第2部 各  論

第1章 独占禁止法制の動き

第1 所管法令の改正

 当委員会が所管する法令には,独占禁止法のほか,私的独占の禁止及び公
正取引の確保に関する法律の適用除外に関する法律(以下「適用除外法」と
いう。),下請法及び景品表示法並びに私的独占の禁止及び公正取引の確保に
関する法律施行令等の政令がある。その他,当委員会は,独占禁止法第76条
の規定に基づき,内部規律,事件の処理手続及び届出,認可又は承認の申請
その他の事項に関する必要な手続について規則を定めることができるとされ
ており,この規定に基づいて公正取引委員会の審査及び審判に関する規則等
が定められている。
 本年度における独占禁止法以外の所管法令の改正状況は,次のとおりであ
る。

 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(昭和52年政令
第317号)が改正され,独占禁止法第2条第7項に規定する独占的状態の
要件のうち事業分野の定義に係る国内総供給価額が500億円から1,000億円
に,同法第18条の2第1項に規定する価格の同調的引上げに関する報告徴
収の対象となる事業分野の定義に係る国内総供給価額が300億円から600億
円にそれぞれ引き上げられた(平成5年政令第253号)。
なお、この政令は平成5年7月23日に公布・施行された。
 公正取引委員会の審判費用等に関する政令(昭和23年政令第332号)が
改正され,当委員会に出頭を命ぜられた参考人及び鑑定人に支払われる日
当額の上限が引き上げられた(平成5年政令第197号)。
 事務局の定員に関し,公正取引委員会事務局組織令等の一部改正が行わ
れた(附属資料1一1)。
 当委員会への届出や申請等の手続を簡素化するなどのため,以下の規則
改正を行った。
(1)  独占禁止法第4章に基づく各種申請書,報告書及び届出書の提出部数
等の削減を行うとともに,合併,営業譲受け等の届出書について,簡易
様式の対象案件の拡大及び届出様式の簡略化を行うため,私的独占の禁
止及び公正取引の確保に関する法律第9条の2から第16条までの規定に
よる認可及び承認の申請,報告並びに届出に関する規則(昭和28年公正
取引委員会規則第1号)の一部を改正した(平成6年公正取引委員会規
則第1号。第8章第6参照)。
(2)  再販売価格維持契約の届出書について提出部数の削減,記載事項の削
減・簡素化,実態把握のための記載内容の整備等のため,再販売価格維
持契約の届出に関する規則(昭和28年公正取引委員会規則第4号)の一
部を改正した(平成6年公正取引委員会規則第5号。第13章第5参
照)。
(3)  不況・合理化カルテルの認可申請について,申請書の提出部数の削減
等を行うため,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第24条
の3及び第24条の4の規定による認可申請,届出及び聴聞に関する規則
(昭和28年公正取引委員会規則第3号)の一部を改正した(平成6年公
正取引委員会規則第2号)。
(4)  中小企業等協同組合法第7条第3項の規定に基づき協同組合に大規模
事業者が加入している旨届け出る際の届出書の提出部数の削減等のた
め,中小企業等協同組合法第7条第3項の規定による届出に関する規則
(昭和39年公正取引委員会規則第1号)の一部を改正した(平成6年公
正取引委員会規則第3号)。
(5)  公正競争規約の認定を受けようとするものが当委員会に提出する公正
競争規約認定申請書及び当該公正競争規約の提出部数の削減等のため,
不当景品類及び不当表示防止法第10条の規定による公正競争規約の認定
の申請等に関する規則(昭和37年公正取引委員会規則第4号)の一部を
改正した(平成6年公正取引委員会規則第4号)。

第2 独占禁止法と他の経済法令等との調整等

法令調整
 当委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から経済法令の制定又
は改正を行おうとする際に,これら法令に独占禁止法の適用除外や競争制
限的効果をもたらす行政庁の処分についての規定を設けるなどの場合に
は,その企画・立案の段階で当該行政機関から協議を受け,独占禁止法及
び競争政策との調整を行っている。
 本年度において調整を行った主なものは,次のとおりである。
(1) 特定中小企業の新分野進出等による経済の構造的変化への対応の円滑
化に関する臨時措置法について
 近年における経済の多様かつ構造的な変化に適応すべく特定の中小企
業者が行う新たな事業分野への進出及び海外の地域における事業の開始
等を円滑にするため,通商産業省は,かかる活動を行う中小企業者に対
して中小企業信用保険法の特例,中小企業近代化資金等助成法の特例等
の措置を講ずることを内容とする特定中小企業の新分野進出等による経
済の構造的変化への対応の円滑化に関する臨時措置法を立案した。
 本法案については,新分野進出等のための合併等が規定され,また,
新分野進出等の主体となるのは個別事業者のみでなく組合等も規定され
ていることから,当委員会は,独占禁止法の適用除外となる組合の事業
が実質的に拡大されることのないよう所要の調整を行った。
 なお,本法律案は,第128回国会に提出,審議された結果,平成5年
11月12日可決,成立し,同年11月25日に公布された。
(2) 不動産特定共同事業法について
 不動産特定共同事業を営む者(デベロッパー等)がその業務の遂行に
当たっての責務等を明らかにするとともに,事業参加者(一般投資家)
が受けることのある損害を防止するため,建設省は,当該事業への参入
について許可制度を新設するとともに,当該事業者が業務を遂行する上
で遵守すべき義務等を定めた不動産特定共同事業法を立案した。
 これに対して,当委員会は,新設される許可制度が需給調整を目的と
した参入規制として運用されないことが重要であるなどの観点から,所
要の調整を行った。
 なお,本法律案は,第128回国会に提出,審議された結果,平成6年
6月22日可決,成立し,同年6月29日に公布された。
行 政 調 整
 当委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から行う行政措置等に
ついて,当該措置等が独占禁止法及び競争政策上問題がある場合には 当
該行政機関と調整を行うこととしている。
 本年度において調整を行った主なものは,次のとおりである。
(1) 軽油引取税の引上げに伴う転嫁問題について
 軽油引取税の引上げに伴い,軽油販売業者が流通過程において増税分
を円滑に転嫁することが可能となるよう,通商産業省から,転嫁のため
の共同行為の容認等消費税と同様の取扱いを認めてほしい旨説明があっ
た。これに対して,当委員会は,増税分の転嫁はあくまでも独占禁止法
の枠内で行う必要があり,消費税と同様の取扱いはできないとの観点か
ら,所要の協議を行った。
 また,本間題に関連して,トラック運送業者の運賃に軽油価格引上分
を転嫁させるため,運輸省から,トラック運送事業者の事業者団体が荷
主等に対して増税分の円滑な転嫁を行うことができるよう所要の措置を
講じたい旨の説明があった。これに対して,当委員会は,トラック運送
業者の取組については,一般の事業者団体と同様に取り扱うことを基本
とすべきとの観点から所要の協議を行った。
 なお,軽油引取税の引上げは平成5年12月1日から実施され,引上
分の転嫁については,いずれも独占禁止法の枠内で行われた。
(2) 淘汰鶏処理円滑化事業について
 鶏卵の生産過剰による卵価の低落に対応するため,農林水産省から,
事業者団体が造成する基金によって卵価が大幅に低落し生産費を下回っ
ている場合に淘汰鶏の処理に伴う費用等に対して補填金を交付すること
を内容とする淘汰鶏の処理円滑化事業を行いたい旨説明があった。
 これに対して,当委員会は,事業者団体や事業者が共同して,鶏卵に
関する生産調整を行うことがないようにすることが重要であるとの観点
から所要の協議を行った。
(3) 外国産米に係る行政指導について
 米の作柄が戦後最低水準になったことに伴う異例の需給環境の下で,
消費者に対する米供給を確保していく必要があるため,農林水産省は
外国産米を緊急に輸入するとともに,特定の産地国,銘柄,品質等に
偏った供給を防止し,米の安定的かつ公平な供給を図る観点から,米の
販売業者に対して,米の販売に際しては,外国産米と国産米との混米を
機軸とするほか,詰め合わせ方法の工夫を図るよう食糧管理法に基づい
て指導することを企画した。
 これに対して,当委員会は,農林水産省による前記の指導に従った販
売業者の行為は食糧管理法に基づく命令によって行う事業者等の正当な
行為として独占禁止法の適用除外となるとされている事情の下で,可能
な限り消費者の選択の自由が確保されるよう所要の協議を行った。
 なお,本件指導は 平成6年3月11日から実施された。
(4) 新国際航空運賃制度導入に伴う三者懇談会の設立について
 平成6年4月から日本発国際航空運賃に導入する新運賃制度の市場に
おける定着とその円滑な実施を通じて,今後における国際航空運賃市場
の確立を図るため,運輸省から,同省,内外の航空事業者及び旅行業者の
関係三者による懇談会を開催し,新運賃についてのPR,今後の運賃制度
の在り方等について官民による意見交換等を行いたい旨説明があった。
 これに対して,当委員会は,三者懇談会のかかる活動によって,航空
事業者による旅行業者の設定する旅行商品等の価格の拘束等,独占禁止
法違反行為が誘発されないようにすることが必要であるとの観点から,
運輸省との間で所要の協議を行った。
 なお,新運賃制度は予定どおり同年4月1日に導入され,それに先立
つ3月2日に三者懇談会が開催された。