さ
れ,連邦カルテル庁が禁止する意向を企業に通知した結果,3件の
合併について計画が撤回された。 |
(イ) |
連邦カルテル庁は,1990年に次の3件の合併を禁止した。
① |
BaywaによるWLZの取得 |
|
Baywa及びWLZは,いずれも強力な農業協同組合の連合体
であり,近年,その事業活動は,農産物の取引のほかに小売業等
のさまざまな分野に及んでいる。Baywaの主たる営業地域はバ
バリア地方であり,WLZのそれはヴュルテムバーグである。ま
た,Baywa の1990年における売上高は57億マルクであり,
WLZのそれは13億マルクであった。
この取得により,特に南ドイツの化学肥料や殺虫剤の卸・小売
市場及び南ドイツの大麦・小麦の集荷・販売市場におけるBaywa
の現在の市場支配的地位の強化につながるおそれがあると判断さ
れた。
なお,BaywaとWLZは,連邦経済大臣による適用除外の申
請を行ったが,却下された。 |
② |
Axel Springer Verlag AGによる
Stadt‐Anzeiger GmbH
の50%の持分取得 |
|
Axel Springer Verlag
AG(以下「Axel」という。)は,ド
イツで第1位の新聞社であり,無料新聞1紙を含む3紙を発行し
ており,3紙のライプチヒ地域での広告市場の市場占拠率は80%
超,総売上高は35億マルクとなっている。
Stadt‐Anzeiger
GmbHは,ライプチヒ地域では主導的な無料新聞120万部を発
行しており,その市場占拠率は約15%である。本件取得により,
Axelの市場支配的地位が更に強化されると判断された。 |
③ |
Fried.Krupp AGによる Franz
Daub und Sohne GmbH
&Co.(Daub)全株の間接取得 |
|
Krupp社グループは,1990年に機械工学,電子,製鉄等の分
野で155億マルクの売上を記録した。Daub社は,工業用オーブ
ン機器の製造業者で,その市場占拠率は,オーブン機器で3分の
1超,工業用オーブン機器で約60%である。同社の売上高は
3,000万マルクである。また,中小規模の主要競争者に関して
は,金融力で卓越している。
本件取得は,Kruppの子会社Werner&Pfleidererにより行
われるもので,工業用オーブン機器市場で市場支配的地位を生み
出すと判断された。 |
|
|
|
(3) |
規制緩和等 |
|
1990年11月に採択された民営化を進める決議に沿って,連邦政府は,
今後,サービス部門,とりわけ港湾,空港,ルフトハンザ鉄道といった
運輸部門の民営化を重点的に進める予定である。また,銀行や住宅建設
団体も民営化の対象になると予想されている。
なお,旧東ドイツにおける国営企業等の民営化については,民営化担
当の政府機関 Treuhandanstalt
が,1991年中に約11,700社のうち
8,000社超を売却した。1992年末までに全体の85%に当たる約9,500社の
民営化を行い,1993年末までには不動産,住宅建設,農業の部門を除く
全部門の民営化を達成する予定である。 |
|
11-3 |
イギリス |
|
(1) |
法制の動き |
|
ア |
制限的取引慣行法に関する政府提案等 |
|
競争制限的協定の原則禁止規制の導入と登録制度の廃止,制裁金制
度の創設等を内容とする制限的取引慣行法令に関する政府提案が1989
年7月に行われているが,1991年には その提言を実行に移す措置は
探られなかった。
なお,個別部門については,公正取引法に関するものとしてクレ
ジットカード・サービスに関する二つの命令(買収,価格差別)が,
制限的取引慣行法に関するものとして電気事業における一定の協定に
関する三つの命令(適用除外)が,それぞれ付随的法令として発効し
たほか,公共事業(ガス及び水道供給)競争法案が公表された。 |
イ |
競争法関係の命令,政策又はガイドラインの改正 |
|
① |
1989年電気事業法の施行に伴い,公正取引庁長官は電気供給庁長
官と協議し,電力分野における今後の競争政策に関し,どのように
両者間で機能分担を図っていくかについて合意に達した。 |
② |
公正取引庁は,地方公共団体等の調達担当官向けに未登録カルテ
ル対策ガイドを作成,配布した。 |
③ |
公正取引庁は,運送業における規制緩和に伴い,特にバス旅客運
送事業を対象とした1976年制限的取引慣行法の施行に関する指針を
作成,配布した。 |
|
|
(2) |
競争法及び競争政策の施行 |
|
ア |
カルテル規制 |
|
(ア) |
1976年制限的取引慣行法によって,競争制限的協定は登録制に
なっている。1991年には619件の協定が登録され,登録された協定
の総数は約10,000件となった。 |
(イ) |
登録すべき協定が登録されていないと認められる場合には,公正
取引庁長官は,関係者に対し詳細な情報を求める通知を発出するこ
とができることとなっており,1991年には71件の通知を発出した。 |
(ウ) |
登録されていない協定が,価格協定,市場分割協定のような反競
争的なものである場合には,公正取引庁長官は,制限約慣行裁判所
に訴訟を提起するが,1991年には,バス旅客運送事業者,石油燃料
供給業者,鉄製屋根葺き業者等の市場分割協定,価格協定等につい
て訴訟が提起され,これらの業者は協定の廃止等を約束した。 |
(エ) |
協定の未登録に対する罰金の規定はないが,裁判所の命令に違反
する場合には,法廷侮辱罪として刑が科される。1990年9月,生コ
ン会社4社が法廷侮辱罪(制限的慣行裁判所差止命令違反)で有罪
とされ,8万3,000ポンドの罰金を科されたが,1991年7月,控訴
裁判所は,差止命令に係る違反被疑行為について無罪を言い渡し,
これに伴い法定侮辱罪判決も破棄された。公正取引庁はこれを不服
として上院(英国の最高裁として機能)に上告したが 上院は,同
年11月,これを却下した。 |
|
イ |
再販売価格維持行為に対する規制 |
|
1991年には,1976年再販売価格法に基づき,違反行為容疑で34件の
申告(1990年実績39件)があり,うち4件(履物,バター・ジャム,
衣類及びペット動物用品)につき違法かつ無効と認定した。 |
ウ |
反競争的行為に対する規制 |
|
1980年競争法に基づき,公正取引庁長官は,反競争的行為を調査し
てその結果を公表している。1991年には,観光局の制限的取引による
販売促進方針及び石炭公社が石炭業者に与える輸入抑制のための割引
に関し報告書を公表したが,その内容は,いずれも反競争的ではない
とするものであった。 |
エ |
独占状態に関する調査 |
|
1973年公正取引法に基づき,公正取引庁長官は,独占状態(1社で
英国市場の25%以上のシェアを有する場合等)が認められる場合,そ
れについてMMCに調査を付託することができる。1991年には,フェ
リー輸送サービス,マッチ・使い捨てライターの供給,テレビ局の番
組宣伝(番組ガイド発刊等)の3件について付託を行った。
MMCは,1991年に,①新築住宅の品質保証,②インスタントコー
ヒーの販売,③剃刀及び剃刀刃業界における合併案件,④炭酸飲料水
の供給及び⑤複写機サービス供給における抱き合せ販売(トナーとコ
ピー用紙)の計5件について報告書を公表した。
①については,英国住宅建築協会が住宅の品質保証に関する認定
サービス(シェア90%超)について,公共の利益に反する側面があ
り,是正を要する旨報告されたため,貿易産業大臣は,関係者との協
議を経て,講じるべき処置について検討している。
②については,ネッスル社のシェア約50%は,正当な競争の結果で
あり,現状は公共の利益に反していない旨報告された。
③については,スウェーデン・マッチ・ABによるストーラ・コッ
パーバーグ・バーグスラッグズAB(ウィルキンソン・ソードを含
む。)の資産買収は,買収側が世界最大手のジレット・グループの財政
支援に依存していることにかんがみ,国内の競争業者の競争力を弱め
るおそれがあるなど公共の利益に反する側面があるとして,資産分割
等の条件を付すよう助言がなされたため,これについて検討が行われ
ている。
④については,コカ ・ コーラ等による市場独占等を認定し,公益に
反する側面があると報告され,貿易産業大臣は,関係者との協議を開
始した。
⑤については,ランク・ゼロックスの単一独占等が認定され一定の
制限的取引慣行の存在は認められたものの,公共の利益には反してい
ない,しかし,1976年報告によって採られた措置(トナー販売と複写
機サービス提供との切離しに関するランク・ゼロックス側確約)につ
いては解除されるべきである,旨報告され,後者の措置は12月中に実
施された。 |
オ |
合併規制 |
|
(ア) |
公正取引庁は,1991年に285件の合併案件を審査した。うち183件
について,公正取引庁長官は,調査のため案件をMMCに付託すべ
きかどうかについて貿易産業大臣に助言した。 |
(イ) |
この件数(183件)は,1986年以降減少の傾向にある。総資産額
は870億ポンドであり,業種別に見ると,化学・合成繊維(18件),
食料・飲料・たばこ(15件),流通 (18件),銀行・金融(12
件),その他ビジネス・サービス(12件)の5分野で41%の減少と
なっている。また,合併形態では水平合併の割合が昨年の75%から
87%へと増加している。 |
(ウ) |
貿易産業大臣は,1991年中にMMCに対し7件の付託を行った
が,それらは,すべて公正取引庁長官の助言に従って行われたもの
である。 |
(エ) |
MMCは,1991年中に13件の合併等に関する報告書を公表し,こ
のうち7件が公共の利益に反するとした。主要な案件は,次のとお
りである。
① |
バルヒ社によるAKZO社の取得 |
|
MMCは,この合併により有機肥料と石油ガス用屈穿泥水の市
場における競争が実質的に減殺されるとして許可すべきでないと
した。貿易産業大臣はこれを受け入れ,公正取引庁長官に対し,
関係者から当該合併を行わない旨の確約を得るよう要請した。 |
② |
ケミラOy社によるインペリアル・ケミカル・インダストリー
ズ(ICI)社の取得 |
|
この合併により,窒素肥料分野における両者のシェアは市場全
体の3分の2を占めることになるため,MMCは,市場における
競争が実質的に減殺されると判断した。この結果,貿易産業大臣
は,公正取引庁長官に対し,関係者から当該合併を行わない旨の
確約を得るよう要請した。 |
|
|
|
|
11-4 |
フランス |
|
(1) |
法制の動き |
|
競争法制に動きはなかったが,公共工事契約の査定手続の透明性の確
保を主眼とする1991年1月3日の法律が制定された。 |
(2) |
法の適用 |
|
ア |
競争評議会の活動 |
|
(ア) |
1991年には,競争評議会は129件の事件を受け付け,66件につい
て決定を行い,10件について意見を提出した。66件の決定の内訳
は,正式に申し立てられた申告に関するもの32件,保全措置に関す
るもの6件,却下・打切り等26件,過去の決定の遵守等に関するも
の2件である。 |
(イ) |
制裁金 |
|
1991年に,競争評議会は21件の事件,155の事業者について総額
4,039万フランの制裁金を科した。主要な事例は,以下のとおりで
ある。
i) |
カルテル |
|
① |
フランス南部の自動車教習所の団体が,教習料金等を取り決め
る目的で会合を開催し,会員の教習一括料金等を定めていたこと
について,競争評議会は,同団体及び教習所に総額200万フラン
の制裁金を科した。 |
② |
土地測量士の団体が,土地測量士が顧客に対し請求する料金に
ついて標準料金表を作成し,公表したことについて,競争評議会
は,同団体に対し総額607万フランの制裁金を科した。 |
|
ⅱ) |
垂直的取引制限 |
|
競争評議会は,スキーブーツ製造業者に対し,販売業者との選択
的販売契約の締結に当たり,自己が定めた目標価格を参考とするよ
う,また,これに従わないときには契約を更新しない旨約定したこ
とについて,競争評議会は,これらは販売業者間の競争を制限する
ものであるとして,150万フランの制裁金を科した。 |
ⅲ) |
入札談合 |
|
地方公共団体や公益事業体による公共建設工事の入札談合につい
て,競争評議会は,3件の決定を下した。主要な事件は次のとおり
である。
アルプス・ド・オート・プロバンス県などが実施した公共建設工
事の人札談合において,他の事業者と共謀して入札に応じたこと
は,反競争的であるとして,2事業者に合計22万フランの制裁金を
科した。 |
ⅳ) |
支配的地位の濫用 |
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競争評議会は,ヤコブ・スシャール・ フランス社が,インスタン
トココアミックスの販売に当たり,当該製品を小分け再包装して再
販売していた同社の顧客に対し,小分け再包装しないよう条件を課
したことは支配的地位の濫用に当たるとして,当該行為を禁止し
た。 |
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(ウ) |
集中規制 |
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1991年には,経済力集中に関し経済担当大臣から1件が競争評議
会に諮問され,競争評議会は4件について意見を提出した。主要な
事例は,次のとおりである。
① |
ジレット社によるエームランド社の合併 |
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本件取得は,三つの段階に分かれている。まず,ジレット社が
英国ジレット社の部門を通じて,エームランド社が発行する転換
社債を購入し,次に,ジレット社の別の英国子会社がエームラン
ド社に貸付を行い,最後に,米国とEC以外でひげ剃り用品を製
造・販売するウィルキンソン・ソード社(エームランド社の子会
社)に関係する商標等の工業所有権の取得を明記した契約を引き
出すというものであった。競争評議会は,本件について,ひげ剃
り用品の市場における当事者の合計市場占拠率が75%になるこ
と,ジレット社がEC以外でウィルキンソンブランドを取得する
ことになれば,EC内でウィルキンソンブランドを所有するエー
ムランド社の販売方針を支配できるようになることなどを考慮し
て,本件取得は競争を制限するおそれがあるとする意見を提出し
た。 |
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イ |
競争・消費者問題・不正行為防止総局の活動 |
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(ア) |
同総局は,1991年に,1986年競争法第4章に規定される制限的行
為(おとり販売,最低価格の強要等)の規制について,21,365件
(価格の表示に関するものを除く。)の調査を行い,このうち42件に
ついて警告を発し,309件について報告書を作成した。 |
(イ) |
競争法第3章に規定される反競争的行為(カルテル,支配的地位
の濫用等)については,269件の調査を実施し,このうち49件を競
争評議会に付託した。 |
(ウ) |
合併・企業集中の規制について,1991年には605件のフランス市
場に影響を及ぼし得る合併等が行われたが,同総局は,これらを審
査し,1件について競争評議会に付託した。 |
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11-5 |
EC |
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(1) |
法制の動き |
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1989年12月,EC委員会はEC理事会に対し,保険業における事業者
団体の一定の類型の協定及び共同行為に関する一括適用除外を与える権
限をEC委員会に付与することを内容とする規則の提案を行うこととし
た。
1990年,欧州議会は,この提案について,いくつかの修正を付した上
で賛同する意見を採択した。EC委員会は,それらの修正を取り入れて
修正提案を閣僚理事会に提出し,1991年5月,同理事会は,理事会規則
を採択した。
この理事会規則は,容認し得る共同行為の範囲について,必要な指針
と法的な確実性を業界にもたらす意義を有しており,容認し得る共同行
為の例としては,純保険料(一般管理費及び利潤に関連するどの要素を
も除いたリスクの純粋な統計的コスト)の算出,標準的な保険商品条件
の企画 再保険及び共同保険の設定,紛争処理手続上の協力等を挙げて
いる。これをもとに,EC委員会は,第85条3項に基づき承認され得る
詳細な具体的条件を定めた一括適用除外規則を制定する予定である。 |
(2) |
法の運用 |
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ア |
カルテル・支配的地位濫用の規制 |
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1991年にEC委員会は,EEC条約(ローマ条約)第85条(競争制
限的な協定等の禁止)及び第86条(支配的地位の濫用の禁止)に基づ
き12件の決定を行った。このうち,第85条に基づく決定は11件であ
り,その内訳は,制裁金を伴う禁止決定4件,制裁金を伴わない禁止
決定2件,適用除外の決定5件である。また,EC委員会は,ECS
C条約第65条(協定等の禁止,認可及び罰則)及び第66条(事業者の
結合の規則及び罰則)に基づき29件の決定を行った。
なお,1991年12月31日現在,EC委員会は2,287件の未処理案件を
抱えている。そのうち,1,732件が申請又は届出 328件が企業からの
不服申立であり,残り227件はEC委員会が職権で手続を開始したも
のである。
1991年にEC委員会が行った主要な決定として,次のものがある。
① |
スイスの包装材メーカー・テトラパック社による制限的協定,差
別的略奪的価格,他者の広告妨害等に対して,7,500万ECU
(120
億円)の制裁金を科した(1991年7月決定)。 |
② |
各国の流通業者との販売契約中にコピー機の輸出禁止条項を設け
ていた東芝ヨーロッパ社に対して,200万ECU(3億2,000万円)
の制裁金を科した(1991年6月決定)。 |
③ |
イタリアへのコニャックの輸出を制限していたフランスのコ
ニャック・メーカーであるマーテル社に30万ECU(4,800万円),
その子会社で流通業者のディストリビューション・マーテル・パイ
パー社に5万ECU(800万円)の制裁金を科した(1991年5月決
定)。 |
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イ |
合併規制規則の運用状況 |
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1989年12月21日にEC閣僚理事会により採択された合併規制規則
は,採択から9か月後の1990年9月21日に発効した。EC委員会は,
1991年末までに同規則に基づいて63件の届出を受理し,うち60件につ
いて決定を行った。その内訳は,次のとおりである。
① |
合併規制規則の対象外である旨の決定 |
5件 |
② |
共同体市場と両立する旨の決定 |
50件 |
③ |
共同体市場と両立する旨の決定(条件なし) |
1件 |
④ |
共同体市場と両立する旨の決定(条件付き) |
3件 |
⑤ |
共同体市場と両立しない旨の決定(禁止) |
1件 |
注 |
①及び②は予備審査の結果,③~⑤は本審査の結果によるも
のである。 |
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このうち,主要な事例としては フランスの航空機メーカーアエロ
スパシアル社(Aerospatiale)とイタリアのアレニア社(Aleia)に
よるカナダのデ・ハビランド(De Havilland)社の買収を禁止したも
の,通信機器会社であるフランスのアルカテル社(AIcatel)とイタ
リアのテレトラ社(Telettra)の合併を条件付きで承認したものが挙
げられる。 |
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