10-1 |
ア メ リ カ |
|
(1) |
法制の動き |
|
ア |
反トラスト法及び関連法規の改正 |
|
1993年6月,1993年共同生産法が施行された。同法は,1984年共同
研究開発法を改正し,研究開発ジョイントベンチャーに認められてい
る特例(①違法性を合理の原則の下で判断し,②司法省及び連邦取引
委員会(FTC)に事前に届け出されたジョイントベンチャーについ
ては,仮に違法とされた場合にも,損害賠償請求を実損額に限定)
を,ある一定の条件の下で生産ジョイントベンチャーにまで拡大した
ものである。 |
イ |
反トラスト政策及びガイドラインの変更 |
|
1993年6月に就任したビンガマン司法省反トラスト局長は,合併規
制の運用強化,反トラスト法の国際的執行の継続,垂直的取引制限に
対する規制の強化,消費者利益の確保を重点課題として掲げ,具体的
には,反トラスト法違反の合併を積極的に提訴するための組織編成と
迅速な提訴,1988年国際的事業活動に関する反トラスト法執行ガイド
ラインの見直し,1985年垂直的取引制限ガイドラインの廃止,違反事
件の審査に自主的に協力する企業に対する訴追免除方針の明確化と拡
大に関する方針を打ち出した。
(ア) |
1985年垂直的取引制限ガイドラインの廃止く1993年8月) |
|
1985年垂直的取引制限ガイドラインを廃止し,価格に関する垂直
的取引制限については当然違法として,また,非価格的な垂直的取
引制限については合理の原則に基づく意味のある分析に服するもの
として取り扱うこととした。 |
(イ) |
訴追免除方針の明確化拡大(1993年8月) |
|
反トラスト局は,1978年に取りまとめられた対企業訴追免除方針
(反トラスト局の審査開始前に進んで反トラスト法違反を自白した
企業のうち 一定の基準を満たす者については,これを訴追しない
という方針)を明確にするとともに,同方針の適用対象を拡大し,
反トラスト局の審査開始後に進んで反トラスト法違反を自白した企
業に対しても,一定の基準を満たす場合にはこれを訴追しないこと
とした。 |
(ウ) |
医療産業に対する反トラスト執行ガイドラインの発表(1993年9
月) |
|
司法省とFTCは,医療産業における合併等企業結合や業務提携
に関する反トラスト法の執行について,その不確実性を減少させる
観点から共同でガイドラインを作成・発表した。同ガイドラインで
は,小規模病院間の合併,高額医療機器等が関係する病院間のジョ
イントベンチャーなどについては,反トラスト当局によって問題と
されることはないとされた。 |
|
|
(2) |
法 の 運 用 |
|
アメリカ反トラスト法は,連邦レベルではシャーマン法(1890年制
定),クレイトン法(1914年制定),連邦取引委員会法(FTC法,1914
年制定)及びこれらの修正法からなる。シャーマン法は,取引を制限す
るカルテル・独占行為を禁止し,その違反に対する刑事罰を規定してい
る。クレイトン法は,シャーマン法違反の予防的規制を目的としてい
る。同法は,競争を阻害する価格差別や不当な排他的取引を禁止してお
り,また,合併や株式・資産取得については,競争を実質的に制限若し
くは独占を形成するおそれがある場合には禁止し,被取得会社の総資産
若しくは年間売上高が1千万ドル以上で取得会社の総資産若しくは年間
売上高が1億ドル以上の場合(及びその逆の場合)にはFTC及び司法
省への事前届出を義務付けている。FTC法は,不公正な競争方法を禁
止している。
ア |
措置件数及び主要な反トラスト事件(合併事件を除く。)の概要 |
|
反トラスト局は,1993会計年度に223件の正式審査を開始し,92件
の提訴を行った。そのうち83件が刑事事件である。同年中,個人14名
に延べ4,950日の拘禁が宣告され,個人及び法人に対する額の合計
は,4,230万ドルであった。反トラスト局及びFTCが扱った主な事
件は,次のとおりである。
(ア) |
反トラスト局は,1993年3月,1980年以来13年ぶりに,高性能
ホッケー用スケートメーカーによる再販売価格維持行為の差止めを
求めて提訴し,同年9月,同意判決でこれを終結した。 |
(イ) |
反トラスト局は,歯科医師3名と2医療法人が,カードによる治
療費支払制度を導入し,加入会員が支払う支払手数料を固定し引き
上げる協定を行ったとして,提訴を行った。1993年1月,1医療法
人が,5千ドルの罰金を支払うほかコミュニティへの250時間の奉
仕活動を行うことで和解し,その他の被告については訴えを取り下
げた。
本件は,この50年間で初めての医療関係者に対する刑事訴追事件
である。 |
(ウ) |
反トラスト局は,4年以上にわたり3州において行われたポリウ
レタン屋根契約の入札談合を起訴した。1993年7月,被告人のうち
個人に対しては7か月の服役及び16万ドルの罰金,企業に対しては
80万ドルの罰金が科された。 |
(エ) |
反トラスト局は,航空会社8社とコンピューター座席予約システ
ム運営会社が,コンピューターを利用して航空運賃に関する情報交
換を行い,航空運賃を取り決め又は航空運賃の割引を排除していた
として,当該行為の差止めを求めて提訴し,2社については1993年
11月に,残る7社については1994年3月に同意判決で終結した。 |
(オ) |
FTCは,アメリカで第1位のファスナーメーカーが自己の競争
者(アメリカで第2位のファスナーメーカー)に対し,顧客向け
ファスナーの無料提供(ある種の値引き)を取り止めるよう要請し
たことが不当な競争の制限に当たるとして審判を開始し,1993年7
月,同意審決でこれを終結した。 |
|
イ |
合併事前届出及び主な合併事件の概要 |
|
反トラスト局及びFTCは,ハート・スコット・ロディノ法(H・
S・R法)の合併事前届出条項(クレイトン法第7A条)に基づき,
1993会計年度に,3,692件の届出を受理した。
主要な合併事件としては,次のとおりである。
(ア) |
FTCは,ICI社の資産(ナイロン事業部門)とデュポン社
(アクリル事業部門)の交換計画が,アメリカのアクリル樹脂ビ
ニール製品製造・販売市場における競争を実質的に減殺するおそれ
があるとして,審判を開始し,1993年11月,同意審決とすることで
合意し,ICI社がアメリカ国内に所有するアクリル樹脂ビニール
製品製造工場3工場のうち1つを第三者に譲渡することで終結し
た。 |
(イ) |
FTCは,1993年11月,トヨタ・GM合弁事業に関する同意審決
(1984年4月)について,これを廃止する決定を行った。同意審決
においては,合弁事業の存続期間,生産車種や生産台数,トヨタ・
GM間の情報交換等について条件が付されていたが,1984年以降ア
メリカの自動車産業の市場条件が変化したため,同意審決を継続す
る必要性がなくなったことなどが廃止の理由として挙げられてい
る。 |
(ウ) |
ハート・スコット・ロディノ法に基づく合併事前届出の義務に反
して,17か月以上も正式の届出を行っていなかったスイスの企業経
営者に対し,1993年9月,約41万5千ドルの過料の支払いが命じら
れた。これは,合併事前演出の義務に反した外国人に対して,FT
Cが過料の支払いを求める訴訟を提起した最初の事例である。 |
|
|
(3) |
政府規制緩和 |
|
不必要な規制により米国企業が競争力を失うおそれがあり,競争力強
化のためには反トラスト法の強力な施行による競争の促進が必要である
との観点から,連邦レベルでは,引き続き政府による経済的規制の緩
和,反トラスト法適用除外の見直しが進められている。反トラスト局及
びFTCは,連邦や州の経済的規制に関し,競争促進の立場から,積極
的に意見を表明してきている。
反トラスト局は,電気料金,石油パイプラインの規制緩和については
連邦エネルギー規制委員会に対して,携帯電話(個人通信サービス)の
免許規制については連邦通信委員会に対して,農産物販売規制の再検討
については農務省に対して,また,FTCは,AT&Tの上限価格規制の
修正案について連邦通信委員会に対して,それぞれ意見書を提出した。 |
|
10-2 |
E C |
|
(1) |
法制の動き |
|
ア |
マーストリヒト条約の発効 |
|
1993年11月1日,EC加盟12か国が調印していたマーストリヒト条
約(欧州連合条約)が発効した。同条約は,経済・通貨統合や共通外
交・安全保障政策を主たる内容とし,これにより,ECは欧洲連合
(EU)創設の第一歩を記した。 |
イ |
EC競争法の適用に係る加盟国裁判所と欧州委員会との協力に関す
る告示 |
|
欧州委員会は,私訴の活用を目的として,加盟国裁判所がEU競争
法を効率的に適用できるようにするため,EEC条約第85条及び第86
条の適用に係る加盟国裁判所と欧州委員会との協力に関する告示を
行った(1993年2月)。 |
ウ |
協力ジョイント・ベンチャーの設立に関する告示 |
|
欧州委員会は,協力的ジョイント・ベンチャーのEEC条約第85条
に基づく審査手続の明確化・迅速化を図るため,協力ジョイント・ベ
ンチャーが第85条と両立するかどうかを判断する際の基準に関する告
示を行った(1993年2月)。 |
|
(2) |
法 の 運 用 |
|
EU市場内の競争を制限する協定又は支配的地位の濫用行為に対し,
欧洲委員会は,EEC条約第85条(共同行為の禁止)又は第86条(市場
支配的地位の濫用禁止)の規定等に基づき,排除命令を行うとともに違
反行為を行った事業者又は事業者団体に対し,100万ECU(欧州通貨
単位).又は違反事業者の年間総売上高の10%のいずれか高い額を上限と
する制裁金を課すことができる。
ア |
カルテル・市場支配的地位濫用の規制 |
|
1993年中において,欧州委員会は,EEC条約第85条(競争制限的
協定等の禁止)に基づき,3件の禁止決定を行った。
なお,欧州委員会は1,231件の未処理案件を抱えている(前年同時
期1,562件)。そのうち,749件が申請又は届出案件,335件が企業から
の申告によるものであり,残る147件は,欧州委員会が職権で手続を
開始したものである。
主な事例は,次のとおりである。
(ア) |
欧州委員会は,イギリスのブリティッシュ・スティール等欧州の
鉄鋼会社16社に対して,EU競争法が禁止している価格カルテル,
市場分割,秘密情報の交換を行ったとして,総額1億400万ECU
の制裁金を課す決定を行った。この制裁金額は過去最高である(欧
州石炭鉄鋼共同体設立条約第65条違反,1994年2月)。 |
(イ) |
欧州委員会は,除草剤等植物関連製品の製造業者であるモンテ
ディソン社が,ドイツの流通業者に対しドイツ国内における排他的
販売権を付与し,同社の製品がより安価に販売されている他の加盟
国(特にイタリア)から並行輸入されドイツで販売されることを妨
害したとして,EEC条約第85条に違反するとの決定を行った(1993
年6月)。 |
|
イ |
合併規制の運用状況 |
|
1989年12月21日に欧州閣僚理事会により採択された合併規制規則
(共同体市場を両立しない合併等の禁止)は,採択から9か月後の1990
年9月21日に発効した。EC合併規制規則は1993年末までに見直され
ることになっていたが,欧洲委員会は,1993年7月,同規則の見直し
結果を公表し,上記の規制の共同体要件の引下げについて,現段階で
は規則改正は行わず,1996年末までに再度見直しを行うこととした。
1993年中において,欧州委員会は,同規則に基づいて,58件の事案
について決定を行った。その内訳は次のとおりである。
①共同体市場と両立する旨の決定 |
53件 |
②共同体市場と両立する旨の決定(条件なし) |
1件 |
③共同体市場と両立する旨の決定(条件付き) |
2件 |
④共同体市場と両立しない旨の決定(禁止) |
0件 |
(注) |
①は予備審査の結果,②~④は正式審査の結果による。
なお,1件が加盟国に移送された。 |
|
主な事例は,次のとおりである。
(ア) |
欧州委員会は,ドイツの大手薬品流通業者によるフランスの大手
薬品卸業者の取得について,両社の販路が地理的に分離されてお
り,競争上の懸念がないこと,並行輸入又は再輸入を助長する可能
性があり,競争促進的効果もあるとしてこれを承認したく1993年4
月)。 |
(イ) |
欧州委員会は,ネッスル社によるイタリアの菓子類メーカーの取
得について,当該菓子類メーカーはイタリア国内で事業活動を行っ
ているが,ネッスル社はイタリア国内のアイスクリーム,冷凍食品
等の分野で事業活動を行っていないため,市場支配的地位を形成・
強化することはないとして,これを承認した(1993年9月)。 |
|
|
(3) |
規制緩和の動き |
|
EU加盟各国における国営(国有)企業の民営化,政府規制の緩和が
進展しており,競争政策の適用される分野が拡大している。また,欧州
委員会はEEC設立条約第90条に基づき,加盟各国公企業の独占的権利
を制限・排除する委員会指令又は決定を出すことができる。これらを背
景に,電気通信,運輸,金融,保険,エネルギー等の分野で一層の自由
化促進,競争法の適用が図られている。また,郵便の分野について,
EC委員会は,1992年5月,域内郵便事業の自由化に関する提案書を採
択したのを受け,1993年6月に郵便政策の展開のためのガイドラインを
採択した。
(ア) |
電気通信 |
|
欧州閣僚理事会は,原則として,1998年1月1日までに電話サービ
スに関する規制を緩和する決議を採択した(1993年6月)。 |
(イ) |
航空 |
|
欧洲委員会は,航空運送事業者間の協定等のうち,ほとんど競争に
影響を与えないものについて,これを適用免除とする規則を採択した
(1993年6月)。 |
|
|
10-3 |
ド イ ツ |
|
(1) |
法制の動き |
|
競争法制に動きはなかったが,1990年10月3日のドイツ統一以降,競
争制限禁止法は旧東ドイツ地域にも適用されるようになった。 |
(2) |
法の運用 |
|
ア |
カルテル規制 |
|
事業者によるカルテル契約及び事業者団体のカルテル決議は無効と
され,連邦カルテル庁は違反に対する制裁として,その裁量により,
100万ドイツマルク又は違反行為による超過受取額の3倍のいずれか
高い額を上限とする制裁金を課すことができる。
主な事例は,次のとおりである。
(ア) |
連邦カルテル庁は,消防自動車の車体メーカー5社とその責任者
に対して,価格やリベートを取り決めていたとして,総額380万ド
イツマルクの制裁金を課した(1993年3月)。 |
(イ) |
連邦カルテル庁は,路面散布用塩のメーカー2社とその責任者に
対して,路面散布用塩の国内価格引下げ圧力を回避するために,旧
東ドイツからの輸入塩の販路を制限する協定を締結していたとし
て,総額2,070万ドイツマルクの制裁金を課した(1993年6月)。 |
|
イ |
合併規制 |
|
市場支配的地位を形成し又は強化する合併は禁止される。
届出については,年間売上高20億ドイツマルク以上の事業者が参加
する場合又は年間売上高10億ドイツマルク以上の事業者が2以上参加
する場合には,事前届出が必要である。また,①企業結合後の事業者
の市場占拠率が20%以上になる場合,②企業結合参加者のうち1社が
他の市場で20%以上の市場占拠率を有している場合,③企業結合参加
者の年間売上高の合計が5億ドイツマルク以上になる場合,のいずれ
かに該当する場合には事後届出が必要である。
主な事例は,次のとおりである。
(ア) |
連邦カルテル庁は,世界的な車両用伝導装置メーカーであるZF
社によるアリソン社(アメリ力企業であるGMの子会社)の取得計
画を禁止した。
ZF社は,ヨーロッパ及びドイツの車両用伝導装置等製造・販売
分野における卓越した地位を有しており,アリソン社は当該分野で
第2位の事業者である。
世界的にみても,この2社の他には小規模な事業者が数社存在す
るにすぎない。
連邦カルテル庁は,ZF社の強力な市場地位と当該市場の集中度
が高いことを考慮すれば,いかなる結合も少なからず競争を悪化さ
せると判断したものである(1993年4月)。 |
(イ) |
連邦カルテル庁は,事前届出の要件を満たす企業結合に関し,そ
の届出を怠った事業者1名に対し,故意に事前届出を怠ったとして
50万ドイツマルクの制裁金を課す決定を行った(1993年5月)。 |
|
|
(3) |
規制緩和及び民営化の動き |
|
ア |
連邦政府は,かねてから規制緩和と民営化を促進してきており,
1992年7月には 1994年以降,電気通信,連邦鉄道,連邦高速道路等
の分野で一層の民営化を実施する民営化プログラムを閣議決定した。
今後の課題としては,その他の公共部門で民営化すべきものに関す
る検討及び残存している連邦政府の持分の削減(ルフトハンザ,小企
業等),連邦政府所有不動産の売却,1994年に事業が完了予定の信託
公社(旧東ドイツの国営企業等の民営化担当政府機関)の段階的廃止
に関する方針の策定等がある。
なお,旧東ドイツにおける国営企業等の民営化については,信託公
社が1994年末までに不動産,住宅建設,農業の部門を除く全部門の民
営化を達成する予定である。 |
イ |
1993年中には,特に,銀行,運輸といったサービス分野の国営企業等
の削減が進み,1993年末までにlndustrie-Verwaltungsgesellschaft
(不動産,運送会社等を所有する大規模国有企業)の民営化が実施さ
れた。 |
|
|
10-4 |
イ ギ リ ス |
|
(1) |
法制の動き |
|
ア |
制限的取引慣行法に関する政府提案等 |
|
競争制限的協定の登録制度の廃止と原則禁止規制の導入,制裁金制
度の創設等を内容とする制限的取引慣行法制に関する政府提案が1989
年7月に行われているが,1993年中には,その提言を実施に移す措置
は探られなかった。
1993年4月,政府は競争及び独占に関し,次のような内容の改正案
を公表した。
(ア) |
公正取引庁長官の調査権限の強化 |
(イ) |
独占に関し,独占合併委員会への付託に代えて,公正取引庁長官
が是正措置の確約書を受領できる権限の創設 |
(ウ) |
反競争的行為に関し,独占合併委員会による調査期間中,第三者
が損害を受けると考えられる場合に,国務大臣(貿易産業大臣)が
当該反競争的行為の差止めを命ずる権限の創設
しかし,1993年中には特段の改正等はなかった。 |
|
イ |
競争法・政策,ガイドラインの変更 |
|
1993年中において,政府の規制緩和政策実施のため,競争法に関す
る簡易事件について,即決解決,手続の迅速化の観点から修正が検討
された。
1994年2月9日,合併規制に関し,MMCへの調査付託基準を改正
する命令が公布され,調査付託の対象となる被取得資産の価額は,
3,000万ポンドから7,000万ポンドに引き上げられた。この命令は1994
年4月に施行された。 |
|
(2) |
法 の 運 用 |
|
ア |
制限的協定 |
|
1976年及び1977年制限的取引慣行法は,商業的協定の競争に与える
影響を評価し,重大な反競争的取決めの実施を阻止する根拠法であ
る。
該当する全ての協定・取決めは,公正取引庁(OFT)に届出を行
い,制限的取引協定簿に登録することが義務付けられている。登録簿
は,商業上の秘密に属する事項を除き,一般に公開される。
1993年中には,1,251件の協定が公正取引庁に届出され,前年より
16%多い686件の協定が登録簿に追加された。1956年以来の登録総件
数は 11,000件を越えている。
登録すべき協定が登録されていないと認められる場合には,公正取
引庁長官は,関係者に対し詳細な情報を求める通知を発出することが
でき,1993年には10件の通知を発出した。
公正取引庁長官は,違法な制限的協定を制限的慣行裁判所に付託し
なければならない。制限的慣行裁判所は,裁判手続の後,当該協定の
禁止等を命じることができる。
制限的慣行裁判所の判決に違反した場合,法廷侮辱罪に問われる。 |
イ |
再販売価格維持行為に対する規制 |
|
1976年再販売価格法により,商品の供給者が販売者に最低再販売価
格を課すことは違法とされている。
1993年中には,公正取引庁に対し,1976年再販売価格法違反の容疑
で45件の申告があった。同庁は,14件について供給業者から最低再販
売価格の強制を行わない旨の確約書を受領した。現在,公正取引庁
は,制限的慣行裁判所に対し,同裁判所が出した書籍の定価販売協定
判決の見直しを求めるべきかどうか検討している。 |
ウ |
反競争的行為に対する規制 |
|
1980年競争法により,公正取引庁は,反競争的と考えられる行為を
調査し,当該行為が競争を阻害すると判断したときは,独占合併委員
会に調査を付託することができる。
公正取引庁は 1993年中には,1980年競争法に基づき,反競争的行
為について2件の調査を行い,その結果を公表した。主な事例は,次
のとおりである。
○ |
公正取引庁は,機械設備の補修部品について,生産を中止した企
業から当該部品を大量に購入した事業者が,当該部品を販売しない
ことは,競争を制限する意図があると結論付けたものの,価格引上
げ等がもたらされたとの確たる証拠がなかったため,制限的慣行裁
判所への付託は見送った(1993年10月)。 |
|
エ |
独占に関する調査 |
|
1973年公正取引法に基づき,公正取引庁長官は,独占状態(1社で
英国市場の25%以上の市場占拠率を有する場合等)が存在すると認め
る場合,それについて独占合併委員会に調査を付託できる。
1993年は,アイスクリームの供給,映画用フィルムの供給等計7件
について付託を行った。また,独占合併委員会は,排ガス分析装置な
ど,6件の報告書を公表した。
主な事例は,次のとおりである。
○ |
排ガス分析装置の供給及び測定技術の分野については,供給業者
側に有利な多数の複合独占が存在し,技術供与を行わないことによ
り,新規参入が妨害されているが,これは公共の利益には反しない
と結論づけた。独占合併委員会は運輸省等に業界の効率を改善し,
競争を促進するよう提案した。運輸大臣は,排ガス分析装置と測定
資格の承認手続の再検討に着手した。 |
|
オ |
合 併 規 制 |
|
公正取引庁は,1992年中に309件の合併案件を審査した。公正取引
庁長官は,うち197件について,案件を独占合併委員会に付託すべき
かどうかについて貿易産業大臣に助言した。
合併規制の対象となる案件は,合併後の総資産額が3千万ポンド
(1994年4月以降は7千万ポンド)を超えるか,超えそうなもの,ある
いは市場占拠率が25%以上となるものである。
1993年中に,貿易産業大臣は3件を独占合併委員会に付託した。
また,独占合併委員会は2件について調査結果報告書を公表した。
主な事例は,次のとおりである。
○ |
ステージコーチ・ホールディング社とアセット・ランカスターシ
ティー・トランスボート社の資産取得
独占合併委員会は,本件は,ランカスター地区のバス連行事業か
ら競争を排除し,バス料金の値上げやサービス悪化を招くため公共
の利益に反するとして,ステージコーチ社に改善を勧告する報告書
を公表した。 |
|
|
|
10-5 |
フ ラ ン ス |
|
(1) |
法制の動き |
|
1993年1月29日に経済活動及び公共手続における透明性の確保と腐敗
防止に関する法律が制定,施行された。同法は,公共サービスの実施委
託機関が設計・工事契約にかかる政府調達法典の遵守義務を負うこと,
公共工事の入札が行われた場合には,経済省(省庁間契約調査本部)が
調査を行い,競争上問題があると思われる場合には,競争評議会にその
旨を連絡することなどを定めている。 |
(2) |
法 の 適 用 |
|
フランスの競争法は,カルテル,市場支配的地位の濫用,再販売価柊
維持行為や差別価格などの制限的行為を禁止している。合併等企業結合
については,結合当事者の市場占拠率の合計が25%超又は年間売上高の
合計が70億フラン超であって,かつ,結合当事者の少なくとも2社の売
上高が20億フランであるときに,支配的地位の創設又は強化により,競
争を阻害するおそれのあるものを禁止している。なお,企業結合の届出
は,任意の事前届出である。
主な事例は 次のとおりである。
ア |
共同行為 |
|
(ア) |
水平的カルテル |
|
競争評議会は,外資系企業がフランス国内で新たにジェット燃料
油を販売しようとするのを妨害したとして,エルフ社を含む石油会
社2社に対し,合計700万フランの制裁金を課した。(1993年10月)。 |
(イ) |
垂直的取引制限 |
|
① |
競争評議会は,SP98オクタン無鉛ガソリンのスーパーマー
ケットチェーンへの販売に関し,不公正な販売条件を設定したと
して,シェル社を含む石油会社3社に合計6千万フランの制裁金
を課した(1992年10月)。 |
② |
競争評議会は,鋳鉄管製造で第1位のポンタムッソン社(市場
占拠率98%)が,入札を行う鋳鉄管敷設工事会社に対し,自社製
品の価格を競争業者の提示価格と同じにし,共同受注の場合に
は,間接費を請求するという価格政策を採用したことは,他の競
争会社が公共調達以外の市場で競争するのを妨害しようとしたも
のであるとして,ポンタムッソン社に対し,30億フランの制裁金
を課した(1992年11月)。 |
|
(ウ) |
公共契約における入札談合 |
|
① |
1992年に,競争評議会は,入札談合事件について6件の決定を
行った。 |
② |
競争評議会は,低圧電流交換器の公共調達において入札談合を
行ったとして,5社に対して合計358万フランの制裁金を課した
(1993年10月)。 |
|
|
イ |
市場支配的地位の濫用 |
|
(ア) |
競争評議会は,自己に排他的販売権を与えることにした花屋に対
してのみ優先的に販売する契約を締結することにより,市場支配的
地位を濫用したとして,園芸植物流通業者に対し,当該濫用行為を
停止するよう命じた(1993年7月)。 |
(イ) |
競争評議会は,任天堂のフランスにおける独占的輸入業者(市場
占拠率70%)に対し,テレビゲームソフトの販売に当たり,販売業
者に差別的な条件を課し,価格を定め,これに従わない場合販売
を拒否する旨脅かしたことが支配的地位の濫用に当たるとして,
3,000万フランの制裁金を課した(1993年12月)。 |
|
ウ |
合併等企業結合 |
|
競争評議会は,ジレット社によるパーカー・ペン社の取得事案につ
いて,競争評議会は,ジレット社のブランド(「ウォーターマン」)が
存続されること及び事業実績報告書を経済大臣に提出することを条件
に本件取得を認める意見を経済大臣に提出し,同大臣は本件取得を条
件付きで承認した。
なお,経済省(競争・消費者問題・不正行為防止総局)は,1992年に
合併等企業結合の分析方法等について取りまとめ,これを公表した。 |
|
(3) |
国営(国有)企業の民営化 |
|
1993年6月下旬,政府は,経済再建資金をまかなうため,エアロスパ
シアル,エールフランス,パリ国立銀行,ルノー,エルフ・アキテーヌ
を含む国営(国有)企業21社を,1993年末頃までに民営化する方針を発
表した。
さらに,政府は,EU域内電話通信が1998年1月に自由化されること
に決定されたことに伴い,1993年7月19日,フランス・テレコム社を民
営化する方針を追加発表した。
なお,パリ国立銀行,ローヌ・プーラン(化学会社),エルフ・アキ
テーヌ(石油会社)については,1993年中に民営化を終え,UAP(保
険会社)及びルノー(自動車会社)については民営化の準備段階にあ
る。 |
|