第11章 不公正な取引方法の指定及び運用

第1 概    説

 独占禁止法は不公正な取引方法の規制として叢i9条において事業者が不公
正な取引方法を用いることを禁止しているほか,事業者及び事業者団体が不
公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際契約を締結すること,事業
者団体が事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにするこ
と,会社及び会社以外の者が不公正な取引方法により株式を取得し又は所有
すること,会社が不公正な取引方法により役員の兼任を強制すること,会社
が不公正な取引方法により合併すること等の行為を禁止している(第6条第
1項,第8条第1項,第10条第1項,第13条第2項,第14条第1項,第15条
第1項等)。
 不公正な取引方法として規制される行為の具体的内容は,当委員会が法律
の枠内で告示により指定することとされている(第2条第9項,第72条)。
不公正な取引方法に関しては,上記規定に違反する事件処理のほか,不公
正な取引方法の指定に関する調査,不公正な取引方法の防止のための指導業
務等がある。また,最近,事業者の流通分野に対する関心の高まりとともに
不公正な取引方法に関する相談が増加しており,当委員会ではこれらの相談
に積極的に応じることにより違反行為の未然防止に努めている。

第2 不公正な取引方法に関する実態調査及び改善指導

玩具業界の流通実態調査
(1) 調査の趣旨
 近年,玩具業界の流通・取引慣行はディスカウントストアの進出等に
より大きく変わりつつある。
このため,当委員会は,玩具業界についてディスカウントストアの進
出等が同業界における取引慣行に及ぼす影響,問題点等を中心に実態調
査を行い,平成6年3月,その結果を取りまとめ,公表した。
(2) 調査結果の概要
取引形態,流通構造等の現状について
(ア)  玩具業界では,メーカーが商品の企画開発を行うとともに,欠陥
品以外の返品(以下「良品返品」という。)に応じることを通じて
販売リスクを負うことによって,流通におけるリーダーシップを
握ってきたが,トイザらス等のディスカウントストア等の進出・出
店強化や玩具専門店の店舗大型化に伴い,小売業者に主導権が移り
つつある。
(イ)  このような状況に対応して,メーカーは取引先卸売業者の絞り込
み,新規に玩具を取り扱う業態への売り込み,通信販売への進出等
従来の慣行にとらわれない動きを見せている。また,流通網の再構
築,小売業者のフランチャイズ化等を進め,自己の商品の安定的な
供給先の確保を進める動きがある。
(ウ)  卸売業者は,メーカー及び小売業者サイドから厳しい選別にさら
されており,セールスプロモーション機能やサービスマーチャンダ
イジング機能を強めて,その存在意義を高めようとしている。
(エ)  小売業者では,大手の専門量販店・玩具専門店において,購買力
を背景として,メーカーに対して直接取引を求める動きがある。ま
た,小売業者による共同仕入れの動きもみられる。
建値及びメーカー希望小売価格について
 玩具業界では建値を設定する取引慣行がみられ,大部分の商品につ
いてメーカー希望小売価格が設定されているが,メーカー希望小売価
格の必要性について,小売業者の約4割が不要としている。不要と回
答した小売業者は,スーパーやディスカウントストアが多い。
 また,従来ほぼ掛率どおりの取引が行われていたが,ディスカウン
トストア等による大量仕入れ等も一因となって,掛率どおりの取引が
崩れてきている。
 小売価格についても,5年前には小売業者の約7割が玩具をメー
カー希望小売価格どおりに販売していたが,ディスカウントストアの
進出等により,そのような事業者は3割弱にまで減少しており,実勢
価格は,近年,崩れてきている。
取引形態,取引条件等について
(ア)  卸売業者はメーカーからリベートを支給されている割合が高く,
小売業者な仕入先からリベートを支給されている割合が少ない。
(イ)  良品返品の慣行がみられる。小売業態は大部分が百貨店である
が,一部のスーパー及び玩具専門店も行っている。良品返品の慣行
については,ほとんどのメーカー及び卸売業者が不満を持ってい
る。
(ウ)  卸売業者の4割弱が,仕入れの際に他の玩具の購入を要請される
ことが現在もあるとしており,これについては,ほとんどの卸売業
者及び小売業者が不満を持っている。
(エ)  配送条件について,メーカーの5割弱,卸売業者の6割強が不満
があるとしている。センターフィー等配送費用の負担に係る不満が
多いが,欠品に対するペナルティについて不満があるとする者もい
る。
(オ)  ほとんどのメーカー及び卸売業者は小売店に対し様々なりテール
サポートを行っており,特に商品情報の提供,販売促進の支援,店
舗活性化の支援,品ぞろえの総合化の支援等が多くなっている。
(カ)  メーカー及び卸売業者の約1割が小売業者の要求で派遣店員を派
遣しており,派遣先はすべて百貨店である。メーカー及び卸売業者
のほとんどは,納入商品の販売促進と直接関係のない業務を手伝わ
せられているとしている。
情報ネットワーク化について
 玩具業界においては 情報ネットワークを全く利用していない業者
が5割を超えており,情報ネットワーク化はまだ十分浸透していない
状況にある。
(3) 競争政策上の評価と今後の対応
 玩具業界では,流通において小売業者が主導権を握りつつあり,消
費者の価格・品質志向を常に把握し,それに合わせようとする方向へ
変化することが見込まれ,これらは消費者重視の方向への変化と考え
られる。
 玩具業界では,近年,価格競争が活発化してきているので,安売り
を理由とした取引拒絶等の独占禁止法違反行為が生じないように注視
していきたい。
 ディスカウントストア等がおとり広告等を行っているとの不満を示
す小売業者もあるので,景品表示法上の問題が生じないように注視し
ていきたい。
 小売業者の共同仕入体制づくりやメーカーと小売店との直接取引の
動きに関し,独占禁止法上の問題が生じないように注視していきた
い。
新    聞
 新聞業においては,独占禁止法及び景品表示法に基づく告示により,押
し紙(注文部数を超えて新聞を供給すること)及び拡材(販売部数拡大等
のために用いられる景品類)・無代紙(購読者に無償で供給される新聞)
の提供等の行為は禁止されているにもかかわらず,これらに係る違反事例
の申告や情報提供が後を断たない。このため,当委員会はこれらの全国的
・全般的な事態を把握し,併せて新聞業における取引の公正化を図ること
を目的として,従来から,各種の調査を実施するとともに新聞公正取引協
議委員会に対して,随時,指導を行ってきている。
 本年度においては,昨年度に引き続き,当委員会の消費者モニターに対
し,拡材・無代紙の提供の有無等についてアンケート調査を実施するなど
正常化の監視に努めるとともに,その調査結果を踏まえて,新聞公正取引
協議委員会に対して,問題点の改善指導及び正常化の推進について要望を
行った。

第3 不公正な取引方法に関する相談状況

 独占禁止法上の不公正な取引方法に関する電話・来庁等による一般からの
相談に対しては,従来から積極的に応じてきている。さらに,当委員会は,
平成3年7月,消費者利益の確保と市場の開放性の確保の観点から,「流通
・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」を公表するとともに流通・取引慣
行に係る事前相談制度を設けている。また,平成元年度からは,特許・ノウ
ハウライセンス契約に係る事前相談制度を導入している。
 本年度においては,「流通・取引慣行に係る事前相談制度」に基づき,①
スポーツウェアメーカーが,輸入品の流通業者に対し,民事訴訟の提起を
検討中である旨の文書を送付するという件につき,当該流通業者が商標権を
侵害する一応の根拠があることなどを理由として,②平成3年度に事前相談
を受けた医薬品の特許権者である外国法人が,取引先の制限についての相談
内容を変更したい旨の申出を行った件につき,従前の相談よりも制限の内容
が緩和されていることなどを理由として,いずれも相談に係る行為は不公正
な取引方法には該当せず,独占禁止法に抵触することはない旨回答した。