第5章 政府規制制度及び独占禁止法適用除外制度の見直し

第1 概   説

 我が国では,社会的,経済的な理由により,参入,設備,数量,価格等に
係る経済的事業活動が政府により規制されていたり,独占禁止法の適用が除
外されている産業分野が多くみられる。
 このような政府規制は,日本経済の発展過程において一定の役割を果たし
てきたことは認められるが,社会的・経済的情勢の変化に伴い,当初の必要
性が薄れる一方で,効率的経営や企業家精神の発揮の阻害,競争制限的体質
の助長等様々な競争制限的問題を生じさせてきており,社会的・経済的情勢
の変化に即して不断の見直しを行う必要がある。さらに,近年,消費者重視
の政策の確立及び国民生活の質的向上を図る観点並びに我が国の市場をより
国際的に開かれたものとする観点からも,政府規制制度等の見直しが要請さ
れている。
 また,独占禁止法適用除外制度については,市場メカニズムを通じた良
質,廉価な商品・サービスの供給に向けた経営努力が十分に行われず,消費
者利益を損なうなどのおそれがあり,我が国市場をより開かれたものとする
ことが重要な課題となっている現在,市場メカニズムを制限している適用除
外制度が問題となっている。
 最近では,第3次臨時行政改革推進審議会が平成5年10月に行った最終答
申において,政府規制制度の見直しについて提言を行っており,政府も同答
申を最大限に尊重する旨の閣議決定を行っている。
 さらに,平成6年2月の「今後における行政改革の推進方策について」(行革
大綱)においても,公的規制の緩和の推進と,競争政策の積極的展開のため
の個別法による独占禁止法適用除外カルテル等制度の見直しについて提言を
行っており,政府も同答申を最大限に尊重する旨の閣議決定を行っている。
 なお,政府規制制度及び独占禁止法適用除外制度の見直しの必要性は海外
でも共通に認識されており,昭和54年に,OECD理事会が各加盟国に対し
これらを見直すべき旨の勧告を行っており,アメリカやヨーロッパ諸国にお
いても見直しが進められてきている。

第2 政府規制制度の見直し

政府規制制度見直しの経緯
 当委員会は,従来から競争政策の観点から政府規制制度について中長期
的に見直しを行ってきている。昭和63年7月以降,政府規制制度の見直し
及び関連分野における競争確保・促進政策の検討を行うため,「政府規制
等と競争政策に関する研究会」(座長 鶴田俊正 専修大学教授)を開催
している。同研究会は,物流関連分野(貨物運送,流通等),消費者向け
財・サービス供給分野(旅客運送,金融関連,LPガス販売)及び農業関
連分野(生産資材,農業生産,農作物流通,食品加工)を対象に検討を行
い,平成元年に検討結果を取りまとめ公表した。
 その後,各方面において,規制見直しの気運が高まっていること等を踏
まえ,同研究会は,前回の報告書を基に再度,政府規制の現状,問題点及
びその見直しの在り方について検討を行い,平成5年12月に「競争政策の
観点からの政府規制の問題点と見直しの方向」を公表した。その総論部分
の概要は以下のとおりである。
(1) 競争政策の観点からの政府規制見直しの重要性
競争と政府規制
 我が国がよりどころとする自由経済体制は,消費者及び事業者が自
らの自主的な判断に基づき自由な経済活動を行うことにより,市場メ
カニズムを通じて,事業者の創意工夫が発揮されるとともに,経済の
活力ある発展,消費者の多様な選択及び豊かな国民生活が達成される
との考え方に基づいており,その経済運営においては,事業者の公正
かつ自由な競争の維持・促進を図ることが基本となっている。
 その一方で,数府が民間の経済活動に介入している分野がある。そ
れらの分野においては,例えば,環境の保全,国民の健康・安全の確
保などの自由な経済活動のみによっては解決できない社会問題への対
応,自然独占の性格を持つ公益事業など市場メカニズムが有効に機能
しない財・サービスについての資源配分の適正化,あるいは国民生活
に必要不可欠な財・サービスの安定供給の確保等を目的として,事業
への参入,価格設定に対する政府規制が行われている。しかし,その
中には,経済的・社会的情勢の変化によりその必要性に疑問のあるも
のや,目的に照らして過剰な規制となっているものが認められ,その
競争制限的側面における問題は無視できないものがある。
政府規制の問題点
(ア) 効率的経営や企業家精神の発揮の阻害
 政府規制による市場への人為的な介入は,一般的には,産業構造
をゆがめ,市場メカニズムを通じた資源の適正な配分を損ない,効
率的経営のための事業者の努力を減退させることになる。参入規制
は,新規事業者の進出を阻止することに結びつくことにもなる。他
方,参入規制があることにより,既存の事業者は規制制度に安住し
がちとなり,企業家精神の発揮が阻害されることとなる。価格規制
については,効率的経営によるコスト削減努力が行われなくなるこ
とが多くなるとともに,非効率的な限界企業の温存につながる場合
がある。
(イ) 競争制限的体質の助長
 政府規制の下においては 規制が事業の一部に限って行われてい
る場合であっても,規制により業界横並び的な意識を持つようにな
り,規制が行われていない部分についても競争を避けようとする傾
向が生じやすく,事業者間の協調的行動が行われやすくなる。
(ウ) 既得権益の擁護
 規制はいったん導入されると,規制導入時とは状況が変化して
も,その見直しや変更は容易ではない。また,行政当局も,権限や
組織の縮小に結びつくような規制の見直しには消極的となりがちで
あり,このため,過剰な行政コストを発生させることにもなる。
(エ) 透明性の欠如
 政府規制の内容は,行政当局の裁量にゆだねられている度合いが
大きく,このように規制が不透明になっている場合には,その運用
について適正なチェックが働きにくく,事業者が将来の事業活動を
決定するに当たっての不確実性が拡大し,過大な負担を負うことに
なる。
(オ) 消費者利益の侵害
 参入や価格等についての規制は,資源の適正な配分を損なうこと
により,価格を高水準に維持する傾向があるとともに,事業者の競
争制限的体質を助長し,消費者の利益を侵害するものとなりがちで
ある。
競争政策の観点からみた政府規制見直しの必要性
 政府規制は,我が国経済の発展過程において,一定の役割を果たし
てきたが,経済的・社会的情勢の変化に伴い,当初の必要性が薄れる
一方で,上記のような競争制限的問題を生じさせており,消費者の利
益を侵害することが多くなってきていることから,常に見直しを行っ
ていく必要がある。
(2) 政府規制見直しの方向
 市場メカニズムの働く範囲を可能な限り拡大することによって,経済
の活性化,消費者利益の確保を図るという観点から,政府規制見直しの
在り方についてまとめると,次のとおりである。
 我が国経済の活性化,国際化時代への対応,生活者・消費者重視の
観点から,政府規制の見直しを行う際には,その規制の政策的効果が
競争によってもたらされる利益よりも優先されると判断される場合で
ない限り,その規制の存続を認めるべきではない。
 規制の内容を本来の規制目的の達成に必要な範囲内にとどめるべき
であり,また,より競争制限的効果が少ない規制手段を採用できない
か検討すべきである。
 上記の考え方を踏まえて,特に設備規制 輸入規制等を含む参入規制
及び価格規制についての競争政策上の観点からの見直しの方向を示すと
次のとおりである。
参入規制の見直し
 参入規制については,次の考え方に従って見直しを行う必要がある。
(ア)  需給調整要件は,原則撤廃すべきである。
(イ)  それ以外の要件による参入規制であっても,その内容は本来の規
制目的の範囲内に限定すべきである。
(ウ)  例えば,施設,人的要件等の事業遂行能力要件といわれているも
のであっても,その限定された要件のみに従って規制すべきであ
り,許認可に際し,需給調整の観点が加味されることがあってはな
らない。
価格規制の見直し
 価格規制については,次の考え方に従って見直しを行う必要があ
る。
(ア)  価格視謎は原則的には撤廃すべきである。
(イ)  自然独占などの性質により価格規制が必要な分野であっても,一
律の価格によるのではなく,例えば最高価格制など事業者が自らの
判断で価格設定が行えるような伸縮性のあるものにすべきである。
(3) 独占禁止法の厳正な運用
 政府規制が撤廃された分野において,市場メカニズムを有効に機能さ
せるためには,独占禁止法の厳正な運用が必要不可欠である。また,規
制が撤廃されても,事業者又は事業者団体の自主規制によってこれを代
わるような競争制限が行われてはならず,このような場合には,独占禁
止法に基づき厳正に対処する必要がある。
(4) 政府規制見直しについての今後の取組
 政府規制等と競争政策に関する研究会では,報告書で示された考え方
等に基づき,個別の事業分野について,規制の弊害について多角的な観
点から調査を行い,改めて規制見直しのための具体的な指摘を順次行っ
ていくこととする。
政府規制及び独占禁止法適用除外に関する合同検討会議の開催
 当委員会は,昭和55年4月以来,行政事務の簡素化・合理化の観点から
許認可等の見直しを行っている総務庁との間で,「政府規制及び独占禁止
法適用除外に関する合同検討会議」及び実務担当者会議を開催し,政府規
制制度の見直しの基本方針,方法等について連絡・調整を行ってきてい
る。
 本年度においては,実務担当者会議を開催し,政府規制制度の見直しの
実施状況,規制緩和された分野における競争政策上の課題等について連絡
及び意見交換を行った。

第3 独占禁止法適用除外制度の見直し

適用除外制度見直しの必要性
 独占禁止法は,公正かつ自由な競争の促進を通じて国民経済の民主的で
健全な発展を促進するため,私的独占,不当な取引制限及び不公正な取引
方法を禁止している。他方,中小企業などの経営の安定,企業の合理化を
図るため等,一定の経済政策目的を達成する観点から,特定の分野におけ
る一定の行為に独占禁止法の禁止規定の適用を除外するという独占禁止法
適用除外制度(以下「適用除外制度」という。)が設けられている。
 現行の適用除外制度の多くは,昭和20年代から30年代前半に,当時の政
策課題である産業の育成・強化,国際競争力強化のための企業経営の安
定,合理化,雇用の確保等に対応するため必要やむを得ないものとして,
各産業分野において創設されてきた経緯がある。
 しかし,今日の我が国経済は当時とは大きく変化し,世界経済における
地位の向上,企業の経営体質の強化,消費者生活の多様化等が進んできて
おり,これに伴い,政府規制と同様に適用除外制度の必要性も変化してき
ている。また,経済成長の過程を通じて,市場メカニズムに対する信頼も
高まってきている。
 適用除外制度には,価格,数量,品質等について公正かつ自由な競争を
制限することにより,市場メカニズムを通じた良質,廉価な商品・サービ
スの供給に向けた経営努力が十分行われず,消費者の利益が損なわれるお
それがあるなどの問題がある。また,我が国市場をより開かれたものとす
ることが重要な課題となっている現在,市場メカニズムを制限している適
用除外制度が問題となっている。
適用除外制度見直しの経緯
 適用除外制度については,第3次臨時行政改革推進審議会の「国際化対
応,国民生活重視の行政改革に関する第3次答申」(平成4年6月)にお
いて,「個別の法律に基づく独占禁止法適用除外制度について,必要最小
限にとどめるとの観点から見直しを行い,平成7年度末までに結論を得る
こととし,その際に所管省庁は公正取引委員会と十分協議すること」が提
言された。
 平成5年9月の経済対策閣僚会議において決定された緊急経済対策で
は,適用除外制度の見直しを実行に移すため,規制緩和等の推進のための
施策の1項目として「独占禁止法の適用を除外している個別の法律に基づ
く適用除外カルテル等制度の見直しについて,平成7年度末までに結論を
出すこととし,関係省庁による連絡会議を開催する等見直し推進体制の整
備を図ること」が決定された。
 さらに,政府は,前記の行革大綱及び3月の「対外経済改革要綱」にお
いて,「個別の法律に基づく適用除外カルテル等制度について,5年以内
に原則廃止する観点から見直しを行い,平成7年度末までにその結論を得
る」ことを決定している。
 また,緊急経済対策の指摘を受け,内閣官房内政審議室の主催による
「独占禁止法適用除外制度見直しに係る関係省庁等連絡会議」が開催され
(第1回 平成5年11月,第2回 平成6年3月),平成7年度末までに
見直しの結論を得るために,継続的に同会議を開催していくことが確認さ
れている。
 当委員会としては,このような会議の場などを通じて,それぞれの所管
省庁における適用除外制度見直しを働き掛けていくなど,今後とも積極的
マに適用除外制度見直しの推進を図っていくこととしている。