第4章 法運用の透明性の確保と独占
    禁止法違反行為の未然防止

第1 概  説

 独占禁止法違反行為の未然防止を図るとともに,独占禁止法の運用を効果
的なものとするためには,独占禁止法の目的,規制内容及び運用の方針が国
内外における事業者や消費者に十分理解され,それが深められていくことが
不可欠である。このような観点から,当委員会は,各種の広報活動を行うと
ともに,事業者及び事業者団体の独占禁止法違反行為を具体的に明らかにし
た各種のガイドライン(「特許・ノウハウライセンス契約における不公正な
取引方法の規制に関する運用基準」(平成元年2月),「流通・取引慣行に関
する独占禁止法上の指針」(平成3年7月),「共同研究開発に関する独占禁
止法上の指針」(平成5年4月),「公共的な入札に係る事業者及び事業者団
体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成6年7月),「事業者団体の活
動に関する独占禁止法上の指針」(平成7年10月)等)を策定・公表し,そ
れに基づいて,個々の具体的なケースについて事業者等からの相談に応じて
いる。
 平成8年度においては,消費税率の引上げと地方消費税の導入を控え,平
成8年12月に「消費税率の引上げ及び地方消費税の導入に伴う転嫁・表示に
関する独占禁止法及び関係法令の考え方」を公表した。

第2 消費税率の引上げ及び地方消費税の導入に伴う転嫁・表示に
   関する独占禁止法及び関係法令の考え方について

趣  旨
 当委員会は,事業者や事業者団体が消費税の適正かつ円滑な転嫁のため
にどのような行為を独占禁止法に違反することなく行えるかについて具体
的かつ分かりやすく示すこと等により,独占禁止法違反行為等の未然防止
を図るとともに,消費税率引上げ後の消費税等の適正かつ円滑な転嫁に資
することを目的として,平成8年12月25日,「消費税率の引上げ及び地方
消費税の導入に伴う転嫁・表示に関する独占禁止法及び関係法令の考え
方」を作成・公表した。
概  要
考え方の概要は,次のとおりである。
(1) 消費税率の引上げ等に伴う転嫁・表示に関する行為についての独占禁
止法の考え方
 原則として,独占禁止法違反とならない行為及び独占禁止法上問題と
なる行為を以下のとおり具体的に明示している。
(2) 消費税率の引上げ等に伴う下請取引の適正化に関する下請法の考え方
 税率引上げ分の負担が下請事業者に不当にしわ寄せされることなく,
下請取引における消費税等の転嫁が適正かつ円滑に行われるよう,受領
拒否,下請代金の支払遅延,下請代金の減額,不当返品,不当な買いた
たき等下請法に違反する親事業者の行為を具体的に明示している。
(3) 消費税率の引上げ等に伴う優越的地位の濫用行為等に関する独占禁止
法の考え方
 大規模小売業者と納入業者との納入取引等において,税率引上げ分の
負担が納入業者に不当にしわ寄せされることなく,納入取引等における
消費税等の転嫁が適正かつ円滑に行われるよう,仕人価格の一方的設定
や値引き,受領拒否,不当返品等優越的地位の濫用行為に該当する行為
を具体的に明示している。
(4) 消費税率の引上げ等に伴う表示に関する景品表示法の考え方
 消費税率の引上げ等に伴い,その転嫁等に関する表示が適正に行われ
るよう,消費税等を事業者が負担している旨をその根拠があいまいなま
まにことさら強調することによりその販売価格が他に比して有利である
かのような表示等,景品表示法上問題となるおそれのある行為を具体的
に明示している。

第3 事業活動に関する相談状況

概  要
 当委員会は,従来から,事業者及び事業者団体の独占禁止法違反行為の
未然防止を図るため,事業者及び事業者団体が実施しようとする具体的な
活動が,独占禁止法の不当な取引制限,不公正な取引方法,事業者団体の
禁止行為等の規定に照らして問題がないかどうかについて,事業者及び事
業者団体からの電話・来庁等による相談に積極的に応じてきている。
平成8年度における事業者団体の活動に関する相談の概要
 平成8年度において,事業者団体の活動に関して受け付けた相談件数は
856件であるが,その多くは,中小企業団体からのものであり,特にこれ
らの相談に対しては,団体及び業界の実情を十分に参酌して相談に対応し
ており,実施しようとする活動が独占禁止法上問題がある場合には,きめ
細かに問題点を指摘し,是正方法や代替案を示す等の指導を行うよう努め
ている。
 また,事業者団体の独占禁止法に対する理解を一層深めるため,平成8
年度に相談のあった事例のうち,他の事業者団体にも参考となると思われ
るものの概要を主要相談事例集として取りまとめ,平成9年6月,公表し
た。
 特徴的な相談としては,以下のようなものが挙げられる。
(1)  我が国の不透明又は競争阻害的な取引慣行の問題点(非効率かつ複雑
な流通,新規参入の阻害,優越的地位の濫用行為等)が内外から指摘さ
れ,各業界において,取引の近代化,取引条件の明確化,公正取引の確
保等の観点から各業界固有の取引慣行の見直しが進められている中,団
体として,モデル契約書の作成,無償取引の改善,取引慣行是正のため
の要望書の作成等を行うことなどに関する相談
(2)  廃棄物の発生の抑制,適正処理のための対策,環境保全,環境破壊の
防止対策,資源リサイクル対策等が社会的課題となっている中,団体と
して,有害物の排出基準を作成することや空き瓶の回収費用を販売価格
に転嫁することを決定することなど,環境保全等のための自主基準の設
定,資源リサイクルに向けての団体の取組などに関する相談
(3)  市場における一層の競争を促進するために公的規制の廃止等,一連の
規制緩和策が推進されている中,規制緩和により民間事業者の参入,料
金の自由な設定,新製品の開発等が可能になったにもかかわらず団体が
規制を行おうとするものなど,公的規制の緩和・廃止後の対応に関する
相談
(4)  平成9年4月からの消費税率引上げに伴い,団体として,外税方式に
することを決定すること,転嫁について理解を求めるためのポスター等
を作成することなど,消費税の転嫁・表示に関する行為についての相談
(5)  上記の相談のほか,引き続き,製造物責任法(PL法)を踏まえての
製造物責任に関する契約書の作成に関する相談,コスト削減等を目的と
した規格の統一や標準化に関する相談,中小企業に対する原価計算や積
算についての指導に関する相談,取引先に窮状を訴え理解を求めること
に関する相談等が多くみられる。

第4 入札談合問題への取組

 当委員会は,従来から積極的に入札談合の排除に努めているほか,入札に
関連したどのような行為が独占禁止法上問題となるかについて具体例を挙げ
ながら明らかにすることによって入札談合の未然防止の徹底を図るため,平
成6年7月に「公共的な入札に係る事業者及び事業者団体の活動に関する独
占禁止法上の指針」を公表している。
 また,入札談合の未然防止を徹底するためには発注者側の取組が極めて重
要であるとの観点から,独占禁止法違反の可能性のある行為に関し,発注官
庁から当委員会に対し情報が円滑に提供されるよう,公共入札に関する公正
取引委員会との連絡担当官として各官庁等の会計課長等が指名されている。
 当委員会は,連絡担当官との連絡・協力体制を一層緊密なものとするた
め,平成5年度以降,「公共入札に関する公正取引委員会との連絡担当官会
議」を開催しており,平成8年度においては,国の本省庁レベルの連絡担当
官会議を9月26日に開催するとともに,国の地方支分部局等の連絡担当官会
議を全国9か所で開催した。
 さらに,当委員会は,平成6年度以降,地方自治体等の調達担当官を対象
とする研修会の実施に協力しており,平成8年度においては,全国で30回の
研修会に対し講師の派遣及び資料の提供等を行った。また,平成7年度から
は,公団・事業団等の調達担当官に対する研修会を実施している。