第4 六大企業集団に関する実態調査

調査の趣旨
 我が国において企業集団あるいは企業グループといわれるものは種々あ
るが,三井,三菱及び住友(旧財閥系企業集団)並びに芙蓉,三和及び第
一勧銀(銀行系企業集団)の各グループについては,その規模,影響力等
から,特に六大企業集団と呼ばれている。
 また,近年,我が国の企業集団に関し,種々の議論が行われており,平
成2年6月28日の日米構造協議最終報告においても,系列問題の一つとし
て取り上げられ,定期的な調査の実施,調査結果の公表等について言及さ
れているところである。
 このような状況を踏まえて,競争政策の観点から,六大企業集団におけ
るメンバー企業の結び付きの状況,集団内取引の状況等を調査し,企業集
団の実態及び集団内取引の実態等を把握することを目的として,本調査を
実施し,その結果を取りまとめ,平成6年7月に公表した。
調 査 結 果
(1) 社長会及びその他の会合の活動状況
 六大企業集団の社長会を構成するメンバー企業は,銀行,総合商社を
はじめ製造業,不動産業等広範な業種において我が国を代表する企業で
あり,社長会は,毎月1回(第一勧銀グループは3か月に1回),定期
的に開催されている。社長会では,主に外部講師や会員による内外の経
済情勢等の講演や,寄付・博覧会等のグループ活動の報告等が行われて
おり,個別企業の業務内容や事業についての話合いや調整は行われると
いうことはない。
 社長会以外の会合は,企業の各階層別に設けられているが,社長会と
同様外部講師による内外の経済情勢等の講演や,一般的な経済情勢につ
いての情報交換等が行われている。また,旧財閥系企業集団では,商
標・商号の使用許諾等の管理保全を行うことを目的とする会合を設けて
いる。
 なお,六大企業集団の社長会の結成時期及びそのメンバー企業数は,
第1表のとおりである。
(2) 株式の持合いの状況
 六大企業集団メンバー企業間の株式所有関係については,六大企業集
団それぞれ一様ではないが,総じて半数以上の同一企業集団内メンバー


企業の株式を所有しており,株式所有関係率は平成元年度から平成3年
度にかけて54.63%から55.33%へ上昇し,株式を所有するメンバー企業
数は増加したが,平成4年度には55.16%へ低下した。また,株式所有関
係の強さを示す平均持株率は平成元年度から平成3年度にかけて1.42%
から1.41%へ低下したが,平成4年度は1.41%で横ばいで推移した。
 その結果,メンバー企業の総発行株式のうち,同一企業集団のメン
バー企業が所有している株式の比率を示す集団内株式所有率は平成元年
度から平成3年度にかけて21.64%から22.31%へ上昇したが,平成4年
度には22.21%へ低下した。
 株式所有関係を相互に株式を所有し合っている場合と片側のみが株式
を所有している場合とで分類すると,六大企業集団平均では,株式所有
関係数のうち,80%程度が相互株式所有関係にある。
 また,平成元年度から平成3年度にかけて相互株式所有関係率
は43.25%から44.14%へ上昇し,片側株式所有関係率は11.38%から
11.18%へ低下した。しかし,平成4年度には,相互株式所有関係率は
43.96%へやや低下,片側株式所有関係率は11.20%へやや上昇した。相
互に株式を所有している場合の1社当たりの平均持株率については,各
企業集団の平均持株率よりも低い数値となっており,六大企業集団平均
では平成元年度は1.21%,平成3年度は1.20%,平成4年度は1.20%と
推移している。
 相互株式所有が成立している場合の集団内株式所有率は,各企業集団
で一様ではないが,六大企業集団平均では平成元年度から平成3年度に
かけて13.82%から14.49%へ上昇し,平成4年度には14.47%へやや低
下した(第2表)。
(3) 株主の状況
 メンバー企業が同一企業集団メンバー企業の株主上位10位以内の株主
となっている場合の合計持株率は,平成元年度に比べ全企業集団で上昇
した。また,株主上位10位の合計持株比率を100としたときの同一企業
集団メンバー企業の持株比率の占める割合についても,平成元年度に比
べ全企業集団で上昇した。
 同一企業集団メンバー企業がメンバー企業の筆頭株主になっている比
率,また,株主上位3位,株主上位5位,株主上位10位までに占める同
一企業集団メンバー企業数の比率は,平成元年度に比べて各順位で上昇
しており,株主上位になるほどメンバー企業が株主になっている比率が
高い。
 各企業集団メンバー企業における株主上位50位までに占める同一企業
集団メンバー企業の比率は,平成元年度から平成4年度にかけて18.57%



と横ばいで推移した。また,六大企業集団平均では,他の企業集団メン
バー企業が占める比率,外国会社の占める比率が上昇し,その他国内金
融会社の比率が低下した。
 各企業集団メンバー企業における株主上位50位までの持株率の合計
は,各企業集団で60%から70%を占めているが,平成元年度に比べると
六大企業集団平均で65.01%から64.11%へと低下している。
 株主上位50位までの同一企業集団メンバー企業の持株率の合計は,六
大企業集団平均で35.01%から36.24%へと上昇した。
 また,六大企業集団平均では,他の企業集団メンバー企業が占める比
率,外国会社の占める比率が上昇し,その他国内金融会社の比率が低下
した(第3表)。
(4) 役員の派遣等の状況
 各企業集団メンバー企業間の役員派遣については,各企業集団で一様
ではないが,総じて半数以上のメンバー企業が同一企業集団のメンバー
企業からの役員を受け入れているものの,受け入れている役員の役員総
数に占める比率は5.83%であり,平成元年度の6.34%に比べ低下した
(第4表)。
(5) 取引の状況(金融機関を除く。)
 総売上高に占める同一企業集団のメンバー企業への売上高の比率は,
平成4年度において六大企業集団平均では6.85% 総仕入高に占める同
一企業集団のメンバー企業からの仕入高の比率は,平成4年度において
六大企業集団平均では7.75%となっている。 集団内売上比率6.85%の
うち,メンバー企業の総合商社への売上比率が4.17%であり,60%程度
を占めている。集団内仕入比率7.75%のうち,総合商社の同一企業集団
メンバー企業からの仕入比率が4.95%であり,集団内売上比率と同様に
60%程度を占めている。また,集団内取引の状況を平成元年度と比べる
と,六大企業集団平均では,集団内売上比率は7.64%から6.85%へ,集
団内仕入比率は8.53%から7.75%へ低下している。
 六大企業集団の集団内取引関係については,各企業集団で大きな差異
があり,同一企業集団メンバー企業の6割以上と取引関係にあるグルー
プから3割程度しかないグループまであるが,平成元年度と比べて総じ
て低下している。また,相手方メンバー企業1社当たりの平均売上高率
は0.63%,平均仕入高率は0.83%となっている。
 金融機関を除くメンバー企業のうち,「株式所有関係にあり,かつ,
取引関係にある」場合は32.09%であり,「株式所有関係もなく,取引関
係もない」場合は38.34%となっている。
 相互取引関係にある場合の平均売上高率は,片側取引関係にある場合
よりも高い。また,相互株式所有関係にある場合の平均売上高率は片側
株式所有関係にある場合よりも高く,片側株式所有関係にある場合の平
均売上高率は株式所有関係がない場合よりも高い。
 六大企業集団メンバー企業が所有する構内用電子交換機(PBX)の
状況をみると,同一企業集団のメーカー製品の占める台数比率が90%以
上のグループから1%弱程度のグループまでと各企業集団で大きな差異
があり,六大企業集団平均で59.11%となっている(第5表)。
(6) 主要取引における関係会社(10%以上出資会社)の状況
 金融機関を除く企業集団メンバー企業の売上高上位30位以内に当該メ
ンバー企業が10%以上出資している企業(以下「関係会社」という。)
の占める比率を平成元年度と平成4年度で比較すると,六大企業集団平
均では23.15%から23.21%へとやや上昇した。


 このうち,出資比率が50%を超える国内の関係会社の比率は10.75%
から11.47%へと上昇した。また,企業集団メンバー企業の総売上高に
占める企業集団メンバー企業の売上高上位30位以内の関係会社への売上
高の比率を平成元年度と平成4年度で比較すると,六大企業集団平均で
は15.60%から14.17%へと低下した。このうち,出資比率が50%を超え
る国内の関係会社の比率は499%から5.71%へと上昇した。
 金融機関を除く企業集団メンバー企業の仕入高上位30位以内に関係会
社の占める比率を平成元年度と平成4年度で比較すると,六大企業集団
平均では28.82%から31.62%へと上昇した。このうち,出資比率が50%
を超える国内の関係会社の比率は17.46%から20.20%へと上昇した。
 企業集団メンバー企業の総杜入高に占める企業集団メンバー企業の仕
人高上位30位以内の関係会社からの仕入高の比率を平成元年度と平成4
年度で比較すると,六大企業集団平均では22.95%から19.87%へと低下
した。しかし,出資比率が50%を超える国内の関係会社の比率が5.52%
から7.54%へと上昇した(第6表)。

(7) 金融機関の状況
 六大企業集団内の金融機関は,特に都市銀行を中心に,同一企業集団
メンバー企業のほとんどと相互に株式を所有し合っているとともに,メ
ンバー企業の40%程度に役員を派遣しているほか,メンバー企業のほと
んどに貸出しを行っている。
 しかしながら,六大企業集団内の金融機関の貸出金依存率は,各企業
集団で一様でないが,六大企業集団平均で平成元年度の3.13%から平成
4年度には3.72%へ上昇したものの,総じて低い水準にある。
 また,六大企業集団のメンバー企業の集団内借入金依存率は,各企業
集団で一様ではないが,六大企業集団で平成元年度の17.48%から平成
4年度には19.52%へ上昇したものの,平成4年度の上場企業の借入先
第1位の金融機関からの借入金依存率の平均27.38%を下回っている(第
7表)。
(8) 総合商社の状況
 総合商社については,旧財閥系企業集団ではほとんどの企業集団メン
バー企業の株式を所有し,株式所有関係の面で金融機関と並ぶ存在と
なっているが,銀行系企業集団では企業集団メンバー企業のうち58.61%
の企業の株式を所有しているにすぎず,金融機関ほどの存在とはなって
いない。また,平均持株率も銀行系企業集団に比べ旧財閥系企業集団が
高く,六大企業集団平均で1.5%となっている。
 総合商社の同一企業集団メンバー企業への役員派遣の状況は,総合商
社から役員を派遣されている企業の比率を示す派遣会社比率で六大企業
集団平均は10.76%,役員総数のうち同一企業集団の総合商社から派遣
されている役員の比率を示す派遣役員比率で六大企業集団平均は0.32%
となっているが,どちらも金融機関の派遣会社比率41.28%,派遣役員
比率2.20%に比べて低い数値となっている。
 総合商社の取引状況をみると,総合商社は同一企業集団内メンバー企
業のほとんどすべてと取引をしており,集団内取引の大部分は総合商社
との取引が占めている。総合商社の総取引高に占める同一企業集団メン


バー企業との取引高の比率は,売上高で2.70%,仕入高で8.37%であ
る。
 また,総合商社を除いたメンバー企業の同一企業集団内総合商社との
取引の比率は,売上高で8.58%,仕人高で3.93%であり,平成元年度の
売上高の10.80%,仕人高の5.05%に比べ低下した(第8表)。

(9) 我が国の経済に占める地位
 平成4年度における六大企業集団メンバー企業(金融機関を除く。)
が我が国の法人企業全体(金融機関を除く。)に占める比率をみると,メ
ンバー企業数では0.007%を占めるにすぎないが,企業の総合的な経済
力を表す指標で見た場合には,資本金では15.29%,総資産では12.52%,
売上高では13.79%となっており,依然として高い地位を占めているも
のの,平成元年度の資本金17.24%,総資産13.54%,売上高16.23%に
比べ,いずれも低下した。
 各メンバー企業の50%超出資子会社を含めた場合の比率は,平成4年
度で資本金では19.29%,総資産で16.65%,売上高で18.37%となって
おり,平成元年度の資本金20.93%,総資産17.68%,売上高20.41%に
比べ,いずれも低下した(第9表)。

(10) ま と め
 六大企業集団の株式所有を通じた関係は,各企業集団で一様ではない
が,昭和52年度以降の推移を見ると,六大企業集団平均で,株式所有関
係率は平成3年度まで上昇傾向にあったが,平成4年度には低下し,平
均持株率は昭和52年度から一貫して低下しており,集団内株式所有率は
平成元年度から平成3年度にかけて上昇した以外,昭和56年度以降低下
している。
 また,人的な結び付きを示す役員派遣関係についても,各企業集団で
一様ではないが,六大企業集団平均で,同一企業集団のメンバー企業か
らの派遣役員を受け入れている企業の比率及び役員総数に占める派遣役
員の比率は,昭和56年度以降,一貫して低下傾向にある。
 さらに,メンバー企業の取引高に占める同一企業集団メンバー企業
との取引高の比率は,売上高で6.85%,仕入高で7.75%であり,取引の
うち9割以上が同一企業集団に属さない企業との間で行われていること
を示している。しかもその比率は,昭和56年度以降,一貫して低下して
いる。
 このように,社長会メンバー企業を構成企業とする六大企業集団につ
いては,一定の株式の持合い,役員派遣及び取引関係がみられるもの
の,その関係の程度は強いものとはいえず,また,総じて弱まってきて
おり,六大企業集団が排他的・閉鎖的な取引慣行等を有するものである
とは言い難い。
 しかしながら,六大企業集団の我が国の経済に占める地位は依然とし
て大きく,かつ,それぞれの業種においていずれも有力な企業がメン
バー企業となっていることから,今後,企業集団の人的・資本的な結び
付きが強まることによって,企業間取引が排他的・閉鎖的となり,ま
た,事業支配力が集中する傾向が生じるような場合には,我が国の経済
に及ぼす影響は無視できない。
 したがって,当委員会としては,競争政策の観点から,今後とも定期
的に六大企業集団の実態を調査し,集団としての結び付きの状況や活動
の状況の把握に努めていく方針である。
 なお,企業集団及びそのメンバー企業においても,企業集団の実態や
取引慣行,企業行動等を一層透明化することにより,広く内外一般の理
解を深めるよう更に努力することが期待される。