第5 主要な事例

 平成8年度の合併・営業譲受け等及び株式保有等の主要な事例は,次のと
おりである。

新王子製紙株式会社と本州製紙株式会社との合併(平成8年8月合併届
出受理,10月合併)(新会社名 王子製紙株式会社)
(1) 本件の概要
 本件は,紙・板紙の製造販売業者である新王子製紙株式会社と本州製
紙株式会社とが経営効率化を通じた国際競争力の強化等を目的として合
併しようとするものである。
(2) 一定の取引分野
 紙は,統計上,新聞巻取紙と印刷・情報用紙等に分類され,例えば印
刷・情報用紙は非塗工紙,塗工紙,情報用紙等に分類され,非塗工紙は
更に上級印刷紙,中級印刷紙,下級印刷紙,薄葉印刷紙に分類される。
しかしながら,紙の用途は多種多様であり,供給される紙も用途に合わ
せた品質・機能を持ち,価格も異なり,同じ分類であっても供給者も需
要者もそれぞれ異なることから,市場は需要分野ごとに形成される。
 本件でシェアが高くなる中級印刷紙は,上級印刷紙,下級印刷紙,薄
葉印刷紙とともに非塗工印刷用紙に分類されるが,中級印刷紙とその他
の品種とでは,①中級印刷紙は定期品であるのに対して,上級印刷紙は
一般市況品である,②下級印刷紙は主として漫画本に使用される,③薄
葉印刷紙は特殊な用途に使用される,など主たる用途を異にしているこ
と及びこれらの間には少なからず価格差があることから,本件において
は,中級印刷紙の全国における製造・販売分野に「一定の取引分野」が
成立するものと判断した。
(3) 問題点等
問 題 点
 合併新会社の中級印刷紙の生産シェアが33.4%,第1位となると
ともに,上位3社の累積シェアが66.3%となる。
 合併新会社について,紙,板紙の卸売業者でシェアの大きい代理
店である日本紙パルプ商事株式会社及び大永紙通商株式会社に対す
る持株比率が高まる。
問題点の指摘
 本件について,当委員会は,当事会社に対し,
 中級印刷紙について,生産シェア及び上位3社の累積シェアを勘
案すると,中級印刷紙の製造・販売分野における競争を実質的に制
限することとなるおそれがある
 合併新会社は,本件合併により,紙・板紙の卸売業者でシェアの
大きい代理店2社の筆頭株主となり,かつ2位の株主(日本製紙株
式会社)の持株比率を大きく上回ることとなるため,従来よりも株
式保有関係を通じた結合関係が強まることによって,紙・板紙の流
通分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある
旨の指摘を行った。
当事会社の対応
 上記指摘に対し,当事会社から,
 中級印刷紙について,両当事会社の生産数量の一部を縮小し,そ
の設備を他の品種の生産に振り向ける
 日本紙パルプ商事株式会社及び大永紙通商株式会社に対する持株
比率を引き下げる
との措置を採る旨の申出があった。
(4) 当委員会の判断
 上記の当事会社の措置等を総合的に勘案すると,本件合併は,直ちに
一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるとはいえな
いと判断した。
三井石油化学工業株式会社及び住友化学工業株式会社による直鎖状低密
度ポリエチレンの生産に関する共同出資会社の設立(新会社名 日本エボ
リュー株式会社)
(1) 本件の概要
 本件は,直鎖状低密度ポリエチレンの製造販売業者である三井石油化
学工業株式会社(以下「三井石油化学」という。)及び住友化学工業株
式会社(以下「住友化学」という。)が,コスト競争力強化等を目的と
して,共同出資により,直鎖状低密度ポリエチレンの生産会社(以下
「新会社」という。)を新たに設立しようとするものである。
(2) 一定の取引分野
 低密度ポリエチレン(以下「LDPE」という。)は,石油から精製
されるナフサを分解して生産されるエチレンを重合(分子量の比較的小
さい化合物を結合させて大きな分子量の化合物とすること)して製造さ
れる。直鎖状低密度ポリエチレン(以下「L-LDPE」という。)
は,従来のLDPEの基本的な特性である高周波絶縁性,成形加工性,
耐薬品性,弾性等の特性に衝撃強度性,耐ストレスクラッキング性(長
期間外部環境にさらしても劣化が起こりにくい),耐熱性等の特性を付
加・強化したものである。両者は,基本的な特性が共通していること,
また,食品包装材,ごみ袋等のフィルムとして使用されるなど用途が共
通していることから,本件においては,L-LDPEを含めたLDPE
の製造・販売分野に「一定の取引分野」が成立するものと判断した。た
だし,L-LDPEはLDPEの特性を付加・強化したものであり特性
に若干の違いがあるほか,排水管,ガス管等のパイプに使われるなど用
途についてもLDPEと若干異なるところがあることから,L-LDP
Eのみの製造・販売分野についても検討を行った。
(3) 問題点等
問 題 点
 本件行為により,当事会社間に結合関係が生じることとなり,両社
のLDPEの現状の生産能力シェアを合算すると25.4%・第1位とな
り,L-LDPEのみでは28.3%・第1位となる。
 また,これに新会社の生産能力を単純に合算すると,LDPEでは
31.5%,L-LDPEのみでは42.6%となる。
考慮事項
 本件は,LDPEメーカーである両当事会社が新工場を建設する
に当たり提携するものであって,両社の既存のLDPEの製造販売
事業は従来どおり行われるという部分的な結合である。したがっ
て,競争単位の数は減少しない。
 新会社で生産されるL-LDPEの販売については,当事会社そ
れぞれ独自に行うこととしており,既存のLDPEの販売を含め
て,販売面で両社の協調関係が醸成されるおそれは小さいとみられ
る。
 LDPE及びL-LDPEのそれぞれの分野には生産能力シェア
で20%を超える競争事業者が存在するほか,10%を超える競争事業
者も複数存在している。
(4) 当委員会の判断
 上記の点を総合的に勘案すると,本件新会社の設立は,直ちに一定の
取引分野における競争を実質的に制限することとなるとはいえないと判
断した。
日本軽金属株式会社による東洋アルミニウム株式会社の株式取得
(1) 本件の概要
 本件は,アルミ板製造メーカーである日本軽金属株式会社(以下「日
本軽金属」という。)とアルミ箔製造メーカーである東洋アルミニウム
株式会社(以下「東洋アルミ」という。)の筆頭株主であるカナダ法人
アルキャン・アルミニウム・リミテッド(以下「アルキャン・アルミ」
という。)が,自己の所有する東洋アルミの株式のすべてを日本軽金属
に譲り渡すというものである。
(2) 一定の取引分野
 本件株式取得により影響を受けると考えられる一定の取引分野は,①
アルミニウム板の製造・販売分野及び②アルミニウム箔の製造・販売分
野であると判断した。
(3) 問題点等
問 題 点
 日本軽金属(第6位のアルミニウム板メーカー)と東洋アルミ
(シェア23.4%・第1位のアルミニウム箔メーカー),日本軽金属
と東海アルミ箔(シェア6.2%・第7位のアルミニウム箔メー
カー)との間にそれぞれ垂直的結合関係が生じることで,海外の有
力なアルミ地金メーカーと国内の有力なアルミニウム板メーカー及
びアルミニウム箔メーカーが直結することにより,他のアルミニウ
ム板メーカー及びアルミニウム箔メーカーの取引の機会を奪うおそ
れがある。
 本件株式取得により,日本軽金属は,東洋アルミと東海アルミ箔
の共通の大株主となり,この両社のアルミニウム箔におけるシェア
を合算すると29.6%(第1位)と大きくなる。また,この場合,第
2位のメーカーとの差が大きくなる。
考慮事項
 本件は,同一グループ内における株式の譲渡であり,グループ全
体でみれば株式の保有状況に変化はない。
 アルミニウム板市場においては,日本軽金属のシェアは7.8%・
第6位と低く,これよりもシェアの大きい競争業者が存在する。
 アルミニウム箔市場においては,シェアが10%を超える競争業者
が複数存在する。
問題点の指摘
 本件について,当委員会は,当事会社に対し,上記考慮事項を考慮
しても,上記問題点にかんがみ,アルミニウム板市場とアルミニウム
箔市場における競争を実質的に制限することとなるおそれがある旨の
指摘を行った。
当事会社の対応
 上記指摘に対し,当事会社から,
 日本軽金属は,株主であるという立場を利用して,東洋アルミが
自己以外からアルミニウム板を購入することを制限しない
 日本軽金属は,東洋アルミと東海アルミ箔に共通の役員を派遣す
るなど,東洋アルミと東海アルミ箔との間に役員兼任関係を生じさ
せるような行為を行わない
 日本軽金属は,東洋アルミと東海アルミ箱の2社について,今後
とも,独立した競争事業者としての関係を保持させるものとし,東
洋アルミと東海アルミ箔に対し,販売先,販売価格等に関する協調
的行動をさせ,又は,自己を通じて情報交換を行わせない
等の措置を採る申出があった。
(4) 当委員会の判断
 上記の当事会社の対応等を勘案すると,本件株式取得は,直ちに一定
の取引分野における競争を実質的に制限することとなるとはいえないと
判断した。
広島ガスプロパン株式会社ほか4社による共同出資会社の設立(新会社
名 株式会社ファミリーガス広島)
(1) 本件の概要
 本件は,LPガス元売業者である岩谷産業株式会社(以下「岩谷産
業」という。),出光興産株式会社(以下「出光興産」という。),興亜石
油ガス株式会社(以下「興亜ガス」という。)及び日本石油ガス株式会
社(以下「日石ガス」という。)並びにLPガス卸売業者である広島ガ
スプロパン株式会社(以下「広島ガスプロパン」という。)が,広島ガ
スプロパンが広島県安芸郡海田町に建設したLPガス充填所(以下「海
田充填所」という。)を共同利用する目的で,共同出資により株式会社
ファミリーガス広島(以下「ファミリーガス」という。)を設立し,同
社に海田充填所の運営を委託しようというものである。
(2) 一定の取引分野
 LPガスは,充填所を経てトラックあるいはローリーで小売業者又は
需要家に配送されるが,輸送コストの関係上,LPガスの輸送エリアは
充填所から半径30キロ以内に限られることから,本件においては,海田
充填所からのLPガスの輸送範囲である広島市,呉市,東広島市及び廿
日市市以南の地区(以下「広島呉地区」という。)におけるLPガス充
填業及びLPガス卸売業のそれぞれに「一定の取引分野」が成立するも
のと判断した。
(3) 問題点等
問 題 点
 本件行為により,広島呉地区におけるLPガス充填業における
ファミリーガスのシェアが23.5%・第1位となる。
 ファミリーガスに充填を委託する予定の元売・卸売業者5社の広
島呉地区におけるLPガス卸売業の合算シェアは50.2%となる。
考慮事項
 広島呉地区におけるLPガス充填業者は,いずれも独自に充填所
を所有しておらず,LPガス元売業者又はLPガス卸売業者の所有
する充填所の運営を委託されているだげであることから,営業活動
を独自に行うことはない。
 卸売業者は地区内にそれぞれ別の自社の充填所を所有している。
 充填所の共同利用により,各卸売業者の物流コストの一部が同じ
になるが,販売価格に占める当該コストの構成比は2%~8%とそ
れほど高くはない。
 元売・卸売業者5社は,LPガス原料をそれぞれ独自に仕入れ,
独自に販売することとしている。
問題点の指摘
 本件について,当委員会は,上記考慮事項を考慮しても,上記問題
点にかんがみ,当事会社に対し,広島呉地区におけるLPガスの充填
業及び卸売業について,
 元売業者・卸売業者のファミリーガスに対する株式所有を通じて
元売・卸売業者間に協調関係が生じることになれば,広島呉地区に
おけるLPガス充填分野及びLPガス卸売分野における競争を実質
的に制限することとなるおそれがある
 ファミリーガスへの出資者が,他の出資者及び共同利用者に対し
海田充填所の利用を強制したり,新規参入業者の利用を制限するこ
ととなるおそれがある
旨の指摘を行った。
当事会社の対応
 上記指摘に対し,当事会社から,
 海田充填所を共同利用するに当たり,元売業者・卸売業者の間で
LPガスの充填数量を調整することなく,5社はそれぞれ独自に充
填量を決定する
 5社間でLPガスの卸売価格を決定することなく,独自に卸売価
格を決定する
 出資者は,他の出資者及び共同利用者に対し,海田充填所の利用
を強制したり,海田充填所の共同利用において新規参入業者を不当
に差別的に取り扱わない
 海田充填所を利用するLPガスの元売業者及び卸売業者は,それ
ぞれ個別にファミリーガスと委託契約を締結し,また委託手数料に
ついても,それぞれが個別の交渉の上決定する
との措置を採る旨の申出があった。
(4) 当委員会の判断
 上記の当事会社の措置等を総合的に勘案すると,本件共同出資会社の
設立は,直ちに一定の取引分野における競争を実質的に制限することと
なるとはいえないと判断した。
株式会社さくら銀行による株式会社わかしお銀行の株式取得(第11条関
係)
(1) 本件の概要
 本件は,株式会社太平洋銀行(以下「太平洋銀行」という。)の経営
破綻に伴い,株式会社さくら銀行(以下「さくら銀行」という。)が,
太平洋銀行の営業を譲渡する先の受け皿銀行として,株式会社わかしお
銀行(以下「わかしお銀行」という。)を100%出資で設立しようとする
ものである。
 太平洋銀行の経営再建には,都市銀行4行(さくら銀行,株式会社富
士銀行,株式会社東海銀行及び株式会社三和銀行。以下「4行」とい
う。)が支援に当たってきたが,いわゆるバブルの崩壊に伴い,太平洋
銀行が有する不良債権が急増し,平成8年3月末決算で実質的な債務超
過状態に至っていることが判明した。4行は,太平洋銀行の銀行業務の
継続は困難と判断し,金融当局の要請を受けて太平洋銀行を解散し,太
平洋銀行の受け皿となる新銀行を,従前から太平洋銀行の経営再建に中
心的な役割を果たしてきたさくら銀行の子会社として設立することで合
意するに至ったものである。
 なお,上記合意に先立ち,さくら銀行から,当委員会に対して,4行
の共同出資による受け皿銀行設立についての事前相談があった。これに
対して当委員会は,太平洋銀行及び4行それぞれが主力営業地盤とする
東京都内で営業する普通銀行の預金及び貸出における各行のシェアを合
算すると,それぞれ,3割強及び3割弱となり,そのような状況下で,
共同出資形態を採ることは,4行間において協調関係を醸成し,一定の
取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある旨の
指摘を行った。4行はこの指摘を受けて,さくら銀行が100%出資で新
銀行を設立することで合意したものである。
(2) 問題点等
問 題 点
 銀行が他の会社の株式を5%を超えて保有する場合,独占禁止法第
11条第1項ただし書の規定に基づく認可が必要である。公正取引委員
会は,この認可の基準について「金融会社の株式保有の認可に関する
事務処理基準」を公表しており(平成6年6月20日),これによれ
ば,以下の事項を考慮して認可の可否を検討することとしている。
 申請会社による株式保有の必要性
 当該株式保有による申請会社の事業支配力増大のおそれの有無及
びその程度
 株式発行会社の属する市場における競争への影響
検  討
申請会社による株式保有の必要性
 申請会社(さくら銀行)は,太平洋銀行の破綻に伴いその営業を
譲り受けるために100%子会社を設立しようとするものであり,こ
れは,預金者の取付騒ぎなどを回避し金融システムの安定・維持に
資するものと評価され合理的な理由が存在するものと判断した。
当該株式保有による申請会社の事業支配力増大のおそれの有無及
びその程度
 太平洋銀行から営業を引き継ぐ株式発行会社は,太平洋銀行が保
有する国内の他社の株式も引き継ぐこととしている。本件新設子会
社の設立が認められた場合,当該株式について,申請会社,申請会
社が保有する50%超の認可子会社及び株式発行会社の所有に係る株
式を合算すると16の株式銘柄において株式所有比率が5%を超える
こととなる。この点について,申請会社は,太平洋銀行から株式発
行会社に営業を引き継ぐ営業譲受日までにこれら5%超過分の株式
を処分することとしており,これによれば当該株式保有による申請
会社の事業支配力増大のおそれはないと判断した。
株式発行会社の属する市場における競争への影響
 東京都内で営業する普通銀行の預金・貸出におけるさくら銀行
及び株式発行会社の市場占拠率を合算すると,預金シェアでは
11.6%・第4位,貸出シェアでは13.5%・第2位となる(データは
平成7年9月末現在のものであるが,順位は東京銀行と三菱銀行が
合併していることを織り込んでいる。)が,その増加率は,それぞ
れ,3.5%,0.5%とわずかであり,また,順位の変動もない。した
がって,当該市場における競争への影響は軽微なものと判断した。
その他
 株式発行会社の設立は,申請会社の100%出資によることとし,
太平洋銀行の経営再建にかかわってきた申請会社以外の都市銀行3
行(株式会社富士銀行,株式会社東海銀行及び株式会社三和銀行)
は,株式発行会社に対して,劣後ローンの供与により支援を行うこ
ととしているが,3行の役職員による新銀行の役職員兼任も行わな
いとしている。したがって,申請会社の他に,株式発行会社に対す
る出資又は役職員兼任により,株式発行会社の業務運営に影響を及
ぼし得る関係にある事業者の存在はない。
(3) 当委員会の判断
 上記の点を総合的に勘案すると,本件株式取得については,独占禁止
法第11条第1項ただし書の規定に基づいて認可するのが相当であると判
断した。
東京都中央卸売市場世田谷市場花き部へ入場予定の卸売業者5社の統合
(1) 本件の概要
 本件は,東京都が,平成11年4月に中央卸売市場として世田谷市場花
き部(以下「世田谷市場」という。)の開場を予定しているところ,そ
の基本構想を策定するに当たり,株式会社自由ヶ丘生花市場,株式会社
青山生花市場,株式会社氷川生花市場,東京蘭葉株式会社及び東京植物
卸売市場株式会社の5卸売業者(それぞれ地方卸売市場の開設者でもあ
る。)を2社に統合し,その統合後の新会社(以下「統合2社」とい
う。)が世田谷市場に卸売業者として入場しようとするものである。
(2) 一定の取引分野
 統合2社の地域別小売買参人の分布状況及び地域別小売買参人への依
存状況をみると,統合2社の小売買参人は,20km圏内に78.1%が分布し
ており,また,統合2社の取扱高からみた小売買参人への依存状況も同
地区で73.4%であるから,本件においては,世田谷市場を中心とする統
合2社の20km圏内における花き卸売分野に「一定の取引分野」が成立す
るものと判断した。
(3) 問題点等
問 題 点
 本件行為により,統合2社の合算シェアは,20.3%・第2位とな
る。
考慮事項
 世田谷市場の周辺には,東京都中央卸売市場大田市場(卸売業者2
社,38.8%),同板橋市場(卸売業者2社,12.1%),川崎市中央卸売
市場北部市場(卸売業者1社,5.5%)などの有力な競争市場が存在
する。
(4) 当委員会の判断
 上記の点を総合的に勘案すると,本件合併は,直ちに一定の取引分野
における競争を実質的に制限することとなるとはいえないと判断した。
A社及びB社のX製品事業の統合
(1) 本件の概要
 本件は,A社とB社が,固定費の削減等を目的として,共同出資によ
り新会社を設立し,この新会社に対して,A社及びB社のX製品の事業
をそれぞれ譲渡しようとするものである。
(2) 一定の取引分野
 X製品の用途からみて直接に競合又は代替関係にある製品は見当たら
ないことから,本件においては,X製品の国内における製造・販売分野
に「一定の取引分野」が成立するものと判断した。
(3) 問題点等
問 題 点
 本件行為により,新会社のX製品の販売数量シェアは,大幅に上昇
し5割弱かつ第1位となり,生産能力シェアは,5割を大幅に上回り
国内の競争事業者は他に1社だけとなるため,更に寡占的な市場とな
る。
考慮事項
 X製品の輸入は,近年増加してきている。
問題となり得る点についての指摘
 本件について,当委員会は,当事会社に対し,本件行為によるシェ
アの状況,競争事業者が1社になるという市場の状況,この競争事業
者とのシェアの格差の状況等を考慮し,また,当事会社はX製品生産
量のかなりの部分を国内価格よりも相当程度低い価格で輸出している
ことをみると,国内市場と海外市場の間で共通の価格形成が行われて
いるとはいえず,輸入品の競争圧力は限定的であると考えられるた
め,本件行為によって,当事会社はX製品の国内市場における価格・
数量をコントロールする力を強化することとなり,当該取引分野にお
ける競争を実質的に制限することとなるおそれがあると判断し,この
旨当事会社に対して指摘を行った。
当事会社の対応
 上記指摘に対し,当事会社からは,本件行為を行わない旨の申出が
あった。
C社及びD社による納品後のサービス業務の統合
(1) 本件の概要
 本件は,Y製品の製造販売業者であるC社及びD社が,同製品の納品
後におけるサービス業務(国内販売業務に関連した各種事務,営業情報
の収集等の人的サービス)を共同して行うためC社が全額出資して設立
した会社に,同業務を委託しようとするものである。
(2) 一定の取引分野
 C社及びD社は,国内においてY製品の製造・販売をしており,ま
た,同製品には代替性のある製品がないため,本件においては,全国に
おけるY製品の製造・販売分野に「一定の取引分野」が成立するものと
判断した。
(3) 問題点等
問 題 点
 上位3社のシェアの合計は50%を超えているところ,C社(第2
位)及びD社(第3位)のシェアを合算すると47.5%・第1位とな
る。
 新会社は,営業情報の収集などの販売行為に密接に関係ある業務
を行うため,C社とD社の間において,Y製品の販売先や販売価格
等に関する情報交換・協調的行為が行われるおそれがある。
考慮事項
 新会社は,Y製品の販売に係る営業に付随したサービス業務のみ
を受・委託するものであり,当該製品の販売行為自体は,C社及び
D社のそれぞれにおいて個別に行われる。
 有力な競争業者としてE社(シェア26.3%,単独では1位)が存
在し,当該業者はシェア第5位のF社(シェア8.4%)と結合関係
にあって,両社を合算したシェアは34.7%となる。
問題となり得る点についての指摘
 本件について,当委員会は,当事会社に対し,上記考慮事項を考慮
してもなお,両社間で販売先や販売価格等に関する情報交換等が行わ
れ,Y製品の製造・販売分野における競争を制限することとなるおそ
れがある旨の指摘を行った。
当事会社の対応
 上記指摘に対し,当事会社からは,本件行為を行わない旨の申出が
あった。
G社ほか2社による共同生産会社の設立
(1) 本件の概要
 本件は,Z製品の主要部品であるW部品の製造業者であるG社,H社
及びI社が,効率的な生産システムへの転換を図るため,W部品の共同
生産会社を設立しようとするものである。
(2) 一定の取引分野
 W部品は,出資会社各社でZ製品製造のため自己消費されており販売
市場はほとんどない。しかし,W部品の生産数量はZ製品の販売数量に
反映するため,本件共同生産会社設立により,W部品を使用して製造し
ているZ製品の販売市場に与える影響を検討した。
(3) 問題点等
問 題 点
 我が国のW部品の製造業者が共同生産会社のみになる。
 出資会社各社のZ製品の販売合算シェアは100%となる。
考慮事項
 出資会社各社は,独自にZ製品の販売を行う。
 出資会社各社とも,Z製品の設備が過剰である。
問題となり得る点についての指摘
 本件について,当委員会は,当事会社に対し,Z製品の販売シェア
が100%になる当事会社間のW部品の共同生産会社の設立を容認する
と,出資会社間で共同生産会社の運営方法以外の情報交換が容易にさ
れるおそれが大きく,Z製品の取引分野における競争を実質的に制限
することとなるおそれがある旨の指摘を行った。
当事会社の対応
 上記指摘に対し,当事会社からは,本件行為を行わない旨の申出が
あった。
10 J社によるK社への役員派遣
(1) 本件の概要
 本件は,V製品の関東地区等において有力な製造販売業者であるK社
が,悪化した経営を再建するために,V製品の製造業界において全国的
な有力業者であるJ社から,V製品の生産・商品管理のノウハウ等を取
り入れることを目的として,主要な役員及び主要部門に配置する従業員
を迎えようとするものである。
(2) 一定の取引分野
 J社及びK社の取扱商品はV製品であること及びV製品にはその商品
特性から販売地域に限定があり,J社とK社の競合する販売地域は,関
東地区等であることから,本件においては,関東地区等におけるV製品
の製造・販売分野に「一定の取引分野」が成立するものと判断した。
(3) 問題点等
問 題 点
 J社がK社の主要部門に役員を派遣すること等によりJ社とK社
の間に結合関係が生じることとなるが,J社とK社を合算したシェ
アは35.4%となる。
 V製品市場においては,J社以外の製造販売業者のシェアはいず
れも5%以下であって,J社が圧倒的に有力な事業者であるとこ
ろ,本件行為によりJ社のシェアが更に増加することとなる。
考慮事項
 K社の業績は最近悪化してきており,自力では経営の再建が困難
な状況にある。
 本件役員派遣等により結合関係が生じることによるシェアの増加
は,わずかである。
 J社は本件役員派遣に際し,K社の株式を取得しないこととして
いる。
問題となり得る点についての指摘
 本件について,当委員会は,当事会社に対し,J社とK社の間に役
員派遣等を通じて結合関係を生じると,J社の市場における地位が更
に強化され一定の取引分野における競争を実質的に制限することとな
る旨の指摘を行った。
当事会社の対応
 上記指摘に対し,当事会社からは,本件行為を行わない旨の申出が
あった。

第6 独占禁止法第4章の見直し

持株会社規制の見直し
 「規制緩和推進計画について」等の累次の閣議決定を受け,事業支配力
の過度の集中の防止という独占禁止法の目的に留意しつつ,持株会社の全
面的な禁止を改めること等を内容とする独占禁止法改正法案が第140回国
会において可決・成立した(平成9年6月18日公布)。改正の経緯,国会
における審議状況及び改正の内容については,第1章第1のとおりであ
る。
合併等の届出制度,株式保有の報告制度など手続面の見直し
(1) 規制緩和推進計画等の閣議決定の内容
 独占禁止法第4章については,近時,事業者の負担軽減等の観点から
見直すべきであるとの要請があり,「規制緩和推進計画について」で
は,合併,営業譲受け等の届出制度,株式所有の報告制度等について,
裾切り要件の導入,引上げ等を含め,見直しを図ることとされた。
 上記閣議決定の内容については,その後の閣議決定において改定及び
再改定が行われるとともに,「経済構造の変革と創造のための行動計
画」(平成9年5月16日閣議決定)において,「合併・株式保有等の届出
制度・報告制度について,制度の趣旨・目的,企業の負担軽減,国際的
整合性の確保等の観点から,裾切り要件の導入,引上げ等を含め見直し
を行い,この結果を踏まえ,平成9年度末までに独占禁止法の一部改正
法案の国会提出等所要の措置を講ずる」こととされた。
(2) 独占禁止法第4章改正問題研究会における検討状況
 同研究会(座長:館龍一郎 東京大学名誉教授)では,上記計画を受
けて,持株会社問題の次に,合併等の届出制度,株式保有の報告制度な
ど第4章の手続面を中心として検討を行うために,平成8年6月から,
「企業結合規制見直しに関する小委員会」(座長:正田彬 上智大学法学
部教授(現:神奈川大学短期大学部教授))を同研究会の下で開催して
検討を行い,当委員会は,同研究会が検討結果を取りまとめた「企業結
合規制の手続規定の在り方に関する報告書」を平成9年7月に公表し
た。
 同報告書においては,早急に法制化の検討を進め,独占禁止法改正に
より対処すべきものとして,①現行の株式所有報告書(第10条第2項)
を廃止し,一定の株式所有比率を超えて株式を取得した後に届出を行う
制度を導入すること及び届出対象会社を縮減すること,②役員兼任届出
制度(第13条第3項)を廃止すること,③会社以外の者の株式所有報告
書制度(第14条第2項)を廃止すること,④合併及び営業譲受け等の届
出(第15条第2項及び第16条)の対象範囲を縮減すること,⑤合併審査
手続の改善を図ることを提言として挙げている。このほか,①役員兼任
規制の在り方の検討,②国外における企業結合に対する独占禁止法の適
用,③企業結合概念の見直しについて,公正取引委員会において引き続
き検討を行うべきものとされている。