第16章 国際関係業務

第1 二国間関係

海外競争当局との二国間意見交換
 近年,各国共通の競争政策上の問題が生じてきており,この分野におけ
る意見交換等の国際的連携が重要になってきている。このため,当委員会
は,我が国との経済交流が特に活発であるアメリカ,EU,韓国等との競
争政策面における協力関係を推進するため,これらの競争当局との間で定
期的に競争政策に関する意見交換を行っている。
 本年度における意見交換の開催状況は,次のとおりである。


貿易摩擦問題への対応
(1) 日米包括経済協議
 1993年7月の東京での宮澤総理(当時)とクリントン大統領との間の
日米首脳会談において,日米間の新たな経済パートナーシップのための
枠組みを設置することに合意した。
 上記枠組み中,セクター別・構造面での障壁を除去するための協議及
び交渉の対象分野として,5つのバスケット(政府調達,規制緩和及び
競争力,その他の主要セクター,経済的調和,既存のアレンジメント)
が設けられた。
 当委員会と関係する事項としては,競争政策一般について「規制緩
和・競争政策」の作業部会において検討が行われているほか,「政府調
達」,「保険」,「板ガラス」,「金融サービス」及び「自動車・同部品」の
各作業部会においても競争政策に関連する項目が取り扱われ,協議に積
極的に参加してきた。
(2) 個別業種に関する二国間協議
 個別品目に関する貿易摩擦問題を解決すべく,これまでに,スーパー
コンピュータ,衛星,建設,コンピュータ,紙等についての会合が開催
されてきている。
 当委員会は,競争政策の観点から,外国企業の我が国市場への参入に
当たり反競争的行為があった場合にはこれに厳正に対処することとし,
これらの協議に必要に応じ対応してきている。
日・EU競争政策セミナー
 EUにあっては,1993年1月の市場統合以来,競争政策の重要性が一層
大きくなり,積極的な法運用が進められた。このような状況を踏まえて
日・EUにおける競争政策に対する一層の理解を図るため,1993年に引き
続き,第2回日・EU競争政策セミナーが1994年9月16日,ブラッセルに
おいて,公正取引委員会と欧州委員会の主催により開催された。
 同セミナーには,日本・EU双方の競争当局関係者のほか,学識経験
者,産業界代表,消費者代表等が出席し,「規制緩和と競争法の執行」及
び「垂直的制限と競争政策」について講演,パネルディスカッションが行
われた。

第2 多国間関係

経済協力開発機構(OECD)
(1) 競争政策委員会
 競争政策委員会(Committee on Competition Law and Policy)
は,OECDに設けられている各種委員会のうちの一つで,1961年12
月に設立された。我が国は,1964年のOECD加盟以来,その活動に
参加してきている。競争政策委員会は,原則として年2回本委員会を
開催し,また,その下に各種の作業部会を設けて,随時会合を行って
いる。本委員会では,加盟各国の競争政策に関する年次報告が行われ
ているほか,各作業部会の報告書の検討,その時々の重要問題につい
て討議が行われている。
 本年度における会議の開催状況は,次のとおりである。

 1994年4月の第65回本委員会においては,フィンランド,ハンガ
リー,アイルランド,日本,オランダ,スウェーデン,イギリス,ア
メリカ及びEUの年次報告が行われたほか,ポーランドの年次報告に
関する国別審査(審査担当国として選出された国が,審査対象国の年
次報告をあらかじめ受け取り,事前に準備した上で質問する。)が
オーストラリア及びフランスを審査担当国として行われた。また,
1994年閣僚理事会に報告するための競争政策の収れんに関する中間報
告書案及び競争政策委員会・貿易委員会の共同報告書案が承認され
た。両報告書は,1994年閣僚理事会に提出され,承認された。
 1994年10月の第66回本委員会においては,オーストラリア,オース
トリア,カナダ,デンマーク,フランス,ドイツ,イタリア,メキシ
コ,ニュー・ジーランド,ノルウェー,ポルトガル及びEUの年次報
告が行われたほか,スペインの年次報告に関する国別審査がイタリア
及びイギリスを審査担当国として行われた。また,競争と規制の問題
について討議するための新たな作業部会(第2作業部会)を発足させ
ることとなった。
 競争政策委員会に属する各作業部会の本年度における主要な活動
は,次のとおりである。
(ア)  第1作業部会では,「競争政策とアンチダンピング」に関する検
討が行われたほか,競争政策と貿易政策との相互連関について検討
を行うために開催されている同作業部会と貿易委員会作業部会の合
同会合では,競争法及び競争政策の適用範囲及び執行等に関する検
討が行われた。
(イ)  第2作業部会では,1994年10月に開催された第66回本委員会の決
定を受けて,競争と規制に関する検討を行うため,第1回会合が開
催された。
(ウ)  第3作業部会では,1986年理事会勧告(国際通商に影響を及ぼす
制限的商慣行についての加盟国間の協力に関する改訂理事会勧告)
改訂案について検討が行われた。
(エ)  作業部会とは別に,競争政策の収れんに向けての作業の進ちょく
状況を1994年閣僚理事会に報告するため,競争政策委員会における
報告書の作成の管理及び今後の収れん作業計画の作成を目的として
収れんプロジェクトに関するステアリング・グループ会合が開催さ
れてきたが,本報告書の最終版作成をもって,本ステアリング・グ
ループは解散することとなった。
(2) 消費者政策委員会
 消費者政策委員会(Committee on Consumer Policy)は,加盟
国の消費者行政についての情報交換及び調査・検討のための国際協力
の場として,1969年11月に期限付き(1972年末まで)で設置すること
とされた。この期限はその後5度の延長決議を経て1997年末までと
なっている。消費者政策委員会は,年2回本委員会を開催するほか,
各種の作業部会を設け随時会合を行っている。
 1995年3月現在,活動している作業部会は,「消費者の安全性」作
業部会及び「消費者市場」作業部会の2部会である。
 1994年6月3日に開催された第47回本委員会では,6月1日~2日
に開催された「グローバル化する市場と消費者」セミナーの結果等に
ついて報告が行われた。
 1994年10月6日~7日に開催された第48回本委員会では,基準・認
証・試験手続の相互承認プロジェクトの作業経過等について報告が行
われた。
国際連合貿易開発会議(UNCTAD)
 UNCTADでは,極めて多岐にわたる南北問題の討議が行われている
が,特に当委員会に関係があるものとして,「制限的商慣行」及び「国際
的技術移転行動規範」の問題がある。
(1) 制限的商慣行
 1980年の第35回国運総会において,「制限的商慣行規制のための多
国間の合意による一連の衡平な原則と規則」(以下「原則と規則」と
いう。)が,国連加盟国に対する勧告として採択された。この「原則
と規則」は,国際貿易,特に発展途上国の国際貿易と経済発展に悪影
響を及ぼす制限的商慣行を識別し,規制することにより,国際貿易と
経済発展に資することを目的としており,その王な内容は次のとおり
である。
(ア)  国際貿易,特に発展途上国の国際貿易と経済発展に悪影響を及ぼ
すことになり,市場アクセスを制限し,又は競争を不当に制限する
こととなる場合に,
 競争企業間の協定,取決めによる次のような行為を行わないこ
と。
 ①価格協定,②入札談合,③市場・顧客分割,④販売・生産数
量割当など
 市場支配力の優越的地位を濫用することにより,次のような行
為・行動を行わないこと。
 ①競争者を排除するための原価以下の価格付け等競争者に対す
る略奪的行為,②価格差別,③合併・取得,④輸出商品の再販売
価格維持,⑤並行輸入の阻止など
(イ)  事業が行われている国の所管官庁が制限的商慣行の規制を行うに
際し,企業はその所管官庁と協議・協力し,情報を提供すること。
 「原則と規則」の規定に関する制限的商慣行についての調査研究,
情報収集等を行うために制限的商慣行政府間専門家会合が設置されて
いる。
 本年度においては,ジュネーブにおいて,1994年10月24日~28日に
第13回会合が,1995年3月6日~10日に第14回会合が開催され,「原
則と規則」に関する見直し作業について検討が行われた。
(2) 技術移転
 国際的な技術移転取引における制限的商慣行の規制を主な内容とする
国際技術移転行動規範を作成するために国際技術移転行動規範国連会議
が設けられている。
 1976年から開始された同規範の具体的な草案作成作業が難航したこと
から,1981年には同規範の完成促進のために暫定委員会が設置された。
その後,1983年に第5回国連会議,1985年に第6回国連会議が開催され
たが,同規範の最終合意には至らなかった。
 なお,本年度においては,特に進展はなかった。
アジア・大洋州の競争当局との協力
(1) アジア・大洋州独占禁止政策会議
 1991年4月30日~5月2日の第4回ウェリントン会合に続き,1994年
11月9日~10日に第5回会合が東京で開催され我が国を含め13か国
(注)が参加した。「最近の競争政策の進展」,「規制緩和と民営化」及
び「経済のグローバル化と競争政策」をテーマとして,活発な意見交換
が行われた。
(注)  参加13か国は,オーストラリア,中国,インド,インドネシ
ア,韓国,マレイシア,モンゴル,ニュー・ジーランド,パキス
タン,スリ・ランカ,タイ,ヴィエトナム及び日本である。
(2) アジア・大洋州独占禁止政策情報センター
 アジア・大洋州独占禁止政策情報センターは,アジア・大洋州地域の
15か国(注)が,その競争政策に関する情報を交換することを通して参
加各国の競争政策を発展させることを目的として,1980年9月に当委員
会事務局内に設けられたものであり,本年度においても,競争政策に関
する資料を参加各国に配布した。
(注)  15か国は,オーストラリア,中国,インド,インドネシア,韓
国,マレイシア,モンゴル,ニュー・ジーランド,パキスタン,
フィリピン,シンガポール,スリ・ランカ,タイ,ヴィエトナム
及び日本である。
(3) 独占禁止法と競争政策に関する技術研修
 1994年10月31日~11月24日,国際協力事業団(JICA)を通じて,
アジア諸国6か国6名(注)の研修員に対し,「独占禁止法と競争政
策」をテーマとした技術研修を実施した。研修では,我が国独占禁止法
の法制及び運用等を説明するばかりでなく,ケーススタディ,カント
リーレポートの発表等を通じて,研修員自らが自国法制を他の研修参加
国や我が国の法制・運用と比較することができるようプログラムを構成
した。
(注)  6か国は,中国,インド,韓国,マレイシア,モンゴル及びタ
イである。
そ の 他
 当委員会は,OECDやUNCTAD以外に,WTO,APEC,国連
多国籍企業委員会等で行われている討議に対しても,競争政策の観点から
積極的に対応することとしている。

第3 海外調査

 我が国の競争政策の運用に資するため,諸外国の独占禁止法制及びその運
用状況についての情報収集や調査研究を行っている。
 本年度においては,アメリカ・EUその他主要なOECD加盟諸国を中心
として,独占禁止当局の政策動向及び議会における独占禁止関係の立法活動
等について重点的に調査を行い,その内容の分析と紹介に努めた(諸外国の
競争政策の動向については,附属資料11参照。)。