11 海外競争政策の動き

 当委員会は,海外諸国,特にOECD加盟諸国の独占禁止法制の動き及び
運用状況について継続的に調査を行っている。以下では,1992年を中心とし
たアメリカ,ドイツ,イギリス及び欧州共同体(EC)の競争政策の動きを
紹介する。この紹介は,主として,1993年にOECD競争政策委員会に提出
された加盟各国の年次報告に基づいている。

11-1 アメリカ
(1) 法制の動き
反トラスト規則,政策又はガイドラインの変更
(ア) 水平合併ガイドラインの改正
 1992年4月,連邦取引委員会(FTC)及び司法省は,水平合併
ガイドライン(以下「1992年ガイドライン」という。)を共同で発
表した。1992年ガイドラインは,FTC及び司法省が従前発表した
ガイドライン(1984年の司法省合併ガイドラインと1982年のFTC
水平合併関係ステイトメント)を改正したものであるが,両当局が
共同でこのようなガイドラインを発表したのは初めてのことであ
る。
 1992年ガイドラインは,旧ガイドライン以降の経験と理論的発展
等を踏まえ,分析枠組みを整理し,明確化したものであり,主な改
正点としては,合併がどのような場合に反競争的効果をもたらすお
それがあるかを一層明らかにしたほか,参入に関する分析を精緻化
し,破綻企業の抗弁の取扱いをより厳格にしたことなどがあげられ
る。
(イ) 米国からの輸出を制限する外国における反競争的行為への法執行
 司法省は,1988年の「国際的事業活動に関する反トラスト施行ガ
イドライン」において米国の輸出取引に関する米国反トラスト法の
適用を米国消費者の利益を害する場合に限定するとの方針を示して
いたが,1992年4月,「米国からの輸出を制限する米国外での反競
争的行為に対する米国反トラスト法の執行方針に関するステイトメ
ント」を発表し,今後このような反競争的行為に対し,次の点が明
確な場合には,適切な事案において,米国反トラスト法を適用して
いく旨表明した。
 当該行為が米国からの商品又はサービスの輸出に対し,直接
的,実質的かつ合理的に予見可能な効果を有するものであるこ
と。
 当該行為が米国反トラスト法に違反する反競争的行為-通
例,共同ボイコット,価格協定及びその他の排他的行為-に関
するものであること。
 米国裁判所が当該行為を行っている外国の個人又は企業に対し
管轄権を有していること。
 司法省は この方針声明は,人的管轄権に関する現行の法又は確
立された原則に何ら変更を加えるものではなく,また,従来どおり
国際礼譲を考慮するとともに,外国政府に対し適当な場合には通報
及び協議を行う慣行を継続することを明らかにしている。
反トラスト法,関連法規又は政策の改正案
(ア) 生産ジョイントベンチャー促進に関する法案
 本法案は,1984年共同研究法を改正し,現在,研究開発ジョイン
トベンチャーについて定められている反トラスト法上の特例(①合
理の原則による違法性の判断,②司法省及びFTCに届け出られた
ジョイントベンチャーについては,仮に違法とされた場合にも,損
害賠償額は実績に限定)を生産ジョイントベンチャーに対しても適
用するという内容となっており,第101議会(1989年~1990年)か
ら引き続き提出されているものであるが,第102議会(1991年~1992
年)でも成立に至らなかった。
(イ) 再販売価格維持行為に関する法案
 この法案は,①製造業者と流通業者との間の垂直的価格協定につ
いては,従前よりも広い範囲で反トラスト法上の当然違法の法理を
適用すること,②一定の不明瞭でない証拠の提出によって違法な協
定を推認することができることを骨子としている。司法省は,この
法案が成立した場合,競争促進的で効率的な流通協定が抑止される
結果になるとして反対した。下院・上院ともそれぞれの法案を可決
したが,両院間の調整が不調に終り,結局,法律は成立しなかっ
た。
(2) 反トラスト法及び政策の施行
司法省反トラスト局の措置件数及び提訴事件の概要
 司法省反トラスト局は,1992年に181件の正式審査を開始し,89件
の提訴を行った(うち78件が刑事訴追)。同年中,被告人15名に延べ
5,102日の禁錮刑(実刑)が宣告され,罰金及び損害賠償額の合計
は,2,660万ドルを超えた。さらに,司法省は,シャーマン法第6条
の規定に基づく財産没収によって2,750万ドルを回復した。
(ア)  1992年に,司法省は,スチール製ドラム缶,学校給食用乳製品,
通学バス車体,運送・保管,ガソリン,血圧降下剤,冷凍水産物,
ポリウレタン製気泡屋根葺き及び金属フレークを含む広範にわたる
製品・サービス市場の入札談合・価格協定等に対し刑事訴追を行っ
た。
 1987年以降,司法省は州の競売における中古の事業用機械・設
備の購入に関する入札談合事件の訴追を行ってきており,これま
でに66件の事件について,98法人63個人を起訴し,96法人58個人
が有罪とされた(罰金総額450万ドル,禁錮刑12個人)。1992年に
は,5法人3個人が有罪判決を受け,′合計12万5千ドルの罰金が
科された。
 司法省は学校給食用乳製品の販売価格協定を積極的に訴追して
いる。1988年以降,司法省は79件について43法人54個人を起訴
し,35法人39個人が有罪判決を受けた。1992年には,これらの価
格協定事件に関して17法人12個人が有罪判決を受け,合計1,400
万ドルの罰金が科されたほか,3個人が禁錮刑を言い渡された。
 およそ50年ぶりに歯科医師が被告に含まれた反トラスト刑事事
件で,陪審は,1990年9月,被告の3歯科医師に対し価格協定の
罪で有罪の評決を下した。しかし,連邦地方裁判所は,1990年12
月,被告のうち2歯科医師の無罪の申立てを認め,残る1歯科医
師については再審を命じた。司法省は,これら判決を不服として
1991年に控訴した。1992年9月,控訴審判決は,連邦地方裁判所
の無罪判決を破棄するとともに,専門的職業活動における価格協
定は当然違法であり,刑事訴追対象となることを明示的に確認し
た。
(イ)  司法省は,引き続き連邦政府調達に関する多数の価格協定及び入
札談合事件を訴追し,1992年においては4法人1個人が有罪判決を
受け,総額で60万ドルの罰金刑に処せられた。また,個人の被告は
152日の禁錮刑を言い渡された。司法省がこの訴追方針を採って以
降,国防省調達に関し,累計で136法人120個人が起訴された。その
結果,総額で5,700万ドル超の罰金等と,34個人に対して平均10か
月の禁錮刑が言い渡された。
(ウ)  司法省は,合併以外の分野の反競争的行為に関し,次のような反
トラスト民事訴訟を提起した。
 1992年12月,フラット・オー・リッチ社(ケンタッキー州ルイ
スビル所在の酪農企業)に対し,ミルク等酪農製品の公立学校へ
の納入に関し入札談合を行っていたとして,合計700万ドルの罰
金が科された。
 1991年5月,司法省は,アイビー・リーグ8大学を含む有名9
大学による奨学金額等に関する競争制限協定の差止めを求めて提
訴した。9大学中8大学は,奨学金に関する共謀並びに今後の授
業料及び教員給与引上げに関する協議を排除する同意判決を受け
入れた。しかし,残りの被告マサチューセッツ工科大学は,これ
を不服として1992年に提訴した。
 1992年12月,司法省は,米国航空会社8社とコンピュータ予約
システム運用会社がコンピュータを通じた情報交換を行って航空
運賃を取り決め,又は割引を排除していたとして,当該行為の差
止め等を求めて提訴した。航空会社2社については同意判決の手
続に入った。
 1992年9月,司法省は,ソロモン・ブラザーズ社らが1993年5
月発行の2年物の米国財務省証券の入札に関し,市場における供
給量を制限していたとして財産没収を求め提訴した。ソロモン・
ブラザーズ社は,2,750万ドルを支払うことで和解した(シャー
マン法第6条に基づく財産没収としては史上最高額)。
FTCの措置件数及び審決を行った事件の概要
 FTCは,1992年に,83件の予備審査と42件の正式審査を開始し,
15件の予備審査を正式審査に切り替えた。競争に影響を及ぼす事案
(合併を含む。)に関し,2件の意見提出,2件の審判開始決定を行
うとともに,16件の同意審決に最終的な承認を与えた。さらに,FT
Cは,3件の民事訴訟を提起し,その結果総額約274万ドルの民事罰
を科す判決を得た。
 FTCが1992年に扱った主要な事件として,次のようなものがあ
る。 
 FTCは,米国の人工栄養ミルクの大手メーカーであるミー
ド・ジョンソン社とアメリカン・ホ-ム・プロダクツ社が連邦政
府の食糧補助事業を通じて人工栄養ミルクを供給するプエルトリ
コ政府との契約の過程で共謀があったとして審判を開始し,同意
審決とした。同一案件に関して開始されたアボット社に対する審
判手続は係属中である。
 FTCは,米国心理学協会が会員に対し,ある種の非ぎまん的
宣伝広告と勧誘を制限し,ある種の紹介サービスへの参加を禁止
していたことが心理療法サ一ビスの提供における競争を制限して
いたとして審判を開始し,同意審決とした。
合併規制
 司法省及びFTCは,ハート・スコット・ロディノ法(H・S・R
法)の合併事前届出条項に基づき,1992年中に,合計で1,621件の合
併案件に関して3,098件の届出を受理した。また,司法省は,同期間
中に,H・S・R法の対象とされていない銀行その他の金融機関によ
る1,539件の合併についても審査を行った。
 上記のうち,司法省は,88件の合併について正式に審査した結果,
8件の合併に対し公式に異議を唱え,うち3件を提訴した。司法省が
異議を唱えた8件のうち7件の合併は 司法省が提訴の意図を表明
し,若しくは提訴した後に放棄又は修正された。
 また,FTCは,上記のうち32件について正式審査を行い,うち1
件について暫定的差止命令の申立てを地方裁判所に行った。
主要な事件としては,次のようなものがある。
タイドウォーター社によるザパ夕・ガルフ・マリーン社の取得
 当事者は,陸地と沖合油井施設とを結ぶ連絡サービス船を運行
する会社である。司法省は,本件取得により,メキシコ湾にある
沖合油井施設と陸地とを結ぶ特殊船による連行サービスの市場に
おける競争が実質的に減殺されるとして提訴した。1992年4月,
タイドウォーター社が一定の特殊船を譲渡することを内容とする
同意判決が下された。
マンネスマンAGによるラピスタン社の取得
 マンネスマンAGの子会社ブッシュマン社とラピスタン社と
は,流通業者向け軽量コンベア・システムの製造・販売業者であ
る。FTCは,本件取得により,マンネスマンAGが市場支配的
地位を取得し,共謀が行われるおそれがあるとして審判開始決定
を行った。1992年3月,マンネスマンAGは,12か月以内にFT
Cが承認する第三者にブッシュマン社を譲渡すること及び今後10
年間,当該コンベア・システムの製造・販売事業を取得する場合
には事前にFTCの承認を得ることを内容とする同意審決が下さ
れた。
政府規制緩和
 司法省は,市場に対する政府の干渉を排除し,競争を促進する観点
から,1992年にはオレンジ及び牛乳の出荷規制(農務省),コン
ピュータ座席予約システム規則及びIATAに対する反トラスト法の
適用除外(運輸省),1984年海上運送法による規制(連邦海事委員
会),電話サービス規制(連邦通信委員会)等に関し,担当当局への
意見提出等を行った。
 また,同年,FTCも同様の観点から,1984年海上運送法による規
制(連邦海事委員会),電話改正規制(連邦通信委員会),有価証券の
再販売等に関する規則の改正(証券取引委員会)等に関し,担当当局
への意見提出等を行った。
11-2 ドイツ
(1) 法制の動き
 競争法制に動きはなかったが,1990年10月 3日のドイツ統一をもっ
て,競争制限禁止法は,ドイツ全域で適用されることになり,連邦カル
テル庁がドイツ全域に及び競争法の施行機関となった。連邦カルテル庁
は,旧東ドイツ地域における計画経済から市場経済への移行に伴う競争
環境の整備・維持をドイツ競争政策における重要課題と位置づけてい
る。
(2) 法の適用
カルテル規制
 連邦カルテル庁は,1993年3月,北部ドイツの板ガラス卸売業者及
び断熱ガラス製造業者16社並びに各社の責任者に対して,1986年から
1990年にかけて価格,割引その他の条件について協定を結んでいたと
して,総額330万ドイツマルクの制裁金を科した。
適用除外カルテルの認可
 連邦カルテル庁と連邦経済大臣により認可された適用除外カルテル
の件数は,1992年12月末現在227件である。1992年に新たに認可され
たカルテルは14件あり,廃止されたカルテルは11件であった。
合併及び集中
(ア)  1992年において,連邦カルテル庁は,1,743件の合併・株式取得
の届出を受理した。また,正式手続により3件の禁止処分が行われ
た。
(イ)  1992年に連邦カルテル庁が取り扱った主要な合併事例は次のとお
りである。
米国ジレット社によるウィルキンソン社の取得
 連邦カルテル庁は,1992年7月,米国ジレット社の英国子会社
である英国ジレット社によるオランダ法人エームランド社(ドイ
ツ国内に100パーセント子会社ウィルキンソン・ソード・ヨー
ロッパ社を所有)への資本参加を禁止した。ジレット社とウィル
キンソン社は,ひげそり用かみそりの分野では世界で1位と2位
の企業であり,ドイツ国内での市場占拠率が,ジレット社が62
パーセント,ウィルキンソン社が34パーセントであることから,
市場支配的地位が強化されると判断した。
(3) 規制緩和等
 1992年6月,規制緩和に関するワーキンググループは,特に保険 交
通,基準・規格検査機関等の分野に関する規制緩和に向けて具体的な提
案を行った。1992年7月,連邦政府は,民営化プログラムを閣議決定し
た。1993年5月,連邦政府は民営化の現状に関する最初の報告書を提出
した。
 なお,旧東ドイツにおける国営企業等の民営化については,民営化担
当の政府機関(Treuhandanstalt)が,1992年末現在で12,599社のう
ち11,043社を売却した。1994年末までには不動産,住宅建設,農業の部
門を除く全部門の民営化を達成する予定である。
11-3 イギリス
(1) 法制の動き
制限的取引慣行法に関する政府提案等
 競争制限的協定の原則禁止規制の導入と登録制度の廃止,制裁金制
度の創設等を内容とする制限的取引慣行法令に関する政府提案が1989
年7月に行われているが,1992年には,その提言を実行に移す措置は
採られなかった。
市場支配的地位の濫用規制に関する政府提案
 1992年11月,EC競争法との調整を図るため,略奪的価格設定や反競
争的行為等の市場支配的地位の濫用の取締強化を目的とした法改正を中
心として,次の3つのオプションを提案し,関係者の意見を求めた。
調査権限の拡大と損害賠償責任条項の導入による現行法の運用強化
市場支配的地位の濫用を禁止するEC型規制への完全な移行
 EEC条約第86条タイプの市場支配的地位の濫用禁止条項とイギリ
ス式の複合独占の調査権限に基づく混合的規制
 1993年4月,関係者からの意見を踏まえ,政府は,市場支配的地位
の濫用規制の導入を断念し,現行法の運用強化を図る方針を採用し
た。
(2) 競争法及び競争政策の施行
カルテル規制
(ア)  1976年制限的取引慣行法によって,競争制限的協定は登録制に
なっている。1992年には589件の協定が登録され,これまでに登録
された協定の総数は約10,600件となった。
(イ)  登録すべき協定が登録されていないと認められる場合には,公正
取引庁長官は,関係者に対し詳細な情報を求める通知を発出するこ
とができることとなっており,1992年には36件の通知を発出した。
再販売価格維持行為に対する規制
 1992年には 1976年再販売価格法違反の容疑で34件の申告があり,
うち3件(子供用衣料,織物及びスポーツカー)につき違法かつ無効
と認定した。
反競争的行為に対する規制
 1980年競争法に基づき,公正取引庁長官は反競争的行為を調査して
その結果を公表している。1992年7月,バス会社による略奪的な料金
設定に関し反競争的であるとする報告書を公表し,事案を独占・合併
委員会(MMC)に付託した。1992年10月,バス会社が司法審査を求
めて提訴し,1993年1月,バス会社の主張を認める判決が下されたた
め,MMCへの付託の内容が修正された。
独占状態に関する調査
 1973年公正取引法に基づき,公正取引庁長官は,独占状態(1社で英
国市場の25%以上の市場占拠率を有する場合等)が認められる場合,そ
れについてMMCに調査を付託することができる。1992年には,コンタ
クトレンズ保存溶液の供給,香水の小売段階における供給など8件につ
いて付託を行った。
 MMCは,1992年に,①新車,②自動車部品の販売,③ソレント海峡
フェリーなど合計5件について報告書を公表した。
 ①については,新車販売に関し複合独占が存在し,販売業者に課され
たテリトリー外での広告の制限など6項目の制限は公共の利益に反する
としてその廃止を勧告した。貿易産業大臣は 公正取引庁長官に,MM
C勧告を実施する手段について販売業者と協議し,更に措置を採る必要
があるかどうかを検討するよう要請した。
 ②については,自動車供給業者に複合独占が存在していたが,現在の
ところ,公共の利益には反していないとしながらも,自動車供給業者が
自己の専売店以外の小売店に対し部品の供給を拒絶することなどは将来
懸念が生じるおそれがある旨示唆した。
 ③については,海峡フェリーを運行する4社のうち1社について独占
状態が存在しているが,公共の刺益に反する又は反するおそれのある要
素は存在しない旨報告された。
合併規制
(ア)  公正取引庁は,1992年に200件の合併案件を審査した。うち125件に
ついて,公正取引庁長官は,調査のため案件をMMCに付託すべきか
どうかについて貿易産業大臣に助言した。
(イ)  この件数(125件)は,1986年以降減少の傾向にある。総資産額は
830億ポンドであり,業種別に見ると,食料・飲料・たばこ(20件),
化学・合成繊維(15件),輸送・電信(11件),銀行・金融(11件),
機械(11件)となっている。また,合併形態では水平合併の割合が
1991年の87%から93%へと増加している。
(ウ)  資易産業大臣は,1992年中にMMCに対し10件の付託を行ったが,
それらは,すべて公正取引庁長官の助言に従って行われたものであ
る。
(エ)  MMCは,1992年中に8件の合併等に関する報告書を公表し,この
うち5件が公共の利益に反するとした。主要な条件は,次のとおりで
ある。
サラ・リー社によるレキット・アンド・コールマン社くつ磨き製品
事業部門の取得
 MMCは,この取得によりサラ・リー社がくつずみの2大ブランド
を保有することになるため,結果的に両ブランド間の競争が損なわれ
て実質的に価格の引上げが行われるおそれがあるため本件取得は公共
の利益に反するとして,一方のブランドを第三者に譲渡させるよう勧
告した。これを受けた産業貿易大臣の指示により,公正取引庁長官は
MMC勧告に沿った確約書を当事者に提出させた。
ボンド・ヘリコプターズ社によるブリティッシュ・インターナショナ
ル・ヘリコプターズ社事業の取得
 MMCは,本件取得により,沖合石油・ガス事業に対するヘリコプ
ター輸送サービスの市場においては大手2社の複占になり,競争が減
殺される結果,価格の引上げにつながるおそれがあるため本件取得は
公共の利益に反するとして,これを阻止するよう勧告した。この勧告
を受けた産業貿易大臣の指示により,公正取引庁長官は本件取得を行
わない旨の確約書を当事者に提出させた。
11-4 E  C
(1) 法制の動き
EEA協定の締結によるEC競争法の拡大適用
 1992年5月,ECとEFTA(欧州自由貿易連合)はEEA(欧州
経済領域)協定に正式調印した。この協定の下では,一般にEC法規
が共通して用いられるため,ECの競争法は,1993年からEFTA域
内にも適用される。このため,EFTAは担当機関を新設し,域内に
おける法執行に当たらせることとしている。
規制緩和
 EC委員会は,1992年5月,域内郵便事業の自由化に関する提案書
を採択し,一定の質のサービスがむらなく提供されるようにするため
の規制措置を除いては,速達,出版物,ダイレクトメールなどの分野
で自由化を進める方針を明らかにした。
 また,EC委員会は,1992年10月,ほとんどの加盟国で独占状態が
定着しているため見送られてきた域内電話事業の自由化に関する報告
書を採択し,当面,域内通話の一定枠内での自由化を進める方針を明
らかにした。
EC競争法適用の分散化
 1993年2月,EC委員会は,各国における私訴の奨励を通じて加盟
国裁判所がEC競争法をより頻繁に,かつ,より効率的に適用できる
ようにするため,欧洲経済共同体(EEC)条約第85条及び第86条の
適用に係る加盟国教判所とEC委員会との協力に関する告示を行っ
た。
協力的ジョイントベンチャー設立に関する手続の明確化・迅速化
 1993年2月,EC委員会は,協力的ジョイ1ントベンチャーのEEC
条約第85条に基づく審査手続の明確化・迅速化を図るため,協力的
ジョイントベンチャーが第85条と両立するか否かを判断する際の基準
に関する告示を行った。
(2) 法の運用
ア  カルテル・支配的地位濫用の規制
 1992年にEC委員会は,EEC条約第85条(競争制限的な協定等の
禁止)及び第86条(支配的地位の濫用の禁止)に基づき17件の決定を
行った。その内訳は,制裁金を伴う禁止決定8件,制裁金を伴わない
禁止決定5件,適用除外の決定4件である。さらに,EC委員会は,
欧州石炭鉄鋼共同体条約第65条(協定等の禁止,認可及び罰則)及び
第66条(事業者の結合の規則及び罰則)に基づき計11件の決定を行っ
た。
 なお,1992年12月31日現在,EC委員会は1,562件の未処理案件を
抱えている(前年同時期2,287件)。そのうち,1,064件が申請又は届
出,287件が企業からの不服申立であり,残り211件はEC委員会が職
権で手続を開始したものである。
 1992年にEC委員会が行った主要な決定として,次のものがある。
 オランダの建設業団体28団体に対し,オランダの建設業分野にお
いて1980年以降入札談合を行っていたとして,合計2,250万ECU
の制裁金が科された(1992年2月決定)。
 アイルランドのリンガス航空に対し,同社が競争会社であるイギ
リスの航空会社ブリティッシュ・ミッドランド社と長年にわたり締
結していた連絡運輸協定を終了させ,両者間のフライトの相互変更
を行えないようにしたことが市場支配的地位の濫用に当たるとし
て,75万ECUの制裁金が科された(1992年2月決定)。
 ダンロップ社と同社のベルギー,オランダ及びルクセンブルグに
おける輸入総代理店に対し,ダンロップ社製テニス及びスカッシュ
用ボールの並行輸入を阻止することにより競争を制限したとして,
合計515万ECUの制裁金が科された(1992年3月決定)。
 U.I.C.(技術・営業上の提携を目的とした世界的な鉄道会社
の団体)に対し,鉄道の切符を販売する代理店の数を制限し,ま
た,販売代理店による値引きを禁止することにより,競争を制限し
てしいたとして,100万ECUの制裁金科された(1992年11月決
定)。
合併規制規則の運用状況
 1989年12月21日にEC閣僚理事会により採択された合併規制規則
は,採択から9か月後の1990年9月21日に発効した。EC委員会は,
1992年中に同規則に基づいて59件の届出を受理し,51件の事案につい
て決定を行った。その内訳は,次のとおりである。
①共同体市場と両立する旨の決定 47件
②共同体市場と両立する旨の決定(条件なし) 1件
③共同体市場と両立する旨の決定(条件付き) 3件
④共同体市場と両立しない旨の決定(禁止) 0件
(注) ①は予備審査の結果,②~④は正式審査の結果によるも
のである。
このうち,主要な事例としては,次のものがあげられる。
アコール社によるワゴン・リ社の買収(1992年4月決定)
 ワゴン・リ社はホテル業の分野では支配的地位にはないが,フラ
ンスのケータリング事業の分野では支配的地位にある。このため,
ワゴン・リ社のケータリング部門の譲渡を条件として,本件買収は
承認された。
ネッスル社によるペリエ社の買収(1992年7月決定)
 本件は,ネッスル社がフランスで第1位のミネラルウォーター
メーカーであるべリエ社を買収した上,獲得した有力ブランドを第
2位のBSN社に譲渡するというものである。この場合,ネッスル
社とBSN社の合計シェアが70パーセント近くなり,複占化を防止
する観点から,ネッスル社が獲得するブランドのうち一部(市場占
拠率20パーセント相当)を第三者に売却することを条件として本件
は承認された。
デュポン社によるICI社のナイロン事業部門の取得(1992年9
月決定)
 本件取得により,ナイロン市場におけるデュポン社の市場占拠率
が43パーセントに上昇することなどから,取得するナイロン繊維の
生産能力の一部(12,000トン分),自社の研究開発施設等の競争事
業者への譲渡などを条件として,本件は承認された。