第5章 政府規制制度及び独占禁止法適用除外制度の見直し

第1 概   説

 我が国では,社会的,経済的な理由により,参入,設備,数量,価格等に
係る経済的事業活動が政府により規制されていたり,独占禁止法の適用が除
外されている産業分野が多くみられる。
 このような政府規制は,日本経済の発展過程において一定の役割を果たし
てきたことは認められるが,社会的・経済的情勢の変化に伴い,当初の必要
性が薄れる一方で,効率的経営や企業家精神の発揮の阻害,競争制限的体質
の助長等様々な競争制限的問題を生じさせてきており,社会的・経済的情勢
の変化に即して不断の見直しを行う必要がある。さらに,近年の円高傾向の
下で,事業者の生産性の向上,他業種への事業展開の促進など我が国経済社
会の柔軟性を高め,その自立回復及び将来への発展を促すとともに,国民生
活の質的向上を図り,我が国の市場をより国際的に開かれたものとする観点
からも,政府規制制度等の見直しが要請されている。
 また,独占禁止法適用除外制度については,市場メカニズムを通じた良
質,廉価な商品・サービスの供給に向けた経営努力が十分に行われず,消費
者利益を損なうなどのおそれがあり,我が国の市場をより開かれたものとす
ることが重要な課題となっている現在,市場メカニズムを制限している適用
除外制度が問題となっている。
 最近では,「今後における規制緩和の推進等について」(平成6年7月5
日閣議決定)において,さらに,規制緩和推進計画(平成7年3月31日閣議
決定)において,それぞれ公的規制の緩和の推進と,競争政策の積極的展開
のための個別法による独占禁止法適用除外カルテル等制度の見直しが掲げら
れている。
 なお,政府規制制度及び独占禁止法適用除外制度の見直しの必要性は海外
でも共通に認識されており,昭和54年に,OECD理事会が各加盟国に対し
これらを見直すべき旨の勧告を行っており,アメリカやヨーロッパ諸国にお
いても見直しが進められてきている。

第2 政府規制制度の見直し

政府規制制度見直しの経緯
 当委員会は,従来から競争政策の観点から政府規制制度について中長期
的に見直しを行ってきている。昭和63年7月以降,政府規制制度の見直し
及び関連分野における競争確保・促進政策の検討を行うため,学識経験者
等からなる「政府規制等と競争政策に関する研究会」(座長 鶴田俊正
専修大学教授)を開催している。同研究会は,物流関連分野(貨物運送,
流通等),消費者向け財・サービス供給分野(旅客運送,金融関連,LP
ガス販売)及び農業関連分野(生産資材,農業生産,農作物流通,食品加
工)を対象に検討を行い,平成元年に検討結果を取りまとめ公表した。
 その後,各方面において,規制見直しの気運が高まっていること等を踏
まえ,同研究会は,前回の報告書を基に再度,政府規制の現状,問題点及
びその見直しの在り方について検討を行い,改めてその検討結果を報告書
として取りまとめ,平成5年12月に「競争政策の観点からの政府規制の問
題点と見直しの方向」として公表した。
 同研究会では,同報告書で示した規制緩和の考え方に基づき,個別の分
野について,規制の弊害について調査・分析を行い,改めて規制見直しの
ための具体的な指摘を順次行っていくこととし,まず初めに平成6年8月
に「物流分野における政府規制の見直しについて」の報告書を取りまと
め,公表した。その概要は以下のとおりである。
(1) 物流分野における政府規制の問題点
 同報告書では,経済活動が国境を超えてグローバルに展開している中
で,国内物流分野は直接には国際的な競争圧力を受けていないが,その
上に,競争制限的な規制が存在すれば,他の産業分野における国内事業
者の国際競争力を弱め,消費者の利益を害することにもなるとの問題意
識の下に,物流分野における競争制限的な政府規制や独占禁止法適用除
外制度を見直し,消費者利益を確保する必要性を指摘している。
(2) 個別の物流分野における政府規制に関する主な指摘
 港湾運送事業や内航海運事業においては,事業調整の観点から事業
者団体の意向を尊重して参入規制が行われているが,このような規制
は,事実上新規事業者の参入を阻害している。また,内航海運業で
は,独占禁止法適用除外制度である船腹調整制度が実施されている
が,同制度は,スクラップアンドビルド方式を採用することにより,
既存事業者の合理化努力や新規事業者の参入を阻害しているという問
題がある。
 このような需給調整的観点からの参入規制や設備調整カルテルは,
速やかに廃止の方向で見直すべきである。
 貨物自動車運送事業における最低保有台数規制や,内航海運業にお
ける許可の運用基準である定期用船比率など,参入規制における施
設・人的要件等の事業遂行能力要件が結果的に需給調整要件と同様の
効果を持つ場合がある。施設,人的要件等の事業遂行能力要件は,あ
くまで事業遂行能力を担保するための必要最小限度のものとする必要
がある。
 港湾運送事業における極めて競争制限性の強い同規模港湾同一料金
制をはじめとした運賃・料金の認可制は,一企業のみならず産業全体
の効率化を阻害するおそれがあり,また,現実には相対で料金が決定
されているため,規制と実態との間に乖離が生じており,規制が形骸
化していることから,現行の価格規制については,認可制の廃止を含
めた抜本的な見直しが必要である。
 また,運賃・料金について事前届出制となっている業種において
も,変更命令を背景とした行政指導により,それが事実上認可と同様
の効果を持つことになると考えられ,抜本的な見直しが必要である。
 さらに,内航海運業における運賃協定は,現状維持志向の価格設定
に安住する傾向が生じ,効率的経営によるコスト削減努力がなされて
いないと考えられることから,速やかに廃止すべきである。
情報通信分野競争政策研究会の開催
 当委員会は,電気通信分野における競争政策上の課題について検討を行
うため,「情報通信分野競争政策研究会」(座長 実方謙二 北海道大学教
授)を開催し,同研究会は,過去数次にわたり取りまとめ・報告を行って
いるが,本年度においても,引き続き同研究会を開催し,最近における電
気通信分野の動向及び競争政策上の課題について検討を行った。
政府規制及び独占禁止法適用除外に関する合同検討会議の開催
 当委員会は,昭和55年4月以来,行政事務の簡素化・合理化の観点か
ら,許認可等の見直しを行っている総務庁との間で,「政府規制及び独占
禁止法適用除外に関する合同検討会議」及び実務担当者会議を開催し,政
府規制制度の見直しの基本方針,方法等について連絡・調整を行ってきて
いる。
 本年度においても,引き続き開催し,政府規制制度の見直しの実施状
況,規制が緩和された分野における競争政策上の課題等について連絡及び
意見交換を行った。

第3 独占禁止法適用除外制度の見直し

適用除外制度見直しの必要性
 独占禁止法は,公正かつ自由な競争の促進を通じて国民経済の民主的で
健全な発展を促進するため,私的独占,不当な取引制限及び不公正な取引
方法を禁止している。他方,中小企業などの経営の安定,企業の合理化を
図るため等,他の経済政策目的を達成する観点から,特定の分野における
一定の行為に独占禁止法の禁止規定の適用を除外するという独占禁止法適
用除外制度(以下「適用除外制度」という。)が設けられている。
現行の適用除外制度の多くは,昭和20年代から30年代に,産業の育成・
強化,国際競争力強化のための企業経営の安定,合理化等の達成するた
め,各産業分野において創設されてきた経緯がある。
 しかし,今日の我が国経済は,当時とは大きく変化し,世界経済におけ
る地位の向上,企業の経営体質の強化,消費者生活の多様化が進んでお
り,これに伴い,政府規制と同様に適用除外制度の必要性や有効性も大き
く変化してきていると考えられる。
 適用除外制度は,それが利用される場合には,当該産業における既存の
事業者の保護的性格を有しており,その結果,経営努力が十分行われず,
消費者利益を損なうおそれがある。また,現に利用されていない制度につ
いても,時代の要請に合致しない適用除外制度が将来においてもそのまま
利用されるおそれがあるほか,制度の存在それ自体を背景にして協調的行
動が取られやすく,競争を回避しようとする傾向が生じるおそれがあり,
このことにより,個々の事業者の効率化への努力が十分行われず,事業活
動における創意工夫の発揮が阻害されるおそれがある等の問題がある。
適用除外制度見直しの経緯
 適用除外制度については,「国際化対応,国民生活重視の行政改革に関
する答申」(平成4年6月第3次臨時行政改革推進審議会答申)におい
て,「個別の法律に基づく独占禁止法適用除外制度について,必要最小限
にとどめるとの観点から見直しを行い,平成7年度末までに結論を得るこ
ととし,その際に所管省庁は公正取引委員会と十分協議する。」ことが提
言された。
 平成5年9月の緊急経済対策(経済対策閣僚会議決定)では,適用除外
制度の見直しを実行に移すため,規制緩和等の推進のための施策の1項目
として「独占禁止法の適用を除外している個別の法律に基づく適用除外カ
ルテル等制度の見直しについて,平成7年度末までに結論を出すことと
し,関係省庁による連絡会議を開催する等見直し推進体制の整備を図
る。」ことが決定された。
 最近では,政府は,「今後における規制緩和の推進等について」(平成
6年7月5日閣議決定)において,「個別法による独占禁止法の適用除外
カルテル等制度については,5年以内に原則廃止する観点から見直しを行
い,平成7年度末までに具体的結論を得る。」ことを決定し,さらに規制
緩和推進計画(平成7年3月31日閣議決定)では,「個別法による独占禁
止法の適用除外カルテル等制度については,平成10年度末までに原則廃止
する観点から見直しを行い,平成7年度末までに具体的結論を得る。ま
た,その他の適用除外カルテル等制度についても,引き続き,必要な検討
を行う。」ことを決定している。
 また,平成5年9月の緊急経済対策の指摘を受け,内閣官房内閣内政審
議室の主催による「独占禁止法適用除外制度見直しに係る関係省庁等連絡
会議」が開催されてきており(第1回 平成5年11月,第2回 平成6年
3月,第3回 平成7年1月,第4回平成7年9月),平成7年度末まで
に見直しの結論を得るために,継続的に同会議を開催していくことが確認
されている。
 当委員会としては,このような会議の場などを通じて,それぞれの所管
省庁に対し適用除外制度見直しを働きかけていくなど.今後とも積極的に
適用除外制度見直しの推進を図っていくこととしている。
 また,再販売価格維持制度については,規制緩和推進計画,緊急円高・
経済対策(平成7年4月14日経済対策閣僚会議決定)及び経済対策(平成
7年9月20日経済対策閣僚会議決定)に基づき,再販指定商品については
その範囲の縮小後の状況等の調査を行った上で指定取消しのための所要の
手続を実施するとともに,再販適用除外が認められている著作物について
はその範囲の限定・明確化を図ることとしている(第13章第2参照)。