第7章 経済実態の調査

第1 概   説 

 当委員会は,競争政策の運営に資する目的から,経済力集中の実態,主要
産業の実態等について調査を行っている。本年度においては,企業間取引の
実態調査,円高に関する実態調査,独占的状態調査等の調査を行った。

第2 企業間取引の実態調査

 近年,我が国における企業間の取引慣行,特に取引先企業との長期継続的
な取引関係についての評価をめぐり,内外に高い関心があることから,競争
政策の観点から個別産業における企業間取引の実態を把握するため,板ガラ
ス,乗用車,自動車部品及び紙の4業種を対象として,継続的取引の要因及
び背景,株式所有と取引との関係,市場における排他性や閉鎖性の有無等を
含む企業間取引の実態調査を行い,それぞれの業種における取引実態及び競
争政策上の観点からの問題点を取りまとめて公表した。
 なお,指摘した問題点に対する関係事業者の自主的な取組の状況につい
て,フォローアップ調査を行った。

板ガラス
(1) 調査の対象・方法
 板ガラスのうち建築用板ガラスを対象として,主としてメーカーと流
通業者・ユーザーとの取引を取り上げて,企業間取引の実態調査を実施
したものであり,板ガラスメーカー3社のほか,卸売業者(特約店),
小売業者(販売店),ユーザー,輸入業者等を対象とし,アンケート調
査及びヒアリング調査によって調査を実施した。
(2) 調査結果の概要
メーカーと流通業者との取引について
 我が国の板ガラスメーカーは3社である。メーカーは,いずれも特
約店制度を採り,ほとんどの特約店は,いずれか1メーカーの商品の
みを取り扱っている。このような販売体制は,我が国の板ガラス市場
が3メーカーでほとんどすべてのシェアを持つ高度寡占状態にある状
況の下で,これら3メーカー以外の供給者が市場に参入することを困
難にしている要因の一つとなっているとともに,メーカー間の寡占的
な協調行動を容易にしている側面があると考えられる。
 メーカーは,特約店との間で,競争品を取り扱わない旨の条件は設
けていないが,メーカーによって,全商品を対象として年間を通じた
売買目標数量を特約店と契約したり,特約店に書面又は口頭により通
知したり,目標が達成されるよう,特約店に対し,日常の営業活動に
おいて助言,指導等を行っているものもある。さらに,メーカーが,
このような特約店の取扱能力の限度に近い売買目標数量の達成度に応
じたリベートを供与する場合には,目標達成の実効を担保させること
となり,また,特約店の仕入数量の総計に対して累進的な率によるリ
ベートを供与する場合には,特約店の取扱能力の限度に近い目標数量
の設定とあいまって特約店が競争品を取り扱う動機を失わせることと
なり,結果として,特約店に競争品の取扱いを抑制させるものとなっ
ていると考えられる。
 メーカーと特約店との取引年数は 5年以上継続して取引している
特約店の比率が97% このうち20年以上の特約店の比率が84%であっ
た。
 メーカーが株式を所有している特約店の比率は3社平均で23%,役
員を派遣又は兼任している特約店の比率は3社平均で25%であった。
 販売店の段階では 1メーカーの商品だけしか扱っていないものは
2割強であり,特に,工事店の場合,通常複数のメーカーの商品を取
り扱っている。
メーカー,流通業者とユーザーとの取引について
(ア) ゼネコンとの取引
 ゼネコンは,工事店に対してガラスの施工工事を発注し,これら
の間で価格交渉が行われる。工事店がゼネコンからの値引き要求に
対応できない場合には,特約店(特約店が工事を行う場合にはメー
カー)が個別案件ごとに工事店に対する仕切価格をあらかじめ決め
た建値等から引き下げている。このような価格設定の仕組みは,板
ガラスの市場が3メーカーでほとんどすべてのシェアを持つ高度寡
占状態にあり,価格の設定が同調的に行われる傾向がみられるこ
と,3メーカーが並行的に専売店を中心とする販売体制を探ってい
ること等にかんがみれば,流通業者のメーカーへの依存体質を強め
ることとなっていると考えられる。
 工事物件のうち大規模の物件については,施主等が使用するガラ
スのメーカーを指定することが多くみられる。この中の一部には,
施主等が同一の企業グループに属するメーカーを指定する場合,施
主等とメーカーが相互に取引関係がある場合などがある。メーカー
は,大型の工事物件の場合には,施主,設計事務所,ゼネコン等に
対し,自社のガラスを使用するよう働きかけを行っている。この
際,メーカーが,施主等と取引関係があることを利用する場合もあ
るといわれている。メーカーが,施主等から指定を得るため,自己
の施主等からの購買実績を利用して,これを施主等による自己の商
品の購入に反映させるよう営業活動を行う場合には,不当な相互取
引を誘発しやすいので,十分留意することが必要である。
(イ) プレハブメーカーとの取引
 プレハブメーカーの工場には,協力店と呼ばれるガラスの特約店
又は販売店が入っているか又は隣接しており,ガラスの切断,サッ
シへの組込み等の作業を行っている。協力店とプレハブメー力ーの
取引は継続的となる傾向がある。
輸入の状況について
(ア) 流通業者による輸入品の取扱状況
 輸入品を取り扱っている特約店の比率は6%であり,輸入品を取
り扱ったことによって,国内メーカーからの妨害行為等を経験した
というものはなかった。
 輸入品を取り扱っている販売店の比率は13%であり,輸入品を取
り扱ったことによって,メーカーや特約店から,値下げをして既存
の取引を継続することの要請や国内品の供給停止の示唆など何らか
の圧力を受けたことがあったという事例が一部にみられたが,今回
の調査においては,独占禁止法に違反する事実はみられなかった。
 なお,メーカー3社は,いずれも独占禁止法遵守マニュアルを整
備し,その中で輸入品の排除行為を防止する規定を置いているとこ
ろであるので,引き続き,その実効ある実施がなされることが望ま
れる。
(イ) ユーザーによる輸入品の取扱状況
 最近輸入品を使用したことがあるユーザーは,ゼネコン43社のう
ち11社,プレハブメーカー9社のうち5社,サッシメーカー6社の
うち2社となっている。いずれのユーザーにおいても,輸入品は価
格が安いという評価があるが,一方,安定供給や品揃えに難点があ
る,ロットが要求に合わないなどのマイナス評価もみられる。
(ウ) 海外メーカーの参入
 我が国における板ガラスの流通については,海外メーカーから,
国内メーカーによって閉鎖的,排他的な流通組織が築かれており,
新規参入が困難になっているとの指摘がある。
 販売の相手方や用途により輸入品が参入に成功している事例はみ
られるが,海外メーカーが市場においてある程度のシェアの販売を
確保するためには,国内に流通加工のための施設,倉庫等の拠点を
構築し,また,国内の卸売業者と提携するなどにより,本格的な流
通体制を整備することが不可欠であると考えられる。
(3) 当委員会の対応
 当委員会はメーカーに対して,上記の競争政策上の問題点について自
主的に解消のための取組がなされるよう指摘を行った。
(4) フォローアップ調査
 当委員会は,平成5年12月,上記板ガラスの取引実態調査後の各社
の対応状況を把握するためフォローアップ調査を行い,その結果を公
表した。
 この調査によれば,当委員会から競争政策上の問題点について指摘
を受けたメーカー3社全社は,全特約店に対して競争品の取扱いが自
由であることを改めて文書で通知するとともに,これを社内に周知徹
底した。
 また,リベートについては,各メーカーとも既に売買目標数量が単
なる目標にすぎない旨を明確にしており,1社についてはリベート制
度を改善した。残る2社についても改善を行う予定であるとの報告が
あった。
乗 用 車
(1) 調査の対象・方法
 平成4年3月以降,乗用車を対象として,主としてメーカーとディー
ラーとの間の取引実態を調査し,平成5年6月に調査結果を公表した。
調査対象は,国内乗用車メーカー9社及び海外乗用車メーカーの日本法
人9社並びにディーラーであり,これらを対象として書面調査を行った
ほか,関係事業者・事業者団体を対象にヒアリング調査を,また,消費
者モニターを対象にアンケート調査を行った。
(2) 調査結果の機要
株式所有,役員派遣及び融資の状況
(ア)  メーカーが株式を所有している取引先ディーラーの比率は
16.3%,役員派遣を行っているディーラーの比率は12.9%であっ
た。
(イ)  メーカーが株式所有や役員派遣を行う理由は,メーカーが新規に
販売チャネルを構築するに当たって,ディーラー募集に応じる地場
資本がないため自ら出資してディーラーを設立せざるを得なかった
ことや,ディーラーの経営の行詰まりによる倒産によって自己の
ディーラー網に空白区が生じるのを防ぐ必要から株式所有や役員派
遣をするに至ったこと等である。
(ウ)  メーカーからの融資残高が存在するディーラーの比率は,14.5%
であった。
(エ)  ディーラーは,メーカーからの融資が地元等の金融機関の融資に
比べて融資条件において若干有利であるため,メーカーからの融資
を利用しているが,同時に地元等の金融機関からの融資も活発に利
用しており,ディーラーのメーカーに対する借入依存度は高いもの
ではなかった。
(オ)  メーカーが,株式所有,役員派遣又は融資を通じて,ディーラー
が競争品を取り扱うことを制限したと認められる事例は,存在しな
かった。
年間販売目標台数
 メーカー・ディーラー間の取引基本契約書には,ディーラーが販売
に努めるべき目標台数の設定について規定されているが,具体的な目
標台数は両者の協議によって設定されている。
 しかし,目標台数の設定に当たって,メーカーがディーラーと協議
せず「一方的に指示する」,「割り当てる」といった押し込み販売に結
び付くおそれのある定め方をしたり,メーカーがディーラーに対し
て,ディーラーが希望しない不人気車種の購入を要請し,購入させて
いる事例かわずかながらみられた。
競争品の取扱い
(ア)  メーカー・ディーラー間の取引基本契約書には,かつて,ディー
ラーが競争品を取り扱うことを制限するおそれがある条項が存在し
たが,当委員会がメーカーに対して行った指導(昭和54年)や「流
通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の公表(平成3年)を
契機としてメーカーが自主的に採った改善措置によって,現在では
かかる条項はなくなっている。
(イ)  ディーラーのうち輸入車を同一法人内で取り扱っているものは
54.8%,別法人の形で取り扱っているものまで含めると55.6%と過
半数を占めていた。
(ウ)  ディーラーの中には,競争品の取扱いについて,「自由に販売で
きると思っていない」とするものが存在する等,競争品の取扱いが
自由であることがディーラーに対して必ずしも十分周知されていな
い状況がみられた。
(エ)  メーカーから支給されるリベートに対するディーラーの依存度
は,全体として低下している。
 しかし,メーカーの中にはディーラーに対して,ディーラーが競
争品を取り扱うことを抑制するおそれのある効果を有するリベート
を支給しているところがあった。
販 売 地 域
(ア)  メーカーが,ディーラーに対して責任をもって販売に努めるべき
地域 いわゆる主たる責任販売地域を指定している場合でも,地域
外では販売活動ができないと受け取っているディーラーが存在し
た。      
(イ)  メーカーの中には,リベートの支給対象を主たる責任販売地域の
顧客に販売した乗用車に限定しているところがあった。
 当委員会はメーカーに対して,イ,ウ,エでみられた競争政策上の
問題点について自主的に解消のための取組がなされるよう指摘を行っ
た。
 また,アについても,メーカーが株式所有,役員派遣又は融資を通
じて,独占禁止法上問題となる行為を行うことかないようメーカー9
社に対して留意を求めた。
(3) フォローアップ調査
 当委員会は,平成5年12月,上記乗用車の流通実態調査後の各社の
対応状況を把握するためフォローアップ調査を行い,その結果を公表
した。
 この調査によれば,当委員会から競争政策上の問題点について指摘
を受けたメーカー9社全社は,取引先ディーラーに対して競争品の取
扱い及び地域外への販売が自由であることを改めて文書で通知し,ま
た,押し込み販売をしないよう社内に周知徹底した。
 また,リベートについては指摘を受けたメーカー3社からリベー
トの支給方法の改善を行う予定であるとの報告があった。
自動車部品
(1) 調査の対象・方法
 乗用車の自動車部品を対象として,新車の組付部品に関する自動車
メーカーと自動車部品メーカー間の取引並びに補修部品に関する自動車
メーカー,部品メーカー,流通業者,整備業者間の取引を取り上げて,
企業間取引の実態調査を実施したものであり,自動車メーカー9社,主
要な部品メーカー,部品流通業者,整備業者,海外部品メーカー等を対
象とし,アンケート調査及びヒアリング調査によって調査を実施した。
(2) 調査結果の概要
組付部品の取引
(ア) 取引契約等
 自動車メーカーは,取引先を選定する際の一般的な基準として,
品質,価格,技術開発力,納期のほか,企業経営の安定性等を挙
げ,これらを総合的に勘案するとしている。このような評価の中
で,従来の取引実績や相互の信頼関係も重視されている。
 自動車メーカーと部品メーカーとの取引基本契約書において,部
品メーカーが取引先自動車メーカー以外の第三者に貸与図部品(自
動車メーカーが作成した設計図によって製造された部品),承認図
部品(部品メーカーが作成した設計図によって製造された部品)を
販売する場合には,原則として自動車メーカーの事前の承諾が必要
とされている。
 自動車メーカーが,部品メーカーが独自に開発した部品で自社の
ノウハウ等が関与していないものについても事前承諾の対象とする
場合には,部品メーカーの自由かつ自主的な事業活動を制約するこ
とがあると考えられる。また,自動車メーカーのノウハウ等の秘密
保持等に必要な範囲を超えて条件を付す場合には,同様の問題を生
じることがあると考えられる。
(イ) 取引の状況
 自動車メーカーは,1社当たり平均392社の部品メーカーと取引
している。一般に,1つの部品について2~5社程度の部品メー
カーに発注している。
 自動車メーカーは,長期的な経営戦略の中で技術開発力の向上に
努めるとともに,製品の競争力を付けるため,部品開発の段階から
部品メーカーと協力して品質改善やコスト低減などの活動に取り組
んでいる。自動車メーカーと部品メーカーとの取引年数は,5年以
上継続して取引しているものが8割を占めている。しかしながら,
自動車メーカー,部品メーカーのいずれの例も複数の相手先と取引
を行っており,技術開発力やコスト面での競争力があれば新規に部
品メーカーとして参入できる。実際に,自動車メーカーは,海外
メーカーを含め,技術開発力のある部品メーカー,価格競争力のあ
る部品メーカーと新規に取引を開始してきている状況がみられた。
(ウ) 自動車メーカーと部品メーカーとの結び付き
 自動車メーカーは,1社平均で仕入先全体のうち16%の仕入先の
株式を所有しており,その株式所有比率は10%未満のものが過半を
占めている。
 自動車メーカーが部品メーカーの株式を所有していることは,現
状においては,部品メーカーの安定株主対策としての意味を持って
いるほか,株式所有等によって相互の信頼関係の維持・強化,取引
の円滑化が図られているものと考えられる。しかしながら,自動車
メーカー及び部品メーカーが株式所有等により相手方の取引先を制
限するなどの事実はみられなかった。
 自動車メーカーは,仕入先上位30社のうち,1社平均で39%の仕
入先に対して役員を派遣している。
なお,部品メーカーの中で,取引先自動車メーカーから融資を受
けているものはほとんどない。
(エ) 組付部品の輸入
 自動車メーカーの仕入先部品メーカーのうち17%は海外部品メー
カーである。技術開発力のある海外メーカーの中には,デザイン・イ
ンに参画しているものもある。輸入部品の中には,自動車メーカーの
海外現地工場で使用した結果評瓶が良好であった品目,価格競争力の
ある品目等もある。しかし一方で,①国産部品と比較して不良品率が
高い,②設計変更等で融通かきかない,③ジャスト・イン・タイムの
体制に対応できない,④供給体制に不安がある等の評価も挙げられて
いる。
 なお,自動車メーカーは,積極約な輸入の拡大に取り組んでおり,
海外からの調達を担当する窓口を設けるほか,海外での商談会の開
催,デザイン・インの説明会の開催,調達基本方針等を記した海外部
品メーカー向けのパンフレットの作成等を行っている。
補修部品の取引
(ア) 補修部品の市場及び流通
補修部品には,自動車メーカーが自己のブランドを付して販売す
るいわゆる純正部品と,部品メーカーが直接補修部品市場に販売す
るいわゆる優良部品とがある。補修部品の流通は,純正部品ルート
と優良部品ルートに分けることができる。
(イ) 純正部品の流通
純正部品の供給
 自動車メーカーと部品メーカーとの取引基本契約書には,第三
者への販売の制限に関する規定が設けられている。これは組付部
品と同じく補修部品にも適用され,部品メーカーが自動車メー
カーに納入している部品と同じものを優良部品として販売する場
合には,事前の承諾を得ることとされている。
 自動車メーカーが,部品メーカーが独自に開発した部品で自社
のノウハウ等が関与していないものについても事前承諾の対象と
する場合には,部品メーカーの自由かつ自主的な事業活動を制約
することがあると考えられる。また,自動車メーカーのノウハウ
等の秘密保持等に必要な範囲を超えて条件を付す場合には,同様
の問題を生じることがあると考えられる。
部販・共販と地域部品商との取引
 純正部品販売会社(以下,「部販・共販」という。)の多く
は,自動車メーカー別に設立されたもので,純正部品をディー
ラー整備業者,地域部品商及び一般整備業者に販売している。
 地域部品商では,全取級部品のうち純正部品が6割を占めてお
り,おおむねすべての自動車メーカーの純正部品を取り扱ってい
る。地域部品商は,これらの純正部品を主に部販・共販等から購
入し,一般整備業者に販売している。
 部販・共販は,地域部品商に対してリベートを支払っている。
リベート体系は部販・共販によって区々であるが,①全仕入高を
対象に取引目標の達成度等に応じて支払われるリベート,②特定
の品目(優良部品と競合する品目)を対象に取引目標の達成度等
に応じて支払われるリベート,③全仕入高を対象に全仕入高及び
特定品目の目標の達成度に応じて支払われるリベートなどがあ
る。部販・共販が,地域部品商に対し,純正部品の取扱いを促進
するリベートを供与することは,部販・共販が特定の自動車メー
カーの非競合部品の供給に関して優位な地位にあることにかんが
みれば,供与の方法によっては 地域部品商が優良部品を取り扱
うことを制限するのと同様の効果が生じることがあるので,十分
留意することが必要である。
 また,地域部品商の中には,部販・共販はその営業活動におい
て地域部品商に対し優良部品を取り扱わないよう要請している等
の指摘をするものがある。部販・共販が,地域部品商に対し,優
良部品を取り扱う場合には取引上何らかの不利益を課すことを示
唆して優良部品を取り扱わないようにする場合には,競争品取扱
いの制限などの独占禁止法上の問題が生じることがあるので,十
分留意することが必要である。
(3) 当委員会の対応
 当委員会はメーカーに対して,上記の競争政策上の問題点について自
主的に解消のための取組がなされるよう指摘を行った。
(4) フォローアップ調査
 当委員会は,平成5年12月,上記自動車部品の取引実態調査後の各
社の対応状況を把握するためフォローアップ調査を行い,その結果を
公表した。
 この調査によれば 当委員会から競争政策上の問題点について指摘
を受けた自動車メーカー各社は,部品メーカーによる第三者への部品
の販売を不当に制限することのないよう契約書の改定や覚書の取り交
わし等の見直しを予定している。
 また,純正部品販売会社の多くは,リベートについて点検を行い,
改善のための準備を進めている。
(1) 調査の対象・方法
 紙及び板紙のうち主として新聞巻取紙(以下「新聞用紙」という。),
印刷・情報用紙,段ボール原紙,白板紙を対象として,メーカーと流通
業者,ユーザーとの取引を取り上げて,企業間取引の実態調査を実施し
たものであり,主要な紙メーカー10社及び板紙メーカー10社,代理店,
卸商,ユーザー,海外メーカー等を対象とし,アンケート調査及びヒア
リング調査によって調査を実施した。
(2) 調査結果の概要
紙,板紙の流通
 我が国の紙,板紙メーカーは400社を超えるといわれているが,
メーカー上位10社の生産シェア(平成3年度)は,紙で73.8%,板紙
で58.6%であり,紙,板紙のいずれも上昇傾向にある。
 一般に,メーカー,代理店間ではそれぞれ複数の事業者と取引を
行っている。
 紙業界では,メーカー・代理店間 代理店・卸商間のいずれにおい
てもリベートは供与されていない。メーカーと代理店との取引価格に
ついては,従来多くのメーカーが探っていた建値制は次第に廃止さ
れ,代理店の購入数量,支払条件等を基にメーカーと代理店との間で
個別に取引価格を交渉する方法に移行しつつある。
 印刷・情報用紙の取引においては,代理店がメーカーから仕入れた
後に市況が大きく低下したような場合に,メーカーが値下がり分の価
格を補填し,過去に溯って仕切価格を調整するいわゆる事後値引きが
みられる。事後値引きについては,市況の変動が大きく事前の取決め
で対応できないような場合に柔軟な価格形成を可能にするなど,一定
の合理性が認められるものの,このような方法が常態化しているよう
な場合には,支払基準の恣意性・不透明性により,相手方である代理
店の不当な差別的取扱い,代理店の価格政策への関与など,独占禁止
法上の問題が生じることがあり,競争政策の観点からは,取引の透明
性を高める措置が講じられることにより,事後値引きを必要としない
取引が行われることが望ましい。
取引の状況
 紙メーカー10社,板紙メーカー10社は,1社平均,紙で13.6社,板
紙で25.1社の代理店と取引しており,一方,主要代理店10社は,1社
平均61.4社のメーカーと取引している。
 紙,板紙メーカーの販売のうち流通業者とユーザーに対するものの
比率は,紙で3:1,板紙で4:1であり,代理店,卸商を経由する
取引のウエイトが大きい。さらに,代理店,卸商向け販売のうち代理
店10社向けの比率は,紙で66% 板紙では47%となっており,流通に
おける大手代理店の販売力が大きいことがうかがわれる。これら代理
店の過去5年間の仕入高の順位及びメーカー別の仕入割合には,ほと
んど変化がみられない。
 紙メーカー,板紙メーカーが5年以上継続して取引している代理店
の比率は紙で94.1%,板紙で90.3%であり,このうち20年以上継続し
て取引している代理店が,紙で83.1% 板紙で71.3%となっている。
 しかしながら,代理店10社が最近5年間に新たに取引を開始したメー
カーも1社平均で3社ある。
 代理店と卸商との間では,代理店は1社平均125.7社の卸商と取引
しており,卸商は1社平均14社の代理店と取引している。卸商と代理
店の取引年数は5年以上の代理店の比率が94% うち20年以上が59%
となっている。
メーカー,流通業者間の結び付き
 紙メーカー間では,10社中6社に他の紙メーカーの株式所有がみら
れ,また,板紙メーカー間では,10社中7社に相互持合い及び一方的
な所有がみられ,その所有比率はほとんどが10%未満である。
 紙,板紙メーカー間では,紙メーカーによる板紙部門への進出のた
めの子会社設立などを理由として,一方的に又は相互に株式を所有す
るものがある。
 メーカーは,取引先代理店のうち,紙では13.6社中6.2社(46%),
板紙では25.1社中4.5社(18%)の代理店の株式を所有しており,そ
の株式所有比率は,20%未満の代理店の比率が紙で87%,板紙で85
%,5%未満が紙で45%,板紙で60%となっている。また,メーカー
と代理店10社との間の株式所有関係についてみると,代理店のうち8
社は,紙,板紙いずれかのメーカーが株式を所有しており,その所有
比率は,50%超が2社,20%及び10%未満が各2社である。株式所有
比率50%超のものは,紙メーカーの営業部門が独立して代理店になっ
たものと,紙メーカーが販売先確保のために紙を取り扱っていなかっ
た卸売業者を子会社にしたものである。メーカー,代理店が株式所有
関係等により競争メーカーの新規参入や代理店の自主的な事業活動を
制限するなど独占禁止法上問題となるような事実はみられなかった。
競争政策の観点からは,代理店においては,株式所有関係にとらわれ
ず,卸商・ユーザーとの取引を基に自主的に仕入先の判断を行うこ
と,また,ユーザーにおいては,価格,品質やサービスなどの条件に
基づいて仕入先を選択することが望まれる。
 紙,板紙メーカー10社のうち,紙で8社,板紙で4社が自己の役員
又は社員を代理店の役員として派遣(兼任を含む。)している。役員
を派遣しているメーカー1社当たりの派遣先代理店数は,紙で1.9
社,板紙で2.3社である。また,代理店10社のうち8社は,卸商に役
員を派遣しており,1社当たりの派遣先卸商数は4.8社である。
主要ユーザーの取引の状況
 主要ユーザー50社についてみると,新聞社は11.4社(10社平均),
出版社は19.0社(同),印刷業者は86.2社(同),コピー用紙販売業者
は10.6社(同),ビジネスフォーム業者は28.6社(同),段ボール製造
業者は25.5社(同),紙器製造業者は9.8社(同)を仕入先としてい
る。仕入先は,取引が5年以上継続しているものが82%,このうち20
年以上が44%ある。ユーザーの過去5年間の仕入先別の仕入高の順位
及び仕入割合は,ユーザーの7割が順位,割合ともほとんど変化はな
く,順位,割合とも変化しているのは1割弱である。
 ユーザーは,紙,板紙の仕入れに際しては,特抄品や特寸品に限ら
ず規格品を仕入れる場合も含め,すべてのものが自社又は顧客の意向
によりメーカー又は銘柄を指定して購入している。ユーザーは,メー
カー又は銘柄を指定する理由について,製品の選択に当たって,価格
だけではなく品質,使用適性を重視していることを挙げている。
輸入の状況
 代理店の60%,卸商の33%が輸入品を取り扱っている。代理店10社
中7社は,現在,1社平均10.4社の海外メーカーと取引しており,こ
のうち7割の海外メーカーとは取引が5年以上にわたって続いてい
る。
 ユーザーについても,大手ユーザーにおいては,輸入品を購入して
いるものが約6割を占めており,特に,印刷業者,出版社及び段ボー
ル製造業者はすべて輸入品を使用している。
(3) 当委員会の対応
 当委員会はメーカーに対して,上記の競争政策上の問題点について自
主的に解消のための取組がなされるよう指摘を行った。
(4) フォローアップ調査
 当委員会は,平成5年12月,上記紙の取引実態調査後の各社の対応
状況を把握するためフォローアップ調査を行い,その結果を公表し・
た。
 この調査によれば,有力メーカー及び代理店は,取引先の選択につ
いて株式所有関係等にとらわれることのないよう社内に周知徹底し
た。
 また,事後値引きについては,メーカーと代理店との間で事後値引
きを取りやめる方向で検討が進んでおり,一部には事後値引きを取り
やめたケースがあったほか,当初の仕切価格を現実の市況に近づける
ことにより大幅な調整を必要としないようにしたケースもみられた。

第3 円高に関する実態調査

 最近の急速な円高の進展にかんがみ,円高の効果が,我が国経済の各分野
に円滑に浸透し,物価のー層の安定が図られることにより,国民がそのメ
リットを速やか,かつ十分に享受し得る状況を醸成することが重要である。
こうした観点から,当委員会では,円高差益の還元に係る調査を実施した。

市場構造面からみた円高の影響の分析
(1) 調査の趣旨
 円高により輸入品の価格が下落すると,競合する国産品の価格の下
落,輸入数量の増加,輸入原材料を使用する国産品の物価の下落等がも
たらされると考えられるが,このようなプロセスにより,最終消費者に
まで円高による価格低下メリットが行き渡るに当たっては,関連市場に
おける競争の状況が大きく関わると考えられることから,平成5年12月
前年同月比でみて,円高による輸入品価格の低下が国産品価格や輸入数
量に与える影響が,どのように異なるのか計量的把握を行った。
(2) 調査結果の概要
 調査結果の概要は,次のとおりである。
 輸入品とその国内競合品との価格動向を輸入物価及び卸売物価によ
り対比してみると,輸入品価格が低下していても国内競合品価格が上
昇している品目,変化していない品目及び低下幅の小さい品目(下落
率2%未満)が半数近くあり,特に集中度の高い品目では国内競合品
価格がほとんど低下していない場合が多い。
 輸入品価格が低下すればするほど輸入数量が増えているという関係
は,今のところ見いだせない。これについては,不況により国内需要
が一般に減少していること等,価格以外の要因によることが考えられ
る。
 輸入原材料とそれを使用する国内生産品との価格動向については,
輸入原材料価格が低下すれば,当該原材料の使用比率に応じて製品価
格は低下し,また,当該製品市場の集中度が高ければ高いほど,その
価格低下が打ち消されやすいという関係がある。
 集中度に代表される市場構造的な要因以外にも,政府規制の有無,商慣
行,流通経路などによっても,輸入品価格低下の影響は異なると考えられ
るので,当委員会では,それぞれの特性に着目しつつ,次に掲げる鋼材市
場及び石油化学工業を取り上げて,別途,円高の影響に係る調査を実施し
た。
鋼材市場実態調査
(1) 調査の趣旨
 鋼材は典型的な寡占産業の一つであり,市場規模も大きく,当委員会
では従来からその産業動向を注視してきたが,近年,鋼材市場において
は,輸入品が増え,電炉メーカーの影響力が強まるなどの変化がみられ
るところから,最近の市場の動向を調査することとした。
また,鋼材は原材料の輸入依存度が大きく,かつ,製品の輸出入が行
われている財であるので,平成5年2月以降の円高の市場に及ぼす影響
も含め,実態調査を行った。
(2) 調 査 方 法
 調査対象は普通鋼鋼材であり,メーカー,流通業者及びユーザーに対
し,アンケート調査及びヒアリング調査を行った。
(3) 調査結果の概要
 普通鋼鋼材の輸入は 昭和62年ころから急増し,輸入比率は8%程
度で推移している。輸入品を取り扱う流通業者は半数に上り,ユー
ザー側の取扱い意欲も高いので,輸入品は,特に熱廷鋼帯,厚中板,
線材については国内市場に定着しつつあると言える。
 ただし,輸入品については,供給の安定姓,クレームに対する保
証,品質 納期等の面で難点があり,低価格のメリットはあるが,補
完的供給源として位置づけるユーザーが多いようである。また,高級
品については 国内メーカーしか生産できないものがあるとするユー
ザーもあった。
 前回調査時〈昭和58年)に比し,国内メーカーとの取引関係がある
ことを理由に輸入品を取り扱わない流通業者の割合は減少している
が,輸入品を取り扱わないユーザーには,輸入品の売り込みがない,
使おうとすると国内高炉メーカーが事情を聞きに来た,建設分野では
施主が了解しないなどの事情を挙げるものがあり,心理的要因で輸入
品使用をためらっている面もあるとみられる。
 したがって,品質があまり問題にならないもの,納期に余裕がある
もの等については,輸入品の売り込みがあって施主の理解が得られれ
ば,更に輸入品の使用が増えることが見込まれると考えられる。
 輸入品は大部分が円建てで価格設定されており,円高になっても価
格がその分下がるわけではない。むしろ,最近の需要減退による国内
価格低下に対応して輸入品の価格も低下しており,国内市況をみなが
ら価格設定をしている外国メーカーもあるとみられる。国産品との相
対価格が変化していないため,円高による輸入品の増加は今のところ
明らかではないが,外国メーカーの供給姿勢や国内需要の動向次第で
は,今後,円高のメリットを生かして輸入品が増加することもあると
考えられる。
 一方,ユーザーの中には輸入品価格を例に挙げて国産品の価格引下
げを交渉するものもあり,ユーザーの購入態度次第では,価格面での
競争が促されるとみられる。
 国内鋼材生産コストは,高炉メーカーについては,円高及び鉄鉱石
・原料炭の価格引下げにより,鋼材生産1トン当たり前年に比べおよ
そ3,400円程度低下している。しかし,高炉メーカーにとっては,輸
出売上げによるドル受取額が原材料購入についてのけし支払い額を上
回っているため,円高は収益に対しマイナス要因である。また,円高
は国内メーカーの国際競争力を弱めることにもなる。
 円高によりユーザーの方では,採算が悪化し,さらに海外進出が進
むことが考えられ,これらを受けて国内価格は低下することもあるも
のと思われる。
 高炉メーカーは,普通鋼鋼材の約80%をひも付き販売の方法で供給
しており,ユーザー側からみると,高炉品は品質,クレームに対する
保証,供給の安定性等の面で評価され,相互取引を行っている者も多
く,ユーザーの購入数量の変動はあっても,極めて安定的な取引関係
が維持されているとみられる。
 高炉大手5社については,昭和50年度ころから平成4年度までの約
20年間にわたり,粗鋼生産数量の全国合計に占める高炉大手5社合計
の割合が79.2%から62.6%にまで低下し,5社合計の粗鋼生産数量は
年々変動しているにもかかわらず,5社間のシェア変動がほとんどな
い。これは,上記の安定的取引関係,同調的価格行動などと密接に関
わっていると考えられる。寡占産業においては,一般に,少しの情報
交換でも供給数量などについての共通の意思の醸成につながりやすい
ので,十分な注意が必要である。
 高炉メーカーと競合する供給者としては、電炉メーカー,その他の
メーカー及び輸入があるが,電炉メーカー及びその他のメーカーの一
部は高炉メーカーと資本関係がある。
 電炉メーカーは,主として汎用品を店売り販売の方法で供給してお
り,コストが低く,特にH形鋼において供給を拡大してきている。H
形鋼では,最近の需要減退に伴い価格低下が著しい。
 品種別に価格をみると,高炉メーカー(資本関係のあるその他の
メーカーも含む。)のシェアの高い冷延薄板類等において高価格と
なっており,高炉メーカーと電炉メーカーと競合する分野においては
低価格となっている。このことは,高炉メーカーについてみれば,品
種別には具体的に区分できないコストに関し,競合メーカーの有無や
ユーザーの対抗力に応じて,内部補助が行われているとも考えられ,
それ自体は問題ではないが,高価格品種についてもユーザーの対抗力
次第では,なお価格競争が行われる余地があるとみられる。
 電炉メーカーの生産品種には集中度の高い収益分野はないので,主
原材料である鉄くず価格が下がらず,主力品種であるH形鋼の価格が
下がれば,直ちに収益悪化に結びつくこととなる。
3  石油化学工業にあげる円高の影響(国内価格への反映状況)に関する実
態調査
(1) 調査の趣旨
 石油化学工業がその素原料を輸入品又は輸入原油から生産されるナフ
サにほぼ全面的に依存し,かつ,その製品を国内産業の広範な分野に原
料として供給していることに着目し,平成4年から5年の円高が国内の
取引価格にどのように影響し又は反映されているか,また,その影響又
は反映を妨げる取引慣行や規制がないかどうかという観点から,価格動
向等の実態を調査することとした。
(2) 調 査 方 法
 調査対象は,ナフサ,エチレン,プロピレン,低密度ポリエチレン及
びポリプロピレンの5品目であり,これらのメーカー及びユーザーに対
し,書面調査及びヒアリング調査を行った。
(3) 調査結果の概要
石油化学用ナフサ
(ア)  平成5年の石油化学用ナフサの輸入量は約2,100万klで国内消費
量の56%を占めている。
 ナフサの輸入取引価格は,すべてドル建てであり,為替相場の変
動は石油化学企業の購入価格にそのまま影響している。
 かつては 石油精製企業のみがナフサを輸入して石油化学企業に
供給していたが,現在は石油化学企業も共同輸入会社を通じて輸入
できるようになっている。
 しかしながら,このような形式を維持する必要があるのかどうか
については,疑問の持たれるところである。
(イ)  国産ナフサの取引価格は,四半期ごとの全国平均の輸入ナフサC
I F価格に諸相当額を加えたものとする慣行がある。加算する諸
相当額は,昭和58年以降,1kl当たり2,000円か目安とされてい
たが,最近では各取引当事者の交渉により自主的に取り決められる
ようになってきている。
 他方,この価格決定の仕組みには,各社の取引価格が共通の指標
の基に決められること,輸入の統計が出てからの後決めとなること
等の面も見られるので,今後は,各取引当事者が,この仕組みにと
らわれることなく,それぞれの考え方に基づいて価格決定を行って
いくことが期待される。
(ウ) ナフサの価格動向
 ナフサ輸入価格は,円高の進行した平成4年第3四半期以後の1
年間に,1kl当たり約5,400円(29%)低下しており,この間,ナ
フサ相場も下落したため,その低下率は同期間の為替レートの上昇
率(平成5年9月のレートは,同4年6月に比べて18.6%上昇)よ
りも大きい。国産ナフサの価格は,ナフサの輸入価格の低下を反映
して,同期間に,1kl当たり約5,000円前後く27~28%)低下して
いる。
エチレン
(ア)  エチレンの生産能力は,昭和63年の産構法の指定解除後,年ごと
に増加して平成5年の年間生産能力は約680万トンとなっている。
これに対して同年の生産量は約580万トンであり,稼働率は85%に
低下している。エチレンの輸出入はごくわずかである。
(イ)  エチレンは,輸送・保管が難しくコストもかかる等の事情があ
り,コンビナート外の供給は少なく,ほとんどがコンビナート内で
パイプラインを通じて供給されており,このため,限られた売買当
事者の間で継続的な取引が行われている。
 エチレンの取引価格は,おおむね四半期ごとの後決めであり,か
つ,最終決定されるまでに1年以上かかることが多い実態がある。
 取引当事者のより合理的な販売・購入行動を妨げることになりか
ねないので,価格を決めて取引することとし,仮に後決めになる場
合でも早期に決定することが望まれる。
(ウ)  ナフサ価格の変動がエチレンのコストにどの程度影響するかは明
確ではないが,一般には,ナフサ1kl当たり1,000円の変動がエチ
レンlkg当たり2円の変動に相当すると言われており,これを価格
交渉のベースにしているところが多く,この考え方は業界関係者の
共通的な認識になっていると考えられる。競争政策上の観点から
は,このような共通の認識の下で取引が行われることは好ましくな
く,また,2円という額にどの程度妥当性があるかという疑問もあ
り,各取引当事者がこの考え方にとらわれることなく自由な価格決
定の行われることが望まれる。
(エ)  エチレンの販売価格は,平成4年第3四半期以後の1年間に1kg
当たり10円前後低下しており,この低下幅は,ナフサの輸入価格の
低下幅とほぼ対応しているものと考えられる。エチレンの輸入価格
は市中価格と比較するとかなり低い。
プロピレン
 プロピレンは,エチレンと同時に生産されるもので固有の生産能力
は算定されていないか,エチレンのほぼ0.6倍の割合で生産されてお
り,稼働率はエチレンと同じとみてよいと考えられる。取引の状況も
エチレンの場合とほぼ同様であり,エチレンの場合と異なる事情は,
コンビナート外へも供給されていること,エチレンの場合と同様に価
格は後決めであるが比較筋早く決まること等である。
 プロピレンの販売価格は,平成4年第3四半期以後の1年間にlkg
当たり10円強低下しており,この低下幅は,ナフサの輸入価格の低下
幅とほぼ対応しているものと考えられる。プロピレンの輸入価格は市
中価格と比較しても大きな差はない。
低密度ポリエチレン及びポリプロピレン
(ア)  低密度ポリエチレン及びポリプロピレンについても,生産能力の
上昇と需要の伸び悩みがみられ,平成5年には稼働率が両品目とも
80%弱に低下している。輸出はある程度の量があるが輸入は少な
く,特にポリプロピレンの輸入量はごくわずかである。
 この両品目については,品種数が極めて多く,需要者のニーズに
きめ細かく応えることができるー方で,全体としての生産・販売面
の効率を損なっている面がみられる。
 需要者は,フィルム製造業者,成型品の製造業者等であり,1
メーカー当たりの需要者数は数百から千以上の多数になっており,
さらに,需要者が原料の在庫を持たないことが一般化しているた
め少量多頻度納品が少なくない。
 このように,供給する商品の品質とサービスの水準が諸外国に比
べて高いこと等のために供給コストも高く,低密度ポリエチレン及
びポリプロピレンを含む樹脂の国内価格が外国に比べて高くなって
いる。
 これらは,メーカー各社による需要者の維持・獲得のための競争
の結果であり,需要者もメリットを受けているのであるから,競争
政策の立場から一概に否定すべきこととは考えられないが,各取引
当事者の自由な販売・購入行動の中でより合理的な商慣行が形成さ
れることが望まれる。
(イ)  メーカーは,特殊品を自ら販売し,汎用品を共販会社を通じて販
売しており,共販会社を経由する割合は7割程度である。共販会社
は,昭和58年に,構造改善の一環として共同販売を行うために4社
設立されたものである。
 この共同販売については,円高の反映を妨げているとは言えない
としても,コストの低減に役立っているかどうかについては疑問が
ある。当初の目的であった販売経費の削減,生産品種の統合・削減
や物流の合理化等が十分に達成されたものとは考えられず,共販会
社が構造改善に果たす役割に疑問が持たれるところであり,さら
に,共販会社間に活発な競争が行われているかどうか懸念される面
も見受けられる。共同販売事業の廃止又は各種の合理化方策の実施
等,現行の販売体制の見直しについて,幅広く検討されることが望
まれる。     
(ウ)  単位当たりの低密度ポリエチレン及びポリプロピレンとそのため
に必要なエチレン又はプロピレンの量は,ほぼ等量(原単位1以上
1.1未満)であるので,原料価格の変動はそのままの額で製造コス
トに影響する。
 低密度ポリエチレンの販売価格は,平成4年第3四半期以後の1
年間で1kg当たり15円前後低下しており,原料であるエチレンの同
じ期間の販売価格よりも,低下幅が大きい。
 ポリプロピレンの販売価格は,同期間で,lkg当たり20円前後低
下しており,原料であるプロピレンの同じ期間の販売価格よりも,
低下幅が相当に大きい。
 低密度ポリエチレンの輸入価格は,平成4年第3四半期以後の1
年間で11kg当たり24円低下しており,市中価格に比べて30~40%低
い。
 ポリプロピレンの輸入価格は,同じ期間にlkg当たり73円低下し
ているが,必ずしも市中価格より低いとは言えない。

第4 独占的状態調査

 独占禁止法第8条の4は,独占的状態に対する措置について定めている
が,当委員会は,独占禁止法第2条第7項に規定する独占的状態の定義規定
のうち,事業分野に関する考え方について,ガイドラインを公表しており,
その別表には,年間国内総供給価額が1,000億円超(平成5年7月23日前は
500億円超)でかつ,上位1社の市場占拠率が50%超又は上位2社の市場占
拠率の合計が75%超という市場構造要件に該当すると認められる事業分野及
び今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当することとなると認
められる事業分野が掲げられている。
 本年度においては,国内総供給価額及び市場占拠率に関する平成2年の調
査結果並びに平成5年7月23日公布の政令(第1章第1参照)による国内総
供給価額の引上げを踏まえて,次のとおりガイドライン別表の改定を行った
(平成5年7月23日公表)。
 この結果,新たにシャッタ製造業,ビデオディスクプレーヤ製造業など12
の事業分野が別表に掲載される一方,乗用車製造業,ピアノ製造業など9つ
の事業分野が別表から削除されることとなった。改定後の別表掲載事業分野
数は,商品に係る事業分野24業種,役務に係る事業分野3業種である(第1
表)。
 これらの別表掲載事業分野については,公表資料及び通常業務で得られた
資料の整理・分析を行うとともに,特に集中度の高い業種については,生
産,販売,価格,製造原価,技術革新等の動向,分野別利益等について,関
係企業から資料の収集,事情聴取等を行うことにより,独占禁止法第2条第
7項第2号(新規参入の困難性)及び第3号(価格の下方硬直性,過大な利
益率,過大な販売管理費の支出)の各要件に則し,企業の動向の監視に努め
た。