第3章 審判及び訴訟

第1 審 判

 本年度における審判事件数は,前年度から引き継いだもの7件,本年度中
に審判開始決定を行ったもの9件の計16件である。16件の内訳は,独占禁止
法違反被疑事件が12件,景品表示法違反被疑事件が4件である。これらのう
ち,本年度中に,独占禁止法違反被疑事件3件について審決を行い,また,
審判開始手続を進めていた景品表示法違反被疑事件2件について,審判開始
決定を取り消すとともに,所要の審決を行った(本章第2及び第3参照)。
 本年度末現在において審判手続係属中の事件は,下表の11件である。

係 属 中 の 審 判 事 件 一 覧

独占禁止法違反被疑事件(9件)


景品表示法違反被疑事件(2件)

第2 審判審決

平成3年(判)第2号日之出水道機器株式会社ほか6名に対する審決
(福岡地区)


(1) 被 審 人
(2) 事件の経過
 本件は,当委員会が前記被審人7社(以下「7社」という。)に対
し,独占禁止法第48条第1項の規定に基づき勧告を行ったところ,7社
はこれに応諾しなかったので,7社に対し同法第49条第1項の規定に基
づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものであ
る。
 当委員会は,担当審判官の作成した審決案を調査の上,これを適当と
認めて審決案の内容と同じ審決を行った。
(3) 認定した事実の概要
被審人ら等について
(ア)  日之出水道,栄寿産業,トミス,神戸鋳鉄所及び永鋼産業の5社
は,福岡市の区域.(以下「福岡地区」という。)において,公共下
水道の人孔(マンホール)用及び汚水桝用鉄蓋(以下「公共下水道
用鉄蓋」という。)の製造販売業を営む者であり,北勢工業及び日
豊金属興業は,それぞれ株式会社ホクキャスト及び日豊金属工業株
式会社から公共下水道用鉄蓋の供給を受けて福岡地区において販売
している者である。7社は,福岡地区において使用される公共下水
道用鉄蓋の全量を供給している。
(イ)  福岡市は,公共下水道用鉄蓋として使用する鋳鉄蓋について一定
の仕様を定めるとともに,当該仕様の鋳鉄蓋(以下「市型鉄蓋」と・
いう。)を製造販売できる業者として,日之出水道,栄寿産業,ト
ミス,神戸鋳鉄所及び永鋼産業の5社並びに株式会社ホクキャスト
及び日豊金属工業株式会社を指定し,これら指定業者のみが市型鉄
蓋を供給できるようにしている。
 福岡市は,昭和55年に市型鉄蓋の仕様を日之出水道の実用新案を
採り入れたものに改定している。
本件各決定に至る事情
(ア)  福岡地区では,市型鉄蓋の仕様が改定される以前の旧型時代は,
鉄蓋メーカー間の価格競争が激しく,各メーカーは鉄蓋を多岐にわ
たって販売していたため,販売先から価格を値切られるという状況
にあった。
(イ)  7社は,市型鉄蓋を販売業者(以下「商社」という。)を通じ
て,下水道工事業者(以下「工事業者」という。)又はコンクリー
ト製品製造業者に販売している。
(ウ)  7社は,福岡市が市型鉄蓋の仕様を改定するのを機会に,市型鉄
蓋の販売価格の低落を防止するための協調体制をとることとし,販
売価格,販売先等の検討を行うため 各社の営業担当責任者級の者
の会合の場として福岡鉄蓋会を発足させた。
昭和55年の市型鉄蓋に関する土木協力会に対するマージンの決定
 7社は,市型鉄蓋の販売価格がその需要者である工事業者及び商社
に対するマージンいかんによって決定されるとの認識の下に,工事業
者の団体である福岡市土木建設協力会と協議の上,昭和55年8月26
日,工事業者に対する販売価格を次のとおりにすること(マージン率
約15%)で同土木協力会と合意した。
昭和55年の市型鉄蓋に関する販売数量比率等の決定
(ア)  7社は,各社の市型鉄蓋に関する販売数量比率について,昭和55
年3月以降10月までに開催された福岡鉄蓋会において検討した結
果,遅くとも昭和55年10月末ころまでに,実用新案権者である日之
出水道が他の指名業者に実用新案の実施を許諾することを理由に,
総需要量の20%をロイヤリティ分として取得し,その余の80%を7
社で均等配分する旨を合意した。
(イ)  7社は,福岡鉄蓋会で前記比率どおり配分するため受注窓口を一
本化することについて検討した結果,昭和55年10月末ころ,商社が
受けた注文は,すべて日之出水道に連絡し,同社において各社の数
量配分比率に見合うようにその他の6社に出荷指示する旨の決定を
した。
昭和55年の市型鉄蓋の販売価格等の決定
 7社は,昭和55年11月4日の福岡鉄蓋会において,市型鉄蓋の販売
価格を次のとおりとすること及び実施時期を同年11月1日出荷分から
とすること,その実効を確保するため,販売先を西鉄興産株式会社ら
6社とすること並びに前記ウで合意した工事業者渡し価格で工事業者
に販売することをこれら6商社に要請することを各決定し,また,7
社の市型鉄蓋の各販売数量比率を前記エの決定どおりの比率とし,日
之出水道がこの販売数量比率に基づき各社に出荷指示を行う旨を確認
した。



小口径汚水桝鉄蓋等に関する販売価格等の決定
 昭和63年度から市型鉄蓋の仕様に小口径汚水桝鉄蓋等が追加される
こととなったため,7社は,昭和63年3月18日の福岡鉄蓋会におい
て,小口径汚水桝鉄蓋等の商社のマージン率を約10%,工事業者渡し
価格のマージン率を約15%とする次のとおりの価格を決定し,同年4
月1日出荷分から実施すること,この実効を確保するため小口径汚水
桝鉄蓋等の販売先を西鉄興産株式会社ら5商社のみとし,また, 7社
の各販売数量比率を前記市型鉄蓋と同様の比率とし,日之出水道を受
注窓口にし,同社がこの販売数量比率に基づき各社に出荷指示を行う
旨を各決定した。
実施状況
 7社は,おおむね,前記各決定に基づき市型鉄蓋を販売している。
(4) 法令の適用
 7社は,共同して福岡地区の市型鉄蓋の販売価格,販売数量比率及び
販売先を決定することにより公共の利益に反して,福岡地区の市型鉄蓋
の販売分野における競争を実質的に制限しているものであって,これは
独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法第3
条の規定に違反するものである。
(5) 命じた主な措置
 7社は,福岡地区における公共下水道用鉄蓋に関して行った販売数量
比率及び受注方法に関する各決定並びに販売価格,工事業者渡し価格及
び販売の相手方に関する各決定を破棄するとともに,これに基づいて
採った措置及び今後,共同して,同地区における公共下水道用鉄蓋に関
するこれらの各決定をせず,各社がそれぞれ自主的に決めることを同地
区における公共下水道用鉄蓋の販売業者及び需要者に周知徹底させなけ
ればならない。
平成3年(判)第3号日之出水道機器株式会社ほか4名に対する審決
(北九州地区)


(1) 被 審 人
(2) 事件の経過
 本件は,当委員会が前記被審人5社(以下「5社」という。)に対
し,独占禁止法第48条第1項の規定に基づき勧告を行ったところ,5社
はこれに応諾しなかったので,5社に対し同法第49条第1項の規定に基
づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものであ
る。
 当委員会は,担当審判官の作成した審決案を調査の上,これを適当と
認めて審決案の内容と同じ審決を行った。
(3) 認定した事実の概要
(ア)  日之出水道,六資産業及び永鋼産業の3社は,北九州市の区域
(以下「北九州地区」という。)において,公共下水道の人孔(マ
ンホール)用及び汚水桝用鉄蓋(以下「公共下水道用鉄蓋」とい
う。)の製造販売業を営む者であり,北勢工業及び日豊金属興業
は,それぞれ株式会社ホクキャスト及び日豊金属工業株式会社から
公共下水道用鉄蓋の供給を受けて北九州地区において販売している
者である。5社は,北九州地区において使用される公共下水道用鉄
蓋の全量を供給している。
(イ)  北九州市は,公共下水道用鉄蓋として使用する鋳鉄蓋及び鉄筋コ
ンクリート蓋(以下「合成蓋」という。)についてー定の仕様を定
めるとともに,当該仕様の鋳鉄蓋及び合成蓋(以下「市型鉄蓋」と
いう。)を製造販売できる業者として,日之出水道,六寶産業及び
永鋼産業の3社並びに株式会社ホクキャスト及び日豊金属工業株式
会社を指定し,これら指定業者のみが市型鉄蓋を供給できるように
している。
(ウ)  北九州市は鋳鉄蓋については,その仕様を,昭和60年に日之出
水道の実用新案を採り入れたものに改定している。日之出水道は,
自社以外の指定業者に対して,当該実用新案の実施を許諾してい
る。
(エ)  5社は,市型鉄蓋を北九州市指定のコンクリート二次製品メー
カー7社が構成組合員である北九州コンクリート製品協同組合(以
下「北九州組合」という。)を通じて,下水道工事業者又はコンク
リート製品製造業者に販売している。
 5社は,北九州市の昭和60年の仕様改定を機に,市型鉄蓋の販売価
格の低落を防止するため,昭和59年12月25日,各社の北九州地区の営
業担当責任者級の者による会合(以下「北鉄会」という。)におい
て,
(ア)  販売先との価格交渉に際し提示する市型鉄蓋の価格(以下「提示
価格」という。)及び価格交渉において譲歩する場合の最低価格を
次のとおりとすること
(イ)  市型鉄蓋の販売先を北九州組合のみとすること
を各決定した。
 5社は,昭和60年3月9日に開催した北鉄会において,北九州市が
改定しようとする市型鉄蓋の仕様が確定したところから,前記イ(ア)の
価格の見直し及び新たに合成蓋汚水桝1号の価格について協議した結
果,これらの提示価格及び最低価格を次のとおりとすることに決定し
た。
(ア)  5社は,前記イ(ア)及びウの決定に基づき,北九州組合との市型鉄
蓋の価格交渉の結果を踏まえて,昭和60年5月22日に開催した北鉄
会で,
 市型鉄蓋の販売価格を次のとおりとすること

 実施時期を,昭和60年4月1日出荷分からとすること
を決定した。
(イ)  5社は,前記化鉄会において,市型鉄蓋の5社の各販売数量比率
を暫定的に,鋳鉄蓋については実用新案権者である日之出水道に総
需要量の40%を配分し,他の4社各社にそれぞれ15%を配分するこ
と,合成蓋については5社にそれぞれ総需要量の20%を配分するこ
ととし,これを実施するため,市型鉄蓋の受注窓口を日之出水道に
一本化し,同社がこの販売数量比率に基づき各社に出荷指示を行う
ことを決定した。
 5社は,昭和60年11月22日に開催の北鉄会で,暫定的に定めていた
前記エ(イ)の5社の市型鉄蓋の販売数量比率をその比率に確定すること
を決定した。
 5社は,運送料,原材料の値上がりに対処するため,平成元年5月
2日の北鉄会において,
(ア)  市型鉄蓋の販売価格を次のとおりに引き上げること


(イ)  実施時期を,平成元年6月1日出荷分からとすること
を決定した。
 5社は,前記力の決定に基づき,北九州組合との市型鉄蓋の価格交
渉の結果を踏まえて,平成元年11月18日の北鉄会において,市型鉄蓋
の販売価格を再検討し,
(ア)  市型鉄蓋の販売価格を,前記力(ア)の決定価格と現行価格と
の差の3分の1相当額引き上げることに改めること
(イ)  実施時期を,平成元年9月1日出荷分からとすること
を決定した。
 5社は,おおむね,前記各決定に基づき市型鉄蓋を販売している。
(4) 法令の適用
 5社は,共同して北九州地区の市型鉄蓋の販売価格,販売先及び販売
数量比率を決定することにより公共の利益に反して,北九州地区の市型
鉄蓋の販売分野における競争を実質的に制限しているものであって,こ
れは独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,同法
第3条の規定に違反するものである。
(5) 命じた主な措置
 5社は,北九州地区における公共下水道用鉄蓋に関して行った販売価
格,販売の相手方,販売数量比率及び受注方法に関する各決定を破棄す
るとともに,これに基づいて採った措置及び今後,共同して,同地区に
おける公共下水道用鉄蓋に関するこれらの各決定をせず,各社がそれぞ
れ自主的に決める旨を同地区における公共下水道用鉄蓋の販売業者及び
需要者に周知徹底させなければならない。
平成3年(判)第4号株式会社協和エクシオに対する審決


(1) 被 審 人
(2) 事件の経過
 本件は,当委員会が株式会社協和エクシオ(以下「協和エクシオ」と
いう。),日本電気インフォメーションテクノロジー株式会社(以下「日
電インテク」という。)及び大明電話工業株式会社(以下「大明電話」
という。)の3社に対し,平成3年5月8日,独占禁止法第48条の2第
1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,協和エクシオはこ
れを不服として審判手続の開始を請求したため,同社に対し同法第49条
第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行
わせたものである。
 当委員会は,協和エクシオが平成5年12月15日付けの担当審判官の作
成した審決案に対し異議の申立てを行うとともに独占禁止法第53条の2
の2の規定に基づき当委員会に対し直接陳述の申出を行ったので,平成
6年2月2日に協和エクシオから陳述聴取を行い,審決案を調査の上,
審決案の内容と同じ審決を行った(なお,本件は,平成6年4月14日に
審決取消請求訴訟が提起され,東京高等裁判所において係属中であ
る。)。
(3) 認定した事実の概要
課徴金に係る違反行為
(ア)  協和エクシオは,電気通信設備(電話回線設備及びマイクロ無線
設備をいう。)の工事等を営む者である。
(イ)  協和エクシオ,日電インテク,大明電話, 日本コムシス株式会社
(以下「日本コムシス」という。),東洋電機通信工業株式会社,三
和大榮電氣興業株式会社,株式会社ジェイコス(以下「ジェイコ
ス」という。),新興通信建設株式会社,池野通建株式会社(以下
「池野通建」という。),大和通信建設株式会社,大興電子通信株式
会社(以下「大興電子」という。)及び株式会社富士通ビジネスシ
ステム(以下「富士通ビジネス」という。)の12社(以下「12社」
といい,12社のうち,日電インテク,大興電子及び富士通ビジネス
の3社を除く9社を以下「1級9社」という。)は,アメリカ合衆
国空軍に所属するパキャフ・コントラクティング・センター・ジャ
パン(以下「米国空軍契約センター」という。)に業者登録してい
る有力事業者のほとんどである。そのうち,協和エクシオ,日電イ
ンテク及び大明電話の3社は,同契約センターが我が国において発
注する電気通信設備の運用保守に関する物件のほとんどすべてを受
注していた。
(ウ)  米国空軍契約センターの発注及び契約は,米国法に基づくとこ
ろ,同法では,調達の方法として,最も低い価格で入札した事業者
に発注することを原則とする方法と,入札者の中から受注する可能
性のある入札価格の低い2~3の者について入札価格の積算根拠の
監査を実施し,監査対象者と個別に価格交渉(以下「ネゴシエー
ション」という。)を行った後,再度入札価格を呈示させて,最も
低い価格で入札した事業者に発注することを原則とする方法(以下
「ネゴシエーション方式」という。)の二種類が定められている。
米国空軍契約センターは,海外における調達については,一般的方
針として,ネゴシエーション方式を採ることとしている。
(エ)  米国空軍契約センターは,我が国において電気通信設備の運用保
守のサービスを調達するに当たり,それまで在日米軍が自ら実施し
又は同契約センターが随意契約の方法によって発注していたもの
を,昭和43年ころから,ネゴシエーション方式に改め,同54年以降
はそのほとんどすべてを同方式により発注している。
(オ)  1級9社は 昭和55年ころまでには全社が同センターに業者登録
を行い,米国空軍契約センター発注物件を受注するための方策を検
討してきたが,従来,同センター発注物件のほとんどを受注してい
た日電インテクと競争をして直ちに受注を図ることは,入札に関す
るノウハウに通じていないこと及び技術的能力の違い等から困難な
面があり,また,受注価格の低落を招く等の問題があった。
 他方,日電インテクは,昭和55年前後ころ,1級9社の他にも中
小の事業者が,米国空軍契約センターに業者登録を行い,同セン
ター発注物件の入札に参加し,その結果,従前の受注価格より相当
低い価格での受注を余儀なくされたこともあり,1級9社の同市場
への参入により前記のような事態になることを危倶していた。
(カ)  1級9社及び日電インテクの営業担当部課長級の者は,昭和55年
12月15日,「かぶと家」に集まり,会員相互間の親睦及びその意思
の疎通を図り,米国空軍契約センター発注物件について情報を交換
し,継続的に協調関係,信頼関係を維持するための共通の場とし
て,「集まりの会」を設けることを合意した。
(キ)  その後,日電インテク及び1級9社の営業担当部課長級の者は,
昭和56年2月5日,前記かぶと家で再度会合を開催し,遅くとも2
月19日ころまでには,前記「集まりの会」の名称を「かぶと会」と
するとともに,会則及び役員等を定め,同年3月1日にかぶと会を
発足させた。
(ク)  日電インテクも参加して設立されたかぶと会は,単に会員の親睦
を図る会に止まるものではなく,米国空軍契約センター発注物件を
受注するに当たり,1級9社及び日電インテクが円滑に受注できる
ようにするため,継続的に話し合い,信頼関係を形成し,維持する
ため設立されたものであるところ,前記かぶと会の設立等につき協
議し,かぶと会を設立すること等により,もって,遅くとも,前記
かぶと会の設立するころまでには,米国空軍契約センター発注物件
について,あらかじめ入札に参加するかぶと会会員の話合いにより
前記発注物件を受注すべき者(以下「受注予定者」という。)を決
めること,受注予定者以外の入札参加会員は 受注予定者が受注で
きるように協力することとする共通の認識(以下「本件基本合意」
という。)を相互に形成するに至った。
(ケ)  かぶと会会員は,かぶと会設立後の昭和56年3月から昭和63年6
月15日のかぶと会の解散に至るまでの間,継続して,本件基本合意
に基づき,米国空軍契約センター発注の27物件について,同契約セ
ンターが入札前に開催する入札説明会又は現場説明会の終了後にお
いて,飲食店等で会合し,当該入札に参加する会員間で受注予定者
を決める「話合い」を行い,受注予定者を決めていた。
 また,当該入札に参加するかぶと会会員は 受注予定者を決めた
後,受注予定者以外の入札参加会員の入札価格が受注予定者の入札
価格以上の価格となるように,受注予定者が他の入札参加会員にそ
の者が入札すべき価格を通知する等の方法により,受注予定者が受
注できるようにし,また,受注予定者は,あらかじめ監査の対象に
なった場合の対応を特定の入札参加会員に依頼し,依頼を受けた会
員は,監査やネゴシエーションの結果,入札価格の変更があって
も,受注予定者が受注できるように協力していた。
(コ)  大興電子は,昭和57年10月ころ,富士通ビジネスは,昭和58年11
月ころ,それぞれ本件基本合意を了承し受注予定者を決める本件
「話合い」に参加することとして,かぶと会に入会し,入会後は,
前記のように受注予定者を決定するための会員間の「話合い」に参
加し,受注予定者が受注できるように協力してきた。
(サ)  当委員会が在日米軍関係建設工事事業者ら及びこれらの団体に対
する審査を開始したことが,昭和63年5月新聞等で報じられたとこ
ろから,前記審査が本件事案にも波及することをおそれた12社は,
昭和63年6月15日,大明電話の会議室でかぶと会の臨時総会を開催
し,同日付けでかぶと会を解散した。
 その後 12社は,会員による受注予定者を決める「話合い」や,
入札金額の連絡等の調整を行っていない。
課徴金の計算の基礎の概要
(ア)  協和エクシオが,本件違反行為の実行としての事業活動を行った
日は,本件基本合意に基づき,米国空軍契約センター発注物件につ
いて最初に入札に参加した昭和56年4月 1日である。また,本件違
反行為の実行としての事業活動のなくなった日は,本件基本合意を
破棄した前記昭和63年6月15日である。
 したがって,協和エクシオが本件違反行為の実行として事業活動
を行った期間は昭和56年4月1日から同63年6月15日までである。
(イ)  協和エクシオは,本件基本合意に基づき,米国空軍契約センター
から,同契約センター発注物件のうち,昭和56年,同59年及び同61
年の横須賀・横浜基地の各物件を受注した。
(ウ)  米国空軍契約センター発注に係る電気通信設備の運用保守は,受
注から契約の終了までに相当の期間を要する等のため,実行期間内
において提供した役務の対価の額の合計額と実行期間内に締結した
契約により定められた対価の額の合計額との間に著しい差異が生ず
る事情があり,独占禁止法施行令第6条の規定により,課徴金対象
売上額は 実行期間内において締結した契約により定められた対価
の額を合計する方法によって算定することが相当である。
 協和エクシオの前記期間における米国空軍契約センターが発注す
る電気通信設備の運用保守の売上額は,同施行令第6条の規定に従
い算定すると,14億7,516万4,753円である。
(エ)  よって,協和エクシオが,国庫に納付しなければならない課徴金
の額は,前記14億7,516万4,753円に百分の三を乗じた額の二分の一
に相当する額から,一万円未満の端数を切り捨てて算出された2,21
2万円である。
(4) 法令の適用
 協和エクシオは,日電インテクらと共同して前記合意をすることによ
り,公共の利益に反して,米国空軍契約センター発注の電気通信設備の
運用保守の取引分野における競争を実質的に制限していたものであっ
て,これは独占禁止法第3条に違反し,かつ,同法第7条の2に規定す
る課徴金の対象となる「役務の対価に係るもの」に該当する。
(5) 命じた措置
 独占禁止法第54条の2第1項に基づき,協和エクシオは課徴金2,212
万円を国庫に納付しなければならない。

第3 その他の審決等

株式会社喜多屋ほか1名に対する審判開始決定の取消しの決定及び審決
(1) 本件の概要
 当委員会は,下記の被審人2名に対し,昭和50年10月9日に景品表示
法第6条の規定に基づき排除命令を行ったところ,両社はこれを不服と
して審判手続の開始を請求した。このため,当委員会は,両社に対し,
独占禁止法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官を
して審判手続を行わせてきたところ,平成5年7月12日,両社から審判
手続の開始の請求を取り下げる旨の申出がされたため,当委員会は,平
成5年8月2日,本件審判開始決定を取り消す決定をするとともに,両
社に対し、景品表示法第9条第3項で準用する独占禁止法第66条第2項
の規定に基づき審決を行った。

(2) 審決の内容
主文
(ア)  昭和50年(排)第25号白花酒造株式会社及びフンドーダイ醤油株
式会社に対する排除命令の主文第1項及び第3項を取り消す。
(イ)  前記排除命令の事実4のうち,「蒸留酒の製造で発生する蒸留残
液」とあるのを「純米醸造清酒を原料とし,真空蒸発法によりアル
コール分を分離して得られたエキス」に変更する。
(ウ)  前記排除命令の法令の適用のうち,「白花酒造は,『白花酒みり
ん』及び『フンドーダイ酒みりん』の品質について,また,フン
ドーダイは,『フンドーダイ酒みりん』の品質について,実際のも
のよりも著しく優良である」とあるのを「白花酒造は,『白花酒み
りん』及び『フンドーダイ酒みりん』と称する商品について,ま
た,フンドーダイは,『フンドーダイ酒みりん』と称する商品につ
いて,みりんである」に変更する。
理由(関係部分抜粋)
(ア)  本件排除命令の主文第1項は,同排除命令で認定された違反行為
に基づく一般消費者の誤認を排除するための公示を命じ,同主文第
3項は,前記主文第1項に基づいて行った公示について当委員会に
報告することを命じているところ,本件排除命令が出されて以降17
年余の長期間を経過し,この間,みりん類似品の需要が著しく増大
したこと等もあって,関係業界において,みりんとみりん類似品と
を区別するための表示の工夫が図られており,本件排除命令に係る
商品の表示についても,既に10年以上も前から,当該商品は酒税法
上の酒類には含まれない旨のいわゆる打消し表示が加えられるなど
表示の改善がなされており,現時点においては,本件排除命令にお
いて一般消費者の誤認を排除することを必要とした事情は既になく
なっているものと認められる。
 なお,本件排除命令の事実4のうち,本件対象商品の製造方法を
表現した「蒸留酒の製造で発生する蒸留残液」とあるのを,「純米
醸造清酒を原料とし,真空蒸発法によりアルコール分を分離して得
られたエキス」と改めるとともに,法令の適用の記載を本件事案に
即して分かりやすく整理した。
(イ)  以上のとおりであるから,本件排除命令の主文第1項及び第3項
をそのまま維持することは不当であって,公共の利益に反すると認
められる。
味の一醸造株式会社ほか1名に対する審判開始決定の取消しの決定及び
審決
(1) 本件の概要
 当委員会は,下記の被審人2名に対し,昭和50年10月9日に景品表示
法第6条の規定に基づき排除命令を行ったところ,両社はこれを不服と
して審判手続の開始を請求した。このため,当委員会は,両社に対し,
独占禁止法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官を
して審判手続を行わせてきたところ,味の一醸造株式会社から平成5年
7月15日に,藤源株式会社から同月20日にそれぞれ審判手続の開始の請
求を取り下げる旨の申出がされたため,当委員会は平成5年8月2
日,本件審判開始決定を取り消す決定をするとともに,両社に対し,景
品表示法第9条第3項で準用する独占禁止法第66条第2項の規定に基づ
き審決を行った。

(2) 審決の内容
主文
(ア)  昭和50年(排)8第18号味の一醸造株式会社及び株式会社味源に対
する排除命令の主文第1項及び第3項を取り消す。
(イ)  前記排除命令の法令の適用のうち,「味の一醸造は,『しおみりん
味の母』及び『しおみりん味源』の品質について,また,味源は,
『しおみりん味源』の品質について,実際のものよりも著しく優良
である」との文言を「味の一醸造は,『しおみりん味の母』及び
『しおみりん味源』と称する商品について,また,味源は,『しお
みりん味源』と称する商品について,みりんである」に変更する。
理由(関係部分抜粋)
(ア)  本件排除命令の主文第1項は,同排除命令で認定された違反行為
に基づく一般消費者の誤認を排除するための公示を命じ,同主文第
3項は,前記主文第1項に基づいて行った公示について当委員会に
報告することを命じているところ,本件排除命令が出されて以降17
年余の長期間を経過し,この間,みりん類似品の需要が著しく増大
したこと等もあって,関係業界において,みりんとみりん類似品と
を区別するための表示の工夫が図られており,これらの商品の表示
に対する一般消費者の認識も大きく変化してきている。
 特に,本件排除命令に係る商品の表示については,審判の過程に
おいて,本件排除命令が出された直後の昭和50年10月ころから,み
りんと誤認されるおそれのないものに変更されていることが明らか
にされた。このため,現時点においては,本件排除命令において一
般消費者の誤認を排除することを必要とした事情は既になくなって
いるものと認められる。
 なお,本件排除命令の法令の適用の記載を本件事案に則して分か
りやすく整理した。
(イ)  以上のとおりであるから,本件排除命令の主文第1項及び第3項
をそのまま維持することは不当であって,公共の利益に反すると認
められる。
キッコーマン株式会社に対する審決の一部を変更する審決
(1) 本件の概要
 当委員会は,昭和30年12年27日に野田醤油株式会社(現商号キッコー
マン株式会社)に対し行った,同社の製造するしょうゆの再販売価格に
ついての自己の意思を表示することを禁止している昭和29年(判)第2
号審決の一部を変更するため,平成5年6月28日,キッコーマン株式会
社(以下「キッコーマン」という。)に対し,独占禁止法第66条第2項
の規定に基づき審決を行った。
(2) 関 係 人
(3) 昭和29年(判)第2号審決の内客
 当委員会は 昭和30年12月27日,昭和29年(判)第2号審決によ
り,野田醤油株式会社が自己の製造するしょうゆの再販売価格を指示
し,もって小売価格を斉一ならしめることにより,他のしょうゆ製造
業者の価格決定を支配し,東京都におけるしょうゆの取引分野におけ
る競争を実質的に制限しているものであって,独占禁止法第2条第5
項に規定する私的独占に該当し,同法第3条の規定に違反すると認
め,違反行為の再発を防止するため,次の措置を命じた。
(ア)  再販売価格に関する自己の意思の表示の禁止(主文第1項)
(イ)  販売業者の卸売価格又は小売価格に干渉し,又は影響を与える行
為の禁止(主文第2項)
 野田醤油株式会社は,審決の主文第1項第1文により,「その製造
するしょうゆの再販売価格につき,希望価格,標準価格その他いかな
る名義をもってするか,またはいかなる形式もしくは方法をもってす
るかを問わず,自己の意思を表示し,またはその役員,使用人,代理
人その他何人にも表示させ」ることを禁止された。
(4) 今回の審決
審決の内容
 当委員会は,平成5年6月28日,キッコーマンに対し,独占禁止法
第66条第2項の規定に基づき,前記の昭和29年(判)第2号審決の主
文第1項第1文を取り消す旨の審決を行った。これにより,キッコー
マンは,今後,その製造するしょうゆの再販売価格について,自己の
意思を表示することが許容される。
理    由
 審決以降におけるしょうゆの流通経路の変化,流通の各段階におけ
る取引及び価格形成の実態,商品の多様化の状況等を総合的に勘案す
ると,審決においてかかる表示それ自体を禁止することを必要とした
事情は既になくなっているものと認められ,したがって,審決の主文
第1項第1文を維持することは不当であって公共の利益に反すると認
められる。

第4 訴   訟

独占禁止法第25条(無過失損害賠償責任)に基づく損害賠償請求事件
 本年度当初において係属中の独占禁止法第25条の規定に基づく損害賠償
請求事件は,次の岩留工業株式会社による請求事件1件であり,また,本
年度中に新たに提起された事件はなかった。
(1) 事件の表示
東京高等裁判所平成5年(ワ)第1号
損害賠償請求事件
原 告 岩留工業株式会社 被 告 三蒲地区生コンクリート協同
組合
   提訴年月日  平成5年2月17日
(2) 事案の概要
 当委員会は 平成3年12月2日,三蒲地区生コンクリート協同組合が
原告に対して行った砂利の購入妨害行為の排除を命じる審決を行った。
当該審決が確定した後,原告は,同協同組合に対して独占禁止法第25条
に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。
(3) 訴訟手続の経過
 本件について,東京高等裁判所から平成5年3月9日付けであった独
占禁止法第84条第1項に基づく独占禁止法違反行為によって生じた損害
額についての求意見に対し,当委員会は,平成5年10月1日に意見書を
同裁判所に提出した。なお,本件は,本年度中に口頭弁論が1回行わ
れ,本年度末現在,同裁判所に係属中である。
その他の独占禁止法関係の損害賠償請求事件等
(1) 旧埼玉土曜会談合事件に係る住民訴訟
事件の表示
浦和地方裁判所平成4年(行ウ)第13号
損害賠償請求事件
原 告  岩木英二ほか60名
被 告  鹿島建設株式会社ほか65名(訴えの一部取下げがあったの
で29名に減少した。)
  提訴年月日  平成4年8月14日
事案の概要
 当委員会は,埼玉県発注に係る土木一式工事の入札談合について,
平成4年6月3日に鹿島建設株式会社ほか65名に対し当該行為の排除
を命じる審決を行った。当該審決が確定した後,埼玉県の住民が,当
該建設業者等に対して,地方自治法に基づき埼玉県に代位して損害賠
償を求める住民訴訟を浦和地方裁判所に提起した。
訴訟手続の経過
 本件について,浦和地方裁判所は,本年度中に口頭弁論を4回(前
年度を含め計6回)行い,本件訴訟は本年度末現在,同裁判所に係属
中である。
 同裁判所は,本件に関し当委員会に対し平成5年5月31日に文書送
付嘱託を行い,当委員会は,平成5年8月27日,同裁判所に資料を提
供した。その後,同裁判所から,平成6年3月24日に再度文書送付嘱
託及び調査嘱託があった。
(2) アメリカ合衆国を債権者とする仮差押異議申立事件(横須賀米軍基地
談合事件関係訴訟)
事件の表示
事件番号・事件名 ①横浜地方裁判所川崎支部平成2年(モ)第358号
              動産仮差押異議申立事件
②横浜地方裁判所川崎支部平成2年(モ)第576号
             不動産仮差押異議申立事件
③横浜地方裁判所川崎支部平成2年(モ)第577号
              債権仮差押異議申立事件
当事者 債権者(①ないし③事件)  アメリカ合衆国
債務者(①ないし③事件)  保坂建設株式会社
  判決年月日  平成6年3月17日
  控訴年月日  平成6年3月30日
   (控訴審の表示 東京高裁平成6年(ネ)第1295号)
事案の概要
 本件は,横須賀基地を中心とする在日海軍基地等における建設工事
等を競争入札により発注しているアメリカ合衆国の極東建設本部等
が,競争入札に参加する業者らのいわゆる談合行為により損害を被っ
たとして,談合行為が存在した契約のうち,当委員会が課徴金納付命
令の対象とした建設工事等に限定し,その損害賠償請求権を被保全権
利として,仮差押申請を行い仮差押決定を得ていたのに対し,債務者
が異議を申し立てたものである。なお,横浜地方裁判所川崎支部は,
本件に関し,当委員会に対し,平成3年7月31日,文書送付嘱託を
行ったため,当委員会は,同年10月23日,同裁判所に資料を提供し
た。
判決の概要
 本判決は 債務者らの行為は独禁法に違反する談合行為に当たり,
一応,民法上の共同不法行為に該当し,債務者は同行為と相当因果関
係にある債権者の被った損害を賠償すべき義務があるとした上で,債権
者の主張する損害額を認めるに足る疎明はないことから,本件各仮差押
申請は,少なくとも,その被保全権利の存在につき,未だこれを認める
に足りる疎明か不十分であるとして,本件各仮差押決定をいずれも取り
消し,債権者の本件各仮差押申請をいずれも却下した。
(3) 社会保険庁発注に係る支払通知書等貼付用シールの供給業者に対する
不当利得返還請求訴訟
事件の表示
東京地方裁判所平成5年(ワ)第24034号
不当利得返還請求事件
原 告 国  被 告  トッパン・ムーア株式会社ほか2名
 提訴年月日  平成5年12月17日
事案の概要
 本件は,社会保険庁発注の年金受給者への支払通知等において使用
する支払通知書等各種貼付用シールの入札談合について,国が,民法
704条に基づき,本件談合による落札価格と客観的価格(時価)との
差額は被告らの不当利得であるとして,その返還を求める訴訟を東京
地方裁判所に提起したものである。
 なお,当委員会は,本件支払通知書等貼付用シールの入札談合につ
いて,平成5年4月22日にトッパン・ムーア株式会社ほか3社に対し
当該行為の排除を命じる審決を行った。
訴訟手続の経過
 本件について,東京地方裁判所は,本年度中に口頭弁論を1回行
い,本年度末現在,同裁判所に係属中である。
審決取消請求事件
 本年度当初において係属中の審決取消請求事件は,次の東芝ケミカル株
式会社による審決取消等請求事件1件であり,同事件について,平成6年
2月25日に東京高等裁判所の判決があった。当委員会は上告しなかったた
め,同判決は確定した。なお,本年度中に新たに提起された審決取消請求
事件はなかった。
(1) 事件の表示
東京高等裁判所平成4年(行ケ)第208号
審決取消等請求事件
原 告  東芝ケミカル株式会社  被 告  公正取引委員会
  提訴年月日  平成4年10月16日
  判決年月日  平成6年 2月25日
(2) 事案の概要
 本件は,当委員会が東芝ケミカル株式会社に対して行った平成元年
(判)第1号審決の審判手続において,正当な理由なく原告の文書提出
命令申立て(被審人取締役の調書)を却下したのであるから,本事件は
独占禁止法第81条第3項により当委員会に差し戻されるべきであり,ま
た,本件審決は,審決の基礎となった事実を立証する実質的な証拠を欠
くものであって,本来関与すべきでない委員が関与してされた違法なも
のであるから,独占禁止法第82条第1号,2号に該当し,取り消される
べきであるとして,当該事件の差戻しあるいは審決の取消しを求めたも
のである。
(3) 判決の概要
 判決は,独占禁止法の規定する審判手続は準司法的手続としての性格
が強く,審判者の公平確保が不可欠であるとした上で,当委員会の委員
が任命前に特定事件の審査にかかわった場合,議事・議決の定足数の規
定に照らし,当該委員が審決に加わる必要性のない限り,当該委員は審
決に関与する資格を失うというべきであるところ,訴外A委員が関与し
た本件審決は,審判者の公平を確保するという準司法手続に関する法の
基本原則に違反し,違法なものであり,本件審決は取消しを免れず,訴
外A委員を構成員としない当委員会において更に審理判断させるのが相
当であるとして,同審決を取り消し,事件を当委員会に差し戻した。
その他の当委員会関係の訴訟
 本年度において係属中の当委員会が関係する訴訟は,豊田商法の被害者
による国家賠償請求事件2件,明石書店ほか32名による行政処分取消等請
求事件1件の計3件であり,これらのうち大阪豊田商事事件については本
年度中に判決があり,原告が控訴した。他の2件はいずれも本年度末現在
係属中である。
(1) 豊田商法の被害者(1,486名)による国家賠償請求事件(大阪豊田商
事事件)
事件の表示
大阪地方裁判所昭和63年(ワ)第3702号,同第10176号
国家賠償請求事件
原 告  田中俊男ほか1,485名   被 告 国
提訴年月日 (第3702号事件につき)昭和63年4月23日
(第10176号事件つき)昭和63年11月4日(第3702
号に併合)
判決年月日  平成5年10月6日
控訴年月日  平成5年10月19日
事案の概要
 本件は,豊田商事株式会社(以下「豊田商事」という。)による
「金地金の売買」と「純金ファミリー契約」を組み合わせた,いわゆ
る豊田商法によって被害を受けたとする者ら1,486名が,被告国の公
務員である当委員会,法務省 警察庁,大蔵省,経済企画庁の各担当
者には豊田商法による被害の発生を防止すべくその有する規制権限を
行使すべき義務があり,また,通商産業省の担当者には同様に前記被
害を防止すべくその権限に属する行政指導をすべき義務があるのにこ
れを怠ったことにより被害を被ったとして,国家賠償法第1条第1項
に基づいて,被告国に対し,損害賠償を求めていたものである。
 なお,当委員会に対する原告らの主張は,豊田商法が独占禁止法第
19条(「不公正な取引方法」一般指定8項のぎまん的顧客誘引)及び
景品表示法第4条第1号及び第2号(不当表示)の各規定に該当する
ことは明らかであり,当委員会はこれを認識し,調査することが可能
であったから,前記各法律に基づき,その権限を行使して,排除勧
告,排除命令等の行政措置を行う作為義務を負っていたにもかかわら
ず,漫然と豊田商法の継続,拡大を放置したため,原告らに被害をも
たらしたとするものである。
判決主文
(ア)  原告らの請求をいずれも棄却する。
(イ)  訴訟費用は原告らの負担とする。
判決の概要
(ア) 総論(規制権限行使義務の発生要件)
 被告国がその公務員の規制権限の不行使を理由として国家賠償法
上の損害賠償責任を負うか否かを判断するについては,①原告ら主
張の被告国の公務員が原告ら主張の規制権限を有していたか否か,
②同規制権限を行使するための具体的要件が充足されていたか否
か,③同公務員が同具体的要件充足の事実を認識し又は認識し得た
か否か,④同公務員が原告ら個別の国民に対する職務上の法的義務
として当該規制権限を行使すべき義務(作為義務)を負っていたか
否かの各点のほか,さらに,不法行為成立のための一般的要件とし
て,⑤同作為義務の懈怠について同公務員に故意又は過失があった
か否か,⑥同作為義務の懈怠と原告らの本件被害との間に相当因果
関係があるか否かの各点をも検討する必要がある。
(イ) 当委員会の責任に関する裁判所の判断
豊田商事の事業者性
 独占禁止法等にいう「事業者」とは,反復継続して経済的利益
の交換を行う者で,かつ,その活動が競争秩序に影響を及ぼす者
をいうと解するのが相当である。
 豊田商事は,一部とはいえ顧客との間で反復継続して経済的利
益の交換を行っていた面があり,かつ,その活動は競争秩序に影
響を及ぼしていたのであるから,その限度において事業者性を有
していたということができるが,豊田商事は破綻必至の商法を
行っていたという点で通常の事業者とは著しく趣を異にする企業
であり,その事業者性は,著しく稀薄であったというべきである。
独占禁止法の不公正な取引方法ないし景品表示法の不当表示該
当性
 金の現物の存在を前提とする本件表示は,独占禁止法のぎまん
的顧客誘引及び景品表示法の不当表示に当たるというべきである
が,利殖条件の有利性に関する表示及び金の商品属性に関する表
示については,虚偽の表示を含んでいるものの,一般消費者に著
しく優良又は有利であるとの誤認を生じさせるものとまではいえ
ないから,これらの表示が独占禁止法のぎまん的顧客誘引及び景
品表示法の不当表示に当たるということはできない。
当委員会の担当者による前記a及びbの認識ないし認識可能性
 豊田商事の事業者性については,当委員会の担当者においてこ
れを認識していなかったことは明らかである。また,当委員会の
担当者は,独占禁止法等にいう「事業者」とは反復継続して経済
的利益の交換を行う者のうち,独占禁止法等の目的である「公正
かつ自由な競争」が可能となるような事業者をいうとの有力な見
解を採用していたところ,豊田商事については,違法不当な手段
を用いて一貫して虚業を営んでいるのではないかとの強い疑念を
抱いていたため,前記事実を認識することができなかったもので
あり,当委員会の担当者において前記事実を認識することは,不
可能とまではいえないが,相当に困難な事柄であったというべき
である。
 独占禁止法の不公正な取引方法ないし景品表示法の不当表示該
当性については,当委員会の担当者は,豊田商法について説明と
資料の提供を受けたことにより,豊田商事の独占禁止法及び景品
表示法違反事件についての端ちょを得たのであるから,前記事実
を認識できる可能性があったというべきである。
権限行使義務及びその違反の有無
 規制権限の不行使が違法となるかどうかは,その公務員が具体
的事情の下においてその規制権限を行使することが可能であった
ことが当然の前提となるが,それが行使可能な場合において,そ
の公務員がその規制権限を行使しなかったことがその規制権限の
根拠法規の趣旨・目的のみならず慣習,条理に照らして著しく不
合理と認められるかどうかにより決めるべきである。その判断に
当たっては,いわゆる危険の切迫,予見可能性,結果回避可能
性,補充性,国民の期待等の諸点を総合考慮すべきであると解さ
れるところ,本件においては,被害発生の具体的危険が切迫して
いたこと(危険の切迫),当委員会の担当者がその危険を知り又
は容易に知ることができたこと(予見可能性),本件被害の多く
は行政庁が権限を行使しなければその発生を回避できないもので
あったこと(補充性)は明らかであるが,国民がその公務員によ
る規制権限の行使を期待している状況にあったこと(国民の期
待)及びその公務員がその規制権限を行使すれば容易に結果を回
避できたこと(結果回避可能性)については,証拠上これを認め
ることは困難である。また,当委員会の担当者において豊田商事
が独占禁止法等にいう「事業者」に当たることを認識することは
相当に困難な事柄であったこと,当委員会の規制権限の行使につ
いてはその権限の性質上その担当者の広範な裁量に委ねられてい
ることをも総合考慮すれば,当委員会の担当者の前記規制権限の
不行使がその規制権限の根拠法規の趣旨・目的のみならず条理に
照らして著しく不合理であると認めることはできない。
(2) 豊田商法の被害者(2名)による国家賠償請求事件
事件の表示
神戸地方裁判所昭和60年(ワ)第826号,第849号
国家賠償請求事件
原 告  石田三奈子ほか1名   被 告 国
 提訴年月日  (第826号事件につき)昭和60年6月11日
 (第849号事件につき)昭和60年6月14日(第826号
 事件に併合)
事案の概要
 本件は,昭和56年から60年にかけて豊田商事が行った,顧客との間
で純金の売買契約を締結し,同時に顧客が購入した純金を同社が預
かって運用することなどを内容とする純金ファミリー契約と称する契
約を締結して純金の現物の代わりに証券を交付するといういわゆる豊
田商法により,純金の売買代金及び手数料名下に金員を騙し取られた
として,顧客ら2名が,国に対し,国家賠償法第1条第1項に基づ
き,損害賠償の支払を求めているものである。
 なお,当委員会に関する原告らの主張は,豊田商法は独占禁止法の
不公正な取引方法及び景品表示法の不当表示に該当する行為であり,
両法に違反することは比較的客観的に解明できるのであるから,これ
を認識していた当委員会は,その権限を行使して必要な措置を採る法
律上の義務があったにもかかわらず,何ら権限を行使することなく消
費者の利益を確保する義務を怠ったとするものである。
訴訟手続の経過
(ア)  本件は,豊田商法の被害者2名が,国及び豊田商事に対し損害賠
償の支払を求めたものであったが,被告豊田商事については,昭和
62年12月11日の第13回口頭弁論において訴えが取り下げられてい
る。
 なお,国に対する請求は,当初,国会議員,通商産業省,経済企
画庁,農林水産省,法務省,警察庁及び内閣の豊田商法に対する不
作為の違法を主張していたが,昭和62年9月11日の第12回口頭弁論
において,当委員会についても豊田商法に対する規制権限の不行使
は違法であるとして,追加主張がされた。
(イ)  本件について,神戸地方裁判所は,口頭弁論期日を追って指定す
ることとしており,本件訴訟は,本年度末現在,同裁判所に係属中
である。
(3) (株)明石書店ほか32名による行政処分の取消等請求控訴事件
事件の表示
東京高等裁判所平成4年(行コ)第46号
行政処分の取消等請求控訴事件
控訴人 (株)明石書店ほか32名   被控訴人  公正取引委員会,
    国
    提訴年月日 平成元年7月20日
    判決年月日(東京地裁) 平成 4年3月24日
    控訴年月日 平成 4年4月 6日
事案の概要
 本件は,出版社等33名が,再販売価格は消費税込みの価格であると
する被控訴人当委員会の平成元年2月22日付け「消費税導入に伴う再
販売価格維持制度の運用について」と題する公表文(以下「本件公表
文」という。)の公表や指導等によって,書籍の定価の表示のし直し
を強制されたことにより,カバーの刷り直し,新表示のシール貼り等
の出費を余儀なくされ,損害を被ったとして,被控訴人当委員会に対
しては本件「行政処分」(公表文の公表)の取消しあるいは無効確認
を,被控訴人国に対しては国家賠償を求めるものである。
東京地裁判決の概要
(ア) 本件公表文の公表の取消し等を求める訴えについて
 本件公表文の公表は,抗告訴訟の対象となる行政処分には該当し
ないとして,その取消しあるいは無効確認を求める被告当委員会に
対する本件各訴えを却下した。
(イ) 国家賠償請求の訴えについて
 独占禁止法第24条の2第1項にいう再販売価格は,消費者が支払
う消費税込みの価格であるとする本件公表文中の被告当委員会の法
解釈は正しく,被告当委員会の事務当局者による指導あるいは本件
公表文の公表は,国家賠償法1条1項にいう国の公務員の違法な公
権力の行使には当たらないとして,被告国に対する請求を棄却し
訴訟手続の経過
 本件について,東京高等裁判所は,本年度,口頭弁論を4回行い,
平成5年12月20日結審し,判決言渡期日を平成6年4月18日と指定し
た。