第14章 下請代金支払遅延等防止法に
      関する業務

第1 概 説

 下請法は,経済的に優越した地位にある親事業者の下請代金支払遅延等の
濫用行為を迅速かつ効果的に規制することにより,下請取引の公正化を図る
とともに下請事業者の利益を保護する目的で,独占禁止法の不公正な取引方
法の規制の特別法として昭和31年に制定された。
 下請法では,資本金1億円を超える事業者(親事業者)が個人又は資本金
1億円以下の事業者(下請事業者)に,また,資本金1000万円を超え1億円
以下の事業者(親事業者)が個人又は資本金1000万円以下の事業者(下請事
業者)に物品の製造又は修理を委託する場合,親事業者に対し下請事業者へ
の発注書面の交付(第3条)並びに下請取引に関する書類の作成及びその2
年間の保存(第5条)を義務付けているほか,親事業者が,①委託した給付
の受領拒否(第4条第1項第1号),②下請代金の支払遅延(同項第2号),
③下請代金の減額(同項第3号),④返品(同項第4号),⑤買いたたき(同
項第5号),⑥物品等の購入強制(同項第6号),⑦有償支給原材料等の対価
の早期決済(同条第2項第1号),⑧割引困難な手形の交付(同項第2号)
などの行為を行った場合には,当委員会は,その親事業者に対し,当該行為
を取りやめ,下請事業者が被った不利益の原状回復措置等を講じるよう勧告
する旨を定めている。

第2 違反被疑事件の処理

 下請取引の性格上,下請事業者からの下請法違反被疑事実についての申告
が期待できないため,当委員会では,中小企業庁の協力を得て,主として製
造業を営む親事業者及びこれらと取引している下請事業者を対象として定期
的に書面調査を実施するほか,特定の業種・事業者について特別調査を実施
して違反行為の発見に努めている。
 これらの調査の結果,違反行為が認められた親事業者に対しては,その行
為を取りやめさせるほか,下請事業者が被った不利益の原状回復措置等を講
じさせている(第1表,第2表,附属資料10-1表,10-2表)。

1 書面調査

 平成7年度においては,資本金3000万円以上の主として製造業者12,261
社及びこれらと取引している下請事業者75,202社を対象に書面調査を行っ
たほか,資本金1000万円超3000万円未満の製造業者1,000社に対して書面
調査を実施した(第1表)。
 なお,平成7年度から,大規模小売業者と納入業者との取引のうち,下
請法に規定する物品の製造委託に該当する下請取引(プライベート・ブラ
ンド商品の納入取引等)を書面調査の対象に加えた(資本金5億円以上の
大規模小売業者139社とそれらの取引先である下請事業者が対象)。

2 違反事件の新規発生件数及び処理件数

(1) 平成7年度において,新規に発生した下請法違反被疑事件は1,571件
である。このうち,書面調査により職権探知したものが1,548件であ
り,下請事業者からの申告によるものが23件(新規発生件数全体の
1.5%)であった(第2表)。
(2) 平成7年度において,下請法違反被疑事件を処理した件数は1,692件
であり,このうち,1,544件(91.3%)について違反行為が認められ
た。これらについては,親事業者が調査・指導の段階で自発的に当該違
反行為を取りやめるとともに,下請事業者に与える不利益を解消する措
置を講じたので警告等の措置を採った。
 また,下請法違反を行った親事業者に対しては,社内研修,監査等に
より違反行為の再発防止のために,社内体制を整備するよう指導した
(第2表)。

3 違反行為態様別件数

 平成7年度において措置した下請法違反事件を違反行為態様別にみる
と,手続規定違反が1,271社(違反件数全体の57.9%)となっている。こ
のうち,発注時に下請代金の額,支払方法等を記載した書面を交付してい
ない又は交付していても記載すべき事項が不備のもの(第3条違反)が
1,142件(同52.0%)となっている。
 また,実体規定違反は,926件(違反件数全体の42.1%)となってお
り,このうち,手形期間が120日(繊維業の場合は90日)を超える長期手
形等の割引困難な手形の交付(第4条第2項第2号違反)が254件(実体
規定違反件数全体の27.4%),下請代金の支払遅延(第4条第1項第2号
違反)が227件(同24.5%),下請代金の減額(第4条第1項第3号違反)
が165件(同17.8%),買いたたき(第4条第1項第5号違反)が95件(同
10.3%)となっている(第3表参照)。
 下請代金の減額事件については,平成7年度中に,親事業者70社により
総額1億2410万円が371社の下請事業者に返還されており(第4表参照),
支払遅延が認められた事件については,親事業者31社により総額3471万円
の遅延利息が593社の下請事業者に支払われている(第5表参照)。

4 主な違反行為事例

 平成7年度において,下請法違反の疑いで調査し,警告等の措置を採っ
た主な事例は次のとおりである。

(1) 注文書の交付義務(第3条)
注文書への納期及び納入場所の記載不備
 A一般機械器具販売業者は,機械器具の修理を自ら行っているとこ
ろ,その修理の一部を下請事業者に委託している。
 A社は,下請事業者に修理を委託する際,「注文書兼工場作業書」
を交付していたが,同書面に納期及び納入場所を記載していないもの
があった。
(A社は,「注文書兼工場作業書」に納期及び納入場所を記載する
こととした。)
注:( )内は,親事業者が採った改善措置の概要である(以下同
じ)。
特注品発注時の注文書における架空の単価の記載
 B家具製造業者は,家具の製造及び加工を下請事業者に委託してい
る。
 B社は,特注品を発注する場合に,発注時に単価を決定できないた
め,注文書には架空の単価(1円)を記載して発注していた。
(B社は,単価があらかじめ決定できない場合,注文書には合理的
な根拠に基づいた仮単価を記入することとした。)




(2) 受領拒否(第4条第1項第1号)
発注数量が過大であったことによる受領拒否
 C輸送用機械器具製造業者は,自動車部品の製造を下請事業者に委
託している。
 C社は,下請事業者の給付を発注した後,発注数量が過大であった
ことを理由として発注の一部を取り消し,下請事業者の給付を受領し
ていなかった。
(C社は,下請事業者の責めに帰すべき理由がないものについて,
発注の取消しを行わないこととした。)
 生産計画を変更したことを理由とする受領拒否
 D電気機械器具製造業者は,音響機器の部品の製造を下請事業者に
委託している。
 D社は,注文書交付後に,自社の生産計画を変更したことを理由と
して,あらかじめ定められた納期に下請事業者からの給付を受領して
いなかった。
(D社は,下請事業者の責めに帰すべき理由がない限り,指定納期
の延期を行わないこととした。)
(3) 支払遅延(第4条第1項第2号)
下請事業者名簿の不備による支払遅延
 E電気機械器具製造業者は,電気製品等の部品の製造及び加工を下
請事業者に委託している。
 E社は,下請代金の支払制度を毎月20日納品締切,翌月20日支払と
しているが,一般の納入業者に対しては,毎月20日検収締切,翌々月
10日(現金)支払,翌月末日又は翌々月末日(手形払)の支払制度を
採っていた。しかし,一部の下請事業者について,一般の納入業者に
対する支払制度で支払っていたため,支払遅延が生じていた。
(E社は,当該下請事業者につき,直ちに下請事業者名簿に登録
し,下請事業者に対する支払制度に改めることとした。)
検収遅れによる支払遅延
 F一般機械器具製造業者は,機械器具の製造及び加工を下請事業者
に委託している。
 F社は,下請代金の支払制度を毎月20日納品締切,翌月20日支払と
していたが,実際には締切日近くに納品され,検収が翌月になった場
合には翌月の買掛金に計上していたため,一部の下請代金の支払が下
請事業者の給付を受領してから60日を経過していた。
(F社は,支払制度を原則どおりに納品締切とし,締切日の20日ま
でに納品されたものについては,当月の買掛金に計上して翌月の支払
対象にすることとした。)
預託制度による支払遅延
 G電気機械器具製造業者は,自動車機器の部品の製造を下請事業者
に委託している。
 G社は,一部の部品について,輸送の効率化,管理の簡素化等の目
的で常に自社の倉庫に一定数量を在庫しておき,使用したものについ
て支払の対象とする預託制度を採用していたため,納品されたものの
一部に支払遅延が生じていた。
(G社は,下請事業者に対する預託制度を廃止することとし,遅延
していた下請代金の遅延利息を支払った。)
(4) 下請代金の減額(第4条第1項第3号)
新単価の遡及適用による減額
 H輸送用機械製造業者は,自転車の部品の製造を下請事業者に委託
している。
 H社は,下請事業者との間で単価引下げを行ったが,納入日を基準
として新単価を適用したため,新単価の採用前に発注していたものに
まで遡って新単価を適用し,旧単価と新単価の差額分を下請代金から
差し引いて支払っていた。
(H社は,単価引下げを行った場合,引下げ交渉合意日以降の発注
分から新単価を適用することとし,減額した額を下請事業者に返還し
た。)
協賛金の徴収による減額
 I雑貨品製造業者は,家庭用品の製造を下請事業者に委託してい
る。
 I社は,自社製品の販売促進と広告宣伝のため,「消費者キャン
ペーン」を開始し,日用品を製造委託している下請事業者のうち,当
該キャンペーンで取引量の増加を見込める下請事業者を選定し,既に
支払った下請代金から協賛金として一定額を徴収していた。
(I社は,協賛金として下請代金から減額する行為を取りやめ,減
額した額を下請事業者に返還した。)
金利引きによる減額
 J一般機械器具製造業者は,木工機械の部品の製造を下請事業者に
委託している。
 J社は,手形期間120日の手形払を支払条件としていたところ,現
金による支払を希望した下請事業者に対して,自社の短期調達金利
3~4%(年率)を超える9~12%(年率)の金利相当額を下請代金
から差し引いて支払っていた。
(J社は,一時的に現金払の希望があった下請事業者に対して,自
社の短期調達金利を超えない金利相当額の範囲内の利率で割り引いて
支払うこととし,短期調達金利を超えて割り引くことにより減額した
額を返還した。)
(5) 返品(第4条第1項第4号)
取引先からの発注取消しによる返品
 K家具製品製造業者は,家具の製造及び加工を下請事業者に委託し
ている。
 K社は,取引先から発注を取り消されたため,下請事業者から受領
した物品を下請事業者に返品していた。
(K社は,下請事業者の責めに帰すべき理由がないものについては
返品しないこととした。)
(6) 買いたたき(第4条第1項第5号)
一律一定率の単価引下げによる買いたたき
 L一般機械器具製造業者は,建設機械の部品の製造を下請事業者に
委託している。
 L社は,急激な円高に伴い,外国事業者との競争力を維持するた
め,個別部品ごとの原価構成の違いを考慮せず,下請事業者と協議を
行うことなく発注単価を一律一定率で引き下げた。
 この行為は,買いたたきに該当するおそれがある。
(L社は,下請事業者と十分に協議をした上で単価を決定すること
とした。)
 大量発注の際の単価を少量発注の際の単価とすることによる買いた
たき
 M電気機械器具製造業者は,電気製品の部品等を下請事業者に委託
している。
 M社は,下請事業者に10,000個発注することを前提に見積書を提出
させていたところ,実際には1,000個しか発注しなかったのに10,000
個発注することを前提とした見積単価で下請代金を決定した。
 この行為は,買いたたきに該当するおそれがある。
(M社は,多量の発注を前提として定めた単価を,少量しか発注し
ない場合の単価としないこととした。)
(7) 購入強制(第4条第1項第6号)
取引先の製品の購入又は購入先の紹介の要請
 N輸送用機械器具製造業者は,自動車の部品の製造を下請事業者に
委託している。
 N社は,同社の取引先であるO自動車メーカーの製品(乗用車)に
ついて,紹介実績表を基に,下請事業者ごとの目標台数を定め,購買
担当者を通じてO社の製品の購入又は購入先を紹介するよう要請し
た。このため,下請事業者の中には購入を余儀なくされた者もあっ
た。
(N社は,直ちに紹介実績表を回収し,購買担当者等下請取引に影
響を及ぼすこととなる者を通じて,下請事業者に対して,取引先であ
る自動車メーカーの製品の購入又は購入先の紹介を要請しないことと
した。)
関連会社の商品の購入要請
 P出版印刷業者は,製本及び製版等を下請事業者に委託している。
 P社は,自社の関連会社が開催するゴルフ大会の入場券を購買担当
者を通じて下請事業者に購入を要請していた。このため,下請事業者
の中には購入を余儀なくされた者もあった。
(P社は,購買担当者を通じて,下請事業者に関連会社の商品の購
入を要請しないこととした。)
(8) 原材料等の対価の早期決済(第4条第2項第1号)
 Qゴム製品製造業者は,工業用ゴム製品の製造加工を下請事業者に
委託している。
 Q社は,工業用ゴム製品の製造を委託するに当たり,それに要する
原材料を下請事業者に有償で支給しているが,有償支給した原材料の
加工期間を考慮しなかったため,当該原材料を用いて納入する物品に
係る下請代金の支払期日より早く原材料の代金を控除しているものが
あった。
(Q社は,原材料の代金の決済日を下請事業者の加工期間を考慮し
て設定し,当該原材料を用いて納入する物品に係る下請代金の支払期
日より早く原材料の代金を控除しないようにした。)
(9) 割引困難な手形の交付(第4条第2項第2号)
 R鉄鋼製品製造業者は,機械装置及び部品の製造を下請事業者に委
託している。
 R社は,下請代金を手形で支払っているところ,一部の下請事業者
に対し,手形期間が120日を超える(156日)手形を交付していた。
(R社は,下請代金の支払に係る手形期間をすべて120日とした。)