第5章 価格の同調的引上げに関する 報告の徴収

第1 概 説

 独占禁止法第18条の2の規定により,年間国内総供給価額が300億円超
で,かつ,上位3社の市場占拠率の合計が70%超という市場構造要件を満た
す同種の商品又は役務につき,首位事業者を含む2以上の主要事業者(市場
占拠率が5%以上であって,上位5位以内である者をいう。以下この章にお
いて同じ。)が,取引の基準として用いる価格について,3か月以内に,同
一又は近似の額又は率の引上げをしたときは,当委員会は,当該主要事業者
に対し,当該価格の引上げ理由について報告を求めることができる。
 この規定の運用については,当委員会は,その運用基準を明らかにすると
ともに,市場構造要件に該当する品目をあらかじめ調査し,これを運用基準
別表に掲げ,当該別表が改定されるまでの間,同別表に掲載された品目につ
いて価格の同調的引上げの報告徴収を行うこととしている。

第2 価格の引上げ理由の報告徴収

 平成4年度下期において,独占禁止法第18条の2に規定する価格の同調的
引上げに該当すると認めてその引上げ理由の報告を徴収したものは,蛍光灯
器具及びフォークリフトトラックの2件である。
 また,平成4年度中に行われた価格の同調的引上げについて,平成5年度
上期に価格の引上げ理由の報告を徴収したものは,普通・小型乗用車,換気
扇,田植機,コンバイン及び農業用トラク夕の5件である。
 各品目の価格引上げ理由の概要は,以下のとおりである。

蛍光灯器具
 蛍光灯器具の昭和63年における国内総供給価額は3,247億円であり,上
位3社の市場占拠率の合計は84.1%である。主要事業者は,松下電工株式会社
(以下「松下電工」という。),東芝ライテック株式会社(以下「東芝
ライテック」という。)及び三菱電機照明株式会社(以下「三菱電機照明
」という。)の3社であり,首位事業者は,松下電工である。
 松下電工は平成4年3月21日から,東芝ライテック及び三菱電機照明は
同年4月1日から,それぞれ 蛍光灯器具の販売価格の引上げを実施した
が,この価格の引上げは,独占禁止法第18条の2に規定する価格の同調的
引上げに該当すると認められたので,当委員会は,平成5年2月8日,3
社に対して価格引上げの理由の報告を求めた。
(1) 蛍光灯器具の価格引上げ状況
 松下電工,東芝ライテック及び三菱電機照明の価格引上げの公表日,
取引先への通知日,メーカー希望小売価格の引上げ日及びメーカー希望
小売価格の加重平均による引上げ率は,下表のとおりである。

(2) 各社の価格引上げ理由
 松下電工,東芝ライテック及び三菱電機照明から提出された報告書に
よると,価格引上げの理由は,以下のとおりである。
松下電工
 松下電工は,蛍光灯器具の価格引上げの主たる理由として,原材料
費,人件費,運送費等の上昇により,平成4年度(平成3年12月1
日~平成4年11月30日)における委託生産分を含む蛍光灯器具1個当
たりの総原価が,平成2年度(平成元年12月1日~平成2年11月30
日)と比較して4.5%上昇することが予想されたこと及び代理店マー
ジンを増額するよう価格体系を見直したことを挙げている。
東芝ライテック
 東芝ライテックは,蛍光灯器具の価格引上げの主たる理由として,
年々収益が悪化し,蛍光灯器具部門では平成3年度(平成3年4月1
日~平成4年3月31日)に売上高比0.3%の営業損失となることが予
想されたこと並びに蛍光灯器具の生産を全量委託しているところ委託
先から仕入価格の引上げ要請があり,同価格を3.0%引き上げること
としたこと及び人件費 運送費等の上昇により販売管理費が平成3年
度に対し更に5.0%上昇すると見込まれたことから目標とする利益が
得られないと予想されたことを挙げている。
三菱電機照明
 三菱電機照明は,蛍光灯器具の価格引上げの主たる理由として,原
材料費,人件費,運送費,委託生産分の仕入価格等の上昇により,蛍
光灯器具部門では平成3年度(平成3年4月1日~平成4年3月31
日)に売上高比6.0%の経常損失となることが予想されたこと及び平成
4年度(平成4年4月1日~平成5年3月31日)において合理化を
行っても目標とする利益が得られない見通しであったことを挙げてい
る。
フォークリフトトラック
 フォークリフトトラックの昭和63年における国内総供給価額は1,284億
円であり,上位3社の市場占拠率の合計は70.6%である。主要事業者は,
トヨタ自動車株式会社(以下「トヨタ」という。),小松フォークリフト株
式会社,東洋運搬機株式会社,日本輸送機株式会社(以下「ニチユ」とい
う。)及び三菱重工業株式会社の5社であり,首位事業者は,トヨタである。
 トヨタは平成4年5月1日から,ニチユは同年5月28日から,それぞ
れ,フォークリフトトラックの販売価格の引上げを実施したが,この価格
の引上げは,独占禁止法第18の2に規定する価格の同調的引上げに該当す
ると認められたので,当委員会は,平成5年2月9日,これら2社に対し
て価格引上げの理由の報告を求めた。
(1) フォークリフトトラックの価格引上げ状況
 トヨタ及びニチユのフォークリフトトラックの価格引上げの公表日,
取引先への通知日,価格の引上げ日並びにメーカー希望小売価格及び仕
切り価格の加重平均による引上げ率は,下表のとおりである。

(2) 各社の価格引上げ理由
 トヨタ及びニチユから提出された報告書によると,価格引上げの理由
は,以下のとおりである。
トヨタ
 トヨタは,フォークリフトトラックの価格引上げの主たる理由とし
て,フォークリフトトラックの仕入先である株式会社豊田自動織機製
作所から,外注部品 資材等の買入価格が上昇したので仕入価格を加
重平均で3.0%引き上げてほしい旨の要請があったため,販売面から
の検討も加え,同価格を2.7%引き上げることとしたことを挙げてい
る。
ニチユ
 ニチユは,フォークリフトトラックの価格引上げの主たる理由とし
て,平成2年度(平成2年4月1日~平成3年3月31日)から平成3年
度(平成3年4月1日~平成4年3月31日)の間の人件費,原材料費,
減価償却費等のコスト上昇分が平成3年度のフォークリフトトラック
の売上高の3.4%に相当することが予想されたことを挙げている。
普通・小型乗用車
 普通・小型乗用車の昭和63年における国内総供給価額は42兆8,350億円
であり,上位3社の市場占拠率の合計は80.0%である。主要事業者は,ト
ヨタ自動車株式会社(以下「トヨタ」という。),日産自動車株式会社(以
下「日産」という。),本田技研工業株式会社及びマツダ株式会社の4社で
あり,首位事業者は,トヨタである。
 トヨタは平成4年10月29日から,日産は平成5年1月25日から,それぞ
れ,普通・小型乗用車の一部の車種の国内向け販売価格を引き上げたが,
この価格の引上げは,独占禁止法第18条の2に規定する価格の同調的引上
げに該当すると認められたので,当委員会は,平成5年6月3日,これら
2社に対して価格引上げの理由の報告を求めた。
(1) 普通・小型乗用車の価格引上げ状況
 トヨタ及び日産の取引先への通知日,価格の引上げ日及び価格引上げ
車種のうちの代表機種のメーカー希望小売価格の引上げ率は,下表のと
おりである。

(2) 各社の価格引上げ理由
 トヨタ及び日産から提出された報告書によると,価格引上げの理由
は,以下のとおりである。
トヨタ
 トヨタは 普通・小型乗用車の価格引上げの主たる理由として,価
格引上げはモデルチェンジに伴うもので,新型車の開発コスト,仕様
変更によるコストアップ等のため,代表機種でみると,平成4年1月
から6月の計算期間における新型車の総原価が,旧型車の総原価と比
較して,1台当たり5.3%上昇する見込みであったことを挙げてい
る。
日産
 日産は,普通・小型乗用車の価格引上げの主たる理由として,価格
引上げはモデルチェンジに伴うもので,購入品費及び労務費の上昇,
開発コスト,仕様変更によるコストアップ等のため,代表機種で
みると,平成5年1月から平成9年6月における新型車の総原価が,
平成元年1月から平成5年1月における旧型車の総原価と比較して,
1台当たり6.7%上昇する見込みであったことを挙げている。
換気扇
 換気扇の昭和63年における国内総供給価額は1,087億円であり,上位3
社の市場占拠率の合計は88.1%である。主要事業者は,三菱電機株式会社
(以下「三菱電機」という。),松下精工株式会社(以下「松下精工」とい
う。),株式会社東芝(以下「東芝」という。)及び西武電機工業株式会社
の4社であり,首位事業者は,三菱電機である。
 松下精工は平成4年8月1日から,東芝及び三菱電機は同年10月1日か
ら,それぞれ,換気扇の販売価格の引上げを実施したが,この価格の引上
げは,独占禁止法第18条の2に規定する価格の同調的引上げに該当すると
認められたので,当委員会は,平成5年7月30日,これら3社に対して価
格引上げの理由の報告を求めた。
(1) 換気扇の価格引上げ状況
 松下精工,東芝及び三菱電機の価格引上げの公表日,取引先への通知
日,価格引上げ予定日,新価格で取引を開始した日及びメーカー希望小
売価格の加重平均による引上げ率は,下表のとおりである。

(2) 各社の価格引上げ理由
 三菱電機,松下精工及び東芝から提出された報告書によると,価格引
上げの理由は,以下のとおりである。
三菱電機
 三菱電機は,換気扇の価格引上げの主たる理由として,資材費,物
流費,人件費等の上昇により,平成3年度(平成3年4月1日~平成
4年3月31日)における換気扇部門の営業利益が,平成2年度(平成
2年4月1日~平成3年3月31日)と比較して5.1%減少し,平成4
年度(平成4年4月1日~平成5年3月31日)では合理化努力を行っ
ても目標とする収益が確保できないと判断したことを挙げている。
松下精工
 松下精工は,換気扇の価格引上げの主たる理由として,資材費,物
流費,人件費等の上昇により,平成3年度(平成3年4月1日~平成
4年3月31日)における換気扇部門の総原価が,平成元年度(平成元
年4月1日~平成2年3月31日)に同じ種類・数の商品を製造・販売
したと仮定した場合と比較して,1台当たり2.9%上昇すること,赤
字機種の割合が増大したことなどにより,企業努力を行っても収益の
悪化が避けられなかったことを挙げている。
東 芝
 東芝は,換気扇の価格引上げの主たる理由として,資材費,物流
費,人件費等の上昇により,平成4年度上期(平成4年4月1日~平
成4年9月30日)における換気扇部門の総原価が,平成元年度上期
(平成元年4月1日~平成元年9月30日)と比較して,1台当たり
33.0%上昇して,原価低減,諸経費圧縮をしても営業損失を計上する
見込みとなったことを挙げている。
農業機械3品目(田植機,コンバイン,農業用トラク夕)
 平成4年12月上旬,農業機械メーカーと全国農業協同組合連合会との価
格交渉が決着したことから,ヤンマー農機株式会社(以下「ヤンマー」と
いう。)は平成4年12月21日から,株式会社クボタ(以下「クボタ」とい
う。)及び井関農機株式会社(以下「井関」という。)は平成5年1月1日
から,三菱農機株式会社(以下「三菱」という。)は平成5年2月1日か
ら,それぞれ,田植機,コンバイン及び農業用トラクタ(以下「農機3品
目」という。)の国内向け販売価格の引上げを実施したが,この価格の引
上げは,独占禁止法第18条の2に規定する価格の同調的引上げに該当する
と認められたので,当委員会は,平成5年8月3日,これら4社に対して
価格引上げの理由の報告を求めた。
 農機3品目の昭和63年における国内総供給価額,上位3社の市場占拠率
の合計及び主要事業者は,下表のとおりである。

(1) 農機3品目の価格引上げ状況
 クボ夕,井関,ヤンマー及び三菱の取引先への通知日,価格の引上げ
日及びメーカー希望小売価格の加重平均による引上げ率は 下表のとお
りである。
(2) 各社の価格引上げ理由
 クボタ,井関 ヤンマー及び三菱から提出された報告書によると,価
格引上げの理由は,以下のとおりである。
 なお,各社は,農業機械については個別品目ではなく農業機械全体
(井関の場合は会社全体)のコスト状況により価格設定を行っていると
している。
ク ボ タ
 クボタは,農機3品目の価格引上げの主たる理由として,原材料
費,労務費,物流費等の上昇により,平成5年度(平成5年4月1日
~平成6年3月31日)における農業機械部門の売上原価率が,平成3
年度(平成3年4月1日~平成4年3月31日)と比較して2.4%ポイ
ント上昇することが見込まれたこと及び販売費・一般管理費も上昇す
ることが見込まれたことから,合理化努力を行っても目標とする収益
確保が困難と予想されたことを挙げている。
井 関
 井関は,農機3品目の価格引上げの主たる理由として,資材費,外
注加工費,物流費,労務費等の上昇により,平成4年7月時点におけ
る会社全体の総原価が,平成2年7月時点と比較して6.1%上昇した
ことから,合理化努力だけではこれらを負担・吸収することは難し
く,企業収益を改善する必要があったことを挙げている。
ヤ ン マ ー
 ヤンマーは,親会社であるヤンマーディーゼル株式会社及びセイレ
イ工業株式会社等から製品を仕入れて販売しているところ,農機3品
目の価格引上げの主たる理由として,平成5年度(平成4年12月21
日~平成5年12月20日)における農業機械部門の売上原価率が,平成
4年度(平成3年12月21日~平成4年12月20日)と比較して0.2%ポ
イント上昇することが見込まれたこと及び販売費・一般管理費も上昇
することが見込まれたことから,目標とする収益確保が困難と予想さ
れたことを挙げている。
三 菱
 三菱は,農機3品目の価格引上げの主たる理由として,外注加工
費,開発費,材料費,運送費等の上昇により,平成4年度(平成3年12
月1日~平成4年11月30日)における農業機械部門の総原価が,平成3
年度(平成2年12月1日~平成3年11月30日)と比較して3.8%上昇す
ることが見込まれたこと並びに平成3年度及び平成4年度上期(平成3
年12月1日~平成4年5月31日)における経常収支が赤字となったこと
を挙げている。