第10章 国 際 契 約 等

第1 概    説

 独占禁止法第6条は,国内事業者と外国事業者との国際的協定又は国際的
契約(以下「国際契約」という。)について,不当な取引制限又は不公正な
取引方法に該当する事項を内容とするものの締結を禁止するとともに,国際
契約を締結した事業者に対し,契約成立の日から30日以内に当委員会に届け
出ることを義務付けている。

第2 国際契約の届出状況

 国際契約は,①我が国の事業者が外国事業者から資本投下若しくは技術の
提供を受け,又は製品・原材料を購入する契約(以下「対内契約」とい
う。)と,②我が国の事業者が外国事業者に対して資本投下若しくは技術の
提供を行い,又は製品・原材料を販売する契約(以下「対外契約」とい
う。)とに大別される。
 本年度における国際契約の届出件数は742件であり,前年度に比べて34.8%
(396件)の減少となった。これは,主として平成4年3月の国際契約届出規
則の一部改正による届出範囲の縮減によるものである(第1表)。
 これを種類別にみると,対内契約は,146件(全届出件数の19.7%)であ
り,また,対外契約は,596件(全届出件数の80.3%)である。
 対内契約の届出の内訳をみると,種類別では,技術導入契約が72件で最も
多く,次いで合弁事業契約が39件と続いており,この2種類の契約で対内契
約の76.0%を占めている。これを業種別にみると,対内契約全体において
は,化学製品,一般機械器具及び輸送用機械器具関係が上位を占めており,
技術導入契約においては,一般機械器具,輸送用機械器具関係が上位を占
め,また,合弁事業契約においては,サービス,一般機械器具及び輸送用機
械器具関係が上位を占めている(附属資料5-1表)。

 対外契約の届出の内訳をみると,種類別では,合弁事業契約が268件で最
も多く,次いで輸出代理店契約が215件と続いており,この2種類の契約で
対外契約の81.0%を占めている。これを業種別にみると,対外契約全体にお
いても,輸出代理店契約においても,化学製品,輸送用機械器具関係がそれ
ぞれ上位を占め,また,合弁事業契約においては,化学製品,電気機械器具
関係が上位を占めている。
 契約の相手国・地域別にみると,まず対内契約では,アメリカが最も多
く,対内契約全体で72件(対内契約全体の49.3%)となっており,その内訳
をみると,技術導入契約が37件(技術導入契約全体の51.4%),合弁事業契
約が20件(合弁事業契約全体の51.3%)等となっている。以下,対内契約全
体においてはフランス,イギリス,ドイツが,技術導入契約においてはドイ
ツ,フランス,イギリスが,合弁事業契約においてはフランス,イギリス,
中国がそれぞれ上位を占めている。また,対外契約においては,中国が最も
多く,対外契約全体で150件(対外契約全体の25.2%)となっており,その
内訳をみると,合弁事業契約が132件(合弁事業契約全体の49.3%)等と
なっている。以下,対外契約全体においてはアメリカ,韓国,タイ,インド
ネシアが,合弁事業契約においてはタイ,アメリカ,インドネシアがそれぞ
れ上位を占めている。また,輸出代理店契約においてはアメリカ,フラン
ス,香港が上位を占めている(附属資料5-2表)。

第3 国際契約の指導等の状況

 届け出られた国際契約については,その内容を審査し,不当な取引制限
又は不公正な取引方法に該当するおそれがある事項を含むものについて
は,当該事項を修正又は削除するよう指導(以下「指導」という。)して
いる。また,当該契約条項の具体的な実施状況によっては法違反となる旨
の注意を促し,法違反の発生の未然防止を図る措置(以下「問題点指摘」
という。)も講じている(以下,これらの措置を含めて「指導等」とい
う。)。
本年度末における国際契約の指導等の件数は,契約件数で11件,指導等
の内容別件数で11件となっている(附属資料5-3表)。
指導等の内容別件数について,指導を行ったものと,問題点指摘を行っ
たものとに分けてみると,第2表のとおりである。
 主要な契約の種類別に指導等の状況を見ると,合弁事業契約の指導等の
件数は,契約件数で4件,技術契約及び代理店契約の指導等の件数は,契
約件数でそれぞれ3件である。

第4 海上運送事業者間の協定等

 船舶運航事業者が他の船舶運航事業者とする運賃及び料金その他の運送条
件,航路,配船並びに積取りに関する事項を内容とする協定,契約又は共同

行為(以下「協定等」という。)については,海上運送法第28条の規定によ
り原則として独占禁止法の適用が除外されている。しかし,同条ただし書に
より,不公正な取引方法を用いる場合又は一定の取引分野における競争を実
質的に制限することにより不当に運賃及び料金を引き上げることとなる場合
には,適用除外とはならない。海運業に係る不公正な取引方法については,
独占禁止法第2条第9項に基づく特殊指定でその内容が定められている。
 海上運送法第29条は,同法第28条に規定する協定等に関し,その締結,変
更についてあらかじめ運輸大臣に届け出なければならない旨規定し,同法施
行規則第26条第4項では,運輸大臣は,協定等に関する届出書のうち1通を
当委員会に送付する旨規定している。
 当委員会が本年度において運輸大臣から受理した届出の件数は,285件で
あり,その内訳(1届出について,2以上にわたる場合の重複分を含む。)
は,締結14件,変更247件,参加7件,脱退12件,その他5件であった。

第5 輸出入制限措置と競争政策

 「独占禁止法国際問題研究会」(座長 後藤晃 一橋大学教授)は,貿易規
模の拡大に伴って生じる貿易摩擦に起因するセーフガード措置,アンチダン
ピング措置,輸出自主規制及び目標値設定による輸入拡大について検討を行
い,その結果を平成5年6月に公表した。
 同研究会の取りまとめた検討結果の概要は,次のとおりである。

貿易摩擦に起因する輸出入制限措置の事例
 従来,貿易規模の拡大に伴って我が国を含む多くの国の間で貿易摩擦が
発生し,様々な輸出入制限措置が探られてきた。我が国が関係する主なも
のに,繊維,鉄鋼,自動車・自動車部品及び半導体に係る輸出入制限措置
がある。
貿易摩擦に起因する輸出入制限措置の概要及び競争政策上の問題点
(1) 輸出入制限措置の概要
 GATTは,自由貿易の原則に立ち,関税以外の輸入制限措置を原則
として禁止し,自由化の結果,輸入が急増して国内産業に重大な損害が
生じる場合等の緊急措置として,セーフガード規定を置いている。アン
チダンピング規定は,不公正貿易に対する措置として設けられている
が,発動要件の厳格なセーフガード措置に代わって輸入国の産業を輸入
品との競争から保護するための手段として多用されている。また,輸入
国のセーフガード措置に代わって,輸出国が輸入国との合意によって又
は自らの判断によって輸出を制限する輸出自主規制が多用されている。
これらの措置は,多数の国及び産業に広まってきており,国際競争を大
きく制限するものとなっている。
 セーフガード措置,アンチダンピング措置及び輸出自主規制といった
輸出入制限措置は,輸入によって被害を受ける産業を保護するために採
られるものであるが,これらの措置が発動された場合,輸入品の数量が
減少し又は価格が上昇することによって輸入国の当該製品のユーザー及
び消費者の受ける損害の方が大きく,輸入国全体の利益を集計すれば輸
出入制限措置が発動されない場合に比較して,経済厚生が低下する場合
が少なくないと考えられる。
(2) 競争政策上の問題点
セーフガード措置
(ア)  セーフガード措置により輸入品との競争が緩和されることによっ
て,輸入国のメー力ーは利益を得ることができるが,輸入国のユー
ザー及び消費者は損失を被り,輸入国全体の利益を集計すれば,通
常,経済厚生は低下する。
(イ)  輸入の急増により大量失業の発生等の社会問題が一時期集中的に
発生することを避けて,競争力を失った産業の構造調整を円滑に行
い又は産業の合理化等によって競争力の回復を行うまでの一時的措
置としてセーフガード措置が採られることは,自由貿易を維持する
ためにやむを得ない場合があると考えられる。
(ウ)  セーフガード措置が濫用されるならば,輸入国市場における競争
のみならず,国際競争も大きく制限され,輸入国のみならず世界全
体の経済厚生が損なわれることになる。また,セーフガード措置と
併せて適切な産業の構造調整等がなされない場合には,国際競争力
を失った産業が温存され,又は競争力の回復がかえって遅れること
になる。
(エ)  GATTのセーフガード規定は,要件・期限を限定して輸入制限
措置を認めるものであり,それが適正に運用されるならば,競争政
策上の問題は他の輸出入制限措置と比較して少ないと考えられる。
アンチダンピング措置
(ア) ダンピング防止税の賦課による影響
 輸入国によるダンピング防止税の賦課により,輸入品の価格上昇
等が生じ,輸入国のメーカーは利益を得ることができるが,ユー
ザー及び消費者は損失を被り,輸入国全体の利益を集計すれば経済
厚生が低下する場合も少なくない。
(イ) アンチダンピング提訴等による影響
 アンチダンピング提訴が行われた場合,実際にダンピング防止税
の賦課に至らなくても,アンチダンピング調査への対応に多額の費
用や労力が必要とされることから,輸出を中止したり,アンチダン
ピング措置を回避するために輸出自主規制が行われる等により輸入
制限効果が発生する場合がある。
輸出自主規制
(ア)  輸出自主規制は,GATTの枠外で,輸出国と輸入国の合意に
よって,又は輸出国の一方的措置として行われるものであることか
ら,GATTの規定に従って行われるセーフガード措置とは異な
り,要件や期限の限定が存在しない。したがって,輸出自主規制
は,セーフガード措置の要件に該当しない場合に行われたり,セー
フガード措置の許容期間をはるかに越えて行われる場合がある。
(イ)  いったん輸出自主規制が行われると,繰り返し行われたり,他の
産業や他の国にも波及する場合がある。
目標値設定による輸入拡大
(ア)  競争政策の観点からは,企業がどのような製品をどこからどれだ
け購入するかは,企業の自主的な判断によって行われるべきであ
る。輸出国と輸入国の政府が輸入目標を設定し,輸入国政府が企業
に対し特定製品の輸入を指導することは,当該製品の市場における
競争を歪めるものであり,競争政策の観点からは問題がある。
(イ)  輸入品の数量やシェアが低いことは必ずしも市場が閉鎖的である .
ことを意味するものではない。また,輸入国市場における企業の競
争制限行為や政府規制によって競争力のある製品の輸入が妨げられ
ているとすれば,輸入国においてその原因を数害し,市場機能が十
分に働くようにすることにより問題を解決すべきである。
(ウ)  市場経済の下では,輸入品の数量やシェアは市場における競争の
結果として決まるものであり,あらかじめ正当な数量やシェアの水
準を決めることはできない。輸入目標を設定して人為的に輸入を拡
大することば,市場機能を歪めることになる。
輸出入制限措置に対する対応
(1) セーフガード措置及びアンチダンピング措置に対する対応
 セーフガード措置及びアンチダンピング措置は,国内市場における競
争を制限し,ユーザー及び消費者に損害を与える可能性があることか
ら,法律上又は運用上,これらの措置を発動する場合には国内市場にお
ける競争及びユーザー・消費者に与える影響について考慮がなされる仕
組み等を設ける必要があると考えられる。
 公正取引委員会は,今後,我が国がこれらの措置を発動する場合には,
必要に応じ,当該措置が競争及びユーザー・消費者に与える影響につい
て調査し,競争政策の観点から意見を述べる必要があると考えられる。
(2) 輸出自主規制に対する対応
 輸出自主規制は,輸入国及び輸出国における競争並びに国際競争に大
きな影響を及ぼし,競争政策上問題が多い。輸出自主規制については,
ウルグアイ・ラウンドにおいてその撤廃が計られているところである
が,我が国は,今後,このような措置を採ったり,外国に求めるべきで
はないと考えられる。
(3) 目標値設定による輸入拡大に対する対応
 目標値設定による輸入拡大は,市場における競争を歪めるものであ
り,競争政策上問題が多い。したがって,我が国は,今後ともこのよう
な措置を探るべきではないと考えられる。
 輸入目標を設定しない場合であっても,行政庁が特定製品について
ユーザー企業に対し,輸入や外国系製品の購入を拡大するよう指導する
ことは,それによりユーザー企業が輸入品や外国系製品の購入を優先し .
市場における競争を歪めることとなる場合には,競争政策の観点からは
問題がある。
 当委員会は,同研究会のこれらの内容及び同研究会の指摘する問題点を
相当程度改善することとなる今回のウルグアイラウンド合意を踏まえ,今
後,輸出入制限措置に関する適切な対応に努めることとしている。