第3 下請代金の支払状況等

 当委員会は,定期親事業者調査により報告された結果を基に,昭和33年度
以降,毎年,下請代金の支払状況等を取りまとめ,これを公表している。本
年度の親事業者調査の対象とした資本金3000万円以上の製造業者のうち,
8,962社(23,415事業所)について,その下請取引の実態及び下請代金の支
払状況を見ると,次のとおりである。

下請取引の実態
(1) 下請取引をしている割合
 下請取引をしている事業者の割合は84.4%(7,561社)であった。
 下請取引をしている事業者の割合を業種別にみると,「精密機械器
具製造業」(97.6%),「電気機械器具製造業」(97.2%),「一般機械器
具製造業」(95.8%),「輸送用機械器具製造業」(93.6%),「その他の
製造業」(91.9%),「金属製品製造業」(91.7%),「プラスチック製品
製造業」(90.5%),「パルプ・紙・紙加工品製造業」(90.3%)及び
「鉄鋼業」(90.2%)において9割を超えているが,「窯業・土石製品
製造業」(44.5%),「石油製品・石炭製品製造業」(46.0%)などの業
種では低い。
(2) 取引先下請事業者数
 親事業者の1事業所当たり取引先下請事業者の数は29社である。
 1事業所当たりの取引先下請事業者の数を業種別に見ると,最も多
いのは「精密機械器具製造業」(1事業所当たり58社の下請事業者と
取引している。),次いで「輸送用機械器具製造業」(同50社),「出
版・印刷・同関連産業」(同46社)であり,一般に下請取引をしてい
る企業の割合の高い機械関係の業種では取引先下請事業者数も多く,
下請取引をしている企業の割合の低い「石油製品・石炭製品製造業」
(同6社),「飲料・飼料・たばこ製造業」(同6社),「食料品製造業」
(同8社)などでは取引先下請事業者数も少ない傾向にある。
下請代金の支払状況等
(1) 支払期間
 納品締切日から支払日までの月数(以下「支払期間」という。)を
事業所ごとにみたものの平均は0.79か月(23.7日)となっており,総
体としてみると,納品締切日を月末とした場合,下請代金は翌月25日
までには支払われているということになる。
 支払期間を業種別にみると,繊維関係の業種において比較的短く,
機械関係の業種において比較的長いという傾向がある。
 支払期間が1.0か月を超えるもの(この場合は,納品されてからそ
の代金が支払われるまでの期間が60日を超えることがあるので,下請
法第4条第1項第2号の規定に違反するおそれがあるものである。)
は,200事業所(集計対象事業所数の2.1%に相当)である。なお,こ
れらのケースはすべて違反被疑事件として調査の対象としている。
(2) 現金支払割合
 下請代金のうち,現金で支払われる割合(以下「現金支払割合」と
いう。)を事業所ごとにみたものの平均は60.4%であり,総体として
みると,下請代金の約6割は現金で支払われているということにな
る。
 現金支払割合を業種別にみると,業種ごとに大きな差異があり,
「衣服・その他の繊維製品製造業」(89.4%),「食料品製造業」
(79.8%),「なめし革・同製品・毛皮製造業」(76.6%),「繊維工業」
(75.3%),「木材・木製品製造業」(74.2%),「石油製品・石炭製
品製造業」(73.2%)などが高いのに対し,「一般機械器具製造業」
(43.4%),「精密機械器具製造業」(44.9%),「ゴム製品製造業」
(47.0%)などは低い。
(3) 手形期間
 下請代金を手形により支払っている場合の手形の期間(各事業所
が交付した手形のうち,最も期間の長い手形について集計)をみる
と,手形期間が90日以下のものは16.2%,90日超120日以下のものは
68.6%,120日超のものは15.2%である。
 120日超の手形を交付している事業所の割合が高い主要な業種は,
「衣服・その他の繊維製品製造業」(58.7%),「繊維工業」(46.9%)
などである。
下請代金の支払状況の推移
 下請代金の支払状況の推移をみると次のとおりであり,長期的には昭和
40年代以降,徐々に改善されてきている。
(1)  支払期間は,昭和30年代は1.0か月(締切日から30日)を超えていた
が,昭和40年代に入ると大幅に改善され,昭和50年代以降は0.8か月
(締切日から24日)前後で推移している。
(2)  現金支払割合は,昭和40年代前半までは低下傾向にあったが,昭和40
年代後半から徐々に高くなっており,近年は60%程度が現金で支払われ
る状態が定着している。
(3)  120日を超える手形を交付している事業所の割合は,昭和40年代前半
までは増加傾向にあったが,昭和45年度の約60%をピークに,それ以降
は減少傾向にあり,昭和56年度以降は20%前後となっている。特に平成
2年度以降は20%を下回る状態が続いている。

第4 下請法の普及・啓発等

違反行為の未然防止及び再発防止の指導
 下請法の運用に当たっては,違反行為が生じた場合,これを迅速かつ効
果的に排除することはもとより必要であるが,違反行為を未然に防止する
ことも肝要である。
 この観点から,本年度においては,以下のとおり各種の施策を実施し,
違反行為の未然防止を図っている。
(1) 下請取引適正化推進月間
 毎年11月を「下請取引適正化推進月間」と定め,中小企業庁と共同し
て,新聞,雑誌,テレビ,ラジオ等で広報活動を行うほか,全国各地に
おいて下請法に関する講習会を開催する等下請法の普及・啓発に努めて
いる。
 本年度は,親事業者を対象に30都道府県(うち当委員会主催分16都道
府県〔16会場〕)において講習会を開催した(受講者は当委員会主催分
1,613名)。
 また,当委員会は,下請取引を適正化するためには,取引のもう一方
の当事者である下請事業者にも下請法の趣旨内容を周知徹底する必要が
あることにかんがみ,昭和60年度以降,下請事業者を対象とした下請法
講習会を実施しており,本年度において20都道府県(21会場)で開催し
た(受講者数947名)。
(2) 下請法遵守の要請
 円高や企業の海外展開といった動きの中,中小企業の景況感等の回復
に向けた動きは極めて緩慢となっている。特に年末の金融繁忙期におい
ては下請中小企業の資金繰り等が悪化することが懸念されるため,平成
6年12月8日,公正取引委員会委員長・通商産業大臣連名で資本金1億
円以上の親事業者約8,400社に対し下請法の遵守を要請し,同時に関係
約430団体に対し,傘下事業者への下請法の周知徹底等を要請した。
(3) 広報,相談・指導業務
 購買・外注担当者らに対する社内研修の実施及び購買・外注担当者向
けの下請法に関する遵守マニュアルの作成を積極的に指導したほか,関
係団体等の研修会に講師の派遣,資料の提供等を行い,下請法の普及・
啓発を行った。
都道府県との相互協力体制
 下請法をきめ細かく,かつ,的確に運用して全国各地の下請事業者の利
益保護を図るためには,地域経済に密着した行政を行っている都道府県と
の協力が必要であることから,昭和60年4月から下請取引適正化に関する
都道府県との相互協力体制を発足させ,下請法の普及・啓発等の業務につ
いて協力を得ている。
 本年度においては,平成6年6月に都道府県下請企業行政担当課長会議
を開催するとともに,平成7年2~3月にブロック別に都道府県下請取引
担当官会議を開催した。
下請取引改善協力委員
 下請法の的確な運用に資するため,昭和40年度以降当委員会の業務に協
力する民間有識者に下請取引改善協力委員を委嘱している。本年度におけ
る下請取引改善協力委員は,101名である。
 本年度においては,平成6年6月に全国会議を,平成7年2~3月にブ
ロック別会議を,また,平成6年12月には首都圏において4都県連絡会議
をそれぞれ開催し,最近の下請取引の状況について意見を交換した。ま
た,近時の円高,景気低迷下の下請取引の状況等の調査に関し協力を得
た。

第5 下請取引に関する実態調査及びこれに基づく指導等

大規模小売業者の下請取引に関する調査
 近年の国民経済における非製造業分野の重要性の増大を踏まえ,非製造
業分野における下請取引についても適正化を進めていく必要があり,こう
した観点から,百貨店・スーパー等多種類の商品を扱う大規模小売業者と
納入業者との取引のうち,下請法に規定する製造委託に該当する下請取引
(プライベート・ブランド商品の納入取引等)について,その取引の実態
及び下請法違反被疑行為の有無を把握することを目的として調査を行っ
た。
 調査の結果,実体規定については,返品の禁止(第4条第1項第4号)
に違反する疑いのある者が116社(29.9%),支払遅延の禁止(第4条第1
項第2号)に違反する疑いのある者が89社(22.9%),購入強制の禁止
(第4条第1項第6号)に違反する疑いのある者が58社(14.9%)などが
多く,手続規定については,発注書面の交付義務に違反する疑いのある者
が345社(88.9%)あるなど,下請取引を行っていた大規模小売業者388社
のうち,364社(93.8%)に何らかの下請法違反の疑いのある行為がみら
れた。
 この調査結果を踏まえ,下請法に違反する疑いのある行為を行っていた
大規模小売業者に対して,今後下請取引の適正化を図るよう要請するとと
もに,日本百貨店協会,日本チェーンストア協会等の関係4団体に対し,
傘下会員の下請取引の適正化につき指導の徹底方を期するよう要請した。
製造物責任法の施行に伴う下請取引への影響等についての調査
 平成7年7月に,製造物責任法が施行された。同法は,一定の製造物に
係る分野について,我が国の不法行為の基本原則である過失責任原則を修
正し,欠陥責任の概念を導入するものである。同法の施行に伴い,親事業
者,下請事業者のいかんを問わず製造に伴うリスクが増大することとなる
とともに,その対応策について関心が高まっているところである。
 このような中で,下請事業者に不当に負担が及ぼされる懸念もあること
などから,製造物責任法の施行に伴う下請取引への影響等に関し,アン
ケート調査を実施した。
 この調査結果などを踏まえ,同法の施行に伴って生じると考えられる親
事業者の行為等のうち,下請事業者の懸念が多くみられた,①製造物責任
(損害賠償責任)の有無・負担割合に関する事項,②品質管理等の強化に
関する事項,③生産物賠償責任保険(PL保険)の加入に関する事項に関
して,下請取引の適正化の観点から,親事業者及び下請事業者が留意すべ
き主要な点について取りまとめを行い,これを平成7年6月に公表すると
ともに,公正取引委員会事務局長・中小企業庁長官連名で関係親事業者団
体に対し通知した。
円高等による下請取引の変化についての調査
 円高を始めとした経済環境の変化により,我が国の産業構造も変化して
いるといわれているところであるが,このような状況において,下請取引
にどのような変化が起こっているのか,また,その影響はどのようなもの
であるか等の事情を把握するため,平成7年1月以降,親事業者2,049社
及び下請事業者3,773社に対してアンケート調査を実施し,平成7年7月
に調査結果を公表した。

第6 建設業の下請取引における不公正な取引方法の規制

 建設業の下請取引において,元請負人等が下請負人に対し,請負代金の支
払遅延,不当な減額等の不公正な取引方法を用いていると認められるとき
は,建設業法第42条又は第42条の2の規定に基づき,建設大臣,都道府県知
事又は中小企業庁長官が当委員会に対し,独占禁止法の規定に従い適当な措
置を採ることを求めることができることとなっている。
 なお,本年度においては,措置請求はなかった。