第4章 法運用の透明性の確保と独占禁止法違反行為の未然防止

第1 概  説

 独占禁止法の運用を厳正かつ効果的なものとするためには,独占禁止法の
目的,規制内容及び運用の方針が国内外における事業者や消費者に十分理解
され,それが深められていくことによって独占禁止法違反行為が未然に防止
されることが必要である。このような観点から,当委員会は,各種の広報活
動を行なうとともに,事業者及び事業者団体からの各種の相談に対して積極
的に対応している。また,事業者等の独占禁止法違反行為の未然防止とその
適切な活動に役立てるため,独占禁止法違反行為を具体的に明らかにした各
種のガイドラインを公表するとともに個々の具体的なケースについて,事業
者等からの個別の相談に応じている。
 平成4年度においては,「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」及び
「銀行・証券等の相互参入に伴う不公正な取引方法等について」 を公表した。
 また,違反行為を未然に防止するため,事業者等において,独占禁止法遵
守のためのコンプライアンス・プログラムを作成する動きがあり,当委員会
は,このような事業者等の自主的な取組に対して,研修会等への講師の派
遣,独占禁止法遵守マニュアル作成に対する支援等を行なっている。

第2 共同研究開発に関する独占禁止法の指針

1 経  緯
 最近の技術革新の一つの特徴として,技術が極めて高度で複雑なものと
なり,多くの分野にまたがるものとなっているため,その研究開発に必要
な費用や時間が膨大になり,それに必要な技術も多様なものとなってい
る。そのため,単独の事業者による研究開発や他の事業者からの技術導入
に加えて,複数の事業者による共同研究開発が増加している。
 他方,諸外国においても,米国の国家共同研究法 研究のための共同事
業に関する反トラストガイド,国際的事業活動ガイドライン,ECの研究
開発一括適用除外に関する規則等によって,共同研究開発に対する競争当
局の考え方が明らかにされている。
 当委員会は,以上のような状況の下,平成2年6月に発表された「技術
取引等研究会」(座長 根岸哲 神戸大学教授)の報告書「共同研究開発
と独占禁止法」を踏まえてガイドラインの検討を進め,平成4年9月にそ
の原案を開示し,経済協力開発機構政策委員会の場を通じるなど広く国内
外からの意見を求めた上で,平成5年4月「共同研究開発に関する独占禁
止法上の指針」(以下「共同研究開発ガイドライン」という。)を作成,公
表した。
2 共同研究開発ガイドラインの性格
 共同研究開発ガイドラインは,共同研究開発に関し,研究開発の共同化
及びその実施に伴う取決めについて当委員会の一般的な考え方を明らかに
することによって,共同研究開発が競争を阻害することなく,競争を一層
促進するものとして実施されることを期待して作成したものである。その
作成に当たっては,我が国の共同研究開発の実態を踏まえるとともに,共
同研究開発に対する米国及びECにおける独占禁止法上の取扱いにも十分
配慮している。
 当委員会としては,共同研究開発を一般的に問題視するものではなく,
多くの場合競争促進的効果を有するものと考えており,共同研究開発に
よって,競争制限的効果が生じるおそれがある場合に限り,独占禁止法上
の検討を行なうことにしている。
3 共同研究開発ガイドラインの概要
 共同研究開発ガイドラインは,主に「第1 研究開発の共同化に対する
独占禁止法の適用について」及び「第2 共同研究開発の実施に伴う取決
めに対する独占禁止法の適用について」から構成されており,その概要は
以下のとおりである。
(1) 研究開発の共同化に対する独占禁止法の適用について
 研究開発の共同化が独占禁止法上問題となるのは,主に競争関係にあ
る事業者間で研究開発を共同化する場合である。共同研究開発は多く
の場合少数の事業者間で行なわれており,独占禁止法上問題となるもの
は多くないと考えられるが,市場における競争が実質的に制限されるお
それがある場合には,当該研究開発の共同化が独占禁止法第3条(不当な
取引制限)の問題となる。
 市場における競争が実質的に制限されるか否かの判断に当たっては,
個々の事案について,競争促進的効果を考慮しつつ,①参加者の数,市
場シェア等,②研究の性格,③共同化の必要性等が総合的に勘案され
る。
 特に,製品市場において競争関係にある事業者間で行う当該製品の改
良又は代替品の開発のための共同研究開発について言えば,参加者の市
場シェアの合計が20%以下である場合には,通常は,独占禁止法第3条
(不当な取引制限)の問題とならず,20%を超える場合でも,直ちに問
題になるというわけではなく,各事項が総合的に勘案される。
(2) 共同研究開発の実施に伴う取決めに対する独占禁止法の適用について
 共同研究開発の実施に伴い取り決められる事項は,「共同研究開発の
実施に関する事項」,「共同研究開発の成果である技術に関する事項」及
び「共同研究開発の成果である技術を利用した製品に関する事項」に区
分されるが,これらの事項はそれぞれ独占禁止法第19条(不公正な取引
方法)の観点から判断すると,更に「原則として不公正な取引方法に該
当しないと認められる事項」(白条項),「不公正な取引方法に該当する
おそれがある事項」(灰色条項)及び「不公正な取引方法に該当するお
それが強い事項」(黒条項)に類型化される。
(3) 事前相談制度
 個別具体的な共同研究開発が独占禁止法上問題となるか否かについて
は,それぞれの事案ごとに判断を要する場合も多く,事業者等にとって
判断が容易でないこともあると考えられるので,指針の公表に伴い,共
同研究開発に係る事前相談制度を設け,共同研究開発の当事者からの個
別の相談に応じることとする。

第3 銀行・証券等の相互参入に伴う不公正な取引方法等について

1 経  緯
 平成5年4月施行のいわゆる金融制度改革法により,銀行業,信託業,
証券業の間で,これらの業を営む金融機関及び証券会社(以下これらを
「金融機関等」という。)は,いわゆる業態別子会社方式により,他業態の
業務に参入することが可能となった。
 今回の金融制度改革は,近年の金融の自由化,国際化,証券化等の進展
に伴い金融業における各業務が相互に関連する分野が増加している状況に
おいて,各業態間の垣根を超えた競争を促すことにより,より良質な金融
商品・サービスを国民に提供するとともに国際的に調和のとれた金融制度
とするために行なわれるものであり,競争促進を図るという点で基本的に
は競争政策の観点からも評価できるものと考えられる。
 他方,今回の金融制度改革の実施に伴い,金融機関等が自己の経済力を
不当に利用して子会社を競争上有利な地位に置こうとする行為等を行い,
また,一般事業者に対する資金供給等を通じた影響力を強めるのではない
かとの懸念もある。
 こうしたことから,当委員会は業態別子会社方式による他業態への参入
に伴って独占禁止法上問題となる行為を明らかにすることによって,独占
禁止法違反行為を未然に防止し,もって金融市場等における公正かつ自由
な競争の維持・促進に役立てるため,現段階において考えられる主要なも
のを「銀行・証券等の相互参入に伴う不公正な取引方法等について」とし
て取りまとめ,平成5年4月に公表した。
2 概  要
 その概要は,以下のとおりである。
(1) 親会社による子会社の不当な支援行為
 金融機関等が経済力を不当に利用して子会社を競争上有利な地位に置
こうとする行為で,独占禁止法上問題となる具体的な行為類型として
は,例えば次のものがある。
(ア)  親会社が子会社との取引を強制する行為
(イ)  親会社が自己の商品・サービスと子会社の取り扱う商品・サービス
を抱き合わせて取引する行為
(ウ)  親会社が自己の子会社の競争者との取引を制限・禁止する行為
(エ)  子会社が親会社から有利なサービスを提供させることにより顧客を
誘引する行為
(2) 事業者に対する支配力の強化に関連する行為
 金融機関等が事業者に対する影響力等を利用して事業者に不利益を与
える行為で,独占禁止法上問題となる具体的な行為類型としては,例え
ば次のものがある。
(ア)  優越的地位を利用して,設立する子会社への出資を強制する行為
(イ)  優越的地位を利用して,取引先の資金の調達・運用を拘束して不利
益を与える行為