第6章 価格の同調的引上げに関する報告の徴収

第1 概   説

 独占禁止法第18条の2の規定により,年間国内総供給価額が600億円超
で,かつ,上位3社の市場占拠率の合計が70%超という市場構造要件を満た
す同種の商品又は役務につき,首位事業者を含む2以上の主要事業者(市場
占拠率が5%以上であって,上位5位以内である者をいう。以下この章にお
いて同じ。)が,取引の基準として用いる価格について,3か月以内に,同
一又は近似の額又は率の引上げをしたときは,当委員会は,当該主要事業者
に対し,当該価格の引上げ理由について報告を求めることができる。
 この規定の運用については,当委員会は,その運用基準を明らかにすると
ともに,市場構造要件に該当する品目をあらかじめ調査し,これを運用基準
別表に掲げ,当該別表が改定されるまでの間,同別表に掲載された品目につ
いて価格の同調的引上げの報告徴収を行うこととしている。

第2 価格の引上げ理由の報告徴収

 平成6年度上期において,独占禁止法第18条の2の規定する価格の同調的
引上げに該当すると認めて,同下期にその引上げ理由の報告を徴収したもの
は,磨き板ガラスの1件である。また,同下期において価格の同調的引上げ
に該当すると認めて,平成7年度上期にその引上げ理由の報告を徴収したも
のは,インスタントコーヒーの1件である。その概要は,次のとおりであ
る。

磨き板ガラス
 磨き板ガラスの平成2年における国内総供給価額は1420億円であり,上
位3社の市場占拠率の合計は98.6%である。主要事業者は,旭硝子株式会
社(以下「旭硝子」という。),日本板硝子株式会社(以下「日本板硝子」
という。)及びセントラル硝子株式会社(以下「セントラル硝子」とい
う。)の3社(以下「3社」という。)であり,首位事業者は旭硝子であ
る。
 旭硝子は平成6年6月10日から,日本板硝子は平成6年9月1日から,
セントラル硝子は平成6年8月1日から,それぞれ,磨き板ガラスの販売
価格の引上げを実施したが,この価格の引上げは,独占禁止法第18条の2
に規定する価格の同調的引上げに該当すると認められたので,当委員会
は,平成7年3月16日,これら3社に対して価格引上げの理由の報告を求
めた。
(1) 各社の価格引上げ状況
 磨き板ガラスの価格引上げは,各社がそれぞれの取引先と個別に価格
引上げ交渉を進める形で行われた。3社の価格交渉開始時期,価格引上
げ予定時期,価格引上げ実施日,販売価格の加重平均による引上げ率
は,下表のとおりである。

(2) 各社の価格引上げ理由
 3社から提出された報告書によると,価格引上げの理由は,以下のと
おりである。
旭 硝 子
 旭硝子は,磨き板ガラスの価格引上げの主たる理由として,平成6
年に入り販売価格が低下し,設備の一部休止継続,本社・工場等の省
人化の一層の推進等の合理化策のみでは,販売価格の低下分を吸収し
きれず,硝子事業部の収支が悪化してきたため,平成6年(平成6年
1月~同年12月)の事業部収支の赤字化を回避する必要性があったこ
とを挙げている。販売価格の引上げ目標の設定については,平成6年
下期収益を平成5年上期の水準まで戻すことをその根拠としている。
日本板硝子
 日本板硝子は,磨き板ガラスの価格引上げの主たる理由として,平
成5年度(平成5年4月~平成6年3月)における会社全体の営業損
益が約32億円の赤字となり,その要因として,主力部門である硝子建
材事業部門の収支の悪化が影響していることから,当該部門の売上総
利益を回復する必要性があったことを挙げている。価格引上げを含め
た売上総利益の引上げ目標については,首位事業者の価格引上げ状況
を考慮し設定したとしている。
セントラル硝子
 セントラル硝子は,磨き板ガラスの価格引上げの主たる理由とし
て,平成5年度(平成5年4月~平成6年3月)における会社全体の
経常損益は約12億円の赤字であり,平成6年度(平成6年4月~平成
7年3月)に入っても販売価格の低下がみられ,当該年度の磨き板ガ
ラス部門の経常損益が前年に引き続き赤字化することが見込まれたこ
とから,それを回避する必要性があったことを挙げている。販売価格
の引上げ目標の設定については,年度の当初予算上の価格水準に戻
し,経常損益の黒字化を図ることをその根拠としている。
インスタントコーヒー
 インスタントコーヒーの平成4年における国内総供給価額は,1565億円
であり,上位2社の市場占拠率の合計は,84.6%である。主要事業者は,
ネスレ日本株式会社(以下「ネスレ日本」という。)及び味の素ゼネラル
フーヅ株式会社(以下「AGF」という。)であり,首位事業者は,ネス
レ日本である。
 ネスレ日本及びAGFは,平成7年1月1日からインスタントコーヒー
の販売価格の引上げを実施したが,この価格引上げは,独占禁止法第18条
の2に規定する価格の同調的引上げに該当すると認められたので,当委員
会は,平成7年7月4日,これら2社に対して価格引上げの理由の報告を
求めた。
(1) 両社の価格引上げ状況
 ネスレ日本及びAGFの価格引上げの公表日,取引先への通知日,価
格引上げ日及び引上げ幅は,下表のとおりである。

(2) 両社の価格引上げの理由
 ネスレ日本及びAGFから提出された報告書によると,価格引上げの
理由は,以下のとおりである。
ネスレ日本
 ネスレ日本は,インスタントコーヒーの価格引上げの主たる理由と
して,平成6年6月及び7月のブラジルの霜害及び干ばつによりコー
ヒー生豆価格が高騰した結果,円高による10%程度の為替差益があっ
たものの,売上原価が大幅に上昇し,平成7事業年度(平成7年1
月~同年12月。以下ネスレ日本において同じ。)の営業利益率が,平
成6事業年度の13.8%から6.9%へと約半分の水準にまで減少すると
予想されたことを挙げている。このため,平成6事業年度並の営業利
益率を確保することを勘案しつつ,商品ごとに一般消費者に受け入れ
られると考えられる適正価格の範囲を想定し,その範囲内で検討を行
い,価格引上げ率については,生産者販売価格で平均12.89%,希望
小売価格で平均13.11%となったとしている。
A G F
 AGFは,インスタントコーヒーの価格引上げの主たる理由とし
て,平成6年6月及び7月にブラジルで2回にわたり発生した霜害に
よるコーヒー生豆価格の高騰によるコストアップへの対処を挙げてい
る。価格引上げ率については,総原価の販売価格に占めるウエイトに
ついて,平成6年10月から平成7年3月の見込み平均が過去3事業年
度(平成3年4月~平成6年3月)の平均実績とほぼ同じようになる
ことを基本としたが,、首位事業者の対抗商品の引上げ動向を考慮した
結果,生産者販売価格で平均12.90%,希望小売価格で平均13.12%と
せざるを得なかったとしている。