第4 訴 訟

1 独占禁止法第25条(無過失損害賠償責任)に基づく損害賠償請求事件

 平成7年度当初において係属中の独占禁止法第25条の規定に基づく損害
賠償請求事件は,次の岩留工業株式会社による請求事件1件であり,ま
た,平成7年度中に新たに提起された事件はなかった。

(1) 事件の表示
東京高等裁判所平成5年(ワ)第1号
損害賠償請求事件
原 告 岩留工業株式会社  被 告 三蒲地区生コンクリート協同
                        組合
提訴年月日 平成5年2月17日
(2) 事案の概要
 当委員会は,平成3年12月2日,三蒲地区生コンクリート協同組合が
原告に対して行った砂利の購入妨害行為の排除を命じる審決を行った。
当該審決が確定した後,原告は,同協同組合に対して独占禁止法第25条
に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。
(3) 訴訟手続の経過
 本件について,東京高等裁判所から平成5年3月9日付けの独占禁止
法第84条第1項に基づく独占禁止法違反行為によって生じた損害額につ
いての求意見に対し,当委員会は,平成5年10月1日に意見書を同裁判
所に提出した。なお,本件は,平成7年度末現在,同裁判所に係属中で
ある。

2 その他の独占禁止法関係の損害賠償請求事件等

(1) 旧埼玉土曜会談合事件に係る住民訴訟
事件の表示
浦和地方裁判所平成4年(行ウ)第13号
損害賠償請求事件
原 告 岩木英二ほか60名
被 告 鹿島建設株式会社ほか65名(訴えの一部取下げがあったの
     で29名に減少した。)
提訴年月日 平成4年8月14日
事案の概要
 当委員会は,埼玉県発注に係る土木一式工事の入札談合について,
平成4年6月3日に鹿島建設株式会社ほか65名に対し当該行為の排除
を命じる審決を行った。当該審決が確定した後,埼玉県の住民が,当
該建設業者等に対して,地方自治法第242条の2第1項第4号に基づ
き埼玉県に代位して損害賠償を求める住民訴訟を浦和地方裁判所に提
起した。
訴訟手続の経過
 本件について,浦和地方裁判所は,平成7年度中に口頭弁論を5回
(平成4年度,同5年度及び同6年度を含め計17回)行い,本件訴訟
は平成7年度末現在,同裁判所に係属中である。
 同裁判所は,本件に関し当委員会に対し平成5年5月31日に文書送
付嘱託を行い,当委員会は,同年8月27日,同裁判所に資料を提供し
た。その後,同裁判所から,平成6年3月24日に再度文書送付嘱託及
び調査嘱託があり,同年8月12日回答を行った。
(2) 社会保険庁発注に係る支払通知書等貼付用シールの供給業者に対する
不当利得返還請求訴訟
事件の表示
東京地方裁判所平成5年(ワ)第24034号
不当利得返還請求事件
原 告 国  被 告 トッパン・ムーア株式会社ほか2名
提訴年月日 平成5年12月17日
事案の概要
 本件は,社会保険庁発注の年金受給者への支払通知等において使用
する支払通知書等各種貼付用シールの入札談合について,国が,民法
第704条に基づき,本件談合による落札価格と客観的価格(時価)と
の差額は被告らの不当利得であるとして,その返還を求める訴訟を東
京地方裁判所に提起したものである。
 なお,当委員会は,本件支払通知書等貼付用シールの入札談合につ
いて,平成5年4月22日にトッパン・ムーア株式会社ほか3社に対し
当該行為の排除を命じる審決を行い,同年9月24日課徴金納付命令を
行った。3社は納付命令に不満があるとして審判手続の開始を請求
し,現在係属中である。
訴訟手続の経過
 本件について,東京地方裁判所は,平成7年度中に口頭弁論を4回
行い,平成7年度末現在,同裁判所に係属中である。
(3) アメリカ合衆国を債権者とする資産の仮差押異議申立事件(横須賀米
軍基地談合事件関係訴訟)
事件の表示
東京高等裁判所平成6年(ネ)第1295号
仮差押異議申立事件
控訴人 米国政府
被控訴人 保坂建設株式会社
提訴年月日 平成2年6月27日
判決年月日(横浜地裁川崎支部)
         平成6年3月17日(米国政府敗訴)
控訴年月日 平成6年3月30日
事案の概要
 本件は,横須賀基地を中心とする在日海軍基地等における建設工事
等を競争入札により発注しているアメリカ合衆国の極東建設本部等
が,競争入札に参加する業者らのいわゆる談合行為により損害を被っ
たとして,談合行為が存在した契約のうち,当委員会が課徴金納付命
令の対象とした建設工事等に限定し,その損害賠償請求権を被保全権
利として,仮差押申請を行い仮差押決定を得ていたのに対し,債務者
が異議を申し立てたものである。なお,横浜地方裁判所川崎支部は,
本件に関し,当委員会に対し,平成3年7月31日,文書送付嘱託を
行ったのを受け,当委員会は,同年10月23日,同裁判所に資料を提供
した。
横浜地裁川崎支部判決の概要
 本判決は,債務者らの行為は独占禁止法に違反する談合行為に当た
り,一応,民法上の共同不法行為に該当し,債務者は同行為と相当因果
関係にある債権者の被った損害を賠償すべき義務があるとした上で,
債権者の主張する損害額を認めるに足る疎明はないことから,本件各
仮差押申請は,少なくとも,その被保全権利の存在につき,未だこれを
認めるに足りる疎明が不十分であるとして,本件各仮差押決定をいず
れも取り消し,債権者の本件各仮差押申請をいずれも却下した。
訴訟手続の経過
 本件について,平成7年度末現在,東京高等裁判所に係属中であ
る。
(4) 米軍厚木基地における入札談合事件損害賠償請求訴訟
事件の表示
東京地方裁判所平成6年(ワ)第18372号
損害賠償請求事件
原 告 米国政府
被 告 荒澤建設株式会社ほか52名
提訴年月日 平成6年9月16日
事案の概要
 本件は,米国政府が米国海軍航空施設(厚木基地)における建設工
事等を競争入札により発注しているアメリカ合衆国の厚木駐在建設事
務官が,競争入札に参加する厚木建設部会会員73社の昭和59年から平
成2年にかけての談合行為により損害を被ったとして損害賠償を求め
る「通告書」を送付したが,これに応じなかった荒澤建設株式会社ほ
か52社に対して,民法第709条及び第719条に基づき損害賠償請求訴訟
を東京地方裁判所に提起したものである。
訴訟手続の経過
 本件について,東京地方裁判所は,平成7年度中に口頭弁論を2回
行い,平成7年度末現在,同裁判所に係属中である。

3 審決取消請求事件

 平成7年度当初において係属中の審決取消請求事件は3件であるが,東
京高等裁判所において,それぞれ,原告の請求を棄却する判決の言渡しが
あった。うち1件については相手方から上告が提起されたが(後記(3)事
件),他の2件については判決が確定したため,平成7年度末現在,係属
中の審決取消請求事件は1件である。
 なお,平成7年度中に新たに提起された審決取消請求事件はなかった。

(1) 株式会社協和エクシオによる審決取消請求事件
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東京高等裁判所平成6年(行ケ)第80号
審決取消請求事件
原 告 株式会社協和エクシオ  被 告 公正取引委員会
審決年月日 平成6年3月30日
提訴年月日 平成6年4月14日
判決年月日 平成8年3月29日(請求棄却,確定)
審決の概要
 本審決は,株式会社協和エクシオ(以下「協和エクシオ」とい
う。)に対し,独占禁止法第54条の2第1項の規定に基づいて,2212
万円の課徴金の納付を命じたものであり,本審決が認定した違反行為
の概要は次のとおりである。
 協和エクシオは,同業9社とともに,遅くとも昭和56年2月末まで
に,米国空軍契約センター発注に係る電気通信設備の運用保守サービ
ス(電話通信及びマイクロ通信の運用保守サービス)を円滑に受注で
きるようにするため「かぶと会」を設立するとともに,あらかじめ上
記発注に係る物件につき受注予定者を決め,受注予定者以外の入札参
加会員は,受注予定者が受注できるよう協力する旨の合意をし,同年
4月1日から同63年6月15日までの間,米国空軍契約センターが発注
した27の物件につき,受注予定者を決定してきた。
事案の概要
 本件は,協和エクシオが,本審決には,主要事実を立証する実質的
な証拠がなく,また,法令違反が存するとして,その取消しを求めた
ものである。
判決主文
(ア) 原告の請求を棄却する。
(イ) 訴訟費用は原告の負担とする。
判決の概要
 本判決は,以下の理由により,基本合意の成立を認めた本審決の認
定は,間接事実の認定に関しても,間接事実から主要事実を推認する
過程に関しても,実質的証拠を欠くものではなく(後記争点(ア),
(イ)),また,本審決に法令違反は存しない(後記争点(ウ),(エ))とし
て,原告の請求を棄却した。
(ア)  基本合意の主体と合意内容とが矛盾するか否かについて
 原告は,基本合意を成立させた主体と合意内容に食い違いがある
と主張するが,審決の認定は,10社で基本合意が成立し,その後,
2社が,基本合意の趣旨を理解して,同会に参加し,以後受注予定
者を決める話合いに加わったという事実であり,あらかじめ将来参
加する事業者のことを予定して基本合意を成立させたとも,あるい
は前記2社が参加するようになって初めて基本合意が成立したとも
認定するものではないから,この間になんらの理由の不備,矛盾は
ない。
(イ)  基本合意を推認し得る事実についての問題について
かぶと会設立の経緯,目的について
 各社の思惑(1級9社は,広く顧客を求めたいという希望を有
し,将来を見越して日電インテクを同じテーブルに着かせた上
で,受注予定者を話合いによって決めるという実績を積み重ねて
行く方針を採ることとし,日電インテクは,無益な競争による受
注価格の低下を避けたいと考えていたこと。)が合致した結果,
各社の受注に関する意思疎通を円滑にし,かつ,担当者の親睦を
図る目的でかぶと会が設立されたものであると認めることがで
き,そのような設立の経緯に加えて,同会の発足後に個々の契約
センター物件の受注についての話合いないし,その前段階として
の受注意思の事前打診や受注予定者に対する初回入札以後の段階
での協力がされるようになり,同会解散後はこれらが行われなく
なったこと及び前記話合い等が原則として同会会員の間でされて
いたことに照らせば,その設立は基本合意の成立を認定する上で
有力な間接事実である。
1級9社の受注能力,受注意思について
 複数のかぶと会会員について受注能力のあることが認められる
限り,基本合意成立の基盤となり得る受注競争関係があったとい
うのを妨げない。
個々の話合いの参加者及び内容について
 審決で具体的に認定された4件については話合いの当事者が特
定され,かつ,話合いが行われたことは,審決の挙示する証拠に
よりこれを認定できる。また,そのほかの受注意思の打診のみで
終わった場合についても,個々の発注物件に関心を示し,現場説
明会に参加するなどした会員の間で受注意思の打診が行われたも
のであるところ,その当事者が特定されなければこれを基本合意
の存在を推定する根拠となし得ないものということはできない。
また,現実に話合いが行われたのが4件にすぎないとしても,そ
のほかの物件についても,現場説明会等の機会にかぶと会会員が
会合し,受注希望の有無の打診が行われ,受注希望者が1社のた
め本格的な話合いに入らずに終わったものであって,同会会員の
間では契約センター発注の全物件について話合いを行う体制が継
続的に維持されていたものであり,この事実は基本合意の存在を
推定する有力な根拠である。
(ウ)  基本合意の「不当な取引制限」該当性について
 基本合意の趣旨及び各社の思惑は前述のとおりであり,特に話合
いをして受注予定者を決めることが,実際の契約額の水準を落とさ
ないという意味において10社全体の利益に適うものであったところ
から,10社がかぶと会会員となって話合いの体制を維持したもので
あることも明らかである。また,基本合意は制裁規定などを伴うも
のではなかったものの,規範性を有していたと認められるし,十分
に拘束的なものであった。
(エ)  除斥期間が経過したか否かについて
 原告は,遅くとも受注競争の行われた特定の物件の入札段階で基
本合意が破棄されたと主張するが,原告が基本合意を破棄,中止す
ることなど考えていなかったこと,原告から他のかぶと会会員に対
して以後話合いに参加しないとの意思表明をした事情は見当たらな
い。そして,本件における個々の話合いは,成立した一個の基本合
意に基づいて継続してされたものであり,個々の話合いについて除
斥期間が経過しているかどうかを問うべきではない。
(2) 東芝ケミカル株式会社による審決取消請求事件
事件の表示
東京高等裁判所平成6年(行ケ)第144号
審決取消請求事件
原 告 東芝ケミカル株式会社  被 告 公正取引委員会
審決年月日(旧審決)平成4年9月16日
提訴年月日(一次訴訟)平成4年10月16日
判決年月日(一次判決)平成6年2月25日(取消し・差戻し,確定)
審決年月日(再審決)  平成6年5月26日
提訴年月日(本件訴訟)平成6年6月24日
判決年月日(本件訴訟)平成7年9月25日(請求棄却,確定)
審決の概要
 本審決は,東芝ケミカル株式会社(以下「東芝ケミカル」とい
う。)に対し,独占禁止法第54条第2項の規定に基づいて,違反行為
が排除されたことを確保するための措置を命じたものであり,本審決
が認定した違反行為の概要は次のとおりである。
 東芝ケミカルは,昭和62年6月10日,同業7社と共同して,紙基材
フェノール樹脂銅張積層板と紙基材ポリエステル樹脂銅張積層板の国
内需要者渡し価格を引き上げることを決定した。
事案の概要
 当委員会は,平成4年9月16日に東芝ケミカルに対して審決を行っ
た(以下「旧審決」という。)ところ,同社から審決取消請求訴訟
(一次訴訟)が東京高等裁判所に提起され,同裁判所は,平成6年2
月25日,旧審決を取り消し,事件を当委員会に差し戻す旨の判決を行
い,同判決は確定した。
 同判決は,独占禁止法の規定する審判手続は準司法手続としての性
格が強く,審判者の公平確保が不可欠であるとした上で,当委員会の
委員が任命前に特定事件の審査にかかわった場合,議事・議決の定足
数の規定に照らし,当該委員が審決に加わる必要性のない限り,当該
委員は審決に関与する資格を失うというべきであるところ,本件が審
査段階であった当時に審査部長であった訴外A委員が関与した旧審決
は,審判者の公平を確保するという準司法手続に関する法の基本原則
に違反し,違法なものであり,旧審決は取消しを免れず,訴外A委員
を構成員としない当委員会において更に審理判断させるのが相当であ
るとして,旧審決を取り消し,事件を当委員会に差し戻したものであ
る。
 本件は,当委員会の東芝ケミカルに対する平成6年5月26日付け審
決(以下「再審決」という。)について,同社が,再審決には,審決
に係る手続に法令違反(差戻し後審判を開かず,直接陳述の機会を与
えなかったこと,旧審決に関与した訴外B委員が再審決にも関与して
いること)があり,また,審決の基礎となった事実を立証する実質的
な証拠を欠くものであって違法であるとして,主位的には審決の取消
しを,予備的には,審判手続における違法(正当な理由なく原告の文
書提出命令申立て(被審人取締役の調書)を却下した違法)を理由と
して,事件の差戻しを求めたものである。
判決主文
(ア) 原告の請求をいずれも棄却する。
(イ) 訴訟費用は原告の負担とする。
判決の概要
 本判決は,以下の理由により,本審決には,独占禁止法第82条第1
号及び第2号に該当する事由がないから,原告の主位的請求には理由
がなく(後記争点の(ア),(イ),(ウ)),また,原告の証拠申出は理由がない
か,理由があったとしてもこれを取り調べる必要がないから,同法第
81条第3項により本件を被告に差し戻す必要はなく,原告の予備的請
求も理由がない(後記争点(エ))として,原告の請求を棄却した。
(ア)  差戻し後,直接陳述の機会を与えなかったことと本審決の適否に
ついて
 直接陳述の機会を与える審判期日を開かないでなされた本審決
は,その手続の過程には瑕疵があるが,原告の権利保護ないし防御
権の行使に実質的な支障があったとは認め難く,違法であるとまで
はいえない。
(イ)  旧審決に関与したB委員が本審決に関与したことと本審決の適否
について
 旧審決は審決の主体である合議体の構成の違法を理由として取り
消されたものであるところ,これに合議体の一員として関与したB
委員については,違法な構成による合議体の合議の影響を残してい
る可能性を否定できないから,その公平さの外観を確保するという
観点からいって,同委員を除いて合議体を構成する配慮が望まし
かったが,公取委の機構上,差戻しを受けた事件の審理をする際
に,取り消された審決に関与した委員を常に除外しなければならな
いものとすると,合議体を構成することができなくなるという事態
も生じ得るが,審決ができなくなるような事態を避けることもまた
公益を守るうえで極めて重要な要請であることは明らかであって,
法はこのような審決不可能という事態を避けることも考慮して,あ
えて差戻し前の審決に関与した委員を差戻し後の審決から排除する
規定を設けていないものと解され,差戻し前の審決に関与した委員
が差戻し後の審決に関与したからといって,その審決が違法となる
ものではない。
(ウ)  原告が同業7社と共同して本件商品の価格引上げを決定したとい
う事実を認定するに足る実質的証拠があるかどうかについて
 原告が実質的証拠の欠缺を主張する事実については,いずれもこ
れを認定するに足る証拠があり,また,事実の総合判断に関して,
原告が認定判断の不合理,経験則違反があると主張する点について
は,その認定,判断に不合理な点や経験則に違背する点があるとは
認められない。
(エ)  文書提出命令申立ての却下について,正当な理由がなかったか否
かについて
 審判官の却下決定は,結論において相当であり,正当な理由がな
く当該証拠を採用しなかったものとはいえない。
(3) 東京もち株式会社による審決取消請求事件
事件の表示
東京高等裁判所平成6年(行ケ)第232号
審決取消請求事件
原 告 東京もち株式会社  被 告 公正取引委員会
審決年月日 平成6年9月29日
提訴年月日 平成6年10月19日
判決年月日 平成8年3月29日(請求棄却)
(上告年月日 平成8年4月12日)
審決の概要
 本審決は,東京もち株式会社(以下「東京もち」という。)に対
し,景品表示法第7条第2項に基づいて,一般消費者の誤認を排除す
る措置等を命じたものであり,本審決が認定した違反行為の概要は次
のとおりである。
 東京もちは,同社が製造・販売している包装もちの包装袋に「純も
ち米100%使用」,「原材料名 水稲もち米」及び「本品は厳選したも
ち米が原料の『きねつき』による本格製法の生もちです。」と記載
し,あたかも,当該商品がもち米のみを原材料として製造されたもち
であるかのように表示していたが,当該商品は,原材料として,もち
とうもろこしでん粉が約15パーセントの割合で使用されていた。
事案の概要
 本件は,東京もちが,本審決には,(ア)聴聞手続等における違法,(イ)
裁量基準を定立しなかった違法,(ウ)主張・立証責任の分配を誤った違
法,(エ)実質的証拠の欠缺及び理由不備の各違法が存するとして,その
取消しを求めているものである。
判決主文
(ア) 原告の請求を棄却する。
(イ) 訴訟費用は原告の負担とする。
判決の概要
 本判決は,以下の理由により,原告の各主張は採用することができ
ないとして,原告の請求を棄却した。
(ア)  改正前の景品表示法第6条第2項の聴聞手続において,構成要件
事実のほかに原告に不利益に斟酌される事情についても告知を要す
るか。また,聴聞手続に瑕疵があることが審決の違法を来すか。
 審判手続における審判対象は当該排除命令に係る行為の存否等
であって,当該排除命令の当否ではないから,聴聞手続及びこれ
に基づく排除命令に瑕疵があったとしても,当該行為について開
始された審判手続に基づく審決の違法を来すものではなく,ま
た,審決取消訴訟において取消事由となるものでもない。
 また,景品表示法違反事件について,審判開始決定書に記載す
べき事件の要旨とは,同法第3条の規定による制限若しくは禁止
又は第4条の規定に違反する行為の主体,違反行為の日時・場
所,違反行為の内容・態様等の具体的事実と適用すべき法令を意
味するものと解すべきであり,被審人に不利益な情状まで含むも
のではない。
(イ)  公取委は,裁量権を行使するに当たり,あらかじめ裁量基準を定
立し,その基準に基づいて個々の事件を処理すべき条理上の義務を
負うか。
 景品表示法は,規制対象である不当な表示行為等が,複雑多様で
あって絶えず変化する企業活動に関わるものであり,同法の趣旨・
目的を効果的に達成するため,公取委に対し,不当な表示行為の実
態に即応して,機動的,迅速に規制権限を行使することができるよ
うに,広範な裁量権を付与しており,公取委は,同法第4条第1号
違反事件について規制権限を行使するに当たり,準則又は裁量基準
をあらかじめ定立するか又はこれを定立しないで個々の事案ごとに
前記規制権限を行使するか若しくはいかなる内容の措置を講ずるか
等をその裁量権に基づいて定めることができる。
(ウ)  審決に,裁量権の濫用,範囲逸脱を裏付ける事実についての主
張・立証責任の分配を誤った等の違法があるか否か。
 審判手続において,公取委は違反行為の存在を主張・立証すれば
足り,被審人が当該違反行為につき排除命令を命ずることは裁量権
を濫用し又はその範囲を逸脱する違法なものである旨主張するとき
には,被審人は単にその旨を主張するのみでは足りず,それを裏付
ける具体的事実の主張・立証責任を負うものと解すべきである。ま
た,本審決は,前記説示と同様な見解の下に,原告が本件排除命令
に対し違法である理由として主張した事由について,後記(エ)認定の
とおり,いずれもこれらの事由を認めることができないと説示して
いるのであるから,本審決に理由不備の違法はない。
(エ)  審決において,原告が,裁量権の濫用,逸脱をうかがわせるもの
として主張した以下の事実について,それらが存在しないとした認
定が,実質的証拠に基づくものか否か。
 事実誤認に基づく他事考慮であることについて
 法人代表者の不当表示行為についての認識の有無は,排除命令
をし又は排除措置を命じることの当否に影響のある事由とはいえ
ず,たとえ代表者にその認識がなかったとしても,排除措置を命
じたことには裁量権の濫用,範囲逸脱の違法があるとはいえず,
また,原告の不当表示行為や,改善の約束をしながら継続反復し
て不当表示をしていたことの認識についての代表者の自白の有無
及びその真偽は,右裁量権の濫用,範囲逸脱の違法についての判
断を左右する事由ではない。
 動機が不正であることについて
 原告の主張にそう証拠によっても,被告が本件申告者の不正な
動機に加担する目的で排除措置を命ずるに至ったと認めることは
できず,また,本件全証拠によっても,本審決が他の不正な目的
をもって排除措置を命じたものとは認めることができない。
 平等原則違背について
 同種・同様・同程度の違反行為者が多数ある場合に,公取委
が,そのうちの少数の事業者を選別し,これらに対してのみ排除
命令等をするという法の選別的執行をしたときであっても,これ
によって爾後の抑止等の効果があり得るのであるから,公取委
が,前記違反行為をした事業者に対して一般的に規制権限を行使
して行政処分をする意思を有している限り,そのうちの少数の事
業者を選別してした前記処分をもって直ちに平等原則に違背する
違法なものとはいえない。
 うるち米混入について合理的根拠がないまま不問に付したこと
について
 景品表示法が公取委に広範な裁量権を付与した趣旨・目的(前
記(イ)参照)に照らすと,うるち米混入の点を不問に付した事実が
あったとしても,直ちに裁量権の濫用,範囲逸脱の違法があると
はいえない。

4 その他の当委員会関係の訴訟

 平成7年度において係属中の当委員会が関係する訴訟は,豊田商法の被
害者による国家賠償請求事件2件,株式会社一光社ほか29名による行政処
分取消等請求事件(いわゆる消費税定価表示事件)1件の計3件であり,
いずれも平成7年度末現在係属中である。

(1) 豊田商法の被害者(867名)による国家賠償請求事件(大阪豊田商事事件)
 事件の表示
大阪高等裁判所平成5年(ネ)第2733号
国家賠償請求事件
控訴人(原告) 田中俊男ほか866名  被控訴人(被告)国
提訴年月日

判決年月日(一審)
控訴年月日
昭和63年4月23日(一次)
昭和63年11月4日(二次)
平成5年10月6日(請求棄却)
平成5年10月19日
 事案の概要
 本件は,豊田商事株式会社(以下「豊田商事」という。)による
「金地金の売買」と「純金ファミリー契約」を組み合わせた,いわゆ
る豊田商法によって被害を受けたとする者らが,被告国の公務員であ
る当委員会,法務省,警察庁,大蔵省,経済企画庁の各担当者には豊
田商法による被害の発生を防止すべくその有する規制権限を行使すべ
き義務があり,また,通商産業省の担当者には同様に上記被害を防止
すべくその権限に属する行政指導をすべき義務があるのにこれを怠っ
たことにより被害を被ったとして,国家賠償法第1条第1項に基づい
て,被告国に対し,損害の賠償を求めているものである。
 なお,当委員会に対する原告らの主張は,豊田商法が独占禁止法第
19条(「不公正な取引方法」一般指定第8項のぎまん的顧客誘引)及
び景品表示法第4条第1号及び第2号(不当表示)の各規定に該当す
ることは明らかであり,当委員会はこれを認識し,調査することが可
能であったから,前記各法律に基づき,その権限を行使して,排除勧
告,排除命令等の行政措置を行う作為義務を負っていたにもかかわら
ず,漫然と豊田商法の継続,拡大を放置したため,原告らに被害をも
たらしたとするものである。
 一審(大阪地方裁判所)判決の概要
(ア) 総論(規制権限行使義務の発生要件)
 本判決は,規制権限の不行使が違法となる要件として,次の5点
を挙げた。
 当該個別の国民の生命,身体,健康並びにこれに匹敵するほど
重要な財産等に具体的危険が切迫していたといえるか(危険の切
迫)
 当該公務員がその危険を知り又は容易に知り得る状態にあった
といえるか(予見可能性)
 当該公務員が当該規制権限の行使により容易に結果を回避し得
たといえるか(結果回避可能性)
 当該公務員が当該規制権限を行使しなければ結果発生を防止し
得なかったといえるか(補充性)
 国民が当該公務員による当該規制権限の行使を要請ないし期待
している状況にあったといえるか(国民の期待)
(イ) 当委員会の責任に関する裁判所の判断
 本判決は,豊田商事が独占禁止法第19条の「事業者」に当たるこ
とを肯定し,不作為の違法の要件である危険の切迫,予見可能性,
補充性が存在したことは認めたが,国民が公務員による規制権限の
行使を期待している状況にあったこと及び公務員が規制権限を行使
すれば容易に結果を回避できたことについてはいずれも認めず,ま
た,当委員会が有する広範な裁量権をも総合考慮すれば,規制権限
の不行使が著しく不合理であったとはいえないとした。
訴訟手続の経過
 本件について,大阪高等裁判所は,平成7年度,証拠調べ期日を5
回,口頭弁論期日を1回行い,本件訴訟は,平成7年度末現在,同裁
判所に係属中である。
(2) 豊田商法の被害者(2名)による国家賠償請求事件
事件の表示
神戸地方裁判所昭和60年(ワ)第826号,第849号
国家賠償請求事件
原 告 石田三奈子ほか1名  被 告 国
提訴年月日 (第826号事件につき)
(第849号事件につき)
昭和60年6月11日
昭和60年6月14日(第826号事件に併合)
事案の概要
 本件は,昭和56年から60年にかけて豊田商事株式会社(以下「豊田
商事」という。)が行った,顧客との間で純金の売買契約を締結し,
同時に顧客が購入した純金を同社が預かって運用することなどを内容
とする純金ファミリー契約と称する契約を締結して純金の現物の代わ
りに証券を交付するといういわゆる豊田商法により,純金の売買代金
及び手数料名下に金員を騙し取られたとして,顧客ら2名が,国に対
し,国家賠償法第1条第1項に基づき,損害の賠償を求めているもの
である。
 なお,当委員会に関する原告らの主張は,豊田商法は独占禁止法の
不公正な取引方法及び景品表示法の不当表示に該当する行為であり,
両法に違反することは比較的客観的に解明できるのであるから,これ
を認識していた当委員会は,その権限を行使して必要な措置を採る法
律上の義務があったにもかかわらず,何ら権限を行使することなく消
費者の利益を確保する義務を怠ったとするものである。
訴訟手続の経過
(ア)  本件は,豊田商法の被害者2名が,国及び豊田商事に対し損害賠
償の支払いを求めたものであったが,被告豊田商事については,昭
和62年12月11日の第13回口頭弁論期日において訴えが取り下げられ
ている。
 なお,国に対する請求は,当初,国会議員,通商産業省,経済企
画庁,農林水産省,法務省,警察庁及び内閣の豊田商法に対する不
作為の違法を主張していたが,昭和62年9月11日の第12回口頭弁論
期日において,当委員会についても豊田商法に対する規制権限の不
行使は違法であるとして,追加主張がされた。
(イ)  本件について,神戸地方裁判所は,口頭弁論期日を追って指定す
ることとしており,本件訴訟は,平成7年度末現在,同裁判所に係
属中である。
(3)  (株)一光社ほか29名による行政処分の取消等請求上告事件(消費税定
価表示事件)
事件の表示
最高裁判所平成6年(行ツ)第136号
行政処分の取消等請求上告事件
上告人(原告・控訴人)(株)一光社ほか29名
被上告人(被告・被控訴人)公正取引委員会,国
提訴年月日     平成元年7月20日
判決年月日(一審)平成4年3月24日(請求棄却)
判決年月日(二審)平成6年4月18日(控訴棄却)
上告年月日     平成6年4月27日
事案の概要
 本件は,出版社等30名(提訴時は35名)が,再販売価格は消費税込
みの価格であるとする当委員会の平成元年2月22日付け「消費税導入
に伴う再販売価格維持制度の運用について」と題する公表文(以下
「本件公表文」という。)の公表や指導等によって,書籍の定価の表
示のし直しを強制されたことにより,カバーの刷り直し,新表示の
シール貼り等の出費を余儀なくされ,損害を被ったとして,当委員会
に対しては本件「行政処分」(公表文の公表)の取消しあるいは無効
確認を,国に対しては国家賠償を求めるものである。
一審(東京地方裁判所)判決の概要
(ア) 本件公表文の公表の取消し等を求める訴えについて
 本件公表文の公表は,抗告訴訟の対象となる行政処分には該当し
ないとして,その取消しあるいは無効確認を求める当委員会に対す
る本件各訴えを却下した。
(イ) 国家賠償請求の訴えについて
 独占禁止法第24条の2第1項にいう再販売価格は消費者が支払う
消費税込みの価格であるとする本件公表文中の当委員会の法解釈は
正しく,当委員会の事務当局者による指導あるいは本件公表文の公
表は,国家賠償法第1条第1項にいう国の公務員の違法な公権力の
行使には当たらないとして,国に対する請求を棄却した。
二審(東京高等裁判所)判決の概要
 二審判決は,原判決の理由に対して若干の付加,訂正を加えたほか
は,原判決を維持し,控訴人らの控訴を棄却した。
訴訟手続の経過
 本件については,二審判決後,控訴人ら(30名)が上告しており,
本件訴訟は,平成7年度末現在,最高裁判所に係属中である。