(1) |
対象10業種の産業組織 |
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対象10業種の産業組織の特徴は,昭和52年度以降平成2年度までの
データによって見ると,次のとおりである。
ア |
生産面における新規参入はあまりなく,高水準の集中度が続いてい
るが,一部,輸入という形での参入があり,集中度が若干低下した業
種もある。 |
イ |
価格の同調的引上げが多く見られ,それにより利益率が著しく上昇
した例もある。 |
ウ |
非価格競争として新製品開発による競争が多く見られ 高付加価値
新製品の発売によりメーカー出荷価格が上昇したと見られる例がある
ほか,消費財では広告宣伝活動が活発に行われている。 |
エ |
メーカーが流通業者に対し出資等の形で関与しているものがあり,
また中間財の供給や消費財の流通に関する企業間取引において取引が
長期にわたり,かつ,継続する傾向が見られる。 |
オ |
販売管理費売上高比率を昭和52年度以降について見ると,調査対象
10業種においても全体としては製造業平均と同様上昇の傾向にある。
また,首位企業と2位又は3位企業との間で販売管理費売上高比率を
比較すると,首位企業が相対的に低くなっている。 |
力 |
昭和52年度以降の利益率の平均を見ると,首位企業の利益率は製造
業平均を上回っているのに対して,2位以下の企業の利益率は製造業
平均並み又はそれ以下という傾向がある。 |
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(2) |
寡占の維持要因 |
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対象10業種において,新規参入があまりなく,高度寡占が維持されて
いる要因としては次のような点が考えられる。
ア |
生産面 |
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(ア) |
巨額の設備投資を必要とし,規模の経済性が存在するため,小規
模の需要しか期待できない参入当初においては生産コスト面で不利
となること。 |
(イ) |
既存企業と新規参入企業との間に生産技術の格差があること。 |
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イ |
流通面 |
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(ア) |
卸売又は小売のいずれかが事実上専売となっている場合は,既存
の流通網へのアクセスが容易ではないこと。 |
(イ) |
販売面においても規模の経済性が存在するため,小規模の販売し
か期待できない参入当初においてはコスト的に不利となること。 |
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(3) |
検討すべき論点 |
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ア |
非価格競争 |
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(ア) |
品質競争や新製品開発競争は,個々の品質の向上をもたらした
り,ユーザーや消費者のニーズを商品生産に反映させたり,商品選
択の幅が広がる限りではユーザーや消費者の利益をもたらすもので
あり,また,技術革新により生産の効率化が進み価格引下げの要因
となることもある。反面,消費者の利益を図る観点からは,高付加
価値化や多くの製品を発売するめの多品種少量生産化が,消費者
ニーズの範囲を超えたものとなったり,生産の非効率化をもたらし
たり,価格引上げの要因となることもあることに留意する必要があ
る。 |
(イ) |
流通段階で卸売又は小売のいずれかにおいて事実上専売となって
いるものが多く,メーカー希望小売価格を基準として流通段階での
標準的な取引価格を設定する,いわゆる建値制が採用されているほ
か,テリトリー制を採用しているものもある。これらの慣行につい
ては,状況によって流通段階における価格競争が制約される可能性
があるので,価格維持的効果をもたらすような形で維持,強化され
ることのないようにする必要がある。 |
(ウ) |
消費財について,新規参入や新製品発売が成功するためには,多
くの消費者にその商品の特色を認知させることが必要であり,広告
宣伝活動は重要な競争手段である。しかし,広告宣伝費の増大が,
ひいては価格の引上げをもたらすことがあることに留意する必要が
ある。 |
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イ |
同調的な価格行動 |
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同調的な価格行動が生ずる要因としては,高度寡占産業においては
事業者の数が少ないため,他の企業の価格行動などについて予測しや
すいことが挙げられる。
同調的な行動自体が直ちに独占禁止法違反行為の要件を満たすもの
ではないとしても,情報交換により共通の意思の形成につながる場合
には独占禁止法上問題がある。 |
ウ |
長期継続的取引 |
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既存の取引関係が長期にわたり継続する傾向があり,その要因は
個々の財の特質によって異なると考えられるが,このような慣行の下
においては競争阻害的な行為に結びつきやすい面もあるので,このよ
うな行為が行われないように留意する必要がある。 |
エ |
業際化・国際化の動き |
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対象10業種においては,上位メーカーの全売上高に占める調査対象
品目の売上高の割合,いわゆる専業比率は低下の傾向にあり,多角化
が進んでいる。このため,競争政策上の問題の分析対象としての「市
場」の範囲や境界が動きつつあることが考えられる。
一方,国際化の進展により,外国企業が日本に参入する場合に,単
独で参入する能力を持つ外国企業が,日本企業と企業結合や提携関係
の締結を行うことにより,独立の競争単位とならなかったりすること
も考えられる。したがって,今後,このような国際的な企業結合や提
携関係が日本国内の市場にどのような影響を与えるかを検討する必要
がある。 |
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(4) |
今後の競争政策上の対応 |
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ア |
新規参入を容易にする状態の確保 |
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高度寡占産業においては,種々の要因から生産段階において新規参
入はあまりみられないが,これらの分野についても近年輸入品のウェ
イトが高まってきており,国内の価格動向にも影響を与えていると考
えられる。競争政策の観点からは新規参入が競争阻害的な行為によっ
て妨げられることがないようにすることが必要であり,とりわけ流通
段階について着目する必要がある。
したがって,流通段階での新規参入,例えば製品輸入による外国企
業の参入等が行われやすい状態が確保されるようにすることが肝要で
ある。 |
イ |
価格競争の促進 |
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対象10業種においては,価格の同調的引上げの事例も多く,また,
状況によっては価格維持的効果が生じやすい流通慣行も見られる。
高度寡占産業については特に価格競争が十分行われるよう常に監視
する必要があり,それぞれの産業の実態に即して,メーカー段階にお
ける競争的な価格設定や流通段階の価格競争の一層の促進を図る必要
がある。 |
ウ |
品質競争や新製品開発競争の進展への対応 |
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新規参入が行われにくい産業にあっては,特に消費者利益の確保が
重要であり,企業行動の適正化とともに,消費者の商品選択が適正に
行われるよう,消費者が商品の品質や価格に関し十分な情報を得られ
るようにする必要がある。 |
エ |
高度寡占産業に対する調査の実施 |
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公正取引委員会は,今後とも,高度寡占産業に対しては,新規参入
の困難性,価格の著しい上昇及び下方硬直性,高利益率,過大な販売
管理費の支出等の弊害が生じていないか,常にその実態について把握
を行い,また,これら産業における業際化・国際化の動向について的
確な実態把握に努めるとともに,これら動向が国内市場に与える影響
について調査・検討を進める必要がある。 |
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