第11章 不公正な取引方法の指定及び運用

第1 概   説

 独占禁止法は,不公正な取引方法の規制として第19条において事業者が不
公正な取引方法を用いることを禁止しているほか,事業者及び事業者団体が
不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際契約を締結すること,事
業者団体が事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにするこ
と,会社及び会社以外の者が不公正な取引方法により株式を取得し又は所有
すること,会社が不公正な取引方法により役員の兼任を強制すること,会社
が不公正な取引方法により合併すること等の行為を禁止している(第6条第
1項,第8条第1項,第10条第1項,第13条第2項,第14条第1項,第15条
第1項等)。
 不公正な取引方法として規制される行為の具体的内容は,当委員会が法律
の枠内で告示により指定することとされている(第2条第9項,第72条)。
 不公正な取引方法に関しては,上記規定に違反する事件処理のほか,不公
正な取引方法の指定に関する調査,不公正な取引方法の防止のための指導業
務等がある。また,最近,事業者の流通分野に対する関心の高まりとともに
不公正な取引方法に関する相談が増加しており,当委員会ではこれらの相談
に積極的に応じることにより違反行為の未然防止に努めている。

第2 不公正な取引方法に関する実態調査及び改善指導

大規模小売業者と納入業者との取引に関する実態調査
(1) 調査の趣旨
 当委員会は,事業者等の独占禁止法違反行為の未然防止とその適切な
活動の展開に役立てるため,平成3年7月に「流通・取引慣行に関する
独占禁止法上の指針」(以下「指針」という。)を策定・公表し,この中で
小売業者による優越的地位の濫用行為についての独占禁止法上の考え方
と独占禁止法上問題となる行為を類型別に示したところである。
 当委員会は,指針公表後,指針で問題があるとされたような行為が行
われているか,また,指針公表後,納入取引の実態はどのように変化し
ているのかなどの観点から,最近における大規模小売業者と納入業者の
取引の実態を把握するために本調査を行い、平成7年2月に公表した。
(2) 調査の結果
納入取引の実態と指針公表後の変化等
 本調査は,納入業者を書面調査の対象とし,納入業者の意見を集約
した限定的なものではあるが,その結果の概要は以下のとおりであ
る。
(ア) 押し付け販売
 小売業者が購入を要請する方法として,仕入担当者が購入を要請
してきた場合が高い割合を占めている。また,一方的に商品を送り
つけたり,あるいは購入しないと取引上不利になるとの懸念がある
ため納入業者が購入に応じざるを得ない押し付け販売が依然として
存在している。
 しかし,指針公表後,押し付け販売が「大幅に減った」又は「若
干減った」と認識している納入業者がそれぞれ2割を超え,また,
購入を要請される商品の額が少額になり,あるいは強制的でなく
なったとする意見も多かった。
(イ) 返品,従業員等の派遣の要請,協賛金の種類の負担の要請
 返品については,納入業者の納入商品の種類によって返品の割
合に大きな差異が認められ,食料品及び雑貨では他の業種に比べ
て返品の割合が極めて低い数値であった。
 小売業者と納入業者との間で,返品の条件が「明確になってい
る」(「一部の取引先について明確になっている」場合を含む。以
下同じ。)とする納入業者の割合は小売業者の各業態とも7~8割
前後であり,業態別にみるとスーパーの場合,他の業態に比べ明
確化されている割合が若干高い。
 納入業者の多くは,事前に返品の条件が明らかになっている場
合,あるいは事前に相談があり納入業者が了承した場合について
は,返品をやむを得ないものとして受け入れるという認識を示し
ている。
 従業員の派遣の要請について,百貨店の場合,納入商品の販売
に従事させる目的で従業員を派遣している事例が多いのに対し,
スーパー及びその他の量販店は納入商品の販売業務以外の業務
(新規開店・催事の準備作業,倉庫からの商品の出し入れ,決算
期のための商品の検品作業等)に従事させる目的で従業員を派遣
している事例が多く見られた。
 小売業者と納入業者の間で,従業員等の派遣条件があらかじめ
明確にされているかについて,「明確になっている」とする納入
業者の割合は6~7割前後であり,業態別にみると百貨店及び
スーパーの場合,他の業態に比べ明確化されている割合が若干高
い。
 協賛金の負担を要請された納入業者の割合は約7割であり,こ
のうち,「納入商品の販売促進につながると思われるもの」,「共
同で商品販売促進を図るための催事・広告の費用」の割合が高
かったが,他方で「新規開店,創業祭への協賛等の名目」,「納入
商品の販売促進に寄与するとは思われないもの」等の割合も高
かった。
 小売業者と納入業者との間で協賛金等の負担条件が「明確に
なっている」とする納入業者の割合は各業態とも6~7割前後で
あり,業態別にみると百貨店の場合,他の業態に比べ明確化され
ている割合が若干高い。
 指針公表後,返品,従業員等の派遣の要請及び協賛金等の負担
の要請のいずれについても,その実態は「ほとんど変わらない」
とする納入業者が多数を占めてはいるが,これらが「大幅に滅っ
た」又は「若干減った」とする納入業者の割合が「若干増えた」
を上回っている。
(ウ) 多頻度小口配送等
 多頻度小口配送に伴う費用の増分の負担について,小売業者と
「協議の機会が与えられなかった」又は「協議に応じてくれな
かった」場合において,結果として配送費用の増分をすべて納入
者側が負担したものが約8割を占めている。また,何らかの形で
小売業者と協議した場合であっても「協議したにとどまり,結
局,負担額の引下げは見送られた」とする納入業者の割合が同じ
く約8割を占めており,多頻度小口配送に伴う費用の増分の負担
について不満を有している納入業者が多いと考えられる。
 受発注システム費用の負担に関しては,小売業者と「協議の機会
が与えられなかった」とする納入業者の割合が約6割を占めてい
る。また,何らかの形で小売業者と協議した場合であっても「協
議したにとどまり,結局負担額の引下げは見送られた」とする納
入業者の割合が同じく約6割を占めており,受発注システム費用
の負担について不満を有している納入業者が多いと考えられる。
 他方,小売業者と協議しなかった納入業者のうち,「負担額に
特に不満はない」とする納入業者も約4割あった。
 また,物流センターの利用料について小売業者と「協議の機会
が与えられなかった」とする納入業者の割合が約5割を占めてい
る。何らかの形で小売業者と協議した場合であっても「協議した
にとどまり,結局,負担額の引下げは見送られた」とする納入業
者の割合が同じく約5割を占めており,物流センターの利用料に
ついて不満を有している納入業者が多いと考えられる。
 他方,小売業者と協議しなかった納入業者のうち,「負担額に
特に不満はない」とする納入業者も約2割あった。
(エ) 事後値引きの要請
 小売業者から事後値引きの要請がなかったとする納入業者は約6
割であり,小売業者が事後値引きを要請した場合であっても,納入
業者と協議する場合は約7割と大半を占めている。
 このように,事後値引きについては,小売業者からの要請はあま
り広く行われておらず,また,要請された場合であっても,大半
は,小売業者と納入業者との間で協議した上で行われているとみる
ことができる。
(オ) 不当に短い納入期限の設定
 納入期限の設定は,「協議の上その都度決定している」とする者
が約7割を占めており,また,納入期限を守れなかった場合でもペ
ナルティはないとする納入業者が高い割合を示している。
 このことから,納入期限の設定については,おおむね納入業者が
不当に不利益を受けている状況にはないと考えられる。
(3) 独占禁止法上の評価と今後の対応
大規模小売業者と納入業者との納入取引の問題点等をみると以下の
とおりである。
(ア)  納入取引において,指針公表後,押し付け販売がほとんど変わっ
ていないとする納入業者が依然として存在するものの,これが減少
したとする納入業者の割合も比較的高いこと,返品,従業員等の派
遣の要請及び協賛金等の負担の要請がほとんど変わっていないとす
る納入業者の割合が高いものの,これらが減少したとする納入業者
も少なからぬ割合を占めていること等から,指針公表後はそれ以前
に比し,小売業者と納入業者との間との納入取引が公正化の方向に
向かいつつあると評価できる面もあると考えられる。
(イ)  しかし,他方で,本調査が納入業者からの意見のみを集約した限
定的なものであるとはいえ,①押し付け販売については仕入担当者
が購入を要請したとする等の回答が多くみられたこと,②小売業者
の在庫調整等に伴う返品があったとする回答が多く見られたこと,
③新規開店・催事の準備作業等納入業者の販売業務以外の業務に従
事させる目的の従業員等の派遣の要請が行われたとする回答が多く
みられたこと,④納入商品の販売促進に寄与するとは思われない協
賛金等の負担の要請が行われたとする回答が多くみられたこと,⑤
多頻度小口配送に係る費用負担については,小売業者が納入業者と
十分協議することなく納入業者に費用負担を求めあるいは協議をし
てもその内容が十分ではないとする回答が多くみられたこと等か
ら,大規模小売業者との納入業者の納入取引については,依然とし
て問題点が多いとみることができる。
 こうした問題点が残されているのは,指針が小売業者の内部で十
分に周知されていないことが大きいのではないかと考えられる。
 このため,公正取引委員会は,大規模小売業者と納入業者との取引
の一層の公正化を図るために,日本百貨店協会及び日本チェーンスト
ア協会等に対して,指針等の内容が会員各社内で周知徹底されるよう
指導を要請し,また,一部の大規模小売業者に対しても,改めて社内
でその周知徹底等を図るよう要請した。
 ディスカウントストアの成長とメーカーのチャネル政策の変化に関する
調査
(1) 調査の趣旨
 当委員会は,近年のディスカウントストア等の進出・成長による流通
構造の変化に伴い,メーカーによるチャネル政策(自己の商品の販売に
ついて自己の政策が実現できるよう販売業者に働きかける行為)がどの
ように変化してきたかを把握し,その競争政策上の問題点,今後の課題
について検討を行うため,学識経験者等からなる流通問題研究会(座長
 鶴田俊正専修大学教授)を開催した。同研究会は,それまでの検討結
果を「ディスカウントストアの成長とメーカーのチャネル政策の変化に
関する調査」として取りまとめ,平成6年10月にこれを公表した。
同研究会の取りまとめた調査結果の概要は,次のとおりである。
(2) 調査結果の概要
 日本の流通業界においては,かつては,メーカー主導のチャネル政
策が通りやすい状況であったが,最近は低価格販売が広がってメー
カー主導の価格体系が崩れ,価格やサービス面での競争が活発化する
傾向がある。これは,ディスカウントストア等が進出し,流通構造の
変化が進展したことによると考えられ,メーカーもディスカウントス
トアの販売力に着目し,正規の取引相手として認知し,さらに,ディ
スカウントストア等と共同で販売・生産計画を立てる等,積極的に提
携する動きも出てきている。
 また,流通・取引慣行ガイドラインの公表による法運用の明確化等
により,流通業界における競争を促進する観点からの環境整備が行わ
れたこと,大規模小売店舗法の緩和により大規模小売業者の出店が比
較的容易になったこともこのような動きに寄与したといえる。
 一方,メーカーが系列の小売業者を選別し,選別した小売業者に対
し,リテール・サポートや情報ネットワーク化等によって支援を強化
しようとする動きもみられ,メーカーの小売業者に対する影響力が強
化されて小売業者の経営の自由度が弱まる可能性がある。
(3) 競争政策上の評価と問題点
 政府規制制度については,規制緩和を推進するとともに,規制が緩
和された分野においても,独占禁止法違反行為を積極的に排除してい
く必要がある。
 また,独占禁止法適用除外制度についても,市場メカニズムの一層
の活用を図る観点から必要最小限のものに限定すべきであり,積極的
に見直しを行っていく必要がある。
 メーカーが流通業者を拘束することは,原則として独占禁止法上問
題となり,その手段として行われる行為も問題となるおそれがあるこ
とから,これらの問題が生じないようにしていく必要がある。
 消費者の適正な商品選択を確保するため,おとり広告や不当な二重
価格表示等,景品表示法上の問題が生じないようにしていく必要があ
る。
 メーカーがリテール・サポートを行う系列の小売業者を選別して
も,直ちに独占禁止法上問題が生じるとはいえないが,例えば,メー
カー希望小売価格どおりに販売する小売業者に重点を置くなど,メー
カーの販売政策に従う小売業者を対象としてリテール・サポートを行
えば,独占禁止法上問題となる。このため,リテール・サポートを行
う場合には,その基準を明確化し,小売業者に開示することが望まし
い。        
 リベートは,市場の実態に即した価格形成を促進するという側面も
あり,リベートの供与自体が直ちに独占禁止法上問題となるものでは
ない。しかし,メーカーが支給基準の不明権なリベートを裁量的に提
供する場合,系列小売店をメーカーの販売政策に従わせやすくすると
いう効果を生じ,系列小売店の事業活動を制限することとなりやす
く,独占禁止法上問題となる場合がある。リベートについては,今後
とも,支給基準の明確化と,その小売業者への開示を一層進めること
が望ましい。
 情報ネットワークは,その構築の仕方や運用の在り方いかんでは,
流通系列化の強化,再販売価格維持等の競争政策上の問題を生ずる可
能性等もあり,このような問題が生じないようにしていく必要があ
る。
新    聞
 新聞業においては,独占禁止法及び景品表示法に基づく告示により,押
し紙(注文部数を超えて新聞を供給すること)及び拡材(販売部数拡大等
のために用いられる景品類)・無代紙(購読者に無償で供給される新聞)
の提供等の行為は禁止されているにもかかわらず,これらに係る違反事例
の申告や情報提供が跡を絶えない。このため,当委員会はこれらの全国
的・全般的な事態を把握し,併せて新聞業における取引の公正化を図るこ
とを目的として,従来から各種の調査を実施するとともに,新聞公正取引
協議委員会に対して随時,指導を行ってきている。
 当委員会は,本年度においては,昨年度に引き続き,当委員会の消費者
モニターに対し,拡材・無代紙の提供の有無等についてアンケート調査を
実施するなど正常化の監視に努めるとともに,その調査結果を踏まえて,
新聞公正取引協議会に対し,問題点の改善指導及び正常化の推進について
要望を行った。

第3 不公正な取引方法に関する相談状況

 当委員会は,独占禁止法の不公正な取引方法に関する電話・来庁等による
一般からの相談に対して,従来から積極的に応じてきている。また,平成元
年2月からは,「特許・ノウハウライセンス契約における不公正な取引方法
の規制に関する運用基準」に基づき,平成3年7月には「流通・取引慣行に
関する独占禁止法上の指針」に基づき,それぞれ特許・ノウハウライセンス
契約,流通・取引慣行に係る事前相談制度を設けている。