ア |
東芝ケミカルは,紙基材フェノール樹脂銅張積層板の製造販売業を
営む者であり,そして同業7社は,紙基材フェノール樹脂銅張積層板
又はこれと同等品である紙基材ポリエステル樹脂銅張積層板(以下
「紙フェノール銅張積層板」という。)の製造販売業を営む者であ
る。東芝ケミカル及び同業7社(以下「8社」
という。)の紙フェ
ノール銅張積層板の国内向け供給量の合計は,我が国における紙フェ
ノール銅張積層板の総供給量のほとんどすべてを占めている。 |
イ |
8社は,熱硬化性樹脂製造業を営む者をもって組織される合成樹脂
工業協会(以下「合協」という。)に加入しており,合協の品目別部
会の一つで各社の担当役員級の者で構成されている積層板部会(以下
「部会」という。)に所属している。
部会の下部機関として,各社の部課長級の者で構成される業務委員
会及び海外委員会並びに各社の部課長,支店長,営業所長級の者で構
成される大阪委員会,名古屋委員会が設置されている。 |
ウ |
紙フェノール銅張積層板の販売価格は,輸出価格についてはドル建
てであったため,昭和60年秋以降のいわゆる円高の影響により採算が
悪化し,国内需要者向け価格についても,円高により輸出不振に陥っ
ていた最終需要者であるセットメーカーがコストダウンを図り,同積
層板のユーザーであるエッチングメーカー等に再三値引の要求を行っ
たため,昭和61年初めごろから下落傾向を続けていた。また,同年秋
ごろからは,フェノール,銅箔等の積層板の原材料の価格も上昇傾向
を示すなど 8社とも販売価格の下落防止,その引上げが強く要請さ
れる状況であった。そして,国内需要者向け価格の引上げのために
は,国内向けよりも安くなった輸出価格を引き上げることが先決で
あった。
東芝ケミカルは,上記事情に加えて,昭和62年当時,同社の株式の
東京証券取引所第二部への上場申請を目前に控えていたため,予算を
計画どおり達成し,収益の確保を継続的に図る必要があった。
8社の属する積層板業界は,日立化成,松下電工及び住友べーク
(以下「大手3社」という。)が紙フェノール銅張積層板の国内向け
販売量の約70パーセントのシェア(昭和62年当時)を占め,大手3社
の動向に大きく影響される状況にあった。 |
エ |
8社は,昭和62年初めごろから部会等において,紙フェノール銅張
積層板を含むプリント配線板用銅張積層板の販売価格の引上げについ
て意見交換を行ってきた。
昭和62年4月20日,住友べークから紙フェノール銅張積層板の国内
需要者渡し価格を現行価格より1平方メートル当たり300円又は15
パーセントを目途に引き上げる旨の提案がされ,更に上記値上げ案に
ついて部会,業務委員会等で意見交換を行ってきた。 |
オ |
輸出価格の値上げ動向が昭和62年6月10日ごろ判明すること等を受
け,6月10日,臨時部会(以下「本件臨時部会」という。)におい
て,輸出価格の動向等を踏まえ,8社はプリント配線板用銅張積層板
の国内需要者渡し価格の引上げについて意見交換を行い,日立化成か
ら,7月10日出荷分から紙フェノール銅張積層板の国内需要者渡し価
格を現行価格より1平方メートル当たり300円又は15パーセントを目
途に引き上げることが表明されたことを契機に,松下電工からは6月
21日出荷分から,住友べークからは7月1日出荷分から,同様に値上
げすることが各表明された。残る5社については,大手3社の関係者
から大手3社に追随して同年7月末までを目標として,同様に値上げ
を実施するように要請されたが,上記要請に対し東芝ケミカルを含め
各社反対の意見は出なかった。
なお,同年6月22日,大手3社は,合意の上で前記の値上げの実施
時期を日立化成については7月10日を7月15日に,松下電工について
は6月21日を7月10日に各変更した。 |
カ |
東芝ケミカル及び同業他社は,本件臨時部会後,本件紙フェノール
銅張積層板の値上げを社内に指示等し,また需要者らに対し上記値上
げを通知し,その要請をしている。
昭和62年7月20日,主要なエッチングメーカーと積層板のメーカー
との懇親のための会合であるST会において,東芝ケミカルは,同業
他社とともに主要な需要者に紙フェノール銅張積層板1平方メートル
当たり15パーセント又は300円の値上げを要請した。
昭和62年7月28日の大阪委員会,同年8月10日,8月21日,8月31
日の名古屋委員会等において,東芝ケミカルは,主要な需要者に対す
る値上げについて同業他社とその交渉経過を報告し合い,値上げの具
体策の打合せをした。 |
キ |
平成元年8月8日,当委員会は同業7社に対し,前記オの事実に係
る昭和62年6月10日に行った紙フェノール銅張積層板の国内需要者渡
し価格の引上げに関する決定の破棄等を命ずる審決をし,前記のころ
同業7社は,同審決に従って前記決定を破棄した。 |